1. 生きるべきか死ぬべきか
《ネタバレ》 最高に面白かったです。が、これは単純にギャグの笑いを求めると、絶対に!裏切られますよ。そういう次元の笑いじゃないんです。おバカなギャグの笑いとは対極の、映画より劇に近いシェイクスピアの次元の笑いです。って、例え出したら劇中劇で本当にシェイクスピア演ってるんですよね・・・。これストラクチャーがメチャクチャ凝ってます。考えなくてすむようなギャグなんて「ジャンプ!」(笑)以外は何も無いですが、そのかわり観れば観るほど面白さがが分かるスルメのような映画です。少なくともこの映画を抱腹絶倒と言える人は相当の通です。以上の点をわきまえた上でご鑑賞下さい。それにしてもクラーク・ゲイブルの奥様って綺麗だなあ。 [ビデオ(字幕)] 10点(2006-05-31 23:14:53) |
2. 真昼の決闘
《ネタバレ》 これは村の駐在さんがチンピラヤクザに狙われ村の衆に助けを求める話です。ジョン・ウェインのような骨太西部劇の無敵ヒーロー像や強い悪役、派手な銃撃戦に大アクションを期待する方が間違ってます。それにどんなへっぴり腰でも私から見れば銃を持っただけで人は怖いし、腕っ節よりも権力や人望があり、町の人が味方しない状況を見越している悪役の方が更に怖いです。もっとも駐在さんが年取っても格好いいゲイリー・クーパーだし、田舎町には掃き溜めに鶴のグレース・ケリーがヒロインじゃ勘違いもするわな。脇役みんな名優だし。それにしても現在の世の中は万能ではないにしろ、ある程度法律とかが守ってくれてるからいいんであって、そういうものがない何の保障もない世界での人間って脆いですね。ケーンが守ろうとしてたのは最初は自分と友人達で作った町だったかもしれないけど、彼らに見捨てられていく中、それでも守ろうとしたのは何だったのか。逃げても誰もケーンを責めないだろう状況下で彼が採った選択は人から見れば馬鹿かもしれないし、下らないかもしれない。でも多分ここで逃げたら、彼の中の何かが壊れて生きる屍になってしまう、そして一生自分に言い訳をし続けるんでしょう。最後は逆にケーンが町を見捨てました。文句も嫌味も何1つ言わずにただバッジを地面に落として。うーん、渋い、格好いい、立派な大人だ。彼らの代償は「あの時はああするしかなかったんだ。」「じゃあどうすればよかったんだ?」と言い訳と責任転嫁に終始するような見下げ果てた町になってしまったこと。間違ってはいないでしょう。でも何かが壊れました。ミラーのようなならず者はいくらでもいるし、町にはそういう奴らを望んでいる者もたくさんいる。もし再び同じような目に遭ったとしたら、この町の為に命を懸けられる人間はいるのか。ケーンは町の良い部分しか見ていなかったのかもしれないけど、信じていた世界に手の平を返され、たったの90分で崩壊して行く様を目の当たりにしてしまいました。素晴らしいけどとても残酷な映画です。 [DVD(字幕)] 10点(2005-12-22 03:50:09)(良:1票) |
3. 赤い風船
《ネタバレ》 まるで上質の絵本のような作品です。まず「ここなんて町?」と知りたくなります。パリのモンマルトルと分かるとただ下町の雰囲気や匂いを満喫するのみ。安っぽいアニメーションで作れそうだけど、やめて下さいね。それにしてもなんて可愛くてお茶目な風船なんだ。出会いのシーン、あれは男の子が風船を助けたんじゃなくて、絶対風船が男の子を待ってたんですよ。その後も男の子の気を引こうとすれすれのところで身をかわしたり、隠れてみたり、教室や教会に入り込んで追い出されたり、あの女の子の青い風船とのシーンは40秒しかないのに映画史上屈指の名場面になってます。あんな友達と一緒なら憂鬱な雨降りが楽しくて、思わず雨上がりの町を一緒に駆けていきたくなりますね。大詰めなんて悪ガキ達が極悪人に見えたほど(苦笑)。男の子は手を離したのに風船は彼を心配して遠くへ行けない、その結果当たったパチンコが致命傷でゆっくり地面に落ちていく。子供の世界じゃこんな大変なことが起こっているのに大人から見ればただ風船をめぐって子供が無邪気に遊んでいるようにしか見えないんですね、特に常識ある立派な学校の先生は。