1. セルラー
これは面白い、面白すぎの一本。ですがそれもそのはず、原案がラリー・コーエン。このヒト、こういう面白い事を思いつくんだから、悪魔の赤ちゃんなんか3本も撮ってないで、こういうのこそ、自分で監督すればいいのに。と思うのですが、多分、このヒトには監督も脚本も任せない方がいい、ってことなんでしょう。自分で撮ったらおそらく、怪作の部類に入ってしまう・・・。 平和な家庭に、いきなり悪党どもが闖入し、家にいた母親が誘拐されてしまう。監禁された部屋には壊された電話機。この母親、理科教師ということで(こういう風にいちいち設定を活かそうとするのが楽しくもまたイヤらしいところですが)、電話機を何とか復旧しようと試行錯誤、その結果、どこかの誰かさんの電話に回線を繋ぐことに成功するのですが、その繋がった先というのがよりにもよって、とんでもなく軽薄な若造のケータイ電話。 すでにこの設定で映画を作ろうという事に無理があり、とりあえず面倒くさがりながらも警察に駆け込んで一件落着、というところなのですが案の定、うまい具合に都合よく、というかうまい具合に都合悪く、警察署で揉め事が発生したり、不自然に電波が弱くなったり、「逆・ご都合主義」でグイグイ物語が進んでいきます。なにせ、ケータイの持ち主が軽薄なテキトー男、こういう人には物語にブレーキをかけることなど、不可能です。無理があっても、こういう人が率先して物語を転がしていき、スピード感を高めていきます。 そりゃ、もう少し脚本の穴を繕うことだってできなくは無いんでしょうが、重要なのは、この勢い。クリス・エヴァンス演じる軽薄兄さんの暴走に、脚本家も監督も、そして我々も、覚悟をもってついていくしかありません。欲も無ければ私怨もない、ただただ、巻き込まれた運の悪さに、こんな人を巻き込んでしまった運の悪さ。ひたすら、映画は突っ走っていきます。 そこにブレーキが掛けられるのはただ一人、警察官のウィリアム・H・メイシー。いや、こんな頼りない人に、この暴走映画を止めるなんて、無理でしょう。その彼が、この物語にどう関わるか、どう食い込むか。 あのイヤミこの上ない弁護士。このイヤミっぷりは実にお見事ですが、そのイヤミを以てしてもブレーキをかけるどころか、物語はさらにさらに加速して。 終盤まで危機また危機の連続、サービスし過ぎで、かえってここだけフツーの映画っぽくなっちゃった面もありますが、そこまで言うのは贅沢かな。いや、面白かったです。 [インターネット(字幕)] 9点(2024-05-06 15:03:06) |
2. ジーパーズ・クリーパーズ
《ネタバレ》 まあ確かに売り込み方としては、「コッポラ総指揮」としか言いようが無かったんでしょう、と、心中お察しする次第ではあるのですが、いや何、そこまで気を遣わなくても(というかむしろ、無駄にハードル上げてしまっているのでは)。 薄汚い謎のトラックにつけ狙われる、「激突!」チックな前半。舞台は何もない一本道で、周囲はどこまで行っても変わりばえのしない光景が続き、単にロケ撮影の手抜きではないのかとの疑いが心に兆しつつも、この孤立感は映画を引っ張るに充分。 やがて物語は「激突!」路線から離れ、道端の教会に停められた例のトラックと、そこで行われている謎の作業、その教会を探ってみると・・・という、シリアルキラー的な路線に移り、さらにはその正体たるモンスターとの戦いへ。もはや、前半のトラックでの襲撃に何の意味があったのやらさっぱりわからないのですが、一応、「相手を怖がらせることに意味があった」という苦し紛れの説明がなされていて、もう、どうでもよくなってくる。 とにかくこの三段構えが、いいではないですか。 通りすがりに見える、停められたトラックと、その脇で何かをする謎の人物の姿に、「おや?」と思わせられる一つ目の転調。謎の人物と対決し、クルマで轢き殺そうと必死になっていると、その人物の背中にピョコリと羽が生えて、また「おや?」と思わせられる二つ目の転調。その前から、コイツはきっと人間じゃないよな、とは思っているのですが、さすがにハネが生えてくりゃ、これはもう決定的。見ちゃいかんものを見てしまった、という感覚。 登場人物は皆、多かれ少なかれ妙な連中ばかりで、あのネコ屋敷の婆さんなんかも相当なもんですが、それより何より、主人公の姉弟のポンコツぶりが、実に充実しております。そんなこと絶対やめとけよ、ということを平気でする、というより、それをすることに異常に固執する。そう、映画の登場人物ってのは、我々が「普通に」期待するようには動いてくれないもんです。 だからこそ、物語が、動くのです。 ちょっと、やり過ぎ、かもしれないけれど。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-11-26 17:28:33) |
