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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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761.  タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密
フィルム撮りを愛し、新技術に対して懐疑的なスピルバーグがついに挑んだ3D大作だけあって、技術的には物凄いことになっています。これまで見たどの3D映画よりも滑らかかつ迫力ある立体映像は入場料分の価値あり。特に凄いのが、3枚の羊皮紙を巡ってのバイクとハヤブサとのチェイスシーンで、「もう一回見せて」と言いたくなるほどのパワーと迫力に圧倒されました。やはりスピルバーグはスペクタクルの巨匠なのです。キャラクターの演出も相変わらず巧いもので、タンタンの愛犬スノーウィは誰からも愛される理想的なパートナーに仕上がっているし、失敗ばかりのハドック船長を観客からウザがられる一歩手前で愛すべきおとぼけキャラの域に留めている辺りのサジ加減も抜群です。。。 ただし、全体としてはアニメーションという初体験のジャンルをうまく活かせていないように感じました。「謎を解く→次の冒険へ→新たな謎の発生」という点と線をつなぐストーリー展開は「レイダース」を思わせるのですが、アニメ作品としては少々込み入っているように感じました。もうちょっとスリムにすべきだったと思います。また、アニメ作品のひとつの醍醐味は実写作品では不可能なほどの青臭いメッセージを大真面目に主張できることなのですが(「アイアン・ジャイアント」「ヒックとドラゴン」etc…)、本作はアニメならではの熱さを盛り込むことをしておらず、「実写で撮ってもよかったのでは?」という印象を受けました。これらについては、監督を担当したスピルバーグ、オリジナル脚本を書いたスティーブン・モファット、それをリライトしたエドガー・ライト、その全員が実写畑の人だったことが原因ではないかと思います。アニメ界の人材をブレーンとして入れていれば、結果は違っていたかもしれません。
[映画館(字幕)] 6点(2011-12-04 09:15:33)
762.  G.I.ジョー(2009)
原作が男の子向けの玩具であり、アメコミよりもさらに下の年齢層を対象とした作品であるため、本作の設定の粗さには文句を付けません。敵組織の目的がサッパリわからなかったり、国際社会におけるG.I.ジョーという組織の位置付けが謎だったりしますが(各国領空に自由に侵入する権限を持っている一方で、地元警察に拘留されたりする)、男の子向けのアクション大作でそういう細かいことを言うのは野暮ってやつです。しかし、本作の構成のマズさは指摘されるべきでしょう。とにかくペース配分がメチャクチャで、映画は2時間もたずに失速します。G.I.ジョー登場にはじまり(スネークアイズかっこよすぎ!)、メタルスーツによる見たこともないチェイスが繰り広げられる前半は大いに楽しめるのですが、物語にまったく起伏がない状態で緊張感皆無の撃ち合いをダラダラ続けているだけでは、後半に入ると一気に飽きが来ます。前半ほどインパクトのある見せ場を配置できなかったことも致命的で、本作はペース配分が完全に狂っています。。。 「ハムナプトラ」以降のスティーブン・ソマーズ作品はすべてこの傾向にあって、冒頭からフルスロットルで見せ場を畳みかけるものの、途中で息切れしてクライマックスでは平凡なドンパチをやってしまい、尻すぼみになって終わるということをここ10年間繰り返しています。この監督が「インディ・ジョーンズ」に憧れているということはわかります(「ザ・グリード」は当初、ハリソン・フォードが主演する予定だった)。冒頭で観客の心を掴み、冒険の世界に引きずり込むというアクション映画が心底好きなのでしょう。ただし、冒頭でハデな掴みをやれば、観客はそれ以上の見せ場を本編に期待します。スピルバーグにはその期待に応える力量があったのですが、残念なことにこの監督にはその力量がありません。だからこの人の映画はつまらない。予算制約によって冒頭に掴みのアクションを入れられなかった「ザ・グリード」がフィルモグラフィ中もっともバランスの良い娯楽作に仕上がっていることが何とも皮肉です。 
[DVD(吹替)] 4点(2011-11-02 23:44:35)
763.  座頭市 THE LAST 《ネタバレ》 
勝新によるオリジナルは一本も見ておらず、北野武版とハリウッド版(ルトガー・ハウアー主演・フィリップ・ノイス監督による珍作『ブラインド・フューリー』)のみ鑑賞経験ありという何ともお恥ずかしい私ですが、本作は非常に素晴らしい作品だと感じました。鑑賞前には香取慎吾主演という点に不安があったものの、竹やぶにて敵から逃れるファーストショットでその不安は払拭されました。彼は完璧に座頭市に成りきっており、殺しの世界に生きる者の凄みが全身から出ていたのです。また、市の妻タネを演じる石原さとみも、彼に負けず素晴らしい。彼女の出番はわずか5分程度であり、市とタネの関係について劇中ではほとんど説明がないのですが、石原さとみという女優の存在感のみで、タネがいかに市を変えたかが十分に伝わってきます。その他の豪華俳優陣も皆素晴らしく、邦画には演技のできる人材がこんなにも大勢いたのかと驚きました。仲代達也演じるヤクザの親分などはセリフの半分以上が意味不明だったのですが(笑)、それでも訳の分からん凄みがあったのは俳優の力量の為せる技。