441. スター・トレック(2009)
《ネタバレ》 旧シリーズの劇場版には一通り目を通しているものの、テレビシリーズは未見。ファンではないものの、主要キャラクターや物語の背景についての知識はある程度持っているという状況での鑑賞です。。。 21世紀に入り、スタートレックシリーズは危機的状況に陥っていました。劇場版の興行成績は回を重ねる毎にワースト記録を更新し続け、テレビの新シリーズの視聴率も初回から低迷。長年、固定客のみを相手に商売を続けた結果、一般の観客・視聴者には理解不能な程に世界観が複雑化したことがその要因であり、大幅なリニューアルによって新規のファンを取り込むことしか、シリーズの維持を図ることはできないという状況にまで追い込まれていたのです。しかし、これが難題でした。少しでも気に食わない点があれば大騒ぎをする旧来のファンを納得させつつも、一般の観客をも取り込まなければならない。このリニューアル企画に最初に挑んだのはテレビシリーズのクリエイター達でしたが、話をまとめきれずに企画は頓挫。結局、スターウォーズ派を公言するJJエイブラムスにシリーズの命運を委ねることとなったのです。。。 エイブラムスは奇想天外なアイデアで、この難題を片付けてみせました。エピソード0でもリメイクでもない、タイムスリップにより時間軸が歪められたパラレルワールドでの物語としたのです。このアイデアには唸らされました。オリジナルの時系列を引き継ぎながらも、設定などについては全面リニューアルをする。これなら旧来のファンは納得するし、新規のファンは設定を一から覚えられる。このアイデアを思いついた時点で、この企画は勝ちだったのです。。。 さらに、リニューアルのメリットはこれだけではありません。旧劇場版にはテレビシリーズの俳優陣がそのまま出演し続けたため、主要キャストは中年や初老ばかり。これが娯楽作としての大きな制約条件となっていたのですが、リニューアルによって出演者全体が若返ったことから、見せ場はダイナミックなものとなりました。エイブラムスの小慣れた演出とも相俟って、スリル溢れる連続活劇に仕上がっています。ロミュラン人の逆恨みはさすがに度を越していないか?とか、ラスト、身動きがとれなくなったロミュラン船を攻撃するカークは容赦なさすぎないか?とか、細かい部分には疑問符も付きますが、そんなことはどうでもいいと思わせる程の勢いのあるアクション大作でした。 [映画館(字幕)] 8点(2013-08-26 00:50:46)(良:1票) |
442. リンカーン
英国版ブルーレイにて鑑賞。 1999年から企画がスタートし、何度も脚本をボツにしながらもようやく日の目を見たスピルバーグ渾身の時代劇! なのですが、出来上がった映画はかなり微妙。南北戦争開戦や、ゲティスバーグでの有名な演説、劇場での暗殺など、誰もが知っている有名な場面は映画から意図的に外されており、憲法改正のためにダーティーな手段に打って出るという知られざるリンカーン像に迫る脚本となっています。その試み自体は良いのですが、問題は、これをスピルバーグがやるべきだったのかということです。こういう方向性は歴史物や社会派作品の扱いに秀でたロバート・レッドフォード辺りにでもやらせとけばいいのであって、スペクタクルの巨匠・スピルバーグがやるべき仕事は、前述した誰もが知る有名な場面を、徹底したディティールの積み重ねと迫力で再現し、観客を圧倒することではなかったのでしょうか。実際、本作には要となるような優れた場面がまったくなく、150分という長尺が何の起伏もなく流れていきます。『ミュンヘン』のトニー・クシュナーによる脚本の出来が悪くなかったおかげで失敗作にはなっていないものの、スピルバーグ作品に期待される水準には達していないと思います。。。 一方で、俳優陣の熱演には目を見張るものがありました。従来、スピルバーグ作品では出演俳優が評価されないというジンクスがありましたが、スピらしい演出が成りを潜めた本作では逆転現象が起こっており、俳優達の演技が立ちまくっています。ダニエル・デイ・ルイスの度を越した成り切り具合はオスカーに相応しいものだったし、すべての観客の神経を逆撫でしたサリー・フィールドのメアリー・トッド具合も素晴らしいものでした。近年では安っぽい仕事が目立つトミー・リー・ジョーンズも、本作では「俺はオスカー受賞者なんだぜ!」と言わんばかりの抜群の安定感を披露。まさか、宇宙人・ジョーンズの演技に唸らされる日が来るとは思いませんでした。。。 なお、本作は吹替版での鑑賞をオススメします。演技が評価された作品だけに、俳優の生声で鑑賞したいという方が多いと思いますが、本作のセリフの量と、その内容の複雑さは常軌を逸したレベルに達しており(二人以上の人物が同時に喋る場面も頻繁にあります)、この膨大な情報量を字幕で追うことは、せっかくの熱演を見逃すことにつながります。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2013-08-25 02:19:29)(良:1票) |
443. スター・トレック2/カーンの逆襲
