1. タクシードライバー(1976)
社会への「毒」が注ぎ込まれた芸術であり、これぞ、R-25からのバイブルと言えよう。というのも、主人公のトラヴィスは26歳であり、あまり若年期の多感な時期に見る映画でもない。なぜなら、テーマへの共感と主人公への同化は、この映画においては安易になされるべきものではない。それは、少なくとも狂人賛美の映画ではないからである。人生の辛酸をある程度、味わってからの方が、この映画は、より楽しめる。見る人にとどまらず、おそらくは見る年代によっても、見方が変わる映画であり、それは、年を追うごとに、自分の社会に対する見方や考えが変わるように、この映画に対する評価も変わるのである。だから、見る人を選ぶ映画だとも言える。とは言え、たとえ主人公に共感しなくても、楽しめる要素は充実している。たとえば、男性理解の一助としてもこの映画は有効であろう。女性から見たトラヴィスは、お世辞にも感情移入できる対象ではないだろう。彼の内面にひそむニヒルな孤独と、ヒーロー願望的な自己顕示欲と、直情的な不器用さというものは、まぎれもなく男性的な性の側面である。多かれ少なかれ、男性にはこうした性質がある。トラヴィスはその性質がどぎついだけである。また、作品の持つ独特の雰囲気(映像美あるいは音響美)が、理屈抜きの面白さを演出している。魅惑的なミュージック・クリップとして、見る者の心を打つ作品としても、希少価値は高い。反社会的な映画を生み出すことに消極的な、現代のハリウッド系映画とは一線を画し、現実社会に潜むダークサイドなひとつのリアリティを、包み隠さず描き出そうと努力する挑戦的な姿勢が、見る者の心を、揺さぶらずにはおかない映画であることは疑いない。社会に対して悪徳、不条理を感じとって、目に余る思いをしている人にとって、実に、問いかけられるものがある。事なかれ主義に憤りを覚え、社会への不満をぶちまけたくなるフラストレーションを、この映画は代弁し、なだめ、すかしてくれる。小説で言えば、さしずめ、太宰治の『東京八景』を読んで、「自分は太宰ほど狂人でもない」と安堵する感覚である。トラヴィスの正義感は、手放しで誉められるものではないが、これが単に訳の分からぬ狂気にしか思えないとなれば、この映画はある意味、淡々とした退屈な映画として、受けとられてしまうのかもしれない。 [DVD(字幕)] 8点(2005-11-19 12:58:48)(良:3票) |
2. ウェイキング・ライフ
夢の中で、現実を探し、旅人のように彷徨う青年のロードムービー。人生とは何か?現実とは何か?自分とは?他人とは?様々な哲学的な話を延々、嫌というほど聴かされる。面白いかと、聞かれたら私は全然面白くなかったと答える。「にっぽん零年」と似た感覚。ただ、相当な量の知識や教養が次から次へと垂れ流されてくるので、それらにより多く共感できた客は満足できたのでは。娯楽エンターテイメントとはまるで正反対に位置するようなモノを楽しむことができる人向け。初めは、多分、字幕を目で追っかけるので精一杯になる。それでも、後半、結構、共感して楽しめた。 [映画館(字幕)] 4点(2005-03-21 21:31:09) |
3. イン・ザ・ベッドルーム
これはもう共感できるか?否かが作品に対する評価を大きく左右すると言っていいだろう。物語中盤から一気に押し寄せる悲しみを、どう受け止めるか?その後、どう見守るべきか…そんな事を考えさせられた深みある物語だった。個人的な感想としては、ラストで父と母が見せた究極的で、感情的なクライマックスに感銘を受けることは、残念ながらなかった。夫婦仲の関係が、サム・メンデス監督の「アメリカン・ビューティー」に通ずるものがあったが、むしろもっと冷め冷めとした印象が、こちらの作品には強く残る。確かに救いがない分、リアリティーを強烈に感じたが、その分どうしようもなく暗澹とした気持ちにさせたらたのも事実。見て損はない…だが、観終わって静かな後悔の念を抱くことは大いにありうることかもしれない。 4点(2005-03-21 21:29:39) |
4. 8 Mile
話はシンプルで分かりやすい。並々の感動と並々の栄光。ほどよいサクセスストーリーでテンポ良く楽しめた。欲を言えば90分くらいに短縮してほしい。それにエミネムのラップ対決はもっとたくさんあっていいと思うし、勝負の行方も複雑にしても良かったと思う。ただラップで人を罵倒するのは聞いていてなんとなく抵抗があったかな。ただエンディングで「ルーズ・ユア・セルフ」が流れた時点で全部OKになってしまったけど。あとは字幕で見るよりなしで見た方が内容がよく分かる映画であることは間違いないですね。 6点(2005-03-21 21:27:11) |
