1. アンノウン(2011)
《ネタバレ》 某有名人気シリーズの設定に酷似していることは気になるが、個人的には意外と楽しめたという印象。どうしても比較してしまうが、このような設定においては基本的にはどれも似通ってしまうので、それほど気にしない方がよいだろう。 特許があるわけではないので、仕方がないと思うしかない(パクリでは不味いが)。 しかし、粗もかなり目立つ作品でもある。 あんなおっさんをターゲットにするくらいならば、あんな面倒くさいことをせずに「普通に道端で襲えよ!」と思う(殺人を事故にみせかけるのがプロの仕事だろう)が、そのようなことを言い出したら映画などは作れない。 製作者は一生懸命にどんでん返しをしようと考えた“努力”と取るしかない。 それにしては、プロの暗殺集団は意外と間抜けな集団と最後になってしまった。 自分の使命を忘れる者もいれば、捨てゼリフを吐きながらも爆弾を解除できない者もいて、おまけに一人の素人の女性にほぼ全滅させられるという有り様。 仲間のおっさんがビビるほどの凄みを感じさせなかったことは残念。 銃による死者がいなかったことは製作者の意図だろうか。 その辺りは一応工夫しているのかもしれない。 残念といえば、善と悪との葛藤のようなものがないことも挙げられる。 生まれ変わったら、悪と戦うヒーローに簡単になってしまうのは単純すぎる。 確かに、訳の分からない輩に襲われたら戦わざるを得ないが、自分の使命やアイデンティティーに対して苦悩させた方がよいのではないか。 悩める主人公をヒロインやターゲットの子どもなどが影響させて、完全に生まれ変わらせるということが醍醐味であろう。 もともとは仲間なのだから、殺そうとするのではなくて懐柔させるようなアメとムチを使い分けてもよかった。 あまり難しいドラマを構築するよりも、真相やアクションを楽しむ映画なので、単純でよいともいえる。 しかし、ラストにおいても妻との再会がなかったことも残念だ。 意外な方法による退場の仕方も面白いといえば面白いが、最後はちゃんと妻と思っていた女性と向かい合わせた方がより面白い。 自分が愛したと錯覚した女性を選ぶのか、それとも自分を救ってくれた女性を選ぶのかというチョイスが最も必要なことではないか。 きちんと過去と決別させるためにもこれは必要な儀式だと思う。 情に訴えかける妻と思っていた女性に策略に乗らないようなシーンは必要であろう。 [映画館(字幕)] 6点(2011-05-09 22:20:22)(良:2票) |
2. ブンミおじさんの森
《ネタバレ》 さすがに全く理解できなかった。 普通の映画とは異なるため常人には製作できないという点は認めるが、本作のような映画ははっきりいって苦手である。 本作においては、この世、あの世、現世、前世といったものを超越しているようだ。 “死”というものは終わりではなくて、“自然”に帰るようなものなのかもしれない。 ハリウッド映画では作ることができない、タイ映画だからこそ作れる境地か。 唐突に挿入されている、現世に絶望しているような王女が何もかも捨て去り、自然(川)と一体化していくシーンも象徴的となっている。 本作を見れば、現世の苦痛といったものが軽減されるかもしれない。 それにしても、点数は付けにくい映画。 見る人によっては満点なのかもしれないが、自分のような若輩者には高い点数はまだ付けられない。 自然を眺めて、その中に美しさを見出せる人には向いているかもしれないが、残念ながら自分は都会に毒されてしまったか。 [映画館(字幕)] 4点(2011-05-03 12:18:48) |
3. ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士
《ネタバレ》 原作は当然未読。 原作に面白みがあるので、ストーリーの進行を追っていけば、前作同様にそれほど飽きることはない。 しかし、基本的にはストーリーを追っかけているだけの映画であり、映画としての質はそれほど高いとは思えない。 例えば、組織に編集部が脅迫されていたと思うが、切迫された“恐怖”というものが感じられず、追い込まれた感があまりない(怖いのは直接攻撃のヒットマンだけであり、心理的な恐怖が欲しいところ)。 また、組織についての“不気味さ”なども感じ取れない。あの程度では、ただの犯罪グループを摘発したくらいしか思えない。 とてつもない巨大な組織を相手にしているという“怖さ”がないと面白みが半減するだろう。 法廷パートにおいても、『これで勝てるのか?』というドキドキ感を生むほどの緊張感や焦燥感がない。 隠し玉がDVDくらいなのでもっと焦りが欲しく、勝負の鍵となるギリギリに掴んだ精神科医のパソコンの逆転劇を効果的に演出して欲しいところ。 しかし、ハリウッド映画のような洗練された感はないが、小細工せずにストレートに製作された映画というものも懐かしいようでありそれほど悪くはない。 ラストもハリウッド映画ならば、部屋に入れたり、キスしたりといった小細工をしそうだが、「また今度…」「きっとだぞ」と言って別れる辺りのあっさりした感じも悪くはなかった。 結局、二人の関係はメールや言葉を交わさない視線のやり取りのみであり、精神的な部分・心の中での絆は深いと思わせるものではあるが、直接的なやり取りが少なかった。 直接的なやり取りが出来ないということは、リスベットが幼い頃に受けた心の傷というものがかなり根深いということなのかもしれない。 ほとんど笑わないリスベットが笑顔を見せたのが、父親が死んだ時などの数回というのも印象的なものとなっている。 彼女は確かに勝利をしたのかもしれないが、本当の意味で勝つことは難しいのかもしれないと感じさせる。 背中のドラゴンタトゥーのように、心に刻まれた傷は消えないのか。 ただ、ミカエルだけではなくて、保険会社のかつての上司、親身になってくれた医者、疫病神、ボクサーなど、彼女を支えてくれた人たちの存在も彼女の心に刻まれただろう。 [映画館(字幕)] 6点(2011-04-16 13:21:24) |