《ネタバレ》 映画版はすべて鑑賞しているものの、テレビシリーズは1話も見たことがありません。よって、主要キャラクターが誰であるか、どんな世界観の元で動いている物語なのかという最低限度の情報は持っているものの、それ以上の知識はないという状況での鑑賞です。。。 シリーズ最高傑作との呼び声も高い本作ですが、映画としてはそれほどだなぁという印象です。ヘタな演技に臭いセリフ、宇宙を舞台にしている割には箱庭的なスケールの小ささも感じさせられ、テレビシリーズに起源を持つ作品ならではの弱さがドバっと出てしまっています。また、スピード感溢れるドッグファイトが魅力だった『スターウォーズ』と比較すると、2隻の戦艦がもっちゃりと動いているだけの本作は見せ場の迫力にも欠けています。。。 テレビシリーズにおける人気キャラクター・カーンをフィーチャーしたことが本作の人気の要因だと思いますが、カーンに係る説明があまりに端折られ過ぎているため、テレビシリーズを見ていない観客が完全に蚊帳の外に置かれる点もマズかったと思います。セリフでのフォローくらいは入れた方が良かったのではないでしょうか。また、カーンが悪のカリスマに見えないという点も大きなマイナスでした。彼は知力にも体力にも秀でた優生人類にして、リーダーとしての魅力と統率力にも恵まれた王の中の王という設定のはずなのですが、この映画版ではカーク憎しの感情のみで暴走する小物にしか見えません。部下の制止を聞き入れず、いとも簡単にカークの罠にかかるに至っては、並みの雑魚キャラ以下。設定を脳内補完できるファンならともかく、本作でカーンに初対面する一般客にとっては、なかなか厳しいキャラだったと思います。 [DVD(吹替)] 4点(2013-08-25 01:41:55)(良:1票) |
444. ワールド・ウォー Z
《ネタバレ》 製作費1億9千万ドルという、ゾンビ史上最大の超大作。世界が破滅するお話でありながら、興行的リスクを心配して小規模予算しか与えられてこなかったゾンビ映画というジャンルにおいて(『ドーン・オブ・ザ・デッド』ですら2千万ドル程度)、ようやく話の規模に見合った製作環境が整えられた映画が登場したというわけです。果たして、ハリウッドが本気出して作ったゾンビ映画はどれだけ凄いことになるのか?一般の方々からは悪趣味の一言で片付けられてきたゾンビ映画が、その真価をどこまで発揮するのか?公開前から大きな注目を集めてきた本作ですが、これがなかなかの難産でした。とめどなく続く追加撮影に、度重なる公開延期。追加撮影がなされるということは、納得のいく映画が出来ていないことの証。「これはもうダメかもしれん」と多くの映画ファンが絶望にも近い気持ちを抱いていたのですが、完成した映画は、そんな心配を吹き飛ばす快作に仕上がっています。。。 アメリカに始まり、韓国、イスラエル、ウェールズと物語は世界を股にかけ、行く先々で目を疑う規模の見せ場が繰り広げられます。桁外れの数のゾンビが暴れ回り、それを防ごうとする人類も、もうヤケクソ。ワラワラと押し寄せる数百万のゾンビに対して、ありったけの弾薬を浴びせるというテンションの高い見せ場が続きます。さらには、友情とか家族愛とか、そういうめんどくさい要素は極力排除し、ソリッドなアクション映画として仕上げられています。世界が滅ぶかどうかの時に、プライベートのことなんて気にかけてられないわけです。そうしてドライな語り口に徹した結果、かえって危機感が煽られるという好循環が生み出されているのがうまいところで、自分の身を犠牲にしてでもブラピを目的地へ行かせようとする兵士達の姿なんて、涙なしには見られませんでした。。。 ただし、問題もあります。前半の異常なテンションと比較すると、後半の失速具合がハンパではないのです。最初の脚本にはクライマックスに怒涛の見せ場が準備されていたのですが、続編製作を睨んで物語を完璧には終わらせないという方向性が思案されはじめたことから、本作の後半部分はグダグダになったようです。研究棟での地味な追っかけが続いた後に、「いろいろありましたが、とりあえず今回のお話は終了。でも、戦いははじまったばかりです」、出来損ないの少年マンガみたいな締めには腰が砕けました。 [映画館(吹替)] 7点(2013-08-11 00:49:54) |
445. リセット(2010)
《ネタバレ》 久々に困った映画でした。無人となった世界の描写や、闇の手が迫るシーンの恐怖演出はかなりのレベルに達しており、決して手を抜いて作られた映画ではないことは分かります。ただし、最初から最後まで訳が分からん&登場人物がどいつもこいつも自分勝手でイライラさせられるということで、鑑賞中はずっと不快でした。。。 第一の欠点については、監督の計算ミスでしょう。映画には随所に隠喩が込められており、その異常な情報量からは、これが考え抜かれたシナリオであることが十分に伺えます。つまりこれはオチなしの投げっぱなし映画ではなく、意図的にいくつかのピースを抜いて作られたミステリー映画なのです。2004年に『プライマー』という超難解映画が話題となりましたが、本作はその再現を狙ったものだと思われます。しかし、監督の思惑は外れました。理由は簡単で、『プライマー』は科学技術を扱ったSF映画であり、パズルを解いていけば論理的な解を得られたのに対して、宗教映画である本作はどれだけ頑張っても最終解は不合理なものであり、真剣に読み解いていくことが途中からバカバカしくなってしまうのです。さらには、私を含む多くの日本人の観客にとっては、キリスト教のことがよく分からないという点も大きなボトルネックとなっています。ロアノーク植民地消失事件についても本作で初めて知ったという観客が多く、根本的な部分の敷居が高すぎたように感じます。。。 第二の欠点については、もうどうしようもないですね(笑)。ヘイデン・クリステンセン演じるルーク(≒福音記者・ルカ?)が一応は主人公らしいのですが、とにかくこいつがヤな奴。ただし、ルークはヤな奴なりに頑張って生き残る道を探すのですが、タンディ・ニュートン演じるローズマリー(≒イエスの母・マリア?)と黒人少年ジェームズ(≒イエスの兄弟・ヤコブ?)はルークの言うことを聞かずに足を引っ張りまくるわけです。これにはイライラさせられっ放しでした。ジョン・レグイザモ演じるポール(≒布教者・パウロ?)は終始横になってるだけで何もしないし、愛着を感じるキャラクターが一人もいないという点は厳しかったです。 [ブルーレイ(吹替)] 3点(2013-07-09 22:19:12) |