完璧に圧倒されました。物語も良くできていて、殺しの虚しさを知った座頭市が足を洗おうとするも、染み付いた血の匂いを落とすことができずに再び人を斬るという業にまみれた内容は見応えがありました。忍従を重ねた末に座頭市が再び剣を握る過程には時代劇ならではのカタルシスがあって観ているこちらも熱くなるのですが、そういったカタルシスを全否定するラストも、噛みしめるほどに味が出ます。尻すぼみなラストを批判する声もありますが、殺しの虚しさを訴える本作が燃えるクライマックスを迎えるわけにもいかないでしょう。殺しの世界に生きた座頭市は、呆気なくカッコ悪く野垂れ死ななければならなかったのです。市は死ぬ直前、妻を殺した犯人にして、自身に致命傷を負わせたヤクザのボンボンと対峙しますが、殺しの虚しさを知った市は安易な復讐に走らず、彼に暴力の恐ろしさを教えてその場を去ります。この時、市は一切の言葉を発しないのですが、かわりに暴力に生きた自分の末路を見せ、同時に妻を殺された暴力の被害者としての悲しみも見せることで、そのすべてを語ります。この時の鬼の形相こそ、彼が長い旅の末に得た答えなのですが、これを受け取らなかった観客は本作をつまらないと感じたかもしれません。
[DVD(邦画)] 8点(2011-11-02 00:30:45)(良:1票)
764.  アジャストメント
ある日、私は行く予定のなかったある場所に思いつきで足を運び、そこで現在の妻と出会いました。妻もまたその場所には行く予定がなく、友達に誘われてたまたまその日・その場所に足を運んだということで、本当に偶然の出会いで私達の人生は決まってしまったというわけです。私は赤い糸や運命といったものは信じないのですが、偶然により人生は決定するということはかの経験から身に染みて感じています。そんな偶然と運命をテーマにしたラブストーリーが本作なのですが、重くなり過ぎず軽くなり過ぎず調度良い塩梅の娯楽作に仕上がっていて、2時間はきっちり楽しませてくれます。。。 本作のお話や雰囲気は「普通じゃない」や「ジョー・ブラックによろしく」に似ているのですが、ユニークなのは天使の設定です。彼らは人格的に優れているわけでもなければ、超越した知見を持っているわけでもない。神の指示通りに淡々と個人の運命を管理しているだけで、時として管理の目的すら見失い、凡ミスも犯してしまうという人間臭い設定は映画を面白くしています。彼らの能力には制限があって、物理的な事象はコントロールできるが、人間の心に直接影響を与えることはできない。そこで人間の出会いを管理することで、その人生を運命通りに導いているという設定となっています。「愛とは偶然なのか?それとも運命なのか?」というテーマや人間の心の扱い、扉を用いた見せ場はSF映画の傑作「ダーク・シティ」と酷似しているのですが、天使の設定の特殊性により差別化は図れています。「この恋を諦めればお前の夢は叶うが、その女性を選択すればお前の人生は平凡なものとなる」という定番のジレンマもばっちり決まっており、映画は非常にうまくまとまっています。。。 理解できないのは本作を「マイノリティ・リポート」のようなSFサスペンスとして売り込んだ日本の宣伝戦略で(本国ではラブストーリーとして宣伝されています)、配給会社の人達はSFサスペンスを期待して鑑賞した人達を落胆させるということが分からなかったのでしょうか?
[DVD(吹替)] 7点(2011-11-01 22:59:30)(良:3票)
765.  パーフェクト・ゲッタウェイ 《ネタバレ》 
デヴィッド・トゥーヒーはハリソン・フォード版「逃亡者」のオリジナル脚本を書いたことで注目され、当初は子供向けアドベンチャーだった「ウォーターワールド」をダークなディストピアSFに書き直すなど(ケビン・コスナーがせっかくの毒気を消したために映画の出来は散々でしたが)90年代のハリウッドでは一目置かれる脚本家でしたが、2004年にユニバーサルが年間最高クラスの予算を投じて製作したSF大作「リディック」を微妙な結果に終わらせてしまい、それ以降はハリウッドの表舞台から姿を消していました。そんな御大が5年ぶりに手掛けたのがこの「パーフェクト・ゲッタウェイ」なのですが、大物脚本家の満を持しての復帰作とだけあって、これが壮絶な仕上がりとなっています。あまりに面白くてぶったまげました。。。 この映画、不気味な予兆を重ねる前半部分からイヤ~な汗をかかせてくれます。ちょっとした不親切からヤバイ相手に絡まれ、凄惨な事件に引きずり込まれていくという導入部はいわゆる「テキサスもの」の流れなのですが、これを閉塞感のあるテキサスではなく開放感あるハワイでやったところが本作の新しいところ。陰惨な連続殺人とハワイとはイメージ的に結びつかないのですが、浮かれた新婚カップルが他人とトラブルを起こして楽しい気分がブチ壊されるという誰もが容易に想像できる不快感を間に挟んだことで、両者をうまく結び付けています。主人公カップルが疑心暗鬼に陥る中盤も巧く作られていて、現在行動を共にしているカップルはどうやらヤバそうだが、もっとヤバいカップルから目を付けられている手前、このカップルからは離れられないという緩やかな八方塞がり感がお見事です。そしてラストには空前絶後のオチが待っているのですが、加害者と被害者が逆転し、主役と脇役が交代するという大胆なオチには意表を突かれました。「ズルい!」とも思ったのですが、犯人カップルの会話を振り返ると、これがオチと見事に整合しています。観客の先入観を利用して彼らを被害者であると錯覚させていただけで、彼らの会話は獲物を選別する犯人の会話としてきちんと成立しているのです。この大胆さと緻密さには完全にやられました。お見事!