そんな先生に対し、風船は仕返しするわけでなし、軽~く頭を小突くだけというところが素敵です。こんな風船はけしからんと捕まえようとする先生から痛快に身をかわし、今度は見ないフリしますが風船は見透かしたように彼の後をついていきます。「こりゃ一体なんだい?」「いや、なんでもないんだ。ではまた。」そんな会話が聞こえてきそうで生真面目先生すら微笑ましく映ってます。風船を殺した悪ガキたちに対しても同じ、仕返しなどしないで、風船の死を悼む男の子の元にだけ大勢で集まり、一体感に包まれながら空へ浮かび上がる。この映画に理屈も台詞も必要ないし、映画に特にラストにどんな解釈をするかは各人の自由です。少なくとも妙に懲りすぎる最近のアニメやファンタジーが持たない素晴らしさがあります。本当に風船に演技させた作家のラモリス監督の手腕と人情味豊かな古き良きモンマルトルが見事に融合していて、子供のうちは勿論、大人になっても手元に置きたいと思わせる絵本です。 [ビデオ(字幕)] 10点(2005-11-15 03:41:56)(良:1票) |
4. 第三の男
《ネタバレ》 この映画を知らない人でも、実はハリーは・・・。という筋を知っている人は多いんじゃないでしょうか。そして主演:オーソン・ウェルズ、アリダ・ヴァリ、ジョセフ・コットンという順番で、ガイドブックとかに載っているのを見た人も多いんじゃないでしょうか。・・・でも、主役はどう観てもコットンなんですが・・・これはものすごく損な役回りですねぇ。やることなすこと言うこと全部裏目に出るし、女にはフラれ、警察では相手にされず、猫にはスルーされるし、オウムには噛みつかれるし、子供と野次馬には犯人扱い。そして、出演時間がトータルでも20分足らず(ロングショット込み)のウェルズに美味しいところ全部持っていかれるし・・・。じゃコットンの演技がダメかというと、とんでもない、名演技だし。要するにこの役は、大根だとバカだし、名演しても損、結局どう演じても割に合わないんですね。ホリー本人もアンナに「なぜ私達はいつもかみ合わず口論ばかりなんだろう?」と言っていましたが、それはホリーが無傷の戦勝国のアメリカ人で、ここが他国に蹂躙され、統治されたウィーンだからでしょう。酒場に入ってきた警官に毒づくような、分かりやすい西部劇のガンマンはここではただ間抜けなだけ。抜け目ないハリーは上手く対応できましたが、気が付いたら、観覧車からの点を見ることもできない地下水道で逃げ回っている皮肉。彼はむしろ無意識に、自分を裏返した性格のホリーを死刑執行人に選んだんだと思います。 それにしても、映像の美しい映画です。斜めのアングルと際立った影の使い方、壊れかけた荘厳な石作りの建物。ふとアップになる名もない人物の1人1人までが力強く、あの風船売りのおじいさんに至っては、私にはファンタジーに見えます。チターの弦がふるえる様すら美しいモノクロの映像美。完璧を追求した結果か、面白味に今ひとつ欠けるのは否めませんが、後から味が出てきます。素晴らしいです。 [DVD(字幕)] 10点(2005-08-16 15:09:49)(良:4票) |
5. 荒野の決闘
《ネタバレ》 墓場や酒場が先に建ち、教会や学校が建設中の未完成の町。一般市民と無法者、賭博師や娼婦が微妙なバランスで共存する。西部劇は大概こんな設定なので、映画としては分かりやすく、娯楽性の高いジャンルですが、この映画はその大筋を崩さずに、芸術の域に達した稀有な作品です。特にいいのは主役のワイアット・アープ役、ヘンリー・フォンダです。ただ、西部劇の王道のヒーロー、ジョン・ウェインと違って渋いです。寡黙であまり感情を出さず、友人になったドクに対しても、打ち解けた感じを見せないものの、ひそかに尊敬し、身体を心配します。町の治安にも銃をあまり使わず、けっして暴君にならない。 そんないぶし銀のような彼が、淑女のクレメンタインに一目惚れして、いきなり可愛くなっちゃいます。いきなり服装を気にして散髪したり、ダンスの申し込みをするのに、ええい言うぞと帽子を投げたり、まるで幼稚園の保母さんに恋した男の子のようです。青空の下のダンスは、足運びがもう最高でした。 