901. グッモーエビアン!
《ネタバレ》 女教師の「グッドモーニング・エブリワン」は完璧な発音です。中学英語では。そして日本国内では。はっちゃんの進路に対する助言だって、何も間違っていません。私が彼女の立場でも同じ事を言うでしょう。でも、世界で通用するのはヤグちゃんの「グッモーエビアン!」の方です。嘘です。知らないです。私も「グッドモーニング」の人間だから。でも「グッモーエビアン!」だって気持ちは伝わるでしょう。完璧な発音じゃなくても構わない。つまり正解は一つじゃないということ。人生の数だけ正解があるはずです。アキは安定した人生を「ツマラナイ」と言いましたが、それは彼女にとっての正解ではないという意味。充実した日々を送るか、退屈な時間を過ごすかは、偏に自分自身の問題です。ヤグちゃんやアキは、自分の生き方に責任を持っています。野垂れ死んだとしても、2人は笑っていることでしょう。物語冒頭のメッセージと同じ。そんな生き方を誰が否定できましょうか。そういう意味で、はっちゃんはまだ自分の人生に責任を持てていません。ですから、エンディングのブレザー姿を見て安心しました。“とりあえず”の高校進学だとしてもいいじゃないですか。選択肢はなるべく多く、考える時間は沢山あった方がいいでしょう。心配しなくても、時間なんてあっと言う間に過ぎ去りますから。彼女ならきっと自分だけの正解を見つけられると思います。お母さんより、ずっとしっかりしている娘です。それに大切な事を教えてくれる主夫の“お父さん”が傍にいるのですから…ウザいですけど、ね。それにしても大泉洋。ヤグちゃんを肯定出来ないと本作は成立しない訳で、好感度の高い大泉の起用は大当たりでした。役者として得難いキャラクターです。やるな、天パめ。麻生久美子も完璧。社会の厳しさを知っている顔(老けてるって事じゃないですよ)が物語に深みを与えます。演奏シーンもサマになっていました。良い女優さんです。三吉・能年の若者コンビも熱演と言っていいでしょう。能年は今年大ブレイクしましたが、三吉も素質十分。でも男顔なんですよね。時々山下智久に見えました。山下との兄妹役なら、いつでも太鼓判を押せます?! [DVD(邦画)] 8点(2013-11-03 19:59:53)(良:1票) |
902. テッド
《ネタバレ》 彼女との大事なパーティを抜け出して、車を走らせる主人公。軽快なBGMにフラッシュ・ゴードンがフラッシュバック。ジョン・ベネットの顔面アップ、アップ、アップ。テールランプが尾を引きます。このフザけた演出に大爆笑しました。私はこの場面で作品の空気(笑いのリズム)を掴めた気がします。こうなればもう何だってこい。これ以降のネタは全弾命中です。笑いが笑いを呼び込む連チャン状態。バカ笑いしました。この感覚はベン・スティーラー主演のアメリカンコメディ『ズーランダー』を観た時の感覚に似ていました。如何に作品世界(すなわちテッド&ジョン・ベネットの濃密な関係)の“内側”に入り込めるかがポイント。ローリーも、2人の“スキーの付く名前ボケ合戦”への参入を試みましたが、あえなく撃沈。空気を掴めていないと、こういう目に遭います。この時の彼女は“外側”に居る状態と言えるでしょう。彼女と同じ立ち位置では、物語を楽しめないのは道理。アメリカンコメディは登場人物と一緒になって、馬鹿にならなきゃ意味が無いです。ハッパなんて要りません。ナチュラルトリップで楽しみましょうよ。日本人のワビサビ感覚でいうと、テッドの魔法が解ける結末の方がしっくり来ます。でも本作はアメリカ映画。それにコメディです。しんみりなんてノーサンキュー。ハッピーエンドで正解だったと思います。友情も恋愛も魔法と同じ。何時までも、何時までも、このままで。映画の中くらい夢をみさせてください。『ズーランダー』の感想でも同じ事を書きましたが、ネタの微妙なニュアンスが日本人では理解し難いところがもどかしいです。フラッシュ・ゴードンは日本芸能界で言えば倉田保昭という受け止め方でOK? [ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-10-30 18:59:16)(笑:1票) |
903. 幻魔大戦
