1. アンノウン(2011)
《ネタバレ》 某有名人気シリーズの設定に酷似していることは気になるが、個人的には意外と楽しめたという印象。どうしても比較してしまうが、このような設定においては基本的にはどれも似通ってしまうので、それほど気にしない方がよいだろう。 特許があるわけではないので、仕方がないと思うしかない(パクリでは不味いが)。 しかし、粗もかなり目立つ作品でもある。 あんなおっさんをターゲットにするくらいならば、あんな面倒くさいことをせずに「普通に道端で襲えよ!」と思う(殺人を事故にみせかけるのがプロの仕事だろう)が、そのようなことを言い出したら映画などは作れない。 製作者は一生懸命にどんでん返しをしようと考えた“努力”と取るしかない。 それにしては、プロの暗殺集団は意外と間抜けな集団と最後になってしまった。 自分の使命を忘れる者もいれば、捨てゼリフを吐きながらも爆弾を解除できない者もいて、おまけに一人の素人の女性にほぼ全滅させられるという有り様。 仲間のおっさんがビビるほどの凄みを感じさせなかったことは残念。 銃による死者がいなかったことは製作者の意図だろうか。 その辺りは一応工夫しているのかもしれない。 残念といえば、善と悪との葛藤のようなものがないことも挙げられる。 生まれ変わったら、悪と戦うヒーローに簡単になってしまうのは単純すぎる。 確かに、訳の分からない輩に襲われたら戦わざるを得ないが、自分の使命やアイデンティティーに対して苦悩させた方がよいのではないか。 悩める主人公をヒロインやターゲットの子どもなどが影響させて、完全に生まれ変わらせるということが醍醐味であろう。 もともとは仲間なのだから、殺そうとするのではなくて懐柔させるようなアメとムチを使い分けてもよかった。 あまり難しいドラマを構築するよりも、真相やアクションを楽しむ映画なので、単純でよいともいえる。 しかし、ラストにおいても妻との再会がなかったことも残念だ。 意外な方法による退場の仕方も面白いといえば面白いが、最後はちゃんと妻と思っていた女性と向かい合わせた方がより面白い。 自分が愛したと錯覚した女性を選ぶのか、それとも自分を救ってくれた女性を選ぶのかというチョイスが最も必要なことではないか。 きちんと過去と決別させるためにもこれは必要な儀式だと思う。 情に訴えかける妻と思っていた女性に策略に乗らないようなシーンは必要であろう。 [映画館(字幕)] 6点(2011-05-09 22:20:22)(良:2票) |
2. エンジェル ウォーズ
《ネタバレ》 嫌いなテイストではなかったが、「300」「ウォッチメン」の方が好きなので、評価としてはこの程度となる。 鑑賞する前は、5人の美少女が協力してキーアイテムを強奪しながら脱獄するようなストーリーが描かれるのではないかと思っていた。 実際の脱獄を描いても面白くはないので、空想的に見立てられていると思ったが、現実の世界と空想の世界があまりリンクされていなかったのが意外。 もちろんそれなりにリンクはされているのだが、結局彼女はいったい何と戦っていたのだろうという感想も出てくる。 仲間を助けることが出来れば、彼女にとってはそのようなことはどうでもいいことなのだが。 世界観については、ザック・スナイダー監督らしさが炸裂しており、彼のファンならばより楽しむことはできるだろう。 むしろ過去の原作が存在するような作品よりも、伸び伸びと自分らしさを発揮できていたような気がする。 そのため、一般向きというわけではなくなり、好き嫌いが分かれそうだ。 個人的に嫌いな作品ではないが、キャスティングがそれほど好みではなかったことが難点。 5人の美少女という設定かどうかは分からないが、肝心の5人が自分の好みとはやや異なるので、ハマるような感じではなかった。 微妙にアダルト過ぎたかもしれない。 また、5つ目のキーアイテムの謎が本作の“キー”となってもいいとは思うが、その“キー”を盛り立てるようにはなっていない気がする。 姉を助けようとするロケットの行動、仲間を救おうとする余りに取ったブロンディの行動を鑑みると、自ずと答えが導かれるようにはなっているが、“5つ目のキーは何か”ということをもっとアピールしてもよい。 ラストの頃にはすっかりと忘れかけていた(そういう演出だろうが)。 ストーリーを追う必要はないが、カメラワークを追う必要はある映画。 意外と凝った動きをしており、カメラの動きを追うのは楽しいが、しょせんCGなので深い関心はしにくい。 こういう映画こそ3Dの方がよかったような気がする。 3Dならば本作の印象ももっと変わったかもしれない。 冒頭にセリフなしでガンガン進めるような展開はユニークなので、空想世界だけではなくて、ミュージカル要素なども取り込みながら、全体的にもうちょっと自由自在に遊びまわってもよかったかもしれない。 パターン化されてしまっている。 [映画館(字幕)] 6点(2011-04-23 11:54:42) |
3. ソウ ザ・ファイナル 3D
