181. ドント・ブリーズ2
《ネタバレ》 盲目の老人と犯罪者集団のバトルを描くバイオレンスサスペンスの続編。今回老人と相対するのは、老人に娘を攫われた親御さんとその仲間です。『ドント・ブリーズ』の基本構造は犯罪者vs犯罪者ですが、今回は子どもを取り返すための戦い。両者の善悪について議論の余地など無いかと思いきや然に非ず。平気で人を殺したり、犬を見捨てたりと、父親サイドも相当ヤバい人たちでしたが、その正体は想像を絶するド畜生でありました。毒親にも程があるというか、もはや親とは言えないクソ野郎。誘拐犯の方が聖人に見えてしまう始末です。という訳で親側の素性が知れた後は、老人に100%肩入れして物語に挑むことになります。前回は自宅内という圧倒的な地の利を活かし盲目のハンデを帳消しにしましたが、今回は老人にとってアウェー戦。正直勝負にならないシチュエーションですが、そこは様々な工夫を凝らして勝負を成立させているのが凄い。勿論多少の、というか大いにご都合主義が幅を利かせていますが、それでも思わず唸るような仕掛けの数々は努力賞ものだと思いました。胸糞&血塗れサスペンスにも関わらず後味爽やかなのもいい。前作を楽しめた方なら、本作を気に入ること間違いなし。自信をもってオススメします。 [インターネット(吹替)] 7点(2022-09-02 22:22:32) |
182. ラストナイト・イン・ソーホー
《ネタバレ》 伏線の張り方、ミスリードの仕込み方、意外な真相、どれをとっても脚本は一流です。凝った演出技法や、キャスティングセンスの良さも流石エドガー・ライトという感じ。出来の良い映画なのは間違いありません。ただし今回は手放しで称賛という訳にはいきません。エロイーズの悪夢を延々とみせられ閉口しました。前述したとおり見せ方は凝っていますが同じシチュエーションが反復されるのでどうしても単調になりがち。さらに妄想ともオカルト案件とも判別が着かない状況下、打開策や回避方法が示されぬ為ただ苦痛な時間を過ごす羽目になります。エロイーズもキツイでしょうが観客もしんどい。これがまさしく「無間地獄」かもしれませんが、苦行を課されて喜ぶ観客はいません。サスペンスやホラーで興奮や高揚感を覚えるのは、恐怖の先に希望をみているから。エロイーズの悪夢には絶望しかなかったので、言い方は変ですが「退屈」したのだと思います。 繰り返しますが映画の出来は悪くありません。良い映画です。しかし良い映画である前に、まず面白い映画であることが大事では。エドガー・ライト監督はそういう映画を撮る監督だと思っていたのですが、今回は違ったようです。是非また『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ』みたいに、愛おしくなるような娯楽作品を撮ってください。 [インターネット(吹替)] 6点(2022-09-02 01:54:18)(良:3票) |
183. 子供はわかってあげない
《ネタバレ》 台詞のニュアンスや言い回しがもう絶妙。「もじくんだけど」「はい、拍手。なあ」「そんな言葉はないんだよ」「何でもじって書くの」とか。何気ない台詞がいちいち可笑しくて。水泳部員さんのしつこい顔芸や、突然のエセ東京ラブストーリーもたまりません。親子の間に流れるぎこちない空気が次第に緩んで行く様子がとても心地よく。この数日は実父にとってかけがえのない宝物になったでしょうし(でも本当は親父顔する権利なんて無いんですけど)、娘にしても予想外に楽しい時間を過ごせたよう。だからこそ今父に対して申し訳ないし、嘘をついたことを悔いて泣けるんですよね。素直で素敵な良い娘さんです。私の中の「こんな娘が欲しい」ランキングでは小林歌穂さんと並んで萌歌さんが堂々一位にランクインしました(注)もちろん現実の愛娘(三姉妹)は殿堂入りなので除きます。そして恋物語としても最高でした。キスなし、手さえ握らぬプラトニックラブ。砂浜とプールサイドに書くあの人の名前。正座して告白って昭和かよ。でもこんなお似合いな、心から祝福できるカップルってコナンとラナ以来では。美波ちゃんに負けず、もじ君もいい男なんです。「娘が連れてきて腹が立たない彼氏」ランキングがあれば、ダントツですよ。書道家って肩書もいい。論破王とか迷惑系ユーチューバーだったら一昨日来やがれってとこですが。彼は親父さんと酒を酌み交わす意味をちゃんと理解していました。「お酒は20歳になってから」は正論ですが、20歳まで待てないこともあるのです。