ストーリーについて特に言及したい部分はありません。それより驚いたのは、石森章太郎が原作漫画を描いているのに、大友克洋がキャラクターデザインをしている点。公開当時、私は小学生だったため、この事実を知らなかったワケですが、結構凄いコトをやったんだなあと。石森氏は嫌じゃなかったんですかね。石森キャラより大友キャラの方がイイんじゃね、みたいな論調になったら気分が悪いでしょうに。共作だから拒否権が無かったんでしょうか。例えるなら、『ついでにとんちんかん』を漫☆画太郎のキャラクターで映画化するような。違うか。でも、ちょっとそれ観てみたいです。結論。石森氏は太っ腹。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2013-10-27 20:45:41) |
904. 殺人ゲームへの招待
《ネタバレ》 実在するボードゲーム『Clue』を原案とする映画だそうですが、着想を得たというより、そのまま実写映像化した印象です。DVD収録のエンディングは3通り用意されていますが、ゲームのルール通り“登場人物×凶器の種類×部屋数”分だけ結末が“存在し得る”と考えて構わないでしょう。事件の真相は偶然の産物。勿論ドラマは完全に後付けですし、トリックの醍醐味など望めるはずもありません。ミステリーとしての面白味はゼロです。間違っても犯人探しなどしてはいけません。無駄骨です。謎解きのヒントも当然在りません。では何処を楽しめばいいかというと、まずは雰囲気でしょうか。とある洋館に招かれた素性の知れぬ数人の男女。各々に配布された典型的な凶器の数々。消える死体に隠し部屋。古典ミステリーの風味を味わうワケです。次のお楽しみは、ウィットに富んだ会話劇とコミカルなリアクションで魅せるコメディーパート。ほぼ、こちらがメインと考えて差し支えありません。さて私は某蔦屋の『良品発掘』シールに惹かれて本作を観賞しました。そのため期待値のハードルが高かったかもしれませんが、それを割り引いてもツマラナイものでした。物足りないというか。おそらく本作を楽しめる人は、大人だと思います。あるいは大金持ち。「今日の夕ご飯は松茸の土瓶蒸しよ」とママンに言われて喜んでいたら、本当に土瓶蒸ししか出てこなかったとしても、キレたりしない“余裕のある人”だけが楽しめる映画ではないかと(何のこっちゃ)。同じ趣向の映画なら『名探偵登場』の方が満足度は高いです。 [DVD(字幕)] 4点(2013-10-24 19:55:34) |
905. 蛇イチゴ
《ネタバレ》 『蛇イチゴ事件』は、妹が兄を悪人と認定するに至った、最初の大きな出来事でした。ですから、兄の自己破産計画の信憑性を見極めるため、妹は『蛇イチゴ事件』の検証を希望したのだと思います。薄暗い山奥。沢を挟んで手を伸ばす兄。妹は直観的に身の危険を感じたのでしょう。確かにサスペンスドラマなら殺されるパターン。間違いない。兄は悪人だ。だから警察に通報しても問題ないという思考の流れ。ところが、蛇イチゴは存在しました。兄を悪人とする重要証拠が消えたのです。心理学用語で言うところの『初頭効果』打ち消しと『新近効果』のダブルパンチ。妹の判断基準は根本から揺さぶられました。兄=悪人の図式が崩れた彼女の胸中は如何ばかりか…想像すると…笑えてきます(失礼。性格悪いですね)。そもそも兄の人間性など、自己破産計画の真贋とは関係のない話。それに兄がガンジーだとしても、香典詐欺を働いた事実は覆りません。ダメなものはダメ。物事の判断は是々非々でしないと。それに表があれば裏もあるのが世の道理。そんな当たり前の事柄に考えが及ばないのは、彼女の視野が狭い証拠です。母親が嫌悪する「あなたはいつも正しい」も、この部分を指しています。おそらく彼女は、職場で型に当てはめる作業に慣れ過ぎたのだと思います。そういう思考の癖がついたのです。問題児の発言だから信用できないという理屈。困った事に(?)往々にしてその判断は“正しい”のですが、基準を其処に置くのは間違っています。思い返せば、同僚教師も同じ価値観の持ち主でした。教師の職業病でしょうか。レッテルに頼った判断は効率的で簡便ですが、時として大きな過ちを犯す危険性を孕んでいます。おっと、教師という職業にレッテルを貼るのも間違いでしたね。危ない、危ない。反省します。