81. フロム・ヘル
《ネタバレ》 改めて観てみると映画としてのレベルが意外と高いのかもしれないと感じさせる作品。当時の雰囲気はきっちりと伝わっており、製作者の熱意が込められている。アヘンや殺人など退廃的又はグロテスクなものではあるが、美的なセンスや映像に対する哲学もなかなか優れている。全体的に説明不足な感はあるが、画面によって大部分を上手く説明している。あまり押し付けずに、観客の解釈力などに委ねている部分があり、ハリウッド映画らしくない特異な作品に仕上がっている。 ラストではジョニー・デップ演じるアバーライン警部が死ぬシーンが描かれているが、なぜ本編と直接関係のないシーンをわざわざ描く必要があったのか当初は分からなかったが、今となっては少し分かった気がする。あのシーンは、あの事件のすぐ後ではなくて、デップの姿がかなり老けていることから、かなりの年月が経っているように思える。警部は孤独ではあるものの、彼なりのやり方でメアリと娘の成長を長年見守っているということが想像でき、必須のシーンであると考えられる。 アバーライン警部は訳の分からない特殊能力を備えているが、興ざめにならない程度に抑えられている点も悪くない。しかも、事件の解決というよりも、その能力を娼婦との恋愛に振っている辺りもなかなかセンスが良い。“海辺の家にいる君がみえる”というセリフだけで女が男に恋をする訳が分かる。また、娼婦でありながらも自分を卑下しないメアリに惹かれる警部の心理も感じられる。恋愛要素を過度に描く必要がない映画だが、“会いたいけれども命の危険に晒すこととなるので会わない”など、恋愛映画の要素も必要最小限の範囲できっちりと描かれている。警部と娼婦の恋愛を描くことで、王家の者が娼婦と恋愛に陥ることへの理屈付けの面もあるのではないか。なぜ王家の者が娼婦に対して本気になったのかということも一応納得できるだろうか(ただの女好きなだけかもしれないが)。 “切り裂きジャック事件”の真相についてはよく知らないが、大胆にユニークに脚色されている点が面白い。王室やフリーメーソンを絡めて、壮大な“復讐劇”として描かれている。実際の事件とは恐らく関係のないストーリーが展開されれているとは思うが、これはこれでフィクションとしてアリではないか。原作が「ウォッチメン」のアラン・ムーアによるグラフィックノベルとのこと。なかなか才能がある人物のようだ。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2010-06-23 23:30:52)(良:1票) |
82. アイアンマン2
《ネタバレ》 中弛みを感じてしまい、正直言ってあまり楽しむことができなかった。「スパイダーマン3」同様にキャラクターの増加や、ストーリーの詰め込みすぎによって、バランスを失しており、全体的に流れが悪い。色々なものを適当に繋ぎ合わしたという印象。大金が掛かったアクション作品なのでそれなりに楽しめるものの、1本の映画の作りとしては、デキはそれほど高くはないと思う。アメコミ原作のアクション作品なのだから、もっと単純で、もっと爽快感があり、もっとド派手の仕上がりでもよいのではないか。 「1」のラストでのフューリーの登場は驚いたが、今回は「アベンジャーズ」のネタが多すぎてややウンザリ。これでは「アベンジャーズ」の前日譚や予告編のような仕上がりだ。次回へのお楽しみを醸し出す程度でよいと思う。 ストーリーとしては、ヒーローモノに付き物の“苦悩”を描くことは必要かもしれないが、“病気”というテーマは受け止めるのはなかなかやっかいだ。もっとヒーローらしい“苦悩”の方が観客は受け止めやすいように思える。もし“病気”を扱うのならば、もっとシリアスに描いてもよかったかもしれない。自暴自棄になっているのは分かるが、ピンチに深く陥っていると感じさせない作りとなっている。『どうせ訳の分からない治療法を見つけて直すのだろう』という展開はこの手の作品では仕方がないと承知しているが、“新たな元素”など『訳が分からない』を通り越している。 さらに“父親との関係”なども放り込んでおり、一つ一つのことを満足させていない。 ミッキー・ロークはさすがの存在感や迫力を醸し出していたが、キャラクターとしてはただ出てきただけの存在。サム・ロックウェルも煩わしいザコキャラを忠実に演じていたが、こちらも出てきただけの存在。グウィネスもチードルもジャクソンもヨハンソンも同じような印象だ。 「1」は起承転結の“起”という役割を担ったが、「2」はシリーズとしての意味をあまりなさないような気がする。ペッパーとの恋愛関係や、ローズ中佐との友情関係にもう少し絞り込んだ方が引き締まったのではないか。タッグを組むローズ中佐との関係が、今回は特に重要ではないか。訳が分からないうちにスーツを着て戦い始めて、何故かスーツを持っていかれたという印象しか残らなかった。 [映画館(字幕)] 5点(2010-06-19 11:27:31) |
83. パコと魔法の絵本