《ネタバレ》 なかなか芸術的な殺戮ショウが繰り広げられており、その点だけは感心できる。冒頭の三角関係、自動車工場での4人同時処刑、変型タイプの処刑道具など、単なるグロさだけではなく、殺し方に関しては相当にアイディアを搾っているようだ。 ただ、メインの詐欺者のゲームも含めて、メインストーリーとはやや離れたものであり、殺し方にアイディアを搾っても映画としてはあまり評価しにくい。もっとも、ホフマンとしては遺体すり替えという目的があったが、警官が多数いる中で、爆発の目くらましだけで、一人ですり替えができるとも思えず、驚きのアイディアというよりもやや呆れたアイディアともいえる。 ジグソウが亡くなったこともあり、もはや“ゲーム”や“哲学”など一切吹き飛んでしまっており、無差別テロにも近い仕上がりとなっている。ホフマン刑事のポリシーが「撃たれる前に早く撃て」というようなものなので仕方がないが、当初の「SAW」シリーズとはだいぶかけ離れてきていることは残念だ。過去にもショットガントラップは確かに存在したが、自動マシンガンで皆殺しするようになったら、芸術的な罠というよりも興ざめしてこないだろうか。 悪くはない点としては、詐欺師の口を借りて、ゴードンが生まれ変わったことを正当化する手法辺りだろうか。ジグソウのゲームをクリアし、人生が変わったことで新たな正統な後継者が登場するということは理解できる仕組みとなっている。 しかし、手法に関して面白みがなかったことが残念だ。ただ、ホフマンを拉致して幽閉する程度では面白みがない。実は、ゴードンが仕掛けた壮大なゲームの中にホフマン自身が既に組み込まれていたといったようなアイディアが欲しいところだが、尺の関係やアイディア不足ということもあるのだろう。ホフマン自身はまだ生存しているので、これから彼らのゲームが始まるということも考えられるので、この点に関しては今後のお楽しみというところか。 誰が最後のゲームオーバーを言うかという最大の関心事についても、ゲーム事態がほぼ存在していないので、心にはあまり響かない。ホフマンVSジル、ホフマンVSギブソン、ホフマンVSゴードンなどの盛り上がるゲームを構築して欲しかったところだが、現在のスタッフでも厳しいのか。鉄格子の中に隠れて逃げている相手をただ捕まえて殺すといったゲームともいえないものは、見ていても面白くもなんともない。 [映画館(字幕)] 6点(2010-11-04 23:26:00)(良:1票) |
4. ボーン・コレクター
《ネタバレ》 途中までは本格的なサスペンスを堪能することができ、結構良かったと感じていたが、オチの付け方を完全に誤ったような仕上りとなっている。 犯人に対して面白みが何もなければ、頭脳戦を繰り広げていたのに、ただの肉弾戦で終わるというのも面白くもない。 ナイフを使って殺したいのならば、このような無駄な苦労をせずに、もっと以前に可能だったのではないかというツッコミを入れられるような作品に対しては高い評価ができない。 「証拠捏造」「人間トイレ」がどうのこうのと、色々と語っていたが、犯人の動機も目的も理解できず、それほど悪くはない作品が全て台無しとなった。 それなりの知能犯と思っていたが、結局のところ昔の書物に書かれていたことを実行していたに過ぎないというのも面白くない。 全体的に犯人を追い詰めるという感覚がなく、犯人の掌で転がされているうちになんとなく事件が終わってしまったという感覚だ。 したがって、スリリングではあるものの、どことなく緊張感が欠ける作品となっている。 また、冒頭は尊厳死をほのめかしていたものの、ラストでは疎遠となっていた姉や姪と再会したり、アンジェリーナ・ジョリーと恋愛関係気味となったりと、一転して和気あいあいとしたほのぼのとした感じで終わるというのも、「これで良いのか?」という気がしてくる。 本作においては、“誰が犯人であるか”というよりも“現場の状況から犯人が残したヒントを探り出す”という点に重きを置かれていることは分かる。 それならば、スピーディーに処理するのではなくて、もう少し観客と共にじっくりと現場や謎解きを共感できるように演出した方がよかったかもしれない。 もっとも、紙の切れ端のパズルを解決したとしても面白くないネタではあり、もう少し工夫する余地はありそうだ。 オチやストーリーは面白くないが、デンゼル・ワシントンとアンジェリーナ・ジョリーが好演している点は評価したい。 特に、アンジェリーナ・ジョリーが喜怒哀楽を上手く表現していた。 ただ、父親を自殺で失い、恋人と上手くいかず、自分に自信も持てずに憂鬱そうにしていた割には、途中からは一転して優等生に変わってしまった点は物足りないところではあるが、本作においては十分光を放っていたといえる。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2010-08-16 22:22:20) |
5. 第9地区
《ネタバレ》 ドハマりしたわけではないが、比較的好みのテイストに仕上がっている。 ストーリー展開自体には、特別な謎や不可思議な秘密や恐ろしい衝撃があるわけではなくて、他のアクション作品やSF作品とそれほど差異はないように思えるが、良い意味での粗さや雑さが、他の作品とは異なる“新味”を産んでいる。 いい加減で凡庸な設定も多く見られるが、新人監督らしく勢いとブラックユーモアで突っ走ったら、なかなか悪くないものができたようだ。 新人監督に好き勝手にやらせたと思われる彼の親玉のピーター・ジャクソンの度量の広さも窺われる。 また、ラブストーリー、友情、親子愛なども含まれているようで、上手くカタチになっていないような気もした。 しかし、そのような部分に逆に惹かれた。 ハリウッドテイストに精錬されて型にハマッているわけではない部分が本作の魅力といえるのではないか。 計算しているとは思えないが、どこか作り物らしくないリアリティが高まる効果が生じたように思える。 せっかく“友情”のようなものを築きつつあるのに、「3年!地球時間でか?」