541. キラー・メイズ
《ネタバレ》 ヒマを持て余した今年で30歳になろうという無職のダメ男が、何を思ったか自宅のリビングに段ボールで迷路を作り始めたことがそもそもの始まりだった。もともと凝り性だったせいもあり、出来上がったそれはなんと作った本人ですら三日も出てこれないほどの超大作に。迷い込んで出られなくなったという彼を救うため、同棲中の恋人や腐れ縁の友人たちが一致団結。半信半疑に入口を潜ってみるとそこには本当に広大な迷路が拡がっていた!しかも、内部には随所に危険な罠が仕掛けられていたのだった。さらには危険な悪の化身ミノタウロスまで登場し、獲物を求めて辺りを徘徊し始める。果たして彼らは無事にこの殺人迷路から抜け出すことが出来るのか?アイデア一発勝負で撮られた、完全に低予算のそんな本作、あまり期待せずに今回鑑賞してみました。舞台となる、全て段ボールで手造りされたであろうこのセットは確かにチープなんですけど、これがけっこう細かいところにまで独特のセンスや拘りが感じられて意外に最後まで観ていられる作品になってましたね、これ。まあ一言で言い表すなら、エッジの効いたNHK教育の子供番組みたいな感じで、折り紙の鶴や虫がそこら中にわさわさ動き回っていたり、ピアノの鍵盤が何処までも続く部屋があったりとなかなかに独創的。首を刎ねられた女性から噴き出す血が色鮮やかな紙吹雪なとこなんて、けっこうセンスを感じました。他にも遠近法を使ったビックリハウス的な部屋や、入った者が全員チープな段ボール製パペットになっちゃう部屋など視覚的に飽きさせない工夫が施されているのもポイント高いです。学生たちが自主製作で創ったようなノリで観たら、意外とセンス良かったみたいな感じかな。とはいえ、脚本が同じくらいチープなのはいただけませんけど。全く中身がないうえに、さして笑えないギャグが全編に渡って繰り返されるのがかなり寒い。致命的なのは、こんな殺人迷路が何故出来上がってしまったのか、その根本的な原因を曖昧なままに終わらせてしまったこと。とまあ、お話的には完全にナシだけど、この監督のヴィジュアル・センスにはほんのちょっとだけ将来性を感じました。 [DVD(字幕)] 5点(2020-02-21 03:44:43) |
542. スウィート17モンスター
《ネタバレ》 彼女の名は、ネイディーン。何処にも居るような平凡なティーンエイジャーだ。別にクラスの人気者ってわけでもなく、勉強もスポーツも平均以下、憧れの男子にはSNSで友達申請するもずっと音沙汰なし、婚活失敗続きのママはずっとヒステリーを起こしっぱなし。そんな冴えない日々を送っていた彼女に、大事件が発生。なんと自分の兄と、唯一の友達で子供のころからの大親友でもあるクリスタが付き合うことになったのだ。「そんなの絶対あり得ない!」――。色ボケ兄貴も親友だと思っていたクリスタも怒ってばかりのママも分かってくれない学校の先生もクソったれな世界も何より自分のことが大嫌いになったネイディーンは、その日から人生の袋小路へと迷い込むのだった。果たしてお先真っ暗のネイディーンの人生に明日の光は差すのか?そんな八方塞がりのイケてない日々を送る17歳の女の子の日常をポップに描いた青春ドラマ。まあいわゆる今どき“こじらせ女子”の生態をリアルに描いたそんな本作なのですが、何より主役を演じたヘンリー・スタインフェルドの魅力に尽きると思います。最近のクロエ・グレース・モレッツを髣髴とさせる、この絶妙なブ……失礼、個性的なルックスがこの主人公のこじらせ具合にばっちり嵌まってました。ほとんどアドリブなんじゃないの、これ?って思わせるほど人の嫌がることを次から次へと捲し立てる彼女の減らず口には思わずニヤニヤ。うん、居るよね、こんな子。自意識過剰のかまってちゃんで、自分の思い通りにいかないとヒステリーを起こすトラブルメイカー。いやー、客観的に見る分にはすこぶる面白いですわ。まあ当事者になるのは絶対嫌ですけど(笑)。「いいよね、君は私と別れられて。私はこんな自分とは一生別れられないんだよ」。同じくこじらせ女子の生態を描き続けて芥川賞を受賞した日本の小説家に本谷有希子が居ますが、彼女のとある作品の中にあるこんな言葉を思い出しちゃいました。そんな彼女を温かく見守る、ウディ・ハレルソン演じる学校の先生もなかなかいい立ち位置でナイス!ただ、さすがに後半は余りにも迷走しすぎてちょっとしんどくなっちゃいましたので、そこは若干マイナスです。ネイディーン、さすがに男を振り回しすぎでしょ。まあそこらへんは好みの問題だろうけど、ぼちぼち面白かったです。 [DVD(字幕)] 7点(2020-02-20 03:01:25)(良:1票) |
543. Love Letter(1995)