3. ピエロがお前を嘲笑う
《ネタバレ》 ネット犯罪の可視化、ってヤツでしょうか。あまりうまく映像化できているような気はしませんが。 とりあえず色々撮ってきて、編集でソレっぽくつなぎ合わせてみました、ということなのかどうかは知らんけど、チャカチャカした印象に残らない映像の数々。 ストーリーの方も、どうなんでしょうか。途中、部屋の壁に某映画のポスターが貼ってあって、これが伏線、というよりは、一種の言い訳になっている、という仕掛け。他にも伏線らしきものはいくつか。 と思ったら、まださらに続きがあって。もはや「どちらが真相」なんだか。清涼院流水の某小説じゃないけれど、もうどっちでもいいよ、という気になってくる。 そういうメタ性に対して、自覚があるのならいいんだけど、この映画からはそれも感じられず、いささか無邪気に過ぎるのでは。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2022-10-02 20:29:44) |
4. ラッシュアワー3
ジャッキーのアクションとクリス・タッカーの軽妙なトークが楽しめる、ラッシュアワーシリーズ第三弾。とは言っても、アメリカ映画の枠ではジャッキーもかつてのような危険過ぎるスタントは出来ないし、そもそもクリス・タッカーのトークって、面白いのか?という疑問。それは言わない約束か。 という煮え切らないシリーズながら、今回は何と、真田サンとの対決が見られる、と言うんだから、こりゃたまらん。実際、見ててちょっと、目頭が熱くなってしまうんですが、こんなので泣いてたらアホだと思い、泣きはしないワケです。 さらにはなんと、工藤夕貴とも夢の対決! いや、これはどうでもいいか。海外で活躍経験のある日本の俳優陣、全投入、といった感じで。これといって日本と関係ないオハナシなのに、ねえ。 さらにはさらにはなんと、マックス・フォン・シドーとジャッキーとの絡み! これもどうでもいいことなのかもしれないけど、これはこれでなんとなく、しみじみ。そしてなぜか、ロマン・ポランスキーまで。なぜなんだ。 と、まあ、何が見どころやらよくわからんけれど、とにかくあのエッフェル塔でのアクション、これを見せられたらもう、参りました、やっぱりアクション映画ってこうじゃないとね~なんて思わされちゃう。ここを楽しめただけでも充分、お釣りが来ます。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-07-24 15:36:03) |
5. カットスロート・アイランド
《ネタバレ》 以前は赤字映画の代表作みたいに言われてましてけれども、昨今、大作映画の製作費はハネ上がる一方で、なんだか(投資対象としての映画、という意味で)リスクヘッジの体制みたいなモノも出来てきてるように思われるので、いずれは本作の赤字なんて大した話ではなくなるんでしょう・・・・・・でもやっぱり、そんなに赤字だと聞くと、どんなにヒドい作品なのか気になってしまうのか、人のサガ。と言うわけで、それはそれ、一種のギミックとして、赤字映画の看板を背負っていってもらえばいいのではないか、と。 などと思いながら観ると、何がそこまでヒドかったのか、少しばかり肩透かしにあう映画、ではあります。 いやまあ、アクションシーンでむやみにスローモーションを使うあたりとか、いかにもイケてない印象はありますけどね。でも、海賊らしい海賊映画、冒険活劇として、そんなにダメとも思えない。いや、作品のダメなところばかり注目したらやっぱりダメなんだろうけど、ジーナ・デイヴィス、マシュー・モディン、主役二人の活躍ぶりは、作品の欠点を補って余りあるんじゃないでしょうか。 二人が断崖絶壁を落ちるシーン、岩に激突する寸前で押し寄せてきた波に九死に一生を得るのですが、ここで「いや、でも、即死でしょ」と賢明にもツッコむか、「あははは、なるほど!」と無邪気に楽しめるかで、作品に対する印象もかなり変わってくるのではないか、と。 [インターネット(吹替)] 7点(2022-07-24 14:56:43) |
