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六本木ソルジャーさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 823
性別 男性

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1.  ブルーバレンタイン 《ネタバレ》 
素晴らしい作品だ。 アメリカでの評価の高さは伊達ではない。 二人の男女の関係を、幸せだった“過去”と、崩壊寸前の“現在”を対比させながら繊細に描き出している。 浮気をしたり、暴力をふるったり、ドラッグをしたりするような特別な問題が彼らにあるわけではない。 特別な問題がないにも関わらず、二人の関係の亀裂が徐々に大きくなり、元に戻すことができない溝へと広がっていくさまが描かれていることは評価したい。 やや抽象的に描くことにより、観客はより共感しやすくなったのではないか。 具体的に描くよりも抽象的に描くことは容易なことではなく、監督にも俳優にももちろん高いレベルが必要であろう。 仕事よりも家族との時間を大切にしたい男と、家族を大切にしながらも仕事で評価されたい女、お互いに愛しているのに、心がすれ違うさまを見事に描き出されている。 パートナーが自己の才能を浪費して自堕落な生活を送っていると感じる女、パートナーが家族よりも仕事を優先していると感じる男、離れていくお互いの心をなんとか戻そうとしているのに、傷つけることでしかお互いに向き合えない二人がいる。 過去に理解し合えたはずなのに、なぜ傷つけあってしまうのか、人間というもの、男女の関係というもののもどかしさを切なく味あわせてくれる良作だ。 ラストに子どもが父親を呼ぶ姿が印象的ともなっている。 心が傷ついた子どもがまた大きくなり、同じような過ちを繰り返さないことを祈るばかりだ。 また、彼が彼女に贈った曲の歌詞や、泊まったホテルの部屋の名前なども未来を暗示させており、いい効果を発揮している。 泊まったホテルで男が掛けた曲に込められた“思い”など、彼の心情を深く感じ取れるということも良い手法だ。 カップルが鑑賞するにはかなり厳しい作品かもしれないが、個人的には逆にカップルに鑑賞して欲しい作品だ。 反面教師的な役割となり、このようにならないために、お互いがお互いのことを考えられるようになるだろう。 愛し合ったカップルが年月を経ることによって徐々に気持ちが離れて、別れることが必然だということが、本作のメッセージだとは思っていない。 多くのカップルの中には、そのようなカップルもいるということを描いているに過ぎない。 どうすればこのようにならないかという“答え”はもちろん存在しないが、お互いがお互いのことを考えるしかない。
[映画館(字幕)] 8点(2011-05-14 00:32:09)(良:1票)
2.  アンノウン(2011) 《ネタバレ》 
某有名人気シリーズの設定に酷似していることは気になるが、個人的には意外と楽しめたという印象。どうしても比較してしまうが、このような設定においては基本的にはどれも似通ってしまうので、それほど気にしない方がよいだろう。 特許があるわけではないので、仕方がないと思うしかない(パクリでは不味いが)。 しかし、粗もかなり目立つ作品でもある。 あんなおっさんをターゲットにするくらいならば、あんな面倒くさいことをせずに「普通に道端で襲えよ!」と思う(殺人を事故にみせかけるのがプロの仕事だろう)が、そのようなことを言い出したら映画などは作れない。 製作者は一生懸命にどんでん返しをしようと考えた“努力”と取るしかない。 それにしては、プロの暗殺集団は意外と間抜けな集団と最後になってしまった。 自分の使命を忘れる者もいれば、捨てゼリフを吐きながらも爆弾を解除できない者もいて、おまけに一人の素人の女性にほぼ全滅させられるという有り様。 仲間のおっさんがビビるほどの凄みを感じさせなかったことは残念。 銃による死者がいなかったことは製作者の意図だろうか。 その辺りは一応工夫しているのかもしれない。 残念といえば、善と悪との葛藤のようなものがないことも挙げられる。 生まれ変わったら、悪と戦うヒーローに簡単になってしまうのは単純すぎる。 確かに、訳の分からない輩に襲われたら戦わざるを得ないが、自分の使命やアイデンティティーに対して苦悩させた方がよいのではないか。 悩める主人公をヒロインやターゲットの子どもなどが影響させて、完全に生まれ変わらせるということが醍醐味であろう。 もともとは仲間なのだから、殺そうとするのではなくて懐柔させるようなアメとムチを使い分けてもよかった。 あまり難しいドラマを構築するよりも、真相やアクションを楽しむ映画なので、単純でよいともいえる。 しかし、ラストにおいても妻との再会がなかったことも残念だ。 意外な方法による退場の仕方も面白いといえば面白いが、最後はちゃんと妻と思っていた女性と向かい合わせた方がより面白い。 自分が愛したと錯覚した女性を選ぶのか、それとも自分を救ってくれた女性を選ぶのかというチョイスが最も必要なことではないか。 きちんと過去と決別させるためにもこれは必要な儀式だと思う。 情に訴えかける妻と思っていた女性に策略に乗らないようなシーンは必要であろう。