人の心の汚い部分、醜い部分を描きながらも、観ていて嫌な気持ちにならないのは、監督の視点が多角的だからだと思います。絶対悪など無いように、完全正義も存在しない。だから不完全な私でも、安心して観ていられるのだと思います。いい映画でした。聞けば本作は、西川美和女史の初監督作品とのこと。処女作でこの完成度とは恐れ入ります。監督の人柄が伝わってくるのも素晴らしいです。私は『ゆれる』と『夢売るふたり』しか観ていませんが、監督の名前で信用買い出来る事が分かりました。ほかの映画も必ず観ます。宮迫はベストアクト。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-10-21 19:29:08)(良:5票) |
906. トータル・リコール(2012)
《ネタバレ》 欧州と豪州。地球の裏側同士に当たる二つの大陸間を、地核を貫いて直接繋ぐ“フォール”と呼ばれる移動装置。このアイデアは秀逸でした。建造に費やされたであろう金銭・資材・時間・労働力・技術力を想像すると気が遠くなります。地核突入時の重力反転ギミックも申し分なく、SF的スケールは“火星のコロニー”を凌ぐと考えます。空間を立体的に活用することを意識したスピード感溢れるアクションは見応え十分。掌モバイルや、拘束光線銃といった未来テクノロジーも楽しめました。設定・脚本共に大きな欠点は見当たりません。しかし本作のレビューに並ぶのは「薄味」「地味」といった平坦な言葉たち。残念ながら私も同じ印象でした。結局は比較の問題なのだと思います。オリジナルが示した強烈な個性の前では、常識的なセンスでは霞んでしまうということ。比較されるのはリメイクの宿命ですし、上品より下品な方が、繊細より大雑把な方が、インパクトがあるのは仕方のない話。そんな歩の悪いリメイクで、オリジナルへのオマージュを織り交ぜつつ、正々堂々と元祖に勝負した本作の製作姿勢は称賛したいと思います。でも、やっぱり面白いのはシュワちゃん版なんですよね。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2013-10-18 18:25:56) |
907. ATM
《ネタバレ》 ≪≪以下妄想レベルの解釈です。またネタバレも含みます。ご注意ください≫≫ ターゲットが恐怖に慄き、自滅する様を観察するのが犯人の目的(愉しみ)であったと推測します(ATM内の現金が目的かもと考えましたが、犯行に計画性が無さ過ぎるため却下)。様々な防犯カメラの撮影範囲を入念に研究していた点、その堂々とした態度から、今回が初犯とは考え難いです。ただし、こんな穴だらけの計画で完全犯罪を目論んでいたとは思えません。本件は、“たまたま死者を多数輩出したレアケース”。大半は携帯で即通報されたり、逃走されたりしたのではないでしょうか。つまり普段やっているのは、悪質な悪ふざけ。しかし、それなら何故今回は犬の飼い主や警備員を殺すところまで徹底したのでしょうか。ここまでやると、もう悪戯では済みません。本気でターゲットを潰しにかかっているのは間違いありません。ただし、主人公の車に積んでいた工具を利用している点からも計画的犯行の可能性は低く、たまたまターゲットに私怨があったから(あるいは復讐の機会を窺っていたところ千載一遇のチャンスが巡って来たので)いつもの悪戯から、本気の復讐に切り替えたと考える方が自然な気がします。覆面から僅かに覗く瞳に愉快犯的な悦びの感情が読み取れなかったこと、また目の雰囲気が年配であったことから、“犯人=主人公が年金の運用を誤った顧客”であれば辻褄は合いますが、流石に妄想が過ぎると感じます。客観的な証拠の類は一切ありません。結局ハッキリしているのは、主人公が勝手にテンパって自滅したという事実のみ。合理的な説明を好む観客の嗜好に沿うはずもなく、低評価は免れないと考えます。DVDパッケージにはいつもの如く“ソリッド・シチュエーション”の文字が。しかし“隙だらけ”というより“隙しか見当たらない”の設定で“ソリッド”を名乗るのは幾らなんでも無茶な気がします。ほぼ唯一の見どころは、アニメ版タイガーマスクの必殺技“ウルトラ・タイガー・ドロップ”(またはノークラッチ式投げっぱなしジャパニーズ・オーシャン・サイクロン・スープレックスとも言う)が実写で再現されていたこと。ウェンツ主演の『タイガーマスク』は先を越されちゃいましたね。プロレスファンは必見かと(嘘)。 [DVD(字幕)] 3点(2013-10-15 19:57:54)(良:1票) |
