1. 乱
《ネタバレ》 黒澤のカラー映画ってぶっちゃけどうなんだろう?、あまり良い評判聞かないけどなぁと思い、長年手を付けてなかったが、この機に本作「乱」に挑んでみた。 鑑賞してみると、いやいや、前評判を十分吹き飛ばすくらいに、力のこもった大作だった。 カラーになったとはいえ、これぞ黒澤と言わんばかりの、壮大なセットを背景に群衆や天候を縦横無尽に活用した、ダイナミックで躍動感あふれる画づくりは健在。本作ではさらに、ヴィヴィッドな色彩も重要な要素になっている。それぞれが身にまとう衣装の色の違いで各陣営・各登場人物を明確にさせる、あるいはショッキングな演出の肝となるなど、カラー映画だからこその工夫も抜かりない。クライマックスで、楓の方を処断するシーンの演出には痺れた。まさに構図で語り、構図で魅せる。さすが巨匠黒澤。 その他の見せ場でいえば、中盤の城攻めのシーンがまさに出色。蜘蛛之巣城でやったホラー的演出をさらに進化させたような場面であり、次々に斃れていく兵士たちの凄惨さ、刺し違えて自刃する女たちの痛ましさなど、このシーンだけ切り取ったとしても、日本の戦国ならではの凄惨極まる戦の表現に成功しているといっていい。 ちなみに作品の欠点としては、映画というよりはむしろ舞台劇になっていることだろう。特に狂阿弥と丹後の台詞はもはや舞台劇のそれといっていい。役者の演技はともかくとして、映画としてはかなり不自然でくどく感じてしまった。全編を通して、映画というよりは、もはやビッグスクリーンで壮大な舞台劇をやり切った感が強い。人によって好き嫌いが出るのはこのためではなかろうか。私も若干違和感を拭えなかったので、満点評価とはしていない。 なにはともあれ、世間にあまたあるシェイクスピアのリア王の翻案としては、最も成功した作品と呼んでもいいだろう。 [DVD(邦画)] 8点(2022-08-14 19:25:36) |
2. ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー
職人気質な男たちとスタイリッシュな夜の映像を撮らせれば天下一品、マイケルマンの映画デビュー作。良くも悪くも監督のエッセンスが凝縮された一作。シンセサイザーを多用した、タンジェリンドリームによる80年代感全開の妖しいBGMも、意外と映像とマッチしている。 物語そのものは非常にシンプル。たとえるなら、『鬼平犯科帳』に出てくる本格派の盗人を主人公にしたような話。昼間はしがない勤め人、夜は凄腕の盗人。長い牢屋暮らしを経て、最後のお務めを果たした後は、足を洗って堅気に暮らしたい…。書き起こすと、そのまんま鬼平犯科帳にも流用できそうなプロットをしている。池波正太郎の世界観が好きな人は、きっとこの作品を好きになれるだろう。 プロットはシンプルながら、ディティールへの異様なこだわりが、作品に独自の色をつけている。金庫破りの手口は、実際に犯罪者たちが行っていた手口を再現したものだという。金庫破りを達成したあとのジェームズカーンの表情が特に印象に残る。この一連のシーンが映画のハイライトになっており、実はそれからあとの展開は蛇足のようなものだ。身辺整理とはいえ、妻を追い出したり、家や仕事場を爆破したりと、無茶な展開が多い(マン監督の悪いエッセンスが出ているのはここ)。 マイケルマンの原点ということで、少し甘めの8点評価で。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2021-07-14 07:46:32) |
3. 汚れた血
最初から最後まで、この作品に共感することができなかった。自分の中で久しくなかったことだが、ハズレ作品を選んでしまったようだ。作品のほとんどすべての要素において、感性が合わなかった。デイビット・ボウイのモダンラブがかかるシーンすら、カッコいいとも思えず、ただクソガキが恋心をこじらせておかしくなってるだけとしか思えなかった。 ジュリエット・ビノシュとジュリー・デルピーが本作の救いで、彼女たちの若々しく、美しい姿がなければ、途中で挫折したのが確実だったろう。 思春期の焦燥を、詩的な台詞と感覚的な映像で表現した作品なのだろうが、この台詞がなんというか、奥行きがない。詩的だが、詩情がないというべきなのか。監督が制作当時若過ぎたせいもあってか、己の感覚任せに台詞を書いている感じで、この詩的な台詞が物語の筋にのちのち関わったり、あるいは登場人物たちの人間性や生き様を表すこともないため、観ていて、子どもが延々とポエティックな能書きを垂れているだけにしか見えなかった。ストーリー展開も粗があるため、退屈で興奮することもできない。製薬会社に侵入してからの、諸々の描写の雑さには唖然とするしかない。なんで警察はこんなクソガキ一人捕まえられないんだ(笑) [DVD(字幕)] 3点(2020-05-05 20:22:35) |
4. 恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ
《ネタバレ》 ミシェル・ファイファーがビジュアル的に向かうところ敵なしだった時期の作品。もうね、ほんと無敵の美しさ。 蓮っ葉でちょっとやさぐれた、けれど華々しい美しさをもつスージー・ダイヤモンドを好演。赤いドレスがとにかく似合っていて、かっこよくて美しいこと。 彼女に魅了された熱狂的なファンが多いのか、英語版wikipediaでは、スージー単独の記事まで出来ている。しかも映画本体よりも記事の内容が濃い(笑)。 人情喜劇調で物語を進め、最後もハッピーエンドで締めるのかと思いきや、ラストはほろ苦い展開で終わる(今後の明るい展開を予想させる描写、セリフを盛り込んでいるが)。これは題材でもあり、舞台装置の一つでもあるジャズを大きく意識したのだろうか。ポップスやロックと違い、一筋縄ではいかない、思いがけない展開を取るのは、確かにジャズという音楽だ。 80年代のちょっとくすんだアメリカの景色や、主人公たちがスパスパ煙草を美味そうに吸うシーンなど、いまではあまり見られなくなった光景が盛りだくさんの、渋くてちょっと大人向けな良作だった。 大人になってみると、主人公ジャックよりもお兄さんフランクの方が遥かにプロフェッショナルで立派な男だと感じてしまう。望まない仕事だろうが、仕事を受けたからには、きっちりとプロ意識をもって仕事に向かう姿は立派だ。ああだこうだ理由をつけて仕事をしないジャックがすさまじくダサい奴に見える(笑)あと、ジャックは誰に対しても素直に謝らない。これもダメ。迷惑をかけたり、傷つけた相手になぜsorryの一言も言えんのだ。そうやって不貞腐れているままなら、今後もきっと成功しないだろう。後半になるにつれて、主人公のダメさ加減がどんどん判明してくるのは、結構意外な展開だった。8点評価とするのは、彼が結局人間として成長したのか、あるいは改心したのかどうかを描かず、曖昧に映画が終わったからだ。ラストのあの感じだと、あまり彼の本質は変わってないんだろうな、とは思うが(笑)。 自分でもまったく予想していなかったのだが、大人としての仕事や人への向きあい方について、いろいろと教訓を与えてくれる映画だった。ジャックではなく、スージーやフランクのような大人になろうと思った(笑) [DVD(字幕)] 8点(2020-04-12 13:34:51) |
5. ターミネーター
久しぶりに鑑賞。2の印象が強すぎるせいか、1の内容は殆ど忘れてしまっていた。 改めて鑑賞すると、当時本作がB級映画程度の低予算で作られたというのが嘘のように思える素晴らしい出来上がりで驚きを禁じ得ない。 低予算だろうが何だろうが、名作を作れるのはさすが巨匠といったところか。 アクションシーンのスピーディな展開や演出、サスペンスの盛り上げ方、ここぞという場面でちょいちょい入るスローモーションは、センス抜群。 今から見ると未来のシーンやシュワちゃんが完全に機械になったシーン以降は、ちょっと時代を感じる場面もあるが、背景を暗く落として、映像面の拙さを上手く誤魔化しているあたりも、制作側の工夫や努力が感じられて巧みだなと思った印象。 いやー名作。でも本作を上回る2があるので、点数的には9点とする。 [インターネット(字幕)] 9点(2019-04-16 09:05:23) |
6. ニュー・シネマ・パラダイス
映画への愛に溢れた映画。 モリコーネの音楽が素晴らしい。 全身に鳥肌が立つほどの感動と、多幸感が滲み出てくるラストシーン…。 [映画館(字幕)] 10点(2018-12-02 10:05:09) |
7. うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
《ネタバレ》 小学生4年生くらいのころ、夏休みTV放送で本作の序盤だけ観た記憶がある。 そのときの印象は、「難しくてわからん! あとなんか怖い!」だった。それで序盤だけ観て、鑑賞を止めてしまった。 それから10年後くらいにちゃんと鑑賞。で感想は「面白いけど、やっぱこの映画怖いわ!」ってことだった。 文化祭前のある一日がずっと繰り返され、異常に気付いた人はどんどん消えていく。そして時折挿入される廃墟のイメージ。 もちろんホラー映画ではないけれど、人をぞっとさせる不気味な演出や物語の展開に満ちていて、それをまさか国民的なラブコメディ原作でやってしまう衝撃。 原作のドタバタ明るい雰囲気やお約束事、お決まりを逆手に取って、異常な世界や異常な展開を際立たせ、さらにそこから夢や時間の曖昧さという哲学的なテーマまで言及するというのは、実に尖っていて、攻めに攻めた手法だなと感心もしてしまう。 余談だが映像もこの攻めた姿勢を反映してか、奇抜な映像表現も多い。大人になるとこの映像の攻めた部分も感心する。 本作を「怖い!」と判断したのは、本作から漂うこうした不気味さや異常感を子どもながらに感じ取っていたからだろう。 大人になっても夢邪鬼とサクラ先生の会話シーンなどは相変わらずぞっとする。 確かに原作クラッシャーという悪名も本作には付いて回るのだが、ここまでポップで不気味で、サスペンスフルで、だけど物語には奥行きがあって、意外性に満ちた映画というのは、名作と呼ぶべきではないかと私は思う。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2018-08-13 11:08:50)(良:1票) |
