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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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181.  インサイド・マン
冒頭、クライブ・オーウェン演じるラッセルは「自分達は完全犯罪の方法を思いついたから、それを実行したのだ」と自信満々に語りますが、これは本作のアイデアを思いついた脚本家からの言葉と考えてもいいでしょう。その自信の通り、本作に描かれる銀行強盗の手口は完璧です。人質に犯人グループと同じ服を着せることで警察による突入を回避し、犯行現場からの脱出までを可能とする。この大胆な発想だけでもアクション映画が一本撮れてしまうほど魅力的なのですが、本作にはさらにアイデアが満載されています。強盗の被害者たる銀行が「ある事情」から決して被害を訴えないであろう品物のみを奪うことにより、被害者のない犯罪を成立させてしまう。犯人グループと警察の騙し合いは非常に高度で、こちらが激昂したと見せかけて相手の反応を確かめ、次の一手を考えるというやりとりが積み重ねられます。このゲームのプレイヤーとなるラッセルとフレイジャーのキャラクターもよく出来ていて、おまけにこのキャラクターを一流の俳優に演じさせることができたとあっては、本作の面白さは保証されたようなもの。最高に楽しめました。この手の映画を経験したことのないスパイク・リーの演出については不安があったのですが、彼はこの脚本を自分のものとしています。冒頭、わずか15分で主要な登場人物の紹介を終え、占拠された銀行という舞台を作り上げてしまう手際の良さには圧倒されました。並みの監督であれば本作をごりごりのクライムサスペンスとするところですが、リーはあえて気の抜けたコメディ演出を施しています。この演出が合わない、まじめなサスペンス大作とした方がよかったと思う方も多いと思いますが、一見気の抜けたような演出が知的なやりとりを際立たせる役割を果たしていて、私は有効だったと思います。デンゼル演じるフレイジャーなどは、下らない冗談を言ってヘラヘラしているように見えて、腹の中では相手を出し抜くための策を練っている最高にかっこいいキャラに仕上がっているではないですか。対するラッセルは終始クールですが、アルメニア語放送やなぞなぞでは完全に警察で遊んでおり、こちらもコメディ演出による援護がなければ、物語上意味をなさないトラップになる恐れがありました。当初はロン・ハワードが監督する予定だったようですが、生真面目なハワードではこの遊びをうまく処理できなかったでしょう。
[DVD(吹替)] 8点(2010-08-25 00:55:28)(良:1票)
182.  マトリックス 《ネタバレ》 
公開当時、一方には本作の斬新さに対する称賛があって、もう一方には既存の要素をシャッフルしただけじゃないかという批判がありました。現在になってあらためて鑑賞すると確かに本作のテーマは目新しいものではないのですが、哲学的なテーマを娯楽アクションでやろうとした試みは非常に斬新であり、かつこの試みを成功させてしまったウォシャウスキー兄弟の監督及び脚本家としての能力の高さは並外れています。それまでの映画界では、一方に「スターウォーズ」のような娯楽大作があって、もう一方に「2001年宇宙の旅」のような難解な作品があって、これらは水と油だったわけですが、「マトリックス」は難解さと面白さの融合を成功させてしまったわけです。また、きちんと作り込めば難解なテーマであっても観客は付いてくることを本作が証明し、ハリウッドのマーケット観や意思決定のあり方も大きく変えてしまいました。もし本作がなければ、ノーラン版バットマンなどは登場していなかったでしょう。とにかく脚本の完成度が高く、「信仰と哲学」という難解なテーマを一般の観客にも分かる形で提示し、かつそれを刺激的なビジュアルと燃えるアクションに絡めて物語を構築しています。隠喩に満ちたセリフは禅問答のようで一見すると不親切なのですが、一般の観客が付いて来られるギリギリのところで難解さを留めておいたサジ加減は絶妙であり、理解可能な節度を保ちつつ観客に考える喜びを与えたという意味では最高のサービス精神が感じられます。また、アクション映画としても本作の脚本は際立っています。象徴的なのがエージェントの扱いで、「エージェントは圧倒的に強く、もし彼らと鉢合わせると殺される」というセリフがしつこい程に繰り返されるおかげで、エージェントが登場するだけで画面に緊張感が漂います。ネオを逃がすためエージェントに挑んだモーフィアスの自己犠牲も、エージェント・スミスとの戦いを決意したネオの確信も、クライマックスのチェイスの緊張感も、「エージェントに追いつかれる=死」という擦り込みが徹底されていたからこそ、それぞれの意味が際立つ形となっています。一方で、公開当時絶賛されたビジュアルについては、現在見返すと多少のアラが気になります。ネブカデネザル号や人体発電所のCGは本編から浮いてしまっているし、カンフーやワイヤーアクションは役者が慣れていないためかヘタクソです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2010-08-07 02:20:57)(良:1票)
183.  スラムドッグ$ミリオネア 《ネタバレ》 