908. テイク・シェルター
《ネタバレ》 【【ネタバレあります。未見の方はご注意願います。】】 結末について。“主人公の悪夢は予知夢だった。嵐は本当に来た”との見方も勿論可能ですが、“妻も夫と同じく精神を病んでしまった”との解釈の方が、妥当性が高いと判断します。客観的な証拠(例えば妄想説を支持する医師の嵐目撃情報など)が無い以上、統合失調症という一度は確定した“現実的な解答”を覆すのは難しいと感じます。具体的な“核戦争”ではなく、“奇妙な嵐”という点も、精神疾患の可能性を後押しします。そして、真実がどちらだとしても、この家族の置かれた状況が好転しないのが辛いところです。果たして、この家族が救われる正しい選択とは何だったのでしょうか……。もし嵐が本当に来た場合。家族は片時も家を空けてはいけませんでした。エンディングソングの歌詞のとおり、折角のシェルターも活用できなければ意味がありません。自分を信じ切れなかった時点で“詰み”です。しかもこの選択は、精神疾患だった場合は目も当てられません。リスクが高すぎて、とても選べないでしょう。真実がこちらであれば、グッドエンディングへの道筋は無いに等しいと感じます。では、精神疾患だった場合はどうでしょうか。最善手は、早い段階で投薬治療を始めること。大事に至らなかった可能性は大いにありますし、娘も手術を受けられたはず。統合失調症の可能性を疑いながらも、自分に甘い判断を下してしまったのは痛恨の極みでした。しかしこの段階では、まだ“最悪”ではありません。ポイント・オブ・ノーリターンは、おそらく食事会。大暴れをした夫に妻は寄り添いました。2人の絆が伝わってくる美しい場面。しかし愛するが故に、夫の妄想に取り込まれたとも言えます。あの時娘を連れて席を立っていれば、彼女と娘は助かったのではないかと。誰かを守りたい、支えたいと願うなら、まず自身の身の安全を最優先させなくては。同じ景色を見られることに喜びがないなんて、遣りきれません。軸がぶれぬ脚本は上質で役者の技量も充分。映像表現も上出来でした。夢・現実・幻覚の境目が明瞭で、観客を煙に巻く意図が感じられない点も好印象です。いい映画でした。 [CS・衛星(吹替)] 7点(2013-10-12 17:50:41) |
909. 陰日向に咲く
《ネタバレ》 漫才コンビ・ゴールデン鳴子雷太、解散場面のこと。鳴子が別れ際に放った一言が引っ掛かります。「また、あなたを見つける」この台詞は、これから心中するカップルが使う言葉でしょう。「(生まれ変わっても)あなたを見つける」の意味で。鳴子が雷太を見染めてコンビを組んだ経緯があるとしても、このシチュエーションで使うのは不自然です。後の鳴子の娘来訪が前提となっていることが透けて見えます。前フリ・伏線は脚本家の腕の見せ所ですが、無理やり挟み込むのはかえってマイナス評価。それに別れ話でこんな台詞を吐く奴は、気持ちが悪いです。初対面でキス。田舎から上京し、押し掛けてお笑いコンビを結成。にもかかわらず人前に出るのが苦手?乙女の恋心パワーで説明するのは無理があるような。芸人ならデフォルトの変人でも、一般的にはドン引きです。ルックスが“宮崎あおい”だから許されるようなもの。彼女に限らず、登場人物の人間性は総じて酷いものでした。モーゼは偽父親になり済ましましたし(しかも誰も得をしていない!)、アイドルオタクの童貞紳士ぶりには苦笑いするばかり。岡田くんは正真正銘のクズでした。お前は大家さんにキレられる立場かと。弁護士先生のやっている事も独り善がりな感アリアリ。お父さん(鳴子の夫)の気持ちはどうなるの?で、タチが悪いのは、これらダメ人間エピソードを感動話に仕立て上げていることです。監督というより、劇団ひとりのセンスという気がしますが、ダメな奴がカッコ付ける事ほど恥ずかしいものはありません。V6岡田くんや塚本高史といったイケメン俳優の起用も、明らかに間違いだったと思います。バラバラに見えた主要登場人物たちが、主役を中心に集約される筋立ては、この手の物語の定番様式。こちらも脚本家の手腕が問われる部分。ところが何故かアイドル&オタクチームだけが本筋に絡んできません。こういうリアリティって必要ですか?脚本家の意図が測りかねます。正直、私には魅力を理解できない映画でありました。ただし、宮崎あおいの「ごしない」だけは絶品!頬が緩みます。方言女子に萌える方には、一見の価値があるかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2013-10-09 17:57:34)(良:1票) |