[DVD(吹替)] 8点(2011-10-31 19:52:29)(良:1票)
766.  マイティ・ソー
痛快なアクションと能天気な笑いの絶妙なブレンド、これぞアメコミ映画の王道といった仕上がりで大変楽しめました。現代アメリカにやってきたムキムキが頓珍漢な行動で騒ぎを巻き起こす前半は「ミラクルマスター7つの大冒険」や「マスターズ超空の覇者」といった80年代B級映画を思わせる軽い作りで安心して楽しめるし、彼が力を取り戻してからのバトルは21世紀ならではの素晴らしい視覚効果の連続で目を釘付けにします。父と子の確執、兄と弟の確執、父の愛を得ようとした弟の歪んだ愛情表現等のドラマも重すぎず軽すぎず無難にこなせており、ケネス・ブラナーを監督に起用するというサプライズ人事が見事に功を奏しています。クリス・ヘムズワースは完璧にソーになりきっていて、力自慢の傲慢な王子であるが、同時に仲間思いの良いお兄ちゃんという愛嬌あるキャラクターをきっちりモノにしています。オーディン王やジェーン・フォスターのキャラはやや弱いように感じたのですが、それらの役柄をそれぞれアンソニー・ホプキンスとナタリー・ポートマンという実力ある俳優に演じさせたことで、こちらもまた奇跡的に何とかなっています。地味~にホークアイも初お目見えし、いよいよ「ジ・アヴェンジャーズ」への期待も高まるところなのですが、神様であるソーって他のヒーローと比べて力がありすぎやしませんか?キャプテン・アメリカなんて単なるムキムキですからね。
[DVD(吹替)] 7点(2011-10-31 19:50:53)
767.  ブギーナイツ 《ネタバレ》 
撮影・編集は凝りに凝っており、技術的には非常にレベルの高い映画です。題材選びも面白いし脚本も素晴らしいので良く出来た佳作には仕上がっているのですが、惜しいところで傑作にはなりきれていないという印象です。この監督は登場人物を冷めた視点で描く傾向があり、傲慢な大富豪を描いた「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」ではその傾向が吉と出ていましたが、若者の成長物語でもある本作では、この冷たさが時にアダとなっています。監督自身がキャラクター達を愛していないのでドラマはエモーショナルな抑揚に欠き、劇中さまざまな事件が起こってもどこか平板な印象を受けるのです。本作で例外的に感情が爆発するのは主人公エディが家出をする序盤なのですが、これは監督自身の経験を元にしているため。監督は映画以外の物には関心を抱けない人物であり、そのため学生時代には成績も悪かったようなのですが、彼の母親はそれを許さず口汚く罵られる日々が続いたとか。そんな過去を主人公エディにも追体験させたため、映画全体から浮いてしまうほどにあの場面だけが突出して生々しいのです。。。 本編で注目すべきはダメ人間達の生き様です。オヤジであるジャックをはじめポルノ一家の面々は「自分達は映画という作品を作っているのだ」という一点に人間としてのプライドをかけています。自分達は監督・俳優であって、裸だけが売りの人間ではないというプライドを。しかし劇中劇を見ると、悲しいほどにこのプライドが滑稽に感じます。セリフはすべて棒読みだし、演出も編集もボロボロ。無能な人間が寄り集まって「俺達はダメじゃないんだ」と傷を舐め合っているようにしか見えません。エディは裸以外にも取り柄があるはずだと信じてポルノ一家を飛び出しました。性描写のみに特化したAVを撮れと言われたジャックは「俺はフィルムメーカーだぞ!バカにするな!」と激怒し、激しくこれを拒否しました。しかし、結局彼らは裸の世界に戻ってきます。他に生きる場所がないことを思い知ったからです。唯一、ドン・チードル演じるバックはポルノ業界から脱出することに成功しますが、それは神がかった幸運のおかげであって彼が無能であることに変わりはありません。一家が再集合するラストをハッピーエンドと見る向きもありますが、ポルノという閉じた世界に居場所を見出さざるをえないエディ達の姿は、むしろバッドエンドと考えるべきでしょう。 
[DVD(吹替)] 7点(2011-10-29 21:14:27)
768.  クライム&ダイヤモンド 《ネタバレ》 
残念ながら面白く感じませんでした。全体的なプロットは良いのですが、細部があまりに雑なのでアラばかりが気になります。そもそも主人公フィンチは詐欺師なのですから、彼の語る物語には真実と嘘が巧妙に混じり合っていて、その嘘を解き明かしていく過程で全体像が見えてくるというのがこの手の映画の基本でしょ。例えばダイヤモンドに係るエピソードはラスト近くにまで伏せられていて、最後の最後で主人公の目的はダイヤモンドを奪うことだったという話にすればよかったのですが、そういう捻りがこの映画にはありません。詐欺師がバカ正直に事実を話してどうすんだって感じです。また、タイトルにもなっているクレディス・タウト氏に係る謎についても同様です。刑務所を脱獄した主人公フィンチは逃亡用の新たな身分を得るためクレディス・タウトという死者の名を騙るのですが、このクレディス・タウトとはマフィアの逆鱗に触れて暗殺された人物でした。