《ネタバレ》 「拝啓藤井樹様。お元気ですか?私は元気です」――。かつて恋人を山で失くし、失意の中に生きてきた神戸在住の女性、渡辺博子。彼の三回忌の法要に参列した彼女は、偶然目にした卒業アルバムで彼の当時の住所を知る。懐かしさから、博子は何げなくペンを手に取ると、彼に届くはずのない手紙を書くのだった。ポストに投函されたそれは、誰にも読まれることなく送り返されるはずだった。だが、手紙は何故か、北海道の小樽に住む彼と同姓同名の女性、藤井樹の元へと届けられる。「拝啓渡辺博子様。私は元気です。でもちょっと風邪気味です」――。ちょっとした悪戯心から樹はそう彼女に返信を書く。そうして何気なく始まった、見知らぬ者同士の文通。何度もやり取りされる中で、次第にそれは今はなき天国の彼の思い出を鮮やかに蘇らせるのだった。時を超えた二人の思い出はやがて、都会の片隅に小さな奇跡をもたらすことに……。映像作家、岩井俊二監督の長編映画デビュー作となる本作、今更ながら今回鑑賞してみました。結論を言います。素晴らしい作品でした。今まで観ていなかったことを激しく後悔。もう全編に渡って横溢する、このキラキラと光り輝くような豊かな詩情性に完全にやられました。白を基調とした美しい映像に一部の隙も無い完璧な構図、そして気品あふれるクラシカルな音楽ともはや魔法のような美しさにいつまでもずっと浸っていたいと思わずにはいられません。最初はあり得ないストーリー展開に戸惑わせつつも、真相が明らかになれば誰しも納得できるというこの考え抜かれた脚本も見事としか言いようがない。神戸と小樽で暮らすそっくりな風貌を持つ二人の女性、同姓同名のクラスメイト、肺炎で亡くなった父、本当は嫌いだった松田聖子の歌、暗い夜の駐輪場で自転車の淡い光に照らされた二人、誰も借りたことのないマイナーな本の貸出票に書かれた幾つもの彼女の名前、そして最後に彼が借りた『失われた時を求めて』に隠されていた秘密……。散りばめられた細かなエピソードの一つ一つに至るまで監督の才気が漲っていて、その完成度の高さには言葉を失ってしまいます。ただ一つ惜しいのは、豊川悦司の関西弁がいまいち嵌まっていなかったことぐらい。それ以外は、この洗練された美しさに今さらながら脱帽。若き岩井俊二の豊かな才能が完全に開花した、聞きしに勝る傑作でありました。 [DVD(字幕)] 9点(2020-02-19 20:41:23)(良:1票) |
544. 500ページの夢の束
《ネタバレ》 彼女の名は、ウェンディ。何処にでも居るような平凡な女の子。でも、一つだけ人と違うことがある。それは人と話すのが大の苦手で、自分の思い通りにならないことがあると思わず“かんしゃく”を起こしてしまう困った癖を持っていること。そう、彼女はいわゆる自閉症なのだ。唯一の肉親である姉の結婚を機にウェンディは福祉施設で暮らすようになり、今はパン屋さんで働き自立している。でも、本当の願いは思い出がたくさん詰まった自分のお家に帰ること。そんな折、姉の勝手な判断で大切なお家が売却されてしまうことを知るのだった。到底納得いかないウェンディはまたしてもかんしゃくを起こしてしまう。食事が喉を通らないほど落ち込んだ彼女が、考え込んだ末に思いついた解決法。それは、映画会社が主催する、自分の大好きなテレビドラマ「スタートレック」の脚本コンテストに応募し、賞金10万ドルを手に入れることだった。寝る間も惜しんで書き上げた500ページにも及ぶ原稿はすでに完成してある。だが、締切は明後日。とてもじゃないが、今から郵便局に預けにいってては間に合わない。仕方なくウェンディは、たった一人ロサンゼルスへと向かうバスへと乗り込むのだった。愛犬のピートを相棒にして――。自閉症と言う個性を抱えた一人の女性が、自らの夢を叶えるために遠く離れたロサンゼルスまで旅する姿を描いたロードムービー。前作で、障碍者と性と言う難しい問題をあくまで軽く爽やかに描いたこの監督らしい、ほのぼのとした空気に包まれた心温まるお話でしたね、これ。とは言ってももちろんキレイごとばかりではなく、当然そこには障碍のある人の生き辛さや家族の葛藤、世間の無関心やそんな弱者を食い物にする悪人の存在もちゃんと描かれる。でも、そこまで深刻になる一歩か二歩手前で引くこの監督の絶妙な匙加減は見事としか言いようがありません。特に居なくなった彼女を追って奔走する、トニ・コレット演じる施設職員には好感持ちまくりです。バスの運転手や医者、融通の利かない映画会社の事務員など嫌なやつも沢山出てくるのですが、それ以上に彼女のような魅力あふれる人々がいっぱい出てくるのがとてもいい(宇宙の言葉を突然話し出す、あの警官マジサイコー!)。そう、どんな人にだってちゃんと手を差し伸べてくれる優しい人が居ることを改めて教えられました。主演を務めたダコタ・ファニングも自閉症を抱えた若い女性をリアルに演じていてとても良かったです。最近妹の方が何かと話題になることが多いのですが、彼女にはこのまま演技派の道を歩んでいって欲しいものです。今回の結果は残念だったけど、必ず認めてもらえる日がきっと来るよ。そう思わずにはいられないヒューマン・ドラマの佳品でありました。お勧めです。 [DVD(字幕)] 8点(2020-02-18 22:39:07) |
545. バグダッド・スキャンダル