5. BULLY ブリー
タイトル”BULLY”とは、”いじめっ子”という意味である。1993年アメリカ南フロリダで起きた事件…。10代の少年少女による集団いじめっ子殺人…。その生々しいまでの過程をリアルに、且つ、克明に一本の映画に仕立てたショッキングな問題作。本当にどこにでもいそうなまさしく現代のありふれた少年少女たちを、驚くほど見事に鮮明に描き出している。10代のステレオタイプ的なキャラクターを突き詰める事で、逆に10代の深層心理が剥き出しになって顕れていたように思えてならなかった。主演のブラッド・レンフロの演技の素晴らしさ(憎たらしさ!)もさることながら、周りをがっちり固めるように友人たちの演技力(素力?)の奇跡的高水準なこと!…いや、むしろ、お前らほとんど素だったんじゃないよな?と俳優の人間性そのものまでも、危うく疑いかねないほど、真に迫っていたギリギリの演技に見えたから凄まじい。こんなのを見せられた日には、人殺しなんてするもんじゃないと大抵の人は思い改めるに違いない。下手な文部省認定のクソったれ番組なんかよりよっぽど効果的な教育的作品だと本気で思ってしまった。そして、最後に信じられないかもしれないがこれらは実際に現実に起きた事件を元にして作られたということ…現実は不条理だ。笑えない現実味、よもやホラーの域。 7点(2005-03-21 21:26:51)(良:1票) |
6. S.W.A.T.
最後まで一緒に闘える、と信じていた。キャッチに引かれて観ました。一言でいえば、駄作です。S.W.A.T.というお仕事、拝見!みたいな話になってる。巻頭10分で友情ものかと思って胸を高鳴らせると、勘違いに終わります。S.W.A.T.VS市民、みたいな構図を予告編で見せられていたのに、いつになってもそんなのは始まりません。ようやく始まったかと思えば、後半戦、残りわずか。グダグダな事件として解決して適当に終わります。見なくていいです、こんなもの。物語が安直すぎて何もないからいいんだろうか?よく分かりません。普通につまんないです。 3点(2005-03-21 21:26:10) |
7. イノセント・ボーイズ
アメリカの極普通の少年達のアウトロー物語。言いかえるなら、現代版「スタンドバイミー」。青春群像ドラマが、作者の目を通して等身大で表現されていて好感が持てた。学校という社会の抑圧から解放されたくて、いつも苛立っていた、あの頃。何かあるようで、何もない平凡な日常にウンザリしている少年達。彼らにとっての刺激的なものとは、現実からでは何一つやっては来ない。あるとすれば、それは想像の世界にだけ。強烈なインスピレーションの捌け口は、いつも妄想の彼方。そのあたりは、アニメーションとも融合で、画で観ても伝わってくる。あの頃って、何も出来ない無力な自分を知ってる分、余計いらだっていた気がする。厳粛なカトリック・ハイスクールの校則にがんじがらめにされて、何でもいいから、何かしてやりたいという衝動に駆られる少年達。そこで、彼らはいろいろな悪さや友情や愛や裏切りを実体験していく。いつしか、それは全てだと気づいた時、少年達は少年ではなくなっていることだろう。アニメと実写を行き来して、平凡と非凡の境を辿る。少年達は常にその境にいて、足をふらつかせながら歩いていく。「現実をみろだと?目一杯、みてるよ!」確かに彼らは現実を生きている。ただ、その生き方がストレート過ぎて、どうしようもない、それだけなのだ。目の前で起こる全ては、事実にして現実。 6点(2005-03-21 21:25:15) |
8. ゴシカ
「ゴーストシップ」や「13ゴースト」のダーク・キャッスルが送るサイコ・サスペンス・ホラー。むしろ、ホラーの色が強い強い。そして限りなくエンターテイメント。ウェルメイドもここまで来ると、単純に見飽きる。何も考えず娯楽として観に行って正解でした。多少、娯楽にしてはストーリーが難解にみえる瞬間もある。犯罪心理学者である主人公が精神的に病んでいく様が説明不足かつ不親切で分かりづらい。だが、話が見えてくればなんて事はない。邦画「リング」の焼き回し的なホラーまっしぐら(ある意味「ザ・リング」なんかより「リング」らしい展開アリ!)で、ほどよいラストとオチに及第点。こういう映画が増えるのは大いに歓迎。でも、こればっかりじゃ、さすがに飽きる。 [映画館(字幕)] 7点(2004-03-19 22:29:56) |
9. ラブ・アクチュアリー