4. ミレニアム2 火と戯れる女
《ネタバレ》 原作は当然未読。 ストーリーの進行を追っていけば、それほど飽きることはない。 しかし、前作での見所であったミカエルとリスベットの絡みがほとんどないので、前作に比べると何かが物足りなく感じられる。 また、事件の追及方法も極めてシンプルであり、天才ハッカーという設定の割には驚くべき手法が用いられるわけではなく、この点に関しては面白みには欠ける。 さらに、肝心のオチや黒幕ザラの正体にもビッグサプライズもなければ、派手な展開が待ち受けているわけではない(壮絶さはあるが)。 全体的に、たんたんとした展開は飽きるほどではないが、やや冗長にも感じられた。 2件の殺人事件や少女売春事件もなんとなく有耶無耶に置き去りとされてしまっており、“核”がボヤけている事件を注視するのはやや疲れてしまった。 ただ、複雑そうにみえるストーリーだが、非常にシンプルかつオーソドックスな作りの上に、字幕等でキャラクター説明をしているので、ストーリーを追うことに困ることもない初心者向けの作りとなっている。 第三章の法廷篇にどのように繋がっていくのか、ハリウッドでどのように味付けされるのかは楽しみだ。 ハリウッドでは本作と同じように製作されることはなく、もっと手の込んだものとなるだろう。 それにしても“火と戯れる女”とはどういう意味だろうか。 “銃弾を受けても死なない女”“バイクに乗る女”“土と戯れる女”の間違いではないか。 [映画館(字幕)] 5点(2011-04-16 12:45:22)(良:1票) |
5. アンチクライスト
《ネタバレ》 きちんと内容を理解できていないのかもしれないが、それほど衝撃的な作品とは思わなかったということが正直な感想。 本作に描かれている内容を言葉では上手く表しにくいが、人間(特に女性)の“本質”のようなものを感じ取れればよいのではないかと思う。 三匹の乞食、森に対する恐怖、靴を逆に履かせる行為、ドングリや手についていた変な虫などは理解しようと思えばできるかもしれないが、放って置いても構わないと思う。 そのようなことよりも自分が感じたことは、性と暴力が人間の“本質”ということだ。 自分の赤ちゃんが危ないことに気付いたのにセックスを優先したということか。 そうなると、激しく後悔する理由や自傷行為などの理由が分かり、本能と理性が絡み合ったカオス的な作品となっている。 ただ、人間の“本質”をきちんと描いてくれれば分かりやすい作品になったかと思うが、サタンや虐殺などに触れられるとやや分かりにくくなってしまう。 分かりやすい作品を作っているわけではないので仕方はないが、全体的にまとまり感がないという印象。 好きな作品というわけではなかったが、トリアー監督作品は悲劇的な内容にも関わらず、逆に変な心地よさも感じられる。 心地よさという表現が合っていないかもしれないが、不思議と居心地の悪さはそれほど感じられない。 映像美や音楽の効果ということもあるだろうが、それだけでもないだろう。 [映画館(字幕)] 6点(2011-04-02 22:15:46)(良:1票) |
6. 白いリボン
《ネタバレ》 ミヒャエル・ハネケ作品は鑑賞した事があるが、自分には向かない監督だと思った。したがって、今までは避けていたが、カンヌのパルムドール受賞作ということもあり、再チャレンジしてみた。合わないところはあるが、確かにこれは凡人が作れるレベルの映画ではないと思う。モノクロ画面の構図など芸術的な作品でもあり、テーマも深遠だ。面白い作品ではないが、つまらなさは感じられない。意味が不明瞭な作品ではあるが、飽きさせることもない。 結末もオチも明らかにはしていないことも凡人とは異なるところだ。もちろん意図があって明らかにしていないのであり、もし明らかにしていれば、逆に失敗だったのではないか。明らかにしないことによって、観客に多くのことを考えさせることとなっている。そもそも犯人が誰かといったことなど、本作にはあまり意味はないことだろう。 個人的な解釈では、第一次世界大戦がキーワードなのかなという気がした。抑圧されていたセルビア人の一人がオーストリアの皇太子を暗殺したことによって、世界全体が狂った戦争へと驀進していく。そのような狂気の伝播、抑圧されたはけ口をあの村の出来事を通して描いたように個人的に感じられた。 ①村人の妻の転落死→キャベツ畑の荒らし→村での孤立→村人の主人が自殺する。 ②牧師が自分の娘が教室で騒いでいると決め付けて娘を叱り付ける→その報復として自分が飼っている鳥を殺される。 ③自分の子どもを疑う→抑制する→ジギや赤ん坊への暴力へと繋がる。 ④男爵が村民を押さえつける→村民が子どもを押さえつける→子どもがジギに報復する→男爵夫妻の関係が破たんする。 カーリへの暴力、夢の話、医師の家族の行方など、解釈が難しいものもあるが、医師の罵倒を聞く限りでは、だいたいの結末についての察しもつく。基本的には、ボタンの掛け違いのよる苛立ちが、次第に強大に膨れ上がり、悲劇的な末路へと導かれている。 過去のドイツの話ではあるが、現在にも通じるような負の連鎖が常人では描けない手法で描かれており、興味深いものに仕上がっている。 パルムドールに値するかどうかは専門家の判断に委ねるしかないが、受け手側の自分のレベルが低いためか、正直言って面白いと思えるほどのものではなかった。 鑑賞中は全体像が把握できなかったので、ひょっとすると再見すれば、評価はかなり高いものとなるかもしれないが、初見ではやや難しい。 [映画館(字幕)] 7点(2011-01-24 21:33:10) |