《ネタバレ》 『石油・食糧交換プログラム』――。それはイラク戦争開戦前夜、欧米の経済制裁によって苦しむイラク国民を救うために国連主導で行われた人道援助だ。当時まだ独裁者として同国に君臨していたサダム・フセインによる大量破壊兵器開発を防ぐため、国連が窓口となって豊富な石油資源を市場価格で売却し食料や医薬品と交換してイラクへと還元させる。多くの人命を救うための人道的プログラムのはずだった。だが実際は、フセイン政権による横領や横流しが相次ぎ、さらには先進国の大手企業がその利権を巡って多くの不正行為に手を染めていた。驚くべきことに、監視者であった国連職員にまで汚職が蔓延していたのだ。若き職員マイケル・サリバンはその事実に気付き、すぐさま上司に報告するも実態は公にされることなく握りつぶされてしまう。だが、様々な国の思惑が複雑に交錯する国際情勢の中、やがてそれは国連を大きく揺るがす一大スキャンダルへと繋がっていくのだった……。本作は、200億円にも及ぶ大金が闇に消えたという実話を基にして描かれた硬派なポリティカル・サスペンスだ。主演を務めるのは若手俳優テオ・ジェームズ、他に制作も務めたというベテラン、ベン・キングズレーが名を連ねている。確かな取材や時代考証に基づいたであろう骨太な物語はなかなか見応えがあった。ニューヨークの国連本部から当時混乱を極めたイラクの首都バグダッドにまで拡がるそのスケールの大きさにも圧倒されるものがある。何より、この弱者を救うためのプログラムを利用し甘い蜜を吸い続けた、欧米各国の行き過ぎた資本の論理には戦慄させられる。人間とは、かくも欲深き生き物なのか――。「民主主義に汚職はつきものだ」と言うベン・キングズレーの言葉が重い。そんな醜い国際情勢によって翻弄される、主人公の国連職員とクルド人女性通訳との儚い恋物語は強く印象に残った。丁寧な手腕が光る政治サスペンスの逸品と言っていいだろう。ただ、こういう作品なので仕方ないのだろうが、お話として地味すぎるのが自分には少々退屈に感じてしまった。もう少しドラマティックに脚色しても良かったのではないか。世界の実態を知るという点では充分観る価値はあったが、人間ドラマとしては幾分か物足りなさの残る作品であった。 [DVD(字幕)] 6点(2020-02-17 23:10:59) |
546. エリザベス∞エクスペリメント
《ネタバレ》 舞台は、人里離れた小高い丘の上に建つ豪華な別荘。そこに、持ち主であるノーベル賞を受賞した老科学者が若き婚約者を連れてやってくるところから物語は始まる。婚約者の名は、エリザベス。まるで人形のような完璧な美貌の持ち主である彼女を迎え入れるのは、科学者の息子である盲目の若者と家政婦のような謎の女性。誰もが何か秘密を隠しているような別荘の中で、科学者とエリザベスの愛欲に満ちた新婚生活が始まる。沢山の高価な服に高級な家具調度品、何不自由ない満たされた日々。だが、エリザベスは拭い切れない違和感を抱き始めるのだった。夫の目を盗み、秘密の地下室へと忍び込んだエリザベスは、そこであり得ないものを発見してしまう。それは昏睡状態で保存された、自分と瓜二つの若き女性だった――。果たして自分は何者なのか?エリザベスの出生の秘密を巡り、衝撃の物語が今幕を開ける……。とまあ、ここでぶっちゃけてネタバレすると彼女はこの科学者が創り出したクローンなわけなのですが、こんな単純なお話なのに、こんなにこんがらがったストーリー展開にする意味が分からない作品でしたね、これ。エリザベスの基となった人間はこの科学者の亡くなった奥さんで、しかも6体しか作り出せなかったのに、約束破って秘密の地下室に入ったからって簡単に殺しちゃうこの科学者の行動がまず意味不明過ぎます。物凄く怪しさ満点でしかも指紋認証で簡単に入れるのに、「この部屋に入ってはいけない」なんて言ったら誰だって入りたくもなりますって!え、これは「ここには誰も隠れてへんで!」って言う往年の吉本新喜劇のネタですか(笑)。さらにこの別荘の住人である女性科学者の謎の経歴やら実は息子もクローンだったという無駄にややこしいうえにさして盛り上がりに欠けるエピソードを絡めてくるもんだから、後半はもう眠たくって仕方なかったです。中途半端に哲学的な会話を盛り込んでみたり、全編にわたって変に凝った撮り方をしたりするのもこの面白くなさに拍車を掛けています。大胆なヌードを披露してくれたエリザベス役の女優さんも確かにキレイなんですけど、なんだかお人形さんのような作り物めいた感じなので、そこまで僕の股間に響かず…。うーん、観るだけ時間の無駄の凡作でした。4点! [DVD(字幕)] 4点(2020-02-16 23:52:45) |
547. コード211
《ネタバレ》 それは平凡な一日になるはずだった。いつものように――。定年を間近に控えたベテラン警察官、妻の妊娠を知り人生の絶頂に居る若手警官、学校での乱闘騒ぎから丸一日のパトカー同乗体験を余儀なくされたいじめられっ子の高校生、長年連れ添った妻との記念日を迎えた銀行の支店長、そして凶悪な犯罪者を追ってアフガニスタンからやって来たインターポールの刑事……。彼らの平凡な日常が、突如として切り裂かれる。街の一画にある大手銀行を狙って、元軍人たちで結成された凶悪な強盗集団が襲撃したのだ。何丁もの武器と大量の爆発物を用意した彼らは、瞬く間に銀行を占拠し、中に居た客や行員を人質にする。白昼堂々と行われた大胆な犯行。異変を察知した、偶然近くに居た警察官の通報により、緊急コード〝211〟が発動されるのだった。それは、現在進行中の銀行強盗を意味する秘密のコードだった――。果たして人々は無事にこの大惨事を乗り切ることは出来るのか?突如として修羅場と化した地方都市を背景に、偶然そこに居合わせた人々のサバイバルを臨場感たっぷりに描いたクライム・アクション。毎度おなじみニコラス・ケイジ主演で送るそんなオーソドックスな本作、まあやりたいことは分かるのですがなんだか全体的に演出の詰めが甘い作品でしたね、これ。