601. アポロ18
古くは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、最近では『パラノーマル・アクティビティ』がとった手法をSFに応用した作品なのですが、本作の映像はかなり洗練されています。フィルムの切れ目や損傷を入れるという工夫によって記録映像としてのルックスを完璧に作り上げており、本当に月面で撮られたかのような仕上がりとなっているのです。プロデューサーを務めたのは『ナイトウォッチ』や『ウォンテッド』で異様なまでの映像センスを披露したティムール・ベクマンベトフ、彼の手腕は疑似ドキュメンタリーでも冴え渡っています。誰だがよくわからない俳優さん達の演技も上々であり、映画としては水準以上に仕上がっていると感じました。。。 ただしこの映画、基礎となるアイデアがあまりに薄いことがボトルネックとなっています。どこかの映画で見たような古臭いワンアイデアで押し切った内容であり、SFらしい知的な驚きが皆無なのです。せいぜい30分程度にしかならないアイデアを無理矢理長編化したために話の密度は薄く、中盤ではかなり退屈させられました。技術的にはレベルの高い映画だけに、もう一捻りが欲しいところでした。 [DVD(吹替)] 6点(2012-10-21 18:02:55) |
602. エクスペンダブルズ2
矛盾もあれば中弛みもある、映画としての完成度は7点くらいかもしれませんが、ある特定の人種にとっては『アラビアのロレンス』クラスの大傑作に仕上がっています。もちろん私もドンピシャの世代であり、本作には数年ぶりの10点を付けさせていただきました。このキャストを見てグッとくるものを感じた方には是非とも映画館に直行していただきたい作品です。絶対に期待は裏切りませんから。。。 本作は基本的に前作の路線を引き継いでいるのですが、そのパワーアップの加減は『T1』→『T2』をも超える程であり、前作で感じたモヤモヤ(敵が弱すぎる、大物がほとんど動いていない)は解消されてお釣りがきます。今回の悪役はなんとヴァンダム。「俺が俺が」のアクション俳優の中でもとりわけ我の強いヴァンダムが悪役を引き受けたというだけでも驚きですが、その上さらにスタローンとヴァンダムがサシで勝負するという究極のカードまでが準備されています。驚きのカードはそれだけではありません。ピンチに陥るとチャック・ノリスやシュワルツェネッガーがフラっと助けに現れ、クライマックスではスタ・シュワ・ウィリスが横一戦に並んでマシンガンを乱射し、ノリスがその援護を買って出るという夢のような見せ場が待っています。シュワとウィリスがお互いの名台詞を交換したり、ノリスが自分についての噂話を茶化してみたりと遊びも利いており、笑って興奮して大変でした。。。 そんなレジェンド世代の頑張りの一方で、現役世代も負けてはいません。クートゥアとクルーズはコメディリリーフとしてエンターテイメントの幅を広げているし、ラングレンもMIT卒という自身の経歴をネタにして笑いをとります。元アスリートのステイサムは惚れ惚れとする程の美しいアクションを披露しており、彼とスコット・アドキンスによるナイフ戦は、大御所によるファンサービスの意味合いが強い本作において、数少ないガチンコの見せ場となっています。。。 とにかく本作はアクションバカにとっては至福の作品であり、この企画でやるべきことは完璧にやりきっています。もし、今回の大ヒットを受けて『3』が製作されるとなれば、それこそイーストウッドを引っ張り出すくらいのサプライズが必要になるでしょう。 [映画館(字幕)] 10点(2012-10-21 00:20:43)(良:3票) |
603. エクスペンダブルズ
映像技術の発展によって俳優がアクションを演じることが容易になり、トム・クルーズやジェレミー・レナー、リーアム・ニーソンといったイケメンや演技派がアクション映画の最前線に立っているという昨今(並べてみて気付いたのですが、なぜか全員アイリッシュ)、筋肉のみに特化したアクション俳優は急速に活躍の場を失いつつあります。そんな状況で立ち上がったのが『ロッキー』と『ランボー』の最終作を連続して成功させたスタさんであり、もはや世界で彼にしか為しえない1億ドルバジェットの筋肉祭りを開催しています。商業的な計算もあるにはあったと思うのですが、それ以上に強かったのはファンを喜ばせたいという思いであり、同業者に活躍の場を与えて再びこのジャンルを盛り上げたいという願いだったように感じます。実際、女に惚れて判断を誤ったり、敵に捕らえられて仲間に助けられたりといった損な役回りはスタさんが積極的に引き受けており(裏切り者役でメインの戦闘に参加できなかったラングレンも同様)、ベテラン勢が現役勢のために美味しい見せ場をお膳立てしてやるという配慮には、なんだか胸が熱くなりました。。。 