301. 怪談(1964)
色彩が言葉に表し難い素晴らしさであり、容赦ない厳しさと幻想が混ざり合った光景が、触感にまで迫ってきます。そして、登場するそれぞれが抱く無念の計り知れない深さも胸に押し寄せてきました。スタッフが作り上げた極上の舞台で豪華役者陣が入魂の演技を見せる。相乗効果が傑作を生み出しており、映画という文化の良さを実感させられる作品です。肩透かしを受けた四話目が割愛されていれば満点でした。 [映画館(邦画)] 8点(2009-09-16 17:49:36) |
302. ハスラー
勝負、人間模様、恋愛模様、何れも雰囲気は漂いながら今ひとつ惹き込まれていけないもどかしさを感じる作品でした。 [DVD(字幕)] 5点(2009-08-23 16:09:34) |
303. 刑事コロンボ/殺人処方箋<TVM>
《ネタバレ》 若さ故か、とげとげしさばかりが感じられる警部に違和感がありました。見事な犯人ですが同じ気質を持っていない共犯者はさっさと始末しなければいけません。案の定、そこを責められてお縄になってしまったのが物足りませんでした。シリーズの魅力である警部の反則ワザ、これにもとげとげしさを感じました。 [DVD(字幕)] 6点(2009-07-06 04:53:58) |
304. アラバマ物語
《ネタバレ》 あのような判決がまかり通る事に、文明国家の秩序は法によって守られ、法は正義に基づくものであり、正義は万民に共通するものであるはずが、人間の持つ弱者への偏見、損得勘定、不正直によって正しくない結論が導かれるのだと思い知らされます。狂犬以下の父親の死に対して、誰も裁かれないという結末は、自業自得であるという感情が湧き上がると共に、神が下す天罰を人間が下すこと、法に妥協しても目には目を、やられたらやり返すアメリカという国の考え方が見え、すっきりしない後味が残りました。 [DVD(字幕)] 7点(2009-05-12 01:20:24) |
305. 太陽がいっぱい
《ネタバレ》 本作をたまたまテレビ鑑賞したことがきっかけで映画の世界に引き入れられ、アラン・ドロンに中学生になるまで夢中になりました。約40年を経ての鑑賞です。当時は理解できなかった「太陽がいっぱいだ」という一言から満ち足りた表情で電話の呼び出しに向かうラストシーン。夢と命の終焉を告げる音楽はやはり切ない響きがありますが、「願いが成就した時が終わりであること」の幸福さを感じました。陽の光を浴びたいという狂おしい程の一念を青い瞳に宿したアラン・ドロンは今観ても一世一代の名演技でした。 [DVD(字幕)] 8点(2009-05-10 23:57:07) |
306. シャレード(1963)
予備知識はヘップバーン出演と音楽。初鑑賞。25万ドルの行方は、犯人は、2日間で3回名前が変わるグラントの正体は?全貌が明らかになるまでの展開は見応えがあり、マッソー・コバーン・ケネディの一癖も二癖もあるキャラクターの味わい深さも併せて、サスペンスものとして見事な出来映え。一方、作品の最大の魅力であろう主役二人のロマンス部分は、小粋な会話が上滑りしているように感じ、いまひとつ。その部分を差し引いても作品全体としては満足のいくものでした。センスの良いオープニングとエンディングが印象に残ります。 [DVD(字幕)] 7点(2009-05-03 16:11:01) |
307. 赤い殺意(1964)
《ネタバレ》 初めて観ました。貞子、その亭主、貞子にまとわりつく男、亭主の愛人、それぞれ個性が際立った4人が織り成す人間模様の生々しさは、手に汗が滲むものでじわりじわりと画面に引きずり込まれてゆきました。従順で愚鈍な貞子は哀れみを誘いますが、なかなかどうして、打たれ強く生きる女性だったのです。依存するだけの男と中途半端に利口な愛人が共に自滅してしまったのとは対照的です。写真を見せられてもシラを切り通す貞子の姿は圧巻でした。誰が誰を手にかけるのか?と数多の想像が空振りしてしまった結末は、妻を露骨に使用人扱いする嫌らしい亭主の立場が将来は逆転するであろう事が想像されるもので、私の考えは浅いと思わされるものでした。 [映画館(邦画)] 8点(2008-11-02 20:38:07) |
308. 飢餓海峡
《ネタバレ》 三時間の長さを全く感じなく、片時も目が離せませんでした。十年ぶりに再会したシーンに考えさせられます。願いを叶える事を心の支えに生きている時の幸せは成就した時に終わりとなる。ままある事なのでしょう。犬養の涙は八重を思ってのものではなく自身を思ってのものでしょう。犬養の自ら幕をひいた行為に、人の一生は大小の差はあれ飢餓の中で過ごすものであり、如何なる時においても貪り尽くす行為は身の破滅を招く事を知らしめられます。日本映画ここにありの作品です。 [ビデオ(邦画)] 10点(2008-03-16 11:36:02) |
