921. デーヴ
設定はありがちといえばありがちなのですが、脚本に一切の無駄がなく、押しと引きの呼吸、テンポ配分も絶妙です。また、この種の「ありえない話」では、最後にどう着地するのかで大きく作品の価値が変わってくるのですが、その落とし前のつけ方も見事でした。しかも、単に話として面白いだけではなくて、人間ドラマとしても優れています(例えば、エレン夫人の心の変わり方など)。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-23 03:24:14) |
922. さらば冬のかもめ
《ネタバレ》 ロードムービーが面白くなくなるパターンに、この作品も陥っておりまして。個々のエピソードが単に順番に積み重なっていくだけで、必然性や変化がないのです。ただし、ラストで何も起こらずメドウズが淡々と収監されるところは、かえって全体の虚しさを醸し出していて、作品を救っています。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2018-01-22 02:07:14) |
923. ボディ・ターゲット
《ネタバレ》 これ以上ないくらいシンプルでありがちな内容なのに、なぜか何回見ても飽きないという不思議な作品。冒頭、固定カメラで護送車を捉える静かなロングショット、そこから一気に脱獄課題を片付ける手際の良さといったあたりで、すでに類例アクション作とは異なってくる予感が漂う。また、この護送車の中の映像に始まり、光と影の使い方が、意外とどのシーンでも丁寧なのです。さらに、シンプルな中にも脚本も丁寧であり、言葉少なにすべてを語り尽くす主人公2人、そしてヒロインがヴァンダムと寝てしまう「ステップアップ」の自然さ(恋敵的保安官の暴走行動が、知らずして逆に後押しになっているという皮肉も込み)といった点も特筆すべきです。逆に、主人公が実は脱獄犯という要因は、ネタとして広げようとすればもっと使えたんだろうけど、あえてそのポイントは最低限に絞ることによって、流れを削がないことに成功しています。最後は冒頭に回帰する(外した手錠がまたかけられる)というラストも、運命と切なさを感じさせて、好感度アップ。そしてそして、忘れてはならない功労者は、ロザンナ・アークエットでしょう。こんな感じの、行動力も意思の強さもあるんだけど、でもちょっと疲れてきちゃった2児の母、という設定に、彼女はずばりはまっています。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-21 02:36:09)(良:1票) |
924. サタデー・ナイト・フィーバー
《ネタバレ》 トラボルタが脳天気に踊りまくるアホ青春映画かと思っていたら、むしろ真逆で、雰囲気はひたすらじめじめと鬱屈している。この作り方は前年の「ロッキー」を下敷にしたのかな、と思ったら、主人公の部屋にはポスターが貼ってあるし。しかも、アル・パチーノに似ていると言われた主人公が自分を見立てるのが「狼たちの午後」ですか。ただ、結局はその鬱屈がどこかで凝縮して反転するということなく、最後までそのまま何となくダラダラと終わってしまうし、輪をかけて登場人物の交通整理ができていない(脚本家が思い出した順番に出てくる、という感じ)ので、裏青春映画としても浸ることができない。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2018-01-21 00:19:55) |
925. BOYS
《ネタバレ》 ある日突然自分の生活圏内に飛び込んできた謎の美女。その人は過去が不明である上に、状況的に守ってやれるのは自分だけ。こういうシチュエーションには、少年だった頃には誰もが憧れた(妄想した?)はずだ。それをこのようにきっちりと表現されては、素直に降伏するしかない。前半の寮の描写も「こんな感じだよなー」と頷いてしまうし、途中でいったん相手を目の前から消えさせて、「あれはやっぱり幻だったのか?」という空虚な気分にさせておいて、再びラストへと向かう展開も心憎い。最初から最後までが推定26時間前後という丁寧さも好みです。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-18 02:17:00) |
926. 心の旅
これは、受傷からの立ち直りの記録でもなければ、家族の交流をテーマにしたものでもありません。1人の人生における「喪失」と「再生」の表現に挑戦した作品なのです。それに気付いたときに、この映画が一気に輝いて見えました。突っ込みが甘い部分とか、駆け足の部分もなくはないのですが、少なくとも、無駄な場面、無駄な台詞はほとんどありません。伏線が全部裏返るラスト15分にもぞくぞくしました。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-16 03:24:48) |
927. ジョイ・ラック・クラブ