内容は良くも悪くも80年代風。中米の小国で特殊部隊が大暴れという何とも『コマンドー』な設定の下、我らがエクスペンダブルズがロクな作戦もなしに「おりゃ!」と暴れて一国の軍隊を殲滅してしまうという、リアリティのかけらもないお話しとなっています。戦場で仁王立ちでもまったく弾の当たらないエクスペンダブルズに対し(どこが消耗品なんだ)、敵は気持ち良い程バタバタと倒れてくれます。直前に『ランボー/最後の戦場』という最先端のアクション映画を撮っているという背景から考えて、本作における偏差値の低さはスタさんが意図したものであり、これは80年代アクションを懐かしむおっさんの為だけに作られています。金曜ロードショーに育てられた私は、もちろんハートを打ち抜かれましたとも。バカって最高! ただし、問題もあります。これだけのメンバーを集めたエクスペンダブルズに対して、敵がジュリア・ロバーツの兄貴では見劣りしすぎ。マチェーテの敵にセガールを持ってきたロドリゲスの判断を見習ってほしいところです。また、ウィリスとシュワルツェネッガーという宣伝の時点で大フィーチャーされていた大物が1シーンしか出てこないのも、なんだか詐欺に遭ったような気がしました。 [DVD(吹替)] 7点(2012-10-21 00:19:17)(良:1票) |
604. ミーン・マシーン
《ネタバレ》 『ロンゲスト・ヤード』のリメイクは本作の他に2005年のアダム・サンドラー版も存在していますが、完全にコメディだったサンドラー版と比較すると、本作は笑いと男らしさのバランスが優れていると感じました。ガイ・リッチー&マシュー・ヴォーンのコンビは相変わらずの安定感で、一筋縄ではいかないキャラクター達が入り乱れる物語をコンパクトにまとめてみせています。主人公を演じるヴィニー・ジョーンズは元プロサッカー選手というだけあって説得力が違うし、まだ主役クラスの俳優ではなかった当時のジェイソン・ステイサムを曲者キャラとして絶妙な位置に立たせるというキャスティングも気が利いています。物語には適度な波乱もあって、最初から最後まで十分に楽しむことが出来ました。。。 ただひとつ問題に感じたのは、囚人チームの力量は看守チームを凌駕しており、序盤から試合を制していたのは囚人チームだったという点です。圧倒的に強い相手を倒すことこそがこの手の映画のカタルシスなのですが、あえてそのセオリーの逆を選んだ本作の変化の付け方は、あまりいただけませんでした。所長の脅しにビビった主人公がチームを窮地に追い込むという展開などは最悪であり、このためにラストがスッキリしないものとなっています。 [DVD(吹替)] 7点(2012-10-19 00:23:49) |
605. あるスキャンダルの覚え書き
97年にアメリカで発生したメアリー・ケイ・ルトーノー事件に着想を得た物語なのですが、主人公バーバラの性格描写を徹底的にリアルにした結果、映画はある種の普遍性を得ることに成功しています。他人と仲良くしたいんだけど人付き合いは恐ろしく苦手で、人間関係がうまくいかない原因は相手にあると思い込むことで自尊心を保っているという困ったちゃん、私の身の回りにも確かにいます。友達だと思っていた相手に意に沿わない行動をとられれば、即座にこれを裏切りと決めつけてしまう被害妄想の塊のような怖い人、確かにいます。ミザリータイプの完全にイっちゃった人ではなく、日常生活で想定できる範囲の迷惑おばさんを主人公にしているところが本作の魅力で、このおばさんがいつどこでブチ切れて人間関係をメチャクチャに破壊してしまうのかを、観客は固唾を飲んで見守ることとなります。本作は大した事件が起こらずとも立派なサスペンス映画として成立しているのです。。。 他方、もう一人の主人公であるシーバのキャラクターは浮世離れしていて、こちらの創作は難しかったのではないかと思います。なんせ、『パール・ハーバー』のケイト・ベッキンセール以下のバカ女を、同情的に見せなければならないのですから。この点については、シーバ役を演じたケイト・ブランシェットの実力によって帳尻を合わせてきたという印象です。ブランシェットの演技力やパブリックイメージを総動員することで、何とかシーバのキャラクターを作り上げています。少しでもバランスを間違えれば観客から見放されかねなかった難役だけに、ブランシェットの実力が光ります。。。 コンパクトながら、脚本もよく出来ています。シーバが父親ほど歳の離れた旦那を持っているという設定を置くことで、彼女が小児性愛者でないことの説明となっているし、性についてのバーバラの独白を加えることで、彼女がレズビアンではないことを明確にしています。登場人物の性的嗜好について観客に誤った深読みをさせないことで、作品の意図を正確に理解させようとしているのですが、こうした細かい工夫には好感が持てます。 [DVD(吹替)] 7点(2012-10-18 01:16:05) |
