481. こわれゆく女
《ネタバレ》 G・ローランズの神経症演技が鬼気迫るコワさなので世間は大いにどよめいたわけですが。わたしはメイベルを見ている間、既視感でいっぱいでした。この手の女の人は50年前に限らず、いつでもどこにでもけっこう居ますよね。ざっと思い出してみても、法事の場で突然小学生レベルの発言をして場を冷やす親戚のオバサン、役員会で反対意見を出されたら忽ち興奮して絶叫調になる園ママ、スーパーでカートを押しながらずっと自らの信条を大きめの声で独り言ちている中年女性、等々平均からズレている人にはけっこう遭遇してきました。だからメイベルは普遍的な社会の1ピース。そんなに特殊ではないと思うけれど、まあ周囲を困惑はさせますよね。 P・フォーク演じる夫は一般的あるいはそれ以上の「嫁には普通であってほしい」という願望の強い性格であったので、この二人ベストマッチではないと思います。もっと彼女に心を寄せて物事を見ていれば、子どもが裸で走っているのを見てもカッとならずに事態を正しく把握することもできたのです。実際子どもらは扮装ごっこの最中で楽しそうでしたよね?相手の親御さんはメイベルのノリについてゆけず迷惑してましたけど・・。 「なんでそんなに尻が大きいの?」などと言って人間社会を困惑させる人格。でも子どもらはママが好き。メイベルは生き辛さを抱えていても虐待親じゃないし、反社会的でもない。ゆるりと一息つけるラストが象徴するのは、メイベル「たち」のことを生暖かく見守る社会であれかし、という監督のメッセージにも思えました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-09-21 23:50:37) |
482. 東京オリンピック
《ネタバレ》 記録か芸術か。監督の感性ほとばしる本作はもちろん後者の趣が強いでしょう。監督のタクトは勝ち負けに拘らずに、勝負に挑む人間の横顔をクローズアップし筋肉の躍動感を余すところなく伝えます。よくこんな近距離の画が撮れたなあ、と望遠レンズの威力に驚かされる映像であります。着地した時に跳ね上がる土と草、アベベの精悍な横顔。 構図も素晴らしいですよね。聖火が通る住宅地を上空から俯瞰したショット。民家の庭から見るロードレースの自転車の波は、あるいは森の奥からと視点を鮮やかに変えて、その色彩も相まって美しいです。 美しいといえばベラ・チャスラフスカ。彼女のあからさまな特別扱いにはちょっと笑ってしまいました。まあ彼女は別格、「世界の名花」ですもんね。 古い怪奇映画みたいな音楽や、デリカシーの置き所が今とちょっとズレてるナレーションはご愛敬。 大会関係者や観客らの様子もつぶさに拾っており、昭和当時の雰囲気を知るのにとても有意義でした。和服姿はもうほとんど見られず、でもかっぽう着は生き残ってる。制服制帽の小学生ら。一張羅と思われるワンピースを着た女の子。なにより、あの戦争の焼け野原から立ち上がり、アジアで初のオリンピック開催にこぎ着けるほどに復興を遂げた誇りや喜びといった熱を感じます。一人一人の表情の輝きはどうでしょう。 芸術作品の看板ではあっても時が経った今、本作はまごうことなき一級の、当時世相の「記録」であると思いました。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-09-20 23:20:53)(良:1票) |
483. カーリー・スー
《ネタバレ》 この手の"子ども上位モノ”は子役の出来いかんにかかります。賢さも器量も「大人顔負け」でなければならないし、かつ愛され要素として‟幼さ”も併せ持っていなければならない。さすがにハリウッドです 汲めども尽きぬ天才子役。次々輩出してきますねえ。その後のキャリアが大成したかどうかは別として、本作のアリサン・ポーターも見事な主演ぶりです。 演技論などを超えた彼らの天然演技は表情に嘘が無く、こましゃくれたトコも困った顔も寂しそうな様子も、全部素に見えてしまう。しかも本作は「コメディ」である、ということは押さえているみたい。恐るべし子役です。 そして今作大きく割を食っているのが大人たちで、造形の凡庸なことったら無いです。気ままだけど人の好い父親としっかり者のキャリアウーマン。この二人がくっつくであろうことは、しょてから100%分かっちゃってるわけで、展開にもヒネリがありません。心情描写も大雑把、出会って気に入ってくっつくだけ。子役のアリサンにおんぶにだっこの手抜き脚本はちょっと頂けないです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2020-09-19 23:15:06) |
