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自己紹介 映画を観る楽しみ方の一つとして、主演のスター俳優・演技派俳優、渋い脇役俳優などに注目して、胸をワクワクさせながら観るという事があります。このレビューでは、極力、その出演俳優に着目して、映画への限りなき愛も含めてコメントしていきたいと思っています。

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1.  アバウト・ア・ボーイ 《ネタバレ》 
人と人が接する時に感じる、内心の不安や自分の弱い部分を見透かされないだろうかという不安を、等身大の人間の姿で描いた、ライト・コメディの傑作「アバウト・ア・ボーイ」  この映画「アバウト・ア・ボーイ」の主人公の38歳の独身男ウィル(ヒュー・グラント)は、亡くなった父親が一発ヒットさせたクリスマス・ソングの印税で、優雅に暮らすリッチな身分。  一度も働いた事がなく、TVのクイズ番組とネット・サーフインで暇をつぶし、適当に付き合える相手と恋愛を楽しむ、悠々自適の日々を送っています。  ところが、情緒不安定な母親と暮らすマーカス少年(ニコラス・ホルト)との出会いが、彼の生活をかき乱していく----という、非常に興味深い設定でのドラマが展開していきます。  まさに、現代ならではのテーマをうまく消化して、ユーモラスで、なおかつ、ハートウォーミングにまとめ上げた脚本が、本当にうまいなと唸らされます。  30代後半の独身男の本音と12歳の少年の本音を、それぞれ一人称で描きながら、それを巧みに交錯させていくという構成になっています。  それが、二人の男性、ウィルとマーカスがいかにして心を通わせていくのかが、このドラマに説得力を持たせる上で重要になってくるのです。 そして、これが実にうまくいっているから感心してしまいます。  表面を取り繕う事に長けたウィルは、今時の小学生が歓迎すると思われる、クールなスタイルを本能的に知っています。  マーカスはそんなウィルを慕っていきますが、それだけではなく、ウィルの人間的に未熟な部分が、結果として二人の年齢差を埋める事に繋がり、マーカスはウィルを自分の友達の延長戦上の存在として見る事が出来るようになるのです。  マーカスは彼の持つ性格的な強引さの甲斐もあって、ウィルという良き兄貴を得る事が出来、一方のウィルは、自分だけの時間にズケズケと土足で踏み込んで来たマーカスを、最初こそ煙たがっていましたが、彼と深く接していく中で、次第に"自分の人生に欠けていたもの"に気付かされていくのです。  この映画は、そんな二人の交流の進展に歩を合わせるように、"人間同士の絆や家族"といったテーマを浮き彫りにしていくのです。  日本でも最近は、"シングルライフ"というものが、新しいライフスタイルでもあるかのように市民権を得つつありますが、確かに、お金さえ払えば、ありとあらゆる娯楽やサービスが手に入る時代になって来ました。 個人が個人だけで、あたかも生きていけるというような錯覚に陥ってしまいがちな現代------。  もっとも、この映画は、そんな現代人に偉そうにお説教を垂れているのではなく、むしろ、大半の人間はそんな現代というものに、"不安と寂しさ"を感じ始めているのではないかと問いかけているのです。  だからこそ、この映画は多くの人々が共感を覚え、ヒットしたのだと思います。  そこにきて、ウィルを飄々と自然体で演じたヒュー・グラントという俳優の存在です。 ウィルは、ある意味、"究極の軽薄な人間"として描かれていて、本来ならば、決して共感したくないようなキャラクターのはずなのですが、ヒュー・グラントが演じると、何の嫌悪感もなく観る事が出来るので、本当に不思議な気がします。  ヒュー・グラントは、このような毒気のあるライト・コメディを演じさせれば、本当に天下一品で、彼の右に出る者などいません。 余りにも自然で、演技をしているというのを忘れさせてしまう程の素晴らしさです。  そして、困った時に見せる微妙にゆがんだ何ともいえない表情といったら、他に比べる俳優がいないくらいに、まさしくヒュー・グラントの独壇場で、もう最高としか言いようがありません。  かつての"洗練された都会的なコメディ"の帝王と言われた、ケーリー・グラントの再来だと、ヒュー・グラントが騒がれた理由が良くわかります。  この映画は、そんなヒュー・グラントの持ち味を最大限に活かして、誰もが表だっては認めたくないような人間らしさに踏み込んでみせるのです。  そして、人と人が接する時に感じる、内心の不安や自分の弱い部分を見透かされないだろうかという不安を、等身大の人間の姿を通して映し出す事に成功しているのだと思います。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2021-06-04 10:52:55)