もう一人のヒロイン、チワワは一人の男を想いながらも、他の男を受け入れざるをえない弱い女性です。私にはワイアットに毒づく姿が、ドクの言葉とは逆に弱々しく見えました。そして、家族だけの世界で世間から孤立した父親役を演じたウォルター・ブレナンもまたいぶし銀のような名演でした。クライマックスの決闘シーンは、邦題が「静かなる決闘」でも良かったんじゃないかと思うくらい静かです。台詞も少ないし、音楽もない。モノクロなのに青く見える空、決闘の小道具にもなった土煙りが素晴らしい描写です。助太刀に来た3人中2人に身内の問題だからと、銃から弾を抜くところが実直なアープらしいです。 ところで、原題と主題歌にまでなったヒロインの女性がクレジットの4番目というのも、けっこう珍しい映画じゃないでしょうか。まあ、オーマイダーリン、チワワには出来ないでしょうが(笑)。 [DVD(字幕)] 10点(2004-07-12 05:05:44)(良:1票) |
6. 用心棒
《ネタバレ》 力強いシネマスコープの構図が芸術的で、しかも面白いというお得な映画です。とりわけ、絶妙なのが舞台設定。広い宿場通りの両端に、跡目争いで対立する新旧ヤクザが陣取り、真ん中には、腰ぎんちゃくの十手持ち半吉が「九つでござあーい」と時報係をやっている番所と、見物台の火の見櫓。そして、舞台のへそである権爺の居酒屋、上下に開閉する窓がいいインテリアです。隣には最近棺桶が売れまくって、笑いが止まらない桶屋。斜向かい同士にはヤクザの跡目争いにかこつけて、名主争いをしている造り酒屋と絹問屋。まるで監督の手の平に、馬目の宿があるように上手く出来ています。そこへ宿場町の騒乱を収める(いや、掻き回す?)役目の桑畑三十郎。抜け目なく悪知恵を働かし、泥臭く、それでいてお茶目でユーモアがあるところが最高に魅力的です。もちろん強いし。女性が少ないのに、それを補って余りある独特の色気。目つきも肩をすくめるポーズも完璧、セリフも決まっていて、もう終始、彼のオーラに当てられっぱなしでした。他にも、鬼婆みたいな山田五十鈴、つながった眉毛がいいツボの加東大介、なかなか死なない仲代達矢、あ、ジャイアント馬場だ。と誰もが思ったであろう羅生門綱五郎、ただの頑固親父なのに、なぜか格好良い東野英治郎。あの志村喬にチョイ役に近いヒヒ親父をやらせたり、黄門様が2人も出てきたり(チンピラだけど)、すごいキャスティングです。これだけお得な映画だと、四の五の言わずに、三十郎の格好良さに酔った方がお得です。それにしても、三船と組んでいた時代の黒澤映画は本当、油がのってて(いや、贅肉がなくてかな?)、力強いです。全く引き延ばさずにスパッと「あばよ。」ああ、面白かった。 [DVD(邦画)] 9点(2009-06-10 01:21:54)(良:1票) |
7. キートンのセブン・チャンス
《ネタバレ》 これはもの凄いです。こうすれば面白いだろうというアイディアを全体に散りばめて、ぎゅーっと潰さずに凝縮して、たったの1時間弱にした感じの映画です。前半は「セブン・チャンス」のタイトル通りで、シャイで無表情でイケメンには程遠いキートンが、たったの半日で花嫁をゲットしなくてはならない話がメインです。知り合いの女性たち(当然7人)にフラれると、彼はあのストーン・フェイスで目に入る女性なら(中に若き日のジーン・アーサーがいるそうですが。)運転中の女性だろうが、髪カット中の女性だろうが、片っ端から声をかけ始め、ずんずん加速していきます。教会から話は反転、今度は「セブン・チャンス」を通り越して、増殖するインスタント花嫁集団(布を頭に被っただけ)から逃げまくって、走りまくって、転げ落ちる「run,run,roll down」の後半に突入します。ここからはキートンの大本領発揮、とにかく体を張った芸に唖然とするのみです。スタントは自分だけで、特撮はフィルムの早回しくらい。ギア調節できる加速っぷり、フットボール試合場でのジャンプ力、崖からのダイブ、有名な岩と転げ落ちるシーン、息も切らさず(少なくともそう見えます。)高速で走る姿はオリンピック選手どころか、ターミネーターも顔負けです。おそらく怪我をしても、あのストーン・フェイスでおくびにも出さず、最後まで芸を貫き通したと思われます。グレイト! [DVD(字幕)] 9点(2009-01-14 23:29:34)(良:1票) |
