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《ネタバレ》 すっかり下手な職人監督に成り下がってしまった大森一樹の代表作といえば、本作でしょう。まだアマチュア映画作家らしい青臭い雰囲気を持ちながらも、ベテラン俳優にも手堅く演技させることができた演出手腕はなかなかなものでした。とくに女優初挑戦の伊藤蘭があれだけ達者な演技ができるとは意外でしたね。寮の中でラジオから「微笑み返し」が流れてきたり蘭ちゃんが吸ってるタバコも「蘭」だったりと、いろいろ遊びもあります。それにしても時代を感じられるのは出演者が喫煙するシーンの多さで、病院内で医者がスパスパふかしてるのは、なんか不思議な感じすらします。 見直してみてとくに感じることは、医学生たちに不思議と感情移入できるようなキャラがいないところです。図書館や喫茶店のようなパブリックな場で患者の個人情報に関するようなことをペチャクチャおしゃべりするところなんて、はっきり言って不快です。主人公の荻野愛作くんにしたって中途半端な凡人に過ぎず、産婦人科の研修中に彼女を妊娠させるだらしなさと、みんなにばれるのが怖くて大学病院じゃなくてインチキ堕胎医に彼女を連れて行く卑怯な一面、いかにもガリ勉秀才の成れの果てという感じですね。でもこれは作劇としては悪いことではなくて、それだけリアルな人間像だということなんです。 劇中で左翼がかった精神科医の活動がちょこっと出てきますが、そこではたと思い返すことがありました。確かこの当時は、あのゴダールの名作は「きち〇いピエロ」と呼ばれていたはずなんです。このあたりから、私の大嫌いな「言葉狩り・言い換え」が始まっていたみたいです。
【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2018-08-12 22:56:33)
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