《ネタバレ》 映像のデキについては、独創的な世界が構築されており、かなり評価したいところ。 中身がそれほどあるとは思えない脚本を、奇抜さや遊びを交えつつ完全に活かし切っている。 個人的には、CGの使い方などはかなり上手いと感じられた(最後の対決を除く)。 CGのデキ自体はアニメチックではあるものの、実写とCGが効果的に融合されており、付加的な満足を与えている。 監督の世界がとっぴ過ぎていて、正直いって付いて行くのがメンドクサイと感じることもあったが、個性が強すぎることはあまり否定したくない。 失敗や批判を怖れずに、ガンガンとアイディアを盛り込むことは“ヤリスギ”と思われるかもしれないが、本作のテイストを踏まえると、深く考えずに突っ走ることは悪くはない。 難点としては、映像的な世界に対しては満足することができるが、ストーリー面に対してはそれほど満足することができないところだろうか。 心が弱い人々が多数登場するが、どのキャラクターに対しても感情移入しにくいところがある。 強く生きることを強いられて、弱い面を見せることができなかった寂しい人たちの“弱さ”とパコという“強い”少女との交流を通して、何か熱いものを刻み込んで欲しかったところだ。 ファンタジックな世界なので、ミラクル的なストーリーもあってもよい。 最後は現実的なラインに落ち着いてしまったような気がする。 オオヌキを殺さないで、パコを死なすという展開は意表を付いているのかもしれないが、いい具合にオチが付いていない。 いい具合にオチが付かないので、現代パートに戻って、訳の分からない形で逃げたようなオチというのはいかがなものか。 [DVD(邦画)] 6点(2010-06-08 23:37:47)(良:1票) |
84. 告白(2010)
《ネタバレ》 本屋大賞を受賞した原作は未読。本作について“語る”のは非常に難しい作品である。「とりあえず観てみろ」という言葉しか出てこない作品だ。 観る者によって感想はマチマチだろう。「人間の命の重さを説いたヒューマンドラマ」と捉えることもできる、「ガキたちに復讐する爽快なエンターテイメント作品」と捉えることもできる。解釈度が“自由”であり、観る人それぞれの心に何かを刻み付けた中島哲也監督の自在な手腕が発揮された傑作といえる。 「人間の命は脆くて軽いが非常に重いもの」「人を殺す際には、その人を愛する誰かがいることを考えてみろ」ということを教えるための森口先生による授業だったのではないかと感じたが、『なんてね』という言葉一つで引っくり返している。 結局「ガキたちと同類ではないか」とも感じてしまう一言だ。 確かに大人だろうが、子どもだろうが、人間である以上、変わりはないのかもしれない。クラスメートでも恋人でも母親でも誰かに自分を認めて欲しいという衝動、暇つぶしに誰かを傷つけたくなる衝動、復讐なんてしたくないけど復讐せざるを得ないという衝動、そういう短絡的で自己中心的な感情に支配され、人間は愚かな行動を走ってしまうものかもしれない。人間はバカで単純で弱くて脆いもの、悲しいけどそれが人間ということをも感じさせてくれる。人間というものの本質を感じさせてくれる点を評価したい。しかし、松たか子が泣くシーンを描くことで、罪の意識を感じ、人の心の痛みを知らないガキとは根本的に違うということだけは分かるようになっている。それでも溢れる感情を止めることはできないのだろう。 「パコと~」の際には、各キャラクターに感情移入できない点が気に入らなかった。本作も同様に感情移入することはできないが、感情移入できないことにより、本作には面白い効果を生んでいると思う。得たいの知れないという不気味な恐怖を感じるとともに、客観的な傍観者としてこの復讐劇をエンターテイメント感覚で楽しむことができる。中島監督が計算したかどうかは分からないが、非常に巧妙な仕掛けとなっている。 本作は問題作ではあるが、“人間の命の重さ”を真正面から捉えるよりも、本作のような切り口で語った方が反面教師的な役割を担えると思われる。R15指定作品だが、逆に子どもたちに見せてもよいのではないか。“何か”を感じ取ってくれることへの期待や希望はあるはずだ。 [映画館(邦画)] 9点(2010-06-07 22:52:29)(良:1票) |
85. 望郷(1937)
《ネタバレ》 今回が初見であり、特に思い入れがある作品ではない。 ジャン・ギャバンという俳優についてもよく知らずに鑑賞。 ストーリー自体は大したことがないが、古臭い作り、設定、雰囲気が逆に新鮮に感じられた。 それぞれの愛憎や嫉妬が渦巻き、それらによって悲劇を引き起こすという流れもそれほど悪くはない。 現在のアルジェリアの首都アルジェのカスバでは王様かもしれないが、カスバから街へ出ることができないという、力を持った無力の男という物悲しさも伝わってくる。 街へも自由に行けないのだから、フランスへ戻るということは夢のまた夢なのだろう。 彼の苛立ちから、うっくつした重々しい想いが感じられる。 ストーリーの鍵となる女性との関係や、邦題のタイトルである望郷への想いがじっくりと描かれていない点が本作の難しさだろうか。 じっくり描けば良い場合もあるが、逆に描かないことによって観客に何かを感じさせるという場合もある。 本作がそういう効果を狙っているのかどうかはよく分からないが、描かなくても様々な想いというものは本作から伝わってくるようになっている。 故郷やパリを想起させてくれる女性である「ギャビー」の名前を叫ぶセリフ一つだけで愛する女性に対する想い、故郷に対する想いが痛いほど心に刻まれるのではないか。 おばさんの歌からも同様のものを感じられる。 夢に描いた想いは叶わずに消えていく、“現実”ともいえる哀しさがどこか切ない。 [DVD(字幕)] 7点(2010-05-30 00:48:28) |
86. シャネル&ストラヴィンスキー