910. 飛べ!ダコタ
《ネタバレ》 タイトルから容易に想像がつくように、物語の着地点(本作の場合は離陸点かな?)は初めから確定しています。ですから、観客の興味は結末に至るまでのドラマにありました。どんな苦難を乗り越えてダコタを再び飛ばす事が出来たのか。しかしながら、ハードルらしいハードルが見当たりません。英兵も島民も皆物分かり良く協力し、順調に滑走路を造り上げたように見えました。障害と呼べるのは放火未遂事件くらいのもの。厳しい自然環境の抵抗や滑走路造成過程の試行錯誤など、外的要素で盛り込めるハードルは幾らでもあった気がします。それに時は戦争直後の混乱期。ベンガルの言葉「ここ(頭)では分かっていても、ここ(心)がいうことを利かない」という島民の内面にも、もっと踏み込んで欲しいと思いました。戦争で息子を亡くした母(洞口)や戦時中の思いを引きずる青年(窪田)のエピソードにしても、簡易に処理をした感は否めません。心の穴を埋めること、凝り固まった心を解すのは、そう簡単な作業ではないはず。悩み、ぶつかり合い、苦難を乗り越えてこそのカタルシス。残念ながら、優等生の善行より不良の親切が持て囃されるのが世の常です。そういう意味では、登場人物がみな良い人過ぎたと思います。美談を美談のまま映画化することの難しさを感じました。ダコタ不時着時及び離陸時の描写に、予算問題をカバーする工夫が見られなかったこと。島民の善意の結晶であり最大の見どころ、自然石を敷き詰めた500メートル滑走路の全景をきちんと見せなかったこと。演出面、映像面での不満もあります。手放しで称賛できる映画ではありませんでした。本サイトのレビュワーとしての採点は6点です。ただし、一新潟県民としての思いは別。忘れ去られていた誇り高き感動の実話を、このような形で世に知らしめてくれた本作には、心より感謝いたします。油谷監督、比嘉愛美さん、初監督及び初主演に『飛べダコタ』を選んでくださり有難うございました。洞口依子さん、素晴らしい演技でした。この映画製作に関わった全ての方に敬意を込めて+2点を献上させてください。 [映画館(邦画)] 8点(2013-10-06 20:49:39) |
911. 50/50 フィフティ・フィフティ(2011)
《ネタバレ》 日本で“難病もの”と言えば、“最後は主人公が死んで悲しい泣けるお話”と相場が決まっています。一時期邦画で大流行しましたし、夏にTV局発のキャンペーンでアイドル主演のスペシャルドラマが製作されることでもお馴染みです。刺身に醤油、トンカツにソースと同じくらい定番の味付け。ですから本作の軽やかアッサリ風味の味付けは、単純に新鮮でした。泣かなくてもいい難病もの。これだけで技あり。観賞に値すると考えます。【風味=音楽】は軽くても、旨味はしっかり、コクもあるのが素晴らしいです。主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットは、今をときめく堺“半沢”雅人を彷彿とさせるアルカイクスマイルが印象的。あの頬笑みは、おそらく心の防波堤。ガン告知前から爪を噛んでいた点からも、主人公の不安定な内面が窺い知れます。今回の一大事は、そんな主人公を激しく揺さぶりました。露わになる心の隙間。欠けていたピースは何だったのか。それは親子の絆だった気がします。「愛している」それだけで繋がれるのは肉親だからこそ。息子に「初めまして」と挨拶していた父親に蘇る家族の記憶。胸が締め付けられました。お父さん役の俳優さん、MVPです。揺さぶられた事で人間関係も篩いに掛けられた模様。「難病の彼氏を支えるアタクシってステキ!」な勘違い女とキッパリ別れられたのは不幸中の幸いでしたが、何より彼がツイていたのは、親友が側に居てくれた事でしょう。デリカシーって何?