141. スモーク(1995)
《ネタバレ》 最初に見たときは、やたら緩いテンポとシークエンスごとの一様な長さに面食らったのですが、実はその緩さこそがこの作品のミソだったのですね。忙しいばかりのようなNYの一角にもこのような空間が確保されているという描写が新鮮です。ハーヴェイ・カイテルとウィリアム・ハートも、この作品世界にぴたり合っています。●再見して気づいた点。カメラがほとんど動かない。それはそのまま、都会の片隅で街角の人々を見続けてきた主人公の視点そのものでもある。親子対面の哀しくも妙に可笑しい一幕の後、全員で当たり前のようにしれっとピクニックに行っているのが、さらに可笑しい。全体のトーンとして、「わびさび」という言葉がこれほど似合う映画も珍しいと思う。 [映画館(字幕)] 7点(2005-12-31 14:01:30) |
142. 薄化粧
《ネタバレ》 本来、もっと重厚で壮大なドラマを構築できたと思うのですが、時系列を変に操作しているのと、逃亡後よりも逃亡前の方に描写の多くが割かれているのとで、今ひとつ時間的な拡がりが伝わってきません。また、刑事側の追跡過程があまり描写されていないので、いざラストを迎えたときも、やっとゴールに達したというような達成感のようなものが湧いてきません。作品の軸を主人公の女性遍歴に置いてしまったのが、少しずれていたのではないかな。それでも、主人公の行動なり思考が与えるインパクトと緒形拳の気合の演技により、作品としての力はあるので、この点数。 [DVD(邦画)] 7点(2005-12-30 01:45:51) |
143. 激しい季節(1998)
《ネタバレ》 交通事故の被害者が加害者の女性に惚れちゃったら、その女性には夫がいて、しかもその夫は・・・というお話。筋立てだけを見ればどうということはないのだが、手際の良い編集と節度を保った演技により、しっかりと引き込む内容になっている。登場人物はひねった行動も外した行動もとらず、むしろみんなが愚直なほど一直線。この誠実なつくりには好感が持てます。カメラがさりげなく頑張っているのも好印象(女性宅初訪問時の移動長回しとか、刑務所面会室での表情同時映しとか)。また、最近では珍しくなったかもしれない、優しさと喜びが溢れるベッドシーンもポイントが高い。 [DVD(邦画)] 7点(2005-12-27 03:27:52) |
144. 海に降る雪
和由布子は当時かなり好きだったんです。ある日突然、電光石火のごとく五木ひろしとの結婚を発表して、そのまま一気に引退したのはショックだったなあ・・・。さて、そんな彼女の数少ない(唯一の?)主演映画作品が本作です。ほとんどのシーンで由布子様が出っぱなしなのは実に嬉しい。貴重な和風美人でしたね。ただし、演技は大して上手くないことも今になって知ってしまいましたが(笑)。ストーリーはよくある展開そのものなのですが、変にひねったりせずに淡々と正面からのアプローチを行っているのがいいです。 [ビデオ(邦画)] 7点(2005-11-18 01:55:27) |
145. いま、会いにゆきます
《ネタバレ》 最初に見たときは、時系列上のおかしな点とか当事者の認識面での矛盾とかがどうしても気になっていたのですが、タネを知った上で改めて見た方が楽しめますね。一番素晴らしいのは、最初に夫側の一途で純粋な愛を十分に描いておいて、後で今度は妻側からの無償の一直線の愛でたたみかけてくる点です。夫婦間での純然たる愛をここまで賛美した映画って、外国ものを含めてもそうはないのではないでしょうか。タイタニックと同じで、泣く映画では決してなく、前向きな愛に対する力強い感動を与えてくれる作品なのです。雨、土、草、空などの質感を適切に捉えた映像感覚と、清楚感を漂わせた色彩感覚も良かったです。 [DVD(邦画)] 7点(2005-10-30 21:15:57) |
146. 砂の器
《ネタバレ》 中盤過ぎまで、地道な捜査の過程をじっくりと描いておいて、丹波哲郎の「あの一言」を皮切りに、作品の雰囲気が一気に変貌し、ほとんど「もう一つのドラマ」ともいうべき事件の背景が、それ自体交響曲のような怒濤の盛り上がりをもって再現される。よく見ると、丹波哲郎は(というより橋本忍は)、すべての捜査の結果を観客に開示していると見せかけておいて、途中からはある重要な事実を秘匿し、合同会議の席上で一気にそれを明かしているのである。脚本上の叙述トリックともいうべき、見事な構成であるといわざるをえない。普通に推理ものの作品として考えると、捜査の過程が都合よすぎとか、説明台詞が多いとか、犯人の「現在の顔」がよく見えないとかいろんな批判は考えられるが、そんなものを吹き飛ばすほどの映画としてのパワーがある。 [映画館(邦画)] 7点(2005-06-26 22:52:13)(良:1票) |