《ネタバレ》 他のシャネル作品が微妙なデキだったが、いい意味での裏切りを味わうことができる。3本の中では文句なしに自分の好みであり、かなり気に入った。シャネル及びストラヴィンスキーを描くのにふさわしいセンスの良い作品に仕上がっている。ファッションセンスは抜群であり、構図はまるで絵画を切り取ったようだ。カメラワークもかなり凝っており、その動きを追って、撮影方法を想像するだけでも満足できる。他の2作とは異なり、伝記的な要素はかなり省かれている。伝記的なものを期待していると肩透かしを食らうが、そういった視点から描かないことで、シャネル及びストラヴィンスキーという存在をほとんど知らなくても楽しめる作品となっている(ストラヴィンスキーについては彼の名前と代表作の名前しか知らなかった)。シャネル及びストラヴィンスキーという過去の偉人というよりも、一組の男女という捉え方を外していない。彼らは紛れもない芸術家であるが、そういった捉え方をすることで、現代に生きる我々も近くに感じやすく、共感しやすくなっている。自分の気持ちに真っ直ぐで正直でありながら、正直にもなれないところもあるシャネル、人間としての弱さもあり、強さもあるシャネルをより身近に感じられるのではないか。伝記的な要素は少ないながらも、エルネスト・ボーによる「CHANEL N°5」の完成、「春の祭典」の初演時の喧騒など要所はきちんと押さえられているところも好印象。シャネル及びストラヴィンスキーの罵り合い一つとってもセンスが良い。映画らしく激しく罵り合うのではなくて、分別のある大人の男女らしく静かにかつ心にグサリと刺さるように罵り合っているところをとっても、この作品の素晴らしさを感じることができる。芸術家としてダメになりそうなストラヴィンスキーをあえて突き放すことで創作意欲に向かわせるというシャネルならではのやり取りも彼女らしく面白いところだ。ストーリーらしいストーリーがなく、説明もカットされており、ハリウッド映画のように人物の内面には単純には切り込めないので、鑑賞するには難しいところもあるが、見る人によってはかなり評価を高くできる作品に仕上がっていると思う。“黒い服から白い服を着る”“音楽が情熱的なものへと変わる”それだけでも彼らの心情が雄弁に説明されている。終盤間際に一瞬方向性を失ったかのようなところもあるが、その辺りには触れないでおこう。 [映画館(字幕)] 8点(2010-05-22 23:40:52)(良:1票) |
87. ブルーノ
《ネタバレ》 ハリウッドコメディはそれほど笑えないが、本作は意外と笑えたという印象。虚構の設定と現実が入り混じり、新たな世界・新たな笑いが展開されている。日本では絶対に不可能なことをやっているので、見たことがない未知の世界に対して新鮮な思いや驚愕させられたりもする。何事に対しても妥協なく限度や限界を超えていく辺りは高いプロ根性も垣間見られた。笑いの質としては、上品なものでもレベルが高いものでもなく、かなり下品であることは間違いない。しかし、他人を見下したり、弱い者をバカにするようなムカつく自己満足的な笑いではなくて、カラダを張った自虐的な笑いであったり、ハリウッドセレブや有名になりたい者などを皮肉った笑いなので、嫌いではない。ゲイネタに関しては好きではないが、別に嫌悪することもないので問題なし。相手を完全に怒らせるという笑いはそれほど好きではないので、相手を怒らせながらも呆れさせるという笑いをもっと極めてもらいたいところ。エア○○○編、裁判シーンエキストラ編、黒人の観客が多い子ども番組編、子どもを使って仕事をさせる親に対する面接編、空手道場編、ハリソン・フォードへのインタビューを行う新番組モニター編、スワッピングパーティー編(完全に仕込み)、金網デスマッチ編辺りは好きだが、野外キャンプ編、元大統領候補へのインタビュー編辺りは好みではない。軍隊キャンプ編(ナチス敬礼は悪くない)、中東編、手錠編辺りは製作者の狙い通りに進まず、ややスベってしまったような印象。中東編は物足りないが、あの辺りが限度なのだろう。一般人に追いかけられるシーンをもうちょっと見たかったところだが。 個人的にはラストの金網のシーンがかなり面白いと思う。悲鳴、怒り、中には泣き出す者がいるといった凄まじい喧騒の中で、男二人が金網の中でラブシーンを演じるという構図がシュールであり、斬新なコントラストを生んでいる。感動とはちょっと違うかもしれないが、それに近いものも感じられる。セリーヌ・ディオンの「タイタニックのテーマ」もなかなかセンスの良いチョイスだ。したがって、あの二人の関係をもっとクローズアップしてドラマ仕立てした方がよかった気がする。なんとなく二人でアメリカに旅立って、なんとなく喧嘩して別れて、なんとなくラブシーンを演じるというものではなくて、1本筋が通った流れを構築できれば映画としての仕上がり具合が増しただろう。 [映画館(字幕)] 6点(2010-05-22 23:34:55) |
88. グリーン・ゾーン