それ美味しいの?な奴ですが、「50%のギャンブルなんて最高じゃん」と言い切り、彼女の浮気を躊躇なくチクれる(しかも本人の目の前で!)ガサツさに、主人公は随分と救われたと思います。本当の優しさを知っている男でした。セス・ローゲンには殊勲賞を差し上げましょう。カウンセラーと患者という関係から始まる恋物語は、「結婚したのか?オレ以外の奴と」でお馴染み某携帯恋愛ゲームと同じくらい激しくツッコミたい衝動に駆られますが、彼女の方に打算が感じられないので許すことにします(笑)。お幸せに! [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-10-03 18:58:15)(良:3票) |
912. アイアンマン2
《ネタバレ》 日本製ロボットアニメのデザインを思い起こしてみると、頭部は鎧兜を連想させるものが圧倒的に多いことに気づきます。日本人の感覚だと、どうしても額に飾りを付けたくなるのです。ですから初めてアイアンマンのフエイスデザインを見たときは、正直ピンときませんでした。何だコレ、カッコ悪いなあと。でも慣れてくると印象が変わります。洗練されたシンプルさがツボにはまります。改良が加えられていくアイアンマンスーツに、好奇心が刺激されまくり。本作では携帯スーツタイプのマーク5と、新型リアクターに強力な武器を搭載したマーク6が披露されていますが、どちらも目茶苦茶カッコイイです。某海外トイメーカーのフィギアをまたしても購入してしまいました。財布がマジでヤバいです。辛気臭い物語と戦闘シーンの少なさは前作と比較してマイナス要素ですが、スカーレット・ヨハンソの見事なアクション分加点してチャラということで。前作同様の8点を献上いたします。 [DVD(字幕)] 8点(2013-09-30 19:28:53)(良:1票) |
913. ナイトピープル
《ネタバレ》 白昼堂々、街中で繰り広げられる銃撃戦。いや銃撃戦なんて上等なものじゃなく、チンピラ同士の鉄砲遊びでしょうか。日本が舞台のクライムサスペンスで、なお且つコメディ要素抜きで、コレをやられると正直キツイです。だって今、平成25年ですよ。完全に昭和のヤクザ映画か刑事ドラマのノリですもの。“拳銃の弾はなかなか当たらない”なんてリアリティよりも、“人目のある所で銃撃戦なんてしない”リアリティの方が大事じゃないかと。若村麻由美が猟銃を持ちだした時には笑ってしまいました。堅気ではない旨の説明はありましたが、完全にやる気(殺る気)満々じゃないですか。現代日本でガンアクションを撮りたいのなら、エンターテイメントに特化しないと茶番になってしまいます。ご一考を。伏線無し、後だしジャンケン方式の“実はこうだったんです”な筋書きに注文を付ける気はありませんが、「腋の下に拳を入れると、脈は止まるんだよ」なんて脱力モノの言い訳を得意気にされると、何だかなあと思っちゃいます。みんな、犯罪はちゃんとやろうよ。 [DVD(邦画)] 4点(2013-09-27 18:46:06) |
914. スター・トレック/イントゥ・ダークネス
いやー『スター・トレック』愛されていますね。酷評は好きだからこそ。ファンの気持はよく分かります。各々の中で『スター・トレック』の定義がありますから。でも♪これも『スター・トレック』あれも『スター・トレック』たぶん『スター・トレック』きっと『スター・トレック』♪じゃないかと(松坂慶子・愛の水中花より引用でございます。年がバレますね)。自分は結構楽しめました。前作の感想でも触れましたが、優秀なコメディリリーフ、サイモン・ペッグが活躍したのが大きいと思います(『ミッション・イン・ポッシブル・ゴーストプロトコル』と同じ役回りですけど)。娯楽作品として幅が広がりました。彼の相棒、喋らない毒チンチラみたいな奴も存在感抜群。冷静沈着なバルカン人スポック副長の激情ぶりも微笑ましく、敵役も含めキャラクターは際立っていたと思います。それだけで許せてしまうのが、私にとっての『スター・トレック』なのです。SFというよりアクション映画の趣が強い本作ですが、たまにはこういうのもイイでしょう。スタートレックの魅力は、宇宙よりも広いのですから。 [映画館(字幕)] 8点(2013-09-24 18:50:51)(良:1票) |
