561. ハンニバル(2001)
できることなら続編は作って欲しくなかった。あの鉄格子ごしの刹那的なラブ・ストーリーを超えうるような傑作など生まれようも無いと、固く信じていたから・・・。案の定と言うべきか、やっぱりと言うべきか、登場シーンの多い割に印象の希薄なJ・ムーアは、A・ホプキンス=レクターのさらなる“博士の異常な愛情”ぶりでの貫禄負けばかりではなさそうで、J・フォスターのどこか頼りなげで、何かを訴えているような眼差しが彼女には欠けている点で、これはかなり致命的だ。かなり損な役を受け継いだものだと思う。リドリー・スコット監督お得意の光と影の演出も、はたしてこの作品に本当に必要だったかどうかは疑問が残るし、クライマックスのディナーも、あそこまで“あからさま”にされると、よく出来た作り物にしか見えなくて、現実感に乏しい印象しか残らない。。 7点(2001-05-20 19:59:25) |
562. ワイルドバンチ
失われつつある西部の男たちの生きざまと、スローモーションによるヴァイオレンス描写の美学が見事にひとつの頂点に達した傑作。橋の爆破で馬もろとも落下するシーン、クライマックスの皆殺しの大殺戮シーン、そしてラストのR・ライアンの渋さが際立った印象を残す。 9点(2001-05-20 16:04:23) |
563. 泳ぐひと
近隣の家々のプール(自家用)づたいに家まで帰ろうとする主人公。泳ぐ彼は九つのプールを巡り歩く。そのストーリーのユニークさ斬新さに、まず驚かされる。夏の陽光を浴びながら、それぞれのプールの所有者たちと会話を交わし、B・ランカスターの若々しい肉体の躍動感溢れる美しさが強調されていく中、やがて彼の過去が知れるのにつれてその輝きを失っていく。泳ぎ疲れ果て、やっとの思いで辿り着いた我が家。しかしそこには誰も居ず、庭は荒れ放題。やがて日が翳り大雨になる中、彼は家の扉すら開けられないまま崩れるようにして倒れ込む。彼のこの姿はまさに我々の生きるということの意味そのものを示すものではないだろうか。 8点(2001-05-20 15:22:20) |
564. サウンド・オブ・ミュージック
「結婚式のシーンで終わればよかったのに・・・」と言うのは昔からよく聞く意見で、確かにそこでエンディングを迎えてもなんら不思議ではない。が、しかしそれだと単なるラブ・ストーリーあるいはメロドラマでしかなく、作品的価値は薄まってしまったかも知れない。敢えてそうしなかったのは、やはりR・ワイズ監督の社会派としての基本姿勢なんだろうと思う。戦争の悲惨さを強調するために、平和の尊さ素晴らしさ、そして家族の大切さ人間同士の絆といったものを、アルプスの輝くような大自然をバックにミュージカルとして繰りひろげ謳い上げていく。この作品のベースがあくまでも反戦である以上、やはり彼らがナチスに背を向けて国境を越えるというシーンが必要だったという事だろう。 10点(2001-05-20 14:50:20) |
565. タクシードライバー(1976)
銃を手に行動する男の正体は、世間から英雄視されるのも、単に暴漢扱いされるのも、要は銃を向けた相手次第なんだと変な納得をしてしまう訳だけど、それにしても終盤、自ら深く傷を負って警官の見守る中で、血だらけの手で力なく頭に銃のように指をさすという、自殺への願いを暗示するくだりは圧巻。若き日のM・スコセッシの才気と映像マジック、そしてR・デ・ニーロの強烈な個性との、これ以上を望むのは無理と言える程の見事なマッチングで、斬新な作品世界を創造することに成功している。夢や理想を謳い上げるのをやめて久しいアメリカ映画は、今や、こうした不愉快な現実を描くとき、最も精彩を放つように感じる。 9点(2001-05-20 14:16:42) |
566. 犬神家の一族(1976)
旧家にまつわる呪いに彩られた、おどろおどろの連続殺人事件という割には妙に明るい作品に仕上がっている。それは監督の作風と爽やかなテーマ曲に因るのだろう。それにしても金田一は犬神家の周辺をうろうろするものの、決して次々と起こる殺人事件を事前に阻止したりはしない。すべての殺人が完了してから、おもむろに真相を説明するのだから呑気なもんだが、市川監督はこうした知的ミステリーの楽しみを気負うことなく余裕すら感じさせながら撮っているという印象だ。 9点(2001-05-13 18:16:00) |
567. 大脱走
