1. ウォール街
マイケル・ダグラスが中盤で語った「われわれは何も生み出さない。世の中に存在している富を分配するのが仕事だ。自分の懐により多く集めることの何が悪い」といった趣旨の言葉がこの業界を的確に言い表していると思いました。右から左に株を動かすだけで金を儲ける仕組みはさぞ複雑かと思いきや、株価の変動を予測する情報戦であり、義理人情が介在しないゲームのように単純明快。シーン親子の熱演も相まって、職場体験をした気分になれました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2012-02-19 15:28:36) |
2. シャイニング(1980)
《ネタバレ》 ただのホラーといえばそれまでなのですが、キューブリックが料理するとここまでのものになるとは。オープニング、空撮から美しい自然に囲まれたホテルへフォーカスしてゆくショットから期待が高まり、一介の雇われ管理人から徐々に変貌してゆくジャック・ニコルソンのあくの強い演技も見事にはまっています。静まり返ったホテルの廊下を走る三輪車を後方から撮るステディカムのぶれない画像、絨毯やリノリウムの床などを通過する際に出る車輪の摩擦音、そして停車する際に映る超現実的な映像。突然の大音響と血みどろの映像が主体ではなく、人の内面からにじみ出るものをキューブリック独特の質感とともに映すことに成功した作品といえます。 [DVD(字幕)] 7点(2011-12-18 13:18:20) |
3. その男、凶暴につき
デビュー作にしてこの完成度。ショット、間、役者の表情と視線、暴力の反復と応酬。一々が私の好みです。 [DVD(邦画)] 9点(2011-12-18 13:08:34) |
4. トップガン
中学生の頃、戦闘機に夢中だった私が各種洋画劇場でビデオ録画し、繰り返し鑑賞した作品です。行きつけの名画座でトニー・スコット作品2本立ての1本目が『アンストッパブル』、そして2本目が本作とのことでパンパンの期待で観に行きました。が、『愛と青春の旅立ち』をトムキャットでコーティングした激甘のラブロマンスでした。F-14での訓練・戦闘シーンの記憶が色濃く残っていましたが、十数年振りに鑑賞してみると添え物程度。演技力を必要としないご都合主義的なカットとありがちな展開で、ルックスがそこそこ良ければ誰が演じても同じような作品といわざるを得ません。せっかくのトム・クルーズもこれでは勿体ないです。リアルに思えたドッグ・ファイトも、派手な機動をぶつ切りにして編集されていて、空中戦特有の3次元感覚が皆無であり、誰がどこに位置していてどんなふうに有利で不利なのかがわからず、都合よく騙されているような印象を受けます。評価は思い出補正なしだとこんなものでしょう。ただ、映画館で鑑賞できたのは貴重な体験だったので+1点してます。 [映画館(字幕)] 5点(2011-04-13 00:17:55) |
5. ドラえもん のび太のパラレル西遊記
新ドラえもんが私のドラえもん像とあまりにもかけ離れていたので、口直しに一番よく観た作品を見返しました。これですよこれ。のび太のわがままに付き合い、ジャイアンとスネ夫の間に立つ面倒見のよさがあり、ドラ焼きが好きで、でもちょっと間が抜けているドラえもん。ドラえもんのいるのび太の部屋から、彼の道具によって非日常への扉が開かれ冒険が始まるこの高揚感。パラレルワールドを西遊記という誰でも知っている枠組みを使って子供にもわかりやすく切り取ってみせた見事な作品です(同じ頃に夏目雅子と堺正章の『西遊記』がテレビシリーズで放映されていて、三蔵法師が本当は男であったことを知り驚きました)。また子供にとっての「お母さん」に対するリスペクトに溢れた作品であるというのも素晴らしい。ドラえもんシリーズは本質的にSFであることがよくわかる作品です。ただ子供向けであるがゆえの宿命か、情報量の密度が低いのが痛し痒しなところです。 [DVD(邦画)] 7点(2011-02-27 13:07:55) |
6. 裸の銃を持つ男
2011年一発目の映画ということでハズレのない作品を妻とチョイスしたのがこれ。小さい頃淀川さんの日曜洋画劇場で観たことを思い出しながら鑑賞しました。齢を重ねたせいか笑えるシーンが増え(ほとんど下ネタでしたが)全編爆笑の嵐でした。所々に「映画のお決まり」をネタにするところもあり、ドアを蹴破ろうとして足が抜けなくなる場面など、映画ってやっぱりうまくいくようにできているものだなぁと思いました。それにしても実に卑猥なタイトルです! [DVD(字幕)] 7点(2011-01-02 13:00:54) |
7. ブラック・レイン