8. 波止場(1954)
《ネタバレ》 周りの労働者達やその家族達の、テリーへの態度の豹変振りに最初びっくりしたんですけど、すぐ気が付きました。他の仕事も労働組合もハローワークも何もないんですよね。ギャングのボスの機嫌を損ねて、クビになれば家族ごと即座に路頭に迷うか、テリーの兄のように消されてしまう。再就職は現在の日本のワーキングプアより難しい。とくれば、とりあえず、非難の捌け口は張本人のボスではなく、テリーに行きます。でも彼の決断も迷った末のもので、本当は正しいということが解っているから、テリーの喧嘩を通して、とうとう怒りが噴出しました。仕事を失うわけにはいかない、仕事をくれる以上、ボスをやっつけるわけにもいかない、でももう彼の言いなりはごめんだ。確かに今ではありえない労働条件だけど、そんなに古いかなあ?むしろ、本当にやりたい仕事に就けないとか、ギリギリの給料でやって行かなくてはいけないとか、違うと思っても上司だから強く言えないとか、現在に通じるところは少し形を変えただけでいくらでもあると思います。むしろ違和感があるのは神父ですけど、日本とアメリカの宗教観が違いすぎる以上、指摘してもしょうがない。家族と自分のために働き続けることが彼らの戦い、ラストのテリーがフラフラになりながら、仕事に入るところ、彼に従うように労働者達が仕事場に入るシーン、私は凄いと思いました。それに、この頃のマーロン・ブラントって純心な役すら似合ってたんですね。年取るにしたがって品がなくなっていくのが残念でした。 [ビデオ(字幕)] 9点(2006-07-27 01:22:43) |
9. ウエスト・サイド物語(1961)
《ネタバレ》 理屈なんてねえ。とにかくあいつらが嫌なんだ。チンピラ喧嘩もここまでの民族紛争レベルにきちゃうと、折角のマリアの善意はひたすら裏目に出まくるんですね。しかし、この争い、外で撮影したのは正解です。セットとか室内だと、篭りっぱなしで息が詰まります。あとハッピーエンドじゃないミュージカルは始めてみましたが、わたしは別に違和感なかったです。ていうか、ハッピーエンドの「ロミオとジュリエット」の方が有り得ないと思いますが。でもラスト、このジュリエットはロミオを失った悲しみより怒りの方が強く出てきたんですね。まあ死ぬ気にならなかったのなら、踏んだり蹴ったりのアニタを慰めてあげて下さい。 [DVD(字幕)] 9点(2006-07-10 03:47:41) |
10. 鳥(1963)
《ネタバレ》 やなラストだなあ。やな監督だなあ。この後、車を走行中に鳥が襲ってくるとか、町に着いたら鳥がいっぱいだったとか、変な想像ばっかりしてしまうじゃないですか。おまけに鳥が襲った理由も分からずじまい?そんなの酷い。近くの鳥の住処を人間が奪ったとか、餌場を奪ったとか(それじゃ熊だ。)、監督が集団催眠をかけたとか、アホくさい推測ばっかりしてしまうじゃないですか。そしてそれなりに人間ドラマを配したのは、全員が鳥に襲われる伏線に過ぎない?監督、ティッピ・ヘドレンを鳥に襲わせる時、逃げないよう縛ったって話は聞いたけど、それを差し引いてもあなたはサディストだ。最後に監督出演の予告編を観て、止めを刺されました。鶏肉食べようとして顔そむけたあれですよ。ついでに美人でも黒髪系は好きじゃないことがよーく分かりました。怖い映画でしたよ。でも1番怖いのは監督、あなたです。 [DVD(字幕)] 9点(2006-06-29 04:41:54) |
11. お熱いのがお好き