今では考えられないほどの豪華スター(しかも個性の強い!)の競演は、それぞれの持ち味が存分に生かされ、見事なほどのバランス感覚で見せ場を作り上げていく。まさにエンターテインメントとしては申し分のない、戦争冒険アクションの最高峰だ。マックイーンとしてはドイツ軍から逃げまくるバイクでのカッコ良さ以上に、“やんちゃ坊主”のイメージが一番顕著に出た作品でもある。個人的にはJ・ガーナーの煙草の吸い方が妙にカッコ良く感じたものでした。 10点(2001-05-13 18:03:24) |
568. JAWS/ジョーズ
今さらコメントするまでもない、これは若き日のスピルバーグの溢れんばかりの才能と、その映像テクニックとを見事に結実させ、我々観客を興奮・熱狂させた海洋冒険アクションの名作。公開から四半世紀たっても色褪せる事なく、未だに多くを語り継がれる作品がどれだけあるだろうか。R・シャイダーの水泳客が襲われるのを初めて目撃するショットや、R・ショウが黒板に爪を立てて登場するシーン、R・ドレイファスが船底の穴から死体の顔が出た瞬間、“ワンテンポずれて”驚くシーンなど、今でも鮮明な記憶として残っている。 10点(2001-05-13 17:44:43)(良:1票) |
569. チャーリーズ・エンジェル(2000)
いかに映像テクニックとはいえ、彼女たちの動き(踊りも含めて)の俊敏さ、しなやかさには驚くほかないし、またそれがすべてでもあるといっていい作品。とりわけアクション・シーンのテンポと切れ味の良さは水準を越えている。ところでキャメロン・ディアスはこの作品に出演する為に、かなりシェイプ・アップしたんじゃないかと思えるぐらい、一段と口がデカく見えたのは僕だけだろうか? 6点(2001-05-13 17:13:03) |
570. 花様年華
キワドいセリフもなければ、濃厚なベッドシーンもない。「不倫」という言葉すら一般的には浸透していなかった時代の、これはオトナの男と女の恋愛模様を、ウォン・カーウァイ監督の独特の映像センスで描ききった秀作。二人がいつから恋愛感情を持ち、どの程度の関係を結び、どうして別れたのか・・といった細やかな説明を省略している点で、ストーリーなどまったく重視されていないことは明白だ。あるのはマギー・チャンのチャイナ・ドレスの着こなし(とりわけ真赤なドレスで階段を駆ける姿を捉えたショットが素晴らしい!)と、彼女の匂い立つような成熟した大人の女の色香を見事に映像化した点だろう。 8点(2001-05-13 16:51:28)(良:1票) |
571. スターリングラード(2001)
いったいどうやって撮影されたのだろうかと思えるぐらい、ますます手の込んできた大スケールの戦闘シーンと、息詰まるような狙撃兵同士の個と個の闘いとがバランス良く構成されていて、ラストまで実に目が離せない。ジュード・ロウの本格的な主演は期待以上だし、いつもは激しい気性の役どころが多いエド・ハリスも、今回は最後までその表情を変えることなく不気味さを漂わせ、貫禄十分だ。ただ、ロウとワイズの濃厚なベッドシーンはいかにもJ・J・アノー監督らしさが出ているものの、作品全体のトーンからは少し違和感を覚えてしまう。 9点(2001-05-13 16:10:54) |
572. タイタンズを忘れない
スポコン青春ドラマってハリウッドお得意の(懲りない)ジャンルで、今まで星の数ほど創られてはきたが、出来のいいモノは案外少ない。今回は人種差別がまだまだ激しい時代に遡った点が目新しい。が、その描き方は決して深く掘り下げたものではなく、あまりにも通り一遍だし、また登場する学生諸君はヤンキー気質まるだしの単細胞という、いつもながらの画一的イメージでしか描かれていない。ストーリーも総花的で、近頃これほど印象に残らない作品も珍しく、映画館を一歩出た途端“タイタンズを忘れ”てしまった。 5点(2001-05-13 15:33:47)(良:1票) |
573. ザ・セル
冒頭から展開される、ダリを思わせるような幻想的でシュールな絵画的イメージの奔放さと、サスペンス・アクションの定石をきっちり踏まえた刑事モノの手堅い演出との融合が不思議な印象をもたらすという、極めて稀有な作品に仕上がっている。ターセムに監督として感心したのは豪華絢爛な脳内世界よりも、現実世界のとりわけ「セブン」を連想させるクライマックスの救出シーンにおける演出のきめ細やかさにある。 8点(2001-05-13 15:09:24) |
574. トラフィック(2000)
麻薬を扱った作品というのは我が国では外国とりわけアメリカほど身近な問題としての認識が薄いためか、切実な印象としては希薄だ。しかしドキュメンタリー的手法を用いたメキシコでのザラついた映像表現は、圧倒的な迫力で見応え十分。映像の力とはこういうことを指すのだろう。さらにデルトロの存在感は新しいタイプのスターを予感させる。それだけにM・ダグラスの麻薬中毒の娘とのエピソードがいかにも作り話っぽく見えてくるのが残念だ。場面場面の映像の厚みで勝負するタイプの作品だけに、細やかな状況説明は極力排している。その為ストーリー重視で鑑賞する人には不評かも・・・。 8点(2001-05-13 08:23:18) |