6. 馬を放つ
《ネタバレ》 主人公のオジサン。結構、普通のヒトなんですよね。ツケで茶を飲んで、ついでに店の女性と浮気寸前、なんとか踏みとどまったりして。ちょっとした事件もある、普通の日常。 一方でオジサンは、他人が飼ってる馬をこっそり逃がしてしまう、という妙なクセがある。もちろんこれは犯罪。しかし、その背景には、馬とともにノビノビと暮らしてきた、遊牧民としての民族性みたいなものが、オジサンの心の一角を占めている、というのがあって。 民族の誇り。それは別に、意味も無く自分たちを持ち上げて自慢することなんかじゃない(そこは勘違いしちゃいけない点)。先祖から受け継いだものに対する、責任感、とでも言えばよいか。 しかし、誰もが同じ責任感を共有している訳じゃなく、時代は変わり、価値観も変わり、揺らぎが生じる。オジサンはいささか、ラジカルに過ぎたのかもしれない。けれど、それをただ排除すればいいのか? オジサンの正体は、実はこの映画の監督さんで(笑)、やはり、祖国の美しい景色を、飾ることなく在るがまま、しかし真摯に映画へと焼き付けています。主人公が映写技師だったというエピソードもまた、映画愛の表れのようでもあり、フィルムに収められた「古き良き時代」(イヤでもここには「良き」が付いてしまう)に対する郷愁の表れのようでもあり。 ラストは一種の悲劇、ではありますが、イマイチ頼りない主人公の息子が、主人公の何かを受け取ったのかもしれない、ということを微かに感じさせて、映画を締めくくります。 [インターネット(字幕)] 9点(2022-03-13 12:30:35) |
7. コン・ティキ
シュリーマンと、このヘイエルダールとが、「アヤしい考古学者」の二大巨頭だと思ってるのですが、どうでしょうか(え、ゴッドハンド氏も加えるべき?いや、あれはもう、アヤしくすらも無いので・・・)。 思い込みの激しさは、言い方を変えれば、男のロマン。女性の方がオトナなので、こうやって愛想を尽かされちゃうのですが、ロマンなんて、その先にしか、無いんです。 ヘイエルダールの説は、今では概ね、否定されてますよね。補陀洛渡海じゃあるまいし。 しかしこのヤンチャさが、映画では魅力的に映る。無責任で申し訳ないけど、オッサンたちが少年に見えてきて、いいんだなあ。 サメの群れの場面ではハラハラさせられますが、その後のシーンがまた良くって。主人公の顔だけにフォーカスされたショットから伝わる、孤独。その後、仲間の顔のクローズアップで、空気が一気に和らぐ。 海の神秘。海面下に何かが蠢くたびに、ヒヤリとして、ドキリとして。 結局、この冒険は意味のあるだったのか、どうなのか。いや、冒険は冒険自体に意味がある、それでいいじゃないですか。無責任で申し訳ないけど。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-03-12 17:50:57) |
8. ちいさな独裁者
《ネタバレ》 第二次大戦末期、逃亡兵の青年が盗んだ軍服で大尉に成りすまし、プチ横暴を働く、というオハナシ。肩書ひとつで周囲が逆らえずに彼のペースに呑まれて行ってしまう、というこの設定自体は、必ずしも「ニセモノ」でなくても成立するとは思うのですが、どうやら実際に起きた事件に取材した設定らしく、そして実際、偽物であることが肩書というものの虚飾性を際立たせるとともにラストの顛末にも効いている部分となっています。 ただこの作品。映像の多くにおいて、やたらと背景のボヤかして人物のみにフォーカスを合わせ、ここまでくるとちょっと不自然さすら感じます。収容所での虐殺シーンなどではもはや、人物がどこに立っていてどこを見ているのかが曖昧でわかりづらいレベルです(前後のシーンからわかるとは言え)。あまりのボケ加減に、ちょっとイライラ。 そこまでして人物の表情にフォーカスを当てる割には、主人公の狂気みたいなものもイマイチ伝わってこず。 曖昧さは、映画を見る人に「考える余地」を提供するものかも知れないけれど、作品の弱さにもなっているように感じます。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-06-27 10:11:44) |
