621. シンプル・フェイバー
《ネタバレ》 それは本当に“ちょっとしたお願い(シンプル・フェイバー)”だった――。数年前に夫を事故で亡くしたものの、遺された保険金で一人息子を育てるシングル・マザー、ステファニー。ある日、華やかなファッション業界でバリバリと働くママ友のエミリーから、彼女はちょっとしたお願いを受ける。自分の息子と同じ保育園に通うエミリーの息子を自宅まで送り届けて欲しいというのだ。夫はベストセラー作家、常に完璧なファッションを着こなし、昼間から強いマティーニを嗜むことを日課にしているという、エミリー。自分とは全く正反対の彼女だったが、何故か意気投合し今や親友と言っても過言ではない関係を築き上げていたステファニーは、もちろん気軽にオーケーするのだった。だが、いつまで経ってもエミリーが帰ってくる気配はなかった。二日、三日と時間が過ぎても一向に連絡はなく、勤務先に連絡しても今は出張中だとしか教えてくれない。業を煮やしたステファニーは、警察に通報するも、彼女独自に捜査を開始する。浮かび上がってきたのは、完璧な彼女に隠された驚きの真実だった。やがて、エミリーに多額の保険金が掛けられていたことが判明し、ステファニーにも疑惑の目が向けられてしまう…。平凡なシングル・マザーと都会で洗練された生活を送るセレブ妻、そんな正反対の女性たちに隠された驚愕の真実をスタイリッシュに描いたミステリー。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのですが、なかなかの掘り出し物でしたね、これ。まあ完全に欲求不満気味のマダム向けの作品ではありましたけれど(笑)、優れた脚本の力とサクサク進むテンポの良さ、華やかな映像とノリのいい音楽とで最後まで飽きさせずに魅せたこの監督のセンスはなかなかのものだと思います。正反対の主人公を演じたそれぞれの女優たちもけっこうな嵌まり具合で大変グッド。特におてんば主婦探偵を演じたアナ・ケンドリックは、彼女の等身大の魅力が炸裂してて大変キュートでした。ときおり挿入される彼女のブログも普通に人気出そうですし、またこのブログのメッセージがのちのち意外な方向で効いてくるのもやられたぁって感じでしたね。肝心のことの真相がかなり強引で力技で押し切られた感はありましたけれど、これもまあ許容範囲内。終始気軽に楽しめる、いわば『ゴーン・ガール』のライト版とも言うべき本作、エンタメ映画として僕は充分楽しめました。うん、7点! [DVD(字幕)] 7点(2019-10-11 01:01:15)(良:1票) |
622. ギヴァー 記憶を注ぐ者
《ネタバレ》 ここでは誰も過去の記憶を持たない――。今から遠く離れた未来社会。荒廃した世界から立ち上がった人類は、平和を守るために厳密に管理された完璧な世界を創り上げていた。その名も、“コミュニティ”。ここでは誰もが同じ服を着て規則正しい生活を送り、毎朝同じ薬を呑み、毎晩同じ時間に眠りに就き、誰も嘘をつかず、そして誰も過去の歴史を知らない。誰もが平等のこの世界で、それまで何の疑問も抱かず平凡に暮らしていたティーンエイジャー、ジョナスは明日の儀式を前に緊張していた。そう、その儀式によってその人の一生の仕事が決まるからだ。緊張する彼に告げられた職業は、レシーヴァ―(記憶の器)。それは過去に起きた全ての歴史――良いことも悪いことも含め――を秘密裡に受け継ぐもの。前任者である“ギヴァー(記憶を注ぐ者)”から、さっそく指導を受けることになったジョナス。彼から受け取った記憶は驚くべきものだった。戦争、荒廃、憎しみ、苦痛、そして、愛…。徐々に記憶を受け入れていくジョナスは、次第にこの世界に疑問を抱くようになる…。徹底的に管理されたユートピアに暮らしていた若者の成長と闘いを独創的な映像で描いたSF・アクション。アメリカの児童文学を原作とした本作、ジェフ・ブリッジスとメリル・ストリープという二大オスカー俳優共演ということで今回鑑賞してみました。最初は白黒から始まった映像が、主人公が徐々に記憶を取り戻していくことにより少しずつカラーになってゆくという映像表現はなかなか独創的で大変いい。でも、本作の見どころはそこぐらいですかね。『ハンガー・ゲーム』や『ダイバージェント』といった一時期大流行りした設定勝負のヤングアダルトSFと同じく、今作もこの設定の詰めが非常に甘い!!まず、肝心のこのレシーヴァ―という職業の存在意義がよく分かりません。こんなリスクがあるなら別に人間に記憶を受け継がせなくてもいいのに、何故にわざわざ人にその役目を?また、ここまで管理が行き届いた社会なのに、どうして人にマイクロチップを埋め込むようなことはしないのでしょうか。おかげで主人公は簡単に逃げ隠れしまくっちゃってますやん。それにここまで大風呂敷を拡げておいて、後半はかなりこじんまりとした追跡劇がちまちま繰り広げられるだけというのもスケールが小っちゃ過ぎます。特に酷いのが最後のオチ。あまりに投げっ放しで、「え、これで終わるんかい!」とキレそうになっちゃいました。いくら二大オスカー俳優共演とはいえ、これでは凡作と言わざるを得ません。 [DVD(字幕)] 4点(2019-10-07 00:42:12) |
623. まともな男
