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六本木ソルジャーさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 823
性別 男性

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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61.  リボルバー(2005) 《ネタバレ》 
「シャーロック・ホームズ」鑑賞時にはガイ・リッチーはそれほど大したことがないと思っていたが、本作を観れば、それが誤解だということが分かる。 「シャーロック・ホームズ」で不満に思っていたようなことが本作では全てクリアーになっていた。 先が全く読めない展開であり、一瞬も気を置けない緊張感で溢れている。 本作によって彼の評価は“特異な才能をもつ優秀な監督”というものに変わった。 デヴィット・リンチ、デヴィッド・フィンチャー、クエンティン・タランティーノ監督などの他の作品からのアイディア借用のような展開もみられるが、批判を恐れずに、自分のやりたいことを追求したことによって、個性の感じられる自己流の作品に仕上がった。 エッジの効いた独自の世界観が構築されているだけではなくて、ガイ・リッチー節が効いたクライムサスペンスをベースにしたエンターテイメント性も十分感じられる。 突然アニメを使ったり、エンドロールがなかったりと行き過ぎた点も見られるが、一種の“遊び”と捉えて、多めに見よう。 様々なことをやりたくなって、暴走してしまっただけだろう。 初見では完全に理解できたとは言いがたいところもあるが、彼が描こうとしたことはだいたい伝わったような気がする。 “全てが現実”から“全て独房における妄想”といったものまで様々な解釈が可能なので、あえて紹介する必要はないだろうが、個人的には精神を病んだ元囚人の見事な復讐劇だったという解釈にしたい。 ゲームに勝つために、彼は自分で自分を騙したのだろうか。 前半のゲーム性のあるクライムサスペンスから一転して、後半では心理的な要素をメインにしていくという思い切った意外性も評価したい。 おかげで付いていくのが大変かもしれないが、訳の分からない世界にいざなってくれたおかげで、各キャラクターと同様に何が現実で、何が虚構なのかという“混乱”した精神状態を堪能できるのではないか。 過去の彼の作品とは異なり、観客を騙す、騙されるという“オチ”のようなものを披露して観客を驚かすといった単純なものではないという点も評価したい。 初期の作品から成長して、本作によって前進しているのではないかと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2010-03-16 21:34:09)(良:1票)
62.  マイケル・ジャクソン/THIS IS IT 《ネタバレ》 
マイケル・ジャクソンのファンではないが、「見て良かった」「有意義な時間を過ごせた」と感じさせる作品になっている。上映後、六本木の映画館では拍手が巻き起こっていたので、皆同じ気持ちだったのだろう。ブランクもかなりあり、リハーサルでもあり、年齢的な衰えもあるはずなので、それほど大したパフォーマンスは期待できないと思っていたら、全盛期とそれほど変わらないような人間離れした動きをいきなり披露されて、度胆を抜かれた。基本的には7割ぐらいにセーブして“流す”ような感じであったが、それでも次元の違うパフォーマンスには圧倒される。『フルボイスで歌わせるな』『まだまだ仕上げるのは早い』と自分でセーブしているところにも、プロ魂を感じさせる。パフォーマンスだけで、基本的に他人任せなのかと思っていたが、細かい“音”にこだわり続けて、自分の“音の世界”を追求する彼の姿勢には驚かされる。 本作を見れば、メインボーカルであり、ダンサーであり、指揮者でもあるマイケル・ジャクソンの類まれな“才能”を感じられるはずだ。正直言って、個人的に彼を過大に評価していなかったが、彼が熱狂的に支持される理由が分かった気がする。間違いなく“本物”の天才だ。少々やっかいな指揮者である、その天才に合わせる方の才能も恐ろしく高い。ダンサー、コーラス、サブボーカル、ギター等の各楽器演奏者、本物のプロ集団との共演も必見だ。彼に振り回されるだけではなくて、きちんと彼に意見して、よりよい作品に向かおうとする関係者の熱意も感じられる。 それにしても、“音楽”の力というものは恐ろしい。20年近くの曲にも関わらず、色あせるどころか、よりヒカリを増している。幼いころに聴いていたときよりも、凄みやキレがあるとさえ感じさせる。リハーサルでこれほどなのだから、本番はどれほどのパフォーマンスを披露したのだろうか。これほどの完成度をみせられたら、これが実現しなかったことが悔やまれる。ここまで仕上げたにも関わらず、実現できなかった関係者の失意は相当なものがあったのだろう。 ただ、パフォーマンスには圧倒されたが、一本の映画としては工夫の余地はまだまだ残されているとは思う。彼のパフォーマンスさえしっかりと映っていれば、余計な工夫や小細工をする必要はないのかもしれない。彼の魅力が十分伝わっているので、やはり本作を評価をしないわけにはいかないだろう。
[映画館(字幕)] 8点(2009-11-03 23:06:12)(良:1票)
63.  G.I.ジョー(2009) 《ネタバレ》 