将来の嫁父に自分の覚悟をみせる時。そんなタイミングが訪れたなら、法律を破っていい、いや破らなくてどうするって人生の教科書にも書いてあるはずです。でも本番は今父相手なのでお間違いなく。もう本当に全部全部愛おしい物語でした。多分に冗長で、無駄なシーンが多い気がしますが、それが私たちの人生。あらすじだけでは絶対に本作の魅力は伝わらない、ファスト映画殺し作品でもあります。 『子供は分かってあげない』。そう美波ちゃんは、まだ子どもだから、本当は大人の事情なんて分かってあげなくていいんだと思います。もっと我侭に、自分の感情を素直にぶつければいいのです。でも、それが出来ないのはやはり何処か無理をしているのでしょう。緊張すると笑ってしまうのも同じ理由。でももう美波ちゃんは大丈夫じゃないかな。あんな素敵なコテメイト(そんな言葉はない)が出来たのだから。 採点は10点以外考えられません。それ程までに本作の上白石萌歌さんの魅力は神がかり的でした。さすが教祖パパの継承者であります。 [CS・衛星(邦画)] 10点(2022-08-30 20:28:27)(良:1票) |
184. 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生
《ネタバレ》 子ども向け映画にいちゃもんを付けようのコーナー(嘘)。やはり最大の難点は、3獣の扱いでしょう。空想サファリなる22世紀の施設に引き取ってもらうラストには、少々モヤモヤが残ります。飼い主の責任放棄には違いないので。では、3匹の寿命を短く設定して物語の中で最期を看とる結末なら正確かというと、それもまた違う気がします。子ども向けエンタメで倫理的正義を押し通すことに傾倒するのは、それはそれで大人のエゴという気がします(『ブタがいた教室』とおなじ過ち)。じゃあ何が正解かというと、難しいのですが。3匹が時空の穴に吸い込まれて、様々な年代と地方に飛ばされて、未確認生物の起源になるなら、テーマ的にも沿うのかな?何が一番しっくり来るのか、もう少し考えてみます。 [インターネット(邦画)] 6点(2022-08-27 19:10:07) |
185. パーフェクト・トラップ
《ネタバレ》 あの『ワナオトコ』の続編だそうで。それなら『ワナオトコ2』とか『続ワナオトコ』『ワナオトコリターンズ』『もっとワナオトコ』『ワナオトコフルスロットル』『殺人鬼はつらいよフーテンのワナ』みたいにシリーズ映画とすぐ分かる邦題でないと困ります。どうも日本での配給会社(ソフト発売元)が替わった為にこのような邦題となった模様ですが、そのへんは業界内で上手いこと調整して欲しいものです。 それはさておき、自身のレビューを読み返し前作のおぼろげな記憶を呼び起し鑑賞しました。まず褒めたいのは、殺人鬼だけでなく主役被害者も続投の続編であったこと。因縁はサスペンスを美味しくする重要なスパイス。さらに観客の期待に応えた結末も高評価ポイントであります。そして何よりエンドクレジットが最高でした。悪ふざけが過ぎますが、大笑いさせて頂きました。基本的にはサスペンスホラーである前に馬鹿映画なんですよね。それはシークレットクラブでの殺戮シーンからも一目瞭然。一体何処の設備業者があんなマシンを設置してくれるんだっていう話ですもの。以上が長所。で、あとは全部駄目と言っても構いません。ワナオトコについては、そのアイデンティティの一端が明かされましたが、相変わらず倫理観に欠けるのがいけません。この場合の倫理観とは世間一般のそれではなく、個人の理念や信条に基づく殺人倫理。殺した人数だけなら歴代映画殺人鬼ランキングの上位に食い込むでしょうが、そこにシリアルキラーなりのコダワリがなかったら魅力ゼロです。どうやらさらなる続編がありそうですが、もうすこし殺人鬼として精進して下さい。点数は馬鹿映画としての評価です。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-08-27 17:54:44)(良:1票) |
186. モンスターハンター
