21. フード
《ネタバレ》 食べるという行為は、生きるために他の生物の命を頂くことである。 これが"美食"とくれば、ファッション感覚のグロテスクなものに変貌していく。 お互いのゲロを食い合うも当然な"朝食"、 弱肉強食の本質を暴いた"昼食"、 等価交換を究極的に誇張した"夕食" よくこんなことを思いついたものである。 それでも食べていくために動植物を殺し続けなければならないのが人間であり、業そのものだ。 [DVD(字幕)] 8点(2022-07-05 23:46:02) |
22. 悦楽共犯者
《ネタバレ》 シュヴァンクマイエルが行くところまで行ってしまった自己満足映画…と言いたいところだが、 6人それぞれの突き抜けた性倒錯ぶりを傍から見るとやはり滑稽で最後まで目が離せない。 個人個々で始めたはずが次第に他の人にも影響を与え、 メタ的な意味で視聴者も巻き込んでいく意味で確かに『悦楽共犯者』だ。 本作にシンパシーを感じたのであれば、誰かの性癖も犯罪行為でなければ否定しないでおきたい。 気に入らないものを排斥するお気持ちクレーマーが憚る世界なのだから。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-07-05 23:25:50) |
23. アモーレス・ペロス
《ネタバレ》 冒頭のカーチェイスから鷲掴みにされる。 荒削りでギラギラした熱情の一方で冷徹な眼差しのコントラスト。 タランティーノの乾いた暴力とポール・トーマス・アンダーソンの濃厚な悲喜劇の融合だ。 しかし、あくまでイニャリトゥ特有の辛苦さがねっとりしたメキシコの空気を支配する。 三度繰り返される交通事故が及ぼした人間模様はあまりにも容赦なく、もう取り返しのつかない喪失感を際立たせる。 「それでも人生は続く」。 これが監督の取り組む一貫したテーマである。 犬と共に何もない荒野を前に一歩一歩踏み締める姿に、生きる強さを感じざるを得ない。 兄嫁に見放された青年も生きていく。片脚を失った元モデルも生きていく。 絶望を超えて達観している。 [DVD(字幕)] 7点(2022-05-28 00:13:52) |
24. プライベート・ライアン
《ネタバレ》 初見の衝撃は想像を絶する。 痛覚を刺激する無残な戦闘描写にしろ、 一人の若き二等兵を救うために築かれたような死体の山と血の海にしろ、 戦争という不条理をそのまま突き付ける。 しかしこれは反戦映画ではない。 かと言って好戦映画でもない。 戦争そのものをただ描いたにすぎない。 名のある一兵士の他につまらないことで死んでいく無常の人もいるだろう。 それでもどういう境遇にしろ多くの犠牲によって現在の平和がある。 過去を忘れない。 それこそが戦死した名もなき兵への鎮魂歌であり、被害を拡大させない抑止力ではないか。 平和は憲法で守られるほどタダではない、必ずどこかで綻びができる。 最初と最後の星条旗にアメリカに問い続ける。 本当の正しさを問い続ける。 [DVD(字幕)] 7点(2022-05-27 23:54:11) |
25. グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち
《ネタバレ》 過去の出来事に深く傷ついたことから、自分を曝け出すことが出来ず、人に当たってしまうあたりはあるあるすぎて、自分の人生を生きることがどれだけ難しいのかを印象付ける。マット・デイモンと衝突しながらも父親のような眼差しで見守るロビン・ウィリアムズに、主人公とバカやりながらも才能を無駄にせず飛び立って欲しいと願うベン・アフレックが良い。本で世界を知っても、実際に行動しなければ世界を知ったことにはならない。でなければチャンスは永遠に失われてしまう。彼が再起して社会的成功者にならないかもしれない。でも、初恋の女性との未来はきっと明るいはずだ。 [地上波(字幕)] 7点(2022-03-24 22:45:45) |
26. 桜桃の味
《ネタバレ》 点数付けづらい…。男が何故自殺をしたいのかは判明されず、そこはマクガフィンだとしても全編単調な作品なため睡魔との闘いになる。唯一引き締まるのは老教授の説教であり、宙ぶらりんなラストもまた衝撃である。そこで伝えたいことが嫌味なく自然体で集約されていたから。 [ビデオ(字幕)] 5点(2022-03-14 22:35:23) |
27. クール・ランニング
《ネタバレ》 作品のテンポ優先で登場人物の描き込みは説明不足に陥らないよう必要最低限に留め、楽観的で明るくて王道な作劇は良くも悪くもディズニーらしい。新たな挑戦を嘲る者たちが最後に彼らの健闘を称えるありきたりな美談も、ストレートで誠実だからこそ受け入れられる部分がある。見ている間、マイナス要素をあまり気にさせないのはジャマイカ特有の底抜けの明るさがあったからか。実話という免罪符で大幅に脚色しているため実話の映画としてはイマイチだが娯楽映画としては合格。映画をあまり見ていない層にも薦められる。 [地上波(字幕)] 7点(2022-02-12 20:55:08) |