と聞いて、仲間であるはずのエビちゃんをいきなりぶん殴る辺りは思い切った展開といえる。 そのような扱いをしたエビちゃんを最後は命を張って助けようとするのだから、何かを感じずにはいられない。 子エビちゃんが彼らの関係を繋ぐいい橋渡しになったとも思えないが、「息子のために頑張れ」というような趣旨の発言をしていたので、ある程度は子エビちゃんの影響も感じられる。 きちんと計算しているとは思えないが、ドキュメンタリータッチやインタビュー形式を採用しているので、実は意外と計算し尽くしているのかもしれない。 能力が高そうではない人の良さそうな普通のサラリーマンが主人公というのもあえて狙っているのだろう。 このような思い切りの良さも低予算・無名俳優・新人監督のなせる業だろう。 南アフリカのことも、アパルトヘイトのこともよく知らないので、政治的なメッセージも含まれているのかどうかはよく分からなかったが、鑑賞後にヨハネスブルグのことを調べたら、ある地域の治安の悪さはリアルで映画のままのようだ(映画の方がマシなのか)。 ネタも含まれていそうだが、強盗に遭う確率が150%(2回以上強盗に遭う確率が高い)、赤信号で停まってはいけないという暗黙のルールがあるらしい。 [映画館(字幕)] 8点(2010-04-13 21:57:04)(良:1票) |
6. 2012(2009)
《ネタバレ》 ステーキを食べようと思ったら、ステーキじゃなくてコンニャクだったというような映画。エメリッヒに期待するほうが間違いなのかもしれないが、物足りなさを覚える。壮絶な映像も見慣れてしまっているのか、期待していたほどではなかった。 ただのパニック・ディザスタームービーを作るのではなくて、人類が滅亡する際にいったいどういう光景ややり取りが見られるのかというリアルさがあるヒューマンドラマを製作したいというような狙いが見られるが、上手く成功したとは思えない。 ヒューマンドラマを作りたいのならば、きちっと“核”を設定しないといけない。本作ならば、“主人公たちが本当の家族になる”ということだろうか。離れて暮らす息子たちと本当の“絆”を築けた際には評価される感動作になることができた。父親のことをあまり好きではない息子がなんとなく父親と打ち解けて、なんとなく父親を助けようとしたのでは“感動”は生まれないのである。父親に対して激しく反発する中で、父親の良さや父親からの愛情を再認識して、嫌っていたはずの父親を最後は自分の命を捨てようとしてまでも助けようとするところまで彼らの絆が成長しないと面白くない。本来ならば、家族や息子を助けるために主人公が死ぬということが感動的な落としどころだが、そういうオチに持っていくことが難しくなるほど、本作は煮詰まっていない。本作では多くのキャラクターが死んだが、はっきり言って効果的かつ感動的に描けたものがほとんどなかったような気がする(評価できるのはロシアのオヤジくらいか)。誰かのために何かをして“死ぬ”という人間の美しさが伝わってこない。 また、何かしらの“悪”というスパイスが必要ではないか。人間の敵は自然ではなくて人間という落としどころにもなる。金持ちのロシアのオヤジと科学者の上司のような男の二人が“悪”の候補者になり得たが、どちらも存在感を発揮したとは思えない。人間というものは生き残るためには、誰かを犠牲してもいとわないという考え方もあるので、人間の浅ましさをも描いた方がよい。その方が、人間の美しさも引き立つだろう。いずれにせよ、困難にぶち当たった際に一致協力して立ち向かおうという人間の姿を描く濃密なヒューマンドラマか、自分だけが助かりたいという人間の醜さが招く悲劇か、何かしらのものを描かないと本作のような中途半端な作品になってしまう。 [映画館(字幕)] 5点(2009-11-21 22:49:19)(良:1票) |
7. ソウ6
《ネタバレ》 デキは意外と悪くはなく、合格ラインは突破しているのではないか。驚くようなトリックはないものの、ゲーム自体はなかなか凝ったものとなっている。また、ホフマン刑事にカリスマ性がないことが欠点だったが、そういう欠点を長所に変えるところがこのシリーズの良さでもある(Ⅲでも使った手法)。直接殺人を犯すという暴挙に出た彼に後継者失格の烙印を押して、今後のシリーズ展開を膨らまそうという狙いもみられる。 気に入らないところは、保険会社の担当者を殺す必要があったのかというところだ。彼のゲームのプレイを見ている限りでは、それほど悪い奴ではない。自分だけが生き残ることや自分が痛みを感じないことを第一に考えているわけではない。計算や数字で判断するのではなくて、純粋に仲間を助けたい、家族や子どもがいるかどうか、というような点で判断している人間的な一面が垣間見られる。 彼がどういうプレイをするかを母子が判断するという“ゲーム”があるとすれば、彼のプレイは間違っているようには思えず、母子の“ゲーム”はミスではないか。彼を殺さないことによって、今後は更生して何人もの命が彼の保険によって救われる可能性も出てくる。 彼をたとえ殺すとしても、もうちょっとタメが必要だったと思われる。母親がいったんは殺そうと決意するもののやはり最後には殺せないと嘆いて、観客に対して安堵感を与えておきながら、最後の最後に息子がもう一撃食らわせるということが必要だったのではないか。“彼が助かった”と感じさせないと息子の一撃が活きてこない。 “ゲーム”の趣旨を考えると、殺すこと自体賛成できないうえに殺し方も面白みに欠けるので、この点がマイナス評価となる。一応、“生への実感”“生に対する感謝”が本作のテーマでもあるわけなので、なんでもかんでも殺せばよいという問題ではない。父親を見殺しにされたから“むかついたので殺します”では、復讐や暴力を是認する残酷なだけのものであり、映画としての“深み”もなくなってしまう。 彼を殺すか殺さないかというのも製作者に対する一つの“ゲーム”だったような気もする。化学薬品を使った面白い殺人方法を思いついたから、実現させてみようぜというノリではないか。ハロウィーンシーズンに楽しむサスペンスホラーなので仕方がないとはいえ、製作者自身が“ゲーム”に負けているような気がする。 [映画館(字幕)] 6点(2009-11-08 22:37:41)(良:2票) |