7. ザ・バンク -堕ちた巨像-
《ネタバレ》 フィクションといえる内容だが、実際の事件を元にしているためか、100%フィクションと感じさせないリアリティのある仕上がりとなっている。 実際に本作で描かれているものに近い銀行があったにせよ、本作に描かれている荒唐無稽さを“荒唐無稽”と感じさせない点が本作の良さではないか。 社会派映画のテイストにエンターテイメント要素やヒューマンドラマ要素を上手く混ぜ合わせて、質の高い映画となっている。 テンポも非常に良く、緊張感も常に保たれている点も評価したい。 本来ならば、辟易するようなムチャクチャともいえるグッゲンハイム美術館の銃撃戦もこのような仕上がりのためか、何故かムチャクチャさを感じさせず、逆に感動モノの仕上がりとなっている。 また、この手の作品としては、ストーリーもかなり分かりやすく整理されており、初見でも全く問題なく付いていける。 ラスト辺りの展開はややリアリティから外れていくが、どこかでオチを付けざるを得ないため仕方がないところがある。 ややトーンダウンしているところはあるが、個人的には逆に上手くオチを付けたとも感じられた。 男としての生き様や美学が込められているのではないか。 “正義”のために法の外に出ようとしても完全には出ることができない男の“悲哀”、“正義”のための行動をしたとしても“強固なシステム”に対しては、一人の男のチカラの“無力さ”などを描くことによって、「チャイナタウン」のような虚無感を漂わせている。 行き場がなく出口のない“怒り”を放置する辺りは製作者の思い切りの良さも感じさせる。 クライヴ・オーウェンもかなり熱演している。 法の外に出ることを決意したオーウェンとワッツが向き合うシーンでのオーウェンの“眼”が非常に印象的だ。 “眼”や“雰囲気”だけで演技できており、改めて高い演技力を感じられる。 本作によって、オーウェンとワッツを高く評価したくなった。 [DVD(字幕)] 8点(2010-12-28 23:33:38) |
8. マチェーテ
《ネタバレ》 ロドリゲスやタランティーノの信者でもなく、正直言うと「グラインドハウス」にもそれほど乗り切れていなかったので、自分が観て楽しめるのか、そもそも自分に観る資格があるのかなど、鑑賞前には不安はあったが、そんな不安は杞憂だった。 冒頭、敵のアジトに突入する際に、隣にいた相棒が1秒程度で死んだシーンをみて、『あぁ、この映画俺の好みかも』と感じさせてくれた。アジトに突入して次々に敵の頭が吹っ飛ぶシーンをみて、『これは楽しめそうだな』とほぼ確信に変わった。さらに裸の女性で出てきたシーンをみて、『…』。 R18指定作品となっており、暴力的な映画とも思われるが、グロさもエロさもほどよい仕上りとなっており、嫌悪感なく楽しめる作品になっている。 多数の出演者も自分の役柄を理解して、ノリ良く演じている。中でも、デ・ニーロもノリ良く演じており、タクシーを強奪して乗り込んだときには何故か笑えてくる。ローハンも自己が置かれている立場を逆に利用して、あらゆる面でナチュラルな演技をみせており、出番は多くないものの我々を驚かせてくれる。 ラストの展開がかなりグダグダしている部分もみられるが、これもB級映画っぽいテイストを狙っているのだろうか。ロドリゲス監督がそこまで計算して製作しているとも思えないが、見ようによっては、このグダグダなラストは本作とマッチしているかもしれない。 また、スティーヴン・セガールがラストでは乗り切れていないと思ったが、彼の三文芝居も同様に本作には合っているのかもしれない。 好意的に解釈すると、素晴らしいクライマックスや、ラスボスとの壮絶なバトルや、感動的な盛り上がりを用意するような映画ではないということか。 そのような凝ったことをしなくても、次回の予告画面だけ見せてくれれば、それだけで盛り上がれる。 ストーリーに関しても、くだらない復讐劇が繰り広げられていると思いきや、アメリカでのヒスパニック系問題や、メキシコからの不法入国、麻薬問題など、リアルな問題を放り込んでおり、決してバカには出来ないストーリーに仕上がっている。 詳しくは分からないが、アメリカ国内を占めるヒスパニック系の割合は相当なものとなっており、彼らの影響力の高さは重要視されているところである。 グロさやバカっぽさ前面に出して押し切るのではなくて、それらを含んだバランス良い仕上りとなっていることは評価できる点だ。 [映画館(字幕)] 7点(2010-11-11 23:42:21)(良:3票) |
9. ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い
