821. -less [レス]
《ネタバレ》 (ネタバレあります。未見の方はご注意願います) 本作の出来事を読み解くヒントは“父親のメモ”にありました。クラッシュした車の傍に落ちていた紙片は、紛れもなく夢の中で父親が書いたもの。偶然の一致とは考え難いです。すなわち、あの家族には死ぬ前に“ロスタイム”が与えられたと確認出来ます。体感は数時間、実時間は僅か数秒。死亡確定までの猶予時間内に起きた劇的逆転ゴールは、主人公の生還でした。つまり、“車から放り出されて助かったから主人公はあのような夢をみた”ではなく“女性に席を譲り、車を降りたから死なずに済んだ”と推測します。それでは、クラシックカーの所有者であり、事故の第一発見者とは一体何者でしょうか。車、服装、髪の毛、全身黒尽くめ。“死神”と判断するのがしっくり来ます。死神運転の黒塗りのクラシックカーに乗せられて、魂はあの世に逝く。乗り込んだ順は、婚約者、弟、母、父。“罪の軽い者から順番に”悪夢から救われたとも言えます。クラシックカーに乗り込んでしまったら最期ですから、女医もあの世に連れ去られたのでしょう。死ぬはずだった主人公の身代わりとして。さて疑問なのは、何故主人公ファミリーにロスタイムが与えられたのかということ。裏付け無しの想像ですが、彼女が子供を身籠っていた事が関係している気がします。事故で得られる魂の予定数は7人分。ところが主人公のお腹には8人目の魂が。棚ぼた的に8人分の魂を頂戴するのは、死神の流儀として躊躇するところではないかと。彼女はお腹の子に命を救われた気がします……。構成はトリッキーながら難解ではなく、余韻も十分。ただ、アイデア勝負の作品である点は否めず、類似作品を観賞済みの場合評点が下がってしまうのは致し方ないかもしれません。 [DVD(吹替)] 6点(2014-08-06 18:58:11) |
822. ガッチャマン
《ネタバレ》 近年、かつての人気TVアニメを原作とする実写映画が数多く製作されましたが、そのほとんどがファンを満足させる出来ではなかったと感じています。キャスティングの不具合、世界観の構築誤り、無用なアレンジ……不満は様々あれど、結局のところ観客の“思い入れ”に勝てなかった事が全てでした。そこで本作。『ガッチャマン』と言えば、タツノコプロを代表するビッグタイトル。当時確かに大人気でした(かく言う私も二代目ゴッドフェニックスが宝物でした)。しかし私自身、“思い入れ”や“コダワリ”の類は一切持ち合わせていません。それもそのはず。ファーストシリーズ放映年が誕生年。続編放映時が幼稚園ですから。メンバー全員ピチTじゃなきゃ駄目とか、コンドルのジョーはケツあご以外認めないなんて言いません。幼き日の私にとって『ガッチャマン』とは勧善懲悪型のアクションヒーロー。単純なものです。おそらく私を含めたオリジナル直撃世代”以外”の認識はその程度でしょう。ノスタルジー不在。そのような観客をメインターゲットとするならば、オリジナルの特性(重厚なテーマやドラマ性)をバランスよく取り入れた本作の方針は、いささかセールスポイントの焦点がぼやけるものだった気がします。つまり娯楽映画の”大正義”=“アクション”に特化するのが正解だったのではないかと。プロローグで披露したスピード感溢れる立体的なアクションで終始押し切れば良かったと思うのです。目指すは和製『スパイダーマン』。縦横無尽に躍動する科学忍者隊の活躍をお腹いっぱい観たかったです。もし次回作があるならば、ゴッドフェニックスは鳥型でお願いします(あっコレはコダワリですね笑)。 [DVD(邦画)] 5点(2014-08-03 20:57:52) |
823. アックス・ジャイアント