8. ウォッチメン
《ネタバレ》 原作未読。ザック・スナイダー監督作だけのことはあり、ビジュアルには文句がない。 練りに練られた映画であり、デキ自体は素晴らしいが、原作未読者にはあまりにも情報量が多すぎる上に、あまりにもストーリーがぶっ飛びすぎていて、付いていくのが精一杯だ。ストーリーは一本の線に収束されるように作られており、捨てる部分がないという気持ちは“理解”できるが、あまりにも詰め込め過ぎではないか。オジマンディアスの行動に“理解”はできるが、“賛同”もできないのと同じように、本作の作りには“賛同”はできない。ヒーローモノに必要不可欠な純粋な悪役が不在のため、軸の不安定さがあり、映画を面白くさせておらず、飽きる観客も増えるのではないか。 ただ、面白い点もいくつか見受けられる。 「ヒーローの限界」「この世の中はジョーク」「理解できない行動を起こすという人間の奇跡」というのは面白い部分だ。 ヒーローは火事から住民を救ったり、ギャング達をなぶり殺しにはできるが、世界を核戦争から救うことはできるのかという命題に対して、皮肉的ともいえる答えを提示している点は面白い。ヒーローの限界を知っていたコメディアンに世界地図を燃やされた際のオジマンディアスの目がとても印象的だった。 ヒーローの新たな一面や、善と悪との表裏一体性は確かに感じられるおり、この部分は評価すべきか。 また、「西部劇役者が大統領選に出馬する」ように、この世界は確かにジョークなのかもしれない。ロールシャッハのようなジョークが効かない人間にとっては、生きづらい世の中になったということだろうか。キーン条例制定により、ヒーロー活動を禁止されても、引退せずに地道に活動を続けてきた彼だからこそ、現実を受け入れることはできなかったのだろう。彼のような生き方が否定されるべきではないことは本作を通して描かれていると思われる。 さらに、人間は滅亡すべき存在なのか、救われるべき存在なのかという点にも触れられている気もした。 計算上では理解できない人間の本質や、人間という存在の奇跡的な面が描かれているが、こうした哲学的なテーマに飛んだりするので、本作を理解することが難しくなっているともいえる。 これらために、本作はまさに見る者によって、形が異なるロールシャッハといえる作品に仕上がっている。 [映画館(字幕)] 6点(2009-04-19 22:36:20)(良:3票) |
9. 300 <スリーハンドレッド>
《ネタバレ》 歴史や背景に関する知識はゼロで鑑賞したが、知識があまり必要な作品ではなさそうだ。史実と異なるかもしれないが、そういうことはあまり気にならない。 史実をきちんと描く必要のある映画もあるが、作品を通して“何を描くか”“何を伝えたいか”ということが大事だ。『職業:戦士』という言葉が心に残るほど“スパルタ”の精神が上手く描かれている。無駄に死ぬよりも、何かのために戦って死ぬために彼らは自らを鍛え上げている。国のため、愛するもののため、仲間のため、自由のために、戦場で死ぬことこそ、名誉であり誇りであるという精神は見事であり、どことなく“侍魂”にも通じるところがある。 また、ザック・スナイダーの恐ろしいほどのセンスの良さも光る作品に仕上がっている。素人でもプロでも、この仕事を真似できるものはいないといえる。彼だからこそ出来る映像表現ともいえそうだ。 素晴らしいグラフィックだけではなく、見応えのあるバトルも見事である。 しかし、バトルにはやや飽きてしまったところもあった。 サイやゾウ、爆弾魔術師軍団、停戦交渉ありと、手を替え品を替えたバトルが展開されているものの、基本的にはワンパターンというところがある。 レオニダスを苦しめた中ボス級の強敵が一人いたものの、こういった特異なキャラクターをもっと出すとさらに面白くなったかもしれない。 また、隊長の息子をドラマもなく単に無駄死にさせたことはもったいないところだ。 父親や王を護って死ぬというようなドラマや、楽勝のための慢心さが生んだ心の隙というような展開でもよく、何か物足りない展開だった。 圧倒的なグラフィックで、ただただぶった切るシーンで圧倒するというのも分かるが、バトルの中にもう少し“ドラマ”が必要だったのではないか。 男の映画ではあるが、王妃を通して女の戦いもきちんと描かれている。 スパルタは男だけではなく、女も強いということを描きたかったのだろう。 しかし、こちらも完全にはオチておらず、裏切り者の政治家を刺し殺すくらいならば、交渉する必要があったのかとは思うが、彼らスパルタ人の愚直さを表しているのかもしれない。 自分のためというよりも、自分を犠牲にして何かを守るために戦うスパルタ人の気質を表しているようにも感じる。 素晴らしいビジュアルや才能であるが、バトル等においてドラマが不在だったことがマイナスと感じられた作品だ。 [DVD(字幕)] 7点(2009-04-19 22:30:48)(良:1票) |
