1. 渚のたたかい
見たのはもう随分と大昔で、しかもテレビ放映だったけれど、今なお忘れ難い「(ぼくにとっての)永遠の名作」です。ノルマンディ上陸作戦を背景にした第二次世界大戦ものの戦争映画だけど、決して『史上最大の作戦』や『プライベート・ライアン』なんかのように大上段に「歴史」だの「悲劇」だのを描くものじゃない。派手な戦闘シーンもほとんどない。むしろ一編のメルヘン(!)めいた、不思議な余韻を残す「反戦」ならぬ「反=戦争映画」とでも言いましょうか…。 クリフ・ロバ-トソン扮する軍曹率いるアメリカ軍小隊が、沿岸近くの村人やドイツ兵捕虜を、安全な連合軍キャンプまで引率しようとする。が、ようやく連れてくると司令官に「もう一度村へ連れ戻せ!」との命令。仕方なく再び来た道を戻ったものの、まだ砲弾が飛んでくる危険な状態。軍曹は、今度こそとキャンプへ彼らを連れていくが、またまた拒絶されてしまう。そして一行は、今度も村への道のりをてくてくと…。 と書くと、何だか風刺っぽいコメディみたいだ。けれど映画は、村と連合軍キャンプを行きつ戻りつする彼らの中で次第に芽生えていく連帯感やら心のふれあいを、ただ丁寧にスケッチしていく。食べ物を分け合ったり、楽器を演奏したり、時にはいがみあったり砲弾を喰らったりするものの、まるでピクニックのような気分。そのへんてこな“珍道中”を通して、「悲惨な戦争時にも、こんな風に普通の人々は笑ったり、泣いたり、恋したりして生きてきたんだ」という実感を、見ているぼくたちはしみじみと噛みしめるといった次第です。ほんと、すべてを“白か黒か・正義か悪か”と単純化するアメリカ映画にあって、この良い意味での「ゆるさ」は、実に新鮮なオドロキをもたらしてくれることでしょう。 最後、仲良くなった村人たちと分かれて、戦争という非日常的な「日常」へと戻っていく軍曹と彼の小隊。その美しいラストを含めて、“そして、人生は続く”ことをかくも詩情豊かに描いた本作を、ぼくはいつまでも愛し続けたいと思います。DVD、出ないのかなぁ。 9点(2004-11-04 17:24:01)(良:1票) |
2. 南部の人
《ネタバレ》 息子が敗血症になり、毎日どうしても新鮮な牛乳が要る。けれど、貧しい農夫一家にはとてもそんな余裕がない。苦しむ子どもを前に悲嘆にくれていると、おばあちゃんが再婚(!)相手と現れて乳牛をプレゼントしてくれた。めでたし、めでたし。 また、度重なる不幸と苛酷な農作業で、すっかり偏狭な性格になった近所の意地悪オヤジ。その嫌がらせに怒りを爆発させた主人公は、オヤジを叩きのめす。復讐のため銃を持ち出すオヤジだったが、長年の夢だった川の大ナマズを主人公が釣り上げたのを見るや、コロリと態度を変え、「このナマズを俺の獲物にさせてくれりゃ、もう嫌がらせはしねぇ。井戸も使わせてやる」と言い出す始末。これまた、めでたし、めでたし。 …もう、万事がこの調子なんである。苛酷な、あまりにも苛酷な農夫一家の生活ぶりを、おそらくオール・ロケで描きながら、この映画には大らかな楽天性が息づいている。ほとんどデタラメすれすれのご都合主義が、リアルな写実主義風展開のなかに突然顔を出して、あれよあれよと主人公一家を救うのだ。 結局、豪雨で農作物が全滅し、一度は土地を手放そうと考える主人公。けれど、コンロに火を入れてコーヒーを沸かす妻の姿に、ふたたびやり直すことを決意する。…このラストにも、ぼくらは「うん、彼らは大丈夫だ。きっとうまくいく」と確信する。何故なら、彼らは“祝福”されているのだから。誰に? もちろん、この映画に。というか、この映画を撮ったジャン・ルノワールに! 映画のなかで、町の工場で働く主人公の友人が、「苦労ばかりの農業なんかやめて、工場へ来いよ」と誘う。が、「俺は青空の下で働きたいんだ。自由な気がするから」と答える。…どんなにつらい人生でも、何より「自由」こそが大切なのであり、生活の細部(ディテール)には幸せが、生きる歓びが宿っている。…こんな風に“貧しさ”をかくも“豊か”なイメージで描き得るのは、たぶんこのルノワ-ル監督をおいてないだろう。 ぼくは見ながら、何度も泣いた。この映画のなかに描かれる、文字通り「人の生きる姿」としての人生の、あまりの美しさに。 たぶん、間違いなく、これが本当に「幸福な映画」というものだ。 [映画館(字幕)] 10点(2004-07-27 14:08:01)(良:1票) |