《ネタバレ》 好きな人にはたまらない作品かもしれないが、個人的には全く合わなかったと正直に白状したい。あまりに合わなすぎて、完全に飽きてしまった。ブレるカメラ、早すぎてよく分からない映像、ムダに多いセリフに辟易して、「もう好きにやってよ」と集中力を切れた状態で鑑賞していたので、評価は低くせざるを得ない。一方では、臨場感があり、迫力があり、リアルな世界が繰り広げられており、興奮できる映像ともジャッジできるが、他方では、暗い画面の中で人影がうごめいているだけの訳の分からない映像ともいえる。自分には完全に後者でしかなく、見る者を選ぶ映画といえるか。ここまで合わないとは思わなかったが、エンターテイメント性の有無がポイントなのだろうか。本作は非常に政治的なメッセージが強い作品でもある。「大量破壊兵器はどこにあるのか」ということは、当時にはかなり話題となり、問題となったテーマであることを記憶している。製作当時にはまだ良かったのかもしれないが、今となってそれを論じても大した意味はないのではないか。「大量破壊兵器は実は存在しなかった」という事実を明らかにしたくらいでは、いまさら誰も驚かないだろう。たとえ、大量破壊兵器が見つかったからといって、イラク戦争が完全に正当化されるわけでもない。もっとも、本作においても「大量破壊兵器はどこにあるのか」ということ自体は大きな論点にはなっていないような気がした。本作においては、捏造された資料に基づいて戦争に踏み切り、その戦争によって多くの者が苦しめられたという事実、本来役割を果たさなくてはならないマスコミによって、情報操作されたという事実をポイントにしていると思う。また、「戦争後の統治の在り方」についても一石を投じている。 アメリカ人ではなくて、イラク人によってイラクのことを決定しなくてはいけなかったということは素晴らしいまとめ方だとは思う。イラク問題がここまでコジれている要因の一端を教えてくれている。ジャーナリスト出身であるグリーングラス監督が、今なお問題になっていることについて、非常にマジメかつ真剣に取り組んでいる姿勢は評価したいが、スター俳優によるアクション・サスペンスを堪能したいという欲求にはマッチしていないと言わざるを得ない。政治的な作品とエンターテイメント性ある作品との両立は難しいが、自分にはどっちつかずで、意義を見出せない映画としか思えなかった。 [映画館(字幕)] 4点(2010-05-17 22:37:17)(良:2票) |
89. 劇場版TRICK トリック 霊能力者バトルロイヤル
《ネタバレ》 「TRICK」についてはコアなファンではないが、一通りには鑑賞しているというレベル。しかし、基本的にはあまり覚えていない(菅井きんの記憶もない)。 「どうせくだらない、どうしようもない仕上がりなんだろう」と期待値がマイナス状態から入っているためか、意外と普通に見られる作品に仕上がっていることにやや驚き。 松平健も含めて出演者たちが楽しそうにノリ良く演じているので、こちらもそれなりに楽しめる。 悲劇あり、笑いあり(爆笑できるものではないが、ニヤリとできるものがいくつか)、お約束あり、小ネタあり、自虐ネタありと、色々なものをとりあえず適当にゴチャゴチャに混ぜて、味はともかくとして観客をお腹いっぱいにすれば文句は言われないだろうという魂胆からか、それなりに色々なものを堪能できる。 基本的には“細かいことは気にするな”ということが本作の見方であろう。本格ミステリーではないので、二重底などのトリックやストーリー自体のレベルは高くはないが、本シリーズをいままで楽しんでいる者には楽しめるレベルにはなっていると思われる。 「火をもって火を制す」ネタは面白いが、あれで本当に抜け出せるものなのだろうかという疑問もあるものの、気にしないでおこう。 夏帆の○○ネタについては、「TRICK」本編でも使われていたと思われるネタか。 トリックの謎が解決不能な状態に陥って、マジメな顔をして「オマエ実は○○だろう」と仲間由紀恵が言って、「おいおい、そんな訳ないだろう」と阿部が呆れ気味に突っ込んで、犯人が「よく分かったな」とマジメな顔をしてあっさりと自白するという使い方が本来の正しい使い方だとは思うが、本作のような使い方はやや後味が悪くセンスの良くない使い方にも思える。こういう不必要に悲しいストーリーを混ぜてくるのが、TRICKらしいといえば、TRICKらしいところ。 矢部刑事の放置については、前作の劇場版からの流れだろうか。仲間、阿部との絡みが1シーンだけかよとツッコミを入れるためだけの豪華な使用方法であり、これは意外と悪くない(ラストのオチは子ども騙しだけど)。 ラストもいつも通り二人のどうしようもない会話で終わり、二人の関係が何も発展することがないところもTRICKらしいところ。続編はあるかは分からないが、いつまでもこのペースで続いていくのだろうなと感じさせてくれる安心のエピローグ。 [映画館(邦画)] 6点(2010-05-10 21:16:39) |
90. ウディ・アレンの夢と犯罪
《ネタバレ》 「ウディ・アレンの重罪と軽罪」が好きなので、この手の作品は嫌いではない。 しかし、正面から“罪の意識”を捉え過ぎてしまった感が強く、ストレートに描き過ぎてしまったような気もする。 “悲劇”にも面白いものはあるが、遊びも捻りもなく、本作はあまりにも現実的に描き過ぎてしまったようであり、疲労感が残る映画ともいえる。 罪を犯す前から“罪の意識”に苦しむ弟が、犯罪後にも“罪の意識”に苦しむのは、かなり重過ぎる。 逆に、ラストはアレンらしいといえばアレンらしいが、あっさりとし過ぎている。 “兄弟”という設定が上手く噛み合っていかなかったようにも思える。 犯罪前には、一方は“罪の意識”に苦しみ、他方は“罪の意識”を感じないが、犯罪後には、それが逆転するような仕掛けもあってもよかったのではないか。 