映画は壮絶な拷問からはじまり、ジャマールから語られる人生は、目の前で母を殴り殺され、ヤクザに目を潰されかけ、兄貴は人殺しをしてヤクザの道に入り、惚れた女はヤクザの親分の女になっていたという、文章にするだけで鬱になりそうな内容。しかし映画には妙な明るさが漂っており、どれだけ酷い目に遭っても暗くならずに人生を突き進もうとするポジティブな映画でもあります。なかなか珍しい食感の映画だなぁと思って見ていたのですが、思い出せばダニー・ボイルが注目されるきっかけとなった「トレインスポッティング」も同様の感覚を持った作品でした。本作は新しいタイプの映画のようでいて、実はダニー・ボイルにとっては原点回帰のような作品なのです(便所へのダイブまで共通しています)。ボイルならではのこの食感による作品への貢献は大きく、ハッピーエンドで終わるのかバッドエンドで終わるのかがまるで見えてこないため、ジャマールの思いが届くのか最後の最後までハラハラさせられます。ラティカが電話に間に合うかどうかなんて、古典的な仕掛けなのにこれ以上ないほど手に汗握りましたよ。ラストでは、10人中9人の監督は不正解とするであろうところを、本作はあえて正解にしてジャマールに女と金の両方をプレゼントしてあげた本作の判断はなかなか粋。私は支持したいと思います。粋と言えば、最後のテロップにおける「ジャマールがクイズを正解できた理由‐運命だったから」という締めも粋でしょう。学はないが人生経験は誰よりも積んでいるジャマールが、その人生で見聞きしてきたことがクイズとして出題されるという展開はさすがに都合良すぎじゃないかと思っていたのですが、「運命だったから」なんて言われると、こちらも「うまいこと言うねぇ」と寓話としての美しさに納得せざるをえません。こういう良い意味での強引さこそ、作り話の醍醐味でしょう。映画の面白さの本質、物語の面白さの本質までを再認識させられた本作には、私は大満足しました。。。以下は本当に小さな問題点を指摘しますが、私が唯一引っ掛かったのはインド版みのもんたの反応です。インドでクイズミリオネアがウケているのは貧乏な視聴者に夢を見せられるからであり、その夢を実現しようとするジャマールの出現は、番組サイドからすれば歓迎すべきことのはず。しかし、司会者はなぜ彼の足を引っ張ろうとしたのか。ここだけが納得できませんでした。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2010-08-02 00:17:08)(良:1票)
184.  スピード(1994)
よくもまぁここまでネタを詰め込んだなぁと、その密度に圧倒された作品です。その割に見せ場を作るための強引さをさほど感じず、論理的に破綻していない辺りがこの映画の凄いところ。最初から最後まできっちり楽しませてくれます。ジャック、アニーをはじめとしたキャラクターの作り込みも良く、バスの乗客は一言もセリフがない人物に至るまで個性が感じられます。個人的なお気に入りはマクマホン隊長で、この人は最初から最後まで何もせず、ただ偉そうなことを言ってるだけの人なのですが、それでもこのキャラクターには隊長としての威厳や信頼感がきちんと宿っています。ここまでキャラクターが作り込まれているアクション映画って、実は貴重です。唯一、犯人のハワード・ペインについては犯行に至る動機や狂い方がちょっと弱いかなと感じたのですが、この役柄を怪優デニス・ホッパーに演じさせたことで脚本レベルの弱点がうまく補強されています。こちらもお見事。キャスティング面で言えば、ジャックをキアヌ・リーブスに演じさせたことも驚きです。キアヌ・リーブスと言えば「ハート・ブルー」でホモっぽい刑事を、「ドラキュラ」でドラキュラ伯爵に恋人を奪われる弁護士をやり、弱い主人公を演じるイメージのあった人物です。またスターとしてのネームバリューがあったわけでもないのに、突如従来のイメージとは正反対のジャック・トラヴェンを演じさせ、これがピタっとハマっていたのですから、このキャスティングは神がかっています。さらに、このキャスティングはアクション映画史をも変えてしまいました。それまでのアクションと言えば筋肉隆々のアクション俳優が大暴れするものが主流でした。むさ苦しい見た目や演技の拙さには目をつむり、彼らが暴れる様をひたすら鑑賞するのがアクション映画の作法。しかし線の細いイケメンのキアヌ・リーブスがアクション映画の看板を務め、これを大成功させたことで、アクション俳優に付き合う必要がなくなりました。以降、アクションはニコラス刑事やマット・デイモンら演技のできる人間が演じるようになり、アクション俳優は見事なまでに消え去りました。
[DVD(字幕)] 8点(2010-07-06 21:00:20)(良:1票)
185.  ヒューマン・トラフィック<TVM>(2005) 《ネタバレ》 
前後篇を2日に分けて見るつもりだったのですが、あまりの面白さに一気に見てしまいました。社会問題を分かりやすく提示することにおいても、また物語のエンターテイメント性においても極めて優れた作品です。もちろん楽しんで見る類の題材ではありませんが、それでもかなりハラハラさせられたのは事実であり、この辺りは劇場用映画で腕を磨いたクリスチャン・デュゲイならではの力技だったと思います。またテレビ映画だったため性や暴力の描写には相当な制限があったものの、こちらも監督の腕前で巧く乗り切っています。人身売買という題材を扱いながら女性の裸の映像は一切使用されていないし、警察組織と犯罪組織の戦いであっても血の量は最小限にとどめられています。それでも題材の衝撃度はきちんと伝わっているのですから、監督の腕前がいかに作品に貢献しているかがわかります。一方でこの手の題材を劇場用映画が扱うと、「現実から目を背けてはいけない」と言わんばかりに露悪的な表現が目立ってうんざりさせられることも多く、節度を保ったレベルに映像の刺激を抑えて多くの人が見やすい作品とした本作は、社会啓蒙のためにも効果的な作りになっていると思います。。。本作は現実の問題をよく研究して作られているようで、私が良心的だと感じたのは東南アジアパートでした。アメリカ人の子供が誘拐されてはじめて東南アジアにおける人身売買が注目されるという設定は、現実の醜さをうまく捉えています。途上国の子供たちが酷い目に遭っていても、私たちは「へぇ、大変なんですね」としか思わない。もしアメリカ人少女が誘拐されていなければ、サウジアラビアに売られようとしていた子供達は救われていなかったはずなのです。この辺りのシビアさ、見ている人間を安易に正義の側に立たせない作りは、社会派作品として見事なものだと思います。
[地上波(吹替)] 8点(2010-07-05 17:54:58)(良:1票)
186.  エニイ・ギブン・サンデー