[映画館(字幕)] 6点(2011-05-09 22:20:22)(良:2票)
3.  塔の上のラプンツェル 《ネタバレ》 
3D吹替え版を鑑賞。 ディズニーらしく夢のある作品に仕上がっており、大人でも子供でも誰でも楽しめることができるだろう。 アドベンチャー、ラブストーリー、親子愛などの要素を盛り込み、“自由”や“夢”や“成長”などのテーマを3Dを活かした圧倒的な美しさや迫力で描き込んである。 鑑賞する前には想像していなかったが、ミュージカル要素が多数含まれており、いい裏切りが嬉しいところ。 ミュージカルをアメリカ版でも聞いてみたいとも思ったが、逆に吹替え版だからこそ楽しく聞くこともできたとも思える。 歌のパートは別の人だったようだが、中川翔子が彼女のカラーを全く感じさせない、良い仕事をしたようだ。 目的もなく、ぼんやりとしていたユージンが最後に良い仕事をすることもいい裏切りとなっている。 “自由”を求めるラプンツェルの“夢”、“自由”を謳歌するラプンツェルの楽しそうな“姿”を見て、彼自身も変わっていったのだろう。 自分自身を犠牲にして、彼女自身の大切な宝ともいえる“呪縛”から開放させることには、男としての強い勇気を感じさせた。 仲間ではないはずの荒くれ者たちやライバルのマキシマスの手助けなどの、いい裏切りが嬉しい作品。 盗賊であれ、動物であれ、赤の他人であれ、どのような関係であっても仲間ハズレにせずに、手を取り合うようなシーンには心を打たれる。 ディズニーらしく大人でも子供でも楽しめる、甘いスイーツのような作品であり、自分には少々甘すぎたところもあったが、それが目的のような作品であり、もちろんその点が本作において問題になることはないだろう。 甘いケーキを食べに行って、甘すぎると非難するのはナンセンスと分かっている。
[映画館(吹替)] 7点(2011-05-03 12:53:28)(良:1票)
4.  SOMEWHERE 《ネタバレ》 
ソフィア・コッポラ監督はそれほど好きではないので、ベネチア映画祭で賛否両論の本作を気に入ることは難しいかと思っていたが、これはこれで意外とアリということが正直な感想だ。 ハリウッドスターの日常や、父と娘が過ごすたわいもない日常が綴られているにすぎないので、ストーリー映画のような面白みを得ることはなかなか難しい。 しかし、無味乾燥な日常の中にみえる“空虚さ”、平凡なやり取りの中で父と娘が心を通わせる“穏かさ”が本作には欠かせないので、このようなアプローチは悪くはない手法だ。 ハリウッドスターが過ごす物足りない日常の生活や、父と娘が過ごすたわいもない日常の生活を、ソフィア・コッポラが極めて繊細に描いているため、自分はそれほど飽きることはなかった。 このようなストーリーがほとんど存在しないような映画を、一定の水準に保つには、監督としての技量を問われるはずだ。 ハリウッドスターとして全てを手に入れて、パーティーやレセプションをこなし、多くの女性とともに過すジョニー・マルコと、一人の父親として娘とともに過すジョニー・マルコの対比がうまくできている。 ポールダンスを見て飽きて寝てしまう姿と、娘のアイススケートを見て惜しみのない拍手をおくる姿をみるとまるで別人のようだ。 オチの付け方が難しく、中途半端な終わり方になると予想していたが、前向きになれる意外と良いオチを付けてくれた。 暮らしていた高級ホテルをチェックアウトして、高級車を降りて、何もかも捨て去り、自分の足で歩く男にはかすかな笑みがこぼれており、空虚な生活を送り、何も手にしていない男が再生し、再スタートを切る姿は美しい。 娘との再会で幕を閉じるわけでもなく、具体的な事象を描くことなく、曖昧なイメージのままで仕上げており、本作にとっては最良の仕上げではないか。 このようなラストにすることにより、自分はハリウッドスターでもなければ、子どももいないが、マルコの姿と自分自身をやや重ね合わせることができたので共感しやすかった。
[映画館(字幕)] 7点(2011-05-03 12:39:53)
5.  ブンミおじさんの森 《ネタバレ》 
さすがに全く理解できなかった。 普通の映画とは異なるため常人には製作できないという点は認めるが、本作のような映画ははっきりいって苦手である。 本作においては、この世、あの世、現世、前世といったものを超越しているようだ。 “死”というものは終わりではなくて、“自然”に帰るようなものなのかもしれない。 ハリウッド映画では作ることができない、タイ映画だからこそ作れる境地か。 唐突に挿入されている、現世に絶望しているような王女が何もかも捨て去り、自然(川)と一体化していくシーンも象徴的となっている。 本作を見れば、現世の苦痛といったものが軽減されるかもしれない。 それにしても、点数は付けにくい映画。 見る人によっては満点なのかもしれないが、自分のような若輩者には高い点数はまだ付けられない。 自然を眺めて、その中に美しさを見出せる人には向いているかもしれないが、残念ながら自分は都会に毒されてしまったか。