また、同じような道を歩いていた兄弟が一つの事件をきっかけに、光と影という全く異なる道を歩み始めるような展開や、光と影という全く異なる道を歩んでいた兄弟が一つの事件をきっかけに光と影が逆転するという展開の方が、映画らしい気がした。 しかし、本作は延々と弟が罪の意識にさいなまれて不眠症に陥り、兄がその弟に悩まされるだけだ。 ユニークさや不条理さもなく、現実的な苦悩を見せ付けられても、重々しさは堪能できるものの、面白みはさすがに感じにくい。 さらに、二人の“夢”であったような「カサンドラズ・ドリーム」号の取扱もやや微妙。 この小さな“夢”を得ようとした結果、どんどんと欲求がエスカレートしていくにしたがって、どんどんと落ちて破滅していく姿も見たかったところ。 小さな欲求によって小さな代償を払い、次第に戻ることの出来ない大きな代償へと上手く繋がっていくようなところはなかった。 また、調べてみるとカサンドラは、100%当たるのに誰も信じないという呪いが掛けられた予言者であるらしい。 トロイの木馬も予言したらしいが、誰も信じずにトロイの民は破滅したらしい。 そういう意味をタイトルに込めたのだから、兄の恋人の舞台の設定や彼らの父親にそういう予言者の役割を担わせるべきだろう。 父親は意味深なセリフを発していたが、あれでは弱いのではないか。 [映画館(字幕)] 6点(2010-05-09 12:37:42)(良:1票) |
91. 月に囚われた男
《ネタバレ》 一般的な評価も高く、賞も受賞しているようだが、個人的にはハマることはできなかった。 良い設定のアイディアがひらめいたが、それを上手く発展させることはできなかったという印象も受ける。 エンターテイメント性を重視せずに、精神的な世界を描こうとしたことが自分には合わなかったのだろうか。 SFファンを楽しませてくれそうな小ネタや不可思議な設定が満載だが、あまりそういったことにも深い関心はない。 3年という労働期間が、彼らにとっての寿命なのか、月面作業による肉体崩壊(宇宙では骨がボロボロと聞いたことがある)なのかどうかも、何故ロボットではなくてクローンが働かされるかも、何故韓国企業なのかも、自分にはどうでもよい話だ。 クローンの悲哀のようなものは見ていても面白みには欠けた。 もちろんクローンではなくて、生身の人間の姿が投影されているとは思う。 単身赴任で何年も家族に会えないサラリーマン、会社で酷使されて使い者にならなくなったらポイ捨てされる労働者などといった、実際の生身の人間の悲哀のようなものを投影しているようには思えるが、上手くまとまっている印象はない。 ラストで「俺たちは人間なんだ」って言われても、あまりグッとは来ないが、コンピューターシステムのガーティがサムの味方をすることを考えると少し感じるものもある。 ガーティは何代もサムのクローンを見守ってきて、サムに対して友情に近い感情を持ち始めたのではないかと思う。 [映画館(字幕)] 6点(2010-05-09 12:36:44)(良:2票) |
92. タイタンの戦い(2010)
《ネタバレ》 3D版を鑑賞。しかし持病もあり、3D映像を見ていると気持ちが悪くなり、耐えられなくなる。映画鑑賞を諦めて、ふて寝でもしようとメガネを外した途端に気持ち悪さがなくなったため、メガネなしで鑑賞してみた。もともと2D作品を強引に3D化したということもあるのかもしれないが、メガネなしでも鑑賞には意外と困らないというのは新たな発見。字幕は二重になっているが、セリフが少ないこともあり、それほど影響がなかった。しかし、3D設備が充実していそうな新宿ピカデリーでわざわざ鑑賞したにも関わらず、この状態に陥るようでは3D映画を見るのはしばらく遠慮せざるを得ないようだ。 単純なファンタジーアクションは好みということもあり、メガネなしで鑑賞しても意外と楽しめた。予定調和気味に進み、ハプニングがなくワクワク感やドキドキ感がないばかりか、深みも全くない作品だが、それなりにアクションを堪能でき、冒険に出たような気分にはさせてくれる。 神ではなくて人間であり続けたいという願うペルセウスは結構なことだが、逆にストーリーの面白みが削がれたという気もする。オリジナル版のようにゼウスから贈られる不可思議なアイテムを効果的に利用して、次々と現れる強力なモンスターと対決するという面白みがなくなった。一度も見たことはないアニメだが、『聖闘士星矢』からインスピレーションを得たと監督が語っているようなので、アイテムや必殺技や仲間やライバルなどを充実させて欲しかったところだ。カリボス辺りをもうちょっと歯ごたえのあるライバルとして描けば、もっと盛り上がったのではないか。 ラストのゼウスからの贈り物を活かすためにも、もうちょっとラブストーリー面も強化したいところ。一応『魔女の予言』がキーワードにあるのだから、予言どおりペルセウスが殺されそうになるところを彼女が身を挺して庇うくらいのシーンがあってもよい。 ずっと見守ってきたらしいので、役割を全うさせてあげたい。 また、ポセイドンやヘラなどの神々の登場や彼らの会話がなかった点もやや物足りないところだ。ペルセウスの冒険ばかり一本調子に描いていても飽きるので、画面を変えて、観客を飽きさせないようにしてもよかったか。自ら火傷を負った訳の分からない信奉者のような奴を要所で描いても、あまり効果があるとは思えない。 [映画館(字幕)] 6点(2010-05-04 14:40:10) |