元ネタに関しての知識は一切なし。 頭脳を1秒も使うことのない、くだらないバカ映画だろうと期待度ゼロで臨んだが、本作は見るに耐えないバカ映画ではなくて、素晴らしいバカ映画だった。 映画には常々“深み”が必要であると説いてきたが、本作には“深み”は一切要らない。 いい意味での“浅さ”をスティーヴン・ソマーズ監督は徹底的に追求してくれた。 最近のアメコミ作品は「ヒーローとしての苦悩」といった面に、ことさらスポットが当てられてしまい、肝心の映像やアクションがイマイチ楽しめないものが多かった。 本作はアメコミ作品ではないが、そういった面を排除して、徹底的にアクションやユニークな世界観を追求しているので、それを存分に堪能することができる。 頭脳を使うことのないバカ映画だが、「それで何が悪い!」という思い切りの良さを評価したいところ。 こういう映画も、ときには必要ではないか。 本作を楽しめるようなココロをまだ持っていることが少し嬉しかった。 本作は、我々が子ども時代に空想していたような世界が繰り広げられている。 訳の分からない兵器を巡って、訳の分からない組織同士が訳の分からない北極の基地で戦いを行う(往年の「007」シリーズの近代化したような感じ)。 メチャクチャな兵器が多数登場して、それらを使い壮絶な銃撃戦を行って、派手に人間やクルマや建物などが吹っ飛ぶ(クルマが電車に吹っ飛ばされたあとに軽症で這って出てくる辺りが最高)。 訳の分からない因縁をもった、訳の分からない名前の忍者が、訳の分からない誓いを立てて、訳の分からない戦いを行う(変な“東京”が良い)。 クスリのようなもので操作された恋人と戦いながら、愛のチカラで乗り越えたり、黒幕が意外な奴だったりというベタさ加減がさらにツボにハマる。 こういったことは、まさに人形を使って、我々が子ども時代に想像しながら遊んでいたような世界ではないか。 童心に返って、バカっぽい世界を楽しむことができた。 各キャラクターも自分の役割を認識しているかのように、ノリノリで“個性”を発揮している。 イ・ビョンホンも意外といい味を出していたのではないか。 それほど悪くはない悪役だったと思う。 ぜひとも“続編”を製作してもらいたいものだ。
[映画館(字幕)] 8点(2009-08-12 00:10:49)(良:3票)
64.  レスラー 《ネタバレ》 
作り物とはどこか思えず、実際に存在するキャラクター・ストーリーとしか思えないほど、なにもかもがリアルだった。 自分はプロレスをそれほど好きではないが、普通の人よりは多少知っているレベルだ。 最近でも、68歳のアブドーラ・ザ・ブッチャーと65歳のタイガー・ジェット・シンが戦い、両者反則負けという壮絶な試合をしたそうである。 本作を見ると、自分の世界でしか生きられない男は果たして不幸なのかということを考えざるを得ない。家賃を払う金もなく、愛すべき娘に嫌われて、相手にしてくれるのはストリッパーくらい。全身は傷だらけで、心身ともにボロボロ、まさに満身創痍という状態。リングの下では明らかにカッコいいとは思えない。しかし、いったんリングに上がると、あれほどカッコいい男がいるだろうかというほど輝いている。 不器用で無様で愚直な生き方とも思えるが、その無様な姿も貫き通せば、カッコよく見えてくる。 また、自分の道を貫き通せば、後悔することはなく、自分自身が納得できるのではないか。他人と同じような生き方ができなくても、普通の人が見られる世界ではないものを味わえるはずだ。 自分の世界でしか生きられない男は決して不幸ではなくて、やはり多くの人の憧れであり、カッコよくて、ある意味で幸せな男なのである。 全うな生活を送らなくてはいけないということを頭では分かっていても、心は拒絶してしまうものでもある。 それにしても、娘との食事の約束をすっぽかす理由が、ヤクをキメて、女とヤッていたことが要因になっているということがなんとも泣かす。誰かを助けていて約束を守れなかったり、プロレスの大事な試合と天秤に掛けるという特別な事情ではなくて、リアルに約束を忘れるということが重要な気がする。 自分の世界で生きる男は、やはり全うな生き方はできないのである。 全てを捨てており、頭と心にあるのは、その世界のことだけなのかもしれない。 その分、多くの代償を払う必要があるが、きっと後悔はしないだろう。 プロレスラーだけではなくて、スポーツ選手、歌手、お笑い芸人、俳優など、かつてはスターだったのにこの世界にしがみついている人たちがいる。 明らかに全盛期を通り過ぎているにも関わらず、無様にもがき続けている。 そういう人たちを見る目が本作によって変わるかもしれない。 大切な精神を失わない限り、きっと彼らの輝きは失われないだろう。
[映画館(邦画)] 8点(2009-08-02 23:29:22)(良:2票)
65.  愛を読むひと 《ネタバレ》 
好き嫌いは分かれるかもしれないが、個人的にはかなり気に入った作品だ。ほとんど飽きることがなく、映像にチカラがあるため、完全にこの世界に引き込まされた。本作は、このストーリーを映画化した際における最高のデキといえるのではないか。これ以上のモノを作れる者はほとんどいないだろう。それだけ、スティーヴン・ダルドリー監督の手腕が光っている。セリフで何かを説明するのではなくて、様々な“行為”で多くのことを語らせている点が秀逸だ。脚本に書かれていること以上のことを映像化できる監督は評価されるべきだ。アカデミー賞監督賞に連続ノミネートされているのも納得といえる。 本作を一言で言えば、“愛”を映像化している作品だ。“愛”というものは形が定まっていないだけに、上手く映像化することはできない。しかも、その難しいことに成功しているだけではない。 “愛”の純粋さだけではなくて、“愛”の奥深さや複雑さをも描き切っている。 「人生」や「男と女の関係」は“愛”だけでは簡単には割り切れないことをよく分かっている。「世の中」というものは、一般的な映画のようにそれほど単純ではない。 単純なハッピーエンドでもバッドエンドでもない、どちらとも解釈が可能となるグレイの部分を描いている。本作の時代背景はかなり古いが、現実世界における“厳しさ”“深さ”に通じることを描いているようにも感じられた。 本作には色々と説明が足りないところが多く見られる。「なぜそうなるのか」「どうしてそうしたのか」「どういう想いが込められているのか」といったことが映像を観ただけではよく分からないと思う。主人公たちに簡単に感情移入できるほど単純な映画ではなく、彼らの行動を全て“理屈”で説明することができない。 しかし、人生や愛とはそういうものではないか。説明が足りないからこそ、より“深み”が増したようにも感じられる。本作には余計な「説明」も「答え」も要らない。 観た者が感じたことを色々と想い巡らせればよいだろう。 むしろ、これ以上何かを説明しようとすれば、“蛇足”となるのではないかと思う。 ケイト・ウィンスレットもアカデミー賞主演女優賞獲得が納得できる演技をみせた。 監督や脚本の意図を汲み、“深み”のある演技をみせている。セリフや説明が少ない分、微妙な“感情”や“表情”で内面を表現して観客に何かを感じてもらおうと努力している点を評価したい。