一応群像劇っぽい作りになっているのですが、それぞれのエピソードの描き方がいまいちよく練られてません。例えばニコラス・ケイジ扮するベテラン警官、なんか妻を過去に失くしてそれが原因で娘と疎遠になってるっぽいんですが、そこらへんが説明不足でよく分からないんですよ。偶然パトカーに居合わせたという高校生もそのキャラ設定の詰めが甘くいまいち感情移入できない。インターポールの女性刑事に至っては、正直何がしたいのかさっぱり理解できません。終始こんな感じで、肝心のドラマ部分にうまく乗り切れないんですよ、残念ながら。対する銀行強盗たちも綿密に計画を練ってると思いきや、かなり行き当たりばったりの無為無策ぶりでちょっと呆れてしまうレベル。最後、追い詰められた彼らがどうするのかと思ったら、まさかの重たいバックを背負ってえっちらおっちら正面突破。当然のように瞬殺されるという捻りの無さには思わず苦笑しちゃいました。最近のニコケイ映画にしてはアクションシーンにけっこうお金を掛けていて、白昼の街並みで展開される銃撃戦などはなかなか迫力あっただけになんとも残念。 [DVD(字幕)] 5点(2020-02-15 23:00:44) |
548. シシリアン・ゴースト・ストーリー
《ネタバレ》 マフィアに拉致監禁され、突然居なくなってしまった13歳の彼氏のことをただひたすら捜し続けた少女の姿を幻想的な映像で描いたピュア・ラブ・ストーリー。ギレルモ・デル・トロの作品を髣髴とさせるというキャッチコピーに惹かれて今回鑑賞してみましたが、正直「どこがやねん!」と思わず突っ込んじゃうくらい残念な作品でありました。もう雲泥の差ですよ、これ。とにかくストーリーの見せ方が恐ろしく稚拙。大して面白くもないお話がダラダラダラダラ続くうえ、意味不明なシーンが山ほど差し挟まれるもんだからもう眠いったらありゃしない。あの主人公が髪の毛を染めるシーンはいったい何の意味があったのでしょう?音楽の使い方もまるでなっちゃいない。何より、この「どうだい?芸術的だろう?」と言わんばかりの全編に横溢する監督の独り善がりなナルシズムが、もうとにかく気持ち悪くって仕方なかったです。そしてよく分からない唐突なラストシーンの後に表示される、実話を基にしたというテロップ。はっきり言って、これは死者への冒涜ではないかとすら僕には思えてしまった。正直、観る価値など欠片もない恐ろしいほどレベルの低い作品だと断言していいでしょう。主人公の女の子の今にもパンツが見えそうな超ミニスカート(実際何回か見えてたし!笑)に+1点! [DVD(字幕)] 2点(2020-02-11 00:30:21) |
549. サマー・オブ・84
《ネタバレ》 連続殺人鬼も誰かの隣人だ――。1984年、6月。オレゴン州の小さな田舎町で暮らす15歳のデイビーは、何処にでも居るような平凡な男の子。仲の良いクラスメートとはくだらないエロ話で盛り上がってばかり、ジャーナリストの父との関係も普通、大した夢があるわけでもなく、憧れの幼馴染の女の子には声をかける勇気もない。そんな冴えない日々を過ごしていたある日、彼はとある重要な事実に気付いてしまうのだった。隣人で広い一軒家に一人暮らししている警察官。彼こそ、最近世間を騒がせている幼い少年ばかりを狙った連続殺人事件の真犯人なのではないか――。自分なりに観察すればするほど確信を深めていくデイビー。いてもたってもいられなくなった彼は、いつもつるんでいる仲間たちと本格的に調査を開始するのだった。果たして隣人は本当に連続殺人鬼なのか?デイビーたちの一生忘れられない夏が今、幕を開ける……。80年代を代表する数々の映画作品にオマージュを捧げた、そんなノスタルジックな雰囲気が横溢する青春スリラー。とまあ、ノリはもう完全に『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』で、他にも『グレムリン』や『E.T』などと言った有名映画への愛が溢れ出ている昔懐かしい雰囲気の作品でしたね、これ。主人公の仲間となる少年たちも、キザな不良、頭脳派の眼鏡、とろいおデブ、そして憧れの美少女と物凄くベタなんですけど、一周廻って逆に新鮮でした。それに全編を彩るテクノサウンドもホント懐かしい!肝心の隣人の警察官も最初は怪しさ爆発、でも中盤で実際は主人公の勘違いでしたと思わせといて、実は……、と言うのもベタながらアリ。警官宅に忍び込むシーンなど、不穏な音楽で「来るぞ、来るぞ」と観客の不安を煽っといて急に大きな音を出して驚かすという手法も懐かしい(若干腹立つけど!笑)。この古き良き80年代を懐かしむという点ではなかなか良かったと思います。ただちょっと残念だったのは、前半のストーリー展開が若干もたもたしてるうえにいまいち分かりづらいところかな。もう少し丁寧な演出を心掛けて欲しかったですね。そして、最後の驚きの展開は賛否が分かれるところ。でも僕はなんとなくスティーヴン・キングの『IT』っぽくてけっこう好きかも。ま、こういう作品なんで新しい部分は一切ありませんが、僕はぼちぼち楽しめました。 [DVD(字幕)] 6点(2020-02-10 12:32:19) |
550. ハッピー・デス・デイ 2U