こういう映画はたまにあります。見終わっていい映画だったなと思う反面、人に薦めようとも逆に絶対に見ない方がいいとも言えない映画。全体的にストーリーは散漫で、どのエピソードも中途半端に共感させられ、盛り上がりにも欠けている。中には笑えるシーンもあるのだけれど、どの話も繋がっている様で実際には関係がないから、乗るに乗れない。芝居じみていてウンザリするキャラもいれば、一人で上手すぎる役者もいる。終盤に向かうにしたがって、それぞれのラブを見つけていく。夢のようなラブもあれば、ささやかなラブも垣間みせる。決して見れない映画ではないんだけれど、見たから何だと言われたら、確かにそれまでの映画かもしれない。構えて見ると案外、期待ハズレな映画ってことかな? 6点(2004-03-19 22:29:18) |
10. 25時(2002)
血生臭い友情のぶつかり合いが唯一の見所。で、そこがクライマックスでしたね。そのためだけに物語をシャープに洗練した方が数倍魅力的に仕上がったであろう惜しい作品。エンディングに至る主人公の”後悔の念”は遺憾なく描かれていたし。ただ、新人作家にありがちな、話の詰め込みすぎがちょっと裏目に出たのかもしれないです。とにかく、余計な枝葉(取り立てて言うなら、友人たちのエピソードなんて、もうまさに)要りませんから。収監前の24時間なんて設定もいいし、役者も揃ってるんだけど、名作には程遠い仕上がりの甘さがある。見て損はないですが最後までだれずに見れるかどうかは…はなはだ疑問です。 6点(2004-03-19 22:28:37) |
11. アバウト・シュミット
退職後にそれまでの人生を振り返る。そんな感傷的な物語をコメディータッチに仕上げた作品。主人公は言いたい事を溜め込む人なんだけど、ナレーションで本音を言いまくるので観客としてはかなり笑えて楽しめますね。意外だったのはオチ。すっきり泣かせてくれるのか?と思いきや、なんとなくドキッとさせられた。一見ハッピーエンドなんだけど…ちょっと考えるとそうでもないのかな?と神妙にさせられたりもする。もし共感しまくったらベストムービーになる可能性は十分あります。難民に助成金を送るエピソードの使い方もなかなか巧みでお見事。「親愛なるンドゥク」。 [映画館(字幕)] 7点(2004-03-19 22:27:55) |
12. 9デイズ
アクションコメディー。サスペンスとかスリルとかの要素もあるが、どれも中途半端です。携帯核爆弾をCIAが追う単純な話。それに13デイズとかとゴッチャになりそうなタイトルセンスもいただけない。原題の「バッド・カンパニー」でいいのでは。「バッド・ボーイズ」に近いし、エンターテイメントとしては…。意味もなく銃撃戦をしたり追撃戦をする場面もやたら多くて鼻につくし興奮してるのは役者だけか。開始早々の替え玉の話してるまではけっこう興奮したんだけど後半だれる。ジェリーブラッカイマー製作の映画はキレのある作品はいいんだけど、キレが悪いと見るところがない。それに9日間そんなに関係あったか…。 [映画館(字幕)] 2点(2004-03-19 22:27:11)(良:1票) |
13. アミスタッド
歴史ものがたりをスペクタクルっぽく描いた渋い大作。下克上的な残虐シーンの冒頭に軽く引き、一転して政治的な小難しい話に軽いとっつきにくさを覚え、淡々としたその後のストーリー展開になじめずに、気がつけば中盤ぐらいまで観てしまった。もしこのまま終わっていたら全く共感できない映画だったに違いない。でも、ラストのアンソニーホプキンスの名演に息を呑んだ。凄すぎる。あの演説シーンだけがこの映画の価値、そのもの。あとは中途半端な出来損ないのエンターテイメントな展開。力技で半ば強引に感動させられた不思議な大作って印象です。 6点(2004-03-19 22:25:18) |
14. フィラデルフィア
93年にエイズ(AIDS)と同性愛の二つの問題を扱った社会派ヒューマンドラマ。衰弱していく主人公が真に迫っていて見ていてつらいものがある。弁護士役にデンゼル・ワシントンが扮していたが、割り切って仕事してる印象が何とも冷たい。アントニオ・バンデラスがホモの役を熱演している印象が強くて、ちょっと怖かったな。これ、マジ入ってない?って感じで。興味深い作品なんだけど、人に薦めるには抵抗があるかもしれない。人には誰だって偏見がある。それを試されてる感じもしたから。ラストのホームビデオ風の回想シーンは映像がヤバイです!あのシーンだけ見ても胸が張り裂けそうになる。すごく映像の力を感じたシーンだった。中盤にあったオペラのシーンは個人的にはちょっと…引いてしまったクチです。 5点(2004-03-19 22:24:35) |