《ネタバレ》 素朴な疑問。周りの男共はあんなに可愛いシュガーちゃんを見ながら、なんであんな男女2人に言い寄るのか?・・・ていうか、まさかワイルダー監督はあんなバレバレ女装が通じる上に、周りの男共からモッテモテになってしまうという超目茶苦茶強引な設定で映画を作ってしまったのか?映画を観るにつれ、その疑問が本当だと気が付いたときはコケました。マラカス振っているジャック・レモンも服のまま風呂から上がったトニー・カーティスもダフネ命のジョー・ブラウンも、1人だけ大真面目に演っているジョージ・ラフトもみんなキテるって感じで最高。そしてマリリン・モンロー、歌もお尻も歩き方も意外と厚みのある体つきも超キュート。淀川長治氏が彼女をピンクのスイートピーだってどこかに書いていたのを見たけど、ピッタリです。それにしてもこんな完成度の高い痛烈なコメディを作ったワイルダー監督は才人ですね。笑いが痛くて最高な映画でした。 [DVD(字幕)] 9点(2006-06-10 14:12:50) |
12. 大いなる西部
この主人公、拳や銃を出す時は虚栄心で出さないという自分なりの信念に従って行動してます。それは素晴らしいんですが、かなり結果は裏目に出てますね。特に金髪の婚約者親子に。でも主役の海の男が現れて、とんとん拍子でいがみ合う一族同士が和解する話はあり得ません。少なくともボス同士がケリをつけようと対決するのは兵隊任せの全面戦争よりまだいい方なのかもしれません。でもこの解決法に納得いかないとしたら、非公式で現地入りして兵士を激励した後はさっさと日帰りするブッシュ大統領のせいかもしんない。 [DVD(字幕)] 9点(2006-06-06 20:00:14) |
13. 大いなる幻影(1937)
《ネタバレ》 将校相手とはいえ、現在の私達が持っているイメージからすれば、考えられないこの映画の捕虜収容所。結構みんな好き勝手やっていて楽しそうだし、敵のドイツ軍は紳士的で親しみさえ感じます。実際、第一次大戦の空軍はそれまでの戦争が持っていた、紳士的なルールや騎士道精神を相当重んじていたそうです。そして、それらは数ヶ国の帝国、皇帝や貴族と一緒に消えていきました。第一次大戦は、楔の役割があった特権階級が滅び、世界が混乱に突入する不吉な戦争でもあったんです。そんな中、貴族や平民、ユダヤ人、フランス人たちが階級や人種を超えて、協力し合うのも、大詰め、2人だけを脱走させるために、全員で笛を吹いて協力するのも、すごいヒューマニズムだと思いました。ドイツ人の農婦エルザも、敵のフランス兵2人を無償で匿います。脱走アクションものでも、リアルな戦争ものでもないこの映画。エルザと出会ってからは追われている緊迫感すらありません。善人ばかりが出てくる、この映画のどこからどこまでが幻影なのか?観ているうちに解らなくなってしまったのが悲しいです。 それにしても、この映画での怪優シュトロハイム演じるラウフェンシュタインの存在感は凄いです。脊椎をやられて、のけぞりながらお酒を飲む姿がたまりません。部下に上着を脱がせるところなどもコミカルで楽しいです。地味ながらピエール・フレネーも好演だし、お茶目なカレットら脇役陣が素晴らしいです。ジャン・ギャバンは他の俳優たちに食われた感がありますが、ローゼンタールとのコンビが素晴らしく、映画に華を添えています。強いていえば、音楽の使い方にだけ、ちょっと不満が残りますが、そんなのは些末なこと、後年の映画にやたらパクられまくる、名作の古典映画です。最後に蛇足ですが、女装の男に目が釘付けになってしまう状況はなかなか怖いと思いました。かなり笑えましたけど。 [DVD(字幕)] 9点(2006-03-06 08:17:02)(良:1票) |
14. 西部戦線異状なし(1930)
《ネタバレ》 ハリウッドがアメリカのアの字も出さずに、完全にドイツの立場から撮っている珍しい映画です。登場人物はドイツ人なのに英語をしゃべるし、名前を調べでもしておかないと、見分けがすごくつきづらく、マイナスポイントがかなり目立ちます(すぐ分かるのはポール、カット、ジャーデン、ウェスタスくらい)。なのに、それを差し引いても素晴らしい出来の戦争映画です。第一次大戦前までは、馬に乗る騎兵で敵陣に突入し、本当に英雄になる可能性もあったそうですが、この戦争では機関銃等、兵器が進化し、戦闘機や終盤では戦車が発明されてしまった上、何ヶ国も介入した結果、そもそもどこの戦争か分からないくらいメチャクチャな世界戦争になってしまいました(元々はセルビアとオーストリア)。