《ネタバレ》 平凡な中年サラリーマン、トーマス。彼は15歳になる一人娘と最愛の妻とともにささやかながらも幸せな日々を過ごしている。ただ少し酒癖が悪く、過去に起こしたトラブルから現在は禁酒し、週に何度かカウンセリングに通っている。不安と言えばそれぐらいで、仕事もぼちぼち順調、思春期の娘と情緒不安定気味の妻とは多少ギクシャクしているもののそれなりにいい関係を築いているつもり。そう、彼は何処にでもいるような“まともな男”だ。あなたと同じように――。ことの発端は、家族水入らずで出かける予定だったスキー場へのバカンスだった。ところが直前で上司の娘である同じく15歳の女の子、ザラも連れていくことに。この何かと背伸びしたい年頃のザラが、キャンプ場へと着いた初日の夜に酒場のパーティーに出かけたいと無理を言い出す。上司との兼ね合いもあり、トーマスは渋々自分の娘と一緒に酒場へと送り届ける。だが、数時間後に迎えに行くとザラは泣きながら衝撃の告白をするのだった。自分は地元の若い男にレイプされた――。上司に何と説明すればいいのか。トーマスは事態を取り繕うため、咄嗟に小さな嘘をついてしまう。その些細な嘘が予想もしない事態を招き、やがて自らをますます窮地へと追い込んでゆくことも知らずに…。平凡なサラリーマンが落ちてしまった、そんな日常に潜む危険な落とし穴をシニカルに描いたクライム・ドラマ。特筆すべきなのは、このトーマスという男の絶妙なキャラクター設定でしょう。「こういう人、実際によくいるよね」と思わせるほどリアルで、ところどころ身につまされるほどでした。みんなの顔を立てるあまり、その場その場で適当な嘘を繰り返し、自分は優しいふりをしながら結局は自分のことしか考えていない、そして大きな事件があるとおどおどしてうろたえるだけ、どうしようもなくなると最後は酒に逃げる……。もう典型的な小心者のダメ男。彼が自業自得の窮地へと追い込まれる様はなかなかリアルで最後まで引き込まれました。ただ、正直それだけという印象もなきにしもあらず。この手の作品を得意とするコーエン兄弟ほど突き抜けたものもなく、かといってブラックな笑いに溢れているわけでもなく、最近流行りのイヤミスのように何日も引きづりそうな後味の悪さもない。そこそこよく出来た“まともなクライム・ドラマ”、ただそれだけですね。 [DVD(字幕)] 6点(2019-10-04 22:14:03) |
624. マイ・サンシャイン
《ネタバレ》 1991年、ロサンゼルスで起きた黒人たちによる大規模な暴動事件。いわゆるロサンゼルス暴動。発端は、無抵抗の黒人が白人の警官たちによって執拗に暴行を受ける様子が公開されたこと。のちに起訴されたその白人警官たちは、裁判の結果、なんと無罪放免となり溜まり溜まった黒人たちの怒りが頂点に達したのだ。本作は、多くの死傷者を出したその実際の事件を背景に描いた群像劇だ。監督は、トルコの保守的なイスラム社会で精いっぱい自分らしく生きようとする姉妹たちの姿を描いた『裸足の季節』で鮮烈なデビューを飾ったデニズ・ガムゼ・エルギュベン。主演を務めるのは、名実ともにハリウッドのトップクラスの実力を誇る、ハル・ベリーとダニエル・クレイグというベテランコンビ。ということで、かなり期待して今回鑑賞してみました。先に結論を述べさせてもらうと、正直かなり残念な出来の作品であったと言わざるを得ません。とにかく演出も脚本も編集ももう素人レベルの稚拙さ。ストーリーは最後まで何を描きたかったのか全く意味不明で、後半にいたってはもはや破綻していると言っても過言ではありません。沢山出てくるキャラクターの背景となる基本的な情報も一切スルーされているので、もう誰が誰でいったい何をしたいのかさっぱり分かりません。取り敢えず、ハル・ベリー演じる主人公が血の繋がらない子供たちを何人も引き受けているらしいのですが、この設定も意味不明。そしてこの子供たちが最後までワーキャーうるさいうえに、嬉々として万引きを働いたりするもんだから観ていてかなり不愉快にさせられます。編集も終始ぶつ切りで、素人がテキトーに繋ぎ合わせたかのような酷い代物。ときおりさっぱり意味が分からないシーンが挿入されるのも混乱に拍車を掛けています。あのハル・ベリーの夢の中でダニエル・クレイグが裸になって舞い降りてくるという変なシーンはいったい何の意味があったのでしょう。最後のオチも投げっ放しの酷いものでもう見られたもんじゃありません。街灯のポールに繋がれた、パンツいっちょのダニエル・クレイグが必死に木登りして終わりって何それ?って感じです。ここまで酷いとこの監督の前作ももしかしたら奇跡の一品だったのではないかと疑いたくもなります。監督、この次が正念場でしょうね。『裸足の季節』を超えるような傑作をものして、本作がそのための残念な習作だったと語られる日が来ることを期待して待っております。 [DVD(字幕)] 3点(2019-10-02 22:36:40) |
625. search サーチ