3. ナバロンの要塞
J・リー・トンプソンのことを、「チャールズ・ブロンソンの御用C級監督」くらいにしか認識していない方々にこそご覧いただきたい、戦争アクション大作。ほんと、1950・60年代中期までのトンプソン監督作品は、どれをとってもハズレなしの面白さなんすから! そんな中でも、彼のキャリアの頂点とも言えるのが本作。アリステア・マクリーンの原作自体が見事なんだけど、巨大な大砲によるスペクタクルな砲撃シーンと、ドンデン返しにつぐドンデン返しといった小技の効いたストーリーテリングの両方をきっちりと描き分けられる才は、相当なものじゃないか。加えて、各登場人物の複雑な関係や内面の葛藤までをもフォローしているとなると、シナリオの巧みさもあるんだろうけど、昨今の見かけ倒れなCG大作に爪のアカでも煎じてのませたいやい! …個人的には、デビッド・ニーブンのシニカルで屈折した英国兵キャラが最も魅力的に映りました。いい役者さんだなあ。 8点(2003-11-18 11:48:11) |
4. 長崎ぶらぶら節
吉永小百合サンが、相撲甚句とともにシコをふむシーンに、何故だかちょっぴりジーンときました。何をやっても、この人には下品さの微塵もない”華”があるなあと。それがたぶん、本物の大女優であることの証明なんでしょう。同じ小百合主演、深町幸男演出のドラマ『夢千代日記』のコンビ作らしく、主人公の無私で献身的な天使…いや、この場合「天女」か…のようなキャラクターが、中途半端な五社英雄監督作品めいた、どこか舌足らずな印象を与えるこの映画に、確かな魅力を与えています。 6点(2003-11-18 10:51:27) |
5. ナイト・アンド・ザ・シティ
ボクシングの興行でひと旗あげようっていうダメ男…って、いつの時代のハナシやねん! 現代ニューヨークを舞台にしていながら、ストーリーそのものはあきらかに1950年代風(そもそもこの映画、1950年製作の『街の野獣』のリメイクなのだった…)。デ・ニーロとウィンクラー監督のコンビは、やはり1950年代の”赤狩り”をテーマにした『真実の瞬間』を作っているけど、あの時代に対するこのこだわりは何? NYの夜の街並をとらえた映像は、見事だった記憶があるけど、ビデオじゃつたわるかなあ… 5点(2003-11-05 15:31:38) |
6. ナイトメアー・ビフォア・クリスマス
う~ん、素晴らしいなあ。何度見てもクスクス笑えて、ちょっと切なくて、どこかグロテスクなのにすべてのキャラたちが愛しく思えてくる。とにかくダニー・エルフマンの楽曲と、ティム・バートンのビジュアルセンスが見事に幸福な”ケミストリー”を果たしたという意味で、アニメとしては最高峰の1本でしょう。ああ、サリーのほころびをぼくが縫ってあげたい… 10点(2003-09-13 15:17:47)(良:1票) |
7. 南京の基督
う~ん、真摯な内容ではあるんだけど、ちょっと映像が感覚的な”汚らしさ”を感じさせて…見ているのがツライ部分もあったなあ。ただ、富田靖子のカラダをはった演技だけは、痛ましくも健気だったから…。顔のあどけなさと、身体の豊満さのアンバランスさが、役にピッタリだとは言えるでしょう。 6点(2003-07-25 12:57:24) |
8. なまいきシャルロット
誰も指摘しないけど、この映画って、アメリカの女性作家カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』を翻案したものです。だからどうした、と言われても困るんですけど…。シャルロットのブータレた顔が何故か愛おしく思えてくるのは、作り手が彼女の演じるキャラクターに愛情を注いでいるからでしょう。なかなかの佳作ですね。 8点(2003-07-25 12:50:51) |
9. ナチュラル・ボーン・キラーズ
映画と観客をナメとんのか、ワリャ! あまりにもうざったいスローモーションの多用と、ダサすぎるMTV的なカットつなぎ、反社会性を気取るアタマの悪いストーリー展開(タランティーノの名誉のために言っておくが、オリジナルシナリオはもっとマシな内容だった)の連続に、ずぅ~~~っとヘナヘナ状態。誰か、オリバー・ストーンに忠告してあげなよ。こんなの、映画じゃないって…。 0点(2003-07-25 12:43:38)(良:1票) |