484. ワンダラーズ
《ネタバレ》 つるんでケンカして馬鹿をやる。いつの時代も共通の、男の子たちの青春が眩しく描かれます。一人一人皆キャラが立っているのでとても見やすい。女好きで仲間想いのリッチー、腕っぷしの強い正義感ペリー、口だけ達者の逃げ切りタイプのジョーイ。裏切者のターキーは最後まで惨めなまま。敵対チームもスキンヘッド系、チャイナ系、黒人グループとまあ色彩豊か。たくさんいるけどちゃんと見分けつきますね。ユニフォームがあるし、そんなものないアイリッシュ系は顔つきがすでに殺人者ぽくて、他グループとは次元の違うヤバさがあったり。 ケンカとパーティ、女の子へのイタズラ、彼女をめぐる諍い。若くて青くて、日々勢いで元気に生息しているように見える彼らにも複雑な家庭事情があったりとビターな差し味が効いています。 映画の終わりは青春の終わり。アメリカ社会はこの先ベトナム戦争が泥沼化して行くのです。ほとんど騙されて兵隊にとられたボールディーズの連中のこれからも、家から逃れて独立を目指すペリーとジョーイの将来も明るい展望を抱けそうにありません。リッチーは間違いなく嫁の尻に敷かれる人生が待ってるし。さらば青春。 フォーシーズンズの歌がぴったりハマる60年代の息吹がリアルに伝わりました。彼らがもっと不良化すると「ウォリアーズ」になるのね。(こちらも好き)対で印象に残る二作品です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-09-14 23:25:49)(良:1票) |
485. ノクターナル・アニマルズ
《ネタバレ》 ・・世間の激賞と相容れない感想なので発言しづらいのですけど。・・ありていに言うと「ちょっと何言ってるのかわからない」です。 まず送り付けられた小説と自分の過去を重ね合わせるって事がやや無理くりではないですか。陰惨極まる妻娘殺害事件と、男と別れた過去がオーバーラップする??男女間のもつれなんてそれこそ星の数ほどありましょうが、どんなにこじれた話であっても「レイプ殺人一家崩壊」とは次元が違いすぎませんか。 スーザンはたしかに無責任、無自覚、不誠実なお粗末女ですがね。この小説をもってエドワードの復讐なのだとする説が大方ですけど、あんなに「何かを愛したら頑張らないといけない」と力説していた男が20年も経って元妻に意趣返しするとは、ちょっとピンと来ないです。 いやいや、これは復讐ではなく愛なのだという解釈も見かけましたが、これまたすとんと落ちないなあ。さして出来がいいとも思えない暴力小説から愛を感じることはわたしには無理です。 スーザンは若き日の愛情を貫徹できず、軽蔑していた母の予言通りにその母そっくりのブルジョワになり下がり、結果中年になった今は空っぽの人生を送っています。わざわざ復讐なんぞのために、自分の20年をこの女に割く価値も無いと思うのですが。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2020-09-12 23:42:02) |
486. 緑の光線
《ネタバレ》 うわあー・・デルフィーヌの自意識持て余し言動の数々、ものすっごく覚えある。したこともあれば、されたこともあるし。このイタイ感じをフランス人と共有できるとは思わなんだ。 もう、この頃はねどーにも自分を持て余しちゃってるんだわね。友人の忌憚のない意見には涙出るほど腹が立つし。泣けてくるのは自分で自覚があるからだけど。年上の同席者からは「君は何でも提案されたことを拒否するみたいだね」と指摘されてしまうデルフィーヌ。で、そこへまた延々反論をぶつのね。そして一人皆と別行動してめそめそする、と。ひゃあーめんどくさい奴。 せっかく出向いたのに思ったよりつまんなくてとんぼ帰り。気の合わない連中との席では露骨に不機嫌な顔をして、デルフィーヌの幼稚な行動は他人に気を使わせまくり。ああ、分かり過ぎて過去の数々の青い行動が思い出され、穴深ーく潜りたくなってしまう。大変に心をえぐってくるお話でした。 私事ですが未熟な行為の数々を許してくれた周りの人々のおかげで、今もなんとか人間社会に生きていられてます。もう完全に大人の年になったことだし、わたしも若者の不安定な心のうちを生暖かく見守ることのできる器になりたいです。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-09-07 23:34:54) |
487. 皆殺しの天使
