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《ネタバレ》 寒いさなかに、一人で山道を走る。軽自動車の上げるエンジンの音は悲鳴のようだった。だけど、捉えようのない気持ちを三つのピストンがたたきつぶしてくれる。喪失感は車が坂道を上っていくにしたがって別の何かに置き換えられ、心を埋めていく。ようやくたどり着いた高台に車を止めて街を見下ろすと、何となく止まっていた時間が動き出すのを感じた。
バッグの中から小さな魔法瓶を取り出して、コーヒーを紙コップに注いだ。コーヒーの苦さで色々な辛さが澱のように重なり、段々と、もう死んでしまったあの人の声がよみがえった。 その日偶然見たおくりびとの作中、大悟は大切な物を失ってしまった。その大切さに気付く頃、もう手に入らない様々なものをどうして良いのか咀嚼できないままに納棺師になる彼を見ていると、胸の痛みは耐えられないほど大きくなっていった。 彼はわだかまりの大きさと、生きていく方法の少なさを受け入れることが出来た。それを暖かく溶かして再び柔らかく作り直す事が出来た彼を見て僕は、どうやっても涙を止める事が出来なかった。想いが込められた石は大悟の個性を形作るためにずっと側に居たという事実を彼は知る事が出来、僕も安堵を覚えた。 その夜、何となく見下ろした街の灯の中にも、僕の居場所があるのかとため息を吐き出しながらじっと座り続けた。何時間にも感じられた時間は本当は長くも短くもなかったけど、永遠に繰り返し続ける堂々巡りの中にも答えの気配を感じる手がかりのような物を感じた。 記憶に残された様々な言葉は傷つける対象を求めて蜷局を撒いている。いつだって変わる事はないかもしれない。それでも少し割り切れる事もあるのだろうかと気持ちが固まると、僕は何となくサイドブレーキを下ろして、街の光に混ざり込む事にした。 【黒猫クック】さん [地上波(邦画)] 9点(2013-01-05 03:48:44)
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