446. マーリー/世界一おバカな犬が教えてくれたこと
普段はヴァンダムとかスタローンばかり観ている私ですが、「たまには家族で見られる映画も借りてきてよ」と嫁に言われたので、ゲオで何気なくレンタル。子犬の可愛さを全面に押し出したジャケットと女性受けを狙った邦題から、事前には『ベートーベン』や『101』のような「犬さえ出しとけばOKなんだろ映画」だと思っていたのですが、意外や意外、これが犬のいる生活を丁寧に描いた良作でした。ラスト15分では涙腺から涙を搾り取られます。家族の前なので泣くまいと思ってたんですけど、どうしても堪えることができずに号泣。さらには、寝る前に映画の内容を思い出してまた号泣。本作の感動は、もはや暴力的とも言える領域に達しています。。。 原作はコラムニストが自身の経験をまとめたエッセイであり、基本的に実話ベースなので話のリアリティが違います。犬を飼った経験のある方であれば、身に覚えのあるエピソードの連続なのです。特に、わが家は作者と非常に酷似した歴史を歩んでいるので、他人事とは思えないほどでした。子供と犬の両方が騒ぎ出して手が付けられなくなった時に、「犬なんて飼うべきじゃなかったのよ!」と絶叫する嫁。うちでもまったく同じ光景が繰り広げられています。。。 映画化に際しての脚色では、犬に擦り寄りすぎない姿勢が好印象でした。映画の中心にあるのはあくまで主人公の人生であり、その人生において仕事の重要度が高い時期には仕事の描写を、子供の重要度が高い時期には子供の描写をと、必ずしも犬ばかりが描かれているわけではありません。さらには、子供と犬との触れ合いというビジュアル的に美味しい部分は、本作にはほとんど登場しません。なぜなら、子供と犬が遊んでいる時間には主人公は会社にいるので、その光景を見ていないから。そんな当たり前のことを貫き通し、安易なウケを狙わなかったことが、本作に動物映画を越える深みを与えています。。。 ただし、映画の視点が固定されすぎていることが凶と出ている面もあります。ヒステリックに怒ってばかりの奥さんが悪役に近いポジションになっているし(女性には女性の言い分があるでしょう)、長男が犬に対して寄せる思いも伝わってきません。そもそもの問題として、どストライクな私以外の観客・視聴者が、どれだけ感情移入できるのかは不明だし。本作には、あとわずかな客観性が必要だったと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-07-08 22:37:36)(良:1票) |
447. プッシャー(1997)
世界的にタランティーノ症候群が蔓延していた時期の作品だけあって、本作もモロにタランティーノの影響を受けています。延々と繰り広げられる本筋とは無関係な会話に、突発的な暴力。口数の多い主人公については現在のレフンの作風からすると意外に感じられたのですが、そんな主人公がどんどん追い込まれていき、後半になるとほぼ喋らなく様には、後のレフン作品の片鱗が垣間見えています。部屋にはブルース・リーとマッド・マックスのポスターが貼ってあり、少々手間のかかる彼女に対しても優しく接するという、子供っぽくも気の良い悪党だった主人公が、どんどん粗暴でイヤな奴になっていくという展開にもハリウッドとは一線を画すものがありました。「ピンチに陥った時に、本当に大切な愛を見つけた」なんてセンチな展開など皆無なのです。また、「レストランを開きたいなぁ」なんて笑顔で話していた用心棒が、次の場面ではとんでもない暴言と暴力を振るうという落差の付け方などは非常に効果的であり、本作はただの模倣に終わっていません。。。 ただし、クライムサスペンスに必要な、物語の求心力が不足していた点は気になりました。観客に対して主人公の一発逆転プランが提示され、そのプランがどう転ぶかでハラハラさせるのがこの手の映画の王道だと思うのですが、本作はそうした娯楽的な要素が著しく不足しています。ただただ焦る主人公の姿が映し出されるのみ。全体の空気は良いものの、「これは」という特別な場面に乏しく、少々間延びした映画に感じられました。 [DVD(字幕)] 5点(2013-07-08 22:35:15) |
448. オンディーヌ 海辺の恋人