《ネタバレ》 娘の身にいったい何が起こったのか――。最愛の妻をガンで亡くし、年頃の一人娘とともに父一人子一人の生活を送っているデビッド。だが、ある日突然、その遺された一人娘が失踪してしまうのだった。理由は皆目分からない。当然納得いかないデビッドは、警察の捜査とは別に独自の調査を開始する。娘のPCに残された情報やSNS、ネット上に拡がる様々な情報を駆使し、なんとしても娘の消息を探ろうとするデビッド。浮かび上がってきたのは、自分の知らなかった娘の隠された真実の姿だった……。失踪してしまった娘の消息を追う父親の執念の捜査を、PCの画面上の映像だけで展開させるという独自の手法で描いたサスペンス・ミステリー。この制約を巧く活かし、最後まで緊張感を途切れさせることなく魅せきった監督の手腕は大したものだと思います。絵的に単調になりそうだけど、クローズアップや画面の切り替えをタイミングよく使うことで物語にいいリズム感を与えているので最後まで飽きることなく観ることが出来ました。インターネットが発達し、生活の大半をネット上で完結させることが出来る現代社会の光と闇を風刺するその視線の鋭さもなかなかいい。ただ、そこまで面白かったかと問われたら、正直自分的にはちょっと微妙。やはりPCの画面上の二次元世界だけでしか物語が展開されないので、僕的には世界に奥行きが感じられず少し物足りなく感じてしまいました。でもまあそこらへんは好みの問題でしょうね。今までにない新しいタイプの作品なので、嵌まるかどうかはその人次第。興味のある方は是非ご覧になって自らの感性で判断しちゃってください。 [DVD(字幕)] 6点(2019-10-01 23:07:17)(良:1票) |
626. メアリーの総て
《ネタバレ》 暗い墓場から誕生した醜いモンスターの悲劇を描き、いまや怪奇小説の古典的名作としてその名を残す『フランケンシュタイン』――。そんな暗くおどろおどろしい世界を描いた著者は、まだ18歳になったばかりのうら若き女性だった。彼女の名は、メアリー・シェリー。本作は、そのメアリーがいかにしてこの古典的名作を生みだしたのか、彼女の創作の裏に隠された真実を描いた伝記映画だ。過酷な運命に翻弄されるメアリーを演じるのは、人気若手女優エル・ファニング。監督は前作『少女は自転車に乗って』でアカデミー賞にノミネートされた、サウジアラビアの新鋭ハイファ・アル=マンスール。19世紀のイギリスを再現した映像は終始美しく、どのシーンを切り取ってみてもまるで中世の絵画の世界に入り込んだかのようなクオリティは見事としか言いようがない。そこで描かれる当時の社会的弱者の過酷な生活もリアリティがあり、この監督らしいフェミニズムな視点も抑制が効いていて良かった。ただ、本作はあくまで『フランケンシュタイン』の作者の半生を描いた作品である。なのに、主人公メアリーが肝心の創作を始めるのが映画も四分の三を過ぎたあたりからというのはさすがにバランスが悪い。私の個人的な考えだが、こういう名作創作の舞台裏を描いた作品は、主人公の半生四割、創作過程三割、その作品の内容三割くらいがちょうどいい配合だと思うのだが、本作はこのバランスが非常に悪いように感じてしまった。作品全体がほぼこのメアリー・シェリーと女癖の悪いダメ夫との破綻した結婚生活を描くことに割かれてしまっており、創作過程は後半にほんの少し出てくる程度、『フランケンシュタイン』の内容にいたってはほぼ皆無という状態だった。これでは、彼女がこの名作に託した思いというのが感じられなくて当然だろう。当時の女性の虐げられた思い、彼女が生後すぐに失くしてしまった娘の存在、愛も金もない結婚生活、これらがいかにしてこの名作を誕生させたのかにいまいち説得力が感じられないのだ。美術は文句なしに素晴らしく、一流どころを配した役者陣の演技も華があって大変良いのだが、映画のテーマ性という観点で言うとどうしても物足りない。フランケンシュタインの怪物を映像としてその片鱗すら見せなかったのは、映画として致命的だろう。期待していた分だけ、残念な出来栄えだった。 [DVD(字幕)] 5点(2019-10-01 01:42:50)(良:1票) |
627. くるみ割り人形と秘密の王国
《ネタバレ》 チャイコフスキーのバレエで有名なファンタジーの古典を最新のCG技術を駆使して映像化した定番のディズニー作品。確かにハイクオリティな映像表現は抜群の安定感で、観る者を最後まで飽きさせないのはさすがディズニーと言うべきか。あの小さなネズミたちが群れを成して大きなネズミの王様になるところなんてもうほれぼれするぐらい。まあ内容的には、どうしても『アリス・イン・ワンダーランド』の二番煎じ感は否めませんけども。でも、あちらは『不思議の国のアリス』というしっかりとした物語の土台があったからこそ充分見応えのある作品に仕上がっていたんだろうけど、こちらはどうもねえ。僕はこれまで何度か『くるみ割り人形』の映像化作品を観てきましたが、正直どれも微妙な出来なんですよね。個人的な考えを述べさせてもらうと、この古典的作品がどうして今まで残ってきたかというとやはりあのチャイコフスキーの数々の名曲群があったればこそだと思うんですよね。きっとチャイコフスキーがバレエにしていなければ、さして内容のない子供向けの童話として歴史に埋もれてたくらいの物語だと僕は思うのです。対して本作、権利の関係なのかそれともあくまで新しいものに拘ったのか、どうしてあのチャイコフスキーの名曲群を全面的に使わなかったんでしょうね。なので、出来上がったのはもうどこにも新鮮味のない、言っちゃ悪いけど古臭い凡庸なファンタジーでした。映像だけは素晴らしいですけど、はっきり言ってそれだけです。長年この監督のファンだっただけにとても残念な作品でありました。余談だけど、原作では確かネズミ軍団は最後まで悪役のままだったと思うんですけど、この作品では中盤から逆転しますよね。やはりディズニー作品だけに、ネズミは絶対に悪役にしたら駄目だという暗黙のルールでもあるんでしょうか(笑)。 [DVD(字幕)] 5点(2019-10-01 01:05:10) |