606. ニクソン
『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』に『フロスト×ニクソン』、果ては『ウォッチメン』に至るまで、アメリカ人にとってニクソンとは気になって気になって仕方のない特別な政治家であるようですが、そんな数あるニクソンものの中でも本作は決定版とも言える堂々たる仕上がりとなっています。3時間超えという上映時間にも関わらず一瞬たりともダレることはなく、ムダな場面、ムダなセリフは一切なし。大変に見応えのある作品でした。。。 本作で意外に感じたのは、ハリウッドきってのリベラリストであるストーンが、ニクソンに対して非常に同情的な目を向けているという点です。金なしコネなし学歴なし(ハーバード大には合格していたものの、実家が貧しく東部で下宿する費用を捻出できなかったため、仕方なく地元の大学に進学した)の状態から人並み外れた努力によって大統領にまで登り詰めたものの、マスコミから嫌われたために国全体から悪意を向けられ続け、最終的には唾を吐かれながら大統領の座を失った悲しい男の物語として本作は製作されています。政治面では並みの大統領数人分に匹敵する実績を残したにも関わらず、その功績はほとんど評価されず、外交面での目覚ましい成果に至っては部下だったキッシンジャーの手柄にされてしまったという彼のあんまりな人生が、かなりフェアな目線で描かれているのです。ベトナムから撤退した際に「国民やマスコミが望んだ通りにしたのに、なぜ俺が叩かれるんだ」と嘆いた場面などは、特に気の毒に感じました。本作を観れば、ニクソンに対する評価が大きく変わるはずです。。。 一方で問題に感じたのは、客層があまりに限定されすぎているという点です。60年代から70年代のアメリカ社会や世界情勢についての知識を持っていることは当然、ウォーターゲート事件に至っては、リアルタイムで事件を見ていた世代でなければわからない程の不親切な描写となっており、80年代以降に生まれた私のような世代にとっては、かなり厳しい内容となっています。誰でも理解できるように作られていた『JFK』と比較すると、ちょいと不親切過ぎではないでしょうか。 [DVD(吹替)] 7点(2012-10-17 01:57:16) |
607. フォレスト・ガンプ/一期一会
《ネタバレ》 本作は、インフレ率を考慮すると後の『スパイダーマン』や『ダークナイト』をも超える興行収入を叩き出しているのですが、アニメでもスペクタクルでもないヒューマンドラマがここまでの数字を出した例は後にも先にもこれ一本のみ。今回、十数年ぶりに鑑賞してみたのですが、確かにこれはアメリカ人から熱狂的に支持されて当然の映画だと感じました。。。 本作の舞台となる60年代から70年代にかけて、アメリカはまっぷたつに分裂していました。大統領を含む政治的リーダーはしょっちゅう命を狙われ、公安組織は市民のデモ隊に対して容赦なく暴力を振るうという世相であり、それはもはや内戦状態とも言える有様でした。そんな時代を反映するかの如く、このドラマには二人の人物が登場します。国家に対して従順なフォレスト・ガンプと、反権力に生きるジェニー・カランです。通常の映画であれば反権力に身を置く者が主人公とされるところなのですが、本作では権力に寄り添うフォレスト・ガンプが主人公となっています。そして、ガンプが堅実に生きた結果としてアメリカン・ドリームを手にする様は、あの時代のアメリカ社会の肯定を意味します。これまで真っ暗闇として描かれてきた60年代から70年代のアメリカは、本作によってようやく復権したというわけです。一方、反権力のジェニーはと言えば、ガンプやババが戦場で命を張っている間、仕事も勉強もせずに仲間と遊び呆けて暮らしています。彼女は権利ばかりを主張して義務を果たすつもりはないという身勝手な生き方をするのですが、それは反権力とかプロ市民に対して一般人が持つ反感を見事に具現化したものです。自堕落な人生のツケを払わされるかの如く、彼女がエイズで命を落とす様は、もはや勧善懲悪の世界でした。。。 以上の通り、本作は強烈な政治性を帯びているのですが、コメディを得意とするロバート・ゼメキスの演出によって程よくマイルドに落ち着いており、アメリカ人以外でも楽しめる仕上がりとなっています。あき竹城みたいな東洋人を連れて久しぶりに姿を現したダン中尉が、爽やかな笑顔で「俺にもフィアンセが出来たんだ」と言う場面なんて、涙が出る程笑ってしまいました。また、ノンフィクションものを得意とするエリック・ロスによる脚色も見事であり、歴史的事実とファンタジーとの間で絶妙なバランスをとっています。 [DVD(吹替)] 7点(2012-10-17 01:55:08)(良:3票) |