《ネタバレ》 「それ、普通丸焼きにする?」「全然ジャイアントじゃねえし」「何故わざわざそっちへ逃げるかなあ」「鹿ちゃん可愛過ぎ!」「さすが犯罪者、超理論ですなあ」「おっさん、懐中電灯無しで来たんかい」「おっぱい小っちゃ!」「そのサイズの斧とズボンは何処でお買い求めで?」「教官、ビショップ(エイリアン2)より元気だすなあ」「車のエンジンをかけようとして失敗する件、要る?」「マリオのスーパーキノコでも食べましたか?」「カウンセリングおばさんマジ使えねえ」「今、眼に弾当たったよね?」「棒切れを投げつける事に何の意味が?」「ままま麻酔銃?!」「そんな事したら、そりゃ撃たれるわな」「時速30㎞くらいですやん。もはや徐行ですやん」「完全にライフルの弾、打ち返しちゃってますよね」「それで急いでるなら、お前免許返した方がいいわ。っていうか、飲酒運転するような奴が運転すんなや」「神出鬼没の大巨人」「おお、謎のすり抜け」「そっちは一番逃げたらダメな方ですよね」「民間人がマシンガンか…」「銃で一斉掃射とか、詫びも寂びもあったもんじゃねえな」「なんかちょっと可哀相だし」「エンディングソングの歌詞、まんまやん!」「“この映画の製作にあたり危害を受けた動物はいません。この映画はフィクションです。登場する人物、事件、団体及びプログラムは架空のものです。”でしょうね。っていうか、それわざわざ訳して字幕に入れる必要ある?」「“バニヤンは戻ってくる”うそ~ん」実際に数えてみたところ、私は28か所ツッコミを入れました。さあ、あなたは幾つ、ツッこめるかな? [DVD(吹替)] 2点(2014-07-30 19:25:22) |
824. アブダクティ
《ネタバレ》 タイトルでピンと来る人5%、監督の名前で勘づく人5%。結末を予測出来た人は、せいぜい全観賞者の10%程度のものと思われます。それくらい本作のオチはブッ飛んでいました。テーマは「週刊連載漫画」に対する批判と見て取れます。主人公は元少年誌の漫画家という設定。彼の作品も打ち切りの憂き目にあった様子。バトルトーナメントが始また翌々週に連載中止になったり、次から次へと強敵が現れてパワーバランスがインフレを起こしたり、漫画業界(とりわけ週刊少年漫画)は何でもアリの無法地帯です。柔道家だった主人公がいつの間にか甲子園で優勝したりもします。こんな無茶苦茶な展開で読者(観客)は納得できますか?!というメッセージと受け取りました。人気が出なくて打ち切りも、人気があり過ぎて延命も、どちらも作品にとっては不幸なことです。急激な方針転換も然り。しかしそれは商業作品の逃れられぬ宿命ですし、ある種の自由さが作品の魅力とも言えます。結局面白ければ何でもいいんです。ですから、本作のオチについても面白ければ文句は言いません。でも、どうなんでしょう。この結末はワクワクしますか?もし謎解きミステリーでトリックが超能力だったりしたら、自分なら怒り狂っちゃいますけれども。 [DVD(邦画)] 5点(2014-07-28 19:27:03) |
825. 借りぐらしのアリエッティ
《ネタバレ》 「借りぐらし」は屁理屈です。所有者の了承を得ず、返すあてもなく持ち去る事を“借りる”とは言いません。家政婦の婆さんの言う通り「泥棒」あるいは「寄生」が正しいでしょう。しかしそう指摘されても、アリエッティは「借りている」と主張する気がします。それが小人族のプライド。人間と同程度の知能や文化を有しながら“日蔭者”として生きざるを得ない種の宿命に、同情の余地はあります。ただし、アリエッティ家族の生き方に共感は出来ませんでした。もし、人間に見つからなかったら、彼らはあの家に居続けたのでしょうか。そんな馬鹿な。快適な“今の暮らし”と引き換えに、“娘の未来”を閉ざしている現状は深刻です。父と母が認識しているよりずっと。だからこそ監督は、小人に友好的な少年を使って「滅びゆく種族」という刺激的な台詞を吐かせ、警鐘を鳴らしたのだと考えます(苦言を呈してくれる人は味方です)。人は人と繋がって生きていく、社会をつくらなければならない。そんなメッセージが隠されていたと感じました(宮崎駿らしい脚本とも言えます)。さらにこの言葉は、小人たちだけでなく“生産的な生き方を選択していない人々”に向けられているのかもしれません。ところで、アリエッティ一家は(今度は海の見える?)新居に無事辿りつけたのでしょうか。そして小人族の行く末に希望はあるのでしょうか。答えは…「分からない」。だから尻切れトンボのような結末なのです。其処には監督の優しさと厳しさが在りました。人間に依存した小人族伝統の「借りぐらし」を続けるのか、あるいはスピラーのように逞しく「狩りぐらし」を選択するのか。種としてのターニングポイントに、彼らは居る気がします。体裁はファミリー向けファンタジーアドベンチャー。その娯楽性の高さは流石ジブリ作品。ただし内包されたテーマは深いです。 [地上波(邦画)] 7点(2014-07-24 18:55:11)(良:3票) |