9. 帰ってきたヒトラー
《ネタバレ》 まず、映画としてこんな手があったのか、という驚き。現代にヒトラーが蘇る、という基本ストーリーがある一方で、どうやらそのヒトラーに扮した俳優を、その格好のまま街中を闊歩させて、一般ピープルの反応をドキュメンタリー風にカメラに収めている模様。 「模様」というのは、彼らの顔がボカされてたりして、いかにもソレっぽいシーンがあるかと思えば(いわゆる「警察24時」風)、別の場面ではカメラが切り替えされたりして、アレ、これは演出なのか、と思ったり。 その境界がよく判らないまま、ついには、現実なのか非現実のCGなのか、すらも境界が脅かされるようになって。 最初はこれはコメディ映画なんだろう、と思って見ていたけれど、そもそも、映画が特定のジャンルに最初から最後まで収まるなんて保証はどこにもないわけで。 結局、今まで信じていたものは、本当に信じられるものなのか、という疑い、その疑いすらも「本当にその程度の次元に対する疑いで充分だと言えるのか」、と疑わしくなってくる。 ああ、ここにも、「メタ」へと我々をおびき寄せる罠が。 しかし我々には、この罠を避けて通ることは許されないのです。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-05-22 18:06:25) |
10. アウトランダー
宇宙の果てだか未来の果てだかよくわからんけれど、どこぞの遠い世界からやってきた宇宙船が、中世ヨーロッパに墜落。宇宙船に乗せていたモンスターが解き放たれ、地球人を襲いはじめる。で、同じく宇宙船に乗っていた主人公(何星人かは不明。地球人にしか見えない)が、そのモンスターと戦う、というオハナシ。エイリアンVSマッドマックス、みたいな感じでしょうか。 主人公は早々に科学兵器を失い、当時の武器プラスアルファ、ぐらいでもって戦うので、SF仕立てでなくても成立するオハナシなんですけどね。要するに、主人公が異邦人であり、敵がメチャクチャ強い生き物であれば、良いわけで。SFでなくてもいいし、SFであってもいい。ただし、主人公がモンスターに立ち向かうには、それなりに動機付けが欲しいところだけど、そこがちょっと弱い印象。 いや、劇中では一応その動機、つまり彼の家族にまつわる過去が、示されてはいるんですけどね。それを控えめに示していくのも悪くない。どこからともなくやってきた、暗い過去をもつ主人公、確かに悪くない設定、なんですけどね。 ただ、それがどうも弱すぎるんですね。冒頭を除くと基本的に、「主人公の過去は映画の中盤過ぎにまとめて説明します」みたいな構成になっていて、主人公の普段の行動、佇まい、どうも影が感じられません。何だか、いずれヒロインと結ばれます的な雰囲気が、ずっと漂っていて。 マッドマックス2とかだったら、主人公がずっと周囲に関心なさそうな雰囲気漂わせているからこそ、最後があれほど盛り上がった訳で。 本作、CGモンスターはなかなかよくできています。なので、その点でシラケさせることは、ありません。だけど、戦闘シーンは、もう少し丁寧に見せて欲しかったです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-04-30 12:28:26) |
11. アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲
あのやたら楽しかった第一作よりもさらに発想がぶっ飛んでて、発想が飛んでいさえすれば面白くなるという訳ではない、と言うことがイタイほどよくわかる作品です。飛ぶ方向を間違えると、オモシロさは飛距離に比例するどころか、悪くすると反比例してしまう。 今回はいきなり、人類が滅亡寸前。ナチの残党どころか、人類そのものの残党が月の裏側で生き残ってる。 で、地球の内部(毎度お馴染み、空洞説!)にあるという、ナントカいうエネルギー(名前忘れた)を目当てに、宇宙船で地球に向かうと、なんとそこには・・・ なんだ、発想が飛んでると思いきや、結局は第一作の裏返し、ってことですかね。でもとてもそれだけとは思えないくらい、この作品、支離滅裂。で、イマイチ面白くない。 なんかこう、最後の方もどうオチをつけてよいのやら、といった感じで。 パロディだけでは、ちとキビしい。 [インターネット(字幕)] 5点(2021-04-27 22:35:21)(良:1票) |