現実の世界でファンタジーを語るというニール・ジョーダンの得意分野だけに、作品の内容は非常に安定しています。基本的には大人のラブストーリーなのですが、そこに子供の視点を介在させることでファンタジーを許容しうる幅を作っている辺りが実にお見事。また、クリストファー・ドイルによる撮影も美しく、小さな物語でありながら非常に丁寧な作りで好感が持てました。。。 問題は、オンディーヌの正体が判明して以降の物語があまりにつまらなかったということです。監督も後半パートでは題材に対する興味を失った様子で、それまでの丁寧な仕事から一転して、えらく雑で乱暴な映画になってしまいます。オンディーヌをどう受け入れるのかという主人公達の葛藤などもまったく描かれておらず、ドラマがぷっつりと切れた状態で安直なハッピーエンドを迎えます。。。 また、コリン・ファレルの演技は巧いものの、本作の主人公の人となりには合っていないように感じました。基本的に二枚目のファレルでは、街の人たちから道化者として扱われる人生の失敗者には見えないのです。オンディーヌを演じるアリシア・バックレーダはこの世のものとは思えない程の絶世の美女なのですが、そんな彼女と並んでもまったく見劣りしないファレルでは、物語の意義が半減してしまいます(ファレルとバックレーダは本作がきっかけで交際を開始し、二人の間には子供もいる模様)。 [DVD(字幕)] 5点(2013-07-08 22:32:00) |
449. 声をかくす人
南北の歴史観の相違はアメリカ社会において未だにデリケートな問題であり、本作はそんなタブーに片足を突っ込んでしまったがために、興行的にも批評的にも微妙な結果しか残せなかったようです。しかし、そんな色眼鏡をとっ払って見れば、本作は硬派な題材と娯楽性を見事に両立させた非常に完成度の高いドラマであり、オスカー監督・レッドフォードの最高傑作とも言えるレベルに達していると言えます。。。 北部人が敬愛するリンカーン大統領が南部人に殺された。人々の復讐感情を充足させるためにも早期に容疑者を処刑することが求められるのだが、問題は、犯人グループの一人が逃走中で未だ身柄を確保できていないということ。そこで政府は、その母親を首謀者の一人とみなすことで事件の幕引きを図ることにする。まぁ無茶苦茶な話なのですが、東京裁判にニュルンベルク裁判、フセイン裁判と、アメリカ合衆国は歴史上何度もこの手の茶番をやらかしており、ある一時代のお話といってタカをくくれない怖さがあります。。。 結論ありきで進められる魔女裁判に、加害者への厳罰を求める世論。必死に証言者を探して来ても、証言台に立たせる頃にはすでに政府の手が回っていて、必要な証言を引き出すことができない。主人公達は容赦なく追い詰められていきます。巨悪と戦う主人公の姿はこの手の映画の定番ですが、ここまでのプレッシャーを受ける登場人物は稀です。さらに、主人公たちは個人的なジレンマとも戦わねばなりません。エイキン弁護士はこの裁判を戦い抜くことに確かな正義を見出しているものの、自分のアイデンティティと相反する立場に立たされたことで、友人も恋人も失ってしまいます。メアリー・サラット被告は自身の潔白を主張しながらも、それを証明するためには息子の有罪を立証しなければなりません。裁判がどう転んでも大きなものを失うという、まさに絶望的な戦いなのです。。。 以上、本作は社会派ドラマとして非常に充実しているのですが、同時に娯楽への目配りも出来ています。当初は絶対に勝てないと思っていた裁判だったが、目の前の壁を一枚ずつ崩していくことで次第に形勢を逆転させていく。アクション映画さながらの展開には、最後までハラハラの連続でした。結末はわかりきっているのに、それでも目を釘付けにされてしまうのです。脚本・演出ともに、非常に充実した映画でした。 [DVD(吹替)] 8点(2013-07-08 22:30:45)(良:1票) |
450. ワイルド・スピード/EURO MISSION
アクション映画史上に残る傑作だった前作を越えるべく本作も特盛状態なのですが、老舗アクションシリーズの宿命か、本作は盛りすぎの域に達しており、お話も見せ場もインフレ状態となっています。。。 前作からのヴィン・ディーゼル、ドウェイン・ジョンソンに加え、ミシェル・ロドリゲスの復活に、女性格闘家ジーナ・カラーノ、『ザ・レイド』のジョー・タスリムの新規参戦と、本作ではアクションの出来る人間が随所に配置されているのですが、まずこれがマズかった。いろんな人がいろんな場所で戦っていて、話が分散しているのです。このことがアクション映画に必要な求心力を奪う原因となっているし、さらには物語をムダにややこしくしています。本作の観客は頭空っぽにして楽しめるアクション映画を観に来ているのだから、ムダに頭を使わせる話にすべきではありませんでした。。。 さらに、アクションも懲り過ぎ、やりすぎです。確かに前作もやりすぎではありましたが、あちらはシンプルなカーチェイスをやたらド派手にやったもので、第一作から続く『ワイルド・スピード』のDNAは確かに継承されていました。一方本作は、戦車を走らせたり輸送機を落としたりと、カーチェイスに付随する破壊ではなく、破壊そのものが見せ場となっており、前作までとはかなり毛色の違うアクションとなっています。もはや『ワイルド・スピード』の新作ではなく『トリプルX3』だと考えた方がしっくり来るほどであり、『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』同様、シリーズを重ねる毎にアイデンティティを失っていくというアクション映画の典型的な衰退サイクルに入ったように見受けられます。また、カーチェイス以外の要素が加わったことで見せ場は複雑になり、さらにはカット割の異常な速さとも相まって、目の前で何が起こっているのかよく分からないという状況にも陥っています。本作の方向性は、今一度見直すべきだと思います。。。 以上、本編には少なからず不満があったのですが、それでもラスト1分には大興奮させられました。『ワイルド・スピード』シリーズは我々の想像を越えた領域を目指しているのではないかという、そんな熱い期待感を抱かせるほどのインパクト。今回は不十分な出来でしたが、これはこれ。次回も絶対観ます! [映画館(字幕)] 6点(2013-07-06 23:20:18)(良:3票) |
