1. 美しき冒険旅行
《ネタバレ》 見渡す限りの原野で、黒い少年が白い少女に恋をした。少年は命懸けで伴侶を求め、少女もまた命懸けで文明を目指す。美しく残酷な、道のない道往き。これは何の映画なのだろう。文明批判の映画?フェティシズムの映画?ヒューマンドラマ?ラブストーリー?この作品は無数の顔を持つ。それはまるで少女が泳ぐ水面に乱反射する光のように。そして思う、強さって何だ?弱さって何だ?思えば強さには種類がある。逞しさと図太さ。弱さにもまた種類がある。繊細さと惰弱さ。終幕に思うのは、“逞しいがゆえの繊細さ”と“惰弱がゆえの図太さ”との対比。この道のないロードムービーは、皮肉にも、道を発見した瞬間に終わる。共有したはずのWALKABOUTは少年には命懸けの通過儀礼であり、近い未来に回顧する少女には文字通りの彷徨だったのか。何が他の映画と違うのかは上手く説明出来ない、でも他に類を見ない無二の映画でした。観ることが出来て良かった。心の隅に静かに残り続ける映画にまた1本出会えました。 [DVD(字幕)] 9点(2006-05-15 22:57:44)(良:1票) |
2. チャイナタウン
ハ~ドボイルドでノワ~ル。監督が嬉しそ~にニコルソンの鼻を切ってた。フェイ・ダナウェイの浮世離れした鋭い眼差しが印象的。いかにも何かを背負っている感じ。何とも生々しくどす黒い世界でした。ポランスキー臭がぷんぷん。血と業と悪意の臭い。 5点(2004-08-22 16:14:01) |
3. ファンタスティック・プラネット
この邦題(英題)、皮肉として使われているのなら素晴らしいけれど、そうではなくただ単にキャッチーなものに変えたかった、というつまらない意図が見える。原題は「野蛮な惑星」。このままの方がよっぽど洗練されている。奇妙な設定と世界観、独特の絵やその動き、どこかしら漂う絶望感。醸し出される奇妙な排他性と残酷さ。訳も分からず感じるのは、神経を微妙に逆なでされるような不安感。そんな作品。捻くれたアートアニメが好きな方に。 9点(2004-08-06 17:40:35) |
4. サタデー・ナイト・フィーバー
橋の向こうとこっちが云々と言われた時は、そんな馬鹿な…!と笑ってしまった。現代版ロミオとジュリエット?(笑)。でも楽しい作品。古いとかダサいとかは全然思わない。今にも通用する普遍的な魅力がある。時代は違っても、若い人は同じような轍を踏むものなり。 7点(2004-08-06 17:35:38) |
5. ブリキの太鼓
ぬめぬめと温かく湿った内臓を連想させるようなグロテスクさ。観る者の生理的嫌悪を確信的に掻き立てる描写。強烈な不快感。それは表面的なグロテスク描写のせいだけではなく、もっとずっと深い所、この作品の根底に流れる何かに、心の奥の柔らかい部分を鷲摑みにされてしまったからだと思う。オスカル少年は成長を止め、刻々と流れる世界に組み込まれない異質の存在となることで、ポーランド暗黒の時代を客員的な視線で眺め記録する、客観の視点の体現者となった。つまり彼はクロニクルの叙述者であり、無意識的な道先案内人なのだ。しかし同時にポーランド暗黒時代そのものの体現者でもある。正常に成長の轍を踏まず、ある意味幼少期から少年期を丸々欠落させた彼は、まるでポーランドの“失われた時代”そのものであるかのようだ。幾層にも堆積し歪曲した不快なまでの悪意、グロテスクなメタファーで形成されたこの作品。難解ではあるけれど、根底にあるものは単純極まりない。根底にあるものは単純に、人間の業なのだ。人間は自らの業による汚辱からは逃れられない。あれだけ大人の世界を否定していたオスカル少年だって、モラトリアムの最中にあってさえ、実のところやっていることは大人と何一つ変わらなかった。触れられたくないものを、最も汚辱に塗れた手で掴まれたようだった。それは私の心の奥に一点の消せない滲みを残して去って行った。そしてオスカル少年は、結局は自ら汚辱の世界に戻って行った。それは暗黒時代の終焉であると同時に、1つの観念的な戦争における、徹底的な敗退の証明でもある。 10点(2004-07-31 22:34:18) |