オリバー・ストーン監督とあってはアメフト界の内幕を暴くような作品になるのかと思いきや、なんと直球勝負のスポ根映画でした(DVDジャケットに書いてあった「大逆転の謀略!!」なんてものは一切出てきません)。21世紀に入ってからはすっかり腕前の鈍った感のあるストーンですが、本作では圧倒的な演出力を披露。そのビジュアルはアメフトの迫力を見事に表現しているし、2時間31分の長丁場にも関わらず中弛みなしの熱い熱いドラマは見ごたえ十分です。私はアメフトのルールにそれほど詳しくないのですが、そんな私でも十分に楽しめる仕上がりになっているのですから、余程よく出来た映画なのでしょう。選手達の一挙手一投足がスローモーションで映し出され、「この一撃で勝つ!」というみんなの思いがボールに託されるラスト10秒はスポーツ映画の定番ですが、そんなお決まりのクライマックスをこの映画は血がたぎるような名場面にしてみせます。この辺りの演出の巧さは本当に突出しています。キャスティングも見事なもので、アル・パチーノやジェームズ・ウッズといった定評あるベテランをいとも簡単に使いこなしてみせる一方で、映画への出演経験のほとんどなかったジェイミー・フォックスを物語の中心に据え、10年以上キャリアが低迷し忘れ去られていたデニス・クェイドを掘り起こし、当時はお人形さん扱いだったキャメロン・ディアスに演技力が要求される役を任せています。キャメロン・ディアスについては、すべての出演作中本作がもっとも彼女を美人に撮影しているし、同時に「こんなに演技力あったの?」と驚かされました。俳優の魅力や才能を引き出すことも監督の重要な仕事だとすれば、本作でのオリバー・ストーンの仕事は百点満点だったと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2010-05-26 21:40:15)
187.  マイアミ・バイス
テレビシリーズは未見なのですが、この映画版は刑事アクションのひとつの究極形とも言える仕上がりとなっています。フェラーリを乗り回し、「ちょっと飲みに行く」と言って自前の高速艇でキューバのバーまで行き、プロのパイロット以上の腕前で飛行機を操縦するというありえない刑事達が、海外にまで出張して大活躍という無茶苦茶な話なのですが、これを徹底的にカッコよく、バカっぽくなく作ってみせています。「バッド・ボーイズ」や「リーサル・ウェポン」の下地を持ちながら、これを「ヒート」や「コラテラル」のような印象の作品に変えてしまっており、荒唐無稽な刑事アクションを極限まで煮詰めた結果が本作だと言えます。プロの男達を描かせればいつもながらのマイケル・マン節全開で、少ない言葉で状況を理解し、グダグダ悩まず即座に物事を決断するカッコいい男達で溢れています。主演のコリン・ファレル、ジェイミー・フォックスはもちろんのこと(コリンはやたら太っている場面がいくつかあったのが気になりましたが)、敵キャラも状況判断に優れていて、生きるか死ぬかの世界で勝ち抜いてきた男達にきちんと見えています。さらには、コリンとジェイミーの上司にあたる小林亜星みたいな太ったおっさんまでがカッコいいのですから、相変わらずマイケル・マンはプロの男を描かせると最高の仕事をします。銃火器へのこだわり、銃撃シーンでのリアリティの追求も相変わらずで、麻薬取引の現場では後方にスナイパーを待機させておき、いざ撃ち合いになった場合には圧倒的優位をとるという犯罪組織側の戦略はなかなか合理的。さらに、スナイパーがバカでかい口径の銃を撃ち込むと、弾が当たった人間はバラバラに砕け散るという現実的な描写もあり、過去の作品以上に銃の描写にはこだわりが見られます。おまけに俳優達は全員銃の構え方が様になっていて、わかってる監督が撮るとアクションはここまで引き締まるものかと感心します。脚本の練り込み方も良く、テレビシリーズと同様の構成にするためかアクションをラストの銃撃戦のみに絞っていて映画としては見せ場に欠けるのですが、見せ場を分散させなかったおかげで物語がラストの銃撃戦に向けて一直線に進んでおり、チームメンバーが誘拐されたところから一気に話のテンションが上がっていく辺りの高揚感はなかなかのものでした。ラストに至る物語もよく作り込んであって退屈させません。
[DVD(吹替)] 8点(2010-03-12 20:37:12)
188.  レインメーカー
豪華メンバーの割にほぼ忘れ去られた感のある本作ですが、私は「ゴッドファーザー」や「地獄の黙示録」よりも好きです。本作のような小さめの映画をきっちり面白く作ってみせることは、重厚な大作以上にコッポラの映画監督としての腕前を表しているように思います。DVに白血病とかなり重いテーマを扱う一方で、新米弁護士の爽やかな成長物語や恋愛要素をぶち込み、かつ両者を水と油にしていないのですから、並みの監督の仕事ではありません。大岡越前か、遠山の金さんかというダニー・グローバー判事の登場シーンや、ジョン・ボイト弁護士からの嫌がらせ、有力な証言者を捕まえてきたマット・デイモンの反撃等々、娯楽的な盛り上げ方も手慣れたもので、最後まできっちり楽しませてくれます。特に、困り果てたところでミッキー・ロークから助けが入る件は最高でした。クライマックス直前に意外な支援が入ることは娯楽映画の基本中の基本なのですが、こうした基本をきっちり見せてくれる映画って実はあまり多くありません。また適材適所のキャスティングもバッチリ決まっており、役者選びのセンスもさすがです。若手でもっとも注目されていたマット・デイモンとクレア・デーンズをカップルにする一方で、ミッキー・ロークやロイ・シャイダーなど「あの人は今」状態の俳優を引っ張り出して一緒に演技させる。枯れたとはいえ、かつてはハリウッドの頂点にいた彼らの存在感は抜群で、作品の重要なアクセントになっています。さらにダニー・デビート、ジョン・ボイト、ダニー・グローバーといった安定した俳優で彼らをグルっと取り囲み、鉄壁の布陣を作り上げています。ここまで見事に俳優を使いこなしている映画って他にはありません。まさに教科書のような映画です。
[DVD(吹替)] 8点(2010-02-14 20:38:03)(良:1票)
189.  ザ・フライ 《ネタバレ》 