《ネタバレ》 ポール・W・S・アンダーソン&ミラジョヴォヴィッチといえばご存知大ヒット映画シリーズ『バイオハザード』のコンビ。日本製ゲーム原作の映画化で2匹目のどじょうを狙ったといったところでしょうか。 まず感心したのはモンスターの造型や動き。これはもう文句の付けようがない素晴らしい出来で迫力満点。ただ最初の敵ディアブロスは少々強過ぎました。今回のボス・火竜リオリウスとの差別化を図る上でも、見た目で違いが分かり、かつ手頃な強さの敵の方が良かった気がします。 ハンターについては主人公は双剣、相棒が弓使い。仲間のリーダーが大剣。その他ライトボウガン使いもいましたか。多彩な武器とその強化がゲームの醍醐味なので、その観点ではやや物足りません。というより続編で掘り下げるつもりなのでしょうか。モンハンの代名詞「美味しく焼けました」は流石にマスト。魚釣りとか日常小ネタ系も続編で観てみたいです。 この映像クオリティであればシリーズ化大歓迎ですが、ハンターとモンスターのパワーバランスの調整(というより言い訳)は是非お願いしたいところ。どう考えても即死な攻撃を受けてピンピンしているのは違和感があります。バイオハザードのアリスみたいに超人化し過ぎてもあれですが、ただの人間が不死身なのも不自然です。これは漫画やゲームの実写化で付きまとう課題ですが、最低限のリアリティは担保して頂きたいと思います。 以上元ネタのゲームは、初代(PS2)プレイ済み。ワールド(Steam)はダウンロードして初期設定だけして放置。そんな私の感想でした。 [インターネット(吹替)] 7点(2022-08-24 20:24:18) |
187. 茜色に焼かれる
《ネタバレ》 「まあ、頑張りましょ」の「まあ」の部分が気になります。どうにも抗えない社会の仕組み(ルール)に対する「諦め」が含まれているような。理不尽ばかり。敵だらけ。それでも主人公は戦いを、生きること自体を放棄していません。この世界を生き抜くために彼女が必要としたのは「意地」であったと考えます。これは単に意固地な心持ちを指している訳ではなく、「誇り」や「正義」「愛」を含む広義な概念。田中良子をかたち作る「芯」であります。客観的に見れば賢明な生き方とは言えません。あまりに不器用。世渡りが下手過ぎて、やきもきするというか、いたたまれないというか。正直観ていて辛かったです。しかし、そんな彼女の生き様を否定する気はありません。それは彼女の存在を否定することだから。ひたすら真っすぐに。時に狂おしく。暴走ヤッパモードは、まさに田中良子がどんな人間かを如実に現したエピソード。弱者であろうとも、食い物にされていい訳がありません。やるときはやる。舐められたらオトシマエをつける。夫交通事故死の教訓が活かされたものと推測します。もちろん褒められた行動ではありませんが、そんな気概なくして人生は戦えません。ただしチャリパクだけはちゃんと反省してください。きっと「田中良子」というありふれた名前に意味があります。そこのあなたも、あちらのあなたも。あなたなりの戦い方で、この世界を生きて抜いてください。そんなメッセージが隠されていると思います。漆黒の暗闇が迫る夕暮れ時。まるで茜の空にジリジリと焼かれ続けるような人生だとしても、闇を受け入れたらお仕舞いです。時間切れになるその時まで、お天道様の下で精一杯足掻いてやりましょう。 今回の収穫は片山友希さんです。鑑賞済みの作品にも多数出演されていたようですが、今まで意識せずスルーしてきたみたいです。裏を返せば、主張が強すぎないということ。物語に調和できるのは俳優として優秀な証でもあります。本作では主要キャラとして存在感を発揮しました。彼女の魅力を知ることが出来て随分得した気分です。スッキリ系の美人さんで、ルックス的には古川琴音さんと姉妹役なんかピッタリかと。これから爆売れすること間違いなしでしょう。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2022-08-22 23:58:27)(良:1票) |
188. 王妃の館
《ネタバレ》 メインストリームは、悪徳旅行会社が企画したダブルブッキングツアーに伴うドタバタコメディ。一方サブストリームは、ツアー参加者の一人である作家先生が劇中執筆した時代小説。2つの『物語』が交互に提供される仕立てです。異なる次元の潮流が見事に絡み合って奇跡と感動のエンディングを迎える・・・のかと思いきや、全然そんなことなくて。元アパレル詐欺師とかキーパーソンぽい雰囲気なんですけどねえ。結局旅行会社は悪だくみ発覚後、逆ギレ&内輪揉めしてお客ほったらかし。されど被害者の方は成り行きで大先生の傑作を出版前に読めて大感激。だから詐欺を許しちゃうって何なんですか。