タウト氏は生前から正体不明の人物であったことが劇中で語られるため、彼の正体が映画の重要なピースのひとつになると考えるところですが、驚いたことにタウト氏に係る伏線は完全に放棄されて映画は終わってしまいます。この雑さはさすがにアウトでしょ。その他にも本作にはご都合主義が横行していて、中でもダイヤモンドを掘り起こしたい主人公が自ら刑務所に収監されるエピソードの粗さには唖然としました。主人公:俺を刑務所に収監してくれ→警察:自分を刑務所に入れろっておかしくないか?ま、いいか。主人公:俺が刑務所内の庭を掘ることを認めてくれ→警察:刑務所の庭に何か埋まってるのか?ま、いいか。結果、何の苦労もなくダイヤモンドを掘り起こしてしまう主人公。犯罪ミステリーでこんな頭の悪いやりとりをしちゃいけないでしょ。詐欺師である主人公が口八丁手八丁で警察に無理な要求を飲ませるというプロセスを入れていればストーリーの説得力が増すし、主人公のキャラクター付けにもなったはずなのですが、シナリオはそうした工夫を完全に怠っています。監督・脚本を担当したクリス・バー・ヴェルなる人物は本作以降ハリウッドから姿を消していますが、有名俳優を何人も配置したこの企画をこの程度の仕上がりに終わらせたのでは、干されたのも仕方ないと思います。
[DVD(吹替)] 3点(2011-10-28 09:51:06)(良:1票)
769.  告発のとき 《ネタバレ》 
これは困りました。まったく面白みのない捜査が90分以上も続くため酷い評価をしてやろうと思っていたら、ラスト30分で監督の意図がわかった瞬間に傑作になってしまいました。まったく面白くないが、素晴らしさは十分に伝わってくる映画。とても評価に困ります。 タイトルの” the Valley of Elah”とは古代イスラエル軍とペリシテ軍の決戦の地。ペリシテ軍が誇る巨人兵士ゴリアテにイスラエル軍は戦意喪失し、誰も戦いを挑まない状態が40日に及んでいました。そんな中ゴリアテ退治に名乗りを上げたのがダビデという羊飼いの少年でしたが、その小さな体では甲冑を身につけることも刀を振ることもできないダビデは、小石5つとパチンコだけを手にゴリアテに挑みます。絶望的な戦力差の戦いでしたが、ダビデは恐怖に負けず冷静に石を放ち、見事ゴリアテの額を砕いてこの戦いに勝利しました。。。 この物語が示すことは、勇気を持てば大きな力が与えられるということ。本作の主人公ハンクも、息子達に勇気を持つことを求めました。しかし現実は伝説ほど容易ではありません。もしゴリアテが都合良く倒れてくれなかった場合、ダビデはどうなっていたのか?それが明かされるのが本作のクライマックスです。「勇気を持て」という親達の期待に応えてイラクに出征した若者たちは戦争の狂気に勝つことができず、完全に壊れた状態で祖国へ戻ってきました。ハンクは息子を殺した犯人を探して執念の捜査を続けてきましたが、その捜査の果てに、若者を戦地に送り込んだ自分達こそが息子を死に追いやった加害者であることを思い知るのです。ハンクには息子を救うチャンスがありました。戦争の狂気に直面したマイクがハンクに助けを求めて電話をかけてきたのですが、ハンクは息子のSOSに気付かず、ただ「戦友に涙を見せるな」というアドバイスだけをして会話を終わらせてしまいます。もしここで息子の弱さを受け入れていれば、息子を狂気で失うことはなかったのですが。。。 本作は戦場の狂気というよくあるテーマを扱っており、その内容は「ディア・ハンター」「フルメタル・ジャケット」はたまた「ランボー」とも似通っているのですが、ダビデの物語を絡めることでテーマを普遍的な親子の葛藤にまで敷衍している点がポール・ハギスの抜群の構成力の為せる技。本作は評価に困る映画ではあるものの、この惚れ惚れするほどの構成の巧さに8点以下は付けられません。 
[DVD(吹替)] 8点(2011-10-27 21:18:24)(良:3票)
770.  ストーリーテリング 《ネタバレ》 
トッド・ソロンズという監督は過激な題材を扱いつつも直接的な暴力や性描写は徹底して避ける人なのですが、「フィクション」編ではかなり露骨な性描写がなされています。また、主題について登場人物がセリフではっきりと喋ることも例外的であり、「フィクション」編はソロンズ作品としてはかなり異色な仕上がりなのですが、ここにソロンズの意図があります。恐らくこのパートは過激な描写があれば立派な社会派作品として扱われる風潮への反乱であり、外面的なショックのみに反応する観客達を挑発するためだけに作られたパートなのです。こんな底意地の悪い前振りを作り、そしてそんな前振りのためだけに当時人気が出始めていたセルマ・ブレアを裸にしてあんなことやこんなことをやらせたソロンズ、恐るべしです。 そうして「フィクション」編によるウォーミングアップを終えて後半の「ノンフィクション」編に入ると、映画のイタさはフルスロットル状態となります。殺人者やレイプ魔がひしめき合っていた「ハピネス」をも超える漆黒の闇が広がるのですが、そのあまりのイタさにすっかり魅了されました。本作にヘンタイは登場しないのですが、無気力人間スクービーを除く登場人物全員が無神経であり、本人の自覚のないうちに他人を傷つけまくります。「ハピネス」のような極端さがないだけこちらの方がリアルだし、身近に感じる分見応えがありました。