93. タイタンの戦い(1981)
《ネタバレ》 ハリーハウゼン作品を大人になってきちんと観ることは初めてだった。 『30年前のファンタジー作品なんて見るに耐えないだろう』と鑑賞前に思っていたが、その考えは大きな誤りだったようだ。 ショボさがほとんど感じられず、むしろCGよりも興奮することができる。 大切なものは“技術”や“テクノロジー”ではなくて、“情熱”や“イマジネーション力の大切さ”ということを学ぶことができる最高の作品。 現在のCG作品よりも、こちらの方が迫力があり、優れているというのは、一体どういうことなのだろうか。 合成にも関わらず、違和感なく仕上げられている努力の賜物には頭が下がる。 映像だけではなくて、影や音声なども駆使して、総合的に盛り上げている。 神話の世界が見事に繰り広げられており、冒険心を掻き立てられた。 次から次へと登場する見たことのない創造物には興奮せざるを得ない。 メデューサ戦で、メデューサが姿を現す前にいきなり矢が吹っ飛んでくるという辺りもなかなか計算されたものとなっている。 二つの頭がある犬との戦いでは、きちんと血しぶきが上がっているところなどが見事だ(ただのヘビに邪魔されているペルセウスが残念だが)。 機械仕掛けのフクロウが出てくるという発想がなかったため、あの変化球も見事といえる。 緊張感のある作品だが、あのフクロウのおかげでその緊張を和らぐことができるので、映画にとっていい効果を与えている。 キャスティングもなかなかイメージとマッチしている。 ゼウス、ヘラ、テティスといった神々たちもよいが、ペルセウス、アンドロメダ、アモン役もよい。 特に、アンドロメダ役がマッチしており、ストーリーに説得力を与えている。 神々の姿もどこかユーモラスだ。 自分の息子を優遇し、自分の息子ではない者を冷遇し、争いが起きるというのは人間らしいところがある。 より人間らしく描いて、身近なものに感じて欲しいという趣旨でも込められているのだろうか。 [DVD(字幕)] 8点(2010-05-04 14:32:47)(良:2票) |
94. ウルフマン(2010)
《ネタバレ》 一言でいうともったいない映画。題材や雰囲気は良く、キャスティング、メイクアップ、音楽は一流を揃えているのに、上手く活かし切れていない。名前は耳にするメイクアップの達人リック・ベイカーによる変身シーンだけは評価できるが、あのシーンも完全に活かし切れているかといえば疑問も残る。一部はもちろんCGだろうが、CGではないメリットを活かしたいのに、CGっぽい仕上がりになっているような気がする。本物の手作業のレベルの高さをアピールして、昨今のCG映画とは違うということを示して、本作を何故今リメイクするのかという理由を浮き彫りにできないものか。 結局、スピードと音で誤魔化すという“逃げ”に打って出るしかなかったようだ。 ストーリーは盛り上がりに欠け、全体的に“深み”が欠ける点が問題だろうか。ホラー映画とはいえ、やはりキャラクターの内面が充実しないといけない。本作の展開ならば、『父と息子の関係』と『主人公とヒロインの関係』に重厚さを加えないと映画に“深み”が増さないだろう。 『父と息子の関係』については父親の歪んだ愛情のようなものが描かれてしかるべきではないか。母親を殺してしまった負い目、息子を殺したくない想い、自分のような存在になって欲しくないという気持ちとともに、自分のような存在になって欲しいという複雑な感情などを入れ込むことが可能だったはずだ。息子を愛していたのか、憎んでいたのかすら、自分にはよく分からなかった。 『主人公とヒロインの関係』については、この二人の関係がある程度深みが増すような仕上がりが望ましい。ラスト付近の展開もいったい何をしたかったのか不明すぎる。助けたいのか、襲われたいのか、何がしたかったのだろうか。ジプシー女に呪いについて聞きにいったが、あまり意味はなかったような気がするので、呪いを解く方法でも彼女から聞きだして、ストーリーを膨らましてもよかったのではないか。呪いを解こうとする想いと襲われるかもしれないという恐怖が入り混じった複雑な感情を込めて欲しかった。獣の中に潜んでいるはずの人間性を信じたいが、信じきれずに撃ち殺すものの、人間の感情が残っていた狼男は彼女を襲うつもりはなかったというようなベタな“悲劇”のような仕上がりでもよかったのではないか。『人間と獣との境界』のようなセリフが多用されていたが、そのようなテーマに沿った仕上がりにはなっていないだろう。 [映画館(字幕)] 4点(2010-05-03 12:29:14)(良:1票) |
95. 狼男(1941)
《ネタバレ》 短い映画であり物足りなさを覚えるので、一本の作品としてはそれほど高い評価はできないが、押さえているところは押さえられている作品。 狼男としての苦悩、狼男になってしまう怖れ、大切なものを傷つけてしまうのではないかという不安など、2010年のリメイク版に比べて、意外ときちんと描かれていたと思われる。 あっさりとはしているが、ラストの落としどころはキレイにきまっている。 父親に対して、銀のステッキを持っていくように頼むシーンは父親に対する思いや決意の深さのようなものも感じられるようになっている。 しかしながら、ホラー、アクション、サスペンス的な要素などはほぼ皆無なので、面白みはそれほど感じられない。 全く怖くもない毛むくじゃらの狼メイクは仕方がないが、もうちょっと怖がらせるような仕掛けが欲しいところ。 [DVD(字幕)] 5点(2010-05-03 12:22:45) |
