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1.  インサイド・ヘッド2 《ネタバレ》 
ついに思春期をむかえた少女ライリー。今回は3日間の合宿中、親友たちと憧れの先輩との関係に悪戦苦闘するライリーの心のなかで起きていた感情たちのドタバタ劇。一作同様とてもよくできていて、思春期に到来する新キャラの4つの感情がにはどれも納得。とくに大人たちは、シンパイ(anxiety)の登場には心当たりしかないでしょう。新しい感情たちと比べると1作目以来の5つの感情たちはどれも「単純」だった。そこに、感情が複雑さを増していく様子が広大なココロを舞台とした冒険として描かれる。中心になるのはヨロコビ(joy)とシンパイの対立?だけど、いきなり倍増した感情たちのそれぞれに意味のある活躍の場を用意しているのもいい(思春期の子どもの親としては、ダリイ(ennui)がツボでした。それからノスタルジーの扱いも面白い)。そして、終盤、ついに暴走してしまうシンパイとパニックに襲われるココロをみんなで乗り越えていく様は、親目線でも感涙もの。そこにあらわれる「自分らしさ」へのストレートなメッセージも大変すばらしい。  ただ、前作や最近のいくつかのピクサー映画に共通する点だけど、どこかロジックの組み立てのほうが優先されていて、よくできているのだけど「感動」よりも「感心」が先に来てしまう感じ。鑑賞中、物語にどっぷりつかるよりも「あ、そういう設定なのね、よくできてるなあ」みたいに思うことが多くて、映画を観ているというよりは心理についての本を読んでる感覚に近い。それは悪いことではないのだけれど、もう少し「感情移入」できたらなあ、とは思う(このテーマ・設定では難しいか・・・)。  思春期の子どもだけれど、恋愛の話が一切出てこなかったのは今風なのかな(前作ラストではちょっとそういう雰囲気もあったのに)。相手が必ずしも異性じゃくてもいいのだけれど「イイナ(envy)」が恋愛となったときにどんな感じになるのか。あと身体の変化との関係とかももう少し描いてもいいのでは?とか。ココロの奥底に幽閉されている「深く暗い秘密(deep dark secret)」が実は最後に大きな仕事をするのではないかと思ったら、オマケ映像止まりだったり・・・。まあ、設定が設定なので、つい、もうちょっと深い話を期待してしまうだけれど、当然脚本チームではそういう議論もあったろうから、あえて、このあたりは切りすてて3日間の成長物語にまとめたのだろう。それは、映画としては結局正解だったと思う。  ちなみに字幕版で見ましたが、ほとんどの映画館が吹替版のみの対応で、字幕版は一部の映画館の夜の回のみというところが多いのは残念。久々のレイトショーでしたが、観客の半分くらいは外国人と思われる方々で、鑑賞中「ここはアメリカか?」と思うような、笑ったり突っ込んだりする人たちがあちこちにいて、とても劇場の雰囲気がよかったのは思わぬプラス要素でした。
[映画館(字幕)] 7点(2024-08-18 09:07:53)
2.  インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 《ネタバレ》 
映画がはじまって、パラマウントの山ではなくディズニーの城で始まったときに嫌〜な予感を感じたものの、娯楽映画としては思った以上に楽しめた。とくに第1幕。CGの若返りインディは不気味ではあるけれど、アイデアとユーモアに満ちたアクションの連続。そう、これこれ、これがインディアナ・ジョーンズという展開で期待は高まる。そして、1969年のインディアナ・ジョーンズ。実は今作で一番期待していたのは、「1960年代を生きるインディ」をどんなふうに描くのか、という点でした。何しろ、時代は公民権運動の熱気が冷めかけたニクソン政権のころ。人種平等の夢は小さくしぼみ、それどころかベトナム戦争でアメリカの正義や理想がどんどん陰りを見せた時代。そして、第三世界からは欧米の植民地主義への反発が高まった時代。インディたち考古学者が各地の「お宝」を発掘し、ロンドンやらワシントンやらの博物館に収める行為も、文化の収奪として批判されはじめた時代。こんな時代にインディアナ・ジョーンズが過去の自分の行いを振り返り、どう折り合いをつけていくのか。そんなことを期待していた・・・・。