[映画館(字幕)] 4点(2011-05-03 12:18:48)
6.  デュエリスト/決闘者 《ネタバレ》 
リドリー・スコットの初監督作品。 低予算と聞いていたが、驚くほど丁寧に深く作り込まれている。 男の生き様というものを描き込んだ作品。 特に意味がなくても、己の“誇り”のために戦い続ける男たちが熱い。 終生のライバル同士が戦う理由なんて特別要らないという潔さも男らしい。 諸葛孔明と司馬懿、アムロとシャア、信玄と謙信のような、出会えば戦わざるを得ないライバル関係が描かれている。 また、ライバルだからこそ、言葉を交わさなくても相手のことも理解できるのだろうか。友情とは完全に異なる微妙な関係が面白い。 ロシアにおける雪中でのやり取り、獄中のフェローを救うなどのエピソードも二人の関係を複雑かつ豊かにしている。  彼らの戦いが終わり、晴れているような雨が降っているような複雑な景色が彼らの心境を表しているように思われる。 生きているのか死んでいるのか分からないようなフェローの複雑な表情と上手く絡み合っている。 降っている雨が顔に掛かるフェローが、まぶしそうに朝日を眺めている。 朝日がデュベール、雨がフェローのような気もした。 “戦い”も男にとって必要なのかもしれないが、ラストでは自分の奥さんやブーツ職人の義父という家族にまでも目を向けられている。 壮絶な“戦い”を感じさせずに、奥さんと果物を見せて笑い合う姿にも男の生き様が込められているような気がした。 男の生き様や、男の誇り・プライドといった言葉では語れないものを、映画という形で語っていることが素晴らしい。 ましてやデビュー作でそれをやってのけることにリドリー・スコットの能力の高さ、才能の深さが窺われる。
[DVD(字幕)] 8点(2011-04-23 21:51:11)
7.  戦場にかける橋 《ネタバレ》 
正直言って、初見では本作の良さがよく分からなかった。 この映画が言わんとしていることを上手く感じ取ることができずに混乱したが、そのような“難しさ”が本作の良さかもしれない。 戦争というものは、単純に割り切ることができず、不条理なものということか。 捕虜であっても、軍人としての“誇り”を失わずに規律に則って自己の職務を全うするということは感動的でもある。 捕虜であっても奴隷ではない、我々は規則を守る文明人である、人間として何かを成し遂げたい、という主張が大佐からなされており、その主張は立派であり、心を打った。 『敗北しても勝つことは出来る』というイギリス人の“誇り”が、日本軍の斎藤をも変えたと捉えることができる展開だ。 欧米風の騎士道と東洋風の武士道の“融和”のような感触も得られる。 綿密な計画を立てて能率的なイギリス人と、「お茶!」の伝言を繰り返す非効率の日本人、失敗したら切腹しようとする精神論的な日本人の対比も見事である。 しかし、最後の展開によって何もかもが崩壊してしまったような気がする。 誰と戦っているのか、何のために戦っているのか、そもそも戦いとは何か、戦争とは何か、その様なことが何もかも分からなくなるようなラストだった。 もし、大佐がイギリス軍の作戦の意図を感じ取り、自らが精魂込めて築いた橋を自らの意志で大義のために破壊したのならば、最高の軍人として理想化されるような映画的な展開になるのだが、そのような展開にしなかったことが本作の良さかもしれない。 本作は映画らしくなく、観客に“混乱”を巻き起こすラストではないか。 自らが築いた橋を壊そうとするイギリス人に反抗するイギリス人大佐の姿、誰もが死に何もかもが破壊された姿をみて、医師同様に「狂っている」とつぶやきたくなるようなラストだった。 確かに、戦争というものは、美しい友情が築かれるものでもなく、感動的な秘話や美談が語られるものでもなく、そういう狂ったものなのかもしれない。 自分にはそこまで深いものを感じ取ることができなかったが、この不条理感は心に残り続けるだろう。
[DVD(字幕)] 6点(2011-04-23 21:48:11)
8.  勇気ある追跡 《ネタバレ》 
「トゥルー・グリット」のオリジナル作品。 ストーリーに関してはそれなりに面白く、目的の異なる三者のアンバランスさも本作に良い効果を与えているが、それほど深みを感じられない作品ともいえる。 ラストの4対1の決闘には“熱い”ものを感じるが、全体的にあっさりとし過ぎているような気がする。 原題のタイトルにあるような「本当の勇気・気骨さ」のようなものを感じ取れればよかった。 死ぬ直前でも仲間を救おうとする姿が「本当の勇気・気骨さ」というものだろうか。 西部劇をあまり見たことはないが、“深み”などというものを求めずに、こういうものと割り切って楽しんだ方がいいのか。 ジョン・ウェインをよくは知らないが、やはり存在感の高さは十分感じられ、彼の雄姿を堪能すればよいのかもしれない。
[DVD(字幕)] 6点(2011-04-23 21:35:39)
9.  エンジェル ウォーズ 《ネタバレ》 