309. 斬る(1962)
《ネタバレ》 冒頭のただならぬシーンから一気に惹きこまれ最後まで画面に釘付けとなりました。実の両親、旅で出会った女性の非情な最期に潔く臨む姿に心打たれてしまいます。出生の秘密を知り、慈愛に満ちた養父の仇を斬った時点から信吾の最期が予感され、養父と同じく慈愛に満ちた大目付が謀に倒れる一連のシーンでのウグイスの鳴き声にいよいよかと覚悟してしまいました。信吾が懸命に大目付を探す城内の無人で異様な静けさにこの上ない非情さを感じました。「わが剣を破る者があれば、剣とともにわたくしも滅びたい」の願いが叶わぬとも潔く果てた姿に感服しました。 [DVD(邦画)] 8点(2007-12-22 00:08:00) |
310. シンシナティ・キッド
エドワード・G・ロビンソン目当てでの初の鑑賞でしたが充分に満足できました。若き日のロビンソンが重なり合う、度胸満点で向こう見ず、野心に満ちたキッドを演ずるマックィーンに相対した姿に、歳を取ってしまったのではなく、歳を重ねた者が持つ凄みを見ました。大勝負の駆け引きは無論のこと、男と女の駆け引きも見応えがありました。そして、舞台となったニューオーリンズ、惹かれるものがありました。一度行ってみたいです。 [DVD(字幕)] 8点(2007-05-31 16:16:25) |
311. コレクター(1965)
屋敷内における犯人と被害者。被害者の心中「生きて此処から帰りたい」は手に取るように解るのですが、犯人の本心が奈辺にあるのかを読み取ろうとしても彼女同様に解りません。物語は二人以外のシーンは最低限にとどめ(各シーンの的確さが見事)進んでいきます。一瞬たりとも目が離せず緊張感に息苦しさが増していきます。解り得なかった犯人の本質が、相手が死ぬかも知れない状況でとった二人の行為の違いで垣間見え、ラストシーンで剥き出しにされます。ここで初めてタイトルの意味を思い知らされ、言いようのない恐ろしさを味あわされます。観る者を捕らえて離さない見事な作品でした。 [DVD(字幕)] 9点(2007-03-05 13:34:01)(良:1票) |
312. あなただけ今晩は
生真面目で気弱で野暮ったい、情けなさ溢れるネスターに失笑の連続です。しかし、物語が進むにつれ、軽蔑が憧れに変わりました。イルマに惚れる姿の中に見える、内に秘めた一途な想いの振りかざし方に男らしさを感じるのです。私の憧れの男性の一人で、イルマが羨ましくて仕方ありません。胡散臭さの中にも優しさの滲み出るマスターも物語に不可欠の存在でネスターとのコンビは絶妙です。爆笑の連続の中にホロリとさせられる大好きな作品です。 [ビデオ(字幕)] 9点(2007-01-27 09:30:00) |
313. 昭和残侠伝
昭和残侠伝シリーズは小学生の頃、テレビで父と一緒によく観ました。登場人物とストーリーの細部は忘れましたが「親にもらった大事な肌を・・・」の歌をバックに健さんが単身敵地に向う道すがら池部良と合流し並んで歩くシーンは歌詞共々覚えており、毎度毎度池部良のカッコよさにメロメロになったものです。何十年か振りかの鑑賞でしたが、前奏が流れただけで鳥肌が立ちました。本作ではお馴染みの二人以上に江原真二郎に魅了されました。優男が見せる滅びの美学に、不覚にも涙ぐみそうになってしまった私は、いい歳になってもシビアに物事を考えられない甘ちゃんなのだと感じました。 [DVD(邦画)] 7点(2007-01-18 18:35:22) |
314. 氷点
『汝の敵を愛せよ』は人を責めない事に通じる事で、その困難さと尊さを辻口一家から感じます。川べりの陽子の姿に「そんなに何回も飲んだらあかん、死んでしもたらあかんがな」という思いと、太陽の如き彼女の心を凍てつかせた、啓造の偽善者振りと「女は子宮で物を考える」という妄言も止む無しの夏江の浅はかさに、沸点の低い自分は腸が煮え繰り返りました。葛藤の末彼女を兄として愛した徹のためにも死なないで欲しいと祈り続けました。本作のテーマである『原罪』という考え方には納得出来ません。罪は犯した時に責任を取り背負うものであって、生まれた事が罪ではないと考えます。原作を読んでみることにします。 [DVD(邦画)] 7点(2006-11-28 01:22:02) |
315. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