6. 未知との遭遇
13歳の時、友人と一緒に、明らかに尋常じゃない様相を呈す飛行物体を見たことがある。この作品を観た時、その時の感覚を妙に鮮明に思い出した。今まで見たこともないものを見た時の戸惑いと、それでいて心がどこか心地よくざわめく感じ。この作品を包む、充足感と喪失感。何かを得、同時に何かを失ったような。何かと遭遇するということは、それまでの何かと決定的に別れなければならないということなのだ。一段上のステージに行く為には、それまでいたステージを後にしなければならない。こういう作品は、何がどうと言う訳でもなく、その鑑賞後、なぜだか淋しく、切ない気分になってしまう。それは私だけなのかもしれないけれど。 7点(2004-07-22 11:58:57) |
7. サスペリア(1977)
この作品に始まる、ダリ男の“美少女加虐3部作” (いや、別に3部作ではないが)。何というかこの3部作、作品世界はもちろんのことだけれど、女の子の雰囲気や行動パターンも凄く奇妙。特にこの作品の主人公は変だった。“異常な世界の正常な人”ではなく、“異常な世界の異常な人”というような。何とも奇妙奇天烈で不可解な世界観。ダリ男と言えばゴブリンの音楽だけれど、私個人としてはあの音楽は正直、やかましいし、うざい。 5点(2004-07-03 11:01:26) |
8. アメリカン・グラフィティ
昔この作品を観た時、良さが全く分からなかった。それは私がアメリカ人でもなく60年代も知らないからだと思っていた。でも多分違う。単純に若過ぎたのだ。この映画を良いと思えるのは大人の特権なんだろうと思う。思い出の容量が増え、かつそれらが容易には取り出すことの出来ない深部にまで達してしまった人間だけの特権。当時29歳だったルーカス。次に観るのは、当時のルーカスの年齢を超えてからにしよう。30代になってから。ま、すぐだけどね。20歳を越えたら年を取るのが音速並みに早いんだ。中身は全然変わんないのに。 5点(2004-06-20 20:24:59) |
9. ひまわり(1970)
こういう名作に関してアンチな感想を書くのは気が引けるのだけれど、名作だろうが何だろうが自分には合わないよ、という映画はある。誰だってそういうことはあるだろうと思います。私にとってこの作品がその1つです。【プチみかん♪】さんに全面賛同。 4点(2004-03-15 17:45:51) |
10. ピクニックatハンギング・ロック
説明しにくいのだけれど、何だかとても美しく残酷で怖い。ただ少女達が神隠しに遭う、それだけの話なのだけれど、私にとっては非常にドラマチックで味わい深い物語だった。“女の子がただひたすらに若く美しい”、それだけで残酷なんです。神隠しに合う少女達は皆、嘘みたいに美しく神秘的。少女達が節々で放つ言葉が、ゾクッとする響きを持ってじわじわと心に染み込む。そして誰が主役なのかも分からず、視点が定まらず、たまらないほどの不安感に駆られる。全編を包む不安定感と緊張に翻弄される、ノスタルジックな残酷メルヘン。個人的には「ヴァージン・スーサイズ」と「乙女の祈り」を足して2で割ったような雰囲気だな、と思った。静かで幻想的で残酷で底なしに怖く、神がかり的に美しい映画。 9点(2004-03-13 17:54:17) |
11. 悪魔のいけにえ