《ネタバレ》 世にも不条理な物語。「出られない」といってもわたしの知る既出のモノは雪に閉じ込められた山荘だとか、あるいは四角い箱に押し込められているといった外部要因によるものがほとんどで、〝自分の意志”で出ようとしないシチュエーションは初めて観ました。 これは、何なんだろう。浅薄な歴史知識を総動員するに、やっぱり独裁(フランコ?チリ?)政権の比喩なのかな。独裁者の現状を見過ごしてゆくうち、自由意志も奪われてゆく経緯があの家の中に凝縮されたかのよう。最初はブルジョワ層が標的になっているのも、フランコぽいなあ。最後にはどの階層の者も宗教家も身動きがとれないという恐ろしい展開を見せました。 ともあれ、深読みしてもしなくても奇妙で不穏な空気がクセになりそうな作品です。時折繰り返される場面はしかし一回目とは微妙に違っていて、ねじれたループのよう。ノイローゼになるご婦人、危機に瀕してむき出しになる人間性、白い手首がうろうろ。いやあー、怖い。ところで、手首がうろついていたとして、それを虫みたく叩き潰そうとするものですかね?攻撃に出るオバサンも怖かったなあワタシは。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-09-02 23:55:26) |
488. バーン・アフター・リーディング
《ネタバレ》 そうそうたる役者陣の珠玉の馬鹿演技が見られる得難い一本。皆すごいなあ。高い演技力を間抜けの発露に発揮するなんて。ほぼ全員馬鹿なんだもん。 J・マルコヴィッチはプライド高すぎて世間と折り合いつかずアルコールに逃げ、妻と職場からNGを突き付けられるも受け入れられないプライド馬鹿。その妻ティルダ・スウィントンは間男の本性もよう見抜けないくせに尊大なおバカさん。フランシス・マクドーマンドは冴えない人生が整形で逆転すると信じ込んでいる出会い系利用の痛い中年女。G・クルーニーはエロで頭いっぱい(笑)妻を裏切り、でも実は妻に切られていることにも気付かない能天気。そしてブラピの天然で純度の高い阿呆っぷりはこの面子でも真打ち。緊張感のカケラもない顔つきから仕草から、もう真正の馬鹿に見える。 馬鹿が引き起こす事件がバカすぎて深読みCIAは何のことだか全体像が掴めない。面倒くさくなってるお偉いさんのJ・K・シモンズのブルーの瞳が哀しげです。 F・マクドーマンドが勝ち残ったと言えるんでしょうな。しかし彼女の浅薄さもかなりのもんで、ロシア人に「こんな情報いらん」と突き返されたら「私は米国市民よナメないで」だって。その「米国の機密」を売ろうとしたくせに。 お馬鹿がわあわあ騒いで起こる事件は極めて無意味。この味わいを楽しめるかどうかはコーエン兄弟のファンであるかどうかにかかっています。わたしは好きです。 無意味に見えて本質はCIA批判なのだ・・って、そんなことはないよね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-31 23:44:22) |
489. レネットとミラベル 四つの冒険
《ネタバレ》 年月が経っても、心の底で大切に輝き続ける思い出とか出会いとか、そんな一作。 女の子って、友だちって、こういうこと。大事なことを共有したくて、その実現に一生懸命。意地悪な大人に絡まれたら一緒になって憤ってくれる。他愛ない議論と延々続くおしゃべり。洗練されたファッションの子と、野暮ったい子の取り合わせ。ああ、かつて通ってきた女子ワールドの面倒くさくも好ましいエッセンスを凝縮したかのようです。 会話もリアル。「青の時間」を邪魔されてパニくるレネットに「わかった、明日もいるから」と言うミラベルの台詞にあーめんどくさい子ねえ、という呆れとか女の子ならではの優しさが感じられて、十代のあの頃がとても懐かしい。 思い出す限り、こんな風に女の子の心の内を細かいひだまで描いた作品は邦画では見たことが無かった。そういうジャンルは大島弓子とか吉田秋生らの手によって少女漫画でしか接することがなかったあのころ。美しい映像で外国のそれも年配の男性によって撮られた繊細で愛らしい女子ワールド。とても新鮮で、驚きをもって迎え観たものでした。 [ビデオ(字幕)] 9点(2020-08-24 23:31:26) |
490. サベイランス -監視-(2001)
《ネタバレ》 巨大企業の悪だくみを若き精鋭が暴く社会派勧善懲悪モノ。殺人ありスパイあり隠蔽工作ありの仕様は全く新しくないんだけど、その大企業てのが誰が見てもM・ソフト社というのが21世紀ぽい。そしてあの社長をティム・ロビンスがまんま似せてるってのもそこはかとなく笑いを誘います。いいのかなー。 若々しいライアン・フィリップはこの頃が容姿のピーク。瑞々しさや若さゆえの青っぽさが魅力的です。 人物の印象をラストに急変するキャラクターが三名は居り、素直な客のわたしはおお、そうなるのかこいつはと驚いたのですがこのへんは脚本のミスディレクションがさすが、というところでしょうか。 邦題がややテーマとズレてるのが違和感残って残念。いかにも‟surveillance”が原題のような書き方してますが。 [試写会(字幕なし「原語」)] 5点(2020-08-21 23:12:18) |