尋常ではなくグロイです。残酷描写には比較的慣れている方なのですが、それでもこれはキツかった。オスカーを受賞した特殊メイクの威力はもちろんのこと、クローネンバーグのグロを見せる才能が本当に凄い。本作と同様の技術を使用した「Ⅱ」と比較すると、監督の手腕がいかに卓越したものであるかがわかります。実験失敗で皮膚がひっくり返ったヒヒや、腕相撲で腕をへし折られるおっさん、出産シーンの巨大ウジ虫等々、そのタイミングの絶妙なこと。来るぞ、来るぞ、と引きつけておいて、ドカンとえらいものを見せる抜群の間。クローネンバーグの手を離れた「Ⅱ」には、残念ながらこれほどのインパクトはありません。また、本作はクリーチャーの描き方も卓越していて、作りもの丸出しなのにキャラクターとしての生命を宿している辺りも演出の妙です。これまた「Ⅱ」のクリーチャーはやたらショボいです。やはり映画は技術ではなく演出なんだなぁと思い知らされました。 本作の脚本はかなり斬新で、オリジナルの『蝿男の恐怖』がただのモンスター映画だったのに対し、本作はモンスターへの変貌の過程を中心に持ってくるという、他に類を見ない構成となっています。しかもメインのテーマは男女の愛情。蝿男の映画を作れと言われて、こんな話を考えてしまうのは世界中でクローネンバーグぐらいでしょう。また50年代のB級ホラーを原作としながらも、科学的にそれらしく感じさせる工夫が多くなされていることにも感心します。無機物の転送はできるが、有機物についてはその構造をうまく理解できず、混乱したコンピューターが蝿と人間の遺伝子を混ぜてしまったという設定は、なかなか上手く考えたものです。サイエンスとフィクションがうまく組み合わされた、見事なSF的発想ではないでしょうか。ハエの生態に近づいていくセスの描写も科学考証を踏まえたものですが、爪が剥がれ、歯が抜け落ち、消化液を吐き出して物を食べるようになるという設定など、本当に細かく考えられています。こうして細かい描写を積み重ねつつも、クライマックスではセスの顔が一気に剥がれ落ち、ブランドル蝿の完全体が現れるという怒涛の展開。この辺りのテンポの作り方も絶妙で、映画的興奮が宿っています。本当にこの人は映画作りがうまいものです。  【2018/6/24追記】 あらためて見返しましたが、やっぱりグロくて感動的。これほど感情表現豊かなホラー映画はその後20年以上経っても類がなく、驚異的な傑作だと思います。 また、今回の鑑賞では2時間に及ぶメイキングも含めてがっつり鑑賞したのですが、クローネンバーグのみならず大勢の関係者が正しい選択をしながら生み出した傑作であることがよくわかりました。未公開シーンを見れば顕著なのですが、実は未使用フッテージが結構ある作品なのです。例えば、生存の方法を探るブランドルがヒヒと猫を使った実験をし、両者が醜く融合したクリーチャーを生み出す場面などは演技的にも視覚効果的にもかなり手が込んでいるのですが、観客がブランドルへの反感を抱きかねないとして完成版からはバッサリ落とされています。同様に、生存したベロニカのお腹にいる胎児はモンスターではないことを暗示する場面も手の込んだ視覚効果を用いて撮影されていたのですが、こちらも同様に削除されています。本筋とは無関係な描写や、キャラクターの個性を誤解させる可能性のある場面はカットし、シンプルに徹した作風が勝因となっているのです。 また、ベロニカ役のジーナ・デイビスに相当な負荷のかかっていた現場でもあったようです。誤作動も多いパペットを用いた撮影にはとにかく時間がかかり、クライマックスの撮影には2週間を要したのですが、泣き叫ぶ演技をしなければならないジーナ・デイビスはその2週間、ずっと泣いていなければならないというかなり過酷な状況を強いられていました。パペットが思い通りに動いた瞬間に「はいジーナ、今泣いて」と言われるような無茶な指示が出ていたこともメイキングには収められており、この完成度の裏側にはキャストとスタッフの並々ならぬ苦労があったことがよくわかりました。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2010-02-13 20:23:54)(良:3票)
190.  プルーフ・オブ・ライフ
映画の展開そのままに、撮影現場でラッセル・クロウとメグ・ライアンが本当に不倫をしてしまい、ゴシップの種にはなったものの映画としてまともに鑑賞されなかった気の毒な作品ですが、実はかなりよく出来ています。トニー・ギルロイの脚本は相変わらずキレがよく、プロの男を描かせるとこの人は最高の仕事をします。要件をビシっと述べるソーンの話し方は本当にかっこよく、現場を知り尽くしたプロという設定に負けないキャラクターがちゃんと構築されています。このソーン役にクロウを配置できたことは幸運で、スーツを着て粘り強く交渉する知的な姿も、迷彩服を着て敵地に乗り込む元特殊部隊としての姿も両方完璧にハマっており、「この人に任せておけば安心だ」という安心感も漂わせています。筋肉隆々でありながら知性を感じさせ、おまけにラブシーンをやれる色気を持った役者はハリウッドでもかなり希少であり、クロウでなければ演じられなかったキャラクターだったと思います。彼に対するメグ・ライアンもなかなかのものでした。本作以降は急激に衰えるものの、少なくとも2000年当時はハリウッドのトップにいた女優さんだけあって、華があるし演技も悪くありません。「♪恋する女はキレイさ~」とヒロミ郷も歌ってましたが、全出演作中もっとも美しく撮られているのが本作でもあります。なぜか常にノーブラでしたが、あれには何か理由でもあったんでしょうか?胸の垂れ具合は正直さみしかったです。。。作品の評価に戻りますが、監督も良い仕事をしています。ヘタに見せ場を入れず交渉の緊迫感だけで上映時間の大部分を引っ張っているのは監督の手腕によるところが大きいし、なんといってもラストのアクションがあまりに見事で驚いてしまいました。この監督さんはアクションを撮るイメージがなかったのですが、正直そこいらのアクション監督よりも腕前は遥かに上です。連絡を常にとりながら機動的に動く特殊部隊のアクションのかっこいいこと!ミッション物のアクションでは、本作のラストを超える映画を見たことがありません。ここでもクロウは大活躍で、銃を持った姿が本当に様になっています。彼が銃を撃つ映画は本作以外では「クィック&デッド」と「アメリカン・ギャングスター」くらいしかありませんが、銃がかなり似合う俳優さんなので、もっとアクションをやればいいのにと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2010-02-07 21:04:12)