628. ダークサイド(2018)
《ネタバレ》 自らの不注意により幼い娘を事故で亡くしてしまった、レイとマギー夫妻。深い哀しみから逃れるように、彼らは砂漠の片隅にある古びた安モーテルを買い取るのだった。知り合いなど誰も居ない片田舎で再スタートを図るレイとマギー。何もかもを捨てこの安モーテルに越してきた彼らは着々と準備を進め、記念すべき最初の宿泊客を受け入れることに。だが、しばらくすると夫レイはこのモーテルに隠された不穏な事実を知ってしまうのだった――。倉庫の片隅に秘密の通路があり、その先はある客室の鏡の裏へと通じていて、マジックミラーとなったその鏡から部屋の中が全て覗き見できるようになっていたのだ。偶然泊まっていた女性客二人組の淫らな姿態を覗いてしまったレイは、ギクシャクする妻との関係から逃れるように次第にその覗き見行為に嵌まり込んでゆく。だがある日、その女性のうちの一人が砂漠で死体となって発見されたことから、レイはどんどんと危険な罠に絡めとられてゆくのだった……。毎度おなじみニコラス・ケイジ主演で送る、そんな不穏な空気に満ちたエロティック・サスペンス・スリラー。正直、めっちゃつまんなかったんですけど、これ!全編を通して無駄なシーンが圧倒的に多く、終始ちんたらしててもう退屈で退屈で仕方なかったです。ニコケイ、しのごの言ってないでとっととレズカップルのSMプレイ覗きにいけや!!とキレそうになっちゃいました。また脚本のテキトー具合も最悪です。伏線を山ほど張っていながらそのほとんどを回収しないまま終わるというトホホぶり。あの風呂場に忍び込んだ蛇のエピソードとか何の意味があったのでしょう?一番怪しい保安官がやっぱり犯人でしたということの真相も正直、何の捻りもありません。肝心の覗き見シーンもトータル2、3分で終わるし、それも下着姿のおねーちゃんたちがお尻ぺんぺんするぐらいでおっぱいすら出てきません(怒)。ニコラス・ケイジも他の主演作と区別してもらうためなのか髭もじゃにしてる(見ていて暑苦しいったりゃありゃしない!)ぐらいで、やっつけ感が半端ありません。うん、3点!! [DVD(字幕)] 3点(2019-09-26 23:37:58) |
629. かごの中の瞳
《ネタバレ》 過去の不幸な事故によって完全に失明してしまったジーナ。だが、夫の献身的なサポートのおかげで今はタイのバンコクで何不自由なく暮らしている。安定した収入、日常の中でのちょっとした気遣い、そして愛に満ちたセックス――。子供にはまだ恵まれていないものの、夫とともにささやかながら安定した生活を送っていたジーナに、主治医から更なる朗報が告げられる。なんと角膜移植により、右目だけだが視力が戻るかもしれないと言うのだ。藁にも縋る思いでジーナは手術を決断する。術後の結果は良好、ジーナは抗生物質を点眼しながら視力の回復を待つことに。次第に戻って来るカラフルな世界に、ジーナは戸惑いながらも喜びを隠せない。お祝いを兼ね、新婚旅行で行った南スペインへと夫と二人でバカンスに旅立つジーナ。だが、訪れた先で彼女はちょっとしたことから夫に不信感を抱くようになる。次第にギクシャクしてゆく夫婦。タイへと帰ってきた彼女は、プールで出会った心優しい男性に気持ちが揺らぎ始める…。それまで愛に満ちた生活を送っていると信じていた盲目の主婦、彼女が視力を取り戻したことで見えてきた夫への疑心を独創的な映像で描いた心理サスペンス。監督は、丁寧な心理描写に定評のあるベテラン、マーク・フォースター。ということでけっこう期待して今回鑑賞してみました。なのですが、冒頭から何度も繰り返されるシュールで実験的な映像表現が正直かなり鬱陶しいというのが第一印象。この内容でどうしてこのような映像表現をしなければいけなかったのか、はなはだ疑問でした。ストーリーの方もわざと説明を極力排除して主人公の不安な心情を表現しているんだろうけど、とても効果的だとは思えません。この監督ってこっち系(いわゆるデビッド・リンチ系の前衛的作風)のひとでしたっけ?もっとしっかりとした躍動的な物語で見せるストーリテラーな人だと思っていたので、かなりがっかりなんですけど。物語のギアとなるべき、主人公の過去に何が起こったのか?現在どういう状況にあるのか?そして未来をどんな風にしたいのか?という重要な要素がことごとく曖昧なので、全くストーリーに入り込めません。最後のオチも投げっ放しの酷い代物。けっこう好きな監督の作品だっただけに、非常に残念な出来でありました。 [DVD(字幕)] 4点(2019-09-26 23:22:08)(良:1票) |
630. チャイルド・オブ・ゴッド