《ネタバレ》 核の抑止力を痛烈に皮肉っています。計り知れない自国民の被害を容認できない出来ない事で成り立つ均衡。その均衡が崩れる事は起こり得ないのか? 本作では一狂人が破滅の引き金を引き、一握りの政府高官が回避にあたります。大小取り混ぜたギャグで笑い飛ばしながらも、容赦の無い視線で登場人物を描き、一度もブレーキを踏まず、アクセルを目一杯踏み込んだラストシーンに至る展開。1964年に世に送り出した監督の凄みと心意気に脱帽です。昨今の核にまつわるニュースに鬼才の名作の不滅さを感じてしまいます。ところで、事情を知らずに一人三役と分かる者はいないのではと思うピーター・セラーズのプロフェッショナルな仕事振りにも脱帽ですが、監督が三役(当初は四役を打診したそうです)をさせた理由が分かりません。引き続き考えます。 [DVD(字幕)] 10点(2006-10-20 02:16:54) |
316. 暗くなるまで待って
《ネタバレ》 恋愛物だと思っていたのにサスペンス物であった事に驚き、鑑賞後「面白かった、観てよかった」と満足の出来た作品でした。限られた舞台設定での巧妙に伏線が張られた脚本と、スージーの抱いた疑念が確信に変わって圧倒的不利の状況から活路を開いてゆく、めりはりの効いた展開に知らぬ間に物語にぐいぐい引き込まれていきます。また、淡い感情を抱きながらスージーと対決する甘ちゃんな悪党マイクと、あとに続く、スージーと観る者に「お楽しみはこれからなんだよ」とばかりにサディスティックに迫る正真正銘の悪党ロートの二人は刺身と刺身のツマの様でうまいキャラクター設定です。このクライマックスは見応え十二分の一進一退の攻防でしたが、惜しむらくはロートが致命傷を負うシーンです。もう一捻り効かせて欲しかったです。 [DVD(字幕)] 7点(2006-06-17 23:01:54)(良:2票) |
317. 兵隊やくざ
《ネタバレ》 敵軍との戦闘シーンがない代わりに部隊内のリンチ、それに対抗する大宮の大立ち回りシーンが満載です。これらの理性のカケラさえない有様は、もともと狂った行為である戦争に輪をかけて狂った呆れるものです。大宮が一人でいくら暴れても白けてしまいますが、有田との二人三脚ぶりが絶妙で、筋の通らない事は断固受け入れない二人の姿は見ていて溜飲が下がります。ただ、ラスト走り去る二人を見ていて、切り離された車両に残った者のその後を思うと、小骨が喉にひっかかるようなすっきりしないものを感じ、諸手を上げて万歳という気分にはなれませんでした。 [DVD(字幕)] 6点(2006-02-07 21:11:13) |
318. 座頭市の歌が聞える
絶対勝つ。今の暮らしを抜け出し、再び、二人で幸せを掴むために。市との対決での気迫、叶わなかった空しさを感じますが、前回の涙しかけた天知茂の心模様に比べ、今ひとつ自分には響いてきませんでした。代わって、市と琵琶法師、市と少年の絡みが印象に残ります。強さに憧れる少年。欲望のため弱い者を痛めつけて屈服させる強さと、無やみに力を示さず、ここ一番の時に弱い者を、我が身を守る強さ。どちらの道に少年を導くかはお前次第と法師に説かれた市が少年に違いを言葉ではなく身をもって教えます。子供は親のする事を見て育つ事を端的に示してくれた作品でした。 [DVD(字幕)] 7点(2006-01-10 21:53:02) |
319. 続・座頭市物語
兄との確執が見所でしょうが、兄のキャラクターが善人でもなし、悪人といっても悪の凄味も魅力も漂っていない中途半端さで、対決と最期を看取るシーンにも迫ってくるものがありませんでした。脚本が練れていないので、平手造酒の供養や軽薄さ溢れる飯岡の親分のシーンも空回りしているように感じました。何より、市が狙われる理由があんまりだと思いました。 [DVD(字幕)] 5点(2005-12-05 23:03:38) |
320. 謎の要人悠々逃亡!
《ネタバレ》 孤高の博士の、誰に対しても遠慮のカケラのない、人の気持ちを斟酌する事も全く無い、人を見下した言動は鼻持ちならないです。彼は悠々と逃亡しましたが、多くの協力者の必死のサポートがあればこそで、ドイツ軍の間抜けぶりもあり、白けた思いになりました。しかし、ラストシーンが救ってくれました。三人との再会を喜ぶ心からの笑顔に、普段は出し惜しんでいるかのような感情を持ち合わせていた事にホッとしましたし、収容所所長との再会を懐かしみふざけ合う姿に、戦争とは個人的に何の恨みも無い者同士が敵味方に分かれて角突きあわせているだけなのだという事を思い出させてくれました。愚かな事態であって、何時までも暴力の応酬を止めず、遺恨を次の世代に伝えていくのは悲惨な事ですね。味わい深いラストシーンでした。 [ビデオ(字幕)] 6点(2005-05-04 21:37:47) |