もちろん、そんな難題に本作がまともに挑むとは考えていなかったけど、『ウエスト・サイド・ストーリー』で独自の21世紀版を作り上げたスピルバーグの製作であれば、何かそういうスパイスが効いた一作になってるのではないか、と微かな思いを胸に劇場へ。  残念ながら、そうした関心は本作の製作者には共有されていなかったようです。それは、せいぜい60年代の若者文化についていけない、さえない老人としてのインディの描写に反映される程度であり、むしろインディはそんな「新時代」には背を向けて「元ナチの科学者」との秘宝争奪戦にのめり込んでいく。インディは物語中、何度も何度もフォラーを「ナチ」と呼び、そう呼ぶたびに彼の中にエネルギーが満ちていき、どんどん生き生きとしていく。結局、彼は「アメリカが正しいと信じられた」過去の世界へと向かっているよう。1969年の変わりゆく世界を背に、そこだけが30年前の世界であるかのような冒険が続き、最後には考古学者が夢にまでみた世界へ・・・。いっそのこと、そのまま帰ってこない、という手もあったかもしれないけれど、NYに戻ったインディの前にはもうひとつの「過去」との再会があり、物語は大団円で幕を閉じました。結局、本作のなかのインディは最初から最後まで「過去にとらわれた人」でした。その姿は、かつて夢中になった作品の十数年ぶりの新作を観にせっせと映画館に通う、私のような観客にも重なっていたようで、胸に苦いものが残ったまま劇場を後にしました。  というわけで、たぶんスピルバーグが製作から降りたのも、本作のあからさまな過去への固執ゆえでしょう。同じものをもうひとつ作るんだったら自分が作る意味がない。『クリスタルスカルの王国』は難点は多々あれ、新しいものを作ろうとする意思は感じましたが、今作に新たに彼がメガホンを取る理由はなかったのでしょう。まあ、ちゃんと終わらせるだけでも大変なことだし、過去を愛したままそっと幕を閉じるための一作としては、よくできていたのではないかと思います。
[映画館(字幕)] 5点(2023-07-21 22:08:32)(良:1票)
3.  イニシェリン島の精霊 《ネタバレ》 
見始めたときはアイルランド英語に大苦戦で、英語字幕付きでも何言ってるかわからなかった。ただ、人間関係が見えてきて展開が動き出すと、不思議とだんだん慣れてきて、会話が生き生きしてくる。それでも見終わったときは、正直「変な映画を見た」という気分だったのに、あとになってからじわじわと響いてくる。個人対個人でも、国対国でもいい。これは、友好的だと思っていた関係がずるずると壊れていく状況を描いた寓話だっただろう。  「内戦」を背景に盛り込んだのもそういうことなのだと思う。「対立」とは何だろう? それは金や財産だったり、資源だったり、見栄だったり、いろいろなものが「原因」とされるのだけれど、本当のところはそれらは表面的なものに過ぎず、もっともっと突き詰めれば、「すれ違い」と「思い込み」とちょっとした「タイミングの悪さ」の産物なのかもしれない。観客の私たちは、パードリックとコリムが本当に仲が良かったときのことを知らない。二人は、仕事も趣味も(おそらく)それまで生きてきた道も異なっているけど、たまたまアイルランドの孤島のパブで親友になった。その邂逅は奇跡だったけれど、その日々は絶対に取り戻せない。  この映画を見て、絶対に取り戻せないであろう少し前の過去をつい思ってしまったのは私だけだろうか。そんな関係は、ロシアとウクライナのあいだにも、人種のあいだにも、男女のあいだにもあったのかもしれない。「なんでこうなっちゃったんだろう」というのは、なんとも人間的な問いだ。その問いの切実さと残酷さが、アイルランドの雄大な光景のもとで生きるちっぽけな二人の男の喧嘩に集約されていたように思う。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2023-03-09 16:56:51)
4.  イニシエーション・ラブ 《ネタバレ》 