[映画館(字幕)] 8点(2009-07-31 00:37:55)(良:1票)
66.  トランスフォーマー/リベンジ 《ネタバレ》 
マイケル・ベイの映画は、前作を含めてもちろん好きではない。中身がなく、ご都合主義的なストーリー展開ばかりで、ストーリーも人物も何も描けていないからだ。くだらないアクションの連続ばかりであり、「付いていけない!勝手にやってろよ!」と思うときすらある。人間というものはあえて不得意な分野にチャレンジすることも大事なことだが、自分の得意分野を徹底的に追求することも大事なことなのかもしれない。今回もノーストーリー、ノーキャラクターではあるが、派手なアクションや壮絶なバトルに釘付けになった。ここまで自分のスタイルを徹底的に通してくれると、「参りました」と言わざるを得ない。言葉は悪いが、バカを追求すれば、ここまで素晴らしいバカになれるものかと感心してくる。「細かいことは言わずに地球が救われるのを見ろ」というようなセリフがあったかと思うが、まさに本作を一言で表しているのではないか。 アクションばかりではなく、マイケル・ベイ映画のお約束というべき「ラブストーリー」「親子愛」「アメリカ万歳」もきちんと描かれている。たいていは減点となるような描かれ方をされているが、本作に限っては「とことんやっちゃっていいよ!」という気になってくる。ここまで強いアメリカ軍を描いてくれると、本作を見るアメリカ国民は盛り上がるだろう。現実では苦戦しているのだから、映画の中では活躍してもらわないと困る。 ただ、アクションの見せ方に関しては、もう一工夫必要だったか。基本的には、同じリズムで構成されており、抑揚というものが全くない。「全速力で突っ走るぜ!」というスピードで押し切るタイプの作品なので、オプティマスがやられるシーンなども、何かを感じたりするようなことはあまりなくなってしまう。 しかし、前作に比べるとだいぶ見易くなったように思える。 目で追うのはしんどいところはあるが、観客の目を意識した仕上がりになっている。 オプティマス、バンブルビー、フォールン、メガトロン、スタースクリーム程度を判別できれば、一応は楽しめるだろう。個人的には好きなキャラクターであるスタースクリームの外見がメガトロンと似ているので、もうちょっとスタースクリームが判別できれば、より面白くなったと思う。 ただ、お笑い担当となるべき、ルームメイトのレオや、双子のオートボットもいい機能を果たしていない点はもったいなかった。
[映画館(字幕)] 8点(2009-07-05 23:09:03)(良:2票)
67.  ゴーン・ベイビー・ゴーン 《ネタバレ》 
アメリカで評価されていた通りの良作に仕上がっている。題材の良さを活かしており、監督・脚本家として才能の高さを示したといえる。事件モノ、ミステリー、ヒューマンドラマ、社会派映画といった複雑な顔を持ち、見ている者に色々と考えさせられる深い映画に仕上がっている点は評価できる。「何が正しくて、何が間違っているのか」が見えてこない難しいテーマに対して、スムーズな問題提起がなされている。主人公が果たして正しいことをしたのかどうかを考えざるを得ないだろう。主人公が行った「7歳の男の子を殺した犯人のアタマをぶち抜いたこと」と彼らが行った「少女の将来のために誘拐すること」は果たしてどちらが正義でどちらが悪なのかが分からない。ラストの選択については、人の親でもなく、女性でもない主人公だからこそ、あのような行動を取ることができたのではないか。娘が大切にしている人形の名前を間違えるような母親でもアマンダにとっては幸せなのかもしれないと考えたくなる気持ちも分かる。 一方、「実の娘を亡くした者」「不妊症に悩む妻を持つ者」「子どもが犠牲者になる姿を見たくないパートナー」、どのキャラクターも子どもに対して深い思い入れを抱える者である。子どもの明るい将来のため、子どもが確実に不幸せにならないために、法律を超えた行動を取ろうとする気持ちがよく伝わってくる。どちらの考えもよく分かり、この問いに対する明確な“答え”は存在しないだろう。 エンディングシーンも心に響くような仕上がりとなっている。 娘が実の母親の元に戻ったのだから、形式上はハッピーエンドであるのは間違いない。 しかし、これほど素直に喜べないハッピーエンドで締めくくったアフレックは凄い。 バッドエンドと考える者もいるだろう。 冒頭にも触れられていた「街」というキーワードも大事にされていたと思う。車の運転中に飛び出してきた子どもから暴言を吐かれるような「街」の姿が描かれている。子ども達が悪いのではなくて、そういう「街」で育ったことが起因となっているだろう。暴力や銃やドラッグが溢れていれば、大人たちがおかしくなり、子どもも徐々に汚染されていく。そういう子どもが大人になり、親となれば、彼らの子どももまた不幸になる。 そういった連鎖を断ち切らなくてはいけないということを「街」というキーワードを用いて、アフレックは一応の「答え」としているのではないか。
[DVD(字幕)] 8点(2009-06-28 11:24:04)(良:2票)
68.  スター・トレック(2009) 《ネタバレ》 
