901. 不毛地帯
ひと昔前の日本映画の大作って、だいたい同じ役者陣が立場を替えながら演じている印象があります。まるで劇団一座の公演を見ているよう。今でもそうですが、人材不足なんですかね。 それはともかく、さすがに仲代達矢が主役を張ると落ち着いて見ていられます。原作の一部分のみ切り取ったような作品でしたが、なかなか重厚でした。政財官の裏工作を露悪的に描いていますが、なければないで「もとの濁りの田沼恋しき」になることは明らかなので、まあ必要悪でしょう。 ただし、残念なのは秋吉久美子が仲代にタンカを切るシーン。当時の一部のミーハー学生の間で流行した考え方だったのかもしれませんが、今から見ると浅薄かつ滑稽でしかありません。それをさも「正論」であるかのように語らせ、なおかつ誰よりも国防事情に詳しいはずの仲代にいっさい反論させず、ただひっぱたくだけで相手を黙らせるという、いかにも左翼的な解決手段にがっかり。「お里が知れる」とはこのことです。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2016-02-21 13:02:01) |
902. ひとひらの雪
いかにも渡辺淳一的な、大人によるしっとりエロの世界。執拗なまでにサービスシーンを満載してて、なかなかいい感じです。ストーリーは「どうせこうなるんだろうなあ」と思うとおりに進行していきますが、それで十分。エロい男とエロい女がいれば、それだけでドラマが生まれるんだなと。中高年男女ならではの切なさ、侘びしさがよく描けていたように思います。岸部一徳とか、池田満寿夫とか、ほとんど出てこない脇役もいい。しかし、「雪」の要素はどこにも出てこなかったような気が。あっさり溶けてなくなるってことですかね。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2016-02-13 12:55:47) |
903. スクープ・悪意の不在
こういうことは日常的にありそうです。現実の「スクープ」は、もっと悪意と私欲にまみれている気がしますが。P・ニューマンのように反撃に出る人も稀で、ほとんど泣き寝入りするしかないでしょう。そう思いつつ見ていたのですが、逆転劇にあまりカタルシスはなし。なんとなくまぁーるく収まったという感じ。ちょっと残念です。 余談ながら、S・フィールドといえばドラマ「ER」の中盤に登場した狂気の母親役が強く印象に残っています。本当に狂気の人なんじゃないかと心配になるほどでした。それだけ芸達者ということですが、若かりし頃はふつうの役も演じていたんですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-02-11 13:04:52) |
904. トキワ荘の青春
正直、驚きました。すばらしい素材と、有名な役者(当時はまだ無名だったかもしれませんが)が揃っているのに、どうしてこんなくだらない作品になってしまうのかと。暗くて貧乏くさいのは、それなりにリアルな表現なのでしょう。しかし、懐メロ風の曲をガンガン流したり、ときどきセピア色の写真を挿入したりするのは、いかにもわざとらしい。団塊世代あたりが泣いて喜ぶとでも思ったのでしょうか。 それに何より、登場人物たちの心情もキャラクターもまったく伝わってきません。中途半端な〝引き〟の映像ばかりで、しかも頻繁に〝暗転〟するので、メリハリというものがない。結局、見る側が実在する漫画家のイメージを重ねて補うしかないという感じです。これが「プロ」の仕事なんですかねぇ。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2016-02-06 21:27:46)(良:2票) |
905. ファントム・オブ・パラダイス
いろんな意味でグロテスク。それがこの監督の持ち味なのでしょう。あり得ない世界観ではありますが、ときどき妙にリアルだったりして惹き込まれました。ここまで〝庶民化〟され、足蹴にされるとは、本家オペラ座のファントムもさぞ驚いたんじゃないでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-02-04 16:31:31) |
906. フットルース
今さらながら初見。一編の映画からこれだけ多くのヒット曲が生まれるのは、あまり例がないんじゃないかと感心。特に「Almost Paradaice」は歌詞も含めて名曲だと思います。しかし、まさか「I Need A Hero」がトラクターのチキンレースのシーンで使われるとは、思ってもみませんでした。ここは手に汗握る場面なのか、それとも笑う場面なのか。 若者のダンスをテーマにした作品としては、本作より前に公開された「フェーム」と「フラッシュダンス」のほうが良かった。本作は3番煎じっぽい気がします。この前2作品を件のダンス嫌いの牧師オヤジが見たら、卒倒するんじゃないでしょうか。 [インターネット(字幕)] 6点(2016-01-10 23:34:29) |
907. 日本のいちばん長い日(1967)