原作は気になっていたけど未読。おかげで見事にだまされたわけですが、だまされたからいい映画だったかといえば、どうだろう・・・。ラスト5分以外の100分間、ひたすらバラエティ番組の再現VTR並みに酷い恋愛劇を見せられるのは正直しんどかった。たしかに細かい違和感は多々ちりばめられているものの、メインとなるストーリーは本当につまらないベタベタの仕様。音楽や80年代風俗の描き方も中途半端。ファッションやBGMだけ80年代風にしても、登場人物の細かいしぐさとか台詞まわしは現代的で、そこまで作り込まれていない中途半端さが目立つ。たとえば、前田敦子演じる繭子が本当に「男女7人秋物語」を楽しみに見ていたふうには見えないのだ。というわけで、制作側が言う「ラスト5分」のためにひたすら我慢して見ていた。それでも、ラストのどんでん返しで「あーそれを描きたかったのね」というテーマが浮かび上がればいいのですが、そこから見えてきたのは、トリックの巧みさよりも、若干ミソジニー(女性嫌悪)入ったふうの「女は怖い」感。物語的には松田翔太演じる鈴木君の「クズ男」ぶりが目立つ後半だったので、彼が罰を受ける的な流れなんだろうなあと思ってはいたけれど、そこで「どっちもどっち」風にしてしまったのはどうなんだろう。とくに、繭子の「傷」の描き方は、2010年代の映画としてはちょっと受け入れられるレベルではない。だまされてスッキリどころか、「ちょっと体調が悪くて」「便秘だった」「ビールがおいしー!」の流れを「面白いでしょ」ってドヤ顔で語ってそうな制作陣に対するモヤモヤだけがつのったラストでした。
[インターネット(邦画)] 3点(2021-02-19 08:30:28)
5.  インセプション 《ネタバレ》 
ノーラン映画は基本的に見るようにしてるのですが、なぜか未見のままだった本作。やっと見れました。ノーラン映画オールスター+ディカプリオな豪華キャスト、とくに渡辺謙がちゃんと全編登場する主要キャラで出てきたことにもちょい驚く(ビギンズ程度の日本市場向け顔見せだと思ってた)。映画のほうは予想通り、序盤は何がどうなのかもわからず当惑、でもチーム戦になった後半は楽しめました。チームの個性的な面々、とくにトム・ハーディ、ジョセフ・ゴードン・レヴィット、そしてエレン・ペイジがそれぞれ颯爽と演じていて、入れ込み過ぎなディカプリオをうまく中和してくれました。『インターステラ—』にも引き継がれる時空間の相対性を活かしたプロットが効果的で、そこに防衛的な潜在意識との戦いとか、へんに擬人化された「夢=意識の世界」が面白い。最初戸惑ったけど、夢世界のルールは思ったよりシンプルで後半の4重世界を舞台にしたサスペンスと、ラストに一気にたたみこむカタルシスは見事でした。ただ、難点は、やはりノーランらしいアクション演出の乏しさ。基本的にサスペンス部分を謎解きよりもアクションで引っ張る構成なのに、アクション自体の魅力が弱い。ぐるぐる回転するホテル内の格闘も映像的なインパクト以外の工夫に乏しく、あまりワクワクしない。その点での演出をもうひとがんばりしてほしかった。
[インターネット(字幕)] 7点(2020-08-22 17:08:09)
6.  1917 命をかけた伝令 《ネタバレ》 
ほとんど予備知識なしで映画館へ。まさかの疑似ワンショット演出に最初はかなり戸惑いましたが、2人の若い兵士の視点から少しずつ第一次世界大戦の西部戦線の有様が見えてくる構成は見事です。とくに、廃墟の町での夜〜早朝にかけてのシーンは、撮影監督ロジャー・ディーキンスらしい赤い炎と光と影が交錯する美しいシーンながら、ワンショット演出のサスペンスが冴えまくり、戦場の恐ろしさも体験させてくれる唯一無二の経験ができます。この一連のシーンを見るためだけに、映画館で見る価値はあると思います。ただ、「戦争映画」ではありますが、『プライベート・ライアン』のような「大作戦」ではなく、作戦の中止を伝える伝令を描いた映画なので、戦闘シーンそのものはとても控えめです。阿鼻叫喚の戦場描写というよりは、どこから狙われるかわからないサスペンス演出が中心で、「迫力の戦闘シーン」を期待してしまうと思ってたのと違う映画と感じてしまうかも。また、戦争映画ではおなじみの極限的な人間ドラマも、中盤で予想外のことは起きますが、基本的にはベタで新しさには欠ける。展開もちょっとご都合主義的。ドラマや脚本よりも、徹底した兵士目線で生まれる緊迫感とディーキンスの凝りまくった映像を堪能するタイプの映画なのかなと思います。
[映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2020-01-20 20:39:09)