28. ユージュアル・サスペクツ
ラストが全てな映画。それゆえ、退屈な過程に時間を費やさなければならないわけで。しかも、そのラストが今までの過程を蔑ろにするような形だったので、悪い意味で騙された。二度目見たら、評価が変わるかもしれないが。 [DVD(字幕)] 3点(2022-01-09 01:13:52) |
29. 羊たちの沈黙
中学生の頃に何度も見た作品。顛末が分かりきっても最後まで緊張感が途切れない。ドキュメンタリータッチで描かれる猟奇殺人の異常性もさることながら、それが霞むほどのアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士の存在感。短い出演時間ながら、窪んだ目といい、全てを見通す頭脳と紳士さといい、牢獄の鉄格子の奥にいるからこその凄みと恐さがある。ジョディ・フォスターとは対をなしてコントラストが効いていた。以降のシリーズが尻すぼみになってしまったことを考えると、『セブン』と並ぶ、映画史最後のサイコスリラーではないか。 [DVD(字幕)] 10点(2022-01-09 01:07:41) |
30. セブン
《ネタバレ》 世界は不条理の塊だ。意識しなくても誰かと関わって傷つけ、知らずに自分に返ってくる。テレビに映る遠い世界の悲惨なニュースを、画面越しにワイドショー感覚で見ている人は少なくない。ただ、それが自分に及ぶことになってしまったら・・・。ジョン・ドゥは究極の選択を迫ってくる。誰だって人の子なのだからミルズの選択を責められない。そうやって不条理な世界が形作られている。サマセットは引用する。「ヘミングウェイはこう言う。『人生は素晴らしい、戦う価値がある』と。俺は後者に賛成だ」。こうでも言い聞かせないと、不条理な世界に気が狂ってしまう。 [DVD(字幕)] 9点(2021-12-25 00:05:14) |
31. パルプ・フィクション
最初見たときはただ喋っているだけでつまらない映画だと思っていた。時が流れ、映画鑑賞経験を積んだ上で再見すると、改めてその面白さに気付く。クールとは無縁の恰好悪い殺し屋はいるしトイレで用は足す、どうでも良い無駄話に花を咲かせる。それなのに登場人物も小ネタの数々も全て愛おしく、魅力的で可笑しくて、ここまで来ると突き抜けてクールさも感じてしまう。特にチーズバーガーと5ドルシェイクは飯テロにも程がある。パルプロールのように永遠に廻り続ける仕様もない物語は、浅いようで深く融け込んだアメリカ文化そのもので新しい発見だらけ。埋もれて消えていったB級映画のように、「こういう映画があっても良いんだ!」とタランティーノは熱弁する。噛めば噛むほど味の出るスルメみたいな傑作。 [DVD(字幕)] 9点(2021-12-25 00:01:13) |
32. ホーム・アローン
悪童vs泥棒コンビの仁義なき戦い。多くのことは既に語られているので割愛するとして、やりすぎとも言える泥棒への扱いはかなりギャグ漫画的で変にリアリティがないだけ許容範囲であり、ドタバタコメディのツボを的確に押さえる。また細やかなところでは、一人になってしまった設定の説得力や家族の向き合い方にハッとするものがあって、改めて映画の出来の良さに感心。それだけ30年前の映画なのに古臭さを感じられない普遍性があった。 [地上波(字幕)] 7点(2021-12-24 23:59:05) |
33. フロム・ダスク・ティル・ドーン
《ネタバレ》 ロドリゲス監督の悪ふざけと勢いが最高潮に達したのはこの作品ではないか。奇才の仲間入りを果たしたタランティーノと共に、向かうところ敵なしのやりたい放題のオンパレード。前半の緊張感溢れるクライムサスペンスの形を成しながらも、後半のバンパイアホラーは反則としか言いようがない。でも、この馬鹿さ加減、嫌いではない。見る前に某ハンドブックでネタばれされていたのが惜しい(でなければ興味持たなかったかも)。記憶を消して、後半のぶっ飛び加減を共有してみたい。 [DVD(字幕)] 8点(2021-12-02 21:20:13) |
34. ミラーズ・クロッシング
いきなり鷲掴みにされるオープニングに、スタイリッシュな画面構成で綴られる銃撃戦と二転三転する展開、裏切りが繰り広げられるマフィア映画にどこかとぼけた味があり、唯一無二の独特な雰囲気が形成される。この地点でコーエン兄弟の美学が完成されていて初期作品では完成度が高い。佳作には違いないが、そこまで記憶に残らないのは話があまりに入り組みすぎていたかと。 [DVD(字幕)] 7点(2021-11-05 22:26:29)(良:1票) |
35. ゲーム(1997)