重厚な「TWENTY FOUR」という感じ。やっぱり気になるのは、黒沢年男一派の行動原理でしょう。眼前に焼け野原にされた東京の光景が広がっていたはずなのに、また全国各地がボコボコにされていたことも知っていたはずなのに、なお戦争を継続すべきとはどういう了見か、とは現代から見れば誰もが感じることと思います。「全国の男子の半分を特攻作戦に動員すれば…」みたいなセリフもあって、さすがにゾッとしました。 しかし、被占領後の日本がどうなるのか皆目見当もついていなかったとすれば、徹底抗戦を主張したくなる気持ちもわかります。「悔しさ」という私心もあったと思いますが、それよりも「この国を滅びさせてはいけない」という軍人としての責任感・使命感が、ああいう〝狂気〟な行動の原動力になったのでしょう。身もフタもない言い方をすれば、情報と大局観が不足していたということで。その点において、当時は政治リーダーのほうが若干優れていたおかげで、大事に至らずに済んだと。どんな組織でも、方針の転換、とりわけ撤退戦となると大事業ですね。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2015-12-31 03:41:37) |
908. 君よ憤怒の河を渉れ
「この場面、いくらなんでもおかしくないですか?」とか現場で監督に進言するスタッフや役者はいなかったのでしょうか。原田芳雄のシーンは終始マトモなのに、高倉健が出てくると妙なことをしはじめる。いくらフィクションとはいえ、あまりに現実離れしていて唖然・茫然の連続です。 それに多くの方が指摘しているとおり、音楽も変。下品でうるさくて、センスのカケラも感じられません。この佐藤という監督、自身も呆れるほどの非才ぶりを逆手に取って、西村晃に負けず劣らず高倉健を徹底的に貶めてやろうと画策したんじゃないかと疑いたくなります。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2015-12-30 03:27:19) |
909. ムーンウォーカー
ジョー・ペシのチョンマゲ姿が哀れを誘います。まあ〝Winner takes all〟ということで。好き勝手な映画を撮りたければ、まずスーパースターになればいいんですね。日本なら「スーパー」さえいらないかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2015-12-27 02:14:25) |
910. ポセイドン(2006)
心臓に悪い。息苦しくもなります。パニック映画としては、もうそれだけで十分でしょう。自分はソファーにふんぞり返って絶対的な安全を確保しつつ、ハラハラドキドキできる快感。これぞ映画の醍醐味です。この監督、やはり海水の恐怖とリアルな死体の描き方が秀逸ですね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-12-21 02:53:38)(良:1票) |
911. 超高速!参勤交代
タイトルも設定も「バラエティ時代劇」の様相。それならそれで「バカ殿」のように突き抜けて笑わせてくれればいいのに、ほとんど笑えず。かといって設定を活かした切迫感や緊張感もなし。もともと人物造形が安っぽい上に、その人物たちが安い感動話や教訓話を語ろうとするから、ますます冷めてしまいました。小手先を弄しただけの、中途半端な小作品という感じです。 [インターネット(字幕)] 3点(2015-12-20 02:12:26) |
912. モンスター上司
「出オチ」ならぬ「配役オチ」という感じ。他の方も指摘していますが、とにかく脇役がすごい。これだけ揃えて脇役ではなく主役に据えたら、ふつうなら超大作になるはずです。それもケビン・スペイシーは〝いかにも〟な役どころですが、他の3人、とりわけコリン・ファレルは壊れてます。気分転換でもしたかったのでしょうか。 こういう「ザ・B級映画」の場合、中身はグダグダなことが多いのですが、実はそうでもない。言葉のやりとりとか、伏線の張り方とか、けっこう洗練されている印象。個人的には、ジェイミー・フォックスや元リーマンの同級生のくだりが好き。夜中に1人で爆笑してしまいました。ストーリーはナンセンスですが。 ただこの作品、安っぽい邦題で損してますね。 [地上波(字幕)] 8点(2015-12-13 04:52:48) |
913. インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国
冒険活劇というより、ほとんど「トムとジェリー」のノリです。前3作はもう少しハラハラしながら見た覚えがありますが、本作にその要素はゼロ。一生懸命に追ったり追いかけられたり、生身の人間なら確実に死んでいるであろう場面に遭遇したりしますが、まるで緊張感というものがありません。目の前で大砲を撃ち込まれて胴体に穴が空いても次の瞬間には元に戻るトムのように、一種のギャグとして見るのが正解なのでしょう。 ラストの帽子をめぐる息子とのやりとりは、「代替わりしての次回作はない」→「このシリーズはこれで打ち止め」というメッセージでしょうか。かなり晩節を汚してしまったようなので、そのほうがよろしいかと。 [インターネット(字幕)] 4点(2015-12-11 00:24:37) |
914. ワルキューレ
恥ずかしながら、こういう史実を知らなかったので、「へぇ~」と感心しきり。ほぼ全国民が熱にうなされるように「ハイル・ヒトラー!」なのかと思っていました。考えてみれば、冷静に状況判断する軍人がいてもおかしくないですね。ただ、けっこうな将校たちがずいぶんおおっぴらに転覆計画を議論していましたが、SSはいったい何をしていたんでしょう? 翻って日本の場合、戦時中にこういう軍人がいたという話は聞いたことがありません。仮にいたとしても、敵は「ヒトラー」のようなシンボリックな政治・軍事リーダーではなく「空気」なので、手のつけようがないでしょうが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2015-12-05 23:15:31) |