《ネタバレ》 彼もまた“神の子”だ。あなたと同じように――。アメリカ北部の寂れた田舎町に住む孤独な男、レスラー・バラード。十歳にして父親を自殺で失い母親にも捨てられた彼は、以来天涯孤独な人生を送ってきた。精神的に深刻な問題を抱えた彼は周りの人間とうまくコミュニケーションを取ることが出来ず、自分を守ってくれる古びたライフルだけを片手に、打ち捨てられた山小屋でその日暮らしの孤独な生活を何年も続けている。もちろん村人からは厄介者扱い、保安官からも常に目を付けられていた。そんなある日、山道を歩いていた彼は事故を起こし立ち往生している車を発見する。覗いてみると、車内には一組の男女の死体が横たわっていた。触れてみるとまだ微かに温もりが残っている。初めて感じた女の温もり。思わずレスラーは、その女の死体と性行為をしてしまうのだった。そのことに味をしめた彼は以来、次々と女を殺しその死体を犯し始めるようになる……。長年の孤独な生活から精神に異常をきたしてしまった男、彼が犯すことになる数々の許されざる罪を乾いた空気の中に描くバイオレンス・スリラー。原作は現代アメリカ文学の重鎮、コーマック・マッカーシー。監督は俳優としても活躍するジェームズ・フランコ。『ノー・カントリー』『ザ・ロード』『悪の法則』といった作品で名高いマッカーシーが原作だけあって、この血と暴力に満ちた物語はいかにも彼らしい閉塞感に満ちた重厚なものだった。「倫理観や道徳といったものが完全に壊れてしまい、世にも恐ろしい罪を躊躇なく犯してしまう彼を同じ人間と言っていいのか」といった重々しいテーマを、無駄を削ぎ落したシンプルなストーリーの中に描き出す意図は充分伝わってくる。果たして神は居るのだろうか――。このイカレタ男の視点で最後まで物語を進行させ、観る者の倫理観を激しく揺さぶって来るところなどその踏み越えた姿勢は高く評価されていいだろう。ただ、この原作を映画化するのであれば、もう少しこのテーマに深みを与えても良かったのかもしれない。最後まで、この罪深き“神の子”になんの罰も赦しも与えないところなど、きっと意図してのことなのだろうがどうしても物足りなさが残る。内容が内容だけに決して観ていて気分のいい作品ではないが、人間の生存欲求の根源性や神の不在などを考えるきっかけとして観る価値は充分にある。 [DVD(字幕)] 6点(2019-09-26 22:55:50) |
631. シドニー・ホールの失踪
《ネタバレ》 既存の価値観を真っ向から否定するような挑戦的な内容で、全米ベストセラーとなった青春小説『郊外の悲劇』。デビュー作にして一躍時代の寵児となった作者であるシドニー・ホールは、プレッシャーからかなかなか二作目が書き出せずにいた。そんな折、この小説に影響された青年が自らその命を絶ち、全米中で賛否両論含めた議論が巻き起こるのだった。精神的に追い詰められたシドニーはある日、着の身着のままの姿で失踪してしまう――。以来シドニー・ホールの消息は誰にも分からず次第に人々は彼のことを忘れていった。だが、七年もの月日が過ぎたころ、いくつかの図書館で彼の著作が燃やされるという事件が多発する。老犬を連れ、ふらりと現れた犯人こそが彼なのではないか。疑問を抱いたある人物が彼の調査を開始する。浮かび上がってきたのは、シドニー・ホールという男の深い哀しみに満ちた人生だった……。失踪したベストセラー作家のミステリアスな半生を、三つの時間を行き交いながら綴るヒューマン・ミステリー。描かれるのは作家シドニー・ホールのまだ無名だったハイスクール時代と、やがてベストセラー作家となった彼の栄光とプレッシャーの日々、そして一匹の老犬だけを相棒に全米を放浪する空白の時期という人生のターニング・ポイントとなった三つの時代のエピソード。この三つの時間軸を複雑に行き交いながら同時並行で描くという難しい手法を使っているのですが、ちゃんとそれがいつの時代の話なのか観客に分かるように描き分けているのは巧いと思います。どの時代のお話にもちゃんとそれぞれに明確なテーマと謎が存在し、全体としてある一人の男の人生を重層的に浮かび上がらせることに成功しています。そして、それら三つの時代に様々な姿で立ち現れる美しい女性メロディの存在も煌びやかで大変いい。彼女を演じたエル・ファニングがとてもキュートで、まさに嵌まり役。ただ、物語の終盤、それぞれのエピソードに隠された謎が全て明らかにされるのですが、それらが一本の映画としてうまく纏まっていないのが本作の弱いところ。青春期の初恋と友情、デビュー後の挫折と喪失、失踪後の絶望と再生、これらの要素が有機的に巧く絡み合っていません。なんだか別々の映画を一本に編集しなおしたような印象を受けてしまいました。きちんと整理されたストーリーテリングが抜群に巧かっただけになんとも惜しい。 [DVD(字幕)] 6点(2019-09-25 22:38:13) |
632. 運び屋
《ネタバレ》 90歳にしてアメリカ最大の麻薬密売組織の運び屋となった男を実話を基にして描くクライム・サスペンス。監督・主演を務めるのは、もはやハリウッドの生ける伝説と言っても過言ではない御大、クリント・イーストウッド。名作『グラン・トリノ』で名実ともに俳優業からは引退と思っていましたが、まさかこんな役でカムバックするとは嬉しい驚きですね。沢山の家族に囲まれ枯れた余生を謳歌するような幸せな老人ではなく、ひりひりするような綱渡り生活を続ける麻薬の運び屋役というのがまた彼らしい。ストーリー自体は極めてシンプル。でも、無駄を削ぎ落したその物語はとてもサスペンスフルで最後まで引き込まれて観ることが出来ました。ここらへんは長年の経験がなせるベテランの技なのでしょう。いつ、この爺さんが事故っちゃわないか、いつ警察にバレて窮地に陥ってしまわないか、あるいはいつヘマをして麻薬組織から酷い目に遭わされはしまいかと終始ハラハラしっぱなしでした。その中で、最初は反発し合っていた監視役のチンピラと、何気なく一緒にポークサンドを喰ったことでほのかな友情が芽生えるというエピソードはなかなか微笑ましい。そして終盤、長年連れ添った元妻の危篤を知った主人公が葛藤の末に取った行動には、本当に胸が締め付けられる思いでした。ここには90年がむしゃらに生きてきた老人の生き様がしっかりと詰まっている。ブラットリー・クーパーやアンディ・ガルシアといった、油の乗った俳優たちも彼の前では単なる引き立て役になっていたのも凄いことだと思います。人生の深い哀歓を感じさせる、渋みに満ちた人間ドラマの佳品でありました。 [DVD(字幕)] 8点(2019-09-25 21:52:15) |
