1021. ナチュラルウーマン
《ネタバレ》 主人公のトランスジェンダーという設定に溺れることなく、周囲の人物たちの素朴な反応、そしてその空気感のようなものまで、じわじわと生々しく描き出している。主人公は自分の内面をことさら説明することもしないし、突然超人的に活躍することもない。何かをいつもきっぱり言えるわけでもなく、理不尽さに押し切られることもある。しかし、共通しているのは、常にまっすぐ前を向く視線、そして力強い足取りの歩調。だからこそ、心にすっと染み入るものになっている。もっとも、物語としては、最後はファンタジーっぽい感じで火葬に到達するとか、歌に活路を見いだしてめでたしめでたしみたいな感じになるというのは、着地点としては少しずれた方向に落ちた気がする。 [DVD(字幕)] 6点(2019-10-27 23:42:48) |
1022. ゲット・アウト
《ネタバレ》 伏線いろいろの展開も面白いんだけど、それを成り立たせているのは、アーミテージ家を取り巻く不協和音的な不穏な空気感がきちんと丁寧に表現されているからなのです。だから、強引なオチでも納得させられてしまいます。そういえば、ジョージーナにしてもウォルターにしても、別に「メイド」とか「庭師」とか「使用人」とは紹介されていないんだよな。●難点は、母親役にキャサリン・キーナーを充ててしまったこと。いや、この人がこんな役をやってしまうと、あまりにもはまりすぎてて、かえって分かりやすいのです。笑顔で座っているだけでボスキャラ感満載です。それだけ、普通の温厚な家族の裏に潜む恐怖みたいな裏返しの部分が弱くなってしまっています。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2019-10-27 01:36:51)(良:1票) |
1023. ビッグケーヒル
保安官のジョン・ウェインが、きちんと育っていない2人の息子を何とかする・・・のがテーマっぽいんですが、これが見事に機能していない。だって、結局最後まで、ウェインは特に父親として何かしたってわけではないからなあ。大体、長男があの「おもいでの夏」の変態欲情少年ゲイリー・グライムスという時点で、違和感ありありです。また、敵の悪ボスのジョージ・ケネディも、ところどころでいい人っぽい側面を見せつけており、それがちょっと捻ったつもりなのかもしれませんが、結局それだけで終わっており、どこにも着地していません。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2019-10-26 19:28:34) |
1024. アダムス・ファミリー(1991)
ギミックに凝りすぎて、肝心の「骨」が存在しない。よって、いくらそれっぽくネタをちりばめても、ネタとして機能しないのです。コサックダンスシーンに3点。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2019-10-24 02:00:03) |
1025. エスケープ・フロム・L.A.
《ネタバレ》 何かもう、最初の超都合の良いナレーションだけで、もう見えてくるわけですよ。そして本編突入後は、どこまでも、全力で作り出したB級感まる出しです。突然意味もなく出てくるバスケットにもサーフィンにもグライダーにも、制作側には何の迷いもありません。大統領娘との関係がちっともいい感じにならないのも、作品の一貫性を高めています。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-10-22 00:47:27)(良:1票) |
1026. セールスマン
《ネタバレ》 この監督がいつも凄いのは、「灰色の美学」をきちんと分かってて、それをきちんと具現化するところなんですね。序盤最大ポイントの襲撃の場面でも、そこを一切映さない。開いたドアから夫のシーンを挟んでその次がもうすでに病院、という跳躍力。現場で何があったのかは、見る側にもまったく分からない。それによって、いろんな人の心理の綾がそこから有機的・立体的に生まれる仕掛けになっています。ただ今回は、そこから後が割と犯人捜し一直線になっていて、せっかくの拡がりが抑えられてしまった感があります。隣人たちとか、賃貸人のオッサンとか、あるいは劇団の派手な衣装の女優とその息子とか、もう少し絡ませられそうな魅力的な脇役はいたのですが。 [DVD(字幕)] 6点(2019-10-21 00:58:13) |
1027. 地獄に堕ちた野郎ども