826. R100
《ネタバレ》 齢百の映画監督が撮り上げた“本作”は、タイトル通りR100(=100歳未満視聴禁止)とのこと(100歳未満は観ても理解出来ないとも)。さらに監督は試写会で困惑する関係者を尻目に、恍惚の表情を浮かべていました(劇中の主役・大森南朋と同じ性癖と推測されます)。つまり①誰にもこの映画は観て欲しくない(批評して欲しくない)。②もし批判されてもマゾヒストにとってはご褒美ですよ、ということ。鉄壁の映画批評拒否姿勢です。それはもう清々しいくらい。こうなると評論家は困るでしょう。批評を拒絶している映画に高評価は与えたくないのが人情ですし、かといって低評価を付けるのも監督の注文通りのようで腹立たしい。こんな時、ただの映画好き素人は気が楽です。評論ではなく、単なる感想ですから。以下、素人の毒にも薬にもならない独り言……。本作で採用されている演出技法で印象的なのは「巻き戻し・繰り返し」。渡辺直美の唾プレイや、ダイナマイトCEOのプール飛び込み場面などで多用されています。映画というより、テレビバラエティの演出技法(BGMはマンボのリズムがお馴染みですね)。それゆえ真っ当な映画監督は(そのプライドから)使いたがらない手法ではないでしょうか。監督はそれを見越して、あえて使用している気がするのです。それでいて、ちゃんと面白いのが流石でした(巨躯CEOの膝から入水するフォルムが抜群!)。個人的には、大森のエンドルフィン放出時の顔がキマグレン(又は波岡一喜)ソックリでツボでした(笑)。映画文化自体に喧嘩を売るノリ、関係者及びファンからは総スカンを食らって当然でしょう。一文の得にもならない無駄な喧嘩。私は天邪鬼ゆえ支持させていただきます。今までの松本作品の中で、最も“もう一度観直してみたい”と思える魅力があったのは間違いありません。 [DVD(邦画)] 7点(2014-07-21 20:26:52) |
827. トーク・トゥ・ザ・デッド
《ネタバレ》 『リング』の“呪いのビデオテープ”から始まったオカルト近代テクノロジーシリーズは、『着信アリ』の携帯電話を経由して、スマートフォンのアプリにまで辿り付きました。本作の趣向は“死者と話ができる”というもの。言わばリアルイタコシステム。実はコレあまり危険ではないのです。普通に会話を楽しんでOK。上手く使えば生きる活力にさえなります。死者の方から不意に電話がかかってくる心配もありません。注意点は「会いたい」と言われても断ること。この1点のみ。ですからホラーとしては全然怖くないのです。劇中、何人かこのアプリが原因で命を落としていますが、呪い殺されたというより覚悟の自殺(ラストの一人を除く)。死者と話したいと望む時点で、多かれ少なかれ病んでいる訳ですから。それにしても本作のタイトルは悪質です。絶対ゾンビ映画だと勘違いする人がいるでしょうに。タイトルは『霊界通信』とか『もうイタコは要らない』でいいんじゃないでしょうか。猛烈にダサイですが。 [DVD(邦画)] 5点(2014-07-18 19:28:42) |
828. 不安の種