さらに本作が凄いのは映画史上最大のタブーにまで踏み込んだことで、ユダヤ人の被害者ナショリズムや拝金主義にまで鋭く言及しています。「うちのおじいさんはホロコーストの被害者だ(おじいさんは戦前にアメリカに移民しているため、実際にはホロコースト経験者ではない)」と言い張るリビングストン家の人々が南米からの移民である家政婦をボロ雑巾のようにコキ使い、その献身に一切の感謝もせず使い捨てにしてしまうという展開が準備されています。その家政婦が善意の被害者であるかと言えばそうでもなく、レイプ殺人を犯した孫のために涙し(孫の無実を信じているわけではなく、孫は確かにレイプ殺人を犯したが、それは悪いことではないという無茶な論理で泣くのです)、ラストでは一家虐殺までを行います。とにかく登場人物全員がどうしようもなく、観客に何の拠り所も残さない徹底したダークぶりには恐れ入りました。 
[DVD(吹替)] 8点(2011-10-24 23:47:55)(良:1票)
771.  クレイジーズ(2010)
ロメロをプロデューサーとして迎えているだけのことはあって、オリジナルをかなり尊重したリメイクに仕上がっています。細かいエピソードにはオリジナルから引用したものが多くて、「ゾンビ」とは似ても似つかぬ映画になってしまった「ドーン・オブ・ザ・デッド」などと比較すると、その製作姿勢には大変好感が持てました。その一方で、ただオリジナルをなぞるだけではなく21世紀版としての適度な改編がなされている点でも本作は評価できます。細かいネタはオリジナルから拾いつつもその味付けを変えており、オリジナルとはまた違う楽しみが出来る作品に仕上げているのです。オリジナルはかなり体制批判的な作品でしたが、その作風は公民権運動やベトナム戦争を経た70年代という時代背景を反映したものであり、そんな作風をそのまま現代に復活させても時代錯誤なリメイクが仕上がるだけ。そこで本作は体制批判的な面をバッサリ落とし、ソリッドなサバイバルアクションとして「クレイジーズ」を再構築しています。最大の変更点は軍隊の指令系統をまったく描かなかったことで、これにより社会派作品としての魅力は失ってしまったものの、映画の視点を逃げる主人公のみに絞ったことでアクション映画としての面白さは倍増しています。主人公は、自身がウィルスに感染するという脅威だけでなく、感染者による襲撃と軍による追跡という複数の脅威と戦うこととなるのですが、描写を限定したおかげで主人公の苦境がオリジナル以上に鮮明となっています。アクションの面白さやショックシーンの作り込みはオリジナルを凌駕しており、電ノコを持った感染者、鍬で人を串刺しにする校長先生、洗車場での襲撃等、気合いの入った描写が目白押しです。アクション映画として作り直したことで映画全体のテンポも変わっており、序盤からサクサクと話が進んでいく点でもオリジナルより見やすい娯楽作となっています。オリジナルを尊重しながらも時代に合わせて作風を変える、これは理想的なリメイクの形であると思います。
[DVD(吹替)] 7点(2011-10-21 01:13:36)(良:2票)
772.  ザ・クレイジーズ(1972)
低予算ではあるものの映画にはスケール感があり、なかなか見応えのある仕上がりとなっています。舞台は田舎町で大規模な見せ場はないものの、国家の一大事というハッタリは利いているのです。この時期においてウィルス感染ものといえば「アンドロメダ…」くらいしか存在しておらず、その「アンドロメダ…」にしても地下の研究室でウィルス対策にあたる科学者のドラマがメインであったため本格的に感染パニックをテーマにした作品は本作が初であると思うのですが、そんな中で本作は感染パニックものとしてほとんど完成形とも言える姿をしています。以降に製作される「カサンドラ・クロス」や「アウトブレイク」といった大作が完全に本作の影響下にある点から、この映画がいかに先進的な作品であったかが伺えます。また感染もののプロトタイプであるに留まらず、ロメロらしい体制批判の映画である点からも本作は評価できます。問題の根本的な解決よりも秘密保持や治安維持といった体裁を優先したために対応が後手に回り、さらには現場でウィルス撲滅の対応にあたる科学者の邪魔までしてしまうという政府や軍部の無能ぶりが描かれるのですが、本作製作から40年近くを経た現在の日本において、原発事故の最中で日本政府は同様のミスを犯しました。この先見性はやはり凄いと思います。ホラーとしても見どころが多く、幼いわが子を殺す父親が登場する冒頭にはじまり、編み棒で兵士を刺し殺すおばあちゃん、銃撃戦のど真ん中で掃除をするお姉さんなど、狂気の見せ場が目白押し。本作におけるロメロの仕事ぶりは神がかっています。唯一残念だったのは主人公にまったく魅力がなかったことで、ボサボサ頭のブ男には感情移入できませんでした。
[ビデオ(字幕)] 7点(2011-10-20 22:20:24)
773.  ザ・ファイター