491. ヘレディタリー 継承
《ネタバレ》 ・・ああやだやだ。嫌だーこの映画。なんか怖がらせてくるというより、ヤな気持ちにさせる嫌がらせのような映画である。えげつないんですよねやり口が。小説に「いやミス」があるなら、こちらは「えげつなホラー」とでもジャンル確立できそうな。 悪魔信仰云々といった正統ホラー描写は宗教の違いもあってか、別に怖くない。けど人の気分を胸糞悪くさせる中盤まではホント消耗する。妹を事故で死なせた兄ちゃんが現実逃避するあのいたたまれなさ。翌朝長々と耳障りに響くトニ・コレットの絶叫。トニ・コレットのガサガサした感じの顔もしんどいが、あの娘役の顔がこれまたキツイ。一体どうやったらあんな不吉なオーラをまき散らす顔になるのか。あの子の担任になるのは絶対ゴメンである。 ‟親として絶対子どもに言ってはいけない”ことばかりを息子にぶつけるトニ・コレットの毒親ぶり。その言葉に削られてゆく息子の土気色の顔。えげつないって。誰だって辟易する。 「家」もヘン。やけに奥行きあり過ぎ、だだっ広い空間が多くて昔の旅館みたい。撮影のために建てたんだとか。生活動線を考えてない住居ってこうも居心地悪いもんなのか。 現代アメリカンホラーの最高作との呼び声高い本作、たしかに強烈なパンチは食らうけれど個人的には「怖い、でも美しい」シャイニング的ホラーの方が好み。ほんとやだったあ 二度と観ない。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-20 23:45:20) |
492. 華氏119
《ネタバレ》 何故トランプが大統領になり得たのか。その原因を民主党政権の時代にさかのぼって多角的に分析した本作は、これまで「怒り」をベースにしたムーア監督に「疲れ」や「絶望」も垣間見えてアメリカの闇が深まった感がありました。 ごりごりに「左」の監督が民主党への批判をも縷々織り込んで展開してみせるは拝金主義に陥った米政治の混沌ぶり。彼の故郷ミシガン州フリントの水問題のくだりでは、「新しいアメリカの象徴」として輝かしく大統領に就任したはずのバラク・オバマの骨抜かれぶりが記録され、かの地の住民ほどではないにせよ日本人のわたしも衝撃を覚えました。 ヒラリーが献金漬けなのは有名な話だし、政治信条など無いトランプは時に民主党以上にリベラル発言をしたりで場は混乱。結果「どっちも嫌」という有権者を大量に生むことに。 これまで漠然と「米国は民主主義のチャンピオン」と思っていたけれど、実はかの国でも未だ民主主義は到達すべき理想形に過ぎないのだという学者の指摘には、問題がそびえたつほどの山積なのだと思い知らされます。 すぐになど変えられない。でも声を上げないとどんどん専横がまかり通る事態になる。その恐ろしさを胸に刻んで、この国でも選挙には必ず行かなくちゃ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-18 23:31:07)(良:3票) |
493. ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー
《ネタバレ》 マイケル・マンとJ・カーンというのも幸福な取り合わせだと思う。「男」でなく「漢」を撮りたい監督と、武骨でちょっと粗野な感じも併せ持つカーン。この手の男優さんはめっきり少なくなりました。最近はみんな小ぎれいでデリカシーも満タンになっちゃって。 徹頭徹尾男汁が溢れ出る。金庫破りのシーンひとつにしても実に丹念に時間をかけてカメラ固定で「男子一生の仕事」ぶりを描写。ついでに仕事を成功させた直後のカーンの埃ですすけた顔も長映し。この時の満足げな表情もまた渋い。 嗚呼、己はカタギになれぬ身と悟った男は幻想を破り捨て、女房を追い出し手を血に染めに向かうのだ。自宅も店も後腐れなく破壊して。ボンネットに映える電飾の煌めき、夜の空を焦がす炎。映像も美しい。 どうですこのハードボイルド気質。撮っててシビれちゃっただろうなー。わたしはハードボイルド苦手なんですがね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-17 23:18:46) |