10. ソウ5
《ネタバレ》 本シリーズのもともとの脚本家リー・ワネルが脚本を手掛けていないⅣから本シリーズの質がだいぶ落ちてきたという印象を持つ。 Ⅳもイマイチだったが、Ⅴも何をしたかったのかがさっぱり分からないものとなっている。 「ホフマン刑事VSストラムFBI捜査官の対決」「後継者誕生の瞬間」「5人の男女によるゲーム」がメインとなっているが、どれもこれも中途半端な仕上がりだ。 「ホフマン刑事VSストラムFBI捜査官の対決」に関しては、盛り上がりなど、何も描かれていない。 こういうものは、犯人が追いつめられてこそ、盛り上がるものではないか。 追いつめているようで、逆に追いつめられている。 追いつめられているようで、逆に追いつめている。 このようなハイレベルのバトルを期待するのは無理だった。 携帯一つと写真だけでFBIがワナに嵌まり、ミエミエの策略に引っかかるFBI捜査官には呆れ果てるだけだ。 驚きも何も感じられない決着であり、あれがオチといえるのだろうか。 「後継者誕生の瞬間」に関しても、杜撰な内容といえる。 犯人が釈放後に殺された際に、この映画の世界では家族が疑われないらしい。 あまり細かい部分に突っ込んでも仕方がないので、この部分は目をつぶれるとしても、後継者があまりにも知的ではなく、カリスマ性がないのは気になるところだ。 もっと華のある後継者が登場しないと、本シリーズが続かなくなってしまう。 「殺人」と「更生」の違いを強調しておきながら、ストラムを(ゲーム性はあるものの)殺そうとしているので、ジグソウの意志は引き継がれていないようだ。 後継者を何人も誕生させておきながら、その後継者には資格がないとの理由を付けて、どんどんと後継者を殺すことによって、本シリーズを続けさせるつもりだろうか。 「5人の男女によるゲーム」は、それぞれが分担することによって、それぞれが責任を持たない放火殺人を行ったことに対するゲームのようだ。 だからこそ、協力して生き残ることを試していると思われる。 最後のゲーム以外は協力しないでおきながら、全ゲームをクリアできる途があるというのは理解に苦しむ。 最後は少なくとも三人以上いないとクリアできないようなゲームにしないともはやゲームとはいえない。 単なるショッキングシーンを描きたいだけの映画となってしまい、テーマも哲学もメッセージも何もかも見失いつつあるような気がする。 [映画館(字幕)] 3点(2008-11-30 02:14:36)(良:1票) |
11. ハムナプトラ3/呪われた皇帝の秘宝
《ネタバレ》 あまり期待していなかったせいか、それほどつまらないとは感じなかった。 むしろ、イエティやドラゴンが登場するなど、盛りだくさんの内容となっており、飽きずに楽しむことができる。 レイチェル・ワイズが降板してしまい、ジェット・リーの出番も少なく、ストーリーもご都合主義万歳であり、練りに練られた脚本とは言いがたいが、万人が楽しめる作品に仕上げようとしている。 「どうやってこのピンチを脱出するのか」というドキドキ感がなく、先が全く読めない作品でもないので、傑作とは言いがたいが、気軽に楽しむ映画としては落第点ではないと思う。 また、詳細には書かないが、「ハムナプトラ」の「3」の作りや構造は、基本的に「2」と変わりがない。 はっきり言って、エジプトから中国へ舞台が変わっただけのほとんど焼きなおしに近いものであり、このシリーズが好きな人には楽しむことができるようにという製作陣の意図が感じられる。 オコーネル夫妻のキスシーンを見た息子の反応や、カバンに入れられた大量の武器を親子で競い合うシーンなどは、このシリーズを観た者には特に楽しめるだろう。 既存のシリーズと大きくズレることなく、期待を大きく裏切らなかったので、続編としては悪くないものとなったのではないか。 少なくとも「インディ・ジョーンズ」や「ナショナル・トレジャー」の続編に比べれば、あまり文句のないものに仕上がっている。 さらに、中途半端であり、深くはないが、素直になれない父子関係、息子を心配する母子関係、夫婦関係、恋愛関係、三角関係などの定番の基本的なネタは盛り込まれており、努力の成果は見られる。 肝心のオチはつまらないものだったが、オチのつまらなさは予想通りなので、全く驚きもしなかった。 観ている途中から、これは大したオチにはならないと思っていたので、あの程度でも「まあ、こんなところか」と納得できた。 素晴らしいオチを付けてくれると期待すると、裏切られた感が強くなるかもしれない。 気になるのは、ハリウッドの若手俳優の層の薄さだ。 もし、オコーネルの息子に華があるスターをキャスティングできれば、彼の息子が活躍する新シリーズを展開させることもできただろう。 ルーク・フォードは特別悪くはなく、落第点というわけでもないが、個性を発揮できたとはいえず合格とはいいがたい働きだった。 少なくとも、彼を主役にすることはできないだろう。 [映画館(字幕)] 6点(2008-09-02 03:16:19) |
12. イースタン・プロミス