すでにモーターヘッド(レミー)を対象とする優れたドキュメンタリー「極悪レミー」を制作しているウェス・オーショスキー監督が、今度は三大パンク・バンドの1つ、ザ・ダムドを対象として作ったドキュメンタリーです。前作同様、撮り方1つにもインタビュー1つにも監督の愛情があふれ出ているのですが、今回特徴的なのは、音楽的部分もさることながら、メンバーの集散の人事関係に異様に力点が入っているという点です。というか、後半は、いついつは何でくっついた、いつのときは何でまた別れた、とかそういう話がやたら出てきます。つまり、全体的なバランスという点ではちょっと変ですし、音楽の話はもっと聞きたかったと思うのですが、そんなところも、とにかく訊きたいことを訊き、それがまとまったら即発表、という監督の純粋な1ファン的スタンスが感じられて、実に好ましい。この監督には、今後もこうしてロック・ドキュメントを作り続けてほしいものです。次は、2010年代に入って劇的に復活した、エンジェル・ウィッチとかセイタンあたり、どう? [DVD(字幕)] 7点(2019-10-21 00:50:31) |
1028. 早春(1970)
《ネタバレ》 10代少年の年上お姉様に対するロマンスものなんて、どんな胸キュンな展開なのかと期待したら、まあ何とも、変てこな作品で。お姉様は、誰とどうつき合っているのかも分からないグシャグシャな生活だし、少年の方も、愛情が高じてストーカー状態というよりも、単に認識能力が欠如しているだけでは?という行動回路だし。むしろ、「変なクラブの前でしつこく出番があるホットドッグ屋」とか、「セクシー看板を抱えて街を走り、地下鉄に飛び乗る少年」とか、「水のないプールで雪溶かし作業に熱中する二人」とか、そういうシュールな構図にこそ異様に気合が入っており、むしろそっちが撮りたかっただけなのではと思ってしまう。いえ、その歪んだ気合の入り方は、それはそれで悪くないのですが。 [DVD(字幕)] 5点(2019-10-20 01:25:37) |
1029. ファイヤーフォックス
やっぱりイーストウッドって、演出側としても役者側としても、こういうまっとうな一般的なスパイ・アクションなんてのは根本的に合ってないんだな・・・。また脚本も、前半の侵入部分も後半の対決部分も、せっかくのいろいろなネタが全然生かされていない。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2019-10-12 23:18:46) |
1030. 女神は二度微笑む
《ネタバレ》 ロンドンからコルカタにやってきた妻が、警察に夫の捜索を依頼する。しかしその夫にはテロリストとの同一疑惑が出てきて・・・というスタートなのですが、登場人物の歌もなければダンスもありませんし、どこまでも直球サスペンス一直線です。しかし、もともと異常なテンションを映画に込めるインドにおいて、その熱が全部サスペンスに向かったらこうなる、とでもいうべき作品です。終盤までの謎のつなぎ方もなかなか手が込んでいるのですが、伏線回収しまくりのラスト15分などは、まさに怒濤の勢いです。予備知識何もなしで見ることができて、本当に良かったと思いました。あのオタク風味の殺し屋はかなり面白いキャラクターだったので、中盤であっさり消えてしまったのがちょっと残念でした。 [DVD(字幕)] 7点(2019-10-09 02:41:08)(良:1票) |
1031. バルフィ! 人生に唄えば
《ネタバレ》 主人公はヒロインその1と恋に落ちるが、訳あって引き裂かれ、そしてその後ヒロインその2と恋に落ちる。というのがベースなのですが、3つの時系列を並行して描き、その中でもところどころ時制をいじることによって、いつしかバルフィという主人公の全体像が浮かび上がる仕掛けになっている。中盤までは頭をついていかせるのがちょっと大変なのですが、それらが集約されて、すべてのピースが埋まっていくラスト30分は怒濤の勢いです。入口がシュルティ(ヒロインその1)視点であり、その後もナレーションが挟まれてくるのですが、その意味も最後に分かります。ラブロマンスでありながら、同時に完成された人生讃歌でもあります。 [DVD(字幕)] 7点(2019-10-07 02:44:37) |
1032. クリーブランド監禁事件 少女たちの悲鳴<TVM>
《ネタバレ》 実在の事件を対象とした作品らしく、終始落ち着いた丁寧な作り。序盤では数か月単位の経過をじっくりと描き、途中からはだんだんと加速していくというバランスのとり方もなかなか。またその中で、最初は常に拘束されているだけだったのが、いつの間にか途中で産まれた子まで交えて普通にやりとりをしているという変容も捉えられている。しかし、放映時間の関係か、全体に刈り込まれている感が漂っていて、ダイジェスト版的な雰囲気もないわけではないところがちょっと残念。 [DVD(字幕)] 6点(2019-10-03 00:48:46) |
1033. ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場