147. 震える舌
《ネタバレ》 全体を通じてなかなか力が入っており、特に子役の少女の気合の入り方は驚嘆すべきであるが、結局、中身としては発作→救命措置が繰り返されるだけであって、単調な感は否めない。主演が渡瀬恒彦というのも、どこか常人離れした雰囲気が漂っていて、「どこにでもいるお父さん」の雰囲気が削がれている(こういう役は、勝野洋とか本田博太郎で見てみたかった)。中野良子が女医役にあまり合っていなかったのも意外。などと言いつつも、光の刺激を避けるために病室内は常時真っ暗という前提条件をフルに生かした作品世界の統一性(逆に、数少ない外のシーンが何とも眩しい)は強烈だったのでこの点数。 [DVD(邦画)] 7点(2005-06-16 02:51:07) |
148. Shall we ダンス?(1995)
《ネタバレ》 社交ダンスという目新しい素材を選んでいながら、実はそれは手段にすぎず、それを用いて、一般サラリーマンの日常からの脱出と再びの日常への帰還というテーマを一連の流れできちんと表現しているのが良い。だから、ダンスのシーンよりも、私が好きなのは、最初にスクールに入ろうとするときの逡巡のシーンであり、大会の後に再び家に戻ったシーンなのである。俳優陣では、竹中直人と渡辺えり子は少々やりすぎ、逆に原日出子は素晴らしかったと思う(彼女の的確な演技により、主人公がスクールに行くことの意味と位置づけが浮き彫りになっている)。草刈民代の棒読み台詞はかなり周囲に負担をかけていますが、この際目をつぶります。 [DVD(邦画)] 7点(2005-05-07 00:15:49)(良:1票) |
149. 緋牡丹博徒 花札勝負
《ネタバレ》 最初の20分くらいで、詰め込まれる情報量の多さに唖然。しかしそのすべてを取り落とすことなく全部抱え込んだ上で最後まで突っ走る熱さ。今回はタイトルどおりに花札シーン見せまくりなのですが、その撮り方も美しい。●おたかさんと富士松は、短い出番でもつい微笑みが出てしまいます。いつもずっこけてばかりの熊虎親分も、今回は格好良い見せ場あり!●中盤、日本映画には珍しい「馬車と馬のチェイシング」まで(ストーリー上はなくてもすむのに)わざわざねじ込んでくるサービス精神には、何をかいわんや。●ちょっと残念だったのは、最後の殴り込みが洋風建物だったこと。やはりこういうシーンは和様式でないとね。それと、お竜はともかく、今回は富士松には(そして健さんにも)対金原の直接的な報復動機はないので、何か討ち入りの迫力が弱まっている気が。西之丸の誰かにもうちょっとスポットを当てて、その人を連れて行く、とかではだめだったのかな。 [DVD(邦画)] 7点(2005-02-20 02:24:44) |
150. 吉原炎上
ところどころ説明台詞やコントのような芝居があるのは目につくが、作品の全体的な迫力はなかなか。特に、藤真利子と西川峰子のキャラクターは、今思い出してもぞっとするくらい強烈だった。残念なのは、締めとなるべきポジションの遊郭の女主人役に、佐々木すみ江を当ててしまったこと。ここにはやはり、淡島千景か山岡久乃クラスを持ってくるべきだったと思うが。美術関係や当時の風習の再現にもきちんとこだわってみせたスタッフの熱意にも拍手。 [DVD(邦画)] 7点(2005-02-16 02:09:27) |
151. ロスト・イン・トランスレーション
まったくどうってことのない話なのですが、電車や車の通過音、ゲーセンやカラオケやパチンコの騒音などが煽り立てる不安感、それと対比される室内の静寂がもたらす孤独感、そして見事なまでの意思疎通を欠いた人間関係がもたらす焦燥感の演出が面白い。それらによって微妙に影響される男女関係の変化も、どこか切なさと懐かしさを感じさせる。日本人出演者の撮影現地調達レベルの棒読み台詞には目をつぶって・・・。 [映画館(字幕)] 7点(2004-11-16 23:07:15) |
152. 緋牡丹博徒