《ネタバレ》 アメリカのコメディはそれほど合わないところがあったが、かなりツボにハマった。ゴールデングローブ賞を獲得しただけのことはある上質な作品だ。劇場も結構笑いが溢れていた。個人的には指輪を見つけたときのメガネの反応などがかなり良かったと思う。劇場の中には外人さんも鑑賞していたようであり、日本人が誰一人笑わないところで大爆笑していた。字幕と実際のセリフとのニュアンスには多少のズレがあるのかもしれない。そういったニュアンスを字幕に上手く反映できれば、さらに面白い作品に仕上がっただろう。本作もそれなりに頑張っている字幕であり、笑いに貢献していると思われるが、なかなか難しいところではある。 全体的に非常にナチュラルな仕上りになっているように感じられた。ムチャクチャではあるが、わざとらしい演出や演技を避けられている。東洋人のボスが少々やり過ぎている感もあるが、コメディっぽいウソ臭さやバカバカしさが意外と感じられない。エロやグロなども含まれているが、そういった下品さも感じられない点も評価したいところだ。 それにしても、時間軸がズレるとこれほど面白いものかと再認識させられる。赤ちゃん、タイガー、パトカー、花ムコの行方、抜けた歯など、特に複雑な事情はなく、普通に盗んだりしたものだが、理由が分からないだけで楽しさが倍増している。ストリッパー、マイク・タイソン、警察署のスタンガン講習といったように、その後の顛末にも上手く発展させている。 また、「花ムコがどこに行ったのか」「前夜にいったい何があったのか」という根幹がしっかりとしているので、飽きることが一切なく、映画に集中ができる。テンポもかなり良く、“歌”などの変化球を交えつつ、アイディアを豊富に盛り込んでおり、しっかりとした映画に仕上がっている。 さらに、4人の親友同士のバカ騒ぎというよりも、3人+訳の分からない奴というやや微妙な関係も本作に面白い効果を与えている。勝手を知っている形作られた関係ではなくて、1人の訳の分からない奴が加わることで、さらに予測不能なことが次々と巻き起こっている。 非常に楽しめた作品だが、鑑賞後は自分はつまらない大人になって、ムチャなこともしなくなったという懐かしいような寂しいような感覚にも襲われた。ドラッグも深酒もやるつもりはないが、自分なりのやり方で少しだけムチャなこともやりたいなという感じにさせてくれる映画だ。 [映画館(字幕)] 8点(2010-07-15 23:11:29)(良:1票) |
10. シャーロック・ホームズ(2009)
《ネタバレ》 つまらなくはないが、期待度が高かっただけに少々物足りなさも覚える。全体的にドキドキ感やワクワク感には乏しく、爽快感やサプライズも感じられなかった。もっとホームズを危機やピンチに陥らせて、もう少しハラハラさせた方がよかったのではないか。危機に陥ったとしても明晰な頭脳で切り抜けたり、本当に危険な際にはワトソンが助けてくれたりしないと盛り上がらない。屠殺場でのアイリーン救出劇や大爆発といった展開はもちろん用意されているが、基本的には予定調和気味の仕上がりといえる。 アクションをメインにしてもよいが、ホームズらしい謎解きという要素がほとんど見当たらないのも残念だ。ホームズがおかしな動きをしたり、やたら変な物をクローズアップして、伏線的なものはきちんと張っているが、観客が推理するという仕掛けにはなっておらず、観客はやや置き去り気味となっている。最後に一気にネタ晴らしされても、「ふ~ん、そうだったんだ」位にしか感じられない。 その肝心のトリックや謎や陰謀も分かるごとにテンションが下がってしまった。自分に従わない国会議員を殺すというどうしようもないネタには拍子抜けであり、トリックは古典的かつ既視感があるだけではなくて無理があるものばかり。ブラックウッド卿自身にカリスマ的な“悪”が見えてこないのもマイナスだ。 そのようなネタやトリックを無視できるほど、ホームズとワトソンの相棒愛やコンビが光っていたかというとそうでもない。ロバート・ダウニーJr.は頭脳明晰ではあるものの、人間的にやや足りず、女には甘いというルパンⅢ世のような親しみやすいユニークなキャラクターには仕上がっているが、アイリーンは峰不二子、ワトソンは次元や銭形のようなキャラクターには仕上がり切っていないため、肝心のホームズとワトソンの友情や信頼感などをそれほど深いものだとは感じられなかった。 変装して彼を見舞い治療するという姿にはやや驚いたものの、それだけでは足りない。 モリアーティ教授の登場は嬉しいが、こちらもどうしようもない動機にはテンションが下がる。モリアーティ教授を登場させるくらいならば、ホームズもブラックウッド卿も実はモリアーティ教授の掌で転がされていただけ、事件は何も終わっていない、むしろ今から事件が始まるというオチくらいのものを出して欲しいところ。 そうしないと続編に対する期待感を欠くこととなるだろう。 [映画館(字幕)] 6点(2010-03-15 21:03:57)(良:3票) |
11. ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女
《ネタバレ》 原作未読。長尺だが、飽きることがなくストーリーに集中でき、鑑賞後は素直に面白かったと感じたので評価は高めにしたい。宗教ネタや重いネタも絡んではいるが、事件のネタ自体はそれほど驚かされるものではなく、比較的ありふれた猟奇的殺人事件がベースとなっているものの、捜査の推移を見守っていれば、それなりに楽しむことができる。事件の謎や人間関係は一見複雑にみえるが、比較的シンプルで丁寧な作りとなっているので、付いていきやすいと思われる。観客を置き去りにして、製作者の都合でストーリーをガンガン進めるというようなハリウッド映画のような作りではなくて、捜査を依頼された雑誌記者と同じような目線で観客はゆっくりと丹念に事件を見つめることができるのも好印象だ。シンプルで丁寧な作りとはいっても、訳の分からない伏線を張って自滅したり、登場した瞬間に「オマエ犯人だろう」というような単純な作りではなっておらず、犯人や事件の真相は最後まで分かりにくいので、ハリウッド映画とは異なる“新鮮味”を感じられる。スウェーデンの最近の映画はあまり見たことがなかったので、この機会に見られてよかった。 また、ハリウッド映画とは異なり、派手さがない一方で、エログロ度が高いというのも特徴。