そりゃアンラッキーの直後に大ラッキーがあればアンラッキーなんて吹き飛ぶでしょうけど、それをトラブル解決のギミックに使うのは筋悪じゃありませんか。それより何より肝心の旅行会社が謝っていないのが気になります。別に正義感ぶる気はありません。旅行会社を許すのは構わないでしょう。根っからの悪人でなさそうですし、お客もツアー自体は楽しめた訳ですから。でも騙したことは誠心誠意謝らないと先に進めません。ツアー代金を返却すれば済む話ではありません。大切なことをすっ飛ばして、まあみんな大変なんだから許してやろうよと言われても、正直「知らんがな」と思います。やはり浅田次郎氏の原作映画とは肌が合わないようです。 キャスティングは豪華ですし、それ以上に海外ロケのクオリティが非常に高く、大名普請な映画ですが、だから面白いとならないのが映画の面白いところです。 [インターネット(邦画)] 4点(2022-08-18 21:53:24) |
189. 私はいったい、何と闘っているのか
《ネタバレ》 つぶやきシロー流哀愁と自虐のヒューマンコメディ。主人公のメンタリティに共感し、真摯に仕事や家族と向き合う姿に好感を覚えました。ただ、春男を単なる「不器用で不遇な弱者」と捉えるのは間違っていると考えます。それは彼が失脚するに至った「内引き事件」を見れば分かります。彼は同僚の不正を見逃しました。これは仲間を守りたいという信念による判断。もちろん擁護などできません。万引き犯は警察行きか、最低限商品を買い取らせるのが当たり前。「仲間だから見逃す」は筋が通りません。しかし懲罰を受けてもなお、春男は自分の行為を悔いていません。彼は「自分の正義」を持っているということ。しかも彼自身の中で、社会一般のルールより上位なのです。腰の低さに惑わされてはいけません。春男は「強い人」です。また部下の言うように「優しい人」でもあるのでしょう。この気質は夫婦の馴れ初めからも窺い知れます。ただ、この傾向が過ぎると政治犯とかテロリストに行き着くため褒める気はありませんし、彼の優しさは結果的に同僚を救っていません。今回の選択は関係者全員が損をした悪手でした。もっとも、人生において最善手のみを指し続けることなど出来ません。間違って当たり前。でもどうせ間違うなら、正しいと信じて選択したいもの。そういう意味で「自分の正義」を持つのは悪いことではないと思うのです。あくまで自己責任の範囲で、という注釈が付きますけども。春男はきっと自分の事が大好きだと思います。本人に聞いたら絶対否定するでしょうが。というわけでタイトルの問いかけに対するアンサーは「みんなの正義と私の正義」であると考えます。 [DVD(邦画)] 7点(2022-08-18 20:52:33) |
190. 福福荘の福ちゃん
《ネタバレ》 本作を評する上で避けて通れない、というより本作の価値を決める最重要要素と言っていいのが「森三中大島の是非」であると考えます。芸人が俳優をする時点でトリッキーなのに、女が男役とはこれ如何に。例えば性転換した元女性役とかなら分かりますが違いますよね。となると何で大島さんなのかと。これって企画段階で出される「こんなん面白いんじゃね」的なネタをノリで実行したのではないかと勘ぐりました。しかし観終えて、何となくキャスティングの意図が分かった気がします。それは「リアリティの排除」。これは劇中の人間凧エピソードや、これでもかと云わんばかりの棒演技からも伝わってきます。中年童貞の生々しさ(えぐ味)を取り去る事でハートウォーミングかつファンタジーなラブコメを成立させたのではないでしょうか。実際福ちゃんがTKO木下とかクロちゃんだったら、ハッピーエンドを手放しで祝えなかったでしょう。性欲の匂いがゼロだからスッキリ、サッパリな風味になったと考えます。反面コクや旨味には欠けるのでドラマとしては物足りないかもしれません。この辺は好みの問題もありましょうが、私はこんなアプローチもありだと思いました。なおコメディとしても悪くありません。思いの外シュールで沢山笑いました。それにしても荒川良々の奥さんが黒川芽以で、大島がモテモテとか、この地域はデブ坊主にとっての楽園ですか。すぐに引っ越すので場所を教えてくださいな。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-08-14 01:27:08) |
191. コンフィデンスマンJP 英雄編