608. ザ・ファーム/法律事務所
飛ぶ鳥を落とす勢いだった若きトム・クルーズを中心とし、その周りをジーン・ハックマンやエド・ハリスといったベテラン勢で固め、さらにその外側にはゲイリー・ビジーやトビン・ベルといった個性派を配置するという層の厚いキャスティングは魅力的でした。本作はパラマウントにとって相当気合いの入った企画だったようで、スタッフ、キャスト共に最高のメンバーが名を連ねています。しかし、そんなパラマウントからの期待とは裏腹に、映画の内容は平凡の域を脱していません。不吉な前兆の積み重ねでイヤな汗をかかされる前半部分はそれなりの面白さだったものの、後半部分で映画は完全に息切れしてしまうのです。監督も脚本家も複雑な話をまとめあげることでいっぱいいっぱいになってしまい、この膨大な情報量が観客に伝わるかどうかとか、クライマックスで観客はカタルシスを味わえるかどうかということは二の次にされています。直し屋として有名なロバート・タウンが脚本家に名を連ねている時点で察するべきだったのですが、それにしても、思いの外低い完成度には驚かされました。トム・クルーズ以外のキャストを完全に持て余すという名優の無駄遣いぶりもかなりのもので、本作よりも2ランクも3ランクも劣るメンバーで製作された『逃亡者』に批評面でも興行面でも及ばなかったことにも納得がいきます。 [DVD(吹替)] 5点(2012-10-17 01:53:35)(良:1票) |
609. JUNO/ジュノ
本作の脚本でオスカーを受賞したディアブロ・コーディは、大学卒業後に普通に就職したものの興味本位でストリッパーに転職し、その後、ブログにおける圧倒的な文章力が評価されて脚本家に転身したという変わり種。そんな彼女によって生み出された本作が普通の青春映画であるわけがなく、16歳の女の子が妊娠しても誰からも怒られないし、クラスメイトからイジメや嫌がらせを受けるわけでもなく、赤ちゃんへの責任で思い悩むこともありません。妊娠して早々に、「今の自分に養育能力はないから、子供を欲しがっているお金持ちにこの子を引き取ってもらおう」という結論を出してしまうのですから。この手の映画で考えられるネタはほとんど外してきているのですが、それでいて奇をてらった嫌らしさはなく、コーディの個性がそのまま反映されたかのような奔放さに溢れています。。。 押しつけがましいドラマを嫌うジェイソン・ライトマンによる演出も、本作にはピタリとはまっています。変わった切り口ではあるものの、世の真理を突くかのような鋭さがあるために映画への共感は絶えないし、過剰ではない笑いにも独特のセンスが光ります。この映画が全米でブームとなり、フォックス・サーチライト史上最高の収益を上げた理由も理解できます。この映画には独特のセンスの良さやかわいらしさ、かっこよさがあって、この映画の良さを理解できること自体がファッションとなりうるのです。これについては、ジェイソン・ライトマンの手腕によるものと考えるべきでしょう。。。 エレン・ペイジは完璧にジュノになりきっています。皮肉屋で変わり者なんだけど、たまに女子の一面を覗かせるという絶妙な演技は、彼女以外ではちょっと無理だったのではないかと思います。なお、ジェイソン・ライトマンの映画はセリフの量が多く、かつ微妙なニュアンスの会話が交わされるので吹き替えでの鑑賞が向くのですが、特に本作におけるジュノの声のハマり具合は絶妙なので、DVDでご覧になる方はぜひとも吹き替えをお試しください。 [地上波(吹替)] 7点(2012-10-13 02:49:09) |
610. ヤング≒アダルト
幸せになれない肉食女子を描いた痛いブラックコメディなのですが、『JUNO/ジュノ』でオスカーを受賞したディアブロ・コーディによる脚本が相変わらず素晴らしく、男女を問わず楽しめる作品に仕上がっています。あらすじはかなり現実離れしているのですが、過去の栄光を懐かしんだり、初めての恋人を特別視したりといった主人公の心理には一定の普遍性があり、この点が観客と映画との間の共感の接点となっています。また、主人公の職業を小説家とし、彼女の歪んだ性根を小説によって明快に表現するという映画的工夫も素晴らしいと感じました。単なるバカ女にしか見えなかった主人公が、実は苦しい過去を抱えていたことが判明する終盤の急展開にも驚きと意外性があり、隅から隅まで計算し尽くされた脚本だと思います。。。 ジェイソン・ライトマンによる演出も安定しています。皮肉家で嫌味な性格なんだけど、どこか愛嬌を感じさせるキャラクターを描かせると、毎度この人は素晴らしい仕事をします。主人公のやっていることは最低で、その言動には同情の余地ゼロなのですが、それでもこのキャラクターを好意的に見てしまうのです。ハッピーエンドでもバッドエンドでもないクライマックスはいかにもライトマンらしい終わり方で、観客に何も押しつけてこないラフな姿勢に好感が持てます。 [DVD(吹替)] 8点(2012-10-13 02:47:36)(良:1票) |