633. ザ・マウンテン 決死のサバイバル21日間
《ネタバレ》 大嵐が近づき、大混乱へと陥っているアメリカの大空港。軒並み定期便が欠航してゆく中、明日の結婚式にどうしても出席したいアレックスは、ジャーナリストとしてのコネをフル活用し、小さなセスナ機をチャーターすることに成功する。あとの問題は資金面。彼女は偶然、同じようにどうしても今日中にデンバーへと帰りたいというベンという名の医師に出会う。神経外科医である彼は明日、12歳の子供の手術の予定が控えているのだ。費用を折半し、小さなセスナ機に乗り込んだ二人は、急いで目的地へと向け離陸してもらう。だが、その途中で操縦士が脳梗塞を起こし、セスナ機は呆気なく雪山へと墜落してしまうのだった――。生き残ったのはまだ出会って数時間しか経っていないそんな男女二人と、一匹の犬のみ。無線は壊れ、携帯も圏外。しかも彼らが飛行機に乗り込んだことは誰にも知らせておらず、救助が駆け付けてくる可能性は皆無に等しい。見渡す限りの雪山が続くこの絶望的な状況の中で、それでも彼らは一歩ずつ歩き始めるのだった。生きる希望を失わないために…。そんな過酷な大自然へと突然放り出される男女を演じるのは、ベテランのケイト・ウィンスレットとイドリス・エルバ。映画の大半はほぼこの二人だけで進んでいくのですが、この演技派二人のキャスティングは大成功でしたね。過酷な状況にどんどんと追い詰められてゆく二人を説得力抜群に演じていて、もう観ていて息が詰まるほどでした。野生の肉食動物や猛吹雪など、襲い来る自然の驚異はベタですけどやはり手に汗握っちゃいますね。そんな中、二人と行動を共にする耳垂れ犬がとても健気で、この重い物語のいいアクセントとなっています。ただ、ストーリーは良くも悪くも非常にシンプル。もうタイトルそのままのど直球の内容なので、最後まで新鮮味といったものはほとんどありませんが、それでも丁寧な演出のおかげで僕は最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。最初は反発し合っていた二人が幾多の困難を乗り越えていく中で次第に心を許してゆき、婚約者がいるにも関わらず…というのはオーソドックスながらなかなか切なかったですね。どこまでも続く雪山の映像もほれぼれするほどキレイで見応え充分。最後、二人が助かってからの展開がかなり蛇足感が強く、特にラストシーンがメロドラマに寄り過ぎなのが僕的にちょっと不満でしたが、それでも充分見応えのあるサバイバルドラマの佳品でした。うん、お薦めです。 [DVD(字幕)] 7点(2019-09-24 21:42:53) |
634. クロノス・コントロール
《ネタバレ》 いまから100年後の未来社会、高度な人工知能「クロノス」の暴走により、人類は絶滅寸前にまで追い詰められていた。開発者であるエライアス博士は肉体を捨て、バーチャル空間で生きながらえながら、地球の敵である人類との戦いを指揮している。そんな折、森の奥深くに潜み反撃の機会をうかがっていたレジスタンスの前に一人の謎の人物が現れるのだった――。彼の名は、アンドリュー。何故か彼は今から100年前の人類大破滅以前の記憶を有していた。果たして彼は何者なのか?彼と同行することになった女兵士カリアは、更なる驚愕の事実を知ることになる…。強大なロボット軍団を率いる人工知能「クロノス」とレジスタンスとなってゲリラ戦を展開する人類との種の存亡を掛けた戦いを壮大なスケールで描いたディストピアSF。なんですけど、いやー、これがなかなかトホホな出来の典型的なB級映画でした。冒頭こそ、地球規模の大破滅を描いているのですが(そのCGがけっこうショボいのはまあ予算の関係なんで目をつぶりましょう!)、その後の97年後の未来社会の描写が明らかにどっかの森で撮影していてまったく未来感が皆無なのはさすがにあかんでしょ。この絵的にも地味な舞台に出てくる登場人物もかなり地味な男女二人で、この二人がひたすら森の中をとぼとぼ歩くだけという展開が中盤までだらだら続き、もう眠いったらありゃしない。そしてこの二人が次第に惹かれ合っていくという展開もまあベタだし、その描き方もかなり雑なんで観ていてホント腹立ってきます。肉体を捨ててサイバー空間に生きる黒幕エライアスもただひたすらこいつらを見守るだけで、とても人類を滅亡寸前にまで追い詰めたような凶悪な存在には思えません。また、この黒幕を演じているのはジョン・キューザックなのですが、これがかなりやっつけ感が半端ないです。そして最後、まさかの人類地球脱出からの全面宇宙戦争開幕直前でハイおしまい。なんすか、この適当なオチは(笑)。うーん、観るだけ時間の無駄の駄作というほかありません。 [DVD(字幕)] 3点(2019-09-24 21:03:55) |
635. ターミネーター:新起動/ジェニシス