191.  フルメタル・ジャケット
戦友がバタバタと死に、その度に物語が生まれる戦争というおいしい題材を手にした時、映画監督はドラマや哲学を語ろうとします。プラトーン然り、ディアハンター然り、地獄の黙示録然り。しかしキューブリックは本作においていかなる主張もせず、戦争とは何か、ベトナム戦争とは一体何だったのかという断片を切り取ることのみを行っています。かつて「突撃」でベタベタの人間ドラマをやった以上、同じ題材で同じことはやらんという巨匠ならではのこだわりなのか、それとも天才たる先見性の為せる技なのか、ともかく前述の作品達よりも二歩も三歩も先を行った作品となっています。公開当時、あまりのショックから「これは軍隊の非人間性を描いたものだ」と勘違いされた前半の訓練についても、あれは海兵隊の訓練を忠実に再現しただけのものであって、あらためて見ると非常に客観的です。ハートマン軍曹は新兵達の前に立ち塞がる脅威ではあるものの、ヒールを演じているだけということを匂わせる描写がいくつも存在しています。人種差別はせず、クズとして全員平等に扱うと発言したり、「神を信じない」と言ってハートマンに楯ついたジョーカーを「根性がある」と言って認めたりと、決して個人的な感情から新兵達を罵倒しているのではなく、無茶苦茶に見えて実は訓練に必要な言動をとっていることがわかります。海兵隊に集まるのは徴兵された者ではなく、志願して軍隊に入ってきた者達です。そんな英雄気取りの若者を、わずか8週間の訓練で生きて祖国に帰還できるフルメタルジャケットに育て上げねばならない。いったん彼らの人格やプライドを粉々に壊し、真っ白になったところで生きて帰るための行動パターンや思考様式を流し込んでいるのです。ちなみに私が一番驚いたのはトイレの様子で、個室や仕切りはなく、便器がズラっと並んでいるのみというシンプルにも程がある作り。海兵隊はう○こも人と顔を合わせながらするのかと、そこまで徹底したプライドの破壊には心底恐れ入りました。後半は前半と比較すると平凡になりますが、それでも視覚的な見せ場は充実しています。カメラワークが秀逸で、戦場を走る兵士の背中をローアングルから捉える、戦争映画でお馴染みのショットなどは、本作が初めてではないでしょうか?かねてから素晴らしかった音楽の使い方にはさらに磨きがかかっており、こちらはタランティーノに多大な影響を与えたことが伺えます。
[DVD(字幕)] 8点(2010-01-28 22:12:56)(良:3票)
192.  JAWS/ジョーズ
70年代のパワー、スピルバーグのパワーを思い知らされる快作でした。70年代前半といえば「ゴッドファーザー」「エクソシスト」等大人の映画が記録破りの大ヒットを続けていた時期で、本作もブロックバスターの皮を被りつつ、しっかりとした大人のドラマを中心に据えています。映像的ショックの薄れた現在の目で鑑賞すると、サメとの死闘よりもむしろ前半のドラマ部分の方が見ごたえがあり、マジメな姿勢で構築されたドラマと優秀な脚本の存在がいかに作品に貢献しているかが分かります。またスピルバーグのドラマ演出も驚異的。都会に疲れて田舎へ移住してきたブロディ署長が、「どうせよそ者にはわからんだろ」と言われながら孤軍奮闘するドラマを、若干25歳にして描ききっています。たった25歳で、よくも中年男のドラマを作り上げたものです。一方、クィントはスピルバーグが不得意とするタイプのキャラクターなのですが、こちらはロバート・ショーに相当お任せしている様子で、自分に出来ないことは他人に頼るという柔軟さも見られます。。。本作を見て思うのは、パニック映画にはリアクションがいかに重要であるかということです。人喰い鮫が現れた時、人々や社会はどう反応するのかを丁寧に描くことで、鮫の存在も引き立っているのです。肝心の鮫については技術的に相当な制約があり、その姿をほとんど見せないという詐欺みたいな描写が続きます。ようやく画面に登場しても作りもの丸出しなのですが、それでも本作のサメは活き活きとしています。それは、アミティの町やその住民達がこのサメの存在をしっかりと感じ、現実的なリアクションをしているからです。他方、90年代に入ってスピルバーグが関わったディザスター大作「ジュラシック・パーク」「ツイスター」「ディープ・インパクト」は技術的には本作を圧倒し、見せたいもののほとんどすべてを描写できるようになったにも関わらず、映画としては本作に劣ります。「パニック映画」の名称が90年代に入ると「ディザスター映画」と変わったのは言い当て妙で、対象に直面した人々や社会のリアクションがスッポリと抜け落ち、ただひたすら対象を描写することに集中しているからです。これはクリエイターのみの責任ではなく、難しい話を受け入れなくなった観客の責任でもあります。その意味でも、大人の映画に行列ができていた70年代は貴重な時代だったのだと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2009-12-31 12:44:39)(良:1票)
193.  ジュラシック・パークIII