本シリーズは全くの未見だったため、本作を鑑賞する前に1と2をとりあえずチェックして本作に臨んだ。その予習があまりにハマったため、多少オマケをしたいところ。 「コバヤシ丸」テストのエピソードは、2を観ていないと深く楽しむことはできまい。未来のスポックが若いカークに出会った際に語ったセリフ「これまでもそしてこれからも私は永遠にあなたの友人です」も2を観ていないと“深さ”が分からないだろう。 このシリーズを観ていない者も楽しめるように作ったらしいが、やっぱり往年のファンを喜ばせるような作りになっている。 たんなる前日譚だろうと思っていたら、見事に裏切ってくれたアイディアは評価できる。パラレルワールド化したことで、既定路線を交えながら、新たな世界観を構築できるメリットを生んだ。新シリーズは新たな解釈を加えていくことが、これによって可能となったといえる。 パラレルワールドというアイディアもそうだが、冒頭の壮絶なシーンに対して、感動的な“出産”を上手く絡めてくるなど、「1+1」が「3」にも「4」にもなることをエイブラムスはよく分かっているようだ。 ただし、違和感があったのは、肝心のスポックだろうか。 バルカン人は感情を抑制し、全てを論理で物事を考えることができるという設定の割には、あまりにもあらゆる“感情”に溢れていた。 彼からは「怒り」「悲しみ」「喜び」「愛情」「友情」といったものが伝わってくる。 もっとも、地球人とのハーフであり、母親と故郷を同時に失っているので冷静にいられるわけではないということは分かるが、序盤のカークとの確執などは感情的になりすぎているところがある。 未来のスポックが語っていたように論理的に考え過ぎることは正しいことではなく、感情的になること自体はもちろん悪いことではないが、地球人らしい感情の表し方に終始しており、バルカン人らしさが上手く活かされていなかったような気がする。 カークとスポックがいい対比関係にはなっているものの、ややステレオタイプ的なところがある点が気になるところだった。 全体的にも、単なるSFアクションに展開しすぎるところが見られるが、最後の「新世界を探索し、新しい文明、生命体を求めて、人類未踏の世界へ」といった類のセリフを聞くと興奮が高まり、やはり低い点数は付けられない。 新シリーズへの期待感はいっそう高まってくる。
[映画館(字幕)] 8点(2009-06-14 03:18:50)(良:2票)
69.  ミルク(アメリカ映画) 《ネタバレ》 
「ゲイの政治家を描いた作品」が面白いわけがないとレッテルを貼り付けて、今まで敬遠してきたが、いざ鑑賞してみると、飽きる部分がほとんどなく、映画自体が意外と面白い。 ゲイの気持ちはさすがに理解できず、コアな部分については感情移入しにくいが、マイノリティに対する人権侵害を許さない戦いという観点から見れば、感情移入することもできる。 自分らしく生きられない人々、自分を偽って“クローゼットの中”で生きなくてはいけない人々が、自分らしく生きるための戦いは美しくも感じられる。 彼ら自身の戦いだけではなくて、自分達と同じような迫害や苦しみを味わなくてはいけない子ども達のための戦いでもあるというのも、素晴らしいメッセージだ。 また、ハーヴィー・ミルク一人の戦いではなくて、彼の仲間や彼の支持者、彼の言葉を聞いた者、彼の当選を知った者たちによるムーブメントがこの流れを作ったことがよく分かるようになっている。 チカラのある一人の戦いではなくて、迫害を受ける人々それぞれ一人ずつ立ち上がってこそ、世の中を変えることができるパワーを産むということが伝わってくる。 まさに彼が行ったのは“リクルート”ということだろうか。 ハーヴィー・ミルクについては何も知らなかったが、本作を観れば、彼の生き様、彼の夢、彼の希望、彼の志、彼の愛がはっきりと見えてくる。 当該人物について何一つ描けていない伝記モノが多い中において、本作は極めて優秀な伝記モノとジャッジすることができる。 ただ、本作を見て、ハーヴィー・ミルクについて、清廉潔白な偉大な人物であるとは思わなかった。 ガス・ヴァン・サント監督は、彼をリスペクトする気持ちはあっても、彼を美化する気持ちはないと感じられた。 そういう意味においても、なかなかフェアな映画に仕上がっている。 彼は“特別な存在”ではなくて、恐らく“誰とも変わらない普通の男”ということなのかもしれない。 ゲイについては、さすがに気持ちも分からず、身近にもいないので、彼らの心情を深く理解することはできないが、彼らに対する“偏見”はやや無くなったと思う。 本作には、そのような効果もきちんと含まれている。 アカデミー賞作品賞ノミネート、主演男優賞受賞は偽りではなくて、本作に対する妥当な評価といえる。
[映画館(字幕)] 8点(2009-06-06 13:17:24)
70.  CASSHERN 《ネタバレ》 
元ネタについては一切知らず。 どうせクダらない作品だろうとタカを括っていたが、意外にというか相当に楽しめた。 もし、自分が映画を作ることができる立場にいれば、恐らく本作のような「訳の分からない作品」を作っていたのではないかと思えるほどのシンパシーを覚えた。 こういう批判覚悟のメチャクチャな映画を作れるというキリヤに対して羨ましく感じる。 原作ファンやアクション作品を楽しみにしていた観客から批判されるのを覚悟の上で、自分の描きたい世界観をデビュー作から見事に表現できたのではないかと思う。 邦画でもなく、もちろん洋画でもなく、自分独自のオリジナルな作品であり、誰かの人真似ではない作品だ。 そういう意味においても評価したいところだ。 何らかのメッセージを込めようと試行錯誤して辿り着いたものが、レベルが低くて単なる理想論だとしても、何も込めないよりはマシだ。 子どもレベルのメッセージであるが、自分自身それほど難しいことは分からないので、この位の低いレベルだとありがたい。 本作が言いたいことは面倒くさかったので、あまり深く考えないようにして鑑賞してみたが、それでも「憎しみの連鎖」というテーマを上手く表現できていると感じられた。 その辺にある“反戦映画”よりも、本作の方がまだ“反戦”というメッセージがストレートに伝わってくる。 「戦争がどんなものか知らない」「死んではいけない」という分かりやすいセリフの趣旨が上手く映像化されていると思う。 「青臭い理想論」かもしれないが、何を考えて作成されているのか分からない作品が多い中において、本作が目指した“志”は評価できる。 “映像”と“メッセージ”の両立に成功しており、本作の価値は高い。 多くの人に共感を得られるレベルではなかったかもしれないが、自分の理念にチャレンジした男の生き様を感じられる作品だ。