575. がんばれ!ベアーズ
痛快スポコンものの代表作の一本。飲んだくれの冴えない雇われ監督W・マッソーと快刀乱麻のT・オニールとの対比が面白く、又、子供たちもそれぞれの個性が眩しいほどに輝いていて、実に元気になれる作品だ!ボイラーメーカー(ウイスキーのビール割)を知ったのもこの作品から。先日亡くなったマイケル・リッチー監督のこれは紛れもない代表作。 8点(2001-04-22 19:57:32) |
576. グッバイガール
ニューヨークの生き生きとした躍動感溢れる生活感覚と、下町独特の人間の息遣いがストレートに伝わってくる。都会の人間はみんな孤独だけれど、人と人との触れ合いこそが大切なんだという、ヒューマンな視点が素直な感動をもたらす。印象的なシーンは多いが、中でも役者志望のエリオットがポーラをアパートの屋上へ誘う夜。H・ボガートを真似て白のタキシード姿で、暗闇の物陰からキザにマッチを擦って顔を照らして登場するシーンのお洒落なこと!雨の中で出会い、雨の屋上で踊り、お互いの愛情を信じながら仕事に立って行く日も雨。まさに雨に濡れたような、しっとりとしたオトナのラブ・ストーリー。男に裏切られ続けてもそれでもなお男を慕うポーラがエリオットの大切なギターを胸に抱いて見送るラストはまさに胸にしみる。 9点(2001-04-22 18:39:57)(良:1票) |
577. 地獄の黙示録
R・デュバルがサーフィンをさせる為にベトナムの村を急襲するシークエンスは、人間が本能的に持っている戦争をすることの快楽を徹底的に表現し、その迫力たるや、まさに戦争そのものをフィルムに収めたような錯覚を起こすほど。又、兵器としてのヘリコプターの性能を駆使することで、この作品のテーマでもある「恐怖」の表現にも成功している。ただ、“戦争の狂気”を躍動感溢れる演出で描いた前半に比べ、哲学書の引用と意味ありげな独白過多の後半は芸術性を重んじるあまり、話が曖昧で急につまらなくなってくる。カーツ大佐のような白人を「神」として崇拝するほど「未開」ではなかったベトナム。コッポラ監督としては、残虐性と神秘性が同居するアジアというアメリカにとって異質なな文化を、あまりにも図式的に捉えすぎたのではないだろうか。 8点(2001-04-22 18:11:25)(良:1票) |
578. ワンダラーズ
ひとつの時代の終焉につきまとう、もの悲しさとやがて来る新しい時代への希望を、様々な表情をみせるストリート・キッズたちの青春群像を通して描いてみせる。この時代、ビートルズがデビューし、ヴェトナム戦争が本格化してB・ディラン等のメッセージ・ソングの芽が出始めた頃でもあり、徴兵を免れた主人公たちは、ただひたすら“夢のカリフォルニア”を目指す。ケネディ大統領暗殺のTVニュースを一種ドキュメンタリー的視点で見せるなど、F・カウフマン監督は時代の空気を卓抜な映像で表現してみせてくれる。 8点(2001-04-22 17:33:47) |
579. 悪魔の手毬唄(1977)
山間の古い村。由緒ある旧家。伝説を秘めた沼。多彩な登場人物。怨みのこもった人間関係。殺しの手口。陰惨さがそのまま華麗さに変容する独特のムード等々。横溝文学の世界を市川監督が良質のエンターテインメントに仕上げたシリーズ第二弾。印象的な主題曲から、ラストの金田一と警部との別れのシーンまで、その演出の旨みと作品に対する力の入れようは前作に勝るとも劣らない。が、この作品、推理モノというよりは殺人を情緒的に楽しむという点で、死の小道具が相手の屋号に因んだものとするには、あまりその必然性は無いし、殺し方にも無理を感じざるを得ない。第一、犯人の心理状態から考えて、そんなゆとりがある筈もなく、唯一不満が残る部分だ。 8点(2001-04-22 17:02:08) |
580. パニック・イン・スタジアム
不特定多数の人間を標的にする影なき狙撃者。まさにスタジアムをそのまま人質にしたかの様なイメージには、背筋が凍る思いがする。とりわけSWATが銃撃戦に備えて照明塔に登るけれど、逆に狙撃されて命綱でつながれたまま宙吊りになってしまう。試合に熱中している観客誰一人それに気づかないという描写のリアルさが凄い。作者が言いたかったのは、結局誰にでも狙撃者に成り得るという、現代の怖さということに他ならないという事だろう。 7点(2001-04-15 20:10:11) |