451. アバウト・シュミット
《ネタバレ》 会社を定年退職し、さらには妻にも先立たれ、自分を管理していたものをすべて失った老人のお話なのですが、これが恐ろしく日本的な内容だったので驚きました。アメリカのホワイトカラーは個人主義でバリバリやっているイメージだったのですが、実際には日本のサラリーマンと同じく、組織への滅私奉公に人生の時間の大半を費やしているようです。。。 仕事をしている間にはそれなりにやることもあったし、家族と向き合わないことを正当化する言い訳もあった。プライベートで気に入らないことがあれば、妻のせいにしてればいいし。しかし、仕事を離れてそれらの制約条件がとっぱらわれた時に、それまでの人生への評価が冷酷な形で下される。以上、本作のテーマは普遍的なのですが、一方でその語り口は非常に型破りです。主人公は妻を失ってもさほど悲しまないし、疎遠になっていた娘との劇的な和解もない。娘の旦那は相変わらず好きになれないし、長旅に出ても感動的な出会いなどない。そして、主人公の偏屈な性格も一向に治らない。この手のドラマにありがちな展開は全て外してきているのです。。。 ハリウッド的な感動ストーリーに代わって描かれるのは、ひたすらに非力な老人の姿。その生き方のツケから家族にも友人にも恵まれず、その状況を変えるだけの力も度胸もない。ただ目の前にある孤独な余生を受け入れるしかない主人公の姿が、情け容赦なく描かれます。コメディとして作られているので直感的な衝撃度は低いものの、よくよく考えれば相当に欝な話です。。。 そして、オチの付け方も底意地の悪いものでした。アフリカの子供が描いた絵を受け取って涙する主人公。これを、主人公が人間性を回復した瞬間だと解釈する向きもあるようですが、私はそうは思いません。添付の手紙には、この子は英語が分からないという説明がありました。つまり、子供は主人公からの手紙の内容を分かっておらず、当然主人公の人となりも理解しておらず、恐らくは保護者から促される形でとりあえず描いた絵があれだったのです。主人公の涙は、こんなものにすがり付くしかない自分のみっともなさを嘆いたものでしょう。たまに小銭を寄付し、そのお礼に絵や手紙が送られてくるだけの関係。しかし、主人公が誰かから求められていると実感できる瞬間は、これしかないのです。本作では、家族を大事にしないと大変なことになるという重要な教訓が提示されています。 [DVD(吹替)] 8点(2013-07-06 00:14:47) |
452. バビロン A.D.
《ネタバレ》 宗教団体が政治利用目的で聖母マリアのレプリカを作ったら、思いがけず本物が出来てしまったという簡単なお話なのですが、完成した映画は「どうすればここまで意味不明にできるのか」と思うほどにとっ散らかっていて、もう何が何だかでした。個々の登場人物が何を考えているのか分からない、序盤はダラダラしている割に、終盤では物凄い勢いでネタが明かされて理解が追いつかない等、この映画の語り口は大いに問題ありです。。。 本作はマチュー・カソヴィッツが映画化権を取得し、5年もの時間をかけて脚本を練り上げたという入魂の作品。しかし、撮影に入ると悪天候が原因で大幅な予算超過に陥り、保険会社からの追加融資を受けるまでの状況となりました。この状況になれば映画会社は損切りを考え始めるわけで、「芸術性とかメッセージ性とかどうでもいいから、早く映画を完成させろよ」という雰囲気になってきます。一方でカソヴィッツは自己のビジョンの実現に拘り、現場は泥沼化しました。苦しい中でも会社と現場が協力しながら製作を進めればそれなりの映画になったかもしれないのですが、両者が完璧な対立関係になってしまったことが本作の出来にトドメを刺しました。フォックスはカソヴィッツから無理矢理に映画を取り上げ、監督の意向を無視して適当に編集したものが劇場公開版となったのです。。。 本作の舌っ足らず感、どこかで観たことあるなぁと思ったら、デヴィッド・リンチの『デューン/砂の惑星』でした。あちらは年月とともに熟成してカルト映画化し、現在では一定数のファンを獲得するに至っていますが、本作もカルト化する要素は充分に持っています。アクションなどの完成度を見れば映画としてのベースは非常にしっかりとしていることが分かるし、主題に関わる部分も悪くありません。宗教とテクノロジーという壮大なテーマをたった一人の少女にまで圧縮し、さらには信仰心とは何かという深淵なテーマをミシェル・ヨー一人に象徴させているのです。語り口が不十分だからこそ、観る度に新たな発見があって飽きさせず、カルトに必要な中毒性というものも備わっています。実際、私は連続で二度鑑賞してしまったし、こんなレビューを書いているうちにまた見たくなってきました。フォックスとカソヴィッツの関係を見る限り実現は難しいようですが、アラン・スミシー名義でもいいから全長版をリリースして欲しいものです。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2013-07-02 22:27:52) |
453. デビル(1997)