世評に逆らってひねくれた点数をつけているわけではないのですが、シリーズで一番面白かったと思います。「1」は理屈っぽい部分の掘り下げが中途半端だったし、「2」における安直な動物愛護精神は意味不明でした。だったら大仰な主張は潔く切り捨ててしまい、ついでに登場人物の数も絞り込んでコンパクトに仕上げた本作が、映画として一番まとまりが良いのです。コンパクトと言っても勢いだけで押し切る短絡的な作品というわけではなく、キャラクターや見せ場は作り込んであります。典型的な大作を得意とするデビッド・コープからドラマ畑のアレクサンダー・ペインに脚本家を変更し、情けない中年おやじ達の成長物語を横軸に持ってきたことで、前作、前々作よりもすんなりと登場人物に感情移入ができるようになっています。グラント博士の登場シーンからしてよく出来ており、エリーと幸せな家庭を築いたと思わせておいて、実は別の旦那と結婚していたサトラー家に遊びに来ていただけという導入部分は最高でした。エリーの子供からは恐竜おじちゃんと呼ばれる始末で、好きなことだけやって歳を重ねるとこうなってしまうという哀愁が漂っています。「1」の時は気鋭の古生物学者だったグラント博士も現在は冴えない中堅の学者で、研究資金も底をついているという切ない状態。そんな彼を再びサバイバルに引き込むのがウィリアム・H・メイシーですが、情けない中年をやらせると右に出る者のいないメイシーは、やっぱり本作でもハマっています。温厚なグラント博士に殴られ、妻からはギャンギャン怒鳴られ、何か言っても誰にも聞いてもらえないダメ親父ぶりをいかんなく発揮。そんな枯れかけの二人が、若かった頃のような自信とバイタリティを取り戻す物語は、定番だけどやっぱりグッとくるものがあります。。。見せ場にも工夫が見られます。「1」「2」とT-REXとラプターを見せ場の中心にしてきましたが、さすがに三度目はないと今回はスピノサウルスとプテラノドンを中心に持ってきた判断は正解でした。知名度の低いスピノサウルスには鮮烈な登場場面を準備し、他の恐竜に比べて攻撃力の弱いプテラノドンには霧に包まれた鳥かごを生かした見せ場を作ることで、T-REX、ラプターに負けない悪役ぶりを披露させています。また、笑いとスリルも絶妙なバランスで調和させており、この監督はなかなか巧いなと感心しました。
[映画館(字幕)] 8点(2009-12-31 01:49:17)
194.  アポカリプト
冒頭から驚きました。独特のメイクにケツ丸出しファッション、女性方はおっぱい丸出し(エキストラのみならず、ジャガーパウの奥さんのような重要な役柄に至るまで)、NHKスペシャルで見るようなジャングルの村がまんま再現されているではありませんか。これを演じているのはプロの役者さんなのですが、ジャングルで生活している人たちにしか見えません。映画であるからにはある程度綺麗に撮ろうとするものですよ、普通。おっぱいぐらいは隠すだろうし、少なくとも主人公にはかっこいいメイクをさせるものです。しかし本作はそのような映画的な修正を可能な限り排除し、徹底的にリアルに作り込んでいます。ここまで再現してくるとは思いませんでした。マヤの都市の作り込みも凄まじいものがあります。実物大セットとCGを見事に組み合わせた(実写とCGの継ぎ目がまったく分からないという完璧な完成度)都市の再現力は、私が見てきた時代劇の中でもトップクラスです。そこに生きる人々の描写も丁寧で、エキストラひとりひとりに至るまで衣装やメイクに手抜きがなく、画面に映る全員に対してきちんと演出が施されています。これ見よがしに巨大建造物を映し出す時代劇は多くありますが、そこに生活する人々を含め、都市の全体像を提示する映画はほとんど見たことがありません。しかも本作の舞台はマヤ文明。古代エジプトやローマのようにしばしば映画の題材になるような時代ならともかく、満足に映像化されたのは恐らく本作がはじめてです。そんな、参照すべき過去の作品もロクにない状態で、ここまでの完成度で過去の文明を描写してみせたことは驚異的と言えます。メル・ギブソンの監督としての才能と、優秀なスタッフを山ほど動員してきたプロデューサーとしての能力、どちらも大いに評価すべきでしょう。こうしてマヤの世界にどっぷり馴染んだところでいよいよ猛烈なアクションがスタートしますが、ここからはメル・ギブソンの才能がフルスロットル。ジャガーパウがゼロウルフの息子を殺した瞬間、「マジかよ」と場の空気が一瞬止まり、一呼吸置いてから追跡部隊が猛スピードで走り出すところからして燃えます。槍を持ってジャングルを走り回るだけのアクションをここまで面白く撮れるものかと、燃えっぱなし、驚きっぱなしでした。追跡者の動きを俯瞰で見せるカメラワーク等、ここでも優秀なスタッフに支えられていることがわかります。
[映画館(字幕)] 8点(2009-12-26 18:51:52)(良:2票)
195.  チェンジリング(2008)
イーストウッド作品は時に冗長になりすぎる傾向がありますが、本作は娯楽作顔負けの勢いで物語が進行し、監督作中もっとも面白い作品となっています(楽しんで見るような題材ではありませんが、ここはあえて「面白い」と言います)。ここのところのイーストウッドといえば、人生を知り尽くした御大が、まるで仙人のように淡々と哲学を語る作品が多くなっていますが、本作は観客の感情を刺激するダイナミックなドラマ作品として製作されています。イーストウッドのストーリーテリングは神業の域に達しており、呼吸をするかの如く的確な演出を披露します。わずかな時間でコリンズ親子の強い絆を描き、観客にこの親子を好きにならせる冒頭からして光っています。またアンジーの元にやってきた謎の少年や、臭いものに蓋をすることしか考えないLAPDのイヤらしさときたら見事なもので、見ている間中はらわたが煮えくりかえる思いがしました。それに対するブリーグレブ牧師は、西部劇のヒーローか、ダーティハリーかと言わんばかりの頼りになる男で、「この人が来たからには正義がなされるはずだ」という安心感は抜群。戦うことに迷ったり、弱かったりするここ最近の正義の味方には欠けている魅力を放っています。彼が現れるタイミングも絶妙で、クリスティンが追い込まれて追い込まれてもうダメかという時にやってきて、悪事をなしていた者を黙らせる展開にはアクション映画以上のカタルシスがありました。この辺りは、娯楽作も多く手掛けてきたイーストウッドならではの巧さでしょう。。。子を失った親の物語としては「ミスティック・リバー」と共通していますが、「ミスティック~」に描かれる父親のリアクションが怒りと復讐心を中心としているのに対し、本作に描かれる母親のリアクションは、ひたすらにわが子の生存を願い、その他のことは(憎むべき犯人や、自分を傷つけた警察すら)ほとんど目に入っていないというものでした。権力との戦いはブリーグレブ牧師に任せ、クリスティンがとる行動は全て息子の方へ向いたものとした構成上の判断は的確。普通の監督が撮れば犯人への憤りや警察への復讐を描いてしまうところですが、そうはしなかったイーストウッドはやはり仙人の域に達しているようです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2009-12-25 15:31:16)(良:2票)