12. アイガー北壁
危険な山岳地帯でロケしてます、ってのはよくわかるんですけれども、それにしては、その危険さをしっかり画面で見せつけてくれないのが残念。もしかして、編集の際に、ワンショットは何秒まで、とかいうルールでも設けてたんですかね。じっくり見たいショットもそうでないショットも、やたらと切り替わってしまって。高所を捉えた迫力あるシーンがある一方で、人物なり事物なりのクローズアップもあり、それ自体はいいんですけど、本作は後者がちょっと多すぎるようにも思えます。「いかにも危険そうなシーン」は、じっくり見せてくれさえすればコチラで勝手にハラハラしようものを、すぐにショットを切り替えてしまう。残念ながら、周囲の光景がアングルに収められていないアップのシーンが多いと(それはつまり、周囲が映るとマズい場所で撮ってるんでしょ、という勘繰りにも繋がりかねない)、いまひとつ危険さや過酷さが伝わってこないもんです。 もちろんあの、凍傷の痛々しさ、というのは、これはクローズアップならではの表現であり、アップが不要というつもりはないのですが、そこでまさかのジャンプカット演出。いやいやいや。ここは「もたつくこと」の表現、その持続した時間こそが、サスペンスになるべきなのでは。 登攀シーンですら、このように細切れなもんで、屋内の会話シーンなんて、カメラがどこを見て何を撮りたいのか、何だかよくわからない。 音楽も、不必要に大仰で、まるで映像に合っていない部分が多々。一方で、登攀シーンでは映像に合わせようというのか、音楽にハーケンの音が取り入れられているのですが、音楽のつもりなのか効果音のつもりなのか、見てて戸惑ってしまい、逆効果。気を削いでしまいます。 いろいろと、もったいない部分の多い映画でした。 [CS・衛星(吹替)] 5点(2021-01-04 06:33:31) |
13. ファイト・クラブ
これ、初めて見た時は、何て気持ちの悪い映画なんだ、と思いました。この作品の、メタ性、みたいな部分が、どうも引っかかって仕方がなかったんですね。多分、当時、気持ち悪いと感じた一番の理由は、エドワード・ノートンが映写技師としてのブラッド・ピットについて語る場面、にあったように思います。ここでノートンは明らかにカメラに向かって、つまり我々に向かって語っていて、しかも映画の画面右上の「チェンジマーク」の説明まで始めてしまう。一種の自己言及であり、メタ構造を垣間見せることで、映画の中と我々との境界が曖昧になる。このシーンがあった上での、終盤にあの「真相」が示されてみると、何だか途轍もなく気持ちが悪い。 思えばポストモダンの時代とはすなわち、呪われた自己言及の時代であった、なんてテキトーな事を言うと怒られそうですが、19世紀、科学の「絶対性」はあと一歩で人類の手中に収まる、なんて思ってたら、20世紀に入ると、相対性理論やら量子力学やら不完全定理やらが「絶対性」を悉く奪い去ってしまって。代わりに相対的な視点を手に入れたはいいけど、その後には、無限に続く自己言及、自己懐疑が残されてしまった。自分を批判的に見る自分を、さらに意識する自分、いや、そんな事気にしてたらキリがないよね、とそれを割り切っている自分を、さらに意識せざるを得ない自分。 広義に見れば、映画におけるパロディというものも、映画の自己言及の一つ、と思えば、そんな事は昔からやってたんだろうけれど、ホラー映画の世界では『スクリーム』がメタ性を意識的に取り上げたりしてて、本作もそういう流れの上にあるのかも知れませんが、『スクリーム』がそれを娯楽性のためのギミックに留めていたのに対し、本作の場合は「ついに一線を越えちゃったな」みたいなところがあって。無目的な(あるいはそれ自体が目的の)殴り合いや、テロ行為といった、テーマ自体の破壊性とも相俟って、気持ち悪いとすら感じるほどの野心作となっております。 もっとも、かつて本作を観てから、その後さまざまな反則スレスレの映画を目にしてきて、今回また改めて本作を観ると、そこまでの気持ち悪さは感じない、というか、どこか「世紀末の懐かしさ」、みたいなものすらも感じてしまいます。ま、そもそも、真相を知らずに観るのと、知った上で観るのとでは、明らかに異なる世界が広がるのですが。 そうは言っても、この生々しい暴力がもたらす強烈な印象は、今もって新鮮で、むしろ、生の充足すらも記号化されつつあるデジタル社会にこそ、この作品は牙を剥く、そんな一面も確かに持ち合わせた映画だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-12-06 16:38:31)(良:1票) |