2.  アグネス 《ネタバレ》 
ある冬の夜、カナダのモントリオール郊外の修道院の一室で、鋭い悲鳴が上がり、血まみれの若い尼僧アグネスが、嬰児の絞殺死体と共に倒れていた。  妊娠も出産も、全く身に覚えがないと言い張る、アグネスの側に立つ修道院長と、この事件の調査のため派遣されて来た精神科の女医との間で、現代の処女懐胎をめぐって、深刻な対立が始まった-----。  ブロードウェイのヒット戯曲を、舞台劇と同じくジョン・パウエルマイヤー自身がシナリオ化したにもかかわらず、舞台上の椅子と脚付きの灰皿以外は、何もない簡素な装置とは真逆に、「夜の大捜査線」「アメリカ上陸作戦」「屋根の上のバイオリン弾き」などの名匠ノーマン・ジュイソン監督による映画化では、映画の持つ特性を生かして、名カメラマンのスヴェン・ニクヴィストによるカメラは、血生臭い嬰児殺しの起きた、修道院の外へも自在に出て行って、清純だが自閉的な信仰の世界と、人間臭い世俗的な世界との対比を試みていると思う。  その人格的な代表が、「奇跡の人」「卒業」の名女優アン・バンクロフトが扮する修道院長と、これまた「コールガール」「帰郷」の名女優ジェーン・フォンダが扮する精神科医の二人になるわけですが、むろん両者は二分法的対立を単純に繰り返すのではなく、処女懐胎を自己主張する若きメグ・ティリーをも含めて、それぞれが背負った"女の業"のままに、丁々発止とディスカッション・ドラマが展開していくのです。  神とか信仰心とかに縁のない人間にとっても、何かが垣間見える一瞬が訪れるのはそのせいだと思う。  演技的な面で言うと、この演技派女優の競演の中で、アン・バンクロフトは、眼鏡をかけた老修道院長を謹厳に演じているにもかかわらず、つい煙草に手が出てしまう世俗的な二重性も露わに、彼女の長い女優歴の中では、最高年齢の老け役に徹していたのが、特に印象に残りましたね。
[ビデオ(字幕)] 7点(2020-09-28 20:20:07)
3.  アウトランド 《ネタバレ》 
「アウトランド」の舞台は、未来の宇宙、木星の第3惑星イオですが、物語の設定はかの有名なフレッド・ジンネマン監督、ゲイリー・クーパー主演の西部劇の名作「真昼の決闘」と同じです。  また、イオの基地内のセットや小道具などの美術は、これもかの有名なリドリー・スコット監督のSF映画の傑作「エイリアン」にそっくりで、「真昼の決闘+エイリアン÷2」というようなイメージに仕上がっています。  西部劇もSF映画も大好きな私としては、ストーリーや美術云々で文句を言う前に、その映像の魔力にすっかり魅了されてしまいました。 主演も大好きなショーン・コネリーですし、これまた監督も大好きなピーター・ハイアムズですし。  イオのチタニウム鉱山街に、保安官として赴任して来たビル・オニール(ショーン・コネリー)は、赴任して2週間で、妻のキャロルに「もうこんな暮らしはイヤ。息子と地球で暮らしたい」と出て行かれてしまいます。  それでもオニールは、任務を全うしなければとイオに留まることになり、炭鉱夫の事故が続くのを不審に思い、遺骸から血液を採取して、医者に分析してもらいます。 分析結果は、限りなく怪しいもので、オニールは正義のために立ち上がることを決意するのですが------。  「エイリアン」と同じような、金儲け第一主義の会社というのが出てきます。目的のためには手段を選ばないという、非常に悪質な経営者です。 鉱山街の管理人であるシェパード(ピーター・ボイル)は、会社の忠実な部下で、なんでも言いなりであるうえ、オニールが邪魔になって、ある恐るべきことを会社に依頼するのです。  まあ、設定が「真昼の決闘」だということは、ネタバレしているのも同然なんですけどね。孤立無援になるところや、時計が頻繁に出てくるところは、本当に「真昼の決闘」そのままです。  