196.  ミリオンダラー・ベイビー 《ネタバレ》 
「許されざる者」「ミスティック・リバー」と比較すると、かなりわかりやすい作品となっています。マギーの家族や対戦相手ははっきり悪人として描かれており、善悪の区別を意図的に避けてきた前述の作品達とは傾向がガラっと変わっています。またマギーが全身麻痺となる原因についても、原作では試合中のアクシンデントだったものを映画では対戦相手の明らかな反則行為に変更していることからも、よりわかりやすい形で観客の感情を刺激しようとする意図が感じられます。そう、これは観客の感情に訴える純粋なドラマ作品であり、イーストウッド流の哲学や死生観を語ってきたそれまでの作品とは別物と考えるべきでしょう。あの結末もイーストウッドの個人的な思想が反映されたものではなく、フランキーとマギーの物語の終着点があの形だったと考えるのが妥当です。。。二人の関係は、師弟であり、親子であり、友人であり、そして恋人であるという、人間が持ちうるすべての関係性が凝縮されたものでした。その相手が真剣に死を望み、ほとんど動けない体で可能な限り自分を傷つけはじめ、生きることが最大の苦痛となっている状態で、それでも枕元で「生きることが大事だ」なんて言い続けられるのか?ボクシングに生き、家族に恵まれなかったフランキーにとってマギーはただの恋人ではなく、長い人生の果てに残ったすべてと言っても過言ではありません。世界でもっともマギーの生を望んでいるのはフランキーなのです。しかしそのマギーは真剣に死を望み、一方で自身の意思を実行する手段をすべて奪われてしまった。医学も宗教も「生きることが大事だ」と定番のお題目を唱えるだけで力を貸してくれない。マギーの訴えに耳を傾け、それを実行してやれるのは世界で自分だけとなったフランキーの苦悩は、想像するだけで恐ろしくなります。泣きの演技をほとんど見せないイーストウッドが、ここではついに涙を見せ、迷いを口にします。ひたすらに強い男だったイーストウッドですら抱えきれないほどの絶望。尊厳死が社会一般で認められるべきかどうかは分かりませんが、少なくともマギーとフランキーの間においては、死以外の選択肢はなかったと思います。マギーに対するフランキーの思いは、医者と一緒になって「とりあえず生きろ」と言っていられる程度の軽いものではなかったのですから。
[DVD(吹替)] 8点(2009-12-23 18:21:00)(良:4票)
197.  許されざる者(1992)
さすがは「ブレードランナー」の脚本家だけあって、バイオレンスの皮をかぶりながら効果的に哲学を語っています。主張自体は「人を殺すことに正義もへったくれもない」というありがちなものなのですが、それをSFアクションや西部劇といった舞台でやってしまうのが巧いところ。こうした目の付けどころの良さ、またアンチテーゼをやるにしても、王道を理解した上で、それを丁寧に解体していくというジャンルへの愛情があることにより、ただの変わり種に終わらせず、正当な西部劇の系譜の中で語られる作品となっています。。。出色なのは憎まれ役たる保安官で、多くの修羅場を経験してその名は広く知れ渡っており、無法者が溢れる時代に街の秩序を守るべく時に手荒な手段も辞さない、そして家族はなく職務にのみ生きているという設定は、通常の西部劇であれば正義の執行者として描かれるべき人物です。荒っぽいところはあるものの、街の平和を守るという目的のための手段として逸脱した行為をとっているわけでもなく、「物語をどの視点から見るのか?」という点において憎まれ役となっているに過ぎません。他方、主人公ウィルは正義とは正反対の人物です。「なぜ殺したのか覚えていない」という殺人まで犯してきた人物であり、彼が生きながらえ、家庭まで持っていることを許せないと考える人は多いはず。そんな極悪人であっても、観客は彼の視点から物語を眺めることでウィルに愛着を覚えます。つまり正義とは多面的であり、その姿はどの視点から眺めるかでころころと変わってしまう脆弱なものです。一方で人を殺すことは「そいつの過去も未来もすべて奪い去る」絶対的に確かなものであり、曖昧な正義を振りかざして人を殺すことがいかに横暴なことかをこの映画は説きます。ウィルは賞金の対象となっているカウボーイの一人を殺しますが、彼は娼婦の顔を切り刻んだ男ではなく、それを止めようとした男でした。事実を知っていればウィルはこのカウボーイを殺さなかったはずですが、無知や誤解によるものであっても、殺した後にその行為を取り消すことはできません。それが人を殺すということなのですが、ウィルはその虚しさを知っているにも関わらず保安官を殺しに行きます。そんな彼の背後に映る星条旗を見た時、大勢の敵がいる酒場にたったひとりで乗り込むウィルの如く、これはイーストウッドが覚悟を決めて作った映画だと確信しました。
[DVD(吹替)] 8点(2009-12-21 16:25:10)(良:6票)
198.  プレッジ 《ネタバレ》 
この映画をはじめて見たのは学生の時でしたが、当時は「淡々とした展開でオチも決まらない中途半端なサスペンス」という印象で、鑑賞したこともすぐに忘れてしまいました。しかし社会に出て人生経験もそれなりに積んでから再度観賞すると、人生というものを鋭く描いた生涯忘れられない作品となります。努力は美しいことである、正しい行為は正しい結末へつながっているというハリウッド的な思考回路を完全否定、いかに正しい目的のためであっても、いくら愚直に頑張っても報われないことはある、それが裏目に出ることだってあるという情け容赦のない、しかしリアリティのある物語です。 もし主人公ジェリーが浮かれ気分のままパーティーに留まりあの現場に行っていなければ、もし被害者家族に対して口先だけで対応し約束(プレッジ)などその場限りで忘れるような人物であれば、定年後の余生は順調に送れていたことでしょう。しかしジェリーはあの現場に立ち会い、被害者家族と話すという誰もが躊躇した役を引き受け、そして家族との約束を忘れない正しい警察官でした。