《ネタバレ》 一応は軍隊モノの体裁を纏ってはいますが、中身の作り方は完全にコメディでしょ。緊張感が高まりそうなところでも会話のやりとりでツボを押さえてするっと次に行っていますし、大体この制作者は、訓練シーンよりも戦闘シーンよりも、どうみても脚本上の台詞に一番力を入れています。よって、一番面白いのも当然のようにマーシャ・メイソンとの元夫婦漫才だったりします。逆に、本来はここぞというはずの、第一小隊との決着場面とか、グレナダ突入以降とかが、びっくりするくらい突然つまらなくなっているのは、逆に分かりやすいというか何というか・・・。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2019-10-02 01:08:54) |
1034. リメンバー・ミー(2017)
《ネタバレ》 導入部では、やたらごちゃごちゃして騒々しくてめまぐるしいだけで、これはつまらないかなと思っていたのですが、中盤以降のドラマが動き出してからの構築力はなかなかでした。一番面白かったのは、もっともらしい伝説っぽく語り継がれていた「先祖の音楽に向けての出奔」が、単なる夫婦喧嘩レベルで収束しているところ。だからこそ、それは生身の主人公に還元されるわけです。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2019-09-23 12:45:54) |
1035. 蜂の旅人
中盤から出てくる少女が、どうみてもアンゲロプロスの作風に合っていないし(ところどころ出てくるロックなミュージックも)、そこから主人公と少女が何がしたかったのかも不明。映像の撮り方自体も、全般的に(この監督には珍しく)チマチマした感じでした。 [DVD(字幕)] 4点(2019-09-20 00:28:11) |
1036. 十三人の刺客(1963)
《ネタバレ》 これはMVPは内田良平先生です。敵方にそのような優れた切れ者がいてこそ、それに対峙する主役側も輝くというもの。その頭脳戦の衝突は、「何も起こらなかった」河渡りのシーンで美しく結実しています。その後の行列の進行経路をめぐる策謀の競り合いもスリリング。それと比べると、肝心のクライマックスのバトルは今ひとつという気もしますが、ここは、これでもかとばかりに映し出される裏路地や閉塞柵の美術的価値を堪能しましょう。ラストは、任務を無事全うしてめでたしめでたしになるのかと思いきや、突然荒涼感と不条理感が吹き荒れる締め方なのですが、これも不思議な余韻を残していますね。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2019-09-16 17:13:55) |
1037. ユリシーズの瞳
映像の強引な(そしてときには暴力的ですらある)重量感と迫力は、さすがはアンゲロプロス監督なのですが、とにかく全体が観念的で、話としての広がりがなくて・・・どこまで行っても特定の個人(主人公)のフィルターを通したものでしかないため、結局は世界がそこで閉じてしまい、せっかくの映像表現も意味が半減してしまうのです。そのアンバランス状態で3時間近く積み重ねられるため、頭が割れそうになります。 [DVD(字幕)] 5点(2019-09-11 00:33:24) |
1038. こうのとり、たちずさんで
《ネタバレ》 川越しの結婚式のシーンをはじめ、重量感とインパクトのある(ありすぎる)ショットはいくつもある。しかし、よく分からないのは、何で主人公をわざわざレポーターに設定して、その視点からの作品にしてしまったのかということ(この監督にはほかにも同じ手法はあるが)。しかもその上で、主人公が特に何がしたいわけでもなくああだこうだうろうろしているだけなので、結局はせっかくの作品世界が収縮してしまっている。 [DVD(字幕)] 5点(2019-09-09 03:13:46) |
1039. 溺れるナイフ
全体が支離滅裂。基本的な人格設定ができていないのに趣向だけはあれこれ入れ込もうとするものだから、こうなります。役者の演技にも、指導がきちんとついていません。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2019-09-06 01:01:20) |
1040. チョコレート・ファイター
《ネタバレ》 全体に漂う不協和音的な不穏な雰囲気。その中から徐々にアクションが立ち上がってくるのですが、まあこのアクションは、とにかく凄すぎです。人間の動きの限界に挑戦しているかのようです。ラスボスとの和風クラブ(?)対決のあたりですでにお腹いっぱいなのですが、さらにその後の和室対決では阿部ちゃんも乱入してくるし、そしてあのビル壁対決は、一体何なんでしょうか。思いつくだけでも大概ですが、それを本当に撮るか、と思わず突っ込んでしまいます。この作品そのものが、一発の鋭い蹴りとなって見る側に襲いかかってくるかのようです。気になったのは、敵のラスボスがムッシュかまやつに似ていること。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-09-05 01:28:06)(笑:1票) |