《ネタバレ》 それぞれの母親の方は、ひたすらじめじめした不幸話ばかりを聞かされて気が滅入るだけだし、娘たちの方は、「男を見る目がないんじゃない?」の一言で済んでしまうようなしょうもない話ばかりだった(このタイトルのJoy Luckって、Joy Lackの誤りじゃないかと思うくらい)。しかも、それらを集めて結局何が言いたいのかも分かりません。ナレーションの使いすぎも含めて、設定先にありきで頭だけで考えてできてしまったような作品。 [DVD(字幕)] 3点(2018-01-16 03:16:33) |
928. シザーハンズ
《ネタバレ》 アンデルセンやグリムから日本の童話に至るまで、お伽噺とは、概して残酷な内容を含み、しかもそれが裏から普遍的な教訓を暗示していることが多いのですが、この作品も、そのようなお伽噺の約束事をきちんと踏まえつつ、それにラブストーリー色やファンタジー色を絶妙に加工することによって、大人のためのお伽噺を完成しています。さらに、本作の最大の功労者としては、お母さん役のダイアン・ウィーストを挙げたい。最初に屋敷の階段を登っていくシーンだけですべてを表現しきっていますし、エドワードとの初対面の場面にしても、この人でなければエドワードはついて行かなかっただろうということがよく分かります。●再見して気づいたのですが、エドワードのキムへの想いは、最初の写真を見た時点がピークで、実はその後は接するごとに落ちる一方だったんじゃないでしょうか?そう思って見てみると、氷像のシーンも、"I Can't"のシーンも、城での対決シーンも、すべてニュアンスと意味合いが変わってきます。実はこの作品、もしかすると、ティム・バートンの女性不信が制作の原動力になっていたのではないか、と勘ぐってしまうほどです。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-14 02:59:47)(良:1票) |
929. 潮風のいたずら
本当にどうということもない、あらすじだけを聞くとアホみたいな話なのですが、主演2人の見事に呼吸のあった好演で、全然飽きずに楽しめます。ヒロインはもちろんですが、男性側や子供たちも、話が進むに連れていい顔になってきているのがいいです。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-13 00:59:59)(良:1票) |
930. マレーナ
《ネタバレ》 初恋というのは、単に美しいだけではなく、往々にして、同時にアホでマヌケだったりするものです。それが嫌みなく両立してまとめあげられています。また、年上の憧れの人というのはいつまでも美しいままでいてほしいものですが、この話ではそれが容赦なく裏切られ続けるところが、切なくて良い。その中で、導入部分では500%エロ目線でしかなかった主人公が、ちょっとずつ変化していく語り口が巧妙です。2人の現実の会話はラストだけ(そしておそらく両者の生涯でこの一瞬だけ)というのも、ある種定石手段とはいえ、実際にやってしまえるのは偉い。 [映画館(字幕)] 8点(2018-01-11 23:23:12) |
931. ニューヨークの恋人(2001)
《ネタバレ》 非常に良質なラブストーリーだと思います。恋愛とは本来、こういうものであったはずだということを教えられました。大事なのは、誠意であり、心遣いであり、社会的素養であり、勇気であり、凛々しさなのです。レオポルドがデートのBGM(だけ)のためにバイオリン奏者を手配する場面は、最高に笑えました。当然のことながら、安易に2人が寝ちゃったりしないのも、気品があって良いです。●再見して気づいたのですが、この作品では、(主人公2人も、それ以外も)いろんなポイントで、「言葉を尽くして(+選んで)真摯に意を伝えること」によって物事が解決していく場面が多い。その姿勢で一貫しているのが、単なる浮ついたラブコメと一線を画することにつながっています。 [映画館(字幕)] 8点(2018-01-11 03:43:28)(良:1票) |
932. ディスクロージャー
《ネタバレ》 前置きが異様に長い(したがって尺も不必要に長い)のと、マイケル・ダグラスはあれくらいではあまり困らなそうに見えるのが難点。主演はもう少し若い人の方が、デミ・ムーアのドSぶりが発揮されて、後の展開に説得力が出たと思う。ただし、尋問を割と時間をかけて丁寧に撮っているのには好感。というか、その辺からやっと面白くなってきました。 [ブルーレイ(字幕)] 4点(2018-01-11 03:32:15) |
933. シカゴ(2002)
《ネタバレ》 ひたすら面白かったです。歌と踊りの場面がきちんと登場人物の心理表現になっているところが良いし、ストーリーをステージ上のショウとして展開するという見立ても成功しています。編集も優れているので、芝居の場面との相互転換にもまったく違和感がありませんでした。“Cell Block Tango”や“We Both Reached For The Gun”の場面は、圧巻でした。ところで、ほかの人ばかり注目されているけど、悪徳なのに腕は一流で妙に頼れるというビリー・フリンの人物像を的確に表現したリチャード・ギアの功績は、忘れてはならないと思うが。●と、エンターテインメントとしては文句なしなんだけど、それでも手放しで褒められないのは、最後をマシンガンで締めてしまうからなんです(本編中でも使われていないので、そもそもアイテムとして浮いている)。 [映画館(字幕)] 7点(2018-01-10 02:38:16) |