8. 男たちの挽歌II
双子の弟だの、最後の銃撃戦だの、んなアホなという展開が続く本作。 Ⅰには10点あげたが、今回はさすがに無茶苦茶な展開や演出が多過ぎて2点減点。 しかしそれでも8点献上。 理由はあの無口な殺し屋! ユンファとの一騎打ちは超カッコ良かったぞ!(カウボーイビパップの最終話はこの一騎打ちをそのままオマージュしていた) あの侠気MAXの決闘シーンで8点やろうじゃないか。 ちなみに本作で印象に残るシーンが、ラストの銃撃戦の最中、空中をぶっ飛ぶやられ役。 別に手榴弾を使ってるわけでも、ショットガンでぶち抜かれたわけでもないのに、なんであんなにぶっ飛んだんだろう? いまだにあのシーンが不可解で、毎回見るたびに首をひねってしまう。 そういうヤケクソな演出をするから減点なんだぞ、ジョン・ウー監督! [ブルーレイ(字幕)] 8点(2018-08-13 10:26:05) |
9. 男たちの挽歌
…いやもうツッコミどころを挙げればキリがないのだけれど(笑)、チョウ・ユンファのコート姿に二丁拳銃、野郎どもの暑苦しさに押し切られて10点! 香港の夜景をバックにしたホーとマークの会話シーンはたまらなく好きですね。 「100万ドルの夜景…こんなものは仮初さ! 失ったものを取り返すんだ!」 いやー、もはや様式美の域ですね。 [DVD(字幕)] 10点(2018-06-17 12:43:25) |
10. ミッドナイト・ラン
《ネタバレ》 この映画を学生のころに観て、英語を話せるって素敵だな、真面目に英語の勉強をしようと思い立ったのが懐かしい思い出だ。 なにせ今生の別れがSee You Next Lifeと表現されるのだ。 もしかすると一生会えないだろう相手に、明るくユーモアを滲ませて、来世でまた会おう!と別れの挨拶が出来る。 何て前向きで素敵な表現だろうと思ったものだ。 この別れのシーンだけで、満点評価に値する。 [DVD(字幕)] 10点(2018-06-17 12:31:46) |
11. ダイ・ハード
ビルが瞬く間に制圧され、呼びつけたパトカーが帰っていく時のあの孤独感と絶望感、それがたまらなく最高。 あの瞬間に、多くの観客はマクレーンと感情を共有する。”ふざけるな!どうなってる!さあ、ここからどうする、どうしよう!?” そしてマクレーンと一緒になって物語に入り込んでいく。 伏線満載の脚本、泥臭い人物描写に加え、演出面も今観てみると大変印象深いものが多いと今更気づく。 特に孤立無援を表すかのような、真冬の夜の描写は素晴らしい。 人生で一番最初に鑑賞した映画が本作で本当に良かった。文句なしの大傑作! [ビデオ(吹替)] 10点(2018-05-28 19:21:47) |
12. アンタッチャブル
世界1カッコいいスライディングが見れる映画です。 [ブルーレイ(字幕)] 10点(2018-02-10 17:08:59) |
13. プロジェクトA
年始のBS放送でついつい最後まで観てしまった。 カンフー映画、というか今となってはアクション・娯楽映画の教科書のような存在。 とにかく明るい、笑える展開の数々と、スター性溢れる3人の主要キャラクターの存在感、華麗なアクションシーンの数々。 映画って本当に楽しいものなんだ!といつになっても教えてくれる素晴らしい映画です。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2018-01-08 09:46:20)(良:1票) |
14. 機動警察パトレイバー
今観てみると、プロット的には結構あっさりとした終わり方で、個人的には2の方が重厚な余韻があって好みのため、本作は8点とした。 しかし本作も名作である事は間違いない。公開から30年近く経った現在でも、サイバー犯罪への先見性や犯人像の新鮮さは未だ失われていない。 サスペンス劇としての秀逸さに加え、隠れたテーマとして浮かび上がる東京への愛憎。 我々はどこから来て、どこへ向かうのか。 埋め立てを繰り返し、古き町並みを壊し、無機質な建築を無尽蔵に創り出していく東京。 夏の茹だるような風景。意味深な町並み。 ノスタルジーとも文明批判とも言い切れない、下手すると意味があるのかないのかさえよく判らぬ まさしく東京に対する愛憎の思いが本作に奥行きを与えている。 ≪追記≫ 先日、全国で某社製携帯電話が通信障害のために使えなくなる、という騒動があった。 私も携帯が使えず色々と不便だったのだが、世間的にも大きな騒ぎとなった。 で、その際に頭に浮かんだのが本作。 ”特定のOSが社会で独占的な地位を得て、それが何らかの理由で不調に陥った場合、どのような混乱が社会に生ずるか?” つまるところ本作の先見性はここにあり、今後も社会が人間の要請に応じて様々な”OS”を作り続ける限り、それが失われる事はないだろう。 [ブルーレイ(邦画)] 8点(2017-12-24 13:31:31) |