殺そうとする直前に、水を飲ませてやるといったやり取りなどは、なかなか興味深い視点からも描かれている。 リスベットとミカエルの微妙な関係も物足りないながらも、興味深く描かれている。この二者の関係がより深まるのは“続編”を待つしかないようだ。ただ、自己の感情は押し殺し、暴力的な感情に満ちているように見えるリスベットだったが、ミカエルにメールを送付した時点で、心のどこかで何かを求めているのではないかと推測もできる。 リスベットは消えない“過去”をもっているからこそ、ノーマルとはいえないアプローチを図り、一緒に寝ようとするミカエルに対してストレートな対応ができないところも何かを雄弁に語っている。抱いてはいけない感情が溢れてきたから、あの時に姿を消したのだろうか。忘れることができないから、刑務所に逢いに来たのだろうか。 サスペンスの面白みだけではなくて、こういった複雑な感情が入り混じっている点も面白みの一つとなっている。単純化された相対する性格のコンビとはやや異なるタイプのコンビであり、二者の微妙で単純ではない関係も本作を豊かなものにしている。 [映画館(字幕)] 7点(2010-02-04 23:04:01) |
12. かいじゅうたちのいるところ
《ネタバレ》 原作未読。単純な面白みは得られないが、独特な世界観を構築するとともに、様々な感情を喚起させられ、映画としてはそれほど悪くはなかったと思われる。色々な遊びを考えながら、永遠に遊んでいたいと願っていた子ども時代を思い出し、少しノスタルジックな気持ちにさせられる。また、映画館を出た後の空気に少し違和感を覚えさせられた。やっぱり、また“現実”という荒波の中で、もがくしかないのかなというような、物悲しい気持ちにさせる作品。マックスでさえも何かに気付いたのだから、そろそろ自分も“現実”に気付いた方がいいのかもしれない。この世の中に誰もが皆幸せになれる世界や、自分が思い描いたような理想郷のようなものは存在しない。自分は王様でなければ、魔法使いでもなければ、ガンダムのパイロットでもなく、ドラえもんも助けてくれなければ、魔法使いに騙されたお姫様も白馬に乗った王子様も現れないのである。 “現実”では、友達たちとの楽しかった関係が永続することはなく、ある程度の人間が集まればいざこざや不協和音が生じるということは避けられない。ぶち壊されたり、ぶち壊したり、自然に消滅したりという形で関係は消えていく。そういったことを経て何かを失って、また“孤独の耐え方”や“社会のルール”といった何かを得て、我々はつまらない人間になって変わっていくしかない。それが大人や社会人になることという“現実”を改めて認識させられてしまった。“映画”という現実逃避の手段を用いておきながら、過酷な“現実”を認識させられることはちょっと厳しい気持ちにさせられるが、それもまた“映画”の役割だろうか。 しかし、過酷な“現実”だけではなくて、本作には普遍的なことも描かれている。 どんなに傷ついても、どんなに傷つけることがあっても、友達たちと遊んだ楽しい思い出は消えることはない。つまらなそうにしていたあの不気味なかいじゅうの一言が心に残った。また、社会でどんなに傷ついても、“家族”という帰る場所があることも描かれている。友達との関係とは異なり、親子の関係は壊そうとしても壊れずに永続していく。母親も姉も自分には構ってくれなかったが、永遠に突き放すことはないのである。 夢オチや妄想といった次元の話が展開されなかったことも評価。あれはあれで一つの現実なのだろう。もっとも現実であろうと、虚構であろうと、そんなことはどうでもいい話だが。 [映画館(字幕)] 7点(2010-01-30 14:08:47) |
13. イングロリアス・バスターズ
《ネタバレ》 タランティーノ監督作品だけあり、さすがに万人受けする映画ではなさそうだ。自分もタランティーノの感性には完全にマッチングさせることはできなかった。ただ、心の底から楽しめたということはなかったが、自分なりの感性で楽しむことはできた。 元ネタを知らないので、小ネタやオマージュの類は一切分からない。その辺りの面白さは一般人には分からないが、あまりそういったことは気にならないようには製作されている。 ブラッド・ピットが率いる“バスターズ”がとんでもないヒトラー暗殺計画を企てるという、ありきたりなストーリーとは真逆の映画に仕上げていることが凄いことだ。 また、主役と脇役、善と悪、史実と妄想、男も女も国籍も関係なく、英語もドイツ語もフランス語も何もかもごちゃ混ぜにして、徹底的に“自由”に弾きまくっている点が特徴となっている。 タランティーノのやりたいことは、ブラッド・ピットの最後の行動に全てが集約されているのではないか。「(投降?)そんなの関係ねえ。俺はやりたいことをやりたいだけやるんだ!」ということだろうか。ブラッド・ピット同様に、タランティーノも映画の常識、文法、ルール全てを無視、登場する者はとりあえずぶっ殺していき、『史実?そんなの知らねえ』と突っ走るだけ突っ走っている。それがタランティーノのやりたかったことだろうか。何事にもとらわれずに、自由に自分の感性を爆発させるということはなかなかできないことだ。 ラストの締めくくりも、他の映画ではみられない“俺流”といえる。 “俺流”に徹することが果たして映画にとって良いのかどうかは判断の難しいところだが、奇をてらうことだけが目的にならなければよいだろう。 自分の好みは、どの章かは忘れたが、地下の居酒屋のシーンだ。 本題とは大きくハズれて、脱線してなかなか本線には戻ってこないというイライラ感が逆に次第に面白く感じてくる。 本題を忘れたころに、状況を一変させる辺りが上手い。 第一章のオヤジ二人の会話からも分かるように、どうでもいい会話を展開させて脱線していきながら、いいタイミングで本線に戻すというところはタランティーノの天才的なところだ。 主役の割には、放置される場面が多かったブラッド・ピットがノリノリで演じているのも救いとなっている。 画面の後ろの方で、表情を作っている姿をみると、自分の役割をよく分かっているなという印象をもつ。 [映画館(字幕)] 7点(2009-11-23 22:14:13)(良:1票) |