嫌いなテイストではなかったが、「300」「ウォッチメン」の方が好きなので、評価としてはこの程度となる。 鑑賞する前は、5人の美少女が協力してキーアイテムを強奪しながら脱獄するようなストーリーが描かれるのではないかと思っていた。 実際の脱獄を描いても面白くはないので、空想的に見立てられていると思ったが、現実の世界と空想の世界があまりリンクされていなかったのが意外。 もちろんそれなりにリンクはされているのだが、結局彼女はいったい何と戦っていたのだろうという感想も出てくる。 仲間を助けることが出来れば、彼女にとってはそのようなことはどうでもいいことなのだが。 世界観については、ザック・スナイダー監督らしさが炸裂しており、彼のファンならばより楽しむことはできるだろう。 むしろ過去の原作が存在するような作品よりも、伸び伸びと自分らしさを発揮できていたような気がする。 そのため、一般向きというわけではなくなり、好き嫌いが分かれそうだ。 個人的に嫌いな作品ではないが、キャスティングがそれほど好みではなかったことが難点。 5人の美少女という設定かどうかは分からないが、肝心の5人が自分の好みとはやや異なるので、ハマるような感じではなかった。 微妙にアダルト過ぎたかもしれない。 また、5つ目のキーアイテムの謎が本作の“キー”となってもいいとは思うが、その“キー”を盛り立てるようにはなっていない気がする。 姉を助けようとするロケットの行動、仲間を救おうとする余りに取ったブロンディの行動を鑑みると、自ずと答えが導かれるようにはなっているが、“5つ目のキーは何か”ということをもっとアピールしてもよい。 ラストの頃にはすっかりと忘れかけていた(そういう演出だろうが)。 ストーリーを追う必要はないが、カメラワークを追う必要はある映画。 意外と凝った動きをしており、カメラの動きを追うのは楽しいが、しょせんCGなので深い関心はしにくい。 こういう映画こそ3Dの方がよかったような気がする。 3Dならば本作の印象ももっと変わったかもしれない。 冒頭にセリフなしでガンガン進めるような展開はユニークなので、空想世界だけではなくて、ミュージカル要素なども取り込みながら、全体的にもうちょっと自由自在に遊びまわってもよかったかもしれない。 パターン化されてしまっている。
[映画館(字幕)] 6点(2011-04-23 11:54:42)
10.  イリュージョニスト(2010) 《ネタバレ》 
ジャック・タチ監督のことも、シルヴァン・ショメ監督のことも全く知らない。 知っていることは、アカデミー賞長編アニメでノミネートされたことだけだ。 何も知らずに鑑賞してみたが、ドハマりするようなテイストではないものの、昔ながらの素朴なテイストに癒された。 また、時代に取り残されているにも関わらず、愚直なほどの真っ直ぐな生き方は、観た者それぞれが自分自身の姿と重ねあわせることができるだろう。 商品宣伝と魔術を組み合わせた新しい時代へと移行することもできただろうが、彼はそれを放棄している。 一方で、ど田舎から付いてきた娘が都会風のレディーへと成長していく、時代に応じた生き方も描かれており、二人が面白い対比となっている。 時代に抗いながら生きる愚直さも、時代に応じて生きる成長力も、どちらも否定されていないような気がする。 これらが“人生”ということだろう。 どちらの道にも答えのない人生というものが投影されている。 苦労して着飾らせた挙句に若い男に走る姿に違和感を覚えるかもしれないが、二人は恋人というわけではないのだから、裏切られた感覚はないだろう。 むしろ娘のような存在として見守っており、狭い世界に閉じ込めるよりも、広い世界へと進んで欲しいと成長を促すような感覚があったような気がする。 野に放ったウサギについても同様の感覚があったのかもしれない。 「魔法使いは存在しない」というメモも印象的だ。 我々は魔法使いではないのだから、成功できなくてもいいのかもしれない、 我々は魔法使いではないのだから、何もできなくてもいいのかもしれない、 地べたを這いつくばって生きていてもいいのかもしれない。 我々は魔法使いではないのだから。
[映画館(字幕)] 7点(2011-04-23 11:39:42)(良:1票)
11.  攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society〈TVM〉 《ネタバレ》 