中盤、ポールたちが束の間の休息を味わっている時に交わされる「なぜ国が攻撃する?ドイツの山がフランスの原を怒ってるのか?」と論争する場面は、現在とまったく変わらない状況が痛いです。 それにしても、エキストラの数、爆薬の量、塹壕のセット、砲撃、すべてが半端じゃなくリアルです。実際に本当に大ケガした人がいるんじゃないでしょうか。戦争体験者が制作側にいて、こういう映画を作らずにはいられない、やり場のない怒りを感じていたような気さえします。あと、この映画は窓や入り口が画面の中央になることが多く、構図的にも話としてもポイントになっていますが、塹壕の入口が砲撃で埋まりかけるところは、観ているこっちまで閉塞感を感じてしまいました。それと、カットやジャーデンたち古参兵は優しいいい人ばかりで、いじめがないのが意外でよかったです。そして、最後の蝶の場面。故郷を拒否し、友人たちを亡くし、生きる希望が見えなくなったポールが、魂の象徴の蝶に導かれるように手を伸ばす。それまでバックミュージックが全然ないのに、この場面は寂しげなハーモニカの音色が聞こえてきます。この演出は原作になく、誰のアイディアかは分かりませんが、映画史上に残る名場面でした。それにしても、つくづく戦争は映画だけにしてほしいです。 [DVD(字幕)] 9点(2006-01-22 00:37:21)(良:2票) |
15. 或る夜の出来事
《ネタバレ》 エヴァンゲリオンのアスカはこの映画知ってたのかなぁ?と、しょうもないことを考えつつ観ましたが、初めて観た気がしないほど、後の映画に真似され続ける映画です。台詞が粋で、テンポも軽快、見せ場もたっぷり。クローデット・コルベール演じるエリーは、気が強くて、わがままで、美人じゃないけど、とてもエレガントでチャーミングです。途中からピーターをじっと見つめる姿が増えてきて、だんだん綺麗に見えてきます。バスを降りてから、川を渡って野宿する辺りは、背景までがきらめくように綺麗です。そして、文句言い放題だった彼女が人参をかじるシーンが秀逸でした。ゲーブル演じるピーターは機知に富んで、ユーモアがあって、紳士的です。正体を知る前から、なんとなく気にかけ、とんだ女に引っかかったと文句言いながら、エリーの世話を焼く姿が本当に上手いです。モーテルでのお芝居夫婦喧嘩(←上手かった)でブラウスのボタンを外したり留めたりしていたところで、実はもう深みにはまってたって感じがしますし、歯に挟まったワラを取ってあげてたところは、もうすでに実質的夫婦でしたね。エリーを迎えに車でモーテルへ向かいながら、浮かれて歌う姿が最高でした。ヒッチハイク等、有名すぎるシーンの数々は言うに及ばずですが、実は2人の間にキスシーン1つすらないのに(未遂あり)、ここまでロマンティックなコメディを作り上げたキャプラ監督もすごいです。実はとても粋でいい人だった(笑)編集長とエリーパパも良かったし、2人の姿を登場させずにハッピー・エンドを演出したのも憎い演出です。ジェリコの壁の上品でエロティックなオチには、思わずみんなにんまりしちゃうんじゃないでしょうか。最後にピーターに一言、♪曲芸の飛行機乗り♪に勝って、おめでとうございます♪あと、ドーナツの食べ方は私も実践してます。 [DVD(字幕)] 9点(2005-12-06 01:54:41)(良:2票) |
16. 旅情(1955)
《ネタバレ》 ベニスは綺麗だなあ。ヘップバーンは演技上手いなあ。イタリア男はミもフタもない言い方の口説きするなあ。と、感心して観ていました。浮気や不倫をあそこまで堂々と健康的に演説されたら、反論するエネルギーが勿体なく感じてしまう。息子も父は貴女に夢中なんて、さらっと言うし、マウロも将来有望そうだし、ベニスという町がそうさせるのか、大方のイタリア男性がそうなのか知りませんけど、ともかくこの映画のおかげでゴンドラとラビオリのイメージが180℃変わりました(苦笑)。 ところで、日本ではヘップバーンといったらオードリーですが、アメリカじゃキャサリンだそうです。確かに美人じゃないけど、日本人の私にも解るほどの流暢な英語の発音、寂しい時の演技、足の組み方やブラッツィと踊っているときの指先や表情、この時ヘップバーン48歳だったそうですが、彼女が可愛く見えてしまったほど、べらぼうに上手いです。