《ネタバレ》 冒頭からあのジョン・コナーが自らの父親となるカイルをタイムワープ装置に送り込み、そこから一作目の時代へと舞台が移行するシーンで摑みはばっちりでした。あの小学生のころから何度も観てきた世界が最新の映像技術で復活か!!と僕のワクワクは頂点に――。でも、本作のピークはそこまででした。そこから何故かもう一人のT‐800が出てきたり、2に登場したリキッドメタルが襲ってきたり、サラ・コナーがすでにムキムキの戦闘おねーちゃんになってたり、開始早々ストーリーがもう無茶苦茶ですやん。「いったいどういうことやねん!」という僕の疑問に、一応パラレル・ワールドやらタイム・パラドックスやらで説明してくれてはいますけど、全く納得できるものではありません。話が進めば進むほど無理が大きくなるので、後半のクライマックスなんてもうグダグダしててさっぱり面白くなかったです。シュワちゃんの名ゼリフ「アイル・ビー・バック」なんて無理やり挿入した感が半端ないですし。また、妙にコメディ要素を突っ込んでくるのもものすごく違和感ありました。結論。『ターミネーター』シリーズの最新作としてはもちろんのこと、普通のSFアクションとして見てもかなりレベルの低い作品でありました。 [DVD(字幕)] 4点(2019-09-24 20:51:55) |
636. 白い肌の異常な夜
《ネタバレ》 南北戦争時代、まるで桃源郷のような女学園へと迷い込んだ北軍兵士の男のそのハーレム生活と破滅を濃厚に描いたサスペンス・ドラマ。ソフィア・コッポラのリメイク版がなかなか良かったので、オリジナルである本作もこの度鑑賞してみました。いやー、噂に違わぬ変な映画でしたね、これ。12歳のいたいけな少女から年増の園長先生まで、まさに男の妄想全開のハーレム状態。え、これって原作はフランス書院か何かですか(笑)。というか、主人公はじめ登場人物全員がおかしな行動を取り続けるので、最後まで居心地が悪いったらありゃしない。特に脚を切り落とすシーンなんて、「え、なんでそーなるの?」って感じでした。そして目覚めた男は居直って堂々の「お前ら全員俺の女だ。いつでも好きな時に抱く」宣言。なんでやねん!挙句、最後は何故かみんな仲直りして一緒にディナー……と思ったら、12歳の女の子による毒キノコであえなく昇天。おのれのキノコのツケはキノコで清算ってことですか…。いったいコレ、ほんとに何を描きたかったんでしょうね(笑)。ソフィア・コッポラのリメイク版は、女性たち目線でストーリーを語り直すことによって全く不自然さを感じさせなかったのはさすがでした。若かりし日のクリント・イーストウッドが何故か出ているこの珍品、興味のある方はぜひどうぞ。 [DVD(字幕)] 7点(2019-09-22 23:10:56)(良:1票) |
637. 死の谷間
《ネタバレ》 核戦争後の荒廃した近未来。数少ない生存者である若い女性アンは、唯一核汚染を免れた小さな谷間で独りぼっちで暮らしていた。大自然に囲まれ、心の拠り所は父が遺していった小さな教会で毎日神に祈りを捧げること。今日も彼女はたった一人、一匹の老犬とともに誰も居ないコンビニから生きてゆくための食糧を調達してくる。そんなある日、唐突にその狭い谷間に防護服を着た黒人の男がやってくる――。誰も居ない世界で孤独に押し潰されそうになりながら暮らしていたアンは、久しぶりに交わす人との会話に喜びを隠せない。彼と一緒に暮らすことになったアンは、自然と心を許してゆくのだった。次第に惹かれ合っていく二人。だが、そこに新たに白人の若い男がやって来たことで、彼らの関係は微妙に壊れ始めてゆく……。絶望的なディストピア世界で揺れ動く男女の心の機微を淡々と描いた心理ドラマ。なんですけど、見事なまでにつまんない作品でしたね、これ。予算の関係なのか、ディストピア映画なのに、こんなに終末感のない映画も珍しい。なんか近場のキャンプ場で撮ったんじゃないかってくらい未来描写が皆無でした。当然ずっと山の中で物語が進行してゆくわけですが、これがただでさえ絵面が変わらないのに、肝心の物語がまあつまんないせいで最後まで観るのが苦痛で仕方なかったです。人類の危機なのに、やってることは終始まどるっこしい三角関係で深みも何もあったものではありません。また、信仰心に篤いヒロイン役をやったマーゴット・ロビーも全然役柄に合っておらずミスキャストもいいところ。最後のオチにいたっては、「こうやって思わせ振りのまま終わらせたら芸術っぽくなるんでしょ」という監督の浅はかな狙いが透けて見えて、もう腹立ってきましたわ。いやー、久しぶりにこんなつまらない映画を観てしまいました。 [DVD(字幕)] 2点(2019-09-20 20:36:00) |
638. ローガン・ラッキー
《ネタバレ》 家族全員が何らかの不幸を抱え込んでいる、自称・呪われた家族、ローガン一家。そんな自らの呪われた人生に一発逆転を図るため、レース会場の地下に隠された金庫の強奪を計画したローガン家の兄弟と彼らの仲間たちの活躍をサスペンスフルに描いたクライム・アクション。監督はこの手の分野を得意とする、『オーシャンズ11』などで有名なスティーブン・ソダーバーグ。主演はチャニング・テイタムをはじめとした若手陣に加え、ダニエル・グレイグやヒラリー・スワンクといったベテランが脇を固めております。まあ事前の予想通りの超ベタベタな内容ではありましたけれど、エンタメ映画としてのツボは押さえられていたので僕はぼちぼち楽しめました。脚本は突っ込みどころ満載ですが、華のある役者たちと終始流れるノリのいい音楽、サクサク進むストーリー展開のおかげで最後までストレスなく観ることが出来ます。まあ三日後には完全に内容を忘れてしまいそうな作品ではありますけど、ヒマつぶしで観る分にはちょうどいいんじゃないですかね。 [DVD(字幕)] 6点(2019-09-15 22:59:47) |
639. ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ
《ネタバレ》 パキスタンからアメリカへと渡ってきた移民の青年、クメイル。故郷とは何もかも違うこの自由な地でコメディアンを志した彼は、シカゴの小劇場で地道な下積み生活を続けていた。そんなある日、いつものように舞台で故郷のパキスタンを揶揄するようなネタを披露していたクメイルに、客席から若い女性が野次を飛ばしてくる。その場は軽くやり過ごしたものの、動揺を隠せないクメイルは舞台の後に彼女に文句を言いに行くのだった。彼女の名は、エミリー。成り行きで何故か一緒に酒を飲むことになった彼らは予想外に意気投合し、そのままクメイルの家で一線を越えてしまう――。一夜限りの関係で終わるはずだった。だが、クメイルはその後、何度も彼女と会い、数か月後にはすっかり彼氏彼女の関係になってしまっていた。そろそろお互いの家族に紹介するタイミング。でもクメイルには一つの悩みの種があった。彼の家族は皆敬虔なイスラム教徒で白人のアメリカ人など到底認めてもらえないだろうということ。そのことが原因で次第にギクシャクしていく二人。そんな折、エミリーが原因不明の謎の難病を発症し昏睡状態へと陥ってしまう…。文化の違いを乗り越えて愛を育もうとする若い恋人たちを襲った突然の悲劇を、実話を基にして描いたラブ・ストーリー。自らの体験を本人自らが演じていることでも話題となった本作、アカデミー脚本賞ノミネートということで今回鑑賞してみました。うーん、正直僕の好みとは合わない作風でしたね、これ。この重たいテーマを最後まで軽くライトに描くという狙いはいいと思うのですが、なんだか物語のテーマがいまいち絞り切れていない印象。難病に犯されてしまった彼女との関係を深く見つめ直す青年の恋物語とパキスタンとアメリカの文化の違いに自我を引き裂かれていく青年の自立の物語が最後までうまく絡み合っていないように感じました。その証拠に、クメイルの家族とエミリーが顔を合わせることは最後までほとんどありません。この両者の葛藤を描いてこそ、このテーマはより活きてくるように思うのですが。本人が自ら演じていることもあり、なんだか終わってみれば結婚式のよくある新郎新婦の馴れ初め再現映像ロング・バージョンのように思ってしまいました。ただ、エミリーの両親を演じたベテラン勢二人はなかなかのいい仕事ぶり。最後まで興味を失わずに観られたのは、この二人の魅力によるところが大きい。 [DVD(字幕)] 5点(2019-09-14 23:51:04) |
640. アンダー・ハー・マウス
《ネタバレ》 屈強な男たちに囲まれ大工として働くダラスは、心と身体の性が一致しないいわゆるトランス・ジェンダー。昼間は大工として力仕事に従事し、夜は女性専門のバーでその日の相手を物色するという刹那的な生き方をしているダラス。その夜、いつものようにバーへと出向いた彼女はその人に出会ってしまうのだった――。雑誌の編集者としてバリバリと働く彼女の名は、ジャスミン。一目見た瞬間から互いに惹かれ合ってゆく二人。だが、ジャスミンにはもうすぐ結婚する婚約者がいた。彼が遠方へと出張する数日の間に、二人は秘密の逢瀬を重ね、次第に愛欲の海へと溺れていく。お互いに期間限定の恋だと分かっているはずだった。だが、ダラスとジャスミンの関係はどんどんと深みに嵌まってゆき、やがて悲劇が彼女たちを襲う……。女同士の燃えるような情熱的な愛を濃密な夜の空気の中に描き出すラブ・ストーリー。映像はとてもキレイだし、全編を覆う退廃的な雰囲気も味があって良かったと思います。何よりダラス役をやった女性の男前ぶりが半端ない!本職はモデルらしいですけど、いやー、彼女を見ているだけで目の保養になりますね。ただ、お話として単純すぎるのが本作の弱点。女と女が出会ってやりまくって、それが婚約者にバレていったん別れたものの、やはり最後は困難を乗り越えて縒りを戻しましたってだけでは、さすがに一本の映画としてちょっと弱すぎます。軸となるエピソードがもう一つか二つ、欲しかったですね。ストーリーがこれだけ単純だと、必然的に二人の性描写が増えるわけですけど、これもちょっとしつこい。最初は官能的で情感に溢れたいいシーンだなぁとほれぼれしながら観ていたのですが、ここまで全編に渡ってやられるとちょっとしんどいですわ。同じく女性同士の官能的な愛を描いた傑作『キャロル』は、その部分が抑制が効いていて非常にバランスが良かったことを再認識してしまいました。うーん、なんだか全体的にあと一歩足りない印象。この退廃的でジャジーな雰囲気は良かっただけに惜しい。あと、これは映画本編と関係がないのですが、日本の配給会社さん、ちょっと画面にぼかし入れすぎです!別にこれはエロを目的としたAVじゃないんですから。 [DVD(字幕)] 6点(2019-09-10 02:08:00) |