611. レボリューション6
若い頃にバカをやっていた仲間が十数年ぶりに集まり、思いがけず発生した緊急事態への対応を図るという物語は非常に魅力的です。いまだにバカをやり続け、気が付けばイタイおっさんになっている者、天才肌でいとも簡単に社会的成功を手にした者、苦労してそれなりの地位を築いた者、平凡な生活に追われている者、それぞれの人生は非常に象徴的であり、現代社会の構図をたった6人のキャラクターにまで凝縮してみせた監督と脚本家の手腕は賞賛に値します。さらには、学生運動から卒業できなかったイタイ2人組には、実はそこに留まらざるをえなかった事情があったこと、そして、その他の4人はその事情から逃げ出したのだということが明かされる中盤の展開なども捻りが効いており、よく考えられた群像劇だと思いました。万人のノスタルジーを誘う空気感などもよく作られています。。。 ただしこの映画、基本的なストーリーに難があります。犯行の様子が収められたフィルムを証拠品として押収されたので、これを取り戻すために警察の倉庫に侵入するというストーリーがあまりに現実離れしていたので、うまく物語に乗っかることができませんでした。イーサン・ハントじゃあるまいし、警戒厳重な公安施設に素人が潜入するという破天荒な話には、とてもじゃないけど手に汗握ることができません。また、メンバーそれぞれに特技を与え、6人全員が揃わなければ事がうまく運ばないという制約条件を与えることがこの手の映画の常套手段だと思うのですが、本作ではそういった設定が設けられていません。その結果、一人や二人不参加でもミッションは遂行可能だし、重要な計画を実行中であっても、メンバーのうち何人かは仕事がなくて遊んでいるという、なんとも緊張感に欠ける事態が発生しています。ラストにおける刑事の手の平返しも唐突だったし、総じて犯罪映画としてのツメが甘すぎると感じました。 [DVD(吹替)] 5点(2012-10-13 02:45:55) |
612. ナイト&デイ
かねてより、私はトム・クルーズの爽やかスマイルの裏側に何か不気味なものを感じていたのですが、どうやらトム自身にもその自覚はあったようで、本作はそんなダーク・トム・クルーズの魅力を目一杯活用した作品に仕上がっています。どんな窮地に陥っても輝くような笑顔を振りまくトム・クルーズは、もはや狂人一歩手前。トムの異常なテンションと呼応するかのような気の狂った見せ場の数々も見応え十分であり、本作の前半部分はアクションコメディとして最上級の完成度だったと思います。同時に、キャメロン・ディアスは年齢を感じさせない愛嬌を振りまいており、『オーシャンズ13』以来久々のスター映画としても十分に楽しめました。。。 ただし、後半に入ると映画は急速に失速します。お祭り映画に終始すればよかったものを、マジメなスパイ映画としてまとめようとしたために全体のバランスが崩れてしまったのです。もっともマズイと感じたのは、敵方の殺し屋がむごい死に方をする様をはっきりと映し出してしまったことで、このことによってアクションから痛快さが失われてしまいました。この手の映画では敵の死などは記号に過ぎないのだから、もっと割り切った演出でよかったと思います。 [映画館(字幕)] 6点(2012-10-09 23:00:30)(良:1票) |
613. カンパニー・メン
個人のパフォーマンスが芳しくなかったり、業界の景気状況が悪化したりすれば簡単にクビを切られる世界で働く身としては、他人事とは思えない映画でした。MBA持ちで30代にして大企業の部長を務める主人公が、リーマンショックの影響によって呆気なくクビに。主人公に非があったわけではなく、部門の統廃合によって運悪く余剰人員の一人となってしまったという点が同情を誘います。そして、リストラ後に繰り広げられるのはサラリーマンにとっての地獄絵図。「自分にはまともな学歴と職歴があるし、きっとすぐに再就職先が見つかるはずだ」という見当は外れて無職の期間がどんどん長引き、親や子供、親戚やご近所さん達にも自分が無職であることが知れ渡ります。家族には迷惑をかけまいと思っていても月々の支払いは容赦なく迫り、家や車を手放すことに。