《ネタバレ》 頭と心をフル活用する濃厚なドラマは勿論大好物ですが、そんな映画ばかりでも困ります。3食ステーキは御免です。箸休めが欲しいとき(なんて言いつつ、箸を休めている時間の方が長いですが笑)、私の定番チョイスと言えば邦画ホラー。お手軽、お気軽なB級映画をツッコミながらのリフレッシュが希望。ところが当てが外れました。まさかこれほど難解とは。思わず2回観る羽目に。それでは、稚拙ながら私の解釈を。見当違いはご容赦ください……。時間軸が弄られている事、また可能性や幻想が映像情報として提供されているため、そもそも混乱し易い構成と考えます。中でも、須賀が津田を手にかけた瞬間には面喰いました。彼が10年前の殺人犯?まさかタイムワープ??でもあれは単に須賀の悪夢と考えるのが妥当でしょう(爪で別人と判断)。須賀が本当に殺したのは、おそらく妻と息子。だからラスト、2人は揃って藁人間に変わっていた訳です。この町に巣食う異形の者(すなわち藁人間、ハンマー女、マスク男、半身人間、そしてオチョナンさん)は、全て死者が変化した物の怪と解すると腑に落ちます。行方不明となっている洋子の兄はオチョナンさんに、母親は腕を失くしたハンマー女に変化。マスク男は津田パパ?そこで、ふと気づきました。怪事件の中心に、いつも“ある女性”が居たことに。実はそのヒントも数多く出されていました。シュールな看板『フランス語』が指示すのは、ファミレスの店名『Moncheri』=私の愛しい貴方。思い起こせば惨劇の餌食にあったのは、特定の“ある女性”が愛する人が中心。さらに“ある女性”は、死期が近い人が分かるとも口にしていました。それはそうでしょう。当人が邪気の塊。近づく者は命を落としかねません。オチョナンさんを引き寄せる三つ目シールを貼っていたのも彼女の仕業かもしれません。さらに踏み込むなら、一家惨殺の唯一の生き残りが真犯人なんてことも。謎の目玉は、死者の魂。あの世に辿り付けなかった魂は、物の怪に変化したのでしょうか……。黒沢清監督の『回路』の衝撃には及びませんが、久々に難解系オカルトホラーの当たりを引き当てた感じ。裏読みをするのがお好きな方には、オススメ出来るかと思います。 [DVD(邦画)] 7点(2014-07-15 18:57:16)(良:1票) |
829. ワールド・ウォー Z
《ネタバレ》 ゾンビ業界の2大潮流といえば、スローな動きとハト並みの知性が味わい深い『オールドタイプ』と、俊敏な動きで人間を襲いまくる“走るソンビ”『ニュージェネレーション』。本作のゾンビは後者のタイプでした。それも運動機能だけなら業界屈指。さらに集団時には無類の突破力を発揮します。最強最悪クラスのゾンビです。このようなゾンビを相手にした場合、一市民では太刀打ちできる要素がありません。国連の元調査員の立場で、ゾンビ攻略の最前線を描いたのは正解だったと思います。また物語の着地点も、ゾンビ現象の根本治療ではなく、ゾンビ対抗方策とした点も意外性があり良かったと思います。ゾンビウィルスに対して“偽装する”という科学的な理由づけも納得できました。ただ、惜しむらくは、特効薬発見の過程をお手軽に処理してしまった事。細菌学者のヒントと、ごく僅かな例外を目にしただけで、主人公が画期的なゾンビ対抗策を思いついてしまうあたり、“ご都合主義”と批判されても仕方がないかと(私は髪の毛を剃れば襲われないのかと思いましたよ笑)。もう少し試行錯誤してくれた方が、リアリティが出たと思います。主人公が大切な家族を誰一人失わずに済んだのは、ゾンビ映画としては破格のハッピーエンド。たまには、こんな結末もいいものです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-07-12 21:28:49) |
830. アナと雪の女王
《ネタバレ》 本作のアイコンであり、記録的大ヒットの最大要因『Let It Go』。私は日本語吹き替え版で観賞しましたが、歌と映像は文句なく素晴らしいです。ただし、劇中に組み込まれてみると、物語前後の繋がりがぎこちないと感じました。会話劇からミュージカルへの転調に対する違和感ではなく、単純に脚本の流れに沿っていない気がするのです。自己肯定を高らかに歌い上げたエルサが、アナの訪問を頑なに拒むのは不自然ではないかと。極論かもしれませんが、私は『Let It Go』は全カットで良かったと思います(氷の城建造過程は観客の想像力を信用して問題ありません)。あるいは大団円のエンディングにこそ相応しいと思いました。エルサの能力はコントロール出来れば、巨万の富を得られる超パワー。