家に上げていた青年が実は武闘派テロリストだったことが判明するというサスペンスと、一介のパトロール警官が人間凶器と対峙せざるをえなくなるというスリラー、この2点が本作の骨子だったように思うのですが、2大スターの共演作となったことで、その両方の柱がポッキリと折られてしまっています。。。 まず第一の柱についてですが、最初の脚本においてフランキー・マグワイヤはかなりダークに描かれていたのですが、ブラッド・ピットの出演が決定したことで、フランキーは観客から好感を抱かれる好青年へと書き換えられたようです。彼が祖国で犯した罪について劇中では明確にされないし、NYで正体が発覚した後にも、彼は汚い手を使いません。武闘派テロリストならば、目的達成のためにオミーラの嫁・子供を人質にとるくらいのことはやってもいいと思うんですけどね。代わりに描かれるのは、フランキーが友人と戯れあったり、ビリヤードを楽しんだりといった、本筋とは無関係なブラピのプロモ映像。これにはさすがにブラピ当人も反発し、「自分が惚れ込んだのは最初の脚本であって、この内容でいくのなら俺を下ろして欲しい」と映画会社に抗議したらしいのですが、仮に降板した場合には尋常ではない額の違約金が発生することから、彼は渋々出演を継続したのだとか。ともかくこの改悪作業によって、本作は悪役がまったく怖くないという何とも間抜けなサスペンスになってしまったわけです。。。 第二の柱については、ハリソン・フォードが完全なミスキャストでした。なんせ彼はハンソロでありインディ・ジョーンズでありジャック・ライアンなのです。勤勉だけが取り柄のパトロール警官にはどうやっても見えません。本来、トム・オミーラはフランキーとの間の絶望的な戦力差を地の利と家族愛で乗り越える役柄だったと思うのですが、ハリソンさんのスターオーラによって彼は無敵のヒーローになってしまい、戦力差に係るドラマチックな展開はすべて潰れてしまいました。。。 以上、とにかく見所のない映画なのですが、不思議なのが本作に9,000万ドルもの製作費が使われているということ。これは同年公開の『ロストワールド/ジュラシックパーク』や『エアフォース・ワン』をも上回る製作費であり、ロクな見せ場のない本作のどこに、これだけのお金がかかったのかは未だに謎です。 [ブルーレイ(吹替)] 3点(2013-06-30 02:54:46)(良:2票) |
454. アウトロー(2012)
『ユージュアル・サスペクツ』のクリストファー・マッカリーが脚色したとは思えないほど平凡なお話には少なからずガッカリさせられたのですが、それでも作品を貫くハードボイルドな雰囲気には魅了されたし、スリルとユーモアのバランスも絶妙なものでした。かつて『誘拐犯』を撮ったマッカリーだけあってラストの銃撃戦には見応えがあったし、全体としては、程よくまとめられた低脂肪の娯楽映画と評価できます。。。 ただし、ジャック・リーチャー役をトム・クルーズが演じたことについては、やはり賛成できません。トムは相変わらず頑張っています。カースタントは自らこなし、銃の扱いや格闘技も一通りマスターしており、必要な努力はすべてしてきているのですが、それでもジャック・リーチャーに必要な“凄み”や“神秘性”というものが致命的に欠けているために、彼がしばしば口にする「俺を怒らせると死ぬぞ」という脅し文句が空回りしています。これは20年前のスティーブン・セガール、現在ならジェイソン・ステイサム辺りのゴリゴリの強面が演じるべき役柄だったように思います。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2013-06-30 02:00:42) |
455. クィーン
《ネタバレ》 革新派やフェミニストからの強力な支持もあって存命中は持ち上げられもしていましたが、死後15年経った現在から振り返ると、やはりダイアナ妃は魔女だったと思います。英国王室のあり方について国民レベルで賛否が割れることはあっても、少なくとも王室に嫁いだ人間には、その家族が大切にしてきた価値観を共有し、守っていくことが求められます。しかし、彼女はそうしなかった。自分に好意的なマスコミへ王室のスキャンダルを流したり、自ら王室批判を繰り返したり、挙句の果てには二人の息子がいるにも関わらず自由恋愛に明け暮れたりと、名誉と格式を重んじる英国王室が反論できないことにつけ込んで、彼女は好き放題をやっていたのです。。。 「我が家の籍を離れた人間なのだから、葬儀はご実家でやっていただきます」、常識的な感覚から言えば、ダイアナの死に対してエリザベス女王のとった対応は妥当なものでした。しかし、死亡事故にパパラッチが関与していたことへの負い目もあってかマスコミは一斉にダイアナを持ち上げはじめ、国葬をしろと騒ぎ出します。伝統を否定した人間に対して英国王室が最大級の敬意を表するなど前代未聞のことですが、異様な熱狂の中で正論はどんどん掻き消されていきます。まずは、自身の人気取りを優先したいチャールズ皇太子が落ち、次に、マスコミの異常なバッシングに怯えた王室ご意見番が落ちます。ブレアは善人ではあるものの、長く革新政党にいたため伝統というものへの理解は不足しています。「英国王室は400年の歴史を背負っており、現在の国民がどう思うかということとは別次元で生きている」という当たり前のことが理解されない。そんな状況の中でエリザベス女王は孤立無援へと追い込まれ、最終的にはマスコミとダイアナの力に負けてしまうのです。。。 以上、題材はかなりハードなのですが、あくまでこれをある家庭のドラマとして描いた脚本が秀逸。世間知らずの夫とバカ息子に挟まれ、対応を一手に引き受けねばならなくなったエリザベスの苦悩が非常に分かりやすく描かれています。ただし注意せねばならないのは、本作で描かれるドラマはあくまで脚本家の憶測に過ぎないということです。史実をベースに、その当事者達がどう考えていたのかを推測してドラマを組み立てるこの手法は、倫理的にはギリギリの技術だとも言えます。 [DVD(吹替)] 8点(2013-06-26 01:11:39) |