《ネタバレ》 謎の殺人鬼に何度も何度も殺されるという悪夢の無限ループへと陥ったビッチな女子大生、ツリー。彼女がその無限ループから抜け出すために、何度も殺されながら真相を探る姿を疾走感あふれる展開で描いた青春ホラー第二弾。前作の低予算ながらポップでキレのいい演出がけっこう面白かったので、続編となる本作も期待して今回鑑賞してみました。前作では謎のままだったタイムループ発生の原因が、本作で明らかにされたのは嬉しい展開。前作ではちょい役だったあの「メス犬とやったのか」でお馴染み(笑)の金髪アジア系男がまさかの張本人だったとは!冒頭、こいつが新たな無限ループに巻き込まれる展開に、「え、もしかして今回はこいつが主人公なん?!」とちょっと不安にもなりましたが、途中でちゃんとツリーの無限ループに戻ったのでホッとしました(彼女にとっては迷惑この上ないでしょうけど笑)。ただ、肝心のことの真相が実は幾つもの現実が併存する多元宇宙(パラレル・ワールド)だったというのは賛否が分かれるところ。僕はどちらかと言うと否の立場かなぁ。話が無駄にややこしくなって前作ほどのカタルシスを得られませんでしたわ。それに前作よりスラッシャー・ホラー要素が薄まったのもちょっと残念。まぁこればっかりは好みの問題なのでしょうけれど。それでも、相変わらず様々な死にざまを身体を張って魅せてくれたツリーの潔い死にっぷりには今回も楽しませてもらいました。ドライヤーで感電死したら次の瞬間髪の毛爆発してたりだとか、スカイダイビングに裸で挑んだりだとか、ゴミ収集車に頭からスライディング・ダイブだとか、前作以上の悪ノリっぷりに終始ニヤニヤが止まんなかったです。最後のオチもけっこう決まってましたしね。というわけで、前作ほどではないですが、今回もなかなか楽しませていただきました。でも、さすがにこれ、もう続編はないよね(笑)。 [DVD(字幕)] 7点(2020-02-09 23:50:59) |
551. ハッピー・デス・デイ
《ネタバレ》 彼女の名は、ツリー。自他ともに認める下半身ゆるゆるの女子大生、いわゆる“ビッチ”だ。その日の朝も昨日の酒が残った状態で目覚めたツリーは、自分が見知らぬ同級生の部屋のベッドに寝ているのを発見する。「あっちゃー、またやっちゃった」。酷い二日酔いの頭でそう後悔しつつも彼女は、今夜のパーティーのためにすぐさま自分の学生寮へと急ぐ。何故なら今日は誕生日だから。今日こそ最高にハッピーな一日を過ごすため、ツリーは嫌みなルームメイトや不倫の関係にある大学教授たちをやり過ごし、約束のパーティー会場へと暗い夜道を歩いていた。すると、彼女の背後に忍び寄る不穏な影。不気味なマスクを被った謎の男に、ツリーは呆気なく殺されてしまうのだった――。だが、次の瞬間、ツリーはまた見知らぬ同級生の部屋のベッドに寝ている自分を発見する。見覚えのある人と見覚えのある会話。戸惑いつつもパーティー会場へと向かった彼女は、またしても謎の男に殺されることに。でも、次の瞬間、ツリーはまた見知らぬ同級生の……。原因不明のそんな悪夢の無限ループへと迷い込んだビッチは、果たして無事に誕生日を乗り越えることが出来るのか?最近流行りのループ物に青春ホラーをミックスしたというそんな本作、いやー、これがなかなか面白いじゃないですか!最初目覚めてから謎の男に殺されるまでの一回目が若干長くてループ物としてどうかと思ったんですが、二回目三回目とループが繰り返されるたびにどんどんとスピード感が増してゆくのが観ていて爽快。ツリーの殺され方も、ナイフで刺殺から割れたガラスで顔面串刺し、バッドで殴打、噴水で水死、バスで轢死、ガソリンで爆殺とバラエティに富んでるのも大変グッド!あまりに殺され過ぎて、もはや開き直ったツリーが裸で学内を歩いたりするシーンなんていかにもビッチでナイスでした(笑)。きっと原因は自分の自堕落な生活のせいだと思い込んだ彼女が、真人間になろうと努力する中盤の展開なんてすんごく薄っぺらいんですけど思わず応援しちゃってる自分が居ました。うん、頑張れ、ビッチ(笑)。そして真犯人が明らかにされるクライマックスもけっこう脚本が練られていて普通に面白い。ラストシーンなんてなかなか技ありで思わず拍手しそうになっちゃったし。いやー、この監督、けっこうセンスあるんじゃないですかね。このタイムループの原因をもう少し納得できる形で説明して欲しかった気がしなくもないですが、エンタメ映画として僕は充分楽しませていただきました。うん、8点! [DVD(字幕)] 8点(2020-02-08 23:03:38) |
552. ア・ゴースト・ストーリー
《ネタバレ》 交通事故で死んだ夫が幽霊となって、遺された妻を時空を越えて見守る姿を幻想的に描いたファンタジック・ラブ・ストーリー。率直に言ってさっぱり面白くありませんでした、これ。役者たちの台詞を極力排除したり、極端に動きの少ない画をひたすら長回しするシーンなんて、まあ意図してやってるんでしょうけど、普通にセンスがないんでもはや観られたもんじゃありません。あまりに退屈過ぎて開始10分で早々と襲い掛かってきた睡魔と闘いながらなんとか最後まで観ましたが、残念ながら得られたものは特に何もなく……。雰囲気ごり押しで全く中身がないくせに、変に芸術を気取ったこの監督の独り善がりなナルシズムがとにかく鬱陶しくって仕方なかったです。うーん、観るだけ時間の無駄の駄作としか僕には思えませんでした。 [DVD(字幕)] 3点(2020-02-07 22:02:44)(良:1票) |