3D劇場版を鑑賞。 「攻殻機動隊」については熱狂的なファンというわけではない。 「GHOST IN THE SHELL」「イノセンス」を1度見て、深夜のアニメを数回見た程度であり、細かい設定などはよく分からない。 本作に関しては、熱狂的なファンではなくても付いていけないレベルではなく、それなりに楽しめたという印象。 何よりも、3D化によって、電脳的な世界を体験することができることが一番のセールスポイントだろう。 本シリーズのファンを重視したためか、少佐、バトー、トグサ、荒巻、イシカワ、サイトー、タチコマなど、それぞれのキャラクターにそれぞれきちんと光をあてられているため、逆にストーリーの核となる主人公が不在ともいえる状態にもなっている。 その辺りが気になるといえるかもしれないが、それぞれのキャラクター“らしさ”はきちんと発揮されているのは嬉しいところ。 また、事件の犯人や核心がストーリー上ボヤけざるを得ないので、事件を解決したり、犯人を追い詰めていくような感覚には欠けてしまうが、そのようなことがメインの作品ではないので、この点も気にする必要はないだろう。 組織から離れた少佐の亡霊のような存在が高い理想と高い知能ゆえに、法律や倫理を超えて暴走するということは面白い展開。 老人問題や児童虐待問題などの解決策としては傀儡廻が考えたシステムはベストといえる選択肢なのかもしれないが、簡単に切ることの出来ない家族の絆などは、少佐やバトー、傀儡廻には理解できない感情やネットの世界だけでは築けない世界があるということだろうか。 それらを象徴的に描くために、自己を犠牲して娘を守ろうとするトグサが印象的に仕上げている。 矛盾するようだが、そのような親心を利用しようとする傀儡廻やSOLID STATEには、そのような親心を理解しているということもいえるのか。 いずれにせよ、3Dアニメとしては十分楽しめるレベルに仕上がっている。 画面を楽しめるだけではなくて、複雑な社会問題や、組織と個人、理想と現実、政治と行政などがきちんと盛り込まれており、そのような観点からも楽しむことができるといえる。 これらに対する答えはさすがに本作では明らかにすることはできない。 行き詰まっているような絶望的ともいえる世の中かもしれないが、困難を克服してくれることを子ども達へ託す“希望”のようなメッセージもきちんと込められている。
[映画館(字幕)] 7点(2011-04-16 14:36:48)
12.  ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 《ネタバレ》 
原作は当然未読。 原作に面白みがあるので、ストーリーの進行を追っていけば、前作同様にそれほど飽きることはない。 しかし、基本的にはストーリーを追っかけているだけの映画であり、映画としての質はそれほど高いとは思えない。 例えば、組織に編集部が脅迫されていたと思うが、切迫された“恐怖”というものが感じられず、追い込まれた感があまりない(怖いのは直接攻撃のヒットマンだけであり、心理的な恐怖が欲しいところ)。 また、組織についての“不気味さ”なども感じ取れない。あの程度では、ただの犯罪グループを摘発したくらいしか思えない。 とてつもない巨大な組織を相手にしているという“怖さ”がないと面白みが半減するだろう。 法廷パートにおいても、『これで勝てるのか?』というドキドキ感を生むほどの緊張感や焦燥感がない。 隠し玉がDVDくらいなのでもっと焦りが欲しく、勝負の鍵となるギリギリに掴んだ精神科医のパソコンの逆転劇を効果的に演出して欲しいところ。 しかし、ハリウッド映画のような洗練された感はないが、小細工せずにストレートに製作された映画というものも懐かしいようでありそれほど悪くはない。 ラストもハリウッド映画ならば、部屋に入れたり、キスしたりといった小細工をしそうだが、「また今度…」「きっとだぞ」と言って別れる辺りのあっさりした感じも悪くはなかった。 結局、二人の関係はメールや言葉を交わさない視線のやり取りのみであり、精神的な部分・心の中での絆は深いと思わせるものではあるが、直接的なやり取りが少なかった。 直接的なやり取りが出来ないということは、リスベットが幼い頃に受けた心の傷というものがかなり根深いということなのかもしれない。 ほとんど笑わないリスベットが笑顔を見せたのが、父親が死んだ時などの数回というのも印象的なものとなっている。 彼女は確かに勝利をしたのかもしれないが、本当の意味で勝つことは難しいのかもしれないと感じさせる。 背中のドラゴンタトゥーのように、心に刻まれた傷は消えないのか。 ただ、ミカエルだけではなくて、保険会社のかつての上司、親身になってくれた医者、疫病神、ボクサーなど、彼女を支えてくれた人たちの存在も彼女の心に刻まれただろう。
[映画館(字幕)] 6点(2011-04-16 13:21:24)
13.  ミレニアム2 火と戯れる女 《ネタバレ》 
原作は当然未読。 ストーリーの進行を追っていけば、それほど飽きることはない。 しかし、前作での見所であったミカエルとリスベットの絡みがほとんどないので、前作に比べると何かが物足りなく感じられる。 また、事件の追及方法も極めてシンプルであり、天才ハッカーという設定の割には驚くべき手法が用いられるわけではなく、この点に関しては面白みには欠ける。 さらに、肝心のオチや黒幕ザラの正体にもビッグサプライズもなければ、派手な展開が待ち受けているわけではない(壮絶さはあるが)。 全体的に、たんたんとした展開は飽きるほどではないが、やや冗長にも感じられた。 2件の殺人事件や少女売春事件もなんとなく有耶無耶に置き去りとされてしまっており、“核”がボヤけている事件を注視するのはやや疲れてしまった。 ただ、複雑そうにみえるストーリーだが、非常にシンプルかつオーソドックスな作りの上に、字幕等でキャラクター説明をしているので、ストーリーを追うことに困ることもない初心者向けの作りとなっている。 第三章の法廷篇にどのように繋がっていくのか、ハリウッドでどのように味付けされるのかは楽しみだ。 ハリウッドでは本作と同じように製作されることはなく、もっと手の込んだものとなるだろう。 それにしても“火と戯れる女”とはどういう意味だろうか。 “銃弾を受けても死なない女”“バイクに乗る女”“土と戯れる女”の間違いではないか。