《ネタバレ》 導入部で、賭場の緊張感の中であっという間に話を展開していく手際の良さ。その後も、単に主人公が啖呵を切って活躍して終わり、ではない、なかなか考えたストーリーを提示してくれます。そしてその中で、フグ新とか富士松とか、多くの映画だったら鉄砲玉として速攻でいなくなりそうなキャラクターにスポットを当てているのが良い。また、短時間とはいえ盃固めとか襲名などの儀式関係もきちんと描写しているのも好印象です(欲を言えば、熊虎と岩津の「手打ちの儀式」も見たかった気がするけど、それをするとバランスが崩れるかな)。難点は、藤純子の九州弁が下手なこと(というか、脚本がそもそも熊本弁になっていない)。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2004-06-20 01:31:37) |
153. クライング・ゲーム
《ネタバレ》 1回目に見たときは何が言いたいのかよく分からないままに終わってしまったが、筋と流れを知った上で見た方が楽しめる。前半の政治系・犯罪系に特有の緊張感(背景の説明がほとんどないのも良い)が、そのまま自然に後半のラブストーリーのサスペンス性につながっていくのが面白い。贅肉をそぎ落とした会話も、よく見るとかなり練られている。●再見して、後半のどのシーンでも、ディルをいかに美しく撮るかという点に周到に配慮されていることに気づいた。さすがニール・ジョーダン。 [映画館(字幕)] 7点(2004-01-18 02:31:55) |
154. アポロ13
それほど古くない時期の実話であり、記録の類も大量に残っているんだろうから、性質上、作り手としての創作の余地が少なく、むしろ映画の素材としては難しい対象となるはずなのだが、そんな制約された条件の中でも工夫してスリリングさを維持していると思う。それにしても、本来はトム・ハンクスと並んで当初からレギュラーメンバーという栄光のポジションだったにも関わらず、代役で出てきたケビン・ベーコンはもちろん、地上組のシニーズやエド・ハリスにも見せ場を全部持っていかれ、作中で何をしていたかまったく記憶に残っていないビル・パクストン・・・私はあなたが大好きだ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2003-05-25 00:03:25)(笑:1票) |
155. 今夜、ロマンス劇場で
《ネタバレ》 導入部からラストシーンまで、いくつもの先例有名作を分かりやすく下敷にしているのは、まあ意図的でしょうね。それだけだったらただの自己満足なのですが、この作品が途中から突き抜けて優れているのは、ヒロインはどこかで元の世界に帰るぞ帰るぞと見せかけておいて、クライマックスでここぞというミスリードまで用意していながら、その先の数十年間を用意していることです。それも具体的な描写はそれほどないのに、十分に主人公の決断と苦難(そしてそれを超えるほどの意味合い)を物語らせています。この一点において、強度な筋と芯が確保されています。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-05-15 00:08:29) |
156. 雁(1953)
《ネタバレ》 ある娘が、金貸しの妾になりました、というそれだけの設定。突飛な大事件が起こるわけでもないし、世界は自宅周辺と実家と店いくつか、というくらいの狭さ。その中にどこまでも、陽炎のように情念がゆらめいています。蛇と小鳥のくだりはもはや隠喩ではないくらいのストレートな描写になっていて、そこで主人公は、自分が籠の鳥であることを実感し、蛇(金貸し)を排除してくれる救世主の到来を期待するわけです。一方で浦辺粂子さんの、ただ路上に立っているだけで吹き荒れる怖さも忘れてはいけません。●そうした中で展開される傘返しからの一連のシーン、主人公は色気作戦で窮地を脱するという初めての戦法を編み出すも、金貸しは、「これをお父さんに」の一言でそれを容赦なく吹き飛ばす。「お前も父親も、結局はこれがないとどうしようもないんだろ」というスーパー俗物根性が勝利してしまうわけです。そのぶつかり合いの中に、さらにデコちゃんの両肩出し&胸の谷間(!!!!)をぶち込んでくる(しかも結構長い)という、まさに驚愕の演出。●ただ、着地部分はややゴタゴタしていて、夕食を準備した後はすれ違い(会わない)が一番良かったと思いますし、対面しても男が立ち去ったところで終わらせるべきでしたし、百歩譲って本返却のところで終わらせるべきでした。終幕付近の主人公と金貸しのやりとりは、単なる衝突か説明になっていて、それまでの面白みがありません。結局主人公は男とは何も起こらず(起こすことができず)、そして元通りになった主人公を金貸しが当然のように受け入れる(そうなるのは分かっていたから)、とかだったら良かったのになあ。 [映画館(邦画)] 6点(2024-04-17 22:44:47)(良:1票) |