《ネタバレ》 どんでん返しがあると分かっているサスペンス。様式的に無理がある気がしますが、コロンボや古畑だって犯人が分かっているミステリー。変則なれど案外シリーズ向きの素材なのかもしれません。毎回高品質の脚本を用意するのは本当に凄いと思いますし、今回も手堅く楽しめました。なお、本シリーズは過去作のゲストが継続して登場するのが素晴らしい。キャラクターは作品の宝です。大切に扱うからファンも作品に愛着を感じるのだと思います。その最たる例がスタアとジェシー。2人はコンフィデンスマンJPの世界で生き続けてくれることでしょう。 [DVD(邦画)] 8点(2022-08-08 14:45:45) |
192. 牛首村
《ネタバレ》 呼び名のみで実体のない都市伝説「牛の首」にどんな肉付けをするか?決まり事など一切無いフリーな課題に対して、ほぼ模範解答と言っていい状況設定を考えたと思います。畜生腹、口減らし、七つまでは神のうち。牛の首を被る意味。なるほど、なるほど。あの被り物は大ヒットアニメ『鬼滅の刃』の猪之助にも影響を受けているのでしょうか。いずれにしても『恐怖の村』シリーズの中では一番設定に「整合性」がある気がします。ただし、だから映画として出来が良いとならないのがホラーの難しいところ。かつて存在した忌むべき風習が現代の私たちにどんな厄災をもたらすのか。肝となる「呪い」のメカニズムについての訴求が弱く、全編緩めのファンタジー処理でお茶を濁したのは如何なものでしょう。「今度はあなたが助けてあげる番」は情に訴えかける良い台詞ですが、ハッピーエンドが確定してしまうためホラーではNGと考えます。折角上手い設定を考えたのですから、メインのストーリーでもう少し頑張って欲しいと感じます。ちなみに、ザ・たっち、マナカナ、ダイタク、おすぎとピーコなどキャスティングでもっと楽しめたと思うのですが悪ふざけが過ぎますかね。 [ブルーレイ(邦画)] 5点(2022-08-07 23:52:38) |
193. さがす
《ネタバレ》 胸糞な展開やエグい描写で心を搔き乱す映画を私はあまり評価しません。エンターテイメント上のテクニックを感じないから。吊り橋効果を利用した興奮や感動に興味はありません。そういう意味で、私は園子温監督作品を好みませんし(いつも引き合いに出してすみません)、本作もそんな映画の類かと思われました。しかし観終えて予想は見事に裏切られました。刺激的な要素は物語を紡ぐ一要素でしかなく、本作の本質はミステリーであり、そして何より親子愛を描いた濃厚なヒューマンドラマでありました。おそらくラストは近年の邦画史に残る名シーンと思われます。父と娘が卓球でラリーをしながら言葉を交わすのは僅か5分ほど。言葉のひとつひとつ、表情、空気と間を噛みしめ、2人の心を読み取ってください。パトカーのサイレン音に「お迎えが来たで」。いつもの軽口に重力が発生する異空間。私は父の立場に我が身を重ね、切なくて、やるせなくて、いたたまれませんでした。しかし救いはあります。我が子は何と立派なのかと。楓はまだ中学生。普通は真相を知っても金縛りでしょう。然るに彼女は父と堂々と対峙し、その非を咎めました。残酷です。無慈悲です。でも彼女は正しい。正しい子に育った娘を誇りに思わぬ親は居ません。「うちの勝ちやな」娘の勝利宣言は、まさに子が親を超えた瞬間でもありました。父が感じたのは嬉しさと寂しさか。それはこんな修羅場にあっても変わらないと思います。礼儀や躾はイマイチだけど、それを補って余りある強い魂を楓は持っています。 どの役者さんも文句なく素晴らしく、満遍なく褒めたいのですがキリが無いので一人だけ。となると、私的にはやはり佐藤二朗氏に言及したい。クセが強い独特な演技スタイルは福田雄一コメディで脚光を浴びていますが、本作のようなシリアスドラマにこれほどマッチするとは驚きでした。本当に素晴らしかったです。今まで色物系キャラクター俳優との認識でしたが、大変失礼いたしました。見方を改めます。超一流の実力派俳優で間違いありません。大拍手です。 [インターネット(邦画)] 9点(2022-08-04 14:28:44)(良:2票) |
194. ブレイブ-群青戦記-