14. ディレイルド/暴走超特急
ヒドいヒドいとは聞いていましたが、しかしもうこれ以上、模型だからといってイジメてはいけないそうなので↓(笑)、とりあえずホメておくことにすると、最初っっっっから最後まで、ひたすらアタマ悪そうだったヴァンダムが、最後の最後に矛盾点を指摘して真相を喝破してみせる、これがスバラシイ。観てる我々だって、この時点では辻褄だの何だのはもう、どうでもよくなってる訳で、それをヴァンダムに指摘される、ってのがとても新鮮でした、ハイ。 出発前のブラチスラバの駅のシーン、ちゃんと駅らしい雰囲気が出ていて、良。ここだけは、K・ブラナーの『オリエント急行~』に勝ってると思いますよ。ここだけですけど。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2020-11-29 12:44:51) |
15. ザ・バンク -堕ちた巨像-
《ネタバレ》 主人公が戦う相手であるところの悪の組織が「銀行」、ってのが、なかなか不思議な設定でピンと来ない部分もあるのですが、実在した銀行をモデルにしてるもんだから(これをちょっとモジっただけの劇中の銀行名からも明らか)、仕方ないっちゃあ仕方ない。というより、そういう社会派っぽい複雑な背景を匂わせることで、複雑な事件の解明よりも、「何が起きるかわからない」という雰囲気作りに軸足が置かれており、これがサスペンスとアクションにうまく繋げられています。国際犯罪らしく、舞台が世界各地を転々とするのも見どころ。 冒頭の車内でのミラーを介したやりとりによる不穏な空気、事件の証人の突然の死。これまた突然ナオミ・ワッツに襲いかかる犯人のクルマ。中盤の暗殺シーンなど、狙撃の描写自体の緊迫感だけにとどまらず、事件を二段構えの構造で描くことで、事件の謎の深さ、悪の根深さ、みたいなものも感じさせます。 そして何と言ってもあの、美術館における壮絶極まりない銃撃戦。それまでの静かな緊張感との対比、まさに空気が一変、いや、激変。その修羅場の中でも、映像アートが淡々と流れていて、対比を際立たせます。 正直、社会派作品に対する期待をもって本作を観てしまうと、あまりしっかり整理されておらずに肩透かしの印象を持つことになるかも知れないですが、むしろ、社会派の枠組みだけを利用して、巨悪の持つ不気味さを描いている点、「上手い」と言ってよいのではないでしょうか。 エレベータ内のシーンでは、カメラが主人公たちを正面から捉えたその奥には鏡があって、背中から鏡に映った彼らの前には(そこにあるはずの)カメラではなく、「エレベータの閉まったドア」が確かに存在している。こういうのも、なかなか心憎いです。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-11-21 17:48:52) |
16. ワイルド・スピード
《ネタバレ》 このシリーズも第1作からはかけ離れた世界観に突入していて、思えば遠くへきたもんだ、と、ため息のひとつも出るのですが、久しぶりに第1作に戻って復習しておこうかと。 で、今更気づいたんですが、てっきりこのシリーズのタイトルは「Fast & Furious」だと思いこんでいたところ、第1作の冒頭を見ると、FastにもFuriousにも、それぞれ「The」が付いているではないですか。今まで、「Fast≒Furious」みたいなニュアンスのように捉えていたけど、実は「Fast⇔Furious」と捉えるべきだったのか? とか言っても、そのことと映画の内容との関連は、サッパリわからんので(汗)、何でもいいんですけどね。 この第1作目、クルマ愛が全編に漲りまくっていて、正直、クルマに疎い私にはついていけない世界なんですが、映画を楽しめるか否かとは関係なし。