オニールを助けてくれるのは、医者のラザルス先生だけです。かなり年配の女性医師で、口も悪いしそっけない態度なのですが、最後は命懸けでオニールを助けてくれるので、もう拍手喝采するしかありません。  「エイリアン」の真似だとは言え、お金をかけてしっかり作ってあるセットは素晴らしく、ラスト近くの山場でのアクションシーンもなかなかのものです。 「真昼の決闘」と「エイリアン」の好きな人にはお奨めのSFアクション映画ですね。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2020-07-19 10:26:06)
4.  雨の午後の降霊祭 《ネタバレ》 
英国映画「雨の午後の降霊祭」は、役者として「大脱走」、監督としても「ガンジー」や「遠すぎた橋」で有名なリチャード・アテンボローがプロデュースしつつ主演もしている映画です。  いかにも英国映画らしい、モノクロームでなくては作れないお芝居です。 テーマは誘拐。犯人夫婦の妻の方が霊媒で、僅かな信者を集めては降霊会を開きます。  リチャード・アッテンボロー扮する夫が、子供を誘拐し、妻が霊媒としてその家に乗り込んで、子供が自分の夢に現われたなどと話します。  身代金をうまく手にいれる場面の疾走感が、とてもいいんですね。 これで犯罪としては成功なのですが、結局は誘拐された子が殺され、やがて実に意外な方法で真実が暴露される。  ここでは、ミステリーという言葉も推理ではなく、神秘という本来の意味に取ったほうがいいのかもしれません。  抑制されたリアリズムで作ってゆくから、最後の超自然的な展開が冴えわたります。 英国以外の国では絶対に作られない種類の映画だと思いますね。
[DVD(字幕)] 7点(2019-12-17 09:24:03)
5.  アンタッチャブル 《ネタバレ》 
悪法で名高い「禁酒法」ですが、正しくは「酒類製造・販売・運搬等を禁止するという法律」という名称です。 つまり、お酒を造ること、売ること、運ぶことだけが禁止された法律であって、お酒を飲むこと自体は、禁止されていなかったということがわかります。  また、施行されるまでに1年の猶予があったため、人々はお酒の買いだめに走りました。 施行後、家でお酒が見つかっても「買いだめしておいた分です」と言えば、罪に問われなかったというのですから、ザル法もいいところです。 お酒の密輸入と密造で大儲けしたのは、ギャングたちだけだったのです。  この天下の悪法の施工時代に、世にもデカイ顏をしてシカゴの街でのさばっていたのが、暗黒街の帝王、アル・カポネです。 彼がネタになっているギャング映画は、それこそ星の数ほどあるのではないかと思われるくらい、凄い人気です。  このパラマウント映画創立75周年記念映画として製作された、ハリウッド大作「アンタッチャブル」では、ロバート・デ・ニーロがアル・カポネを演じています。 役作りのために、逆ダイエットをして太ったというエピソードはあまりにも有名です。 そして、首を傾けてしゃべる、独特の姿も強烈なインパクトがあります。  映像の魔術師・ブライアン・デ・パルマが監督をしているので、事実なんてどこへやら、徹底した娯楽アクション・ギャング映画に仕上がっています。 こういうのはあざとくて嫌いだという人もいるかも知れません。だが、それはハリウッドメジャー大作映画の宿命ともいえるものですが、私は大好きですね。  有名な駅の階段のベビーカーのシーンは、ハラハラ、ドキドキの連続で、ブライアン・デ・パルマ監督の楽しそうに撮っている顏が想像できますね。  そして、何と言っても魅力的なのは、当時、とても輝いていた主演のケヴィン・コスナーです。 絵に描いたような正義の味方。あまりにも嘘っぽくてため息が出そうですが、これぞまさに娯楽映画なんですね。  事実に基づいているとは言っても、彼の演じるエリオット・ネスは、映画のヒーローであり、架空の人物だくらいに思わないと駄目ですね。 史実と違うからおかしいじゃないかと決めつけるのは、ちょっと筋違いだと思いますね。 とにかく、カッコいいんですね。  それから、思わず注目してしまったのは、殺し屋のニッテイ(ビリー・ドラゴ)です。 とても陰険な顔つきの風貌で、目つきがとても怖いんですね。  もちろん、ショー・コネリー扮するジム・マローンも最高ですね。