915. パシフィック・リム
《ネタバレ》 怪獣出現からロボット兵器開発に至る一連の流れを、本編導入のプロローグとしてさらりと処理したのが上手いと思いました。何故なら人型巨大ロボットを開発する必然性など、どう考えても無いのですから。つく必要のない嘘はつかない方が上品というものです。ロボットのデザインがダサいのも、ロケットパンチが飛んでいかないのも仕方のない道理。“もしも巨大ロボ兵器を開発したら”というシミュレーション感覚が発想の基礎にあったと感じます。それも科学的検証に耐え得るものではなく、子供の想像や憧れを拠り所としているのが素晴らしいのです。某『空想科学○本』で実用性が一蹴されている頭部コックピットを採用し、操縦システムは『エヴァンゲリオン』や『六神合体ゴッドマーズ』と同じ精神感応式。しかも右脳と左脳でパイロットが役割分担までする拘りぶりです。この操縦方式は怪獣の脳へアクセスする技術にも使用されており、物語を構築する上で欠かせない要素となっていました。サイエンス・フィクション+ファンタジーの世界観。最低限のリアリティを担保していたところに、人型巨大ロボットの“浪漫”があったと考えます。味方ロボが次々と撃破され、主人公機も傷だらけになっていく終盤戦は、和製ロボットアニメ最終回定番の様式美と呼べるもの。そそられます。ただ残念なことに本作はアメリカ映画だったんです。『アルマゲドン』や『インディペンデンス・デイ』と寸分違わぬ結末にズッコケました。人類滅亡の危機を退けただけで大勝利なのに、それでは足りぬとまだ勝ちを重ねます。主役がハッピーじゃなきゃ、ハッピーエンドとは言えないんですね。何というか、“慎み”ってものがありません。『ザンボット3』の爪の垢(いやロボットだからエンジンオイルかな)でも煎じて飲ませてやりたいくらい(笑)。でも、これだけ楽しませてもらえたなら、文句を言う気も失せてしまいます。些細な粗など問題にもならないでしょう。やっている事は『トランスフォーマー』と同じでも、視認性の高さは格段に上。劇場観賞で大正解でした。悪い事はいいません。映画館に行かないと損ですよ。アムロやシャア少佐、綾波レイ、コンバトラーVの葵豹馬など、日本ロボットアニメ史を彩る豪華声優陣を起用した日本語吹き替え版もおすすめです。 [映画館(吹替)] 9点(2013-09-21 18:29:08)(良:1票) |
916. マン・オブ・スティール
《ネタバレ》 「空を見ろ!鳥だ!飛行機だ!いやスーパーマンだ!」のフレーズでお馴染み、アメリカンコミックが原作のヒーロー、スーパーマン。その正体は新聞記者クラーク・ケント。電話ボックスで早着替え。母星クリプトンと地球の重力の差異で超人化(していた気がする)。あとヒロインの名前がロイス・レイン(だったかな)…これが私の予備知識。このようなスーパーマン初心者にとっては、胸のマークがSUPERのイニシャルではなかった事でさえ新鮮な驚きでした。というかコレ『スーパーマン』のリメイクでは無かったんですね。オリジナルを換骨奪胎して作られた全く新しい『スーパーマン』だと理解しました。悩み葛藤し答えを見つけ出すアメリカンヒーロー定番のドラマに、フルCGで描かれる格闘アクション。要するに『スパイダーマン』や『X-メン』『アイアンマン』なんかと同じフォーマットです。となると、あとはキャラクターの魅力で差異を出すしかないと考えますが、全身タイツの赤マント男がカッコイイとは思えなくて少々困りました。古典レベルの原作を現代に蘇らせるなら、もっと大胆なアレンジを加えても良かったと思いますし、正体を隠したいなら何故マスクをしないの?とか、そのマントって必要?みたいな“古き良き時代なら問題にならなかったであろう”無粋なツッコミ対策に対する理論武装も見たかった気がします。今回一日で『パシフィック・リム』『スタートレック・イントゥダークネス』そして本作と話題のSF大作を固めて劇場観賞したのですが、映像技術はどれも行き着くところまで行き着いた感があります。技術の進歩は本当に凄まじい。でも良い映画の条件はそれだけにあらず。映画って奥が深いです。 [映画館(字幕)] 7点(2013-09-18 19:13:02)(良:3票) |
917. ウルヴァリン:X-MEN ZERO