7.  イエスタデイ(2019) 《ネタバレ》 
設定だけの「出落ち」映画かと思ったけど、意外と楽しめた。最後のクレジットで脚本が『ラブ・アクチュアリー』『ノッティングヒル』のリチャード・カーティスと知って納得。ビートルズはこの映画のテーマではなく、あくまで「設定」で、メインは売れない歌手の主人公と幼なじみのガールフレンドのあいだのラブコメだ。主人公の周辺がちょっとヘンだけどみんな「いい人」なのもこの手の映画の定番。恋愛のライバルが簡単に身を退いちゃうのもそう。というわけで、主人公も、歌詞の世界や人間関係などにも詳しい熱心なファンではなく、いち音楽ファンとしての立ち位置なので、ビートルズのほうはあまり深堀りしない。そういう意味では、終盤の「あの人」登場は個人的には蛇足だったように思う。海の近くで1人ひっそりと暮らすなんてルーク・スカイウォーカーかよ、とちょっと思ったりして。「あの人」が出てくるんだったら、「あっちの人」は?とか余計な疑問が広がったりもして・・・。ベタなラブコメを、ビートルズのいない世界というアイデアで味付けした映画、として楽しんだほうがいいんだろう。ただ、50年間「ラブ&ピース」も「イマジン」もなかった世界だと思ったら、もう少し毒がある展開でもよかったんじゃないかなあ、と思ったりもする。
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 6点(2019-11-07 19:02:48)
8.  祈りの幕が下りる時 《ネタバレ》 
長時間フライトで眠れなくなったときに、機内映画でよく東野圭吾作品をチョイスするのですが、今回もそういう事情で鑑賞。橋の名前が鍵になる序盤は引き込まれた。字幕での経過説明はうざかったけど、主人公の家族も絡む複雑な話をテンポよく見せるのに成功していた。ただ、開始1時間くらいで、もう松嶋菜々子が怪しいというか、ほぼ犯人確定していくので、残り時間どうするんだろうと思ったら、そこから延々と逃避行ドラマでした。この部分、小日向さんと若手の女優さんがすばらしい演技で盛り上げるのですが、音楽がうるさすぎるのと、話の中身自体は東野作品によくある「身代わりもの」の話だったので新鮮味も少なく、ちょっと残念。東野さんって、文章だとベタな人情話を乾いたタッチで描くところがうまいと思うのだけれど、映画はいつもその逆を行ってしまう・・・。もうちょっと違う演出家で見てみたいなあと思ってしましました。
[DVD(邦画)] 5点(2019-05-25 05:46:00)(良:1票)
9.  インクレディブル・ファミリー
今回の主役は明らかにイラスティ・ガールだ。彼女が大活躍するアクションの数々と比べ、夫のほうは育児や家事に悪戦苦闘。これが「『#MeToo』時代のピクサー映画!」みたいな評判も呼んでいるわけですが、それはかなり違和感あり。そもそも「夫が育児・家事に奮闘」話は1970年代の『クレイマー、クレイマー』あたりからずーーっと続く鉄板ネタであって、正直、現代のジェンダー絡みのトピックを表現するには目新しさがない・・・。この物語が「現代的」だとブラッド・バードあたりが思っていたのだとすれば、それは致命的な気がする(もっとも、ジョン・ラセターがセクハラでピクサーを追われるわけだから、米国のアニメ業界における感覚が、思った以上に「古い」のかもしれないが・・・)。というわけで、延々続くジャックジャックと育児絡みのエピソードに食傷気味になり、逆に極端なイラスティガール推しにもちょっと引いてしまいながらも、それでも全体とすれば、エンターテインメントとして「面白い」ものに仕上がっているところは流石です。個人的には、ジャックジャック無双よりも、もう少しバイオレットとダッシュの成長と活躍が見たかった。キャラの見せ場配分が絶妙のバランスだった前作と比べると、今作はイラスティガールとジャックジャック偏重でバランス崩してたなあという印象。このあたりのバランスの狂いに、ジョン・ラセターの休職が関係しているのだとすれば、大きな皮肉ではあるのですが。
[映画館(字幕)] 6点(2018-10-12 23:22:40)(良:1票)
10.  IT イット “それ”が見えたら、終わり。 《ネタバレ》 