中途半端に狂うと生きてるのが辛いんだよねぇ。あいつらみたいに真性のガイキチになれば生きてるのも楽しいかも知れないねぇ。残酷描写をそのまま見せるのではなく、女性の怯える目を極限まで大写しにして恐怖を表現するなど、実験的で結果的に画期的とされた手法が随所に見られて感心したので、8点献上。低予算映画は名作の宝庫。 8点(2004-03-01 19:59:43) |
12. おもいでの夏
観た時は、何て滑稽な映画だろう、と思った。10代の少年はあんなにアホなのだろうか?いや、あそこまでアホじゃないだろう、いや、やっぱアホなのか…?と頭を抱えながら観ていた。でも時間が経ってから、そういう滑稽なことも時間のフィルターを通って美化されて行くという映画のコンセプトがじわじわと分かって来た。当初、お馬鹿でHなティーン映画的な内容と映像や音楽の美しさが異常に噛み合わないと思ったけれど、あの映像と音楽は大人になった主人公が思い出を回想する上で付加されたものだ、と考えれば全て納得出来た。思い出はただ思い出だというだけで圧倒的に無条件に美しいのだ。たとえどんなに恥ずかしく、滑稽で、馬鹿馬鹿しいものでも。反復してこの作品のことを考えるにつれ、この映画の名画たる所以が分かって来た。 7点(2004-02-20 17:35:19) |
13. 悪魔の追跡
岡田あーみんのギャグ漫画で、主要キャラが、どうしても追っかけて来る奴らに対して「ひいぃ、悪魔の追跡」みたいなことを言うシーンがある(笑)。本当にしつこい。視覚的なものより、目に見えない精神的な恐怖がある。小さい頃観て、やな感じに怖いと思いましたよ。 6点(2004-02-19 16:24:25) |
14. ハネムーン・キラーズ
トリュフォーにして「最も好きなアメリカ映画」と言わしめた作品。長い間カルトムービーとして密かに支持され続けて来たけれど、近年また注目されている。男前の結婚詐欺師と、太った中年看護婦の殺戮ハネムーン。ざらついた白黒映像で映し出される残虐な殺人劇。爽快さも共感も何一つ感じないし、救いもない。非常に稚拙な作品だけれど、妙に心に残る。そして私の大好きな作品、ギャスパー・ノエの「カルネ」の構想は、この作品から始まったらしい。なるほど。 6点(2004-02-11 14:43:54) |
15. 白い家の少女
《ネタバレ》 少女時代のジョディー・フォスターがとても妖艶。若く、美しく、尊大で、卑怯な位に魅力的。全篇を包むショパンの調べと、少し粒子の粗い美しくミステリアスな映像。ディテールの1つ1つ全てが印象的。丘の上の一軒家。金髪の美少女。姿を見せない父親。地下室。アーモンドの香りの紅茶。私が初めてこの作品を観た時、主人公の少女は年上だった。だからこの作品の魅力が分からなかったのかも知れない。今はあの13歳の少女が随分遠い。だからこそあの時とは比較出来ない程にこの作品が美しく、魅力的に思える。あの少女は今もあの白い家で1人、年を取ることもなく、あの姿のまま暮らしているような気がする。 8点(2004-02-03 23:58:06) |
16. 女囚701号 さそり
これを観ると、タラが「ビルを殺れ」を撮った理由がよく分かる。あれはこういう映画たちに対するオマージュだったのだな、と。いや、凄いですよ、この独自世界っぷりは(笑)。もう、大好き。究極に滑稽なのに究極にシリアス。破綻しまくりなのに誰もそれを気にしない。あの尋常じゃないテンションを保持したまま疲れも見せずラストまで突っ走る。力技ですよ。全てが斬新過ぎる(笑)。その上何だか妙に洒落ている。出て来る人たちのファッションやヘアスタイルやメイクがとても素敵。70年代ファッションファンは必見。終始微笑しながら観ていた自分に気付いてしまう。そして特筆すべきはあの梶芽衣子のワイルド・ビューティーぶり!もう、本当に圧倒される。美しい…。よく柴咲コウと似ていると言われるのだけれど、確かに映し方によってはハッとする位似ていると思う時がある。そりゃ、タラが惚れますよ。不純な感情を抱きますよ。そんな野性味溢れる美を放つ若き日の梶芽衣子を見れるだけでも、この作品を観る価値はあります。 9点(2004-01-28 00:56:26) |