本作に含まれるアイコンは貧困に麻薬に刑務所、「レイジング・ブル」並みに暗く重く作ることもできた題材なのですが(最初に監督を依頼されたのはマーティン・スコセッシだった)、そこをあえてユーモアを交えたポジティブな作りとしています。底辺でもがく人々がボクシングを通してひとつになるという物語は現代版「ロッキー」であり、「ロッキー」同様、本作は脚本も演出も正攻法です。正攻法であるが故に安心して見られる仕上がり、見応えには若干欠けるのですが、それでも2時間はきっちり楽しませるドラマとなっています(当初の予定通りにダーレン・アロノフスキーが監督を務めた場合には、どのような仕上がりになったのかが気になるところですが)。そんな感じで脚本・演出は水準並みなのですが、一方で演技のレベルは非常に高く、特にクリスチャン・ベールが凄いことになっています。弟の足を引っ張る不真面目なヤク中であるが、同時に天性の無邪気さによって誰からも好かれる明るい人物という厄介な役どころなのですが、ベールはこれを完璧に演じています。ディッキー・エクランド本人が登場するエンドロールを見るにもはや憑依の域に達しているほどベールはディッキーそのものに成りきっており、これは何か賞をやらねばと思わせるほどの熱演を披露しています。ディッキー役はブラッド・ピットが演じる予定だったもののスケジュールが合わずに降板し、ウォルバーグよりも歳下のベールが演じることとなったのですが、このキャスティングは正解でした。一方お気の毒だったのがウォルバーグで、ひたすら真面目にボクシングに取り組むミッキー役という役者としてはあまりおいしくない役どころを引き受け、案の定、ベールの引き立て役に徹しています。ただしウォルバーグの演技は決して悪くはなく、クセの強いキャラクターが入り乱れる物語の軸の役割をきっちりと果たしています。彼までが自己主張の強い演技に走っていれば、映画は空中分解していたことでしょう。思えば、かねてからウォルバーグは脇役を引きたてることを得意とする俳優でした。過去にはバート・レイノルズ、ティム・ロス、チョウ・ユンファらから素晴らしい演技を引き出しており、受けの演技をさせると彼は非常に巧いのです。巧くはあるが、本人は評価されないことが悲しいところですが。
[DVD(吹替)] 7点(2011-10-20 19:30:47)
774.  エンゼル・ハート 《ネタバレ》 
ミッキー・ロークはめちゃくちゃにカッコいいのですが、私の中ではそれだけしか評価すべきところのない映画でした。だからといって映画の質が悪いというわけではなく、文化的・宗教的バックボーンの不足により、私にはこの映画を理解する土壌がなかったことが原因だったと思います。これは悪魔に踊らされる主人公の憐れな末路を描いた作品であり、随所にバチ当りな描写がなされるのですが、キリスト教徒ではない私にはこの映画の破天荒さがイマイチ伝わってきませんでした。。。悪魔を主題にした映画は他にもいろいろあります。特に「エクソシスト」はマリア像が派手に汚されるなど相当バチ当たりな描写を含んでいましたが、それらの映画には悪魔に対する善なる力が必ずセットで描かれ、最後には神が勝つという内容となっていました。それがキリスト教圏の観客の安堵感につながっているのでしょうが、一方本作にあるのは悪魔や異教の描写のみであり、それをやり込めるはずの神の力がまったく描かれません。これが本作の特異なところで、主人公は最初から最後まで悪魔に弄ばれ、旅の最後にはブードゥー教の巫女である実の娘との相姦により悪魔の子孫を残し、そして何の抵抗もできないまま死んでいくという救いのない物語。宗教色の強い作品でありながら神の存在がまったく描かれない不安感がキリスト教圏の人達にとってはショッキングだったのだと思います。本作の悪魔は神を恐れるどころか教会の椅子に座り、「神の前では静粛にしろ」と主人公に説教をはじめる始末。視覚的にエグい描写は少ないものの、やってることはとんでもなくバチ当たりなのです。ただ、視覚的なショックが少ないために非キリスト教徒には伝わりづらいことが本作の欠点となっています。さらに、本人オチも当時としては衝撃的だったのでしょうが、今となっては使い古されたネタであることも本作の魅力を奪ってしまっています。
[DVD(字幕)] 5点(2011-10-19 01:32:51)(良:1票)
775.  猿の惑星:創世記(ジェネシス)
「『猿の惑星』の前日談を作ろう」…こんな企画が面白いわけがないのですが、本作はそんな困難な企画を大満足の仕上がりにしてしまった奇跡の傑作でした。監督したルパート・ワイアットなる人物はサンダンス映画祭で絶賛されたスリラー(日本未公開なのでその出来を確認することはできませんでした)を一本撮っただけのド新人なのですが、そんなインディーズ出身の新人がいきなり9000千万ドルもの予算を背負わされ、おまけに映画史に残る名作との比較に否応なくさらされるという重圧の中で、よくぞここまでの作品を作ったものだと感心しました。ジェームズ・キャメロンやティム・バートンですらうまくまとめられなかった企画ですからね、これ。。。本作は大風呂敷を広げず描写の細かさを徹底したことが勝因でした。「創世記」という大層なサブタイトルを付けられてはいるものの、映画の内容は主人公である猿がいかにして人類に愛想を尽かし、猿を組織化したかというだけのものです。