曲芸のようなカーアクションの羅列に走っている最近のシリーズ作(もちろん嫌いでは無い)とは違って、ガチンコ感のあるカーアクションが楽しめます。 何より、第1作ということもあって、ポール・ウォーカーとヴィン・ディーゼルとの出会いが描かれており、このシリーズにはめずらしく、ちゃんとストーリーがある(笑)。潜入捜査モノでありながら、そこにまつわるドキドキ感があまり感じられないのは惜しいところですが、それはあくまで、物語がふたりの関係性に焦点をあてているから。もちろん、「潜入捜査&カーアクション」という路線は、『フェラーリの鷹』を思い出させてそれだけでもうれしくなってくるのですが、ああいうムダなクラッシュを連発する映画とは路線を変えたことが、長く続くシリーズとなった秘訣でしょうか(いや、『フェラーリの鷹』は殿堂入り、別格の作品ですけどね)。 踏切を飛び越えるシーン、続いてヴィン・ディーゼルのクルマが宙を舞うシーンは、第1作にして、シリーズ中屈指のシーンだと思います。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-08-15 14:23:04) |
17. スクール・オブ・ロック
罪のない映画。いや、罪深く無いことは無いような気もするけど。まあ、硬いコトは抜きにして。 と言いたいところだけど、やっぱり、なあ。 主人公が身分を偽って、教師として名門小学校に潜りこみ、子供たちとロックバンドを組んで活き活きとしたクラスにしちゃう、というんですけれども。 子供たちに対しては「キミは才能がある!」の一点張り。実際、たまたま才能のある子供たちが多かったみたいなので運が良かったけど、もうちょっと子供たちの表情なり成長する姿なりをしっかり描いてもよかったのでは。なのに、何かというと、ジャック・ブラックの「顔芸」に頼ってしまう、安易な構成。まあ、彼が芸達者なことは、大変よくわかりましたけれども。 音楽の才能のある子はいいけど、才能の無い子はというと、今度は「裏方として才能がある」とか言っておだてて、その気にさせてしまう。 経営学を名乗るインチキ指南書とかに、こういうのが「指導者としての良い例」などと掲載されていそうな気がしてくる。そのくらい、インチキくさくって、感動にも笑いにも教訓にも繋がりません。登場人物全員がナットクしてハッピーエンド、なんだけど、わたしゃあんまりナットクいきませぬ。 もともとインチキな主人公に、インチキでもってドラマを引っ張らせ続け、最後までインチキなまま走らせてしまった印象。「真実がインチキを追い越す瞬間」というものを、本当は見たかったのだけど。 [CS・衛星(吹替)] 5点(2020-08-13 14:07:34)(良:1票) |
18. K-19
エンドロールのクレジットを眺めてると、音楽を演奏してるのが、キーロフ管弦楽団及び合唱団、指揮ヴァレリー・ゲルギエフ、なんて書いてあってビックリ。音楽にも「ロシアの響きが欲しい」ってコトなんですかね。なんという贅沢。ま、正直、聞いててもまーったく気づきませんけれども。このオケは今では“マリインスキー劇場管弦楽団”という名前のハズなんですが、わざとソ連時代の名前でクレジットした、ということなのかどうなのか。 キャスリン・ビグローはこの後、めっきり「リアリティ最優先主義」みたいになっちゃって、面白味に欠けてくるのですけれども、本作はまだ、実際の事件に取材しつつもしっかりとエンターテインメント作品になってます。すでに少し「実話」に引きずられてる中途半端な印象も無くは無いですが、そもそもおよそ軍人らしからぬハリソン・フォードを艦長役に据えている時点で、リアルさとは相容れないものがあり、ハリソン・フォード自身は抑えた演技でリアリティに貢献しているつもりかもしれないけれど、やっぱり節々にチャラい身振りが出てしまう、そういったあたりの微妙なバランスは、作品の魅力にもなってます。 米大統領役も演じたことのあるスターの彼が、ソ連原潜の艦長役。まあ、「ソ連のことを悪く描くつもりはないんです」という作品の姿勢の表れ、なんでしょうか。 潜水艦内という閉鎖空間での原子炉事故、というサスペンスに加え、人間同士の対立などもあって、作品には緊迫感が溢れていますが、一方で中盤の、乗組員たちが氷上でサッカーに興じる光景などには、心和むものがあり、印象に残ります。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-07-15 21:15:47) |