14. パイレーツ・ロック
《ネタバレ》 非常にセンスのある作品に仕上がっている。 ミュージック、ファッション、作風・世界観いずれにも見応えがあり、アメリカ作品とは異なるイギリス作品らしいユーモアセンスも抜群だ。 下ネタがかなり多いが、下品になっておらず、こちらも絶妙なユーモアとセンスで上手く調理されている。 「板垣死すとも自由は死せず」という有名な言葉があるが、「海賊ラジオ死すとも、ロックは死せず」ということだろうか。 ロックを語れるほど、ロックに傾倒しているわけではないが、その自分にも「ロック魂」「ロック愛」のようなものが十分伝わってきた。 政府に禁止されようとも、船が沈没しようとも、最後の最後までロックを流し続ける、ラジオを流し続ける“魂”が熱い。 当時の人々が熱狂したかもしれないという理由が分かる気がする。 見ているうちに次第に、個性のあるイカれた野郎どもと1人の女性コックが愛おしく感じてくる。 自分もこの船の乗客になったかのように、アットホームで仲間内な雰囲気に飲み込まれていく。 それぞれの個性は強烈であり、キャラクターも生きているとは思う。 しかし、何度か見れば、当然感想も変わると思うが、初見では乗員それぞれの内面というものまでもは完全には伝わりきれていない。 ただ、それぞれのキャラクターに変なエピソードを設け過ぎると、その世界観や映画としての個性が崩れる可能性があるので、難しいところだ。 ロックを愛する訳の分からない連中が騒いでいるだけの映画でも、本作にとってはよいのかもしれない。 長所でも短所でもあるのが、この“ユルさ”である。 バカバカしいようなところでも、そのユルさによって、バカバカしくは感じさせない。 しかし、前半はその独特な世界観にハマるが、ストーリーらしいストーリーがなくキャラクター及び世界観依存型の映画なので、中盤は多少ダレてくるところがあったような気がする。 個人的には、船の沈没間近でも革パンを履いてくるところや、命よりも大事そうなレコードを「これはクソだ」と放り投げるようなところが気に入った。 『それぞれのキャラクターの内面が伝わらない』とは書いたが、このようなどうでもいいシーン一つ一つに、各キャラクターの余裕と生き様を感じられるので、何度も見て深く堪能して、それぞれのキャラクターの内面を感じ取っていく作品かもしれない。 [映画館(字幕)] 7点(2009-10-25 23:46:57)(良:2票) |
15. ワイルド・スピード
《ネタバレ》 クルマには全く興味がないので、その辺り関してはほとんど熱くなれなかった。 しかし、カーアクションであり、犯罪モノでもあるが、どこか青春映画っぽい仕上りにもなっている点に対して興味をもてた。 後半の強盗失敗辺りからややバランスはおかしくなるが、全体的にリアリティのようなものや人間味のあるところが感じられる。 クルマに懸ける熱い想いを通して、“友情”“師弟愛”“愛情”のようなものが育まれていっているからではないか。 ブライアンに対して、自分の父親について語るドミニクの姿には彼に対する信頼感のようなものも感じられる。 また、成果はほとんど上げる事はできなかったが、おとり捜査という微妙な立場が面白い効果として機能もしている。 ドミニクが強盗に固執し、中国人の暴走する辺りから、普通のハリウッドアクションのテイストになっていくが、その辺りも楽しめないわけではない。 ラストにも一工夫が施されているように感じられる。 ブライアンとドミニクのラストのカーバトルに関しては、ドミニクのクルマの調子が悪くなってきたことから、ドミニクは踏み切りの手前でブレーキを踏んでトンズラをかますのではないかと思っていたが、二人ともアクセル全開でかっ飛ばすのは少々意外だった。 この辺りもどこか青春映画っぽく感じられるところだ。 ドミニクは、少しは狡猾なところがあると思ったが、ただのバカなのかもしれない。 確かに、クルマを置いて歩いて逃走しようとする辺りや、計画が狂っても自分のプランに固執する辺りから、そういう雰囲気を醸し出してはいた。 しかし、警察官と分かった相手でも逃げることなく、“自分”を貫く辺りはただのバカを通り越した、男として魅力のあるバカにもうつる。 そのようなドミニクを逃がすことによって、存在感が薄かったブライアンも印象が向上した。 「どっちの側につくのかはっきりしろ!」と自分の上司から言われていたが、ドミニクを逮捕してFBIサイドに付くこともなく、ドミニクと一緒に逃亡してドミニクサイドに付くこともなく、彼もまた“自分”を貫いたようにも感じられる。 彼らはいずれもスマートなキャラクターではなかったが、どこか憎むこともできないキャラクターとして形成されていたので、その辺りを評価したいところだ。 [DVD(字幕)] 7点(2009-10-11 00:49:44) |
16. ワイルド・スピードX3/TOKYO DRIFT