その年のアカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞しただけのことはありますね。 このジム・マローンは、FBIのリーダー的存在で、エリオットのみならず、観ている我々もグイグイ引っ張ってくれます。 ジェームズ・ボンド役を卒業した後の、ショーン・コネリーの演技に対する取り組みと研鑽が、一気に花開いたという感じですね。  今回、あらためて観直してみて、この作品はギャング映画の最高峰のひとつだと思いましたね。 エンニオ・モリコーネの音楽も素晴らしくて、この人の書くスコアは、映画の雰囲気にほんとにぴったりで、哀愁のあるメロディーを聞いているだけで感動してしまいます。
[DVD(字幕)] 8点(2019-12-14 09:34:41)
6.  暗殺の森 《ネタバレ》 
ベルナルド・ベルトルッチ監督の「暗殺の森」は、「ラスト・エンペラー」と同様、ヴィットリオ・ストラーロの撮影を観たかったというのが大きくて観たのですが、ベルトルッチ監督のあまりにも素晴らしい手腕を見せ付けられた感じです。 若干29歳の時の作品だとは思えないほどの、映画的魅力に満ちあふれた作品になっていると思います。  この映画の原題は「体制順応主義者」で、それは主人公マルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)のことに他なりません。 原作は、アルベルト・モラヴィアの「孤独な青年」という小説で、この作家の原作の映画は、他に2本観ていて、「倦怠」と「ミー&ヒム」ですが、「暗殺の森」とは似ても似つかないストーリーで、恐らくいろいろなタイプの小説を書いた人だろうと思います。  子供の頃に、殺人を犯してしまったと信じ込んでいるマルチェロは、そのトラウマからか、罪の意識からか、ファシズムに傾倒していきます。 組織から、パリに亡命中であった恩師でもある、カドリ教授を調査するように命じられ、恋人であったジュリア(ステファニア・サンドレッリ)と結婚して、新婚旅行を口実にパリに赴いた彼は、教授の妻のアンナ(ドミニク・サンダ)の美しさに、心を奪われてしまいます。  ストーリー自体は、それほど難しくないのですが、回想シーンが突然、出てきたり、主人公の説明がなかったりするので、どういうことなのか理解するのに、少しだけ時間がかかってしまいました。 そういう欠点はあるものの、見せ方は素晴らしいのひと言に尽きます。  特に良かったのは、アンナとジュリアが踊るダンスシーン。映画史に名高い、有名なシーンですね。 この女同士でダンスを踊るというのは、「フリーダ」にもありましたが、本当に綺麗でインパクトがあります。 そして、邦題のもとにもなっている、森の中での殺人シーンも圧巻です。  まるで、ホラー映画のような恐ろしさと緊張感がある一方で、切なくて哀しくて、やりきれないムードにも満ちあふれています。 とても、ショッキングだけれど美しい映像で、ベルトルッチ監督の天才肌ぶりを感じさせるシーンだと思います。  ドミニク・サンダは、当時19歳くらいだったそうですが、妖しい美しさをたたえる人妻の役を、見事に演じています。 彼女は「ラスト・タンゴ・イン・パリ」にも出演オファーがあったそうですが、妊娠中のため断ったというエピソードが残っています。 もし、ドミニク・サンダとマーロン・ブランドのツーショットだったら、またひと味違った映画になっていたかもしれません。  ジャン=ルイ・トランティニャンは、相変わらずクールで、不思議な雰囲気をたたえていて、ミステリアスな感じが、とても素晴らしかったと思います。
[CS・衛星(字幕)] 9点(2019-06-01 15:31:10)
7.  アラベスク 《ネタバレ》 