[映画館(字幕)] 5点(2011-04-16 12:45:22)(良:1票)
14.  トゥルー・グリット 《ネタバレ》 
オリジナルは最近鑑賞したが、本作の方がやや好みだった。ストーリーは基本的にオリジナルと同じようなものとなっている。コグバーンとラビーフの対立がやや強めとなっており、少女のわがまま度がやや抑えられており、ラストの展開がやや異なる程度となっている。どちらもそれなりに面白いものの、どちらも感情に訴えてくるものが少ないような気がする。本作から“トゥルー・グリット”があまり感じられなかった。もちろん三者に気骨や勇気があることは疑いようがないが、特別な何かを感じさせるものが足りないのではないか。 オリジナルに忠実に描きたかったのかもしれないが、もうちょっと大胆に改良してもよかったのではないか。もっと壮絶な追跡劇にしてもよかっただろう。もっと悲惨なものにしてもよかっただろう。1969年に描けたものを今更40年経過した後に同じように描いても仕方がない。映画は止まっているのではなくて進歩しているのではないのか。 少女の成長ストーリーとしてもやや不満。自分一人の力があれば、大人も簡単に動かせることもでき、復讐も簡単にできるという傲慢でわがままで自分勝手な考えを持っていた少女が、この旅を通して協調性や自分が思うままに物事は進まない現実を学んで欲しいところだ。法律や経済や理想を振りかざす少女に対して、それらを超越した世界を体験させてもよかった。本当の勇気とは何なのか、何も考えずに進むことが勇気なのか、将来を考えて後退することが勇気なのか、ということを我々に問うてもよかっただろう。オリジナルとは異なる追加されたストーリーでは、彼女は片腕を失い、独身のままで生涯を過し、性格もあまり変わっていないようだった。コグバーンに対するリスペクトの感情を変わらずに抱いていたようだったが、果たしてそれだけで良かったのだろうか。彼女の人生は果たして幸せだったのか。 オリジナルとは異なり、『復讐には意味がない』ということを現代のテーマとして伝えても意味があるのではないかと思う。コーエン兄弟は、ラストにあえて付け足をすることで、復讐しても意味がないということを伝えたかったかもしれないが、やや分かりにくいだろう。もっと分かりやすい悲劇的なラストでもよかったかもしれないが、製作総指揮のスピルバーグが許さなかったか。普通の西部劇ならば、コーエン兄弟がわざわざ監督をする必要があったのかは疑問なところ。
[映画館(字幕)] 6点(2011-04-12 23:28:17)(良:2票)
15.  ザ・ファイター 《ネタバレ》 
ミッキー・ウォードというボクサーについての知識は全くない。 そもそもボクシングについてあまり興味もない。 全く知識もないという状態だからだろうか、逆に新鮮な気持ちで鑑賞することができた。 肝心のボクシングの試合はそれほど熱いものではなかったが、ボクシング以上に熱いファイトが見られたのは、試合以外のその他の部分である。 兄と弟、母と子、恋人と男、娘と父の関係を、リアルで生の感情をむき出しにして、熱く描かれている。 それだけリアルで生の感情が表に出てくるのは、“世界チャンピオン”という栄光が彼らにとっての“夢”であり、自己の存在価値を認めるものであり、負け犬ともいえるような人生を変えることができるからなのだろう。 どん底から這い上がりたいという願う者の気持ちが渦巻いて、一つの形として成就する姿はやはり感動的と言わざるを得ない。 もろい物であり、円滑に働く物でもないが、それぞれの絆の深さ、太さが感じられ、“家族”という存在の大きさが浮き彫りとなっている。 ボクシング映画でありながら、ボクシングの試合がイマイチ盛り上がっていなかった気がするが、「ロッキー」のような映画ではないので、ボクシングの試合がやや地味でも仕方がないだろう。 現実に存在した選手の試合であり、試合を盛り上げようと思って、変な演出をしない方が逆によかったかもしれない。 試合よりも人間ドラマに重きを置いた監督の戦略でもあるだろう。 クリスチャン・ベールはアカデミー賞受賞も納得の演技。 最後に本人が出てきたときは、ほとんど同じ人としか思えなかった。 ただ単に似ているだけではなくて、登場人物の全ての者に影響を与えるほど、本作において重みがあり、本作の影の主役と言っても過言ではないだろう。 マーク・ウォルバーグもアカデミー賞から無視されたことが納得できる。 実際にファイトするのは本人なのだが、主役でありながら、板ばさみ状態で一番感情を押し殺さなくてはいけない損な役回りを引き受けたともいえる。 プロデューサーでもあり、仕方がないか。 カメラワークもなかなか凝っており、この視点からも楽しめるだろう。 久々に聴いた「ホワイト・スネイク」の曲も熱くなった。 タイトルは「ザ・ファイター」とシンプルだが、ミッキー・ウォードという固有名詞を使うのではなくて、戦っているのはボクサー一人ではないということを込めているのかもしれない。