[DVD(邦画)] 8点(2009-06-06 12:55:29)(良:2票)
71.  レイチェルの結婚 《ネタバレ》 
“家族”を繊細に描き切った良作といえる。本作には“家族”の中に微妙な不協和音が常に奏でられている。その微妙な“空気感”が見事に演出されている点が素晴らしい。 問題ばかり起こす妹に対して、自分の結婚式は自分が主役だとばかりに邪険に扱う姉と、久しぶりに家族に会える喜びがあるのに祝福されない妹の間には、いつ爆発してもおかしくない空気が流れている。また、キムには弟を事故で死なせてしまったという拭い去れない過去があり、“家族”の中でもわだかまりが消えずに残っている。楽しく笑顔で溢れていた「食器洗い合戦」中にも、死んだ弟の影がかすめると、一気に笑顔や笑い声が消えてしまうような繊細さが描かれている。 このような問題を抱える“家族”であり、お互いにいがみ合い、憎しみを抱くような脆さもあるが、なかなか壊れることのないものだと感じさせる。どんなに罵り合っても、抱しめ合えば、憎しみも消えてしまう。ラストの風呂場での姉妹の姿は実に感動的なものだった。特別な言葉も何も要らないのかもしれない。姉妹というものはそういうものなのだろうか。 キムの“家族からの愛”を求める姿が痛々しく描かれている。 アン・ハサウェイがアカデミー賞にノミネートされたのも分かる演技だ。 どんなに愛されたいと願っても、まるで「はれもの」のように扱われてしまう。 姉の結婚を祝福する輪の中でも完全に浮いている姿が印象的だ。 心の中では「謝罪」で溢れており、心の中から楽しむことはできないのだろう。 キムには弟を失わせてしまったという苦しみを抱えているが、それを抱えているのは彼女だけではなく、母親もまた弟の死の責任を抱える存在でもある。 弟の死が離婚の原因ともなっていそうだ。 母親が素直に結婚を喜んでいないのは、キムと同じ境遇だからなのかもしれない。 愛を求めて母親に会いに行っても、同じ境遇同士が傷を癒せるはずもない。 ラストではキムは施設に戻っていくが、自分には“帰る場所”があると分かったのではないか。最後のキムには何かが“吹っ切れた”感じがした。 悪い意味のものではなくて、良い意味のものだと思いたい。 ホームビデオ風の映像もなかなか面白い。 まるでイラクから帰ってきた軍人が撮っている映像を見ているかのようだ。 監督の狙いは、観客は結婚式に呼ばれた客であり、あの場面に遭遇しているかのようにという意図を込めているのかもしれない。
[映画館(字幕)] 8点(2009-05-10 00:31:12)(良:1票)
72.  イエスマン "YES"は人生のパスワード 《ネタバレ》 
あまり期待はしていなかったが、なかなか爽快なコメディに仕上がっている。 本作を見たくらいでは大きな影響はないが、見終わった後は、ちょっと“前向き”になれる作品であり、こういう作品は貴重だ。 全ての事象に“YES”という必要はないが、“YES”と“NO”で悩む場合には“YES”と言ってみようかなと思わせるパワーがある。 アメリカのコメディは、たいてい下品でクダらない作品が多く、笑えないモノが溢れているが、本作は全体的に意外とセンスが良くて(特に音楽)、ただ笑えるばかりではなくてキレイにまとめられている(衝撃的なエロネタもあるが笑えるものとなっている)。 アメリカのコメディもだいぶ進化していると感じられる一本だ。 ジム・キャリーはもともと嫌いではないが、本作でもまったく嫌味やうざったさは感じられなかった。 多彩な顔の表情や、身振り手振りなど、彼の演技を真似することはできないはずであり、真の意味でのコメディ俳優だと思う。 コメディ俳優と名乗る者は多いが、彼はやはり超一流だと再認識できる作品だ。 多くのキャラクターも映画用にデフォルメされたものばかりではなくて(隣人のおばちゃんや自殺オトコなどは例外)、どことなく自然でリアルに感じられた。全体的に親近感が沸くような血が通った者が多かった点も好印象だった。 特に、ズーイー・デシャネルのナチュラルなキュートさも魅力的だった。 序盤のホームレスの存在、序盤の謎の夢シーン(この夢をみたおかげでセミナーに参加することとなるが)、終盤の交通事故(バイクシーンやケツ見せシーンが撮れるという効果はあるが)など、意味ありげのシーンに対して、投げっぱなしも多く、特にラストのオチを含めて「?」という展開もあるが、コメディなので細かいことは気にする必要もないだろう。 コメディに完璧さを求める必要はない。
[映画館(字幕)] 8点(2009-04-12 01:22:05)(良:2票)
73.  007/慰めの報酬 《ネタバレ》 