96. アリス・イン・ワンダーランド
《ネタバレ》 「カールじいさんの空飛ぶ家」を観たときと同じような感想を抱く。映画自体はそれほどつまらなくはないが、物足りなさや味気なさを覚えてしまう仕上がりとなっている。 小さなお子さまから年配層までを楽しませることを使命とするディズニー作品としては、一般受けするように“ノーマルな仕上がり”を目指してしまうことは仕方のないことかもしれないが、スパイスの効いていない甘口のカレーライスみたいな作品であり、食しても満腹感が得られない。 それにしても、不可思議な世界にいるはずなのに、何もかも“普通”という印象を抱いてしまわざるを得ないのは何かが足りないはずだ。3D映画なので“映像”を重視すること自体は間違っていないが、キャラクターの“内面”を描けないと、せっかくの“映像”も活きてこないのではないか。 本作は、アリスが本物のアリスになるための冒険なので、やはりアリスの成長を感じさせるような作品にして欲しかったところだ。思いがけず求婚されて、周囲の期待に応えるべきか、それとも自分の夢や生き方を追うべきかを悩むものではないか。そのような葛藤がストーリーに反映されていないと思われる。 個人的に気に入らないところは、周囲の期待に応えて貴族との結婚という決められた道を歩まずに、父親が果たせなかった夢や自分の生き様を追うという決断をするということが本作の落としどころであるにも関わらず、予言書のようなものの通り、周囲に期待され決められた道を歩んでいるところだ。予言書というアイテムを活かすためには、それとは異なる方向に突っ走ることによってストーリーが豊かになるものではないか。 子ども達へのメッセージとしても、誰かによって決められて、誰かによって敷かれたレールの上を進むような生き方をして、自分の可能性を潰すのではなくて、自分の可能性を信じて、自分自身で道を切り開くような“夢”のある展開に持っていきたかったところだ。さらに、現実はツネれば覚めるような夢やリセット可能な仮想空間ではなくて、過酷なものでもあるというスパイスも必要だろう。また、本作は冒険心をくすぐられるわけでもなく、仲間を思う気持ちや自身の勇気が試されているわけでもない。やはり、残念ながら評価したい部分があまり見当たらない作品だ。 個性的なキャラクターが多数登場するものの、個性が全く感じられないことも致命的だ。カーターだけが孤軍奮闘というところか。 [映画館(字幕)] 6点(2010-04-19 21:55:40)(良:4票) |
97. 不思議の国のアリス(1972)
《ネタバレ》 「アリス・イン・ワンダーランド」の予習用として鑑賞。 原作を読んだことがないので、ある程度原作に近い世界観を知りたかったが、原作の世界観のようなものは体感することができたような気がする。 他の映画化作品を見たことがないので、比較することはできないが、かなりユニークな世界観が展開されているのではないか。 世界観はなかなかユニークなものに仕上がっているが、訳が分からない細切れのストーリーが脈絡なく続くので、少々飽きてしまう。 アリスが、変なきぐるみを着たおっさん達と踊ったり、歌ったり、騒いだりするだけのような仕上がりともいえる。 少女の成長のようなものが描かれているわけではなくて、1本の映画としてあまり評価はしにくい。 [DVD(字幕)] 4点(2010-04-19 21:50:41) |
98. 第9地区
《ネタバレ》 ドハマりしたわけではないが、比較的好みのテイストに仕上がっている。 ストーリー展開自体には、特別な謎や不可思議な秘密や恐ろしい衝撃があるわけではなくて、他のアクション作品やSF作品とそれほど差異はないように思えるが、良い意味での粗さや雑さが、他の作品とは異なる“新味”を産んでいる。 いい加減で凡庸な設定も多く見られるが、新人監督らしく勢いとブラックユーモアで突っ走ったら、なかなか悪くないものができたようだ。 新人監督に好き勝手にやらせたと思われる彼の親玉のピーター・ジャクソンの度量の広さも窺われる。 また、ラブストーリー、友情、親子愛なども含まれているようで、上手くカタチになっていないような気もした。 しかし、そのような部分に逆に惹かれた。 ハリウッドテイストに精錬されて型にハマッているわけではない部分が本作の魅力といえるのではないか。 計算しているとは思えないが、どこか作り物らしくないリアリティが高まる効果が生じたように思える。 せっかく“友情”のようなものを築きつつあるのに、「3年!地球時間でか?」と聞いて、仲間であるはずのエビちゃんをいきなりぶん殴る辺りは思い切った展開といえる。 そのような扱いをしたエビちゃんを最後は命を張って助けようとするのだから、何かを感じずにはいられない。 子エビちゃんが彼らの関係を繋ぐいい橋渡しになったとも思えないが、「息子のために頑張れ」というような趣旨の発言をしていたので、ある程度は子エビちゃんの影響も感じられる。 きちんと計算しているとは思えないが、ドキュメンタリータッチやインタビュー形式を採用しているので、実は意外と計算し尽くしているのかもしれない。 能力が高そうではない人の良さそうな普通のサラリーマンが主人公というのもあえて狙っているのだろう。 このような思い切りの良さも低予算・無名俳優・新人監督のなせる業だろう。 南アフリカのことも、アパルトヘイトのこともよく知らないので、政治的なメッセージも含まれているのかどうかはよく分からなかったが、鑑賞後にヨハネスブルグのことを調べたら、ある地域の治安の悪さはリアルで映画のままのようだ(映画の方がマシなのか)。 ネタも含まれていそうだが、強盗に遭う確率が150%(2回以上強盗に遭う確率が高い)、赤信号で停まってはいけないという暗黙のルールがあるらしい。 [映画館(字幕)] 8点(2010-04-13 21:57:04)(良:1票) |