そんな、正しくあることが最悪の結末をもたらすというこの皮肉。 また、ジェリーが個人としての幸せに身を寄せようとする時、事件の名残が彼の前に現れ、約束を思い出させます。念願だったメキシコ湾へのフィッシングへ旅立とうとする時、好みの雑貨屋を手に入れ穏やかな余生を目の前にした時、ロリ・クリーシー親子と疑似的な家族関係を築き幸福な家庭を手にしようとした時、ジェリーは事件の残像と遭遇して、幸福を掴む寸前で事件へと戻っていきます。通常の映画であればこうした残像は目的を忘れた主人公に正しい行動を取らせるための「サイン」なのですが、本作では主人公の人生を狂わせることとなります。 結末は衝撃的ですが、ただ観客にショックを与えて終わりではなく、人生の真理のようなものを突き付けているところに、他の映画にはない深さがあります。また、先述した「サイン」の扱いなど普通の映画であれば主人公が報われるような流れを示しておきながら、観客の先読みを利用してこれを裏切る脚本の巧さにも感心しました。 
[DVD(字幕)] 8点(2009-12-16 12:58:31)
199.  ランボー 《ネタバレ》 
時の経過により色褪せていく映画は多くありますが、本作は逆。昔見た時よりも、今見る方の印象が良くなっています。アクション部分の出来が良過ぎるためにアクション大作として見られてきた本作ですが、時の経過により見せ場のインパクトが薄くなったことから、この映画が本当に語りたかったドラマ部分が浮かび上がってきました。。。C・C・バクスターさんも書いておられますが、冒頭からして秀逸です。最後の戦友が死んだと聞かされ、写真もアドレス帳も置いてその場を立ち去るランボー。その戦友は黒人だったと推測されますが、戦場にはあった人種を超えた友情が今や完全に失われ、同時にランボーは数少ない自分の居場所をも失ってしまいます(本作で晴れているのは冒頭のみであり、後はどんよりと曇っていることが、ランボーの心境をよく表しています)。保安官から邪険に扱われいよいよ居場所に困り果てたランボーは、今度は自ら居場所を作り出します。戦場でしか生きられない彼は、アメリカ国内でたったひとりの戦争をはじめてしまうのです。ティーズルの喉元にナイフをあてながらも生きたまま帰し、最後まで一人も殺していないことからも、彼には一定の理性が働いていたこと、保安官やアメリカへの復讐が目的ではないことが伺えます。こんなことは愚かだとわかっていながら、しかし戦うしか能のない男が目的のないままひたすら戦うという異様な戦闘が繰り広げられるのです。この事件に駆け付けたトラウトマン大佐も、味方とは言い難いものがあります。彼がランボーについて語る様は、シャレにならない事件を起こした部下の安否を気遣うものではなく、自分が作り上げた最強の兵士を自慢しているだけのものでした。ランボーとの会話の中で、軍に戻りたいというランボーの願いを聞き入れなかったこと、話し相手を求めて電話をしてきたランボーを無視していたことも明らかになります。大佐もランボーを使い捨てにした人間のひとりであり、本来は敵と位置づけてもよい相手なのです。しかし今のランボーにとっては自分を知る唯一の人間が大佐であり、最後には彼の説得に従います。安直にランボーを殺さず、生きて投降させたラストもよかったです。この戦闘がランボーにとっての長い長い自殺の過程であったと解釈すると、この自殺を思い留まらせ、生きて再び社会と向き合うという選択をさせたことで、映画のテーマがより活きたと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2009-10-21 19:37:19)(良:2票)
200.  ロック・スター 《ネタバレ》 
さほど話題になった映画でもなく、名高いスタッフが関わっているわけでもないので「多分つまんないんだろうな」と思っていたのですが、これがなかなか面白くて感心しました。やっぱり映画は見るまでわかりませんね。直球勝負のタイトルからも察しがつくように内容的には何のひねりもなく、スターを目指す音楽青年が成功をつかむものの、浮世離れしたスターの生活で大事なものを失い元の音楽好きに戻るという、似たような話ならいくらでもありそうなストレートなものです。最初から最後まで本当に思った通りに話が進んでいくのですが、手を抜いて作られているわけではないのでこの予定調和が快感にすらなります。ボンクラ青年が憧れのスターから直々に呼び出しを受け、最初のステージに立つまでの展開などは、ベタながら最高に盛り上がります。オーディションではガチガチに緊張してミスを連発、「もうダメか」と思わせながら、いざ歌唱力を披露すると聞いている全員の顔色が変わるという定番中の定番のようなシーンも、本作は見事なまでにバチっと決めてきます。こういう王道の話を作らせると、ハリウッドは本当に良い仕事をするものです。。。役者については、マーク・ウォルバーグのロン毛はやはり厳しいものがありましたが、さすがは元ミュージシャンだけあって音楽への過剰な愛に生きる姿には妙な説得力があったし、ステージ上のパフォーマンスも板についたものでした(てっきり本人が歌ってると思っていたので、このサイトで口パクであることを知った時には軽くショックでした)。ジェニファー・アニストンについても、撮影当時すでに30代のアニストンが音楽青年の彼女という役柄ですから最初はかなり厳しい印象だったのですが、見ているうちに違和感は消えていき、中盤以降はかなり良かったと思います。彼女はテレビ出身なので映画に出演するとどうしても華が足りないように感じるのですが、本作ではショービズの世界に相対する普通の世界の恋人という役柄だったので、華の足りない彼女にはうってつけでした(誉めてます)。テンポを大事にするためか、クリスと家族の関係や、他のロックメンバーとの絡みは相当削られているように思いましたが、そんな中で最初はイヤな業界人として登場しつつ、ラストにかけてクリスの心境に影響を与えるマネージャーのマッツは良い味を出しており、構成要素の取捨選択も的確です。
[DVD(字幕)] 8点(2009-10-12 20:46:06)(良:1票)
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