スタンリー・ドーネン監督のロマンティック・コメディ「アラベスク」は、主演が私が最も好きな男優のグレゴリー・ペックとイタリアの大女優ソフィア・ローレン。  何でもこの映画は、ソフィア・ローレンが、大のグレゴリー・ペックファンで、一度でいいから、ペックと競演したいという夢があり、それが叶った映画という事で有名です。恐らく、「ローマの休日」のペックを観て、胸キュンとなったのかもしれませんね。  この映画でのソフィア・ローレンの役は、グレゴリー・ペックの前に突然、現われ、彼を翻弄する謎の美女といった役です。 アクション盛りだくさんのサスペンス映画なのですが、ローレン自身が拳銃を振り回したりという、そんなシーンはありません。  監督のスタンリー・ドーネンは、ミュージカル映画の監督として有名ですが、こういう洒落たサスペンス映画も撮っているし、1本だけれどもSFも監督しているんですね。その中でも、最も有名なのが、「雨に唄えば」と「シャレード」ですね。  言語学者であるデヴィッド・ポロック(グレゴリー・ペック)が、古代アラビアの象形文字の解読を依頼されます。 ところが、引き受けた途端に、彼の身に危険が次々と降りかかり始めます。 ヤズミン(ソフィア・ローレン)という謎のアラブ美女が、彼の味方になってくれるのですが、どうも彼女の言うことは、嘘が多いので、デヴィッドは、彼女に翻弄されてしまいます。  いったい、彼女は味方なのか敵なのか? 最後の最後までわかりません。そのあたりのスタンリー・ドーネン監督の演出は、なかなかうまいと思いましたね。 加えて、この映画は、アクションシーンも実に豊富です。動物園、水族館、高速道路、そして、ラスト近くは、牧場で西部劇さながらの馬でのチェイスシーンまであるサービスぶり。もう、本当に嬉しくなっていまいます。  007も真っ青のアクション映画ですよ、これは。とにかく、主人公が、刑事でもスパイでもなく、大学の言語学の教授というところが、いいですねえ。知的でインテリジェンスに溢れたグレゴリー・ペックには、もうドンピシャのはまり役ですね。  素人っぽいドジをしまくりながらも、果敢に敵に立ち向かい、象形文字の謎を解明しようとする、グレゴリー・ペックが、実に楽しそうに演じていて、とても素敵です。 もちろん、ソフィア・ローレンも謎の美女を妖艶に演じていて、ペックとの競演が本当に嬉しそうだなという事がわかり、好感が持てましたね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2019-05-31 10:25:45)
8.  暁の用心棒 《ネタバレ》 
マカロニ・ウエスタンの「暁の用心棒」は、トニー・アンソニー扮する流れ者の一匹狼の"よそ者"が、アメリカからメキシコ政府へ貸付けされる金貨をめぐり、メキシコのフランク・ウォルフ扮する山賊のアギラ一味と争奪戦を展開するという内容の映画で、はっきり言って、かのマカロニ・ウエスタンの代表作「荒野の用心棒」の亜流作品です。  というのも、山賊一味が軍服を着てメキシコ軍に近づくのも、一味のボスが機関銃を乱射するのも「荒野の用心棒」そっくり。 そして、主人公の"よそ者"が、なかなか分け前をよこさないアギラに腹をたて、ネコババしようとするのは「続荒野の用心棒」のジャンゴを連想させるものの、ヒーローず女とその子供を助けるエピソードは、やはり「荒野の用心棒」にあったし、ラストで"よそ者"が、シヨット・ガン、アギラが機関銃と、武器こそ違えど、互いの愛用の武器で決着を着ける趣向も、どこからいただいたかは、もう明らかですね。  このように、この映画は物語自体が、もう亜流も亜流の域を出ないのですが、画面を観ている分には、あまり"元祖"との類似性を感じないんですね。 それはなぜかと言うと、ジャンジャジャジャーンという大音響と、その間に入るポコポコと鳴るオカリナという楽器の軽妙な音のコントラストが、妙なベネデット・ギリアの音楽が功を奏しているのと、主演のトニー・アンソニーの飄々とした、ミステリアスなキャラクターが物語に不思議と溶け込んでいたからだろうと思います。  そして、クライマックスの、"よそ者"とアギラ一味の決闘は、時にユーモラスな味を醸し出して、忘れられない印象を残します。 あちこちに散らばる子分たち。巧みに身を隠し、移動するよそ者。共に抜き足、差し足、忍び足で様子をうかがい、"よそ者"は角で出くわした一人をまずズドン。  次いで、縁の下にもぐり込み、板の隙間から銃身をソロソロ-----と突き出し、上にいる奴をズドン。ここまできたら、もう主人公がやられることはないという妙な安心感もあって、この殺しのシーンは、文句なしに楽しめます。 出窓から上半身をのぞかせた敵には、その窓のすぐ下からの一発で倒し、アギラには走らせたトロッコにしがみついて接近し、いよいよ一対一の果し合いとなるのです。  装弾から発射までというプロセスも「荒野の用心棒」と同じく、双方ガチャガチャと弾ごめ。