一方のロッサノ・ブラッツィは39歳、ヘップバーンの脚線美を見る目がいやらしくて(すみません。)、はまり役でした。手に出来なかったクチナシや1つだけのゴブレットに象徴される、実を結ばない恋に共感するか、一歩引いてしまうかは観る人次第ですけど、スパッとした別れの言葉のタイミングの見事さと潔さには、引き込まれてしまうと思います。そして、ベニスの美しい映像とありきたりのメロドラマがこれだけマッチして、名画になった例はまずありません。ただ、やっぱりこの映画は、ちょっと年を経て、年代の差を実感するような年齢になったらお薦めします。ああ、この映画の味をわかる年になったんだなあ。と寂しさが混じった感慨の心ひとしおになれます。まあ、無理にとは言いませんが(笑)。 [DVD(字幕)] 9点(2005-10-02 11:45:53)(良:1票) |
17. キートンの大列車追跡
《ネタバレ》 「蒸気機関車は石炭を食べ水を飲む。人間に近いから好きだ。」とあるSLファンがTVで言ってたのを思い出しました。この映画では石炭よりも前の焚き木の時代です。つまり遅いです。レールもチャチです。でもだからこそ、のんびりした追走劇と走りだすと忍者の如きキートンの名人芸を堪能できます。逃げる側はその辺のものを落としたり壊したり、貨車を切り離したりして障害物を作る。追う側は列車からその都度降りてブツを退かし、ポイントを切り替える。線路脇には所々、焚き木が積んであるし、手動の給水槽がある。走り出した列車を足や自転車で走って追いかけて、おいこれで追いつくのかと思ってたら、追いつくし(笑)。薪割りに夢中になって敵地に入ったことに気付かなかったり、ホントのんびり。毒もあります。人死ななくていいなあ。と思ってたらラスト近くの10分間で結構死ぬし、それをギャグにしているし。この映画は公開当時、悪趣味だと酷評されたそうですがこの辺が原因かな?でも無理に戦争を美化しないところにキートンの戦争に対する見解があると思います。ラストは軍人になれてハッピー・エンドだけど、南軍は戦争に負けるという事を知っていて、主役の設定を北軍にしなかったところがキートンらしいです。個人的にはキートンがフラれたり、みんなが行っちゃった後にポツンと佇んでいる姿が好きです。逆に1人で走ってたらいつの間にか沢山いた、ってのも好きですが。ここでは軍隊に入れず恋人に絶交された後、キートンが機関車の主連棒(というのかな?)に座ってたら動き出すところがなんかいいです。SLに乗るならあの棒に座ってみたいなあ。あ、もちろん車庫入れ速度で。 [DVD(字幕)] 9点(2005-09-20 01:04:07) |
18. 禁じられた遊び(1952)
《ネタバレ》 これはなかなかすごい恋愛映画ですね。パリジェンヌ、ポレットに憧れる田舎の貧しい少年ミシェル。彼女に十字架を貢ぎまくる彼の姿は一途過ぎて悲しいです。教会で2人が見つめ合うシーンがありますけど、相手は子供なのに(子供だから?)とても綺麗で思わずドキッとした人は多いと思います。 この映画でポレットは死んだ母親の頬を不思議そうに撫でた後、痙攣を起こした犬だけを抱いて、歩き出してしまいます。母親と同じ柄のお揃いの服を着ていることからも、仲のいい親子だったことは明白で、ここからポレットは現実を受け入れられず、非現実の世界に入ったと思われます。グリム童話のように森を彷徨い、ミシェルと出会ってドレ一家に置いてもらった夜、彼女はうなされ、悲鳴を上げて目を覚まします。翌日からポレットは「村長」のいる水車小屋でミシェルと墓を作り、十字架をかけ、祈りを捧げる作業に没頭します。その後、彼女はうなされません。子供なりに犬の墓作りから彼女が必死に喪の儀式に取り組んでいることが分かります。でも肉親の死は犬の葬儀だけで収まるわけもなく、エスカレートしていきます。最後に優しかったドレ一家に見放され、ミシェルと引き離された駅の雑踏の中で、ポレットは唐突に非現実の世界から現実に引き戻されます。両親の死後、初めて「ママ・・・」と涙ぐむのです。こうなると、ああ、やっぱりこれは反戦映画なんだと思います。ミシェルはポレットのネックレスと秘密を100年預かってくれと梟に渡しました。墓穴に落ちても喧嘩をやめない、隣人同士の滑稽で醜い争い。あっさりとミシェルとの約束を破った大人たちの狡さや、子供たちの無邪気で残酷な処世術。そして、いまだに止まない戦争。叡智の象徴の梟の目に、これらはどう映るのか。梟はただ静かに黙って見ているだけです。きっと今も。 [DVD(字幕)] 9点(2005-09-12 23:56:31)(良:2票) |