前半はシーザーの生い立ちが丹念に描かれ、ついに革命を起こしても、サンフランシスコを突っ切ってゴールデンゲートブリッジの向こうにある森を目指すのみ、すべてが半径数十キロで収まってしまう小じんまりとした物語なのです。そして、この小じんまり感が正解でした。第一作は「惑星」という大層なタイトルとは裏腹に、実に小じんまりとした物語でした。メインの舞台はたったひとつの集落だったし、登場するキャラクターもそれほど多くありません。限定した舞台でのドラマやサスペンスを重視したことが第一作の勝因だったのですが、2001年のリメイクを含む続編はスケールの大きさにこだわる余り、どんどん大味になっていきました。本作はそんな続編の罠をうまく回避しているのです。それでいて、ラストのオチで「創世記」としての面目は保っているのですから、これぞ第一作の精神を受け継ぐ素晴らしい続編であると思います。
[映画館(字幕)] 8点(2011-10-14 18:14:15)(良:3票)
776.  キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー
つまらなくはないが突出して面白くもない、アメコミ実写化作品としてはものすご~く標準的な仕上がりで、「ジ・アヴェンジャーズ」のために突貫作業で製作された作品であることが丸出しとなっています。70年代からヒーローの実写化企画に挑んできたマーヴェル・コミック社が、その失敗と成功の歴史から学んできたノウハウをまんまブチ込んで作っただけの作品という印象で、本作独自のアイデンティティには乏しいと感じました。。。愛国心の強いアメリカ版のび太くんがスーパーヒーローに変身する物語なのですが、もやしっ子が突如アスリートを超える身体能力を手にしたことの爽快感がうまく表現できておらず(「スパイダーマン」第一作では表現できていたんですけどね)、変身ものの醍醐味を活かしきれていません。ロジャース少年はその善良さと正義を愛する心を評価されてスーパーソルジャー計画の被検体に選ばれたのですが、彼の人柄もうまく表現しきれていませんでした。同様に、レッドスカルの残忍さの描写も不足しているため、悪役の存在感もイマイチ。レッドスカルはヒトラーをも超える誇大妄想にとり憑かれてナチスを離脱し、独自の軍隊「ヒドラ」を率いて世界制覇に乗り出したという素晴らしい悪党なのですが、映画ではそのスケール感がうまく表現できていません。また、その戦闘能力を発揮する見せ場が少なかったことも、悪役の存在感を低下させた原因となっています。ヒューゴ・ウィービングは相変わらずよくハマっているだけに、脚本と演出の手落ちが惜しい限りです。その他のキャラクターの描写も薄く、ヒロインであるペギー・カーターはキャップの心の恋人としての魅力に欠けるし、トミー・リーは缶コーヒーのCM並のやっつけ仕事ぶりを隠しきれていないし、キャップが選抜した特殊部隊のメンバーにもこれと言った見せ場がありません。唯一素晴らしかったのはクライマックスに登場したニック・フューリーで、サミュエル自身が持つスターオーラの賜物か、「ジ・アベンジャーズ」への期待感がそうさせるのか、尋常ではない大物感が漂っていました。最後に、本作は3D上映もなされていますが、悪名高き後付け3Dであるため3D効果は薄く、それどころか3Dメガネを通して見ると画面が暗く感じるため、2Dでの観賞をお勧めします。
[映画館(字幕)] 5点(2011-10-14 17:41:30)(良:1票)
777.  ハンニバル(2001)
前作は、連続殺人犯の追跡と若き捜査官の成長物語を軸とした王道の刑事ものでしたが、そこにレクター博士という特殊なスパイスを加えたことで、歴史的な傑作へと変貌を遂げた作品でした。対して本作はレクター博士を見るためだけに作られた続編であり、多くの要素が有機的に絡み合っていた前作と比べると、根本的に分の悪い企画だったと思います。いわば「美人すぎる○○」みたいなもので、政治家やスポーツ選手にしては美人なので世の注目を集めるが、その美貌のみを抽出してグラビアなんかをやらせると、一気に色褪せてしまうというあのパターンと同じ。レクター博士は脇役でこそ映えるキャラクターなのです。バッファロービルを捜査するクラリスに重要なヒントを与えるが、決して多くは説明しない。「もうあと一言欲しい」というところでクラリスと観客を放り出してしまうことが、彼の知性や存在感をより大きく感じさせていました。一方本作では主人公となった博士が何から何まで丁寧に説明してくれるのですが、このことが彼の存在を小さくする原因となっています。リドリー・スコットは企画が根本的に抱えるこの欠点を理解していたようで、開き直って残酷な見せ場をこれでもかと盛り込むことで観客の恐怖心を煽ろうとしますが、完成した映画は見せれば見せるほど恐怖の底が知れてしまうという悪循環に陥っています。メイソン・ヴァージャーというもう一人の狂人を加えるというテコ入れもなされていますが、このキャラクターも完全な出オチで、インパクトがあるのは初めて顔を晒す場面のみ。ビジュアルの巨匠リドリー・スコットの限界がここにあったと思います(かと言って、仮にジョナサン・デミが続投しても優れた作品を作れたとは思えませんが)。
[DVD(字幕)] 4点(2011-10-03 23:58:52)(良:1票)