99. シャッター アイランド
《ネタバレ》 鑑賞前に一切の情報をシャットダウンして臨んだが、本作の設定を踏まえると、ある程度イメージは固めていた。多くの人が同じようなイメージを抱いていたとは思うが、本作はそのイメージを超えることはなく、自分のイメージが当たっているかを確認する作業でしかなかった。いい緊張感と集中力を保てたので、飽きることはないものの、謎解きや秘密や深いオチを期待させ過ぎて大きく風呂敷を広げすぎてしまったようだ。配給サイドとしては当然の宣伝手法であり、その手法により、興行収入的にはアタリそうだが、評価の面では期待感が強すぎてハズレとならざるを得ない。 しかし、謎解きがメインではないにしても、物足りなさを覚える作品でもある。スコセッシが本作に何を込めようとしたのかが十分伝わってこなかった。ディカプリオが演じた男の生き様のようなものが見えてこない。苦しい過去の記憶を消して、精神を病まざるを得なかった男の悲しさのようなものが伝わってこないので、ゴーストとして生きるよりも善人として死にたいというセリフも活きていないような気がする。「マルホランド・ドライブ」のような深みのある仕上がりになれば、評価も恐らく高まっただろう。 “現実”と“妄想”とのリンクが甘すぎる気がする。亡き妻の亡霊や子どもの姿を悪夢や幻覚というカタチでストレートな手法で描くのではなくて、もっと凝った手法をヒネって欲しかった。また、基本的に放置プレイの病院サイドのやり方も甘すぎた。ディカプリオに“失踪捜査”を行わせることにより、ディカプリオの頭の中に隠された“現実”が浮かび上がるような“誘導”が構築されていない。これでは“治療”とは呼べないだろう。 本作で良かったのは、美しい映像だけだ。亡き妻を抱き締める際に、火と水と血が混ざり合った不可思議な映像や、孤島の建造物の凝った作りには見所があったが、それ以外で評価したい部分はあまりなかった気がする。 謎解きをメインにするのであれば、ただの精神を病んだ男のストーリーではなくて、病院の“秘密”を探ろうとする精神が真っ当な刑事に対して、精神を病んだ男という記憶を産み付けるために関係者がグルになって一芝居をうったという解釈ができる余地でも残してもよかった気もする。人間を精神崩壊に追い込み、自分の記憶の曖昧さ、自分が誰であるかという確信を揺るがすようなオチもアリではないか。 [映画館(字幕)] 5点(2010-04-12 22:18:28)(良:1票) |
100. マイレージ、マイライフ
《ネタバレ》 自分とジョージ・クルーニー役のキャラクターと考え方とほぼ同じなので、飽きることなく、共感しつつ興味深く鑑賞することができた。合理性を重視、人間関係を重視せずに、“バックパック”は常に身軽にという考え方は非常に機能的であり、現代的な生き方ともいえる。主人公の考えに近い自分が本作を鑑賞してみても、良い意味で特別深く感銘を受けるといったことはなかった。自分の人生を見つめ直すといったことや、自分の人生を改め直すといったことをしたいとは思わないが、本作の言いたいことを、少しはアタマの片隅にでも置いておこうかなというスマート作品に仕上がっている。ラストのインタビュー形式(「家族の素晴らしさやありがたみ」を強調する)以外はあまり説教くさいところがないところも好印象であり、押し付けがましさがない辺りが本作の良さでもある。 やや冷めたドライな目で本作は物事を見つめており、その視点が自分には心地よかった。ジョージ・クルーニーも見事だ。あまり感情を表に出さずに、終始それほど熱くはなっていない。相手としては裏切るつもりは毛頭なかったが、たとえ裏切られたとしても、慌てず騒がすに落ち着いて対応する辺りがリアルだ。たとえ夢見たとしても、もはや手遅れ、“現実”はそれほど甘くはないという描き方もなかなかクールではないか。 あのシーンにおいては女性と男性との違いなども垣間見られた。 また、深い人間関係を築こうとしないジョージ・クルーニーが誰よりも深く人間を見つめる一方で、彼氏を追ったりする人間らしい新人女性はダンスやカラオケ等で盛り上った相手を置き去りにしたり、大事な用件をメールやテレビ電話で済まそうとしている。 このような複雑性によって、単純ではない様々な人間味が描かれていると思われる。 ジョージ・クルーニーが利己的で自己中心的な男として単純に描かれているわけではない点も深みや共感を生んでいる。たとえ深い人間関係を築けなくても、実はジョージ・クルーニーは非常に多くの企業と関係を築いていたことが、紹介状の件で分かる仕掛けにもなっている。人間はやはりどこかで、何かで繋がっているのかもしれないとも感じさせる。バックパックは軽く見えても、実は誰しもぎっしりと詰まっているのも人生といえそうだ。 [映画館(字幕)] 8点(2010-04-10 11:40:02)(良:1票) |