456. ラストマン・スタンディング
《ネタバレ》 主人公が何の目的で戦っているのかがよくわからないし、悪党のワルぶりも足りていません。さらにはキャラクターの戦力描写も不適切であり、銃を持たせた時の主人公が最強すぎて、彼が二つの組織の間をコソコソと動き回ることが無意味に感じられてしまいます。実際、クライマックスではたった一人でヤクザの拠点に殴り込んで、全員を射殺してしまうわけだし。だったら最初からそうしろよと思ったのは私だけではないはず。そもそものミスとして、謎の男であるはずの主人公に映画のナレーションをさせてはいけないでしょう。彼は、どこで何をしてきたのか分からない、何を考えているのかも分からない男でないといけないのに、ナレーションでその心境がご丁寧に説明されてしまうのでは、ダークヒーローに必要な神秘性というものが失われてしまいます。。。 ウォルター・ヒルは黒澤明やセルジオ・レオーネに対して敬意を払いすぎるあまり、本作では完全に調子を狂わせてしまったようです。オリジナルにあった要素を自作にも反映させようとしたために、作品全体のバランスが崩れてしまったのです。彼はオリジナル脚本でこそ光るタイプのクリエイターであり、他人のふんどしで相撲をとることは出来なかったようです。とはいえすべてがダメというわけではなく、ヤクザの女が耳を削がれたり、主人公が半殺しのリンチを受けたりする中盤のバイオレンスはなかなかショッキングだったし、そこからペースを上げてクライマックスへと突入していくテンポの作り方も良く、バイオレンスの巨匠の面目はある程度保たれています。また、『フェイス/オフ』が世に出る前年において、二丁拳銃によるアクションをかなりの完成度で披露した辺りのセンスの良さも評価すべきであり、本作は決してダメな映画ではありません。。 ただし、この映画で6,700万ドルは使いすぎですが。同年公開の『インデペンデンス・デイ』『ザ・ロック』の製作費が7,500万ドル、『セブン』に至っては3,300万ドルで作られている中で、狭い舞台で登場人物の数も限られている本作の製作費の割高感は突出しています。どこに大金が使われたのかを推測しながら本作を見れば、意外と楽しめるかもしれません。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2013-06-25 01:34:54) |
457. ザ・ダイバー
《ネタバレ》 人種差別と戦い、さらには身体障害までを乗り越えた実在の人物の物語という、ハリウッドの大好物がご丁寧に二つも並んだドラマなのですが、あまりに平凡な脚色によって題材の良さも優秀な俳優も無駄になっており、駄作と呼ばれても仕方のない出来に終わっています。この手の感動作のテンプレートにでも当て嵌めて作られたかのようなストーリーには意外性ゼロだし、観客を感動させようと用意されたセリフの多くは上滑りしています。そして何より、偏見というものの捉え方が表面的すぎて、この題材から期待される教訓は何ら得ることができません。。。 人種差別の恐ろしいのは、それが社会の多くの人々の意識に住み着いてしまい、普通の人々までが悪気もなく差別してしまうということ。本作のように、差別意識を持っているのがごく一部の心ない人だけなのであれば、それは大した問題ではありません。また、黒人青年側の心境も、時代の空気を考えれば非常に不自然なものでした。主人公は有色人種であるがゆえの壁に度々ぶつかり、彼はその度に戸惑い、そして憤ります。しかし、善い悪いは別にして、当時はそういう時代だったのです。黒人が上を目指せば叩かれることは分かりきっていたはずなのに、彼はそのことが意外だったという顔をするのです。本作の登場人物は、みなナイーブ過ぎはしないでしょうか。。。 身体障害のパートも同様に不自然でした。身体障害者が危険な職務に就けないことには、善悪では片付けられない複雑な事情があります。本人が「努力でカバーする」と主張しても、やはり他の隊員とは同じ条件ではないのです。厳しい言い方をすると、一人の名誉欲を満たすために、何人の手助けが必要になるのかという話になってきます。また、軍隊という特殊な職場である以上は、リスクの高いメンバーを抱え込むことで部隊全体の安全にも影響が出ないかということも考慮しなければなりません。以上の難しい事情があるにも関わらず、またしても一人の憎まれ役にすべての問題を収斂させて、最終的には「めでたしめでたし」で終わり。現実はこれほど簡単ではありません。。。 その他、核弾頭紛失(チューレ事件)という超トップシークレットが普通にテレビ中継されていたり、公式の軍事委員会で部外者が勝手に発言したりと、おかしな場面がいくつもあります。ラストの歩行テストなんて実際にはなかったようだし、脚色が過ぎているように感じました。 [ブルーレイ(字幕)] 4点(2013-06-24 01:03:56) |
458. レ・ミゼラブル(2012)