築き上げるなら氷の城ではなく、冷凍食品製造工場でしょう。急速冷凍の高品質品。バカ売れ確実。「(懐は)少しも寒くないわ」ってね。失礼。おフザケが過ぎました。が、半分は本気です。「愛は氷を溶かす」は正しいですが、「愛ゆえに凍りつく」もまた真実。事実、エルサは親の利己的な愛に囚われました。彼女がどのような心理過程を経て、自己解放に辿りついたかを描く事が重要だった気がします。サントラCDを売るためのミュージックビデオとしてなら満点で間違いありません。(以下余談)今回は長女(小学3年生)と二女(保育園年長)を連れての劇場観賞(クレヨンしんちゃん逆襲のロボ父ちゃんの感想でも触れましたが、日頃の罪滅ぼし)。ちなみに点数を聞いたところ、二女は10点、長女は9点でした。お父さんはちょっとひねくれているので7点です。 [映画館(吹替)] 7点(2014-07-09 19:29:38)(笑:1票) (良:1票) |
831. くそガキの告白
《ネタバレ》 「キングオブコメディが痴漢で捕まった」衝撃のニュースが飛び込んできた時、大多数の人がブサイク顔の今野を思い浮かべたはずです(注:逮捕されたのは高橋の方。後に冤罪確定。本人の名誉のため念を押しておきます)。この件に限らずとも、見た目で不利益を被ってしまうのがブ男です。明らかなハンディキャップ。馬場のように負のスパイラルに陥ってしまう人間は、現実に掃いて捨てる程いるでしょう。そんな男にだって夢はありました。映画監督デビュー。しかし彼は映画研究会に所属していたにも関わらず、自主映画を一本も撮っていないのです。同窓会で「撮りたい映画なんて無いんだろ」と指摘され、激怒したのは図星だから。いや本人に自覚はないのかもしれません。都合の悪い現実には目を瞑る方針ですから。馬場は正真正銘の駄目人間でした。そんな彼に訪れた転機は、新人女優への密かな恋心。恋は人を変えるのに、十分な理由と成り得ます。しかし、悲しいかな彼女には意中の人が。戦う前から玉砕し、彼は逆ギレという大失態を犯します(好きな娘にビッチと罵るなんて超ド級の馬鹿者です)。さあ、ここからの人生の逆転劇はあるのでしょうか。答えは否。“馬鹿は死ななきゃ治らない”だから彼は一度死んだのです。生まれ変わった主人公は、遂に人生初の監督作品を創り上げました。でもプロデューサーの発注からは、かけ離れた代物。イケメン監督処女作の模倣品。馬鹿は死んでもやっぱり馬鹿なんですね。でも女優の素敵な表情を引き出したのは、監督の手柄でしょう。主演女優よりも大きくクレジットされた「監督馬場大輔」の文字は誇りの表れ。恋が成就した訳ではありませんが(彼女は女優として監督の要望に応えただけ)、これを切欠にコイツは変われるかもしれない。いや多分変わらない。でも、ひょっとしたら…。細やかな希望ですが無いよりはマシ。やっと手に入れた僅かな自信を携えて、くそガキよ、早く大人になりやがれ!!脚本の出来だけなら6点くらい。でも本作には、大きな大きなアドバンテージがありました。それはヒロイン接吻後の表情。あんなに美しい、そして魅力的な田代さやかを見たことがありません。全盛期のオードリー・ヘップバーンにも負けていません。いやマジで。たったワンカットが持つ破壊力。恐れ入りました。田代さやかファンなら、彼女のイメージDVDを全て売り払ってでも、本作のDVDを手にいれるべきだと思います。 [DVD(邦画)] 8点(2014-07-06 21:41:59)(良:2票) |
832. 鷹の爪GO 美しきエリエール消臭プラス