157. 華岡青洲の妻
《ネタバレ》 秀子ちゃん姑と文ちゃん嫁(実は役者は9歳しか違わない)は、ギャーギャー対立するわけではなく、微妙な距離感を保ちながら、反発したり、時にはひっそり共感したりする。こういうところは、今日の映画制作でも見習ってほしいところです。そして雷蔵の青洲は、妻と母から「是非私で実験を!」と迫られると、断固拒否するかと思いきや、あるは深く思い悩むかと思いきや、ちょっとくらい駄目とは言うものの、割とあっさり了解している(この押し引きの呼吸が絶妙)。こういうところは、今日の映画制作でも見習ってほしいところです。安直な演出だったら、ここぞとばかりに言い合いが展開したり、青洲の種々のアクションを入れてみたりするはず。そうじゃないからいいのです。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-04-16 01:21:29) |
158. 美しい星
《ネタバレ》 日常生活の中にじわじわと異変が浸食してきて、「これって本当?それともただの妄想?」と考えさせる作りは、「K」のアレを想起させる。また、生番組で暴走する主人公(そしてそれがウケてしまう)はもろにアレだし、病院を車で抜け出して夜の道を無言で疾走する終盤のくだりは、もしかしてアレかな?ということも考えてしまう。と、先行作品の影響はあちこちで感じさせるのですが、上手く消化して一本の筋にまとめ上げられているので、気にはなりません。で、ほのかな不穏さの中で進んでいく雰囲気は良いのですが、結局あれこれちりばめたネタは、大半が投げっぱなしで終わってしまったような・・・。あのボタンは結局どうなったのとか、橋本愛の美しさ云々のテーマはどこ行ったのとか、水商法のエピソードは結局それだけでおしまいなのかとか。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-03-29 00:21:42) |
159. 次郎物語(1987)
《ネタバレ》 文部省選定、原作は古典文学、キャストはいかにもないい人たちばかり・・・と、類型的な優等生作品を想起させるのですが、それにとどまってはいませんでした。まず、子役にしっかり演技がつけられている(特にバタバタした動きの生々しさ)ところで、演出側の気合を感じさせます。随所に挿入される一面の田園風景や、屋内シーンの適度な暗さも上々です。その中で、主人公次郎が地道に成長していく過程も、堅実に表現されています。●とはいえ、やっぱり一定枠は脱しきれていないのですけどね。主人公一家が経済的に破綻していくくだりなど、競りの場面だけではなくて、もっと日常レベルで切り取ってほしいところでした。あと、せっかく高橋惠子さんを起用していて、しかも出番もそこそこ多いのに、母親としてのさしたる見せ場がなかったのも残念。その割に、終幕の病状場面の描写はやたら長いです。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-02-20 21:40:52) |
160. ドッペルゲンガー
《ネタバレ》 ドッペル関係では、日常生活の中にふらっと現れてくる怖さなんかは、しっかり焦点が定まっていたと思うのですよ。ドッペル役所の出番がもう少し少なかった方が、かえってもっと怖かったんじゃないか、とかは別として。また、各シーンをだらだら引っ張らない「整理の力」も、十分発揮されていたと思います。●しかし、最後の15分はなぜか全然別の作品になってしまいました。もしかすると、永作とかユースケもドッペルだったという可能性の示唆かな?とは思いましたが、それにしてはそれまでのネタの仕込みが不十分でした(永作はどのシーンも「その場にいるだけ」で、珍しくあまり活用されていませんでした。大体、もっともらしい最初の弟がどうのという部分も、結局後につながっていないのでは?)。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-02-02 01:42:09)(良:1票) |