19. ワイルド・バレット
《ネタバレ》 父親に虐待されてる隣のロシア人の息子が、主人公宅からピストルを持ち出して、父を撃ってしまう。そのピストルってのは、警官殺しに使用されたという、かなりヤバい奴。という訳で、ピストルを持って家を飛び出した少年と、その行方を追う主人公。さらには肝心のピストルも少年の手を離れてしまい、三者三様に動き始める。 ってんだからコレ、かなりオモシロい作品、のはずなんですけどね。書いてるだけでもワクワクしてきます。邦題の「ポール・ウォーカー主演だから『ワイルド何とか』でいいだろ」という安直さが、さらにワクワクさせます。さらには、悪徳刑事の暗躍、アヤシゲな夫婦の登場、主人公の妻の活躍と、盛り上げる要素には事欠きません。 という訳で、オモシロい作品になるはずのせっかくの「いいネタ」をこれだけ揃えたのに、だったらもうちょっとウマい見せ方あるんじゃないの、と、ちょっと勿体ない。 画面を何となく暗くして何となく揺らしてやれば、何となくダークな雰囲気になるだろう、といった感じの、もうひとつ見栄えのしない映像が続き、サスペンスフルなはずのシチュエーションでもあまりドキドキさせるものが感じられません。コワいシーンのはずなのにコワくない。物語も、さまざまな登場人物を配置してやや複雑化しているのを、うまく捌ききれず、何だか繋がりが悪い印象。終盤には「意外な真相」を3連発くらいカマしてくれるけれど、もともとゴチャゴチャしているので、せっかくの意外性も「え? あっそう」止まり。 と、いろいろ文句を言いたくなるのも、基本的には本作に魅力を感じるからで、「オモシロい作品を作ってやろう」という意気込みは、これは確かなもの。無表情だった少年が最後に感情を露わにするのも、定番の演出ではあるけれど、しっかりツボを押さえてます。 [CS・衛星(吹替)] 7点(2020-05-02 10:40:15) |
20. アトミック・ブロンド
冒頭、傷だらけのシャーリーズ・セロンが素っ裸になってたり、さらには氷の風呂に入ったり、という堂々ぶり。この時点で、何があったのか知らんけどとにかくこのヒト、無敵だな、という印象を与えてくれるのですが、いやはや、実際、無敵です。 彼女が事情聴取を受けている「今」と、そこに至るまでの経緯が描かれる「過去」との間で時間を行き来する、回想譚のような構成になっており(一方でこれは、ある仕掛けにもなっているのですが)、つまりは「過去」の話が次第に「今」、つまり一種のタイムリミットへと近づいていく構成でもあります。 傷だらけになった経緯、とは言っても、全編を通じて格闘また格闘、狭い車内でのシバキ合いとか、あるいは同性愛シーンも広い意味での「格闘」と捉えれば、ひたすら体を張りまくり。そりゃいずれは傷だらけになろうってもんです。 しかし決め手は、階段その他でこれでもかこれでもかと繰り広げられる、ワンカット撮影の一大格闘。「ワンカットって言っても、実際はさっき一瞬、切ってたんじゃないの~」とか、一生懸命、つなぎ目を探してしまうのが悪い癖ですが、少なくとも何ら違和感を感じさせず、見てる側が心配になるくらいのエンドレスの戦いになってます。階段から転落したけど大丈夫なの、とか、アドリブじゃなくってホントに事前に決められた通りに動いているの、とか、しまいにカメラマンも足を踏み外して階段から転げ落ちるんじゃないの、とか。 この長回しに至って、「過去」と「今」との間を詰めるように進んできた時間軸が、突然、別の方向に流れ始めたような不思議な印象をもたらします。戦いの場所がどんどん移動していく空間的な広がりとともに、時間も別方向に広がり始めたかのような。こうなるともう、カットって、どこでカットすりゃいいもんなんでしょうね。 あと、本作で、雨も降ってないのに人々が一斉に傘を開く場面があって、印象的ですが、これと呼応するかのように、土砂ぶりの中で傘をささずに立っているシーンもあったりして、なかなかキマってます。 とにかく、シャーリーズ・セロンのカッコよさが際立っている作品です。男どものダメさ加減が際立ってる、とも言えるのかも知れませんが [CS・衛星(吹替)] 7点(2020-04-26 12:25:00)(良:1票) |