小島よしおの「そんなの関係ねえ!」を初めて観た時の衝撃は忘れられません。それはもう笑い転げました。長州小力も面白かったですねえ。でも綺麗にブラウン管(いや液晶画面かな)から消えてしまいました。『THE MOVIE3』の感想でも触れましたが、笑いの本質は瞬発力。短命なのは運命です。毎度お馴染みの定番ギャグを繰り返していては、飽きられてしまうのは必然。しかしその一方、長い歳月愛され続ける名作コメディも存在します。それは優れたメッセージと豊かな物語性を有したもの。本作は即時的なギャグ映画から普遍性を有するコメディへの移行を図ったターニングポイントと考えます。定番の味(バジェットゲージ、無闇に高品質なCGなど)を堅持しつつ、シリーズ随一の良脚本を用意。エンディングもお洒落に凝ったチャレンジ作品。例えるなら“突き押し相撲”から“四つ相撲”へのスタイル変更でしょうか。相撲の本道は突き押しですが、硬軟対応できる組み相撲の方が力士の寿命は長かったりします。無難な方向へ舵を切った事に一抹の寂しさを感じるのは事実です。しかし、弱肉強食のエンターテイメント業界で生き残るには、手段を選んでいる暇はありません。大切なのは、総統や吉田くん、菩薩峠にフィリップ、デラックスファイター、大家のおばちゃんら愛すべきキャラクターたちが生き残ること。私は本作を支持したいです(ただし、今や国営放送でレギュラーを持ち、すっかり大金持ちになったFROGMANが札束風呂に入っていたら、ちょっと考えなおしますが笑)。この際ですから、『男はつらいよ』を目指してみては如何でしょう(タイトル的には007ですが)。悪フザけのフラッシュアニメがギネスに名を刻むなんて痛快でしょ。点数は少しオマケしておきます。 [DVD(邦画)] 8点(2014-07-03 18:59:03) |
833. ファンタスティック Mr.FOX
《ネタバレ》 キツネ父さんの主義主張は明快です。野生動物らしく生きたいということ。本能に従い、家畜は襲わせてもらいますし、欲しいモノがあれば勝手に頂戴しますよと。元来、そういうナチュラル派人生観の持ち主です。ところが家庭を持つとなると、少々話はややこしくなります。妻子を養う事が人生の最優先課題に変わります。信念に対して妥協を余儀なくされることも。その結果が新聞記者というワケ。でも血は抑えられぬもの。再び、主人公は野生動物の生き方を選択しました。これはもう生き様の問題。本来、他人がとやかく口を挟める問題ではありませんが、巻き込まれる方はたまったもんじゃありません。それでも所属するコミュニティ(野生動物業界、そして家族)から彼が排除されないのは、人徳(狐徳?)の成せる業でしょうか。おそらくキツネ父さんが理想とする野生動物の在り方とは、幻のオオカミを指すのでしょう。大自然の中で、何ものにも囚われず、自由に生きる。それと比べるとシガラミが多く、また人間文化に染まった彼のライフスタイルは、野生動物の美学に欠けるかもしれません。ただし、環境順化を拒否したが故にオオカミは絶滅に瀕したとも言えます。環境に適応しながら、かつ己が信じる生き方を貫き、そして見事に家族を守り切ったキツネ父さんは、まさしくファンタスティックな男という気がします。ただし、私なら妥協しまくってでも、家族を守る道を選びますけれども。『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』ほどアーティスティックではなく、『ウォレスとグルミット』ほどアクションが切れるワケでもない、何処となく垢抜けない印象のクレーアニメ。しかし、それでも信頼のウェス・アンダーソン印。私にとってはお気に入りの一作になりました。 [DVD(吹替)] 8点(2014-06-30 19:58:05) |
834. 恐怖ノ黒洋館
《ネタバレ》 マトリックスの世界ではありませんが、“真実など本当のところは誰にも分からない”というのが真理だという気がします。知覚は単なる脳内信号。狂信者には本当に神の姿が見えるのでしょうし、逆に無神論者にしてみれば神が其処に居たとしても目に映らないのではないかと。女神像が突如現れた現象について、電話先の女性が主人公に話していた説明のとおりです(現実のトンネル)。「死者との会話」で催眠状態に陥った男は、狂信者だった母にとっての“真実”を垣間見た。しかし、結局彼は彼の望む“真実”を選んだと。怪物は存在していたとするのも正解。存在していないと結論づけるのも正解。こんな解釈のお話だと思いました。登場人物は、主人公のみ。舞台は、洋館の中のみ。極めて閉鎖的な空間内で進む物語は、オカルトホラーの雰囲気満点です。ただ恐怖描写は実に控えめのアッサリテイスト。