[映画館(字幕)] 8点(2011-04-02 23:04:17)
16.  アンチクライスト 《ネタバレ》 
きちんと内容を理解できていないのかもしれないが、それほど衝撃的な作品とは思わなかったということが正直な感想。 本作に描かれている内容を言葉では上手く表しにくいが、人間(特に女性)の“本質”のようなものを感じ取れればよいのではないかと思う。 三匹の乞食、森に対する恐怖、靴を逆に履かせる行為、ドングリや手についていた変な虫などは理解しようと思えばできるかもしれないが、放って置いても構わないと思う。 そのようなことよりも自分が感じたことは、性と暴力が人間の“本質”ということだ。 自分の赤ちゃんが危ないことに気付いたのにセックスを優先したということか。 そうなると、激しく後悔する理由や自傷行為などの理由が分かり、本能と理性が絡み合ったカオス的な作品となっている。 ただ、人間の“本質”をきちんと描いてくれれば分かりやすい作品になったかと思うが、サタンや虐殺などに触れられるとやや分かりにくくなってしまう。 分かりやすい作品を作っているわけではないので仕方はないが、全体的にまとまり感がないという印象。 好きな作品というわけではなかったが、トリアー監督作品は悲劇的な内容にも関わらず、逆に変な心地よさも感じられる。 心地よさという表現が合っていないかもしれないが、不思議と居心地の悪さはそれほど感じられない。 映像美や音楽の効果ということもあるだろうが、それだけでもないだろう。
[映画館(字幕)] 6点(2011-04-02 22:15:46)(良:1票)
17.  シリアスマン
面白いけれども、何が面白いのかよく分からない映画。 捉えどころが難しい映画であるが、不思議な魅力のある映画といえるかもしれない。 理不尽な出来事の全てがシリアスなものではあるが、癖のあるユニークなキャラクター、シニカルな内容のためかシリアスになれないようになっている。 映画自体は実は相当に深いのかもしれないが、「シリアスマン」はシリアスに見る映画ではないだろう。
[映画館(字幕)] 7点(2011-04-02 21:42:33)
18.  アレクサンドリア 《ネタバレ》 
“宗教”と“学問”という難しい題材を扱っている割には、古代のエジプトで活躍した一人の女学者の生涯を通して比較的分かりやすく感じ取りやすい作品に仕上がっている。 ただ、“宗教”と“学問”を中立的に描くわけではなくて、“宗教”には人を救う力、人を導く力があり、貧者にパンを与えるシーンを象徴的に用いて宗教の優れた面を描いている一方で、“宗教”を“争い”“対立”“偏見”の種のようにかなり否定的に捉えており、“学問”を非常に高貴なものと捉えすぎているような気がする。本作には、宗教にしがみつくことを否定するような啓蒙思想的な面がみられる。 もっとも歴史的に見ても、宗教が“争い”“対立”“偏見”の引き金になっていることは否定しようがなく、キリスト教徒とユダヤ教徒が争い合い、そして同じキリスト教徒同士も争い合う姿を見ると、宗教とは何かということを考えざるを得なくなる。宗教は人を幸せにするものであり、宗教自体を否定することは難しいが、なぜ信仰する神が違う者同士が共生することができないのかと思う。 宗教は、貧者を救うことは出来ても、愛する者や一人の女性すら救うことは出来ないということが、本作の伝えたい大いなる“矛盾”といえるだろうか。ただ、元奴隷のダオスは彼なりの方法において、あのような形となっても彼女の魂を救うことが出来たといえるのかもしれない。“愛”は“宗教”を超えるということか。 “宗教”を醜く描く一方で、“学問”を追究しようとするヒュパティアの姿勢がより美しく描かれている。醜い宗教間の争いとは離れた次元において、一人(仲間がいるが)宇宙の真理を探究しようとする姿には心が打たれる。地動説や、ケプラーの楕円軌道の法則を常識的に知る我々にとっては、ややもどかしいところがあるが、当時の学者や哲学者の苦心する姿をしのぶこともできる。宗教に固執する人間をアリのようなちっぽけな存在、宇宙の片隅の小さな小さな場所における醜い争いとして描き、宇宙からのシーンを多用することで、宇宙規模の大いなる真理や法則の大きさを対照的に象徴的に描き出している。 通常の歴史作品という見方もできる一方で、一人の女性が生きた証というヒューマンドラマや“宗教”と“学問”という現代の我々にも身近に感じることができるような深い作品にも仕上がっているといえるだろう。他の作品とは異なるようなアプローチは評価できるかもしれない。
[映画館(字幕)] 7点(2011-03-27 23:04:04)