《ネタバレ》 男の理想ともいえる世界が構築されている。 男性ならば、この世界に酔うことができるはずだ。 善と悪の世界の狭間に生きる男の、美しくも不器用な生き様に引き込まれるだろう。 悪の世界にどっぷりと浸っているために、もう善の世界に引き返すことの出来ない辛さを抱えるとともに、悪の世界の汚れた美しさの魅力にも惹かれてしまっている。 ヴィゴだけではなく、ワッツも危険なものに手を出さざるを得ない状況に陥っている。 男性におススメの映画だが、本作に描かれているのは性別を問わない美学かもしれない。 絶対的に悪でもなければ、絶対的に善でもない。 好きな女に好きといえなければ、放っておくこともできない。 好かれた男に応えるわけでもなければ、放っておくこともできない。 組織にハメられたと知りながら、認められたことを喜ばずにもいられない。 何もかもニュートラルな状態が本作の魅力かもしれない。 ニュートラルにすることによって、優しさと残忍さを併せ持つ男の相反する二面性のようなものがきちんと描かれていたと思う。 ナオミとのラストのキスシーンで善の世界を捨て切れていない感情を表し、ラストのレストランでのシーンで悪の世界も捨て切れない感情を表している。 この二つのシーンが、非常に良い対比となっているのではないか。 また、ヴィゴとナオミとヴァンサンの隠れ三角関係がいいスパイスとなっている。 ヴァンサンのナオミに対する攻撃的な姿勢がいい伏線となっているのかもしれない。 父親に対して頭が上がらないはずなのに、ヴィゴをハメた父親と喧嘩するということは、ヴィゴに対して相当ホレ込んでいたのだろう。 ヴィゴとナオミも良かったが、ヴァンサンもなかなかいい仕事をした。 好きな男がゲイかどうかを調べるために、彼にヤラせて、その最中をずっと見続けるというところに彼の倒錯した感情が上手く表れている。 注目のサウナでのバトルシーンはバトルに夢中になって、さすがにあっちには全然目がいかなかった。 [映画館(字幕)] 8点(2008-07-04 23:25:49)(良:1票) |
13. イグジステンズ
《ネタバレ》 クローネンバーグ監督の「ビデオドローム」を見ている人ならば、この世界観をより理解できるだろう。 「ビデオドローム」の世界を別の角度から、分かりやすく描いたような仕上がりとなっており、クローネンバーグ監督の入門編ともいえる作品かもしれない。 本作を見てもダメならば、「ビデオドローム」は見ない方がいい。 クローネンバーグ監督作品を自分はあまり多くは見ていないが、この独特の世界観には上手くハマることはできた。 「ビデオドローム」同様に、現実の世界と虚構の世界との区別がつかなくなることに対するクローネンバーグ流の警鐘ともいえる作品となっている。 虚構の世界において、主人公がゲーム感覚の人殺しをヒロインに諌めておきながら、現実の世界において、主人公が躊躇なく人殺しをしてしまうところに、クローネンバーグ流の強烈な皮肉を感じる。 虚構の世界において、ゲーム感覚の人殺しの問題点に気づくということ自体もひとつの虚構ということなのだろう。 虚構の世界で感じた善の意識など、しょせんはまがい物であり偽善でしかない、現実の世界において何一つ影響を与えないということかもしれない。 ただ、一方で虚構の世界におけるゲーム感覚の人殺しは、現実の世界において影響を与えたり、問題となっている。 善の感覚は現実に影響しないが、悪の感覚は現実に影響するというのは、矛盾しているようで矛盾していないのかもしれない。 思った以上に、本作は哲学的にはなかなか深いのかもしれない。 [DVD(字幕)] 7点(2008-07-04 23:13:05) |
14. JUNO/ジュノ
《ネタバレ》 作り物のような別世界のストーリーではなく、ナチュラルで身近に感じられる点が本作の良さではないか。 賞を狙って背伸びしてカッコつけるのではなく、ジュノたちのようにありのままの姿を自然体で描こうとしている点に好感がもてる。 本作には、映画やドラマにありがちな劇的な事件や劇的な変化があるわけでもない。 ただただ、それぞれの登場人物がゆっくりと前に向かって歩んでいこうとしているだけだ。 したがって、感じ方はなかなか難しいものとなっている。 つまらないと感じさせる部分は皆無だったが、「メチャクチャ感動した」「メチャクチャ面白い」「非常に共感した」というようなことはなかったのが正直の感想。 アカデミー賞で評価されるほどの作品かどうかはやや疑問だ。 ただ、男性と女性、又は年代(特にティーンかどうか)によって感じ方が異なる作品かもしれない。 個人的に強く感じたことは、人生においては失敗するということは何度もあるけれども、深く悲観する必要はないということではないか。 人生が完璧ということやパーフェクトということはあり得ない。 あの夫婦や、ジュノの父親も一度は失敗している。 失敗や何かを恐れて行動しないよりも、自分を偽らずにありのままの姿を晒して、自分らしく生きろということだろう。 あの夫婦のうち、夫の方はあきらかに自分を偽っていた。 そして、妻は夫に偽りの姿を演じさせることを強要していた。 自分らしく生きることができないと夫婦関係や恋人関係には歪みは生じるということなのだろう。 そんな欠点のある妻に、ジュノは自分の息子を託したのは、子どもを持ちたい・子どもを愛したいという彼女の気持ちには偽りがないとジュノは感じたからではないか。 彼女は子どもが欲しいという気持ちをありのままさらけ出していた。 分かりやすいコメディタッチの女子高生妊娠モノ映画と思われがちだが、演技・演出・脚本など、細かい部分を繊細に描かれているような気もする。 一般向けというよりも、やや玄人向けの映画と思われるので、自分には少々向かないところもあった。 [映画館(字幕)] 7点(2008-07-02 23:39:33)(良:2票) |
15. ジャンパー