494. アンフォゲタブル
《ネタバレ》 「アン××ブル」ってタイトルの映画他にも色々あったよなー。きっとコレもそのうちどんな内容だったか思い出せなくなりそうな。しかし「レイ・リオッタが主演の」と言ってくれれば ああ、となりそう。だってこの人が主役を張るっていうのがもう珍しいもんね。 顔つきが(役者としては幸運なことに)小ずるくて信用置けなさそう(わたしの主観)だもんだから、役どころもそんなバイプレイヤーキャリアの彼。本作はアルコールに溺れた過去を持ちながらも妻愛に満ち、殺害犯を我が身をリスクに晒しながら探し続ける、しごく「正」側のキャラクターであります。レイはまあ好演と言えるのでしょうが、犯人像が二転三転するという展開も相まって、わたしはどーしてもレイへの固定観念が捨てきれず「結局この人が殺したんちゃうの?」と思い続けてましたから、‟真犯人探し”のプロットを生かすためにも客が勝手にミスリードするこの配役は絶妙だったのかもしれません。レイすまない。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-08-13 23:28:16) |
495. ビューティフル・デイ
《ネタバレ》 作品紹介でスリラーとあったのですが、本作は違いますね。人の死に方がオソロシくて血も飛びますけど、テーマはPTSDと闘う男の凄絶な心の軌跡。画も音楽もビターで内省的。とりわけ音楽は劇中のラジオが音源だったりすることが多く、これが作品世界にすっと入っていける効果をもたらしているように感じました。 ホアキン・フェニックスが只事じゃない重たさです。幼少期の父親の虐待に始まって、軍の任務で経験した数々の不条理な暴力でジョーはすっかり心をやられてしまいました。何度も死のうとして、でもギリギリ踏みとどまってきたのは母親の世話があるから。二人でフォークを磨いたり、子どもの頃に口ずさんだ歌を思い出したりする姿は、説明の少ない本作の中で彼らの結び付きがうかがい知れる心安らぐ場面でした。 母親は死んでしまったけれど、ニーナがいてくれる。観る者が希望を抱くのは、彼女が若くて心の芯が強そうだから。彼女もさんざん傷ついているのに「今日はいいお天気よ(It's a beautiful day) 」とジョーが立ち上がるきっかけを与えることができるのだから。 窒息しそうなジョーが息をつくことのできる人生を取り戻してほしい。ショッキングなラストの自死のシーンが現実でなかったと分かった時、わたしは本当に、心からほっとしました。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-08-11 23:41:15) |
496. ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ
《ネタバレ》 続編というのは難しいものですけど。これもねえ・・。デル・トロのキャラクターが変わってしまっているのは大変に痛い。前作の‟闇に生きる者”としての凄みがほとんど感じられない。三段階くらい安い話になりました。女の子一人を守る為に身体を張る元検事、現殺し屋。リュック・ベッソンかいな。 車中からトバす眼光の鋭さや、側頭部を撃たれてなお瀕死でハンドルを握る鬼気迫る姿は生への執着が漲り、さすがデル・トロ。彼の演技だからこそ作品水準は一定の高さに保ててはいますけども。 細部の粗も気になっちゃうなあ。冒頭の敵対マフィア弁護士を街中で撃つ描写がまず安っぽくて嫌い。あれでは三下のチンピラみたいです。 組織の使い走りの子が夜目にデル・トロを認識したのもあまりにも都合よくないですか。一度駐車場で車内の人間と目が合っただけでしょう?それをあんな闇夜で変装すらしている男と見破ることができるもんかね、とここはどうしても引っかかって嫌でした。他のプロットを考えてほしかった。わたしが人の顔を覚えるのが苦手だからかもしれないけど。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-08-10 23:24:41) |
497. オーガストウォーズ