15. ペリカン文書
原作ジャングリシャムありき、なスリリングなストーリー展開は今更、面白いなどと言うまでもない。ただ本題に入るのがちょっと遅い。テンポも悪いし、多少空回りしている。上映時間も二時間二十分も間延びした印象。ラストがすっきりと落ちるだけに、それまでが実にもったいない運び。もっと全体的なペースアップが必要。一見、社会派ドラマを気取ったようにも見える。だが、それ以上にエンターテイメントを作ろうとしているのは一目瞭然。徹底的にエンタメにしてくれた方がラストのオチも生きたのに…そこだけが個人的には惜しまれる。本作のジュリア・ロバーツは「エリン・ブロコビッチ」にかなり通ずるものがあります。 5点(2004-03-19 22:23:48) |
16. シティ・オブ・エンジェル
ストーリーでまずみてしまう私はこう作品にはぜんぜん駄目。個人的に失敗した映画。最後まで観れたからいいんだけど、どうも好きになれません。だいたい天使のニコラス・ケイジって想像以上に違和感あるよ。あの人は人間だからこそ魅力的なのに…。感心したのは後半かな。セリフが全くないのに観れた。不思議な映画…よく分かりません。 4点(2004-03-19 22:22:51) |
17. ナッティ・プロフェッサー2/クランプ家の面々
サントラと映画は別物です。私はサントラがよくて映画を観たんですが、只々…ひでぇなって感じです。皆まで言いませんが。ポール&クリス・ワイツ兄弟が脚本に携ってるってことで観たんですが…散々な内容。それは仕方ないですよ。当たる日もあれば、はずれる日もあります。エディーマーフィーが一人で九役をこなす意図も分からない。普通に一人でいいよ。原案が悪いのか、脚本が悪いのか知らないがお粗末な物語は、見るに耐えないものがある。たぶん、笑えればそれはそれで良かったんでしょうが…笑えない。笑いのツボなんて人それぞれだから仕方ない。せめて「1」見てからにすれば、こんなに面食らわずに見れただろうに。 2点(2004-03-19 22:21:50) |
18. ミート・ザ・ペアレンツ
このくらいのお笑い映画は大好きです!ベン・スティラーが大好きになった映画ですね。あんな花婿はマジで最高です!かっこ悪すぎて!ダサすぎて素敵!むしろ、あそこまでドジな人間も珍しい。…いや、居ないな。遺灰は大爆笑でしょう!あそこで笑えなかったらこの映画はおそらく笑えないでしょう。後半はお約束な展開でしたが、それはそれで全然OK。 [映画館(字幕)] 7点(2004-03-19 22:17:23) |
19. ゲーム(1997)
《ネタバレ》 ヨハネ第9章25節を見ろ。私は盲目であったが今は見える。いったい彼は何が見えたというんだろうか?ラストのオチで全てが台無し。別にやってはいけないとは言いません。主人公がビルから飛び降りてエンディングでいいのに。それではバッドエンディングであと味が悪いから?たとえそうだとしてもさ…何でもありのガキの映画に成り下がるよりはマシでしょ。いろんな意味で裏切られた映画。今回見たのは2回目で数年前に見た時よりは楽しめた。ラストを気にせずに見れたから。だから今回は7~8点つけます。ビルから飛び降りてそれまでが全て『ゲーム』だったと種明かしするところで、本当に主人公が死んでれば良かったんだという新しい結末を自分の中で思い付き、それでむしろ勝手に感動した。死んだことにすれば、都合の言いように登場人物が出てくるのも、うなずける。罪を償ってようやく死をもって寛容され、祝福が訪れる。それを映像化していたら、9点いや10点つけてもいい。ただ以前見たときよりは、全然好きになった映画ではあります。 7点(2004-03-19 22:16:27) |
20. アメリカン・サマー・ストーリー
「アメリカン・パイ」の続編。瞬間的な笑いは前作の2倍以上。本作は大学生になった主人公たちが地元へ帰省し、ひと夏のバカンスを楽しむという夏物語。邦画で言えばさしずめ「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」といったところか。今回のジェイソン・ビックスにはコメディー俳優として最高の賞を送りたい。多少の下品はあっても、これは愛嬌ですよ。バカになって恥じかいて、それでも世の中は笑ってやり過ごせるってことが言いたいんですよ。この映画を観れば、たいていの悩みは解消されます。小さい事でクヨクヨするのは愚の骨頂。欲を言えば前作くらいの起承転結が欲しかったかも…それって贅沢? 6点(2004-03-19 22:15:29) |