《ネタバレ》 例えばコレが趣味で制作した自主映画であるならば「良く出来てる」「面白いね」と笑顔で言えると思います。しかし大手配給の一般商業映画となると話は別です。感想は180度変わり「何やってんの」「恥ずかしくないの」と思います。『バックトゥザフューチャー』『漂流教室』『戦国自衛隊』を足して割ったとしか言いようがない本作。しかし、オリジナリティの点で本作を否定するつもりはありません。事実同じような体裁の『サマーフィルムにのって』は傑作認定しています。結局何が気に食わないのかというと、面白い映画からエッセンスを頂戴しているのに、オリジナルを遥かに下回る面白さしか得られていない事に不満を覚えるのです。オマージュするならオリジナルを超えてこそ。少なくともそういう意気込みや熱量がなくては、オリジナルに失礼だと思うのです。元ネタ(あえてそう言います)は本当に傑作で(漂流教室は漫画の方)、広くその魅力が周知されています。ファンも沢山います。ハードルは高いのです。生半可にイイトコロどりをしようとするのが一番いけません。 [インターネット(邦画)] 4点(2022-07-24 00:58:58) |
195. ヒルコ 妖怪ハンター
《ネタバレ》 「何が起きているか」「何故そうなったのか」「どうしたらよいのか」「そもそもヒルコって何?」正直あまり分かりません。『古事記』に由来するそうですが、イザナギ、イザナミ、アマテラス、スサノオあたりのメジャーどころならまだしも、ヒルコと言われても学の無い私のような者にはちんぷんかんぷん。もう少し噛み砕いた説明が欲しいと感じます。ただし「丁寧なら良し」でもないのが映画の面白いところ。テンポが悪くなったり、くどかったりすると逆効果だったりします。本作の魅力は「妙な勢い」と「ハイテンション」であるのは間違いなく、荒削りな脚本とマッチしており、これはこれで正解例のひとつという気がします。ずっとギャーギャー喚いているだけとも言えますが、凄まじい熱量だけは伝わってきましたから。アナログな特撮にはCGでは出せない味わいあり。ジュリーや工藤夕貴弟さんの好演もあり、不思議と満足感のある作品でした。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2022-07-21 22:57:37) |
196. シン・ウルトラマン
《ネタバレ》 観たい人はほぼ観終えたであろうタイミングでやっと劇場鑑賞。それも私自身久々の映画館来訪で、ノーラン監督の『テネット』以来のご無沙汰ぶり。今回出張で地元を抜け出したついでに念願を叶えました(生活圏内には新作が公開される映画館はありません)。空白の約2年間の間に料金も値上がりしたようで、ちょっとした浦島太郎気分です。コロナ恨めしや。早く気軽に劇場鑑賞やライブに行ける世の中になって欲しいものです。すみません、舞い上がって前置きが長くなりました。感想に入ります。 率直に言うと想像以上に「面白くなかった」です。少なくとも『シン・ゴジラ』のようなエンタメ性は感じられず、ひたすらマニアックなオタク志向のエピソードが続きました。間口は狭く、敷居は高く。物語に起伏が無いので、ともすれば退屈してしまうかもしれません。しかし面白くないから駄目だとは思いません。少なくとも本作にはウルトラマン愛が詰まっていました。本気でウルトラマンを空想科学で検証し、現代にアップデートさせた努力に拍手を送りたいです。メフィラス星人やゼットンの新解釈とその帰結。ゾフィーではなくゾーフィの呼称。その拘りはリスペクトに値します。ただし、長澤まさみさんのケツ叩き癖など、おじさん丸出しのギャグは如何なものでしょう。センスは欠片も無く、シラケる御仁も多いに違いありません。それが分からぬ監督ではないでしょうに。あるいは監督は腹を括ったのでしょうか。おじさんの、おじさんによる、おじさんのためのウルトラマン宣言。その判断が賢明とは思いませんが、かつてウルトラマンに心を奪われたおじさんである私が、本作を否定できるはずもありません。「そんなに人間が好きになったのかウルトラマン」その台詞を聞けただけでもう何も言いますまい。見事な「大人だまし」映画でありました。 [映画館(邦画)] 9点(2022-07-08 20:59:46)(良:3票) |
197. 女子高生に殺されたい