778.  ニンジャ・アサシン
「こんなに楽しめるクソ映画は久しぶり!」というのが率直な感想です。殺人マシーンが人間性に目覚めて組織を裏切るという凡庸な題材をとり、さらには脚本に何の捻りもないため話は全然面白くありません。主人公の生い立ちが描かれる前半のつまらなさには筆舌に難いものがあり、見るのが苦痛で仕方ないほどでした。しかしこの映画、中盤の大乱闘から突如息を吹き返します。ライブアクションとCGを巧みに使い分けたカッコいい見せ場の連続には目が釘付けになりました。ニンジャ軍団がベラボーに強いことにも燃えましたとも。前半では脚本を追うだけだった演出も中盤以降はノリノリで、主人公が武器を鎖鎌から日本刀に持ち換えた瞬間に音楽が変わり、スピーディな早回しからスローモーションに転換する場面には、あまりのカッコよさに鳥肌が立ちました。完全武装の特殊部隊vsニンジャ軍団という世界中の男子が妄想した見せ場もばっちりモノにしており、ハリウッド製ニンジャ映画に求められるものはきちんと詰め込まれています。高いレイティングにも関わらず北米だけで製作費の元をとるほどのヒットになったのも、男の子が喜ぶものを漏れなく詰め込んだおかげでしょう。主演のRainも素晴らしい熱演を披露しています。ニンジャ映画の主演に韓国人俳優が起用されたことには不満もあったのですが、本編を見ればこのキャスティングに納得できます。これほどのアクションをこなせて、おまけに英語を話せる若手俳優は、残念ながら今の日本では見当たらないのです。また、Rainはイケメンではないものの不思議な色気が漂っている点でもミステリアスな主人公にふさわしい空気を持っていました。こちらもまた、薄味のイケメンが多い日本芸能界にはない魅力です。
[DVD(吹替)] 7点(2011-09-24 20:16:36)(良:2票)
779.  実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
本作は3つのパートから構成されているのですが(連合赤軍結成までを描く序盤・のちに山岳ベース事件として知られる総括リンチを描く中盤、あさま山荘事件へと雪崩れ込む終盤)、タイトルが示す通り、あさま山荘事件そのものではなくそこに至る過程を重視することで、あの事件が非常に分かりやすくなっています。また、本作のように歴史的経過を追う作品は事実の要約に終始してつまらないものになりがちなのですが、本作は山岳ベース事件という美味しい部分を山場に持ってきたことで、映画としての面白さがグっと増しています。連合赤軍との付き合いもあった監督にとって本作は思い入れの強い企画だったようなのですが、ただ個人的な思いをぶつけるだけの映画に終わらせず、観客にうける形を追求したことで客観的な完成度も維持できています。俳優の演技も良く、森恒夫と永田洋子の恐ろしさは尋常ではありません。どこかで聞きかじってきたそれらしい理屈を大声で主張し、そんな自分の言葉に酔って周りが見えなくなる森、こういう男って確かにいます。他の女性に対する個人的な僻みや嫉妬心をいつまでも覚えていて、まっとうな理由付けができるタイミングでウサを晴らす永田、こういう女性もいます。彼らをレクター博士やジョン・ドゥのようなモンスターとして描くのではなく、ありふれた人格の延長としてその凶暴性を描いたことで、より恐ろしさが増しています。両者とも指導者には向かないタイプの人間なのですが、組織を結成した大物達が逮捕されるか逃亡したかという状況では、彼らが組織を仕切らざるをえなくなっていました。さらに、学生運動に何万人もが参加していた時代は過ぎ去り、運動では社会を変えられないことが明らかになった時代。少しでも我に返れば「俺達は一体何をやってるんだ」と自覚してしまうことが怖くて、彼らは内面世界へと固執するようになっていました。気に入らないことがあれば「革命のためだ!」と叫んで暴力をふるう、それによって自身の指導力不足と一向に成果をあげられない焦燥感を同時に紛らわせることが出来たというわけです。なんとも恐ろしい世界。しかし、組織のメンバー達も革命ごっこを止めたくないからリーダー達の蛮行に黙って従っていたというのですから、こちらもまた恐ろしい限りです。
[DVD(邦画)] 8点(2011-09-23 20:05:26)(良:3票)
780.  英国王のスピーチ
題材は興味深いし、脚本も演出も良い。ユーモアと生真面目さのバランスの取り方は絶妙だし、クライマックスにはきちんとカタルシスが準備されている。映画としての完成度は高いと思うのですが、同時に何から何まで優等生的で小さくまとまっているという印象を受けました。見ている間は楽しめるが、生涯忘れられないほどの強烈な作品でもない。オスカーは数年に一度、このような安全パイ的な映画に作品賞を与えるのですが(「フォレスト・ガンプ」「恋に落ちたシェイクスピア」「ビューティフル・マインド」…)、果たして本作が2010年を代表する作品であったかどうかは微妙なところだと思います。
[DVD(吹替)] 6点(2011-09-14 01:19:02)
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