《ネタバレ》 最新作が公開される関係で、期待値ゼロでやむを得ず鑑賞。 どんなに酷い作品が待っているのかと思ったら、意外と普通に見られるレベルといえるかもしれない(もっとも高い評価はできないが)。 クルマについては詳しくないので、アクションの凄さのレベルがよく分からないが、ボケッと眺めていればそれなりに飽きずに楽しむことができた。 ラストのレースも意外ときちんと仕上がっているのではないか。 ヘンテコな日本・東京が描かれるのは、突っ込む方が野暮といえるかもしれない。 カーアクション作品や犯罪モノなので、必ずしもリアルな東京を描かれる必要はない。 むしろ、「ウワバキ」などの謎のやり取りや「学ラン姿のアメリカ人」を楽しむことができるので、ヘンテコさが一つの売りともいえるのではないか。 リアルで精緻な東京が描かれたら、それはそれで面白みが減ると思われる。 ストーリーは「トップガン」や「ベストキッド」の流れを汲むような“基本”に忠実となっている。 『友情や恋愛を絡ませながら、友人の死や挫折を経験して、それを乗り越えてライバルを倒す』という王道路線が描かれている。 しかし、友情、恋愛、挫折の乗り越え方もいずれも中途半端という印象。 メインがカーアクションとはいえ、もうちょっと工夫しないと良作にはなりようもない。 “GAIJIN”も有名なので単語だけ使ってみましたというレベル。 あまりこれに関わりすぎると、メインが疎(おろそ)かになるので、バランスが難しいが、やはり何か物足りない仕上りだ。 外人としての孤独や疎外感を描きながら、“クルマ”を通しての外人と日本人との交流・融合といった視点を付加してみると、もっと評価できる作品に仕上がったように思われる。 これでは、あえて東京を舞台にする必要があったのかいうほどのレベルだ。 鑑賞前は北川景子がそれなりに重い役柄を演じているとずっと思っていたが、まさかここまで空気だったとは思わなかった。 これも収穫といえば収穫だろうか。 [DVD(字幕)] 5点(2009-10-11 00:48:45)(良:2票) |
17. 愛を読むひと
《ネタバレ》 好き嫌いは分かれるかもしれないが、個人的にはかなり気に入った作品だ。ほとんど飽きることがなく、映像にチカラがあるため、完全にこの世界に引き込まされた。本作は、このストーリーを映画化した際における最高のデキといえるのではないか。これ以上のモノを作れる者はほとんどいないだろう。それだけ、スティーヴン・ダルドリー監督の手腕が光っている。セリフで何かを説明するのではなくて、様々な“行為”で多くのことを語らせている点が秀逸だ。脚本に書かれていること以上のことを映像化できる監督は評価されるべきだ。アカデミー賞監督賞に連続ノミネートされているのも納得といえる。 本作を一言で言えば、“愛”を映像化している作品だ。“愛”というものは形が定まっていないだけに、上手く映像化することはできない。しかも、その難しいことに成功しているだけではない。 “愛”の純粋さだけではなくて、“愛”の奥深さや複雑さをも描き切っている。 「人生」や「男と女の関係」は“愛”だけでは簡単には割り切れないことをよく分かっている。「世の中」というものは、一般的な映画のようにそれほど単純ではない。 単純なハッピーエンドでもバッドエンドでもない、どちらとも解釈が可能となるグレイの部分を描いている。本作の時代背景はかなり古いが、現実世界における“厳しさ”“深さ”に通じることを描いているようにも感じられた。 本作には色々と説明が足りないところが多く見られる。「なぜそうなるのか」「どうしてそうしたのか」「どういう想いが込められているのか」といったことが映像を観ただけではよく分からないと思う。主人公たちに簡単に感情移入できるほど単純な映画ではなく、彼らの行動を全て“理屈”で説明することができない。 しかし、人生や愛とはそういうものではないか。説明が足りないからこそ、より“深み”が増したようにも感じられる。本作には余計な「説明」も「答え」も要らない。 観た者が感じたことを色々と想い巡らせればよいだろう。 むしろ、これ以上何かを説明しようとすれば、“蛇足”となるのではないかと思う。 ケイト・ウィンスレットもアカデミー賞主演女優賞獲得が納得できる演技をみせた。 監督や脚本の意図を汲み、“深み”のある演技をみせている。セリフや説明が少ない分、微妙な“感情”や“表情”で内面を表現して観客に何かを感じてもらおうと努力している点を評価したい。 [映画館(字幕)] 8点(2009-07-31 00:37:55)(良:1票) |
18. ターミネーター4
《ネタバレ》 大金が投じられたド派手なアクション作品なので、鑑賞時間分は楽しめるが、観てよかったと感じる部分は少ない。序盤は期待感があったものの、ありがちなストーリーに終始している。多くのSF作品からのアイディア流用も多く、オリジナル性が感じられない。不満な部分は以下の通り。 ①【中身のないストーリー】本作は基本的に中身がなさすぎる。コナーとカイルの出会いという意味はあるが、大して意味のあるものではなかった。本作がターミネーターの隠された歴史に何かが刻まれたとは思えない。タイムパラドックスという問題があるが、むしろ歴史が変わるようなことがあった方がストーリーは面白くなるのではないか。 ②【強力な敵の不在】T1000、TXという強力な敵がいるから、このシリーズは面白いのである。ターミネーター同士のガチンコバトルが本シリーズの見所であるが、本作には手に汗握るようなバトルが描かれていない。シュワの復活には心が躍ったが、盛り上がったのはあのシーンだけだ。せっかくマーカスという新キャラクターを盛り込んだにも関わらず、彼とT800のバトルに盛り上がりが欠いたのはもったいない。 ③【ラストの心臓エピソード】本作において「人間と機械の違い」について語られていたと思う。個人的には「人間には限りのある命がある」から、機械とは違うのではないかと考える。