大阪・心斎橋の引っ掛け橋、十三の風俗街、阪急百貨店前の天井の高い通路(建替えでもう見られなくなった・・・残念)など、大阪が舞台のポリスアクションです。私、大阪出身でして、大抵のシーンがどこで撮られているかがわかります(ちなみに松田優作の女のいるバーが入っているビルはハリボテです。あんなものは心斎橋にありません)。リドリー・スコット以下、マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシアらが見知った場所を走り回っていたことを思うと無性に嬉しくなってしまいますね。ハリウッドのポリスアクションに欠かせないエンタテイメント要素である車・銃・女の三大要素が日本を舞台として選択されたことにより見事に排除されて、オートバイ・ヤクザそして大阪弁に代替されています。日本という舞台設定は『キル・ビル』のようにタランティーノの趣味の延長ではなく、そんなアホなというシーンはあるものの、作品のテンションを持続させるため大真面目に演出のネタとして生かされています。例えばデコトラ。主要人物が乗っているわけでもなく、大阪だからといってそこらへんを走っているわけでありませんが、日本という得体の知れない土地を表現するため目にとまったのでしょう。そして松田優作。ジャパニーズ・ヤクザとして胸を張れるのは本作における彼の演技以外知りません。ヤクザ連中のドスの効いた大阪弁も素晴らしく、島木譲二が本物のヤクザ役を張っていたり、十三のネオン街や卸売り場の屋台など、異国情緒を演出すべく大阪文化総出で挑んだ傑作です。 [DVD(字幕)] 9点(2010-12-26 23:06:41) |
8. ビッグ
《ネタバレ》 以前観たときは非常に楽しめたのですが、今回観直して見てさほど惹きつけられませんでした。トム・ハンクスの演技が炸裂していて安心して観られる作品であることには違いないのですが、いまいちヒロインの魅力がパッとせずのめりこめませんでした。でもおもちゃ屋でのピアノシーンはいいですね。 [DVD(字幕)] 5点(2010-12-26 00:18:36) |
9. ふるさと
《ネタバレ》 思い出深い作品です。徳山ダム建設により、ダム湖に沈む定めとなった村落に住む老人と少年の物語です。ダム工事で生計を立てる息子夫婦と家に置き去りにされた老人。岐阜の工場で仕事をしていた頃、岐阜市柳ケ瀬の映画館で鑑賞しました。観客は30人ほどだったでしょうか。映されるのはダムの底に沈んだ街であり、もうこの世には存在しない土地。二度とふるさとを見ることはできず、訪れることすらできないというリアリティが胸に迫り、生まれ育った土地を離れようとしない老人の気持ちが実に痛ましいほどに伝わってきます。鑑賞後、金華山という岐阜県・愛知県を一望できる山に登り、街の灯りを眺めながら、この街が深い谷に沈むとしたらどうだろうかと想像しました。人々は何を思い、どこへ行くのだろうかと。それでも人々は生活を続け、生きられる限り生きるのに違いありません。それは一体何なのか? 何がそうさせるのか? 知りたくてその週末に完成した徳山ダムを訪れました。一見、山道を行く際に通り過ぎる何の変哲もないダムであり、人里離れた山奥には不釣合いな高規格の道路が整備されていました。教えられなければ底に街が沈んでいることはわからないでしょう。ただ、水面に向かって伸びてゆく急勾配の道と、錆びた速度標識が生活の名残をとどめていました。ふるさとを失っても人々は生き、今日もどこかで生活を続けている。ただそれだけであるということ。人間の業ともいうべきなにかに触れた気がして自分が生きていることに対する感謝の念が湧き立ったことをよく覚えています。映画によって現実の行動を喚起されたのはこれが初めてだったかもしれません。満点です。 [DVD(字幕)] 10点(2010-12-22 23:06:19) |
10. オールウェイズ
《ネタバレ》 恋人を遺して先に死んでしまったパイロットが、恋人と真に別れるまでを描いたファンタジー映画です。ホリー・ハンター目当てで手に取ってみましたが、小学生の頃淀川さんの解説つきで日曜洋画劇場で放送していたのを思い出しました。「なぜ恋を重ねることができるのか」「与えられた一生を生きるとはなにか」といった、あまたの映画が描いてきたテーマなのですが、全編に渡りかなりコテコテな演出でもって見せられるためか、ちっともキュンとしない作品です。ラスト10分はホリー・ハンターの演技が炸裂して、ホリー好きの私としてはそこそこ満足できました。 [DVD(字幕)] 5点(2010-12-22 22:33:09) |
11. レインマン
《ネタバレ》 破産寸前の外車ディーラーを演じるトム・クルーズが、勘当状態にあった父の訃報をきっかけに施設で生活していた障害を持つ兄(ダスティン・ホフマン)の存在を初めて知り、ロサンゼルスまでの数日間の旅を追うロード・ムービーです。始めは意思疎通もままならなダスティン・ホフマンを邪険に扱っていたトム・クルーズが、兄と心を通わせてゆくきっかけが自分にとって益となる(お金をもたらす)から、というところに綺麗事ではないリアリティを感じます。 [DVD(字幕)] 5点(2010-12-22 21:41:27) |
12. ランボー
《ネタバレ》 戦場でしか己を見出すことができなくなされてしまった男がアメリカに生まれた悲劇。ベトナム従軍後、NYに戻った『タクシードライバー』のデニーロは幸運だった。都会の多様性が彼を許容したが、田舎町の保安官はその閉鎖性と同質性に長く浸かりすぎているがゆえに、よそ者の中に血の匂いを鋭敏にかぎ分けてしまいます。保安官は長く慣れ親しんだ自分のやり方を強引に押し通そうと山狩りを始めますが、類稀な戦闘能力を持つランボーは、意図せずにして己のフィールドに保安官一派を引きずりこみ、圧倒します。その先天的な、あるいはトラウトマン大佐によって刷り込まれてしまった、ほとんど肉体的反射というものに近い恐るべき戦闘能力でしか世の中を渡ることができなくされてしまった男の悲劇です。「戦闘マシーン」ではない独りの男としてランボーが描かれる、戦友を訪ねる冒頭のシーンと、ラスと、トラウトマン大佐に慟哭するシーンが、強く印象に残る傑作です。 [DVD(字幕)] 8点(2010-12-11 13:42:44) |