17. 時計じかけのオレンジ
キューブリックは難しい。この作品の背景も意図もよく分からない。とても素人考えな解釈だけれど、オレンジは有機的で不安定で腐敗しやすいもの、つまりは人間と暴力のメタファーで、時計は無機的で硬質で正確なもの、つまりは規律や規範や管理や束縛のそれなのだろうか、と思った。時計を仕掛けられたオレンジ。その無理なコントロールはいつしか両者に破綻をもたらす。時計はオレンジの酸で侵食され、オレンジは静かに腐って行く。そう見受けた。この作品には、その「オレンジ」にも「時計」にも凶悪で不愉快なほどの暴力を感じる。キューブリックの確信犯的な企み、高尚で硬質で無機的な「キューブリックの暴力」。計算された暴力、キューブリックの私室の中の整頓された暴力。その部屋の椅子に座り、1人ほくそ笑んでこっちを見ている彼の姿が浮かぶようだ。とことん観客を高みから見下ろす監督だと思う。あと、全くの蛇足だけれど、ある友人が、私が下睫毛にもマスカラをバリバリに塗っているのを見る度にこの作品を思い出すらしい。確かにあのアレックスの目元は印象的。 9点(2004-01-24 15:01:39)(良:4票) |
18. テス
当時20歳のナスターシャ・キンスキーのあの美貌。この作品の醸し出す“寒い官能”とやらについて語られた記事を本で読み、観てみて何となくその意味が分かった。テスが醸し出す大人と子供の中間の危うい、それでいて絶対的な色気、それがゆえに運命が悪い方へと転がって行く。つまりは体感温度の低い性愛映画なのだなあ、と(大体、監督がポランスキーだから、本質はエログロ性愛映画には間違いない)。派手な性描写なんか一切ないのに、何だかエロい。ちなみに宮崎駿監督が、この映画のTVスポットの、苺をくわえるテスの姿を見て、「こんなドキドキする映画は絶対観に行かない」と思ったらしい(笑)。 8点(2004-01-22 21:21:39) |
19. エイリアン
リドリー・スコットの味。流石に光と影の魔術師で、硬質で野暮な金属の構成体たる宇宙船内部すら、どこか高尚でありながらも色気の漂う映像空間に変えてしまうそのセンス。1つ1つの陰影全てが不敵なまでの計算の下に映し出される。美しい。閉鎖空間で繰り広げられる、これ以上はないというまでの心理戦。「宇宙人との対決」というテーマは、一歩間違えたらB級映画にまで陥落しかねないのに、この作品にはそこはかとなく高貴な雰囲気が漂い、圧倒的なまでに詩的。SFホラーの金字塔とまで昇華されている。ただ1つ指摘するなら、人物描写が物足りないような気がした。登場人物の背景が一切見えず、主人公のリプリーという女性の魅力すら伝わらない。残念ながら彼女は私には、ただ自己中心的で強気の女性、というようにしか見えなかった。まあ、主役はむしろエイリアンだからいいのかな。相変わらず私の好みのテイストの映画ではないけれど、このシリーズには、好き嫌いの範疇を超えた、その功績に対する1つの敬意としての高評価を呈示します。 8点(2004-01-21 16:14:16)(良:2票) |
20. エクソシスト2
前作では悪魔との死闘がメインだったのに、今作では悪魔の探求というか、ルーツを辿ることに妙に時間を割いていて、それが冗長と言えば冗長。“精神世界を共有する”的な胡散臭い機械にも興醒め。ところで、核心に迫る会話の時などに、所々に光の輪みたいなものがぽこぽこ入って来たりするのは、意図的なサブリミナル?1でも色々とあったけれど。 4点(2004-01-19 21:24:08) |