《ネタバレ》 遠い昔に見たことあったが、『セブン』を絶賛した自分には「こんなオチあり?」と憤慨した(当初はバッドエンドだったらしい)。それからこの映画の内容を忘れた頃にネトフリで配信していたので再見したら・・・意外と面白かった。ツッコミどころ満載だし、あまりにも回りくどい最高クラスのドッキリを完投するの、さぞや大変だっただろう。そう思うとスタッフたちのドッキリ後のバカ騒ぎに清々しさすら感じる。主人公は人間不信になり一旦"死んで"、新たな自分に生まれ変わるまでを見つめていく。そういう楽しみ方で良いと思えてきた。できれば仕掛ける側の視点で見てみたい。予想外のアクシデントと悪戦苦闘の数々に笑ってしまうから。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-11-05 21:26:07) |
36. シックス・センス
"衝撃の結末"と話題になったもののそれは装飾にすぎず、オカルトホラーと見せかけて、登場人物の葛藤と救済を描いた、真っ当なヒューマンドラマとして仕上げたところが良ポイント。その後、シャマランは変に奇をてらって、本作を超える佳作を未だ作れていない。多分に本質はあちら側で、偶然マッチした産物なのかなと思ったりする。 [ビデオ(字幕)] 7点(2021-09-30 22:43:25)(良:4票) |
37. もののけ姫
《ネタバレ》 当時の宮崎駿による集大成であり、今後のジブリの方向性を決定づけたターニングポイント的作品。昔はシリアスで難解というイメージがあったが、久しぶりに見てみると意外にシンプルな筋書きであることに気付く。自然と人間との共存はナウシカにもあったが、綺麗事や善悪の二極化は鳴りを潜めている。必死に生き抜こうとする市井の逞しさと生活臭漂うリアリティが時代背景に厚みを生み出し、スムーズに物語を受け入れることができた。生きるため善意のための行為もどこかで犠牲を生み出し、度が過ぎればその対価は大きくなる。必要悪と絶対悪の違いでしかない。それに気付けない人間の愚かさと業を描きつつも、答えもなく矛盾だらけで、それでも距離を置きながら未来を模索するアシタカとサンの対話が味わい深い。 [地上波(邦画)] 7点(2021-08-15 23:57:21) |
38. ターミネーター2
《ネタバレ》 30年経っても色褪せないのは、現在でも通用する特殊効果だけではなく、前回で悪役だったT-800の立ち位置に他ならない。サラ・コナーとの敵対と、ジョン・コナーとの疑似的な父子関係とも取れる友情。その歪な三角関係で生命金属のT-1000に立ち向かうのだから、面白くないわけがない。人間性もないようなT-800が交流を通して、どこか人間味を感じさせるあたり、そしてサラが仇だったT-800との和解に深い感動を覚える。発端となったチップを壊しても、未来からカイルとの間にジョンが存在する限り、あの戦いは終わらないだろうと思いつつも、この先の物語は見たくないくらい完璧なラストだったとしか言いようがない。 [DVD(字幕)] 9点(2021-08-06 22:18:31) |
39. ガッジョ・ディーロ
欧州に旅行した者にとってロマはあまり良いイメージはなく、倫理観で相容れない部分が根底にある。もちろん本作はそれを問う内容ではない。母方にロマのルーツを持つ監督なだけに、排他的なコミュニティで暮らす彼らがどんな文化と歴史を持ち、どんな生活をしているかを知るには打ってつけである。ユダヤ人みたいに豊潤な資金も権威もなく、差別と迫害の歴史を感情豊かに音楽に織り込み、笑顔で今を生きていく力強さを感じる。主人公とヒロインを除くロマは本物で、喜怒哀楽を全身で表現するイジドールは演技の域を超えており、アカデミー賞レベルだった。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-07-14 09:18:49) |
40. ファイト・クラブ
《ネタバレ》 消費社会に警鐘を鳴らした世紀末より問題が深刻になっているからこそ、作品の先見性に驚かされる。あれから20年、消費社会が深化してデジタル消費社会になり、マイノリティの発言力が大きくなり、多様性の広がる世界になったと思いきや、閉塞感に覆われる矛盾。どう見られているかという管理社会になったことで、"去勢された"男性はより無気力になり社会の隅に追いやられる。そう、何も持っていない男が理想の自分(男性性の象徴)に囚われ、痛みという通過儀礼によって現実を受け入れ、アイデンティティを獲得するまでの映画なのだから。欺瞞の社会に疑問を持たなくて良いのか。己を騙して生きていないか。理念は立派であるが折り合いをつけられず、そこを拗らせてしまうと、ポピュリズムの台頭を許すことになる。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-02-20 00:11:28) |