《ネタバレ》 ロシア製の堂々たる娯楽大作です。正直こんなに‟こなれた”映画を作ってくるとは驚きました。男優も女優も画面負けしない一流どころで、まあ冒頭のCGの出来はさておき人間が演じる部分には画の背景や質感に安っぽさがありません。とりわけ世界水準レベルなのが戦闘場面で、砲弾散らかるガレキだらけの現場のリアリティはもとより、狙撃兵からの攻撃がいつ来るのか静と動の描き分けが巧みで緊迫感を煽ります。ここらの演出の洗練ぶりは「ブラックホーク・ダウン」や「フルメタルジャケット」等の先達からきちんと学んでいるような感があります。 惜しむらくはいろんな娯楽要素を盛りすぎかなあ、ということ。CG仕立てのクリーチャーらが跋扈する様子はSFバトルのようで非現実気分になりますが、しかし人の命が軽い戦地の不条理や酷さは「ハート・ロッカー」レベルですし、箸休め的にちょっとしたロマンスまでぶっこんで節操がないまでのごった煮の様相を呈しています。作品を壊すほどにバランスが悪いわけではないですがね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-09 23:41:21) |
498. 殺し屋たちの挽歌
《ネタバレ》 例えば銃撃戦や激しいアクションなどは目が慣れてしまうことがありますが、静かなまま、ひりひりと最後まで手に汗握らされる心理戦ドラマがあります。この映画がまさにそれ。 殺し屋2名とターゲット一人、巻き添え人質が一人。四者四様の思惑が交錯し、狭い車内に充満する不可思議な空気。不可思議オーラはもっぱら殺られる運命のT・スタンプが醸します。死を恐れぬ淡々とした死生観に、さしものベテランヒットマンである非情のJ・ハートも心を動かされるのでした。・・が、いやこれがね、まさかのラストへの慎重に敷いた伏線とはね。人の心は測りがたし。心に生じた静かな感銘をアッサリ裏切られたJ・ハートの狼狽したような表情たるや。気持ち、分かる。 逆らう新米手下は切ってしまおう、というところまではジョンの心の内にあったことでしょう。でもいっとき「天晴だ」と感嘆し本名まで明かしたテレンスに気持ちをスカされるとは予定外。かくして彼の判断が狂い、女を逃がしたばかりに自らの首を絞めることになるのですねえ。人生一寸先は闇ですね。 皆良い芝居をしています。なかでも映画初出演のティム・ロスがチンピラ顔を大いに活かしてのびのび子分役を演っており、印象強烈です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-08-08 23:24:38) |
499. スクリーム(1996)
《ネタバレ》 いろんなレビューを見たところ、ホラーにコミカル要素が混じるのがツボなようで受ける人には受けてるみたい。確かに「○○、後ろ後ろ!」みたいな場面があったり、妙に転び方のキレの良い殺人鬼とかはコント風でしたが。でも、ぐさぐさとナイフ刺さったり、シャッターに吊るされた女子とかスプラッタ場面もしっかり怖いじゃないですか。笑うに笑えないというか。 話に粗が多いのはホラーの通常運転なので流せるんだけど、ワタシ序盤にドリューがポップコーンのコンロ火を消さないのが気になって気になって。二度もコンロの前通ってんのに。煙もうもうなのに。ホラーの登場人物って火を消さないものだっけ?火事は当座の不審者より怖いぞ。あ、それとホラーの定番外しといえばTVの女レポーターのまさかの活躍。マスコミの女はウルサイだけなのが常道ですのにね。以上気になった二件でした。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2020-08-03 23:01:25)(良:1票) |
500. ホームワーク(1989)
《ネタバレ》 監督自らが我が子に課せられる宿題に疑問を抱いて、子ども達や親ら現場の声を集めたドキュメント。学校側の言い分が無いのはちょっと公平ではない気もするけれど、80年代のイランに於いては学校や先生は「権威」であったぽいからカメラを向けることは恐れ多かったのかしら。 もっと広くて明るい部屋は借りられなかったの?と思わずにいられない暗く狭い小部屋でライトを当てられる子どもたち。ちなみに全員男の子。どの子も宿題は手に余っていて、家の事情が何通りも語られる。子どもなのに「タテマエ」をわきまえている子もいて、テレビより宿題の方が好きとか言う。見え隠れするのは年長者や大人という存在が我が国よりずっと強くて強権的にすら感じること。 人の国の教育の在り方にどうこう口をはさむ気はない。もちろんこの作品はイランの人々が観るべきものだろう。 宿題について聞かれて困った顔をしたり、時にはべそをかいてパニック気味になる子もいたりだけど、冒頭学校の外で「何の映画を撮っているの?」とわらわらと聞いてくる彼らは別人のように生き生きと子供らしくてほっとした。あんないい顔で日々を常に送ってほしい。どこの国とも喧嘩せず、大人になれたらいいのにね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-08-02 22:44:07)(良:1票) |