553. ドント・ウォーリー
《ネタバレ》 彼の名は、ジョン・キャラハン。毒の効いたユーモアで人気を博した風刺漫画家だ。だが、その人生は決して順風満帆とは言えないものだった。実の母親に捨てられたというトラウマから酒に溺れ、二十歳を過ぎたころには立派なアル中に。前日の酒が残った状態で朝目覚めると、その酒が切れないうちに新たな酒を求めるという典型的な負のサイクルに陥っていた。そして迎えた運命のその日――。いつものように友人と酒場をはしごし、前後不覚になるまで酔っ払った彼は、更なる酒を求めて次の酒場を目指していた。しかも、酔っ払って歩くことさえままならない酩酊状態の友人が運転する車で。当然のように車はかなりの事故を起こし、ジョンは意識不明の状態で病院へと担ぎ込まれることに。下された診断は致命的な脊髄損傷。一生車椅子生活を余儀なくされるというものだった。障碍者となりながらも、それでも酒を止められないジョン。絶望のあまり自暴自棄へと陥った彼の人生に、果たして光は差すのか――。実話を基に、そんな過酷な境遇に居るとある一人の男の人生を淡々と描いたヒューマン・ドラマ。監督は、丁寧な心理描写には定評のあるベテラン、ガス・ヴァン・サント。障碍者でありながらアル中のどうしようもないクズ男を演じるのは今最も勢いのある実力派俳優、ホアキン・フェニックス。他にもジャック・ブラックやルーニー・マーラと言った人気俳優が脇を固めております。この監督らしいほんわかとした雰囲気は相変わらず健在で、半身不随とは言っても完全に自業自得のこのダメ男の人生を、良い時も悪い時も含めて丸ごと掬い取る監督の目線はとても優しい。「そう、人生って上がったり下がったりの繰り返しなのよね」という当たり前のことに改めて気づかされました。時系列をバラバラにし、敢えていつの時代の話なのかを曖昧にするこの独特の構成が巧く効いています。これはジョン・キャラハンと言う男の平凡だけどかけがえのない人生のポートレートと言っていいのかも知れませんね。その時々に現れる美しい恋人?の存在も彼の人生を豊かに彩っています。ルーニー・マーラって改めて思いますけど、ほんとにキレイですよね~。「人生いろいろあるけどこの先ちょっとは良いこともあるだろうし、まだまだ頑張ろう」と改めて思わせてくれる、人間賛歌の良品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2020-02-05 13:07:01)(良:1票) |
554. バーバラと心の巨人
《ネタバレ》 信じられる?奴らは太陽も逃げ出すような恐ろしい存在よ――。彼女の名は、バーバラ。海沿いの寂れた田舎町で、まだ若い姉や兄とともに貧しい生活を送る彼女にはとある秘密があった。そう、この世の諸悪の根源である邪悪な〝巨人〟が森の奥深くに潜み、何も知らない人間どもを虎視眈々と狙っているということに、彼女だけが気付いてしまったのだ。いつも身に着けているポーチへと秘密の武器「雷神トールのハンマー」を潜ませ、巨人の大好物である甘い蜜や手作りの罠を森のあちこちに仕込み、いつでも巨人の動向を監視しているバーバラ。だが、巧妙な巨人たちは一向にその尻尾を彼女に摑ませることなく森の闇の中に蠢き続けるのだった――。でも、彼女の家族や学校の先生、そしてバーバラの同級生たちはその事実に全く気付くことなく、いつものような普通の日常生活を送っている。そんなことなど気にする様子もなく巨人の物語へとのめり込むバーバラ。周囲の人間との軋轢はどんどんと増すばかりで、彼女は次第に孤立を深めてゆくのだった。そんな彼女のことを心配する転校生のソフィアや学校のカウンセラーが、何とか彼女の孤独な心を開かせようとするのだったが……。妄想とも現実ともつかぬ世界へと迷い込んでしまった少女の孤独な闘いを幻想的に描いたダーク・ファンタジー。アメリカのグラフィック・ノベルを原作にしたという本作、なかなか面白そうだったので今回鑑賞してみました。観終わってまず真っ先に思い浮かぶのは、J・A・バヨナが監督しリーアム・ニーソンが怪物の声をアフレコした某作品と設定やビジュアル・センスが丸かぶりしているところでしょう。巨人の脅威をフォークロアのように描いた幻想的なシーンなんて全くそのまんまなんですけど、これって大丈夫なんですかね?ただ、あちらの如何にもきかん坊な少年主人公に全く共感できなかった自分としては、こちらのメンヘラ女子の方にはまだ好感持てました。バーバラもその友達となる同級生もけっこう可愛かったってのもあるかもですけどね(笑)。とはいえ、だからと言って本作に嵌まったかと言えばそこまででもなく、終始辛気臭い展開に終盤はぐったりしてしまいました。もう少しファンタジー色強めでも良かったような気もしますし。ま、ぼちぼちってとこでした。 [DVD(字幕)] 6点(2020-02-04 23:31:13) |
555. ブラック・クランズマン