10. 渚にて
いわゆる「名作」なんでしょうか、これ? 豪華なキャストを並べてシリアスな政治的メッセージを垂れるのは、スタンリー・クレーマー作品の常なんだけど、これまたいつもながらにセリフで展開をつないでいく演劇っぽい語り口が、どうにも性にあわなくて…。あのコーラ瓶なんて、商品タイアップみえみえだしなあ(そのへんのあざとさも、クレーマーらしいところなんだろうけど)。エヴァ・ガードナーの美しさだけが、小生にとって救いだったです。 4点(2003-07-25 12:33:45) |
11. 渚のシンドバッド
ゲイであることをカミングアウトしつつデビューした橋口亮輔監督の長篇2作目は、何といっても浜崎あゆみの鮮烈な演技によって記憶され続けるのでしょう。が、別に同性愛がどうのこうのといった下世話な部分以上に、生き方が不器用な青春の肖像を、終始一歩引きながらも温かく見つめ続ける作り手の視線が素晴らしい。素直に感動し、少し胸が切なくなる佳作です。ただ、いつも思うんだけど、橋口監督ってどうして女優を必要以上にダサく撮るんだろう? ここでも、あゆみ嬢はチンケなイモねえちゃんだし…(それがまた良かったりするんだけど…って、フォローになってませんね。ハハ…) 8点(2003-07-23 12:01:38) |
12. 夏の妹
大島渚としては、ちょっとユルイ出来映えなんだけど、栗田ひろみやりりぃがあまりに素晴らしいので、結構見直してます。特にひろみチャン、好き好き! でも、南沙織でこの映画を撮った方が、もっと良かったと思いますが。いかがでしょう、大島カントク? 6点(2003-05-30 11:38:05) |
13. 夏の嵐(1954)
個人的には、ヴィスコンティの最高傑作。いや、単に「傑作」と言ってしまってはあまりに味気ないな。これはこの巨匠が作り得た最高の「愛(について)」の映画と言い換えましょうか。全編にわたって人間の情念がうねり、息苦しいまでの官能に満ち満ちている。ラストのアリダ・ヴァリ扮するヒロインの眼差しに何も感じない者がいたとしたら、それは映画の敵であるばかりでなく、人としてももう一度出直してこい! と言ってあげるべきでしょう。ジャン・ルノワールの『黄金の馬車』と双璧を成す、狂おしいまでに偉大な真の「ドラマ」だと思います。 10点(2003-05-30 11:27:09) |
14. ナチュラル
他の映画になら何を言ってくださっても結構なんですが、この映画だけにはアタシャ身体を張ってでも守り抜く覚悟。もう一体何度これを見直し、その度に感動を新たにして、生きる糧を得たことか…。マーク・トウェイン以来のトール・テール(ホラ話)の伝統と、野球の持つ独特の精神性、そしてグッド・オールド・デイズへの郷愁が渾然となって、何と香り高く美しい、ノーブルな作品へと昇華したことだろうと、小生、見直すたびに感歎・感動しきりなのであります。そりゃあ、欠点もあれこれ指摘はできるでしょう(もっとも、欠点のない映画がもし存在したとして、それはきっとおそろしく退屈で鼻持ちならない代物だと思うけど)。テンポがゆるすぎるとか、長ったらしいとか、ヒロインをグレン・クローズにやらせるな(!)とか。しかし、そういった欠点すらもぼくには愛しい。本当にこれは、わが生涯の1本であります。そう、1980年代以降、これを越える「傑作」は何本も登場してきたかもしれない。けれど、「アメリカ」という国と人の〈精神性〉の最も愛すべき部分を描いて、これ以上の「美しさ」を持った映画が、果たして何本あったでしょうか…。《追記》先日も再見。もう、50回以上は見ているかな。最初の方で、ジョー・ドン・ベイカー演じるベイブ・ルース風強打者と主人公が野球対決する。その一連のシークエンスに、またまた陶然となる。黄昏れ近い田舎町の空気感、移動遊園地のたたずまい、そして、手に唾してバットをにぎるベイカーとレッドフォードの投球フォームの「完璧さ」…。やっぱりこれは、ぼくにとって最高の「アメリカ映画」です。 [映画館(字幕)] 10点(2003-05-30 11:11:48)(良:3票) |