この映画の原作はヴィクトル・ユーゴーではなく、ユーゴーの小説を元にしたミュージカルを映画化したものです。原作が舞台劇なので、ストーリーテリングはかなり荒っぽいものでした。時系列を順に追っていくのではなく、舞台は象徴的ないくつかの場面にのみ絞られ、「そして○○年後」といった具合に話がピョンピョンと飛んでいきます。大事なところがかなり端折られているので物語については脳内補正をかけて観る必要があり、えらく不親切な作りだなぁとガッカリしました。また、歌詞によってすべての感情がはっきりと表現されてしまうという点にも、かなりの違和感を覚えました。映画には、あえて口に出す必要のないセリフというものがあります。その場の状況と、俳優の表情さえ映していれば充分に理解可能であり、それを口にすると、途端に陳腐になってしまう類のものです。そんなものまでがご丁寧に大声で歌い上げられてしまうので、あまりの押し付けがましさにうんざりしてしまいました。これは映画という舞台とは別の媒体なのだから、バカ正直に舞台と同じことをやるのではなく、映画なりの見せ方をしてもよかったのではないかと思います。ここで申し上げておきたいのは、私はミュージカル映画というジャンルの面白さは認めているということです。某司会者のように、俳優が突然歌い出すこと自体を拒絶はしないのですが、本作については、映画という媒体の特性が無視され過ぎているのではないかと思います。 [ブルーレイ(字幕)] 4点(2013-06-23 02:13:23) |
459. シービスケット
良い人が出てくる良い話なのですが、この手の映画の公式に当てはめて作られたかのような個性の薄い内容だったので、正直言って物足りなさを覚えました。ジェリー・ブラッカイマーのアクション映画を見ているかのような印象なんですよね。「主人公には暗い過去があります」「はい、ここで挫折します」「はい、ここで感動します」と、パターン化されたかのような紆余曲折。ゲイリー・ロスは『カラー・オブ・ハート』で注目された監督さんですが、素晴らしいアイデアと語り口を賞賛された『カラー・オブ・ハート』からは一転して、本作では保守的な作りに徹しています。。。 もうひとつ私が気になったのは、大衆とシービスケットとの間の距離感をうまく表現できていなかったという点です。シービスケットが活躍したのは大恐慌の時代。当初は駄馬とみなされていたシービスケットの思いがけない活躍に、多くのアメリカ国民が自分自身の物語を重ね合わせたことが、この馬を歴史に残る名馬にした大きな要因だったわけです。ならば、この馬がどうやって注目を集め、人気を獲得していったのかという経緯を丁寧に追いかけることがこの映画のキモだったと思うのですが、この点についてはかなりぞんざいに扱われています。映画の上では、たったひとつのレースの勝利によって大衆人気を獲得したかのような描写となっており、あまりに唐突な展開に感情が追いつかなくなってしまいました。冒頭、たっぷり30分かけて描かれる人間側のドラマなど切ってしまい、最初からシービスケットの話にした方が、物語としては一本筋が通ったのではないかと思います。 [DVD(吹替)] 4点(2013-06-23 01:40:46) |
460. クロッシング・ガード
《ネタバレ》 交通事故で娘を亡くした父親が、出所した加害者の命を狙うという、どうやっても面白くなりそうな最高の題材なのですが、これが何とも言えない中途半端な出来でガッカリさせられました。まず、キャスティングがいい加減すぎます。娘を交通事故で亡くした父親役がジャック・ニコルソン、母親役がアンジェリカ・ヒューストンなのですが、二人とも歳をとりすぎておじいちゃん、おばあちゃんにしか見えません。また、ニコルソンがヒューストンに向かって「君は相変わらず綺麗だ」と言う場面があるのですが、ここでもまた混乱。ヒューストンは美人扱いを受けるタイプの女優さんではないので、これがどういう意図をもった発言だったのかを直感的に理解できないのです。映画の序盤では、誰が何のことを話しているのかがサッパリ分からないほど混乱しました。若い俳優が演じるべき役柄に無理やりジャック・ニコルソンを当ててしまい、そのニコルソンとのバランスをとるために他の出演者の年齢層も上がっていった結果として、上記のような混乱が発生したのではないかと思います。。。 映画全体としても、バイオレンスにも人間ドラマにも振れていない中途半端な内容で、イマイチ感情が乗りませんでした。例えば、ラストの追いかけっこ。この場面は中年親父の悲哀を出すためにあえて鈍重に、滑稽に撮られているのですが、これが笑えるわけでもなければ涙を誘うわけでもなく、どういう心境で見ればいいのかを掴みかねました。本作は万事がこの調子で、あえて外した演出をしたはいいものの、その意図がうまく観客の心情に届かずもどかしいことになっています。その後、『プレッジ』『イントゥ・ザ・ワイルド』で素晴らしい手腕を披露するショーン・ペンも、本作の制作時点では映画という媒体をうまく使いこなす術を持っていなかったようです。。。 最後に、ブルーレイのジャケットに書かれた「サスペンスに満ちたアクションスリラー」という一文は一体何なのでしょうか。ジャック・ニコルソンとデビッド・モース共演の復讐アクションと聞けば、たいていの映画ファンはあらぬ期待を抱くでしょう。作品の本質から乖離したこの宣伝文句は、もはや詐欺的とも言えます。 [ブルーレイ(吹替)] 4点(2013-06-22 01:52:19) |