傑作「カジノロワイヤル」よりは少々落ちるものの、満足のいく仕上がりとなっている。カーアクション、モータボート、飛行機、パラシュートと、過去の“007シリーズ”で描かれてきたことが非常に多く盛り込まれていると気付かされる。石油まみれで殺された女性の死体の描き方はもちろん「ゴールドフィンガー」からの引用だろう。 このシリーズに愛着ある者には“ニヤリ”とさせられるシーンが数多かった。 本作はやはり紛れもなく“007シリーズ”の系譜を引いている作品だ。 悪く言えばオリジナリティが欠如している作品かもしれないが、本作のオリジナリティといえば“復讐”の描き方だろう。 復讐に燃える二人の男女を描き、『復讐とは何か』を問うている。 鑑賞中は「ボンドは彼女に復讐を果たさせない」というベタなオチで締めくくるのかと思っていたが、「彼女に復讐を果たさせる」という予想外の展開だった。 確かに「彼女に復讐を果たさせない」よりも「彼女に復讐を果たさせる」方がより“深み”を増すという結果になっている。 たとえ、復讐を遂げたとしても、その後には何も残らない、呆然とへたり込んで一歩も動けなくなり、ただ死を待つだけだ。 “復讐を果たしても何にもならない”と言葉で説得するよりも、“実際に何もならない”と描く方がより説得力が増している。 ポール・ハギスの脚本の上手さがよく分かるシーンだ。 真の意味で“復讐を果たす”とは、「復讐するという気持ちを忘れて、復讐から自由になること」ということなのだろうか。 ボンドが投げ捨てたペンダントからは、そういう趣旨が伝わってきた。 ボンドが飛行機の中で6杯ほど飲んでいたお酒は、ボンド命名の“ヴェスパー”というお酒。前作で死ぬほど愛したのに裏切られた女の名前を付けたお酒だ。 こういうシーンも奥深くて、非常に上手いと感じられた。 ボンドの苦悩が感じられ、まだ開放されていないと知ることができる素晴らしいシーンだ。 そして、「相手を許して、自分も許せ」とマティスの言葉にも重みがある。 ボンドに対して恨みがあるからこそ、マティスの言葉には胸を打たれる。 さらに、かつてGUCCIのデザイナーをしていたトム・フォードの手掛けたボンドの衣装も必見だ。ファッションに興味のある人には、注目して欲しい。
[映画館(字幕)] 8点(2009-01-25 21:55:41)
74.  ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー 《ネタバレ》 
ギレルモ・デルトロ監督は評価されている監督だが、今まではちょっとピンと来ない部分があった。個人的にはそれほど評価していなかった監督だが、本作を見れば、彼の世界観の豊かさ、イマジネーション力の素晴らしさには圧倒される。 ギレルモ・デルトロ監督は間違いなく才能ある監督だと確信した作品だ。 アメコミ作品の多くは、ヒーローの苦悩といったダークな面がことさら強調されているが、本作のような能天気でユーモアに溢れており、スケールが大きなファンタジックな作品こそ、コミックらしい面白みを感じられる。 緊迫感が足りない微妙なユルさやバランス感覚が非常に上手いと思った。 昨今のアメコミ作品の中は、中途半端な作品が多く満足できないものが多かったが、本作は満足できる優秀な作品だ。 ストーリー、アクション、世界観、キャラクターいずれにも満足できた。 バトルシーンがあっけない部分があるが、前作同様であり、このシリーズの特徴でもあるので多少は目をつぶれる。 アクションや様々なクリーチャーも見所の一つだが、ヘルボーイたちの人間らしい部分も見所の一つになっている。 誰かを好きになったり、妊娠を悩んだり、だらしのない恋人をしかったり、しかられたりと、彼らは人間よりも人間らしい。 そんなときは、酒を飲んで、歌を歌って、嫌なことも悩みも吹き飛ばすというのも非常に面白い描き方だ。 見る人によってはバカバカしいと思うかもしれないが、本作のコアな部分は『どうでもいいことで悩むヘルボーイやエイブたちの姿』だと思っている。 どうやって世界を救うかということで悩むよりも、どうやって恋人の機嫌を直すか、どうやって好きな人に愛を伝えられるかということで悩むかという点に面白みを見出せるかどうかがポイントになるかもしれない。 彼らとは対照的に、容姿が醜く、自分達と異なるからといって、軽蔑したり、化け物扱いをする人間の浅ましい心を描くことで、何かを感じて欲しいという想いをデルトロ監督は込めたのではないか。 ヘルボーイたちが唐突に人間達に嫌われることに違和感がないわけではないが、“流れ”を考えると仕方のないところだ。 ヘルボーイたちの非常にピュアな心を描くことで、エルフが嫌った人間の心を間接的にも描いているような気がする。 そして、冒頭の教授と幼いヘルボーイのやり取りも素晴らしい。 本当の親子のような姿が描かれている。
[映画館(字幕)] 8点(2009-01-22 22:02:50)
75.  ワールド・オブ・ライズ 《ネタバレ》 
やはり、リドリー・スコット監督は本物の監督だ。久々に“映画”を観たという充実感を味わうことができた。リアリティがあり、迫力があり、緊張感があり、全く先が読めないストーリーには引き込まされる。 ストーリーが面白いと感じさせるのは、フェリスとそれぞれの登場人物との関係が一蓮托生ではなくて、極めて脆い側面をもつ点だ。 まず、フェリスとホフマンの関係が面白く描かれている。現場を知らない上に傲慢なホフマンが、まさに「アメリカ」を体現しているかのようだ。上から目線で、ヨルダン情報局のハニに対して彼のスパイを独占したいという強欲さを押し出している。現場の作戦や風習を無視して、自己の都合と自己の利益のために勝手に動くことによって、全てを乱している原因になっているということに気付いていない。ホフマンの強引さに、フェリスが振り回されており、その挙句にフェリスを助けることもできていないというところが皮肉的だ。 そして、フェリスとハニとの関係も非常に微妙に描かれている。お互いに信頼関係を重視しているが、“嘘”というほころびがラストの悲劇的な展開を生んでしまっている。また、フェリスのアメリカ的ではない“正直さ”もまた一つの衝撃的なラストを生んでいる。彼らの関係が、アメリカと中東との関係の微妙さをそのまま描かれている。 最後に、フェリスと看護師との関係にも見所がある。周囲からは奇異な目で見られている二人であり、結局は結ばれることはなかった。アメリカと中東の国々が仲良くしたいのだが、それが簡単には上手くいかない。環境がそれを困難にしていることを描いているようだ。 さらに、CIAとテロリストグループとの間で、荒唐無稽で非現実的な化かし合いが繰り広げられるのではないという点も面白い。フェリスが仕掛ける“嘘”も、ラストの“嘘”もリアリティが保たれたものであり、極めてシンプルなものとなっている。 派手さはないものの、この丁寧で絶妙なリアリティが実に心地よい。フェリスの嘘も、ホフマンの嘘も通じず、誰の嘘が勝ったのかを考えると、なかなか痛快な作りとなっている。 中東においてはアメリカ的な手法や、近代的な装置や設備が通じないということを明らかにすることによって、アメリカという国ややり方を皮肉っているようだ。 アメリカ万歳映画ならばヒットしただろうが、この内容ならば、アメリカ人が本作を無視したというのも分かる。