原作未読。少年少女が大人になるための「通過儀礼」をホラー風味で映像化するとこんな感じなのかな。容赦ないイジメにどうしようもない親たちなど、子どもたちが生きるにはあまりに苛酷な現実世界。結局、子どもたちを襲う恐怖はこの苛酷な現実を増幅させたものであり、それに負けずに立ち向かえ、というメッセージも明確。でも戦うのは1人じゃない。友だちがいるから戦える。「負け犬」たちが自らあの井戸の屋敷に向かうシーンは感動的だ。そして、最後、主人公のビルが直面するのは「弟の死」という最も身近で苛酷な現実。これをみんなで共に乗り越えようとするラストは本当に感動的でした。ジュブナイルのお手本のようなお話。ただ、残念なのは、残酷描写をがんばってしまったせいか(・・といっても冒頭の子ども腕のシーン以外はそこまででもなかったような気がするけど)、肝心の子どもたちが見ることが難しいレイティングになってしまったこと。それから、恐怖を煽るペニーワイズの手法が、最初はバリエーションもあって楽しかったけど、後半はやや飽きてきてしまったこと。本当にビバリーの心をつかんだのはデブっちょのほうだったのに、なんか結局ビルとくっついちゃうところ。あと、あの牙がぶわーって出てくるやつ。原作もそうなのかもしれないけど、ああいうわかりやすい怪物感ではなく、もっと心理戦で来てほしかったかなあ、そのほうが本作の少年少女の成長譚にはあってたのではないかなあ、などと思いました。いろいろ突っ込むところはあるけど、さわやかなホラーというちょっと不思議な作風も含めて、好きな映画でした。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2018-08-16 14:29:42)
11.  インターステラー 《ネタバレ》 
もともとこの手の「なんちゃってリアル的SF」は好物。『ゼログラビティ』や『オデッセイ』など、それなりに理屈っぽい設定とそのわりには大ざっぱなエンタメ部分のバランスが魅力的だった良作群から見ると、今作はどっち方向からもやり過ぎた感がある。序盤はけっこう理屈で押してくるのに、ブラックホール以降はぶっ飛んでしまって、そもそもの設定は何だったんだろうと思ってしまう。長尺ではあっても退屈はしなかったけれど、マン博士の件や兄妹間の微妙な関係などは物語を冗長にしちゃった感じはするし、個人的にはラストのクーパーの「帰還」後のエピソードは完全に蛇足感があった。そもそも父娘の「再会」は必要だったか? 自分としては、時計のモールス信号だけで十分に「再会」は果たされていて、けっこう感動してたのに・・・。救出の経緯もよくわからないし、アメリアのその後の描き方だったら他のやり方もあっただろう。あそこで、ちょっと冷めてしまったというか物語から突き放されて、エンドロールを迎えてしまった感じ。総じて、娯楽系の正統派なSFとしてしっかり楽しめたけれど、あとでいろいろ考えると、うーむと言わざるをえない。それもひっくるめて、ノーラン監督らしい映画ということはできるかもしれません。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2017-12-15 15:41:34)(良:1票)
12.  イコライザー 《ネタバレ》 
同じバイオレンス系アクションでありながらも、『エンド・オブ・ホワイトハウス』と同じ監督とは思えない、静かでスタイリッシュな本作。名優デンゼル・ワシントンの起用は大正解で、静かな所作を積み重ねても「ただ者ではない感」満載の冒頭のシークエンスから、最後のロシア・マフィアとの対決まで、独特の緊張感を携えたデンゼルの目の演技は、「サイコなのにいい人」という独自の領域を切り開いてしまったと思います。そして、その笑っちゃうくらいの無敵ぶり。敵役のニコライもけっこうヤバいやつであることが次々と描かれて、これとマッコールが対決したらどうなる・・・と思わせて、あっさり完勝してしまう完全無双。ただ、ラストのホームセンターの対決では、同僚を人質に取ったことが全く活かされていないのはちょっと残念。この辺は、前作『エンド・オブ・・・』でも露呈したフークア監督おなじみの詰めの甘さ。あそこでマッコールを追い込みながら、きっちりとしたロジックで逆転する様を描ければ、アクション映画の新しい傑作になったと思う。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2017-02-16 13:26:22)