《ネタバレ》 何故か白人至上主義団体「KKK」の潜入捜査官となった黒人刑事の物語を実話を基に描いたコメディタッチの社会派サスペンス。監督は長年黒人としてのアイデンティティを追求し続けるベテラン、スパイク・リー。アカデミー作品賞ノミネートということで今回鑑賞してみたのですが、うーん、率直に言ってさっぱり面白くなかったんですけど、これ。実話を基にしたのかなんか知りませんが、大して面白くもない話が最後までダラダラダラダラ。最後の方でようやく潜入捜査ものとして面白くなりそうと思ったのに、さして盛り上がることもなくあっさりと終了しちゃいました。そして最後はいつものごとく、説教臭くて押しつけがましい政治的メッセージを一方的に垂れ流して終わり……。やっぱり僕は、この監督とはつくづく相性が悪いのだなぁと再認識してしまいました。昔はもっとこの硬派な政治的スタンスの中にもポップでラディカルなセンスが冴えていてそれがとても心地よかったイメージがあったのですが、いつの間にこんな説教親父になってしまったんですかね。そもそも何故、電話と本人で担当を分けて潜入捜査する必要があったのでしょう?よりリスクが増すだけなのにどうしてこういう手法を取ったのか、その根本的な部分に説得力が欠けていたのもどうかと思います。すんません、4点で。 [DVD(字幕)] 4点(2020-02-03 23:31:18)(良:1票) |
556. ハウス・ジャック・ビルト
《ネタバレ》 この12年の間に起きた、5つの出来事で俺の人生を語ろう――。生まれついてのサイコパスにしてシリアルキラーでもあるジャック。分かっているだけで、幼い子供から年老いた老婆にいたるまで少なくとも60人以上を殺し、その死体を自身が所有する冷凍庫にコレクションしていた男。自らが無作為に選んだという5つの出来事が彼の狂気に満ちたモノローグとともに語られる。聞き手となるのは、ヴァージと名乗る謎の男性。道端で拾った高慢ちきな見知らぬ女、夫を亡くしささやかな年金で一人暮らしていた初老の未亡人、二人の息子とともに充実した日々を過ごしていた若い母親、ただ愛されることを望んでいた売春婦、そして何人ものどうでもいい男たち……。創造と破壊、欲望と理性、倫理と芸術、ジャックは自らの思想とともにヴァージに語り続けるのだった。何故彼は人を殺し続けたのか?そして二人はいったい何処へと向かうのか?デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアーの約5年ぶりとなる最新作は、そんないかにも彼らしい挑戦的で自虐に満ちた野心作でした。率直な感想を述べさせてもらうと、いやー、本当に変な映画でしたね、これ。カンヌでも途中退席者が続出したというだけあってかなり人を選ぶグロ描写が続出するのですが、なんだか全体的に変なユーモアがあるのが彼の鬼才たるゆえん。いかにも殺してくれと言わんばかりの高慢高飛車女をジャッキで殴り殺す冒頭のエピソード(ユマ・サーマンの無駄遣い!笑)から摑みはばっちりで、続く強迫性障害のせいで何度も殺害現場へと舞い戻ってしまうエピソードなんて思わず笑っちゃいました。母親の目の前で幼い子供を射殺するシーンなどはあまりにも倫理観を逸脱していて逆に清々しいくらい。おっぱいをえぐられちゃうジャックの彼女?の話あたりまで来るとなんだか神経が麻痺しちゃいますね。合間に挟まれるジャックのフリップ芸なんて、あまりにもシュール過ぎてR‐1でも通用するかも?!そして辿り着く驚愕のエピローグ。もはやぶっ飛びすぎてて終始唖然(笑)。何ですか、あのルネッサンスの油絵みたいな変な世界観は。文字通り地獄に堕ちた彼へと、エンドロールで「もう帰って来るな!ジャック!」とノリノリの曲調で歌われた日にゃもはや笑うしかなかったです。鬱病を患っていたころの陰鬱で重苦しい作風から抜け出し、前作辺りからトリアーはこんなヘンテコな世界へと辿り着いたのですね。うん、何処までも付いていきます!9点!! [DVD(字幕)] 9点(2020-02-02 23:44:03)(良:1票) |
557. ジョーカー
《ネタバレ》 悪と狂気のカリスマ、ジョーカー。この稀代のアンチ・ヒーロー誕生の物語をダークかつ濃厚に描いた、ある意味昨年一番の話題作。ここまで反社会的な内容でありながら、あれだけ話題になるだけあって、確かにこの全体的な完成度の高さはピカイチでした。脚本、映像、構成とどれをとっても素晴らしい出来なのですが、やはりなんと言ってもジョーカーを演じたホアキン・フェニックスの鬼気迫る役作りには圧倒されました。「こ、こいつ、本当に狂ってる!」としか思えない聞きしに勝る迫力で、その存在感は往年のヒース・レジャーにも匹敵するほど。彼の存在無くしてはこの作品はあり得なかったかも知れないですね。肝心の内容の方も、善悪の彼岸を扱った非常に哲学的かつ深淵な物語でこれまた他に類を見ない唯一無二のもの。果たして、人間の本質とは悪なのか――。ロシアの文豪ドストエフスキーのいくつかの小説にも通ずるこの深甚なるテーマは、単なるエンタメ映画の枠を超えた普遍性さえ有していたと思います。世界から疎外され、多くの人々を妬み、ただ身近な人に愛されたかっただけなのに逆に傷つけられ、そして絶望のあまり社会の道徳や倫理を超越しようともがく一人の男。彼の狂気性や異常さを充分に理解していながら、それでもいつの間にか彼のことを応援してしまっている自分が居ました。最後のテレビ番組のシーンなんか、「やれ!早く、やっちまえ!ジョーカー!」と心の奥底で念じていた自分に思わずハッとしてしまった。世に現れたばかりのヒットラーを誰もが最初支持していたことを思うと、やはり人は狂気に惹き付けられる弱い生き物なのだと改めて自戒とともに思わされました。社会の常識と呼ばれるものを嘲笑うかのように、自らが生み出した“正装”で階段を降りてくるジョーカーの洗練された美しさがいつまでも頭から離れそうにありません。自分の中にも脈々と受け継がれているだろう「悪」と対峙する覚悟があるなら、この狂気の物語、多くの方に是非じっくりと味わってもらいたい。 [DVD(字幕)] 9点(2020-02-01 23:01:06)(良:1票) |