[映画館(字幕)] 8点(2008-12-22 00:56:58)(良:2票)
76.  スカイ・クロラ The Sky Crawlers 《ネタバレ》 
ビジュアルは文句なく、ストーリーも良く、しかも何かを考えさせるようになっており、非常に満足できる作品に仕上がっている。 世界や海外を意識したためか、自分の追求するスタイルを少々捨ててはいるが、自分のコアな部分はきちんと投影されている点は素晴らしい。 自分の世界観を分かりやすく伝えるのもプロの監督の仕事だ。 あまり彼の作品は観たことはないが、やはり押井監督はプロフェッショナルな監督だと感じさせる。 チカラを相当に注いだと思われるビジュアル面では他の追随を許さない圧倒的な美しさには驚かされる。 単に美しいだけではなく、空や雲の空気感・飛んでいるような感覚までをも描きこもうとしている。 ある意味では“芸術”ともいえる領域だ。 キルドレについては、現代の若者をイメージしているのだろうか。 空の多彩な表情とは変わって、能面のような表情が実にいいコントラストになっている。 感情的にならないドライな若者たちを非難しているようには感じない。 現代の若者を上手く捉えており、彼らに非常に分かりやすくメッセージを伝えたと思う。 本作ではキルドレの代わりがいくらでもいるという設定になっているが、現代の若者たちに対して「それでいいのか?」と問うているのではないか。 「オマエらは人形じゃない」「代わりなんていない」「この世界はゲームじゃない」ということを監督は伝えたがっているように感じた。 また、描くことが難解な微妙な部分を上手く演出している点を評価したい。 冷めているようで、ほんの少し熱い部分もある。 感情を表に出さないが、内面には秘めたる部分もある。 諦めているようで、何かを変えようともがいている部分もある。 逃げているようで、立ち向かおうとしている部分もある。 このような微妙な感覚を上手く演出しているのはプロの仕事だ。 菊地凛子の起用の成否の判断は難しいが、恐らく押井監督はギャンブルに出たのではないか。 彼女よりも上手い声優はいくらでもいたと思うが、彼女の下手くそさ(しっくりこない違和感)が良い意味で個性的な味わいが出たような気がした。 栗山千明のように悪くなくても印象の残らないよりも、冒険を犯して印象に残すということに主眼を置いて勝負したと思われる。 菊地凛子は好きではないが、そういう意味においては彼女の起用は当たった。
[映画館(字幕)] 8点(2008-09-04 00:32:56)
77.  ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン! 《ネタバレ》 
「ショーン・オブ・ザ・デッド」が全く合わなかったので、これも絶対に合わないだろうと半信半疑で鑑賞したにも関わらず、十分すぎるほど楽しむことができた。 上空に向かって銃を撃つところは最高だ。 声を出して笑った。 イギリス人のユーモアはマジメすぎるのが欠点と思っていたが、このマジメさがいい効果を発揮したように思われる。 きちんと伏線を打って、ほとんど回収した律儀さは立派。 白鳥、金色のオジさん、ファシストなどの使い方が非常に上手い。 見ている最中は、ひょっとしたら終盤で作風を変えてくるかと思ったが、まさかここまでヤルとは想像以上だった。 ただ、狙ったのかも知れないが、序盤・中盤の演出などがやや単調か。 終盤の作風がガラッと変わるので、逆算して考えたら、序盤・中盤にはまだまだ工夫の余地はありそうだ。 また、中盤までの住民や他の警官と主人公との温度差の演出がやや物足りないか。 温度差の違いをもっと笑いにできたはずだ。 明らかに殺人事件が起きているのに、誰も気付かないという展開を押し出してもよかったか。 「ショーン・オブ・ザ・デッド」はそれほど好きではないが、「ショーン・オブ・ザ・デッド」を見ていると、二人のコンビにさらに味わいを感じて、本作を倍以上楽しむことができるだろう。 ラストの墓場のシーンも「ショーン・オブ・ザ・デッド」を見ていると、感じ方が違うはずだ。
[映画館(字幕)] 8点(2008-09-02 20:23:34)
78.  告発のとき 《ネタバレ》 
鑑賞中は「つまらない映画」と思っていたが、鑑賞後は「素晴らしい映画」と感想ががらりと変わった。 「アメリカがイラクで行った暴虐に対して告発する」という大きなテーマを描くのかと思って見てみたら、大間違いだ。 見終わった後は、それよりももっと大きく深いテーマを扱っていると気付くだろう。 “戦争が人間性を崩壊させる”というテーマを、感傷的にもヒステリックにもならずに、静かに怒りを込めつつ冷静に告発している。 見終わってから全てがみえてくるというポール・ハギスの計算された作風が見事だ。 息子を殺された父親と、その息子を殺した加害者が「パンスト話」で笑い合ったり、酒を飲んだりするというシーンの恐ろしさは、最後まで見ないと分からない。 息子を殺された父親に対して、ともに戦った戦友の殺害を冷静に罪悪感もなく語るシーン、戦友を殺して切り刻んで燃やしたあとに腹が減ってきたのでチキンを食べたと語るシーンには、言葉も出ない。 この“異常性”こそが本作の真相であり、その“異常性”を見事に描き切った。 