個人的にはガッツリこってり怖がらせて頂く方が好みです。さて最後に邦題について。本サイトでも好評価の『恐怖ノ黒電話』にあやかったシリーズ邦題なのは間違いないでしょう(セガールの沈黙シリーズと一緒ですね)。驚くべきは、『恐怖ノ』ではなく『恐怖ノ黒』までをデフォルトとしている点です。だって本作の洋館は全然黒くないんですもの。にもかかわらず無視して黒洋館とは。配給会社も無茶しますな。ちなみにこのシリーズ邦題をかの名作ホラーに当てはめてみるとこんな感じ。『チャイルドプレイ』=『恐怖ノ黒人形』、『エルム街の悪夢』=『恐怖ノ黒ボーダー』、『悪魔のいけにえ』=『恐怖ノ黒エプロン』。こんな邦題なら、絶対ヒットしなかったでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-06-27 18:58:03)(良:1票) |
835. プレステージ(2006)
《ネタバレ》 張り巡らされた伏線が次々と回収されていく終盤の快感はまさに絶品。印象的なシーン(潰された鳥、無数のシルクハット、そしてボーデンの台詞の数々等)が脳裏にフラッシュバックされます。はたと膝を打つ感覚が堪りません。“プレステージ(偉業)”、その一瞬の為に“多大な犠牲を払う”主役2人の生き方の対比がドラマのメインストリームでした。ヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベイルが濃厚な人物像を見事に体現してくれています。唐突なSF設定があまりに荒唐無稽ゆえ、拒否反応を示す向きもあるようですが、よく考えれば本作は奇術師の映画。マジックのタネにケチをつけるのは粋ではない気がします。例の流行の映画ではありませんが、“ありのままに”受け入れるのが正しい鑑賞姿勢かと。所謂『難解』映画とは一線を画しますが、解釈に幅があり、かつ奥行が感じられるのが素晴らしいところ。思う存分物語の“裏側”を推理推測して愉しんでください。その中でも最重要ポイントと思しきものは次のとおり。ステラが発明した“瞬間移動マシン”の隠された効用に最初に気づき、実用化したのは一体誰だったのでしょうか? [CS・衛星(字幕)] 9点(2014-06-24 18:57:23) |
836. アフターショック
《ネタバレ》 バイオレンス・サバイバル・ホラーと言えば、『マッドマックス2』や『ザ・ロード』など文明崩壊後の近未来が定番です。ところが、本作では現代劇ながら巨大地震を使って即席の終末世界を創り上げました。パラダイスから急転直下、登場人物と観客は脱獄囚蠢く地獄の一丁目に放り込まれます。天災と人災のダブルパンチ。では、どのように行動するのがベストだったのでしょうか?結果論的に検証するならば、とにかく高台に逃げるべきでした。囚人相手なら戦って生き残る可能性がありますが、津波に飲みこまれたらノーチャンスですから。しかしこの選択は現実的には無理な話。来ないかもしれない津波より、まずは目の前の危機回避が優先。しかも囚人たちは銃で武装していました。逃げるより他に道は無かったでしょう。そして何より問題だったのは、主人公たちが腹を括れなかったこと。例えば仲間が壁の下敷きになった場面。“見殺しにして逃げる”のも正解、“囚人を全力で迎え撃つ”のも正解だったと思います。でも彼らが選択した“ジャッキを探しに行く”は一分一秒を争う状況下では有効な打開策とは思えません。ほぼ現実逃避に近い悪手でした。中途半端な選択と決断の鈍さは、彼らがまだ自らが置かれた危機的状況を認識していない証。ここはもう法治国家ではなく、弱肉強食の無法地帯なのに。そういう意味では、ヒゲデブを撃ち抜いた地元民の母だけが、家族を守る信念に基づいた覚悟を示したと言えるでしょう。おそらく善良な市民は、誰ひとり生き残れない筋書き。その隙の無さはお見事ですが、救いの無さもまた一級品と言えるでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2014-06-21 19:57:48)(良:1票) |
837. 道化死てるぜ!