「心臓がもたない」から交換しましょうでは、機械の発想と変わりがない。このエピソードを盛り込んだ趣旨や意図が全く分からない。このエピソードのせいで、評価は下げざるを得ないだろう。これよりも、マーカスはコナーをかばってT800と相打ちになったり、T800のエネルギーを爆発させるためスカイネット本部に残って爆破させた方がよかっただろう。マーカスを機械としてではなく、より人間として描くこともできる。 ④【新シリーズへの期待感】本作を観て「続編が楽しみだ」と感じる者は多くないだろう。ヒットしなかったら、シリーズを打ち切れるように予防線を張ったとしか思えない中途半端なハッピーエンドで幕を閉じた。「おいおい、この後どうなるんだよ!」という衝撃的なエンディングを用意しないと、シリーズはもたないのではないか。スカイネットに主要人物が捕まるといった選択肢があるのに安易なエンディングで逃げたとしか思えない。 残念ながら、新シリーズは好ましくないスタートを切ってしまったようだ。 [映画館(字幕)] 6点(2009-06-07 20:13:13)(良:2票) |
19. ワルキューレ
《ネタバレ》 けなしたくなるようなレベルの低い映画ではないが、個人的には面白みがほぼ皆無と思われた。唯一面白かったのは、ゲッベルスが青酸カリと思われるカプセルを口に含み、それを吐き出すまでだろうか。 肝心の緊張感や緊迫感に欠ける仕上がりとなっており、本作のような作品に必要な信念の深さや志の高さもそれほど感じられない。彼らが死んでも、正義は死なないというような熱い映画にはなっていない。 ブライアン・シンガー映画に精通しているわけではないが、彼の映画に多くみられる致命的な欠点は、テンポがほぼ同じということだ。盛り上がりが必要なところも、そうでないところも、ほぼ同じリズムで演出されている。血が通ったような映画ではなく、無機質ように淡々としている点が問題だ。ただただ事実と思しき現象を映像化しているにすぎず、ドキュメンタリー映画の再現フィルのような仕上がりとなっている。 一流の監督ならば、観客に対して「面白い」と感じさせる手腕があるはずではないか。 「ヒトラーの暗殺が成功していない」「ワルキューレ作戦が成功していない」という事実を知っている我々に対して、真正面から正攻法で攻めても成功するはずがないと思わないのだろうか。ワルキューレ作戦が成功しなかったのと同様に、本作の映画化作戦も致命的な失敗だったのではないか。 なぜワルキューレ作戦が成功しなかったのかをもっとクローズアップした方が面白かっただろう。 突然の会議場所の変更、予定の2つの爆弾を使えなかったこと、カバンの位置をずらされてしまったこと、何人かは死んだのにヒトラーはほぼ無傷だったというヒトラーの悪運の強さなどの偶然が重なったことをもっと丁寧に描くべきではないか。 本作でも、これらは完全に描かれているが、何もかもサラリと描かれすぎてしまっているのは勿体ない。 ワルキューレ作戦が遂行された後も、大きな混乱が描かれることはなく、知らず知らずのうちにこちらの方が追いつめられてしまったという感が強い。 これほど大掛かりなクーデターなのだから、双方において大きな混乱や焦りがあったはずである。双方の息が詰まるような攻防や展開を描いた方が盛り上がったのではないか。予備隊の少佐への電話一本、生存を伝えるラジオのみというのは味気ないところがある。 ただただ「ワルキューレ作戦」の表面をなぞったにすぎず、深みも重みもない映画を高くは評価しにくい。 [映画館(字幕)] 4点(2009-03-21 02:12:10)(良:2票) |
20. マンマ・ミーア!
《ネタバレ》 ABBAについてはよくは知らなかったが、「どこかで耳にしたことがある、この曲ってABBAの曲だったんだ!」という驚きが大きかった。 それにしても、30年前のグループの曲なのに、音楽が生き続けて、歌い続けられるということは“奇跡”と思わざるを得ない。 年月を経てもまったく色褪せないのは、音楽くらいではないだろうか。 歌のチカラはやっぱり凄いと実感させられる。 はっきりいって「歌がそれほど上手くない」「ストーリーがメチャクチャ」「恐ろしいほどにダサい」とは思ったが、“それがどうした?”というような映画だった。 “楽しくて、ハッピーならばそれでいいじゃないか!”というノリで押し切られてしまった。 いい意味での“適当さ”や“ダサさ”がABBAの曲やギリシャの陽気さにマッチングしている。 ミュージカルは完璧さが追求される世界かもしれないが、完璧なダンスや、メチャクチャ上手い歌を聴かされたら、本作においては逆効果になるかもしれない。 また、ストーリーと世界観とのバランスが難しく、「二兎を追うもの一兎も得ず」ということになるくらいならば、「ハッピーになれる」という長所を確実に狙ってきたのだろう。 奥深さは全くないが、狙い自体は成功したといえるのではないか。 上映終了後、劇場で鑑賞していた女性たちは皆楽しそうな表情をしていた。 ただ、ストーリーにケチを付けるのは野暮だが、映画としては、あまり高くは評価できない仕上がりにはなっている。 ドナとソフィの親子愛、女の友情、ある意味では敗者であるドナの悲哀、若いソフィが狭い島から抜け出して、世界に羽ばたくといったことなども、きっちりとは歌い込まれているが、あまり高いレベルの深さはなかった。 すべてをきっちりと高いレベルにしろとは言わないが、何かひとつ“ドナとソフィの親子愛”辺りは感動できるようなレベルにまで、きっちりと描いて欲しかったところだ。 [映画館(字幕)] 6点(2009-02-11 22:47:39)(良:1票) |