当然、"よそ者"のショット・ガンがいち早く火を吹き、アギラはあえなく昇天。 時はあたかも、朝日が昇る"暁"で、"よそ者"は、三途の川の渡し賃として1ドル銀貨をアギラの口---歯にくわえさせる。 そして、その銀貨はかつて軍隊襲撃の分け前として、アギラからたった一枚、投げつけられたものだ。 だから、この映画の原題が「歯の中の1ドル」と言うんですね。  主演のトニー・アンソニーは、アメリカ出身の俳優でアメリカ時代はパッとせず、やがてイタリアへ渡り、何本かの現代劇に脇役で出演していたが、やはりパッとせず、おりからのマカロニ・ウエスタンブームの波に乗って、この映画の主役の座をつかんだと言われています。  オーディ・マーフィを貧相にしたようなマスクや、小汚いスタイルにショット・ガンといういでたちが、いかにもマカロニ・ウエスタンのヒーローらしく、強い印象を残していたと思います。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2019-04-07 14:17:54)
9.  アガサ/愛の失踪事件 《ネタバレ》 
映画を作る人は、プロデューサー(製作者)、脚本家、監督、編集者、音楽担当者など、いろいろな人がいて、彼らの共同作業で、1本の映画が完成します。  この中で、撮影する人のことは日本では、単にカメラマンと言いますが、海外では「Cinematographer」と言って、これを「カメラマン」と訳してしまうのは、なんだか悲しい気がします。  そして、この映画の撮影をしているCinematographerは、ヴィットリオ・ストラーロです。 撮影一筋に数十年のキャリアを持ち、数々の名作を撮影している人です。  私の大好きな「暗殺の森」、他にも「ラスト・タンゴ・イン・パリ」「地獄の黙示録」「シェルタリング・スカイ」「ラスト・エンペラー」など、錚々たる映画のスタッフとして名を連ねています。  映画を語る時、ついつい脚本や監督(演出)に目がいきがちですが、総合芸術、しかも映像を媒体としての映画というものの特性を考えた時、実はCinematagrapherの存在はとても大きな縁の下の力持ちなのだと思います。  この映画「アガサ/愛の失踪事件」ですが、もし私が邦題をつけるとしたら「アガサ・クリスティー失踪事件」にすると思います。 「アガサ」がすぐに「アガサ・クリスティー」だと連想できる人は、そう多くないと思うからです。  現実に、アガサは、夫に捨てられてしまったショックで11日間失踪したことがあるのだそうです。 夫には他に愛人ができたのです。実によくある話ですが、この映画は、そのアガサ・クリスティーが失踪していた謎の11日間の出来事に焦点を当てて描いています。  アガサ・クリスティーを演じているのは、「裸足のイサドラ」「ジュリア」の英国の名女優ヴァネッサ・レッドグレーヴで、ちょっと神経質そうで上品な初老の超有名作家を見事に演じ切っています。まさにはまり役だと思います。  そして、彼女の失踪を追う、ニューヨークから来た新聞記者スタントンは、「真夜中のカーボーイ」「レインマン」の演技派俳優ダスティン・ホフマン。 公開当時のポスターの名前は、主人公がアガサなのにもかかわらず、ダスティン・ホフマンの方が大きく印刷されていたそうですが、これは単純明快な理由で、ホフマンのギャラの方がレッドグレーヴよりも多かったからだそうです。  それから、アガサの夫アーチボルト大佐は、ご存知007シリーズの4代目ジェームズ・ボンドを演じたティモシー・ダルトンで、舞台出身の曲者俳優らしく、一癖も二癖もありそうな悪役っぽい男を、実に渋く演じています。 彼は、こういう役を演じさせたら、本当に巧いと思います。  さすが主人公がミステリーの女王だけあって、映画もアッと驚く展開が待ち受けていました。 なるほど、そう来たかという感じでした。 全くのフィクションですから、現実にはこんな事はなかったのでしょうけれど、ミステリーの女王が自分自身にもミステリーを仕掛けるというのは、非常に面白くて興味深いものがありました。  1930年代のファッションも楽しめますし、マイケル・アプテッド監督のドキュメンタリー風の演出もいい感じだったと思います。 そして、当然の事ながら、ヴィットリオ・ストラーロの流麗なカメラワークに酔いっぱなしでした。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2019-03-23 15:31:11)