空気を読んだ子供達が家計に気を使うに至っては、申し訳なさと情けなさで胸が張り裂けそうになります。親戚に頭を下げて仕事をもらっても不慣れな作業にはまったく馴染めず、不甲斐なさと自己嫌悪はさらに増長するのみ。観ている間中、こちらまでが胃の痛むような思いをさせられました。。。 監督のジョン・ウェルズは主にテレビ界で活躍してきた人物であり、中でも『ER』では長年に渡って脚本・監督を務めてきました。テレビで培った構成力やリサーチ力は長編デビュー作である本作においてもいかんなく発揮されており、リストラサラリーマン達の姿は驚くほどにリアルです。さらに、個人の物語をメインとしながらも時事的な大企業批判もうまく織り込んでおり、その構成力の高さには舌を巻きます。本作は非常に上質なドラマだと思います。その一方で映画的な抑揚に欠ける点もあり、悪い意味でもテレビ的な面が出てしまったことが残念です。サラリーマンにとっては身近な話であっても、主婦や学生さん達が本作を観てどの程度感情移入できるのかについては疑問が残ります。 [DVD(字幕)] 7点(2012-10-09 01:19:49) |
614. unknown アンノウン(2006)
《ネタバレ》 ハリウッドが得意とするソリッド・シチュエーション・スリラーの中でも、アイデアだけを取り出せば史上最高とも言える作品。「自分以外の誰が敵で誰が味方なのかが分からない」という定番のシチュエーションにさらに捻りを加え、「自分が被害者側なのか犯人側なのかすら分からない」という突拍子もない設定には恐れ入りました。監督はよくぞこんなアイデアを思いついたものです。。。 ただし、そんなインパクトある設定と比較すると、肝心の内容は今一つであると感じました。舞台に散りばめられたヒントをつなぎ合せて真相に辿り着くというのがこの手の映画の定石だと思うのですが、一方で本作は登場人物達に記憶が蘇ることで自然に謎が解消されていくという生温い進行となっており、知的な駆け引きを期待すると裏切られます。また、「自分以外の4人のうち、一体誰と組むべきか?」という心理戦にも魅力がないし、「自分は善人なのか?悪人なのか?」と自身の人間性と向かい合うドラマとしても、話がうまく広げられていません。優秀な俳優を多く揃えながらもこれを活かせておらず、設定に頼り切った内容となってしまったことは残念で仕方ありませんでした。。。 それでも、85分というコンパクトな作品としては充分に面白い映画ではあると思います。ラストにはきちんとサプライズも仕込まれており、水準を超えるサスペンス映画であることは確かです。 [DVD(吹替)] 6点(2012-10-09 01:18:04)(良:1票) |
615. バンコック・デンジャラス
殺し屋とはフィクションの世界でこそメジャーな職業ではありますが、現実の世界で彼らに会ったことのある者はごく少数。ほとんどの人がよく知らない職業だけに、これをどう描くかには脚本家や監督の発想力が重要となってくるわけですが、その点について本作は完全に赤点です。。。 本作の殺し屋は、なんと現地入りしてからターゲットの情報を受け取ります。プロならば事前に依頼内容を精査し、ジョブの成功と身の安全を考慮した上でこれを引き受けるかどうかを決定すると思うのですが、そういう慎重さは皆無のようです。現地での行動もかなり適当。金に困っていそうな地元のチンピラを助手として雇い、そのチンピラに依頼者との間の連絡係をいきなり任せるという、恐ろしく危険な行動をとります。自分との関係を第三者に洩らされたり、敵対組織や公安に捕まって尋問を受けるというリスクは考えないのでしょうか?肝心の暗殺場面も脱力で、簡単に現場の下見を済ませるとその翌日には早速殺しを実行するというお手軽加減。よくぞこれでヤクザな世界を生き抜いてこられたものだと感心します。。。 その上、この殺し屋の心はオープンカフェ状態。使い捨てのつもりで雇った助手に対して素直に友情を抱き、彼に頼まれれば殺しの技を伝授してやるし、街を歩けば聾唖の薬剤師に一目惚れし、彼女の実家にまでお邪魔する始末。もはや車寅次郎に匹敵するレベルのおおらかさであり、ストイックなプロの世界など微塵も感じさせられません。冒頭で得意げに披露した殺し屋4箇条も言った端から破っていくという有様で、どうしてこんなにおかしな脚本になったのかが不思議で仕方ありません。 [DVD(字幕)] 4点(2012-10-07 01:56:06)(笑:1票) |
616. 空気人形