19. ベニスに死す
《ネタバレ》 ベニスが舞台なのに、鉛色の空が寒々しく、砂混じりの熱い季節風シロッコが吹き、サン・マルコ広場のようなメジャーな観光地はほとんど出ません。しかも後半になると、死の都になってしまい、白い消毒液と煙の臭いが漂ってくるようです。でも、美しい映画です。アッシェンバッハ教授を演じるダーク・ボガードは、おそらく生涯最高の大名演です。ヤな役だけど。そして、ビョルン・アンデルセン演じるタージオは、本当によく探し出したもので、とても美しく耽美的です。ヤなガキだけど(笑)。教授はそれまで生涯の大部分をかけて、美しい絶対的なバランスの音楽を作り上げようと努力してきたのに、自然の美にあっけなく負かされてしまいました。それはタージオが大人になれば消えてしまう一瞬の悪戯のような美、教授は彼と視線を交わすだけで、触れることも言葉を交わすこともできません。シルヴァーナ・マンガーノ演じるお母さんも印象派の絵画のように綺麗で、教授も最初、見とれるシーンがありますが、多分、優雅な貴婦人だと感じただけで、心を奪われるのはタージオの方なんですね。コレラのことを知った後も、家族に忠告してタージオの頭に触れる想像をするだけで何もできず、老いらくの恋を糧に作曲に打ち込むことも、ミュンヘンに帰ることもできずに、ストーカー化した自分の滑稽さを笑うだけでした。やっぱり芸術家としては今ひとつだったのかもしれません。ただ、恋する男としては至福の死に方でしょう。この映画は取っ付きにくいかもしれませんけど、何度も挑戦して観る価値は絶対あると思います。どうしても駄目なら、最初は倍速にして観てもいいと思います。台詞があまりないので、回想のアルフレッドとの論争のみ気を入れれば大丈夫です。しかし、2倍速にして最後まで見られる映画も珍しいなあ。 [DVD(字幕)] 9点(2004-07-27 04:24:15) |
20. サンセット大通り
《ネタバレ》 よくもまあ、こんなもの凄い映画を作ったもんです。役柄に酷似した俳優を、情け容赦なく使うワイルダー監督も凄いですが、引き受けた上に、世紀の名演を見せた俳優たちはもっと凄いです。中でも圧倒的なのはグロリア・スワンソンの眼、表情、仕草、1度見たら忘れられません。そして、変質的なシュトロハイムがぴったり彼女に追走して、怪奇で、それでいてリアリティのある世界を作り上げました。ホールデン演じるジョーは2人の女の気持ちを、どちらも本人に言われるまで、全く気付かなかった野暮天だけあって、身の危険に鈍感すぎました。まず、チンパンジーの葬儀から始まる、こんな呪いの屋敷に足を踏み入れてはいけません。重症の夢遊病者は起こす以前に見てはいけません。とはいえ、経済的に追い込まれた状態でこんな屋敷に迷い込んだら、少しの間だけと、プライドを売り渡さずにいられるかどうか・・・。ずぶずぶとノーマにはまってしまったジョーが最後(最初?)に撃たれてしまうのは、必然的な展開ですが、凄いのはその後のマックスです。ノーマの罪を隠したり庇ったりするどころか、ノーマの映画出演と自分でノーマの映画を撮る、一石二鳥の夢を叶えるために利用してしまうとは・・・。人生最後の、一瞬だけの夢のために。ところで、「サムソンとデリラ」の撮影シーンはデミル監督だけでなく、ガートルード・アスターやジュリア・フェイとかがいて、本当にワイルダー監督は映画が好きなんだという思いは伝わってきました。ただ、この主人公たちのように、どこか屈折した思いではありますが。 [DVD(字幕)] 9点(2004-07-24 02:59:19) |