《ネタバレ》 殺したい(わからんけどわかる)死にたい(まあわかる)自分で死ぬのは怖いから殺されたい(なんとなくわかる)。殺されることに悦びを感じる(きゅうにまったくわからない)。 殺される快楽?相当ハイブローな性癖ですが、オートアサシノフィリアなる呼び名があるそうで。勿論普通はイメージするだけでしょうが、本作の主人公はリアルに女子高生に殺されようと計画しました。しかもJKなら誰でも良かった訳ではなく、お目当ての少女が育つのをじっと待ち、JKになった彼女に近づく為に教員免許まで取得し、希望ポストの前任教師を失脚させ、その娘の担任に納まるという大掛かりな下準備を成し遂げます。足掛け9年の壮大な企み。その熱量と実行力たるや変態を通り越して感動さえ覚えるロマンシング・サガでありました。設定こそアブノーマルかつトリッキーなれど、サスペンス趣向は本格的で、ケイ田中の計画の全体像や背景が判明していくにつれ、戦慄しました。伏線やミスリードも上々でミステリーとしても見応えがありました。最後こそグダグダでしたが、そこに至る過程の用意周到ぶりは見事なもので、先生はリアルに優秀な人なのだと思います。あるいは、性癖の為になら頑張れる人だったのかな。『哀愁しんでれら』といい本作といい、もはやサイコパス役の第一人者と言っていい田中圭さん。ただのイケメン俳優ではなく、良いポジションを得たものです。圭さん以外の役者さんでは、生徒役の若手女優の皆さんが充実。見事に美女揃い。中でも柔道少女の茅島みずきさんの存在感が抜群でした。やっぱり長身美女はいいですな。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-07-08 00:55:54) |
198. プラットフォーム
《ネタバレ》 設定だけみると典型的なソリッドシチュエーションスリラーですが、内容的には『社会の縮図』あるいは『地獄』のメタファーなのは明らかです。言い換えるなら、この世はまさに地獄ということ。辛いっすねえ。そんな地獄の中で主人公は革命を目指します。みんなが思いやりを持って痛みを分け合えば、全員が救われると。その理念は崇高ですが、意に従わぬ者は容赦なく殺しました。要するに確信犯のテロリストです。正義の御旗を掲げている分、むしろタチが悪い気がします。しかし、ろくでもない神様に従うのも癪な話。おそらくメッセージ程度では無視されて終わり。聞く耳を持った神ならば最初からもう少し世界はマシなはずですから。いろいろ考えてみましたが、世界を変える手立ては思い当たりませんでした。システムに組み込まれた時点で打つ手無し。そもそも、そんな神様を創らないように民は注意深く生きなくてはならないのでしょう。 [インターネット(吹替)] 6点(2022-07-06 20:28:21)(良:1票) |
199. ドロステのはてで僕ら
《ネタバレ》 『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』など、壮大なSF設定(サイエンスフィクション又は少し不思議)を平凡な日常に落とし込むのが滅法得意なヨーロッパ企画・上田誠主宰の脚本作品。着想の素晴らしさや展開の巧みさは折り紙付きですが、上田作品の魅力の本質は氏の人間観(人生観)にあると考えます。人々の行動、判断は決して正しい(論理的あるいは倫理的)とは言えません。でも時に馬鹿をしてみたくなるのが人間です。それが世の理に反する行為だとしても。愚かで、滑稽で、でも愛おしい人々の姿に共感するのだと思います。二人の小気味よい蛮行に拍手しました。キムタクも、綾瀬はるかも、ガッキーも出てこないけれど、だからこそドロステの果ての僕らは、私たちでありました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-06-25 14:19:33) |
200. パージ:エクスペリメント
《ネタバレ》 原題はThe First Purge。シリーズ映画でよくみられるエピソードゼロ(前日譚)的性格の作品ですが、日本公開時には『エクスペリメント』なる邦題が付されました。確かに邦題の方が内容を類推し易いかもしれませんが、正直余計なお世話だったと思います。映画をご覧になれば分かるように最初に実施されたパージは、実験とは名ばかりの捏造で、それはもう酷い有り様でした。不正に対する憤りは本来アメリカ政府に向くのが筋ですが、それ以前に観客は邦題に騙されたと感じてしまうのです。そんなタイトルは付けるだけ損でしょう。配給会社が下手な邦題で足を引っ張ったパターンと考えます。もっとも、原題のままなら楽しめたかと問われると話は別で、可もなく不可もない一般的なクライムアクションでありました。本シリーズは設定にツッコんだら負けなのは承知していますが、一体何をもって実験は成功したと宣言していたのか謎であります。 [インターネット(吹替)] 5点(2022-06-23 20:23:19) |