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《ネタバレ》 怪談映画を撮らせたら本邦一のマエストロだった中川信夫のこれが遺作です。ATGの1千万円映画のひとつとしてラインアップされていますが、新東宝で低予算プログラム・ピクチャーをさんざん撮ってきた彼にはある意味相応しい企画だったんじゃないでしょうか。なんせ原作戯曲が歌舞伎台本みたいなシンプルな構成なんで、この映画も登場人物は後にも先にもたった三人で済ますというカネもかからない素晴らしいアイデアだと思います。ちなみに達筆な字のタイトルは、なんと天知茂の直筆だそうです。 物語は旅役者一座の小平次・太九郎・おちかという三人の三角関係が軸となっています。この三人は幼なじみの間柄だけど太九郎とおちかは今は夫婦になってます。そこに小平次がおちかに「太九郎と別れて俺と夫婦になってくれ」と迫りますが、太九郎にしばしばDVで責められているのに「わたしは太九郎に体を捧げた身、どうして別れられりょうか」とおちかは応じません。そのくせ太九郎には三下り半を書け、つまり別れてくれと言ってみたりでさっぱり一貫性がないんです。実はこの映画、三人しか出てこないのに三人ともその言動が信用できないという構成になってます。おちかは妊娠し小平次に太九郎の子だと言いますが、これは真偽のほどは不明です。小平次も「俺はおちかさんの手も握ったことはない」と太九郎に言いますが、これも怪しい。このドラマツルギーが、後半の小平次は死んでいるのか生きているのかという不思議な状態に繋がっており、見事な作劇術だと思います。はじめは小平次が太九郎を殺すとばっかり思っていたら真逆の展開、というのもなかなか意表を衝いていて良かったと思います。 三人の重厚なセリフ劇なんですが、やはりこの中で光っているのが宮下順子ですよね。開き直ったマゾ女という風情のキャラなんですが、ちょっとヤバい色気を出しまくりでした。監督も自身のミューズだった若杉嘉津子を彼女に重ね合わせていたのかもしれません。 映画全体のトーンはいかにもATGという雰囲気でしたが、こういう作風の中川信夫をもっと観てみたかったと残念でなりません。
【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-07-31 21:44:53)
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