19.  ツーリスト 《ネタバレ》 
オリジナルのフランス映画「アントニー・ジマー」は未見。デキの良くない駄作という事前情報を得ていたので、思いっきりハードルを下げて、「どんな駄作を見られるのか」という楽しみすら期待していた。ハードルを下げ切っており、恐ろしく古臭いセンス、間抜けな警察、間抜けな組織についても笑えるような状態だったためか、意外と普通の仕上りとなっており、逆の意味で期待を裏切られた。もっとトンでもない映画を見られるかと思ったが、よくあるような普通の古典的な作品だった。バレバレのネタを追認するだけの作業に過ぎず、アンジェリーナ・ジョリーが相変わらず美しいということ(痩せ過ぎでちょっと怖いようなところもあるが)以外には、ほとんど心に残らない作品となっており、もちろん素晴らしいと評価することはできない。 本作の決定的な問題はラストのオチだろう。全てを観客に明かすという愚行を犯している。ハリウッド大作映画を任されて、若いドイツ人監督は観客のレベルを低く設定したのだろうか。本当のプロならば、幾通りの解釈ができるような余地でも残しておいて欲しかったところだ。ハリウッド映画なので曖昧にするのが嫌だとしても、考えられ得るケースにおいて一番最悪なチョイスをしたという印象。フランクが実はただのツーリスト案、全てフランクとエリーズの共謀案よりも酷いチョイス。観客には正体を明かしてもよいが、エリーズには正体を明かす必要はないのではないか。個人的には、ある時に彼女の本当の素性を知り、恋愛と任務の板ばさみから彼女を開放するために、彼女には秘密に一芝居を打つこととして、迫り来る組織を自分の手を汚すことなく片付ける、彼女から共犯者という汚名を晴らす、警察の捜査を打ち切らせる、彼女から本当に愛される、犯罪とは無関係の彼女との新たな生活を手に入れる、という一挙両得の計略を用いたというような解釈ができればよかった。新たな顔、新たな人生を手に入れて、男性は完全に女性を騙したと確信しているが、女性はその嘘を知りながらも黙っているといった解釈がさらに出来るような男女の奥の深い関係や、愛する男がいるのに別の男に惹かれる、愛する男がいる女を惚れさせようとする男女の駆け引きのようなものを描ければよかっただろう。 「大金を掛けてその程度にしか整形できなかったのか」という皮肉的なセリフも面白味はあるが、ラブストーリーとしてはこれでは浅すぎた。
[映画館(字幕)] 6点(2011-03-08 23:35:16)(良:1票)
20.  英国王のスピーチ 《ネタバレ》 
心に響く作品となっている。派手さがある作品ではないが、“重み”のある作品に仕上がっている。ストーリーは展開に大きな動きのあるものでもなければ、単純に感動を煽るようなものではなくて、シンプルに構成されているので、アカデミー賞を受賞した傑作の感動作という印象とはやや異なるものの、最後のスピーチに全ての想いが結実されており、評価通りの良作といえるだろう。国民を守る王として、一緒に戦ってくれた友の期待を応える者として、自分を影から支えてくれた妻をもつ夫として、幼いながらも父を理解してくれる2人の娘を持つ父として、あのスピーチにはを感じられた。様々な想いの中で、様々なプレッシャーの中で、紡ぎ出される一つ一つの言葉には心を動かされざるを得ない。 また、王室としてのプレッシャーや、難局を迎えた王の地位としての“重み”もあった。兄の退位による戴冠、戦争を迎えるという状況がマジメな彼をさらに追い込んだように思えるが、マジメさとユーモアさを兼ね備える彼だからこそ、この難局をも乗り越えたように思える。ジョージ6世が最後までローグをライオネルと呼ばなかったように思えたが、果たしてどうだったのだろうか。もしそうならば、ジョージ6世らしさがよく出ていると思う。王という地位の重さを知るジョージ6世だからこそ、対等な立場で付き合いたくてもそれを許せなかったのだろう。王の代わりに王妃がライオネルと呼ぶ展開も、王の気持ちを痛いほど分かる妻の気持ちが込められているように感じた。それだけ威厳が必要な王だからこそ、逆にライオネルは王と対等の立場で向き合わなくてはいけなかったのだろう。対等の立場に立たないと、悩みを抱える者の真の心の声は聞こえないのかもしれない。彼は、戦場で傷ついた兵士にも、小さな子どもにも、対等な立場で向き合ったのだろうと思われる。王としての立場を守らなくてはならないジョージ6世と、対等の立場で問題を解決しなくてはならないライオネルとのベクトルの違いというものも本作をより深く、より面白くさせている。最後にライオネルがバーティではなくて、陛下と呼ぶことで、さらに深みが増している。 とてつもないプレッシャーの中で吃音症を乗り越えたのだから、現代に生きる我々が抱えるプレッシャーというものも、周囲の助けがあれば、乗り越えられないわけがないということももちろん描かれているように感じられる。
[映画館(字幕)] 8点(2011-03-01 23:11:46)
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