13.  イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 《ネタバレ》 
まさに佳作。面白かった。見所はやはりエニグマ解読後の葛藤。非情な決断の背景にある、自分の計算でより多くの人を救えるという天才ならではの自信と、少しずつ人間味を増しつつあった主人公のエモーションのあいだの揺らぎをしっかりと演じたカンバーバッチに拍手。3つの時間軸が交差する展開を混乱なく見せる脚本と演出も、派手さはないけどとてもよかったと思います。ラストシーンで資料を燃やす暗号解読チームの姿をバックに、チューリングは「自殺した」との字幕が流れますが、その前のホルモン剤投与によって、身体的・精神的な安定だけでなく、天才的な頭脳のひらめきも失っていたこともしっかりと描かれていて、「国家」によって彼は「抹殺」されたと言ってもいい。それはナチスの同性愛者への迫害に等しい、国家の罪であるという怒りとメッセージも明確に伝わりました。ただ、難点は解読までのプロセス。やはり暗号解読の「ロジック」、なぜクロスワード・パズル名人が暗号解読に向いているのか、といった部分の論理的な裏付けや説明が端折られていて、何が困難で、チューリングのチームの発見の何が凄かったのか、がわかりにくかったところでしょうか。そういう論理的な面白さを期待して見たら、セクシュアリティ描写も含めて、思ったよりもエモーショナルな映画であった、という感じです。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2017-02-05 17:44:57)
14.  インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国
期待よりも不安が大きいまま鑑賞。最初の感想は「意外と楽しめた!」でした。でも、「インディ・ジョーンズ」シリーズとして考えれば大いに不満。このシリーズは、荒唐無稽な冒険をワクワクドキドキしながら楽しみ、「あーお腹いっぱい」でエンドクレジットを迎えるものだったはず。それが「意外に楽しめた」なんて感想がでてくるなんて! それだけで大いにがっかりです。 じゃあ、インディ・シリーズでなければ及第点の出来かといえば、とんでもない。結局「意外に楽しめた」のはシリーズ作におなじみの小ネタの部分だけで、本筋はそれはそれは「酷い」ものでした。というわけで、シリーズのファンにも、新しい観客にも、どちらにも優しくない。つまりそれはフツーの「駄作」ということなのです。
[地上波(吹替)] 4点(2010-10-30 00:33:00)
15.  イーグル・アイ 《ネタバレ》 
ユビキタス社会に潜む恐怖というテーマ自体は現代的といえるかもしれないし、わけもわからず巻き込まれる序盤の展開は、娯楽映画の王道という感じで「これはちょっと面白いかも」と思ったけど、種明かし後は失速。とくに「アリア」のデザインが、いかにもB級SF映画的で興ざめ。サーバーの集積のような思いっきり機械的でリアルな感じにするか、SF的な独創性にあふれたものにしてほしかった。「アリア」に唯一認められた副大統領が鍵になるのかと思ったらそうでもないし、政治スリラーとしても中途半端。ひまつぶし以外にはあまり進められない。
[ビデオ(字幕)] 5点(2009-02-22 14:15:13)
16.  硫黄島からの手紙
『父親たちの星条旗』では複雑で凝った構成で戦争をめぐる「社会」を描いたけれど、こちらは正攻法で戦場というミクロな空間における戦争を描いている。戦場のさまざまな人物像に焦点を当てる構成で、とくに加瀬亮演じる元憲兵の清水が印象的だった。戦場を描くといっても、戦闘シーンそのものは淡々としていてあっけない。みんなあっけなく死んでいく。映画全体を達観したような「あっけなさ」が覆っているが、にもかかわらず戦場の「人間」を描けてしまうのがイーストウッドの卓越した技術なのだろう。硫黄島二部作に共通するシンプルなヒューマニズムには十分に共感できた。ただ、二宮和也の起用は、他の方もいうように疑問。アメリカではアジア人は大人も子どもも同じような「年齢不詳」に見えるとよく言われるが、この映画での二宮はそのアメリカ人の「年齢不詳」感をそのまま映像にしたような、(日本の観客から見れば)大人と子どもを行ったり来たりする不徹底な人物設定に思えた。本人はがんばっていたと思うが、これはキャスティングと人物設定の問題だと思う。