《ネタバレ》 “テレポーテーション”という面白い素材を扱って、どうすればここまでつまらなくできるのかというほど、ヌルい。 脚本に中身が全くないだけでなく、肝心のバトルシーンにも見所はない。 どうしようもない理由で始まったジャンパー同士のバトルもあっけなく終わり、“パラディン”という組織のサミュエルとの最終バトルも拍子抜けだ。 サミュエルとのバトルには心理戦もないので、面白みに欠ける。 「ジャンパーには、以前こんなバカがいた」というネタを前フリにしているだけで、ヒネリがまったくなく、無策で特攻するヘイデンがあまりにもバカバカしい。 また、サミュエルは高圧電流の鉄線と謎のナイフを使うだけで、特殊な才能を有しない、ただのザコであり、あれでは盛り上がりようがない。 “テレポーテーション”能力を使って、サミュエルの裏をかいたつもりが、「実は俺もジャンパーなんだよ」とサミュエルにひっくり返されるいうサプライズで観客を驚かすような発想はないものか。 サミュエル以外にも“パラディン”の強力な刺客がいてもよかった。 「ボーン・アイデンティティ」と同じになるが、あの形式は悪くはない。 ヘイデンを追い詰めるジャンパーハンターとしては、魅力に欠けたのではないか。 ヘイデンへの追い込みの足りなさが目立つ。「ボーン・アイデンティティ」と同じ監督とは思えない。敵の組織が強ければ強いほど盛り上がるものだ。 ダイアン・レインというサプライズはあったが、はっきり言って“効果的”とは思えない使い方だ。ヘイデンが絶体絶命な場面でないとあまり意味がないのではないか。母親とハンターとの葛藤がまるで感じられないものとなっている。 レインだけではなく、劇中のキャラクターに喜怒哀楽が全くないので、キャラクターに一切の魅力を感じないものとなっている。 大金と労力を懸けて作り出した特殊効果を漫然と眺めるだけであり、非常に“長く”感じる90分程度の短い映画だ。 さらに、好きな人には申し訳ないが、ヒロインの女性に華がなさすぎるのもマイナスか。はっきりいって、主役の器とは思えない。 好きだった幼なじみをバーに見に行ったら、夢を壊されて愕然として、ヘイデンは立ち去ろうとしたのかと思った。 一番驚かされたのは、会話の途中で渋谷と銀座の間を超瞬間移動していたことだろうか。 [映画館(字幕)] 4点(2008-03-02 23:54:57)(良:1票) |
16. カポーティ
《ネタバレ》 小説「冷血」は未読。せめて映画「冷血」は観たかったが、常にレンタル中のため、待ちきれず本作を鑑賞することにした。読んでおくにこしたことはないが「冷血」を知らなくても、なんとか本作は十分鑑賞できるのではないか。 本作の主眼は、事件の真相というよりも「人間の内部に潜む冷酷な二面性」だろう。カポーティは、ペリーに近づき、親身になって友人として振る舞うことによって、小説のネタにするための事件の真相を探ろうとしたに過ぎない。徐々に、彼の心の闇を垣間見てしまうとふいに気付いてしまう、彼は自分自身と同じであると。「表出口から出て行ったのが自分で、裏口から出て行ったのがペリーだ」と気付く。一方は、賞賛される人気作家であり、他方は、死刑が待ち受ける犯罪者であるが、その根っこは同じである。人々から、奇異と受け止められ、周囲から疎まれ、誰からも自分のことなど理解してもらえない。ゲイの恋人はいるものの、真の意味で通じ合っているわけではない。カポーティは自分自身しか愛せなかったからだ。そんなカポーティに、真の意味で通じ合えたのが、家族から愛されず、理解もされないペリーだ。彼は、どんな日常生活よりもペリーと過ごす時間の方がくつろげたはずだ。自分自身しか愛せなかったカポーティが自分と同視できる存在と向き合えるのだから。 そんな心の安らぎであるペリーに対して、誰よりも死を待ち望んでいるのは、紛れもなくカポーティである。4年もの歳月を費やした小説を完成させるためには、彼らの死がなければ始まらない。本作のポスターのうたい文句にもなっていたが、まさに「彼の死を恐れるとともに、彼の死を望む」という状態である。カポーティこそ「冷血」であることは間違いない。クリスクーパーの「事件を起こした犯人が冷血なのか、それともそれを描く作家が冷血なのか」という問いかけは見事としか言いようがない。 そして「助けることができなかった」と嘆くカポーティに「助けたくなかったんでしょう」と言い放つネル。ネルでさえもカポーティの二面性に傷つく心を理解できず、彼は一層立ち直れないほどに孤独になっていく。 この矛盾するような感情を抱え、精神が徐々に蝕まれていく様子を、見事にホフマンが演じきっている。彼のアカデミー主演男優賞には全く異論がない。ただ単にカポーティの仕草を似せたのではなく、内面までも深く演じきっているから素晴らしいのである。 [映画館(字幕)] 8点(2006-10-16 22:12:38)(良:1票) |
17. ヴィデオドローム