ヌードが頻繁に登場する内容ではあるがエロが立ちすぎると失敗してしまうという困難な企画でしたが、本作はギリギリのバランス感覚でうまく成立しています。監督の卓越した演出はもちろんのこと、空気人形役にペ・ドゥナを起用できたことが大きな幸運でした。彼女は、美人ではあるが幸の薄さが漂い、スレンダーで綺麗な体なのにエロさは感じさせません。童顔の彼女が服を脱ぐ時に観客が感じるのはエロスではなく痛々しさであり、このことが空気人形の物悲しさに繋がっています。知恵の浅い監督であれば芸達者なAV女優でも使ったところでしょうが、そんなことをすればこの企画は終わっていました。性的魅力のない女優を使わねばならないということを見抜いていた是枝監督の慧眼に拍手なのです。。。 そんな感じで基礎的な部分はしっかりしており、本作は良作の部類に入ると思います。辛い日々を我慢しながら一生懸命に生きている人々のカットなど胸が苦しくなる場面も多くあり、観てよかったと思える映画でした。ただし、不十分な点もあります。この世界の人々にとって空気人形とはどんな存在なのかという点が曖昧であり、そのことが時に感情移入を妨げる原因となっていました。レンタルビデオ屋の店長は主人公を人間だと思っているのに対して、板尾さん演じる持ち主にとっては動かないラブドールのままだったりと、世界観が一定していないのです。ファンタジー部分については「これは寓話だから」と適当に誤魔化されている点が多かったのですが、この点を丁寧に作り込んでおけば奇跡の傑作になった可能性もあるだけに、このツメの甘さが悔やまれます。 [DVD(邦画)] 7点(2012-10-07 01:52:17) |
617. アーティスト
サイレント映画を観るのは久しぶりだったので、開始後数分間はかなりの違和感を覚えました。セリフがないというのはこんなにも不思議な感覚なんだなぁとあらためて感じ、逆説的にではありますが、トーキーとは革命的な発明だったということを思い知らされました。オスカー受賞により本作はサイレント映画を見たことのない観客の目にも触れることとなったはずですが、そうした観客が本作をどう感じたのかが気になるところです。。。 監督はサイレント映画を徹底的に研究したというだけあって、本作はサイレント映画の醍醐味をきっちりと味わわせる内容となっています。陳腐な物語にオーバーアクト、そして良い人だけが出てくる良い話、これぞ古典の味わいです。こうしたサイレントでしか成立しえない物語を作り上げ、その魅力を現代の観客に思い出させたという点において、本作はその企画意図をまっとうする完成度に達していると評価できます。ただし、問題もあります。ペピーが大スター・ジョージに対して抱いていた憧れが、どの時点で恋心に転化したのかが明確に描写されていないために、ラブストーリーとしては筋の通らない話となっています。また、落ち目になってからのジョージが後ろ向き過ぎてイラっとする点も引っかかりました。優しい運転手に賢い愛犬、そして苦しい中で最大の援助を与えてくれるペピー、これだけの人々に支えられながら、依然として過去にしがみつく主人公には感情移入しがたいものがありました。要するに、ドラマとしての完成度は高くないのです。本作が成功したのはあくまで”器”の完成度の高さであって、”中身”に魂は宿っていませんでした。。。 作品賞受賞の本作を筆頭に『ヒューゴの不思議な発明』『マリリン/7日間の恋』『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』と、今回のアカデミー賞には懐古的な傾向が目立ちました。古き良き時代を懐かしむ空気というのは、現代の世相が良くないことの裏返し。内容の賛否はともかくとして若い感覚に溢れた作品(『ノーカントリー』『スラムドッグ・ミリオネア』『ハート・ロッカー』)が賞レースを賑わせていた数年前と比較すると、やや寂しい傾向であると感じます。 [DVD(字幕)] 6点(2012-10-07 01:48:10)(良:1票) |
618. リチャード・ニクソン暗殺を企てた男
《ネタバレ》 実話を基にした中年版『タクシードライバー』とも言える本作ですが、この映画は主人公と観客との間の距離の取り方が抜群に優れています。ある程度の共感の接点は設けるものの、主人公の内面を全面的に支持するようなことはせず、最後には突き放してしまうという、かなり客観的な構成としています。『タクシードライバー』はジョン・ヒンクリーという現実の犯罪者を生み出すに至りましたが、本作を観て主人公サミュエル・ビックのようになりたいと考える者は現れないでしょう。善良な小市民がちょっとした頑固さや愚かさから精神を病み、最終的には大勢に迷惑をかけた挙句に射殺されるという物語を見れば、ほとんどの観客は日常の大切さを思い知るはずです。。。 ショーン・ペンは貫録の演技力を披露。弱肉強食のショービズ界の頂点に長年君臨し、暴行での逮捕歴も持つペンが、本来の自分とは正反対の小市民に見事になりきっています。ナオミ・ワッツやドン・チードルら脇を固める俳優たちも高いパフォーマンスを披露しているのですが、中でも素晴らしいのが主人公の上司を演じたジャック・トンプソン。自信家で嫌味な性格ではあるが、その一方で面倒見がよく、常に良い上司であろうと努めている男という、善悪両面を兼ね備えた人物を丁寧に作り上げています。こういうタイプの上司は現実社会にもよくいるだけに、彼の存在によって物語に大変なリアリティが与えられています。 [DVD(吹替)] 7点(2012-10-02 21:08:57) |