[DVD(字幕)] 6点(2007-07-27 10:10:37)
17.  インサイド・マン 《ネタバレ》 
映画全体としては、まあまあ楽しめたかなあ。犯人側の背景がよくわからないので、どうしてあそこまで大がかりなことをやったのかがいまいち分かりにくい。銀行家の「秘密」というのも、多少の歴史的背景がわかっていれば、たいして意外な感じもしない。もう1回どんでん返しがあるかと思っていたら、そのまま終わってしまった。印象的なシーンは、クライヴ・オーウェンと子どもがゲームについて話すシーンかな。ただ、あのシーン自体はとてもよかったけど、挿入するタイミングがちょっと早すぎて、早々に観客には犯人側が「憎むべき悪人」ではないことがわかってしまったので、冒頭の緊迫感が薄れてしまった気がする。あのシーンのおかげで、屋上で人質が殺されるシーンも「あ、フェイクだな」ってほとんどの観客が思ってしまって、デンゼル・ワシントンの怒りに共感できなくなってしまったのではないかなと思う。行き詰まる心理戦の緊迫感を最後まで持続してほしかったなあ。
[映画館(字幕)] 6点(2006-08-25 08:40:13)
18.  イン・ハー・シューズ
冒頭の姉妹の議論にもちょっと出てきただけで忘れそうになるけど、マギーは、難読症(dislexia)あるいは学習障害(LD)ですよね(計算にも難があるし)。キャメロン・ディアスのキャラもあって、ただの「おバカ」かと思いそうになるけど、これはこれでアメリカの深刻な問題を象徴しているわけだし、前半は、それも含めて姉妹のコンプレックスがうまく描かれている。一転して後半は、マイアミのご老人たちの活躍もあって、少しずつ自分を受け入れていくというストーリー。そのへんの対比の描き方は、カーティス・ハンソンの職人芸です。ただ、丁寧に描かれた佳作だけど、うまくキャラに感情移入できないと130分は長く感じる。僕は個人的には姉のほうが感情移入できるんだけど(たいていの人はそうだろう)、映画のほうは逆にシャーリー・マクレーンの絡みもあって、妹マギーのほうを中心に話が進むんで、話に入り損なった感じでした。
[DVD(字幕)] 6点(2006-07-24 08:55:39)(良:1票)
19.  1980(イチキューハチマル) 《ネタバレ》 
ジョン・レノンがこの世を去り、ウォークマンが現れる。時代の転換点としての「1980年」の描写はよかったと思う。80年代に小・中学だった自分としては、数々のネタにはギリギリでついていけた感じだったけれど、なんだか「世代映画」の域をやっぱり出てはいなかったかなという感じ。ある世代の人にはアピールするけれども、それ以外の人も巻き込むような「普遍性」にはちょっと欠けていたように思う。それでもいいという意見もあるとは思うけど、ダメ3姉妹の設定は魅力的だったし、ところどころ魅力的なシーンはあった(とくに水族館のともさかりえのキレっぷりはいい)。それだけに、最後は、映画としての表現や技術よりも、ウォークマンと『ライディーン』が喚起する「時代の空気」に頼ってしまったのが、やはり残念に思う。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2005-11-11 02:20:38)
20.  イヤー・オブ・ザ・ドラゴン 《ネタバレ》 
ヴェトナム後遺症を引きずるスタンリー・ホワイト(「白」って名前がまた象徴的)と、チャイニーズ・マフィアの若きリーダーと対決。妻を殺され、仲間を殺され、ボロボロになりながらも、最後は、強敵を倒し、中国系の恋人に癒されておしまい。うーん、なんつーか、突っ込みたくなる隠喩がいっぱいな映画。ヴェトナムのトラウマと、台頭してくる「アジア」に対する脅威がミックスされた、80年代のアメリカを象徴する作品といえるかも。とはいえ、映画として見れば、各シーンが妙に長くて、テンポがイマイチ悪く、少し眠気を覚えてしまった。ただ、ラストの対決は、名シーンですね。
6点(2004-08-05 19:48:59)
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