《ネタバレ》 グロテスクで意味不明な映画というわけではなく、完全には理解できないけど「メディアの危険性」に警鐘を鳴らしている作品。かなり時代を先取りした良作ではないだろうか。おそらく当時の人は、突飛すぎていてあまり理解はできなかったと思うけど、今観れば少しは理解できると思う。 現代社会を踏まえれば、本作に描かれていることは大部分が現実化していると思う。 本作でジェームズウッズが体験したことを現代に置き換えると、「インターネットやDVDを通じて反社会的かつ、より刺激的な画像や動画に多くの人が群がる(劇中では「ビデオドロームへの関心」)」→「現実(リアル)と擬似(ヴァーチャル)の区別がつかなくなる者の増加(劇中では「ジェームズウッズの妄想」)」→「リアルとヴァーチャルの区別がつかなくなることによる犯罪の増加(劇中では「ジェームズウッズのテレビ局襲撃」)」→「現実からの逃避(メディアの世界にのみに生きるひきこもり)(劇中ではラストで「ジェームズウッズが自己の肉体を殺して、テレビ(ビデオ)の中で生きようとしたことの現われ」」という流れになると思う。 また、何年もの前に亡くなった俳優やミュージシャンが、亡くなった数年後でさえもCMに出演したり、CDを続々とリリースし、亡くなっているにも関わらず、まるで生きているかのような活動をする現象も、オブリヴィアン教授で見事に表現していると思う。 25年もの前に、このようなメディア社会の未来をずばり描いている点は凄いとしかいいようがない。 しかしながら、そうは言っても、刺激的な画像や映像によって、人々を反社会的な行為に走らせないようにしているのも事実だろう。人々はメディアを通じて疑似体験することにより、暴力的な衝動や性的な欲求を緩和することができ、犯罪が抑止されている。 本作は、その両面をカバーしているのではないか。メッセージ的には刺激的なメディアによる暴力行為増加への警鐘を鳴らすとともに、視覚的にはより暴力的な映像を駆使することにより、人々の暴力的な欲求を抑える働きをみせていると思う。 だから、クローネンバーグの映画はいつもグロテスクで暴力的なのではないだろうか。 [DVD(字幕)] 7点(2006-08-29 00:27:02)(良:3票) |
18. テイキング・ライブス
《ネタバレ》 異常に評価が低いけど、率直にいって楽しめた。 なんといっても、ジョリーの魅力ある演技が満載で、かなり良かったと思う。 笑顔と後悔の表情のギャップなんて相当良かったと感じた。 また、イーサンもなかなかの好演をみせていたのではないか。 ストーリーについては、確かに犯人はモロバレ(DNA鑑定でシロだったとか、ジョリーの判断(犯罪者の脳は普通とは違うとか)ではシロの可能性が高いとか、一応脚本の努力は認めてあげてもよいのではないか)しているけど、自分の想像以上に話が膨らんだと思う。普通のサスペンス映画なら病院を歩いているイーサンが実の母親に名指しされて犯人であることがジョリーにバレて適当に抵抗して捕まって終わりでしょう。 キーファーの起用も全く意味のない役柄であったが、逆の意味で良かったと思う。こんなどうでもいい役にキーファーが出るわけないのではないかという先入観があるから、脳が多少混乱する。キーファーの役どころが全く無名のおっさんだったら、観客を少しも騙せないでしょう。それにしても確かに扱いが酷すぎた。真犯人ではないにせよ、もうちょっと何らかのストーリーに絡まるキャラクターに設定すると思う。例えば、イーサンがキーファーをテイキングライブスしようとキーファーのことを観察していたら、実はキーファーは過去に殺人を犯しておりスネに傷を持つ身であったとする。そこでイーサンが自分の過去の犯罪をキーファーになすり付けて自己を清算するために、イーサンが目撃者のフリをしてキーファーのことを警察に告発するという流れでもよかったかな。キーファーのことを追いながら真相を突き止めようとするジョリー、警察に守られながらキーファーをはめようとするイーサン、自己の潔白のために逃走しながらイーサンの真の姿を暴こうとするキーファーの三者の駆け引き合戦でも面白い映画になったと思う。 [DVD(字幕)] 8点(2006-06-15 00:10:24) |
19. ランド・オブ・ザ・デッド
ゾンビ映画には深い思い入れはなく、この監督さんのオリジナルも観ていないけど、それでも本家はその辺の類似品とはレベルが全然違うなと感じられた。 映像からゾンビに対する深い思いと愛情が伝わる良作。 [DVD(字幕)] 7点(2006-06-14 00:54:03) |
20. ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
《ネタバレ》 悪くはなかった。しかし、あまりにも無難な映画に仕上りすぎていて、全くと言っていいほど満足感を味わえない作品になっている。 アメコミであってもスパイダーマンやバットマンなど、歴史に名を残している作品がある中で、この映画には「野心」というか、「冒険心」のようなものが全く感じられない。 映画会社から、大ヒットしなくていいから、コケない映画を創ってほしいと頼まれれば、このような映画になるだろう。映画ファンのためではなく、映画会社のために映画を創ろうとすれば、このような味気ない作品になるのではないか。 とにかく、適当にバランスよく、アクション、笑い、ラブストーリー、友情、エロ、SF、次作への期待を適度に細切れにして混ぜこんで、過度な暴力的描写(銀行の役員に風穴を開けたくらいの例外あり)を避ければ、ファミリーも楽しめるだろうくらいの感覚でしかない。あとは既存のアメコミなどから演出を似せれば、この映画のでき上がりだろう。したがって、まるで新鮮味がない。 アクションや適度な笑いで楽しませることは必須であるが、色々と余計なことを考えてしまい行動にうつせない科学者(=現代の若者)や、人と違うことに対するコンプレックスに苦悩し自信がもてない主人公(=現代の若者)の内面の変化という面にもさらに描きこむことはしないと、そのうち子どもからも愛想つかされてしまうのではないか。 [DVD(字幕)] 5点(2006-04-09 19:56:04) |