934. 危険な情事
《ネタバレ》 最初から最後までまったく飽きることがない、A級のサスペンスだと思います。劇場で見たときは、最後のバスタブの場面で、観客全員(私含む)の肩が一斉に「びくっ」と上がったのを覚えています。グレン・クロースは、単に怖いだけではなく、同時に、その男に頼るしか道がなかった人間の悲しさ、淋しさを表現しているのが素晴らしいです。そして、一方で、堅実な良妻像を的確に演じきって、それに対する侵略の恐怖を裏から描いて見せたアン・アーチャーの功績も見過ごせないでしょう。 [映画館(字幕)] 8点(2018-01-06 23:43:12)(良:1票) |
935. 初恋のきた道
《ネタバレ》 お椀の位置をこっそり入れ替えるチャン・ツィイー。いったん汲んだ水を元に戻すチャン・ツィイー。餃子が一緒に食べられないと分かって、一瞬のうちに泣きそうな顔になるチャン・ツィイー。心の中にひっそりと置いたまま長年忘れていた感覚を、剛速球ど真ん中でぶち抜くような、容赦ない演出である。しかも、それらの過去の描写が、締めの現在の部分に自然につながって行くのが素晴らしい。ラブストーリーかと思って見ていたら、実は真の主題は語り手と老母の親子関係だったのである。見ているときは、ナレーションがしつこいとか、ツィイーのアップショットがやたら多いのは狙いすぎじゃないかとかが気になっていたのだが、終わってみれば大した問題ではなかった。 [映画館(字幕)] 8点(2018-01-05 02:51:39) |
936. ブレイブハート
《ネタバレ》 主人公が決起するまで、1時間近くも前振りを続けるという贅沢な構成。しかし、迫力の戦闘シーンも、壮絶な処刑シーンも、この点が前提にあるからこそ、説得力を持つのです。また、いろんな戦闘場面の描き分けやつなぎ方、合間にさりげなく挿入される各地の広大な風景、そして美術や衣装関係に至るまでも、堂々たる完成ぶりです。イザベラ王女とできてしまうのだけは当初違和感がありましたが、再見したら気にならなくなりました。 [DVD(字幕)] 8点(2018-01-04 04:02:33) |
937. JAWS/ジョーズ
前半と後半が全然別の話になっているし、主演3人のチームワークがどうみてもあまり良くないのもマイナス印象。ただ、「見えない(見せない)からこその恐怖」という概念を明確に確立した功績は、今日も色あせない。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2018-01-02 04:08:37) |
938. カラーパープル(1985)
《ネタバレ》 ほとんどが暗く悲しいシーンであり、また長い作品であるが、人間の持ついろいろな面を見せてくれて、また見終わった後もいろいろと考えさせてくれて、簡単に結論が出ないところが良い。●再見してどきっとしたのは、序盤、妻ソフィアへの対応に悩むハーポに対し、セリーがさらっと「殴れば?」と言ってしまうシーンです。彼女は父からも夫からも常に殴られてきたので、「言うことを聞かせる」=「殴る」だと思い込んでいる、というかそれ以外知らない。だから、ほかの人に対しても、その概念以外のことを伝えることができない。こういった連鎖の問題は現在でも着実に存在しますし、85年の時点でそれをするりと映画の中で表現してしまった手腕が素晴らしい。 [DVD(字幕)] 7点(2018-01-01 01:26:20) |
939. フェイス/オフ
《ネタバレ》 導入部の設定からして、てっきり、爆弾の爆破阻止をめぐって最後まで攻防が繰り広げられると思っていたら、そこのところはあっさり(しかも逆の方向で)片付けて、それによってもう一段上の課題を提示するというのが新鮮でした。さらには、無意味に教会を飛び回る鳩とか、無意味に三角形+αの拳銃の突きつけ合いとか、ジョン・ウー様式美がコテコテに満載。それでいてきちんとスリルとスピード感も維持しているところも良い。ただし私が一番好きなシーンは、ジョアン・アレンが「あの男と夫婦として過ごした・・・」と告白したときの、何ともいえない感情の凝縮された空気感。 [DVD(字幕)] 7点(2017-12-30 20:59:28) |
940. ラストベガス
スティーンバージェンも入れたら、オスカー俳優5人が揃い踏みですね。でも、こうやってドリームチームみたいな顔合わせにした場合、みんなに気を遣って、出番を整えたりとか役柄を調整したりとか、つまり俳優が中身に優先してしまいがちなのですが、この作品もやっぱりそうなってしまいました。4人が4人とも、背景を含めた描写があまりにも安直かつ浅薄で、みんな流しで演技をこなしているのがミエミエです。というか、そもそも実力を発揮すべき土俵も与えられていないのですけどね。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2017-12-30 02:20:33)(良:1票) |