10.  アイランド(1980) 《ネタバレ》 
映画「アイランド」の原作・脚本は、「ジョーズ」のベストセラー作家、そして「ジョーズ」で名をあげたR・D・ザナックとD・ブラウンのコンビが製作、「候補者ビル・マッケイ」「がんばれ!ベアーズ」などのマイケル・リッチーが監督、カメラは「太陽がいっぱい」の名手アンリ・ドカエという錚々たる顔ぶれによる"怪奇恐怖映画"ですが、期待が大きかっただけに、なんとも期待外れの作品でした。  "魔のバミューダ海域"と呼ばれているフロリダ沖のバハマ諸島では、毎年、たくさんの船と人とが消息を絶っていた。 しかし、その原因は杳として不明という設定で、マイケル・ケイン扮する新聞記者が、原因究明の取材に乗り出すことになる。  もしかしたら、どんな危険に遭遇するかも知れないという取材行に、13歳になるひとり息子を連れて行くというのもどうかと思います。  この間にもヨットが襲われて、乗組員が惨殺されるが、初めから複数の加害者を見せるから人為によるものとわかって、せっかくの怪奇性の興味が薄らいでしまいます。  つまり、無数にある島のひとつに、異様な風体をした海賊が住みついて、原始的な生活を送っていて、航行する船を次々と襲い、乗組員を殺して金品を略奪しているというわけなのだ。  謎がわかってしまうと、なーんだと、シラケてしまいます。 それに、ケイン父子が借りるボートの持ち主が博士と称する男で、それが海賊団と通じていて、沖を通る船の情報を伝え、略奪品の分け前にあずかっているという意外性も、あまりパッとしません。  「ジョーズ」の鮫に代わって海賊という仕掛け。17世紀ごろ、海賊団の先祖がこの島にたどり着いて、彼ら独自の掟によって特殊な社会を作り上げているというのですが、なんとも荒唐無稽でがっかりしてしまいます。  この海賊団に捕まったケイン父子が、最後で敵の首領をやっつけて難を逃れ、こんなことは誰も信じまいというケインの思い入れで映画は終わるのですが、まさに然りで、信じ得べからざる空々しい映画だったと思います。
[ビデオ(字幕)] 5点(2019-03-19 22:07:23)
11.  暁の7人 《ネタバレ》 
「暁の7人」の主演俳優ティモシー・ボトムズは、「ジョニーは戦場へ行った」「ラスト・ショー」「ペーパー・チェイス」等での印象的な演技で私のお気に入りの俳優のひとりになりました。  今回DVDで観た「暁の7人」の彼は、きりっと引き締まった表情で、緊張でピリピリするような心が張り詰めた荒武者といった風情があります。 そして、ある種の悲しみを湛えた優しく暗い眼が、とても印象的です。  第二次世界大戦において、チェコスロヴァキアはドイツ軍の怒濤の進撃で占領されてしまいます。 ティモシー・ボトムズ扮するヤンは、ロンドンで機会を待つチェコ解放軍の兵士。 その彼らに、祖国チェコで占領・支配しているナチス・ドイツの総司令官ハイドリッヒ暗殺の指令が下される。  この指令は、大胆不敵な極秘作戦で、戦局を連合国軍側に有利に展開させるための、非情極まる作戦計画だった。 そして、今回選ばれたヤンを含む解放軍の3人は、明らかに"捨て駒"だったのだ。  私は、この映画を観ながら、イギリス、ドイツ、ロシア等の強国に挟まれて、悲劇的な歴史を歩んできた東欧諸国の運命を垣間見る思いがしました。 そのように感じた時、どこか悲劇的で悲しい表情を張り詰めさせたティモシー・ボトムズの個性が、ひと際、ものをいっていると思います。  このティモシー・ボトムズという俳優は、本質的に"青春の悲しさ"を体現できる稀有な存在だと思います。 眉をきりりと上げて、しっかりと未来を見据えている時でも、その高い鼻梁のかげに、若く純粋な悲しみと愁いの影が漂うのです。  「暁の7人」は、ティモシー・ボトムズを主演俳優として起用したことで、この悲劇的な戦争秘話に、悲しみの感動を盛り込むことができたと言ってもいいと思います。  ただ、その後の彼は、良い作品にも恵まれず、役者として失速していったのが残念でなりません。
[DVD(字幕)] 7点(2019-03-11 09:57:27)
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