558. ヤング・アダルト・ニューヨーク
《ネタバレ》 ニューヨークでそれなりにおっしゃれーに生きてるオレたち四十代夫婦が出会った、これまたおっしゃれーに生きてる二十代夫婦。ヤング・アダルトなそんな二組の夫婦のすったもんだをあくまで軽くおっしゃれーに描いたコメディ作品。正直言ってこういう都会的で斜に構えたような作風は嫌いです。怪しげな新興宗教施設で幻覚剤を呑んでみんなでゲロ吐くシーンなんて、ばっちいだけで何が面白いのかさっぱり分かりません。こればっかりは好みの問題なので如何ともしがたい。ベン・スティラーやナオミ・ワッツ、アダム・ドライバーやアマンダ・セイフライトといった、豪華で華のある新旧役者陣共演に+1点! [DVD(字幕)] 4点(2020-01-31 08:50:11) |
559. グエムル/漢江の怪物
《ネタバレ》 ソウル中心部を流れる大きな河に突如として現れた謎の怪物、グエムル。恐ろしいその怪物によって理不尽にも引き裂かれてしまった、ある家族の物語をノンストップで描いたモンスター・パニック映画。普段、韓国映画は全くと言っていいほど観ないのですが、同監督の最新作が世界中の映画祭を席巻しているということで、今回鑑賞してみました。確かに、細部にまで拘ったであろう監督の映像センスには圧倒されましたし、アクションシーンも最後までキレッキレだったし、何より肝心のモンスターの造形が絶妙に気持ち悪いのも大変良かったのですが、やっぱり僕はこの韓国映画独特のノリがどうにも苦手だなと再認識してしまいました。いかんせん、このオーバーアクト気味の過剰演出が鼻について仕方ない。合同葬儀で、娘を失った家族が泣き叫ながらドロップキックするシーンなんて、「うーん、なんだかなぁ」って感じでした。こればっかりは国民性の違いなんでしょうけど。ストーリーの見せ方や家族一致団結してのクライマックスなどは監督の才気が漲っていて大変良かったんですけどね。 [DVD(吹替)] 6点(2020-01-31 00:57:32) |
560. ビューティフル・ボーイ(2018)
《ネタバレ》 息子を見ていると時々不思議に思うんです、「いったいこの子は誰だろう」って――。ニックとその父デヴィッドは何処にでもいるような平凡な親子。離婚した実の母はNYで暮らし、今は新しい母親とまだ幼い弟たちと暮らしている。デヴィッド・ボウイやニルヴァーナをこよなく愛し、持ち前の頭の良さから名門大学へと進学することが決まっていたニック。これから無限の可能性を秘めた充実した未来が待っているはずだった。そう、その薬と出会ってしまうまでは――。始まりは害のないマリファナからだった。そこからニックは、コカイン・LSD・ヘロイン・覚醒剤と瞬く間に手を出し、最後は強い依存性を持つという強力なドラッグ“クリスタル・メス”へと手を出してしまうのだった。当然私生活にも影響をきたし、大学進学は延期、家庭内は荒み、ニックはとうとう幼い弟の貯金にまで手を出してしまう。辛抱強く彼を見守ってきた父デヴィッドも手をつけられなくなり、仕方なくニックを施設へと預けることに。だが、ドラッグは予想以上に彼の身体や神経を蝕んでいて……。実話を基に、ドラッグによって人生を破壊されてしまった親子の葛藤と哀しみを淡々と描いたヒューマン・ドラマ。元は純粋無垢な青年ながら心の弱さから瞬く間に堕ちてゆく息子を演じるのは人気若手俳優ティモシー・シャラメ、息子を献身的に見守りながらも次第に神経を擦り減らしてゆく父親役には実力派俳優スティーブ・カレル。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのですが、これが予想外に重く切ない物語でありました。何度も更生を誓いながらもその度に周りの人間を裏切り続けどんどんと地獄に堕ちていってることに自分で気づいていながらそれでもドラッグを止められない息子の姿に、この悪魔の薬の恐ろしさを改めて知る思いでした。そんな息子に何度も傷つけられながらそれでもなお信じようとする父親の気持ちも痛いほど分かり、胸が絞めつけられます。ときおり差し挟まれるまだ幼かったころの親子の幸せな姿がまた切ない。警察沙汰を起こし、もはやどん底のニックからの悲痛な電話に対して、「駄目だ、もう救えない。自分で人生を立て直してくれ」と言わざるを得なかった父の言葉には思わず涙してしまいました。そんな父親の気持ちを踏みにじるように、新しい薬欲しさに自宅へと盗みに入る息子。逃げ出した彼を追って車を出した継母が、途中で泣きながら追うのを諦めるシーンは強く胸に刺さります。とても重いお話ではありますが、胸を打たずにはいられない優れた作品でありました。 [DVD(字幕)] 8点(2020-01-27 02:33:48)(良:1票) |