619. ボーン・レガシー
《ネタバレ》 アクション映画としては程々の出来なのですが、ボーンシリーズの新作にして、『ボーン・アルティメイタム』の続編という高いハードルは超えられていません。一部に拒否反応のあった前作までの手持ちカメラ&細切れカットは本作より不採用となり、アクションはかなり見やすくなっているのですが、見やすさと引き換えに映画のルックスは平凡なものとなっています。本作を観れば、グリーングラスの演出がいかに映画全体の印象に貢献していたかがわかります。。。 新たな主人公アーロン・クロスの設定は面白いと感じました。少年院上がりで帰る家がないからと工作員に志願するも,当初は採用基準を充たしておらず,リクルート担当者のお情けで工作員となった人物であり、現在は訓練生の立場にあります。ヒロインであるマルタを助けに現れた理由は「好きだったから」という青臭いものであり、完璧な工作員だったジェイソン・ボーンとのコントラストとして未熟な面が強調されています。その設定は戦い方にも表れていて、常に逃走経路を確保した上で敵の二手先三手先を読んで行動していたボーンに対し、クロスは基本的に勢い任せで、敵に先手を取られては袋小路に追い込まれることもしばしば。ボーンがマリーの絶対的な保護者だったのに対し、クロスはマルタと協力しながら危機を乗り越えるという関係性となっています。この新機軸は良いのですが、問題なのは、これを演じるレナーとワイズが歳をとりすぎているということ。『ボーン・アイデンティティ』に出演した時点のデイモン(30歳)よりも若い俳優を起用すべきだったのに、ふたりとも40歳を過ぎているのです。また、総合的にはボーンに劣るにしてもクロス特有の強みも作っておき、その一点突破で危機を乗り切っていくという構成にすべきだったのですが、これがないために、ただ主人公が弱くなっただけという結果に終わっています。。。 前作までにあった殺伐とした空気も、本作においては希薄となっています。よく喋るレナーとワーワー喚くワイズの中年コンビは、ボーンシリーズの続編というよりも『ナイト&デイ』の焼き直しといった風情です。薬剤の投与によって工作員が強化されているという設定は『キャプテン・アメリカ』か『ユニバーサル・ソルジャー』かという安っぽさだし、後半に登場する殺し屋には迫力や凄みがありません。エンディングに流れる”Extreme Ways”の歌詞が完全に浮いていました。 [映画館(字幕)] 6点(2012-10-01 11:27:52)(良:2票) |
620. 狼の死刑宣告
《ネタバレ》 アグレッシブにも程があるタイトルに惹かれて手に取ったのですが、そんなタイトルとは裏腹に、意外なほどよく出来た映画でした。内容はオーソドックスな自警団ものなのですが、『ソウ』のジェームズ・ワンの高い演出力によって同ジャンルの作品としては頭ひとつ抜けた仕上がりとなっており、最初から最後まで存分に楽しむことができました。。。 とにかくこの映画、テンポが良くて退屈しません。イントロ部分で被害者家族の人となりを手際よく描いたら、間髪空けずすぐに悲劇が訪れます。そして親父はあれこれ悩むことなくさっさと復讐を決行。この勢いの良さはなんでしょうか。その後、親父は街のチンピラとの抗争に突入するのですが、ここでも深く悩んだりすることなく、言葉よりも先に手が出るというムダのない構成で安心させられます。あれこれ悩まずとも、険しい表情のケビン・ベーコンさえ出しておけばドラマは成立すると踏んだ監督の判断力も見事ならば、そんな監督の期待に応えてみせたケビン・ベーコンの演技力も見事なものです。ここまで振れ幅の激しい役を演じられる俳優なんて、ケビン・ベーコンとウィレム・デフォーぐらいのものでしょう。。。 とはいえ問題もあります。肝心な時に気配を消し、事が終わってから偉そうに説教を垂れる警察が面倒で仕方なく、彼らの存在が映画のテンションを大きく下げる原因となっています。家族の警護をミスったにも関わらず謝罪ひとつなく、相変わらず上から目線の説教をやめないという状況に至っては、チンピラ軍団以上に憎たらしく感じさせられました。 [DVD(字幕)] 7点(2012-09-30 00:01:14)(良:1票) |