戦争によって“異常”な人間になってしまったが、父親に対して送ったメッセージ、父親に対して贈った写真と国旗には、元の“正常”な心は完全に失われていないことも伝えている。 ポール・ハギスは、アメリカが異常な国になってしまったと告発しているが、正常な国に戻れるはずだという想いも込めたのだろう。 ラストに登場する青年兵士の姿、そして逆さにした国旗に込めた想い、どれもこれも深くて熱い。 原題のタイトルの由来となっている「ダビデとゴリアテ」の話が恥ずかしながらよく分からなかった。 「ダビデ」はシャーリーズ・セロンの息子の名前の由来なので、アメリカの若い兵隊を言い表しているのだろう。ダビデ(若い兵士)はパチンコ(現代に置き換えれば銃)をもって、巨人「ゴリアテ」に立ち向かう。 巨人「ゴリアテ」は、イラクを指しているのかもしれないが、この場合“戦争”そのものを指しているのかもしれない。 結果的には、ダビデ(アメリカの若い兵)は巨人との戦いには勝つことができた。 しかし、ポイントは小人が巨人に勝つことではなく、なぜそもそも小人のダビデが巨人と戦わなければいけないのかが問題ということなのだろう。 勝ち負けの問題ではなく、アメリカの希望ある若い兵隊が戦争に赴くことに対する問題とその矛盾を示したという解釈をしたい。
[映画館(字幕)] 8点(2008-07-16 20:13:10)(良:5票)
79.  イースタン・プロミス 《ネタバレ》 
男の理想ともいえる世界が構築されている。 男性ならば、この世界に酔うことができるはずだ。 善と悪の世界の狭間に生きる男の、美しくも不器用な生き様に引き込まれるだろう。 悪の世界にどっぷりと浸っているために、もう善の世界に引き返すことの出来ない辛さを抱えるとともに、悪の世界の汚れた美しさの魅力にも惹かれてしまっている。 ヴィゴだけではなく、ワッツも危険なものに手を出さざるを得ない状況に陥っている。 男性におススメの映画だが、本作に描かれているのは性別を問わない美学かもしれない。 絶対的に悪でもなければ、絶対的に善でもない。 好きな女に好きといえなければ、放っておくこともできない。 好かれた男に応えるわけでもなければ、放っておくこともできない。 組織にハメられたと知りながら、認められたことを喜ばずにもいられない。 何もかもニュートラルな状態が本作の魅力かもしれない。 ニュートラルにすることによって、優しさと残忍さを併せ持つ男の相反する二面性のようなものがきちんと描かれていたと思う。 ナオミとのラストのキスシーンで善の世界を捨て切れていない感情を表し、ラストのレストランでのシーンで悪の世界も捨て切れない感情を表している。 この二つのシーンが、非常に良い対比となっているのではないか。 また、ヴィゴとナオミとヴァンサンの隠れ三角関係がいいスパイスとなっている。 ヴァンサンのナオミに対する攻撃的な姿勢がいい伏線となっているのかもしれない。 父親に対して頭が上がらないはずなのに、ヴィゴをハメた父親と喧嘩するということは、ヴィゴに対して相当ホレ込んでいたのだろう。 ヴィゴとナオミも良かったが、ヴァンサンもなかなかいい仕事をした。 好きな男がゲイかどうかを調べるために、彼にヤラせて、その最中をずっと見続けるというところに彼の倒錯した感情が上手く表れている。 注目のサウナでのバトルシーンはバトルに夢中になって、さすがにあっちには全然目がいかなかった。
[映画館(字幕)] 8点(2008-07-04 23:25:49)(良:1票)
80.  最高の人生の見つけ方(2007) 《ネタバレ》 
重くなりがちなテーマを、比較的軽めのコメディタッチに仕上げており、しかも軽い仕上げであっても、きちんと感動できるようになっている。 監督・俳優の高い技量の賜物だろう。 現実離れしたご都合主義という批判はあるかもしれないが、何もかも現実に即して描く必要はなく、ちょうどいい上手い具合に調理された映画だ。 いい年をしたオヤジたち二人の旅は本当に微笑ましい。 見ているこちらも、旅に出掛けたくなる映画だ。 旅に出掛けることももちろん意義があることだが、モーガン・フリーマンにとっては意識を改革することに意義を見出そうとしたのだろう。 病床で家族と向き合う期間をだらだらと過ごすことよりも、忘れてしまった妻への想いを取り返し、一瞬だけだとしても家族とかけがえのない時間を過ごすことによって、自分の人生に再び輝きを取り戻すことができると考えたのではないか。 妻への説得があっても帰ろうとせずに、ジャック・ニコルソンの色仕掛けのワナによって、ようやく妻への忘れかけた想いを再び感じられるようになるというのも面白い仕掛けだ。 ニコルソンにとっては、この旅は単なる道楽だったかもしれないが、旅を通して、かけがえのない親友を手に入れている。 女性にはモテるかもしれないが、本当の意味で親友と呼べる存在はモーガン・フリーマンだけなのだろう。 秘書とも深い絆で結ばれているが、対等の立場ではないので、親友とは呼べない。 親友だからこそ、誰もが言わないことを言ってやろうと思う(疎遠となった娘と会え)。 親友だからこそ、自分にとって難しいことを言われたとしても、それに応えてやろうと思う。 親友というのは、そういう関係なのだろう。 自分流の“最高の人生”とは、「自分の人生をできるだけ楽しむこと」だと思い、そういう生き方を今まで実践してきたが、それでは半分程度なのかもしれない。 自分の人生を楽しむことだけではなく、他人の人生を楽しませてこそ、本当の意味において“最高の人生”ということになるのだろう。 本作は、結構深いところを描いている。 妻(恋人)、家族はもちろんのこと、友人でも構わないという点がなかなか良い。 彼らは6ヶ月程度でそれを成し遂げたのだから、誰にとっても遅いということはない。 そして、誰でもそれはできるはずだというメッセージを込めたのではないか。
[映画館(字幕)] 8点(2008-05-18 14:12:04)(良:1票)
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