スリルを味わうホラー映画としての側面よりも、アイデア豊かな人体破壊・殺人技法を愛でるコメディ趣向の方が強い本作。それゆえ折角工夫を凝らした残虐描写が単に“悪趣味”としか感じられないのがツライところ。おフザけもいいですが、サスペンスとして一本筋を通すことでギャグが活きた気がします。それにしてもこの邦題、如何にも「してやったり!」という感じがプンプンします。配給会社宣伝担当者のドヤ顔が見えるようですね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2014-06-18 19:26:24)(良:1票) |
838. 天才マックスの世界
《ネタバレ》 『ライフ・アクアティック』を鑑賞し、ウェス・アンダーソン監督と手が合うことは分かっていたのですが、本作の出来は想像以上でした。これはもう傑作認定で問題ないかと。正直、私の貧困な文章力で魅力を伝えるのは無駄な足掻きだと理解しています。兎に角観て、感じていただく他ない、不思議な味わいです。それでも強いて喩えてみるなら、淡々とした語り口調が『心電図』を連想させました。一定のリズムを刻む物語に突如訪れる不整脈の波。それも結構なビッグウェーブ。マックスVSハーマンの親友対決では、単なる嫌がらせから刑事事件・家庭崩壊まで一気に修羅場の階段を駆け上がります。このスペクタクル!しかし直様、元のリズムに落ち着くのです。まるで何事もなかったかのよう。彼らは決して激情を見せないばかりか、人間関係も瓦解しないのです。何コレ?こんなのアリ?狸か狐に化かされているかのような感覚が堪りません。『ライフ~』にも共通しますが、土台にあるのは、大いなる“人間賛歌”。登場人物が皆愛おしいです。全員を抱きしめたくなる。いや本音をいうと、抱きしめて、ビンタして、また抱きしめたい。ときに滑稽で、ときに醜悪で、そして美しいのが人間です。彼らを観ていると、ダメな自分も許してもらえるような気がするのです。音楽は間違いなく一級品。音楽が素敵な映画に悪い映画はありません。というワケで満点を回避する理由が見当たらないです。困ったことに。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2014-06-15 18:29:08)(良:2票) |
839. サイレントヒル:リベレーション3D
《ネタバレ》 ゲーム原作らしいクエスト形式の物語と、襲い来る異形の住人たち。1作目は母が娘を、2作目は娘が父を、サイレントヒルから救出することを目的した点を除けば、2つの作品に違いらしい違いは見当たりません。ところがこの僅かな変化が物語の味わいに大きく影響していました。具体的に言うなら悲壮感の有無。1作目で最優先とされたのは“娘の命”。では2作目は“父の命”?いいえ、違います。2作目も1作目と変わらず娘の命が一番大事なのです。大切なものの安否が知れない状況と、逐一確認できる状況では、どちらが不安に駆られるかは言わずもがな。サスペンスの醍醐味という意味で、本作は1作目に遠く及ばないと感じます。 [DVD(吹替)] 5点(2014-06-12 19:26:59) |
840. ジャッジ・ドレッド(2012)
《ネタバレ》 銃弾に撃ち抜かれ飛散する頬肉、地面に激突して崩れる顔面。スローモーションを存分に活用し人体破壊の過程を丁寧に見せてくれます。ゴアのレベルは、下手なスプラッターホラーより数段過激かと。ただし荒廃した世界とは裏腹に、描写そのものは“綺麗”なのです。それこそ医療ドラマを彷彿とさせるような。またドラマ性は薄く、怨恨無縁。登場人物に感情が乗らないので、ショッキングシーンでも淡々と流せてしまうのだと思います。この感覚は初めてかも。それにしても主人公が一切素顔を晒さなかった点には驚きました。あれなら、「HEY!たくちゃん」のアゴ芸でも務まりますものね(失礼)。相棒役の彼女のビジュアルがすこぶる上玉で、まるでアドベンチャーシューティングゲームから抜け出たような。見惚れました。オリヴィア・サルビーですか。名前覚えておきます。スタローン版とは別モノなので比較する必要が無くて助かりました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2014-06-09 19:27:28) |