915. ワイルド・スピード/MEGA MAX
「オーシャンズ~」の道路版といった感じ。各メンバーのキャラがいま一つ際立っていない気もしましたが、今作の主役は「金庫」だから無問題でしょう。あの終盤の市中引き回しシーンは、バカバカしさを通り越して感動ものです。たしかに速度に重量が加われば、エネルギー(迫力)も増えます。前作までの徹底したスピード追求型から、新機軸を開拓したわけですね。 それはともかく、私は今作でD.ジョンソンという役者を初めて知りましたが、あの筋骨隆々はすごい。まるで劇画の登場人物のようです。CGもしくは薬物で膨らましているんでしょうか。まあユニクロの服は着れないだろうなと、その一点のみ優越感に浸りました。 [インターネット(字幕)] 7点(2015-12-01 20:53:41) |
916. 白昼の死角
とにかくテーマ曲「欲望の街」がいい。これほど大げさでありながら、独特の世界観を持ち、大の大人が熱唱しても恥ずかしくない曲はそうそうありません。この映画はこの曲にずいぶん救われていると思います。 それにチョイ役の柴田恭兵とか、今とほとんど変わらない西田敏行とか、びっくりするぐらい美人の島田陽子とか、役者の若い頃の姿も堪能できます。千葉真一は甲高い声のせいか、やっぱりチャラいですね。 しかし、作品としてはイマイチ。キモであるはずの金融取引詐欺のカラクリを、適当に端折ってごまかした印象です。とても「東大きっての頭脳」を駆使しているようには見えません。だから薄っぺらい詐欺師の話になって、リアリティも緊張感もありません。遠い昔に読んだ原作では、もっと迫真の描写があったような気がするのですが。他の方も指摘されていますが、同じく遠い昔に見たテレビ版(渡瀬恒彦のやつ)のほうが、ずっとクオリティは高いと思います。とはいえ、ラストの「欲望の街」を聞いてすっかり満足しちゃいましたが。 [インターネット(字幕)] 6点(2015-11-28 04:41:30) |
917. サンダーボルト(1974)
《ネタバレ》 前半はけっこう期待が持てました。銃で追い立てられて無様に逃げたり、娼婦に「レイプ!」と叫ばれたりするイーストウッドなんて、そうそう見られないだろうと。それに排気ガスを車内に引き込んでラリッてるオヤジとか、端役もいい感じ。しかし後半、4人が合流して銀行強盗を企むあたりから、妙にご都合主義な展開になってしまいました。いとも簡単に準備を進め、さして緊張感もないまま決行し、いつの間にか警察に追われて仲間割れ。そして最後は、「真夜中のカウボーイ」の焼き直しのような話に…。悪くはないんだけど、あざとい感じが否めません。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2015-11-25 20:06:53) |
918. ザ・ヤクザ(1974)
R・ミッチャムのやる気のなさそうな目つき(これがこの人のウリらしいのですが)とトロい動きが、高倉健の精悍さと対照的。自宅にでかい提灯がぶら下がっていたり、鎧や刀を飾っていたり、銭湯に水槽があったりするのも妙。まあそれはいいとして、あれだけ派手に大量の人を殺しておきながら、まったくお上の裁きがないというのはどうなんでしょうねぇ。よっぽど野蛮・未開の国と思われていたんでしょうか…。昨今も「13%云々」が話題になりましたが、けっこう由々しき問題ではないかと。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2015-11-20 07:20:00) |
919. ボディ・ダブル
デ・パルマ監督の習作なのかと思いきや、「スカーフェイス」の翌年の作品なんですね。人のキャリアとは何か、考えさせられます。久々に聞く「Rerux don't do it!~」はカッコよかったけれど。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2015-11-18 03:33:03) |
920. 金環蝕(1975)
どいつもこいつも欲の皮の突っ張った奴ばかり、という設定が実に爽快。なまじ現実離れした「正義の味方」が登場しないだけでも、私的には大満足です。しかも派手なドンパチではなく、徹底的に裏でジメジメコソコソやる姿がいかにも日本的。「金環蝕」とはよく言ったもので、真ん中の漆黒をそっと覗き込むようなゾクゾク感がたまりません。 とりわけ秀逸なのは、やはり宇野重吉でしょう。「ショーチックバイッ」と歌う好々爺のイメージしかなかったのですが、すっかりヤクザな金融屋でした。あのいびつな歯並びも、いかにも昔のアウトローという感じ。それに、仲代達矢のこういう悪役も滅多に見られません。インテリで冷徹な策士を怪演していました。この両者が料亭で対峙する場面は、『椿三十郎』における三船敏郎との対決シーンに匹敵する緊張感を醸していたように思います。ここまで傑作。 ただし、その後の国会小委員会からが長い。たしかに重要なシーンだし、三國連太郎の見せ場ではありますが、見ていて疲れました。これは私の問題ですが。 ラストの締め方からも察せられますが、制作者はこの作品に「怒り」を込めていたのかもしれません。しかし現代から見ると、一級のエンターテイメントに仕上がっています。昔の政治の世界には、良かれ悪しかれ強烈かつ〝重厚〟なキャラがいろいろ揃っていたんだなあと、ある種のノスタルジーさえ覚えます。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2015-11-15 04:02:22)(良:1票) |