《ネタバレ》 スギちゃんより100倍ワイルドなヒュー・ジャックマン演ずる人気キャラクター、ウルヴァリンの誕生秘話。踊る筋肉、揺れるモミアゲ、今日も切れてるベアークローを存分に愛でられます。ミュータントの特殊能力は単純なものが多く、格闘アクションは見応えたっぷり。ファンは勿論ですが、一見さんでも問題ありません。むしろ本編『Xメン』シリーズより一般向けで観易いかと思います。ところで気になったのはウルヴァリンの肉体再生能力。合成超人の能力をみる限り、もしかして首くらい刎ねられても大丈夫なのでしょうか?驚異的な“新陳代謝”でウルヴァリンの不死身ぶりを説明するならまだしも、頭が胴体から離れても生きていらたらヴァンパイアと変わりません。ミュータントを人間と捉えることがXメンのアイデンティティ。自然の理から外れない匙加減が必要と感じました。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2013-09-15 21:50:00)(笑:1票) (良:1票) |
918. 悪の教典
《ネタバレ》 壮絶極まる大虐殺の最中、山田孝之が女子高生のパンツの匂いを嗅いで「これは○○のか」なんてフザけた台詞を吐く映画の是非について、真剣に語るだけ馬鹿らしいというもの。悔しいけれど、それが三池監督の流儀。大した危機回避能力です。褒める気はありませんが、素直に凄いと思います。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2013-09-12 18:27:32)(笑:1票) (良:1票) |
919. のぼうの城
《ネタバレ》 一言でいうなら、野村萬斎による野村萬斎のための映画。今この役を演じられるのは野村だけでしょう。狂言で培った技能を存分に活かして、オイシイ役どころを手堅く演じました。一方、配役で気になったのは山口智充です。おそらく注文通りの演技プランで、彼に非はありません。しかし、同じ外連味溢れる芝居でも2人のバックボーンの違いか、山口の方には違和感が。もう一人か二人俳優以外の芸達者を入れて、全体のバランスを取っても良かったかもしれません。一昔、いや二昔前なら、型通りの殺陣で許された合戦シーンも、今やCGを使って血飛沫を飛ばすのが当たり前。現代時代劇は迫力やリアリティと引き換えに、チャンバラの様式美を失ったように思います。ある程度は仕方がない時代の流れ。本作のように娯楽時代劇の場合、リアリティは無用の長物ですが、無視する訳にもいきません。足りない娯楽性を補う意味が芸人山口のオーバーアクトにあったと考えます。石田軍2万に相対する成田軍はわずか五百。戦うという事は、すなわち死んでくれという意味です。配下の武将は兎も角も、百姓にとっては迷惑な話。それなのに彼らは自ら進んで槍を取りました。仕様が無い殿様だと笑って許してくれました。如何に長親が領民から慕われていたかが分かります。絶対の勝ち戦で水攻めなどという下策を用いる敵大将には望めないもの。人望は武器です。死んでくれる部下の気持ちに報いるには、自らも命を捨てなければなりません。そう、田楽の目的は撃たれる事でした。水攻めで落ちた味方の士気を弔い合戦の名目で奮起させ、堤防作りに携わった農民に反旗を翻すことを促すのが狙い。決死の舞です。“でくのぼう”なんてとんでもない。立派に大将の器でした。果たして、莫大な犠牲と引き換えに彼らが手に入れたのは、後の世にまで語り継がれる名誉。命に代えてまで得る価値があったかどうかは判断が難しい問題。しかし、当人たちが納得している以上誰も口を挟めないでしょう。それにしても成田長親のリーダー像には胸を打たれました。愛されるのは、努力を伴う立派な才能です。ももクロの百田夏菜子も同じタイプのリーダー。いい仕事は、仲間の、働き手の、心を動かすことから始まります。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-09-09 18:28:02)(良:1票) |
920. 闇金ウシジマくん
《ネタバレ》 『アウトレイジ』が全員悪人ならば、『ウシジマくん』は全員クズの世界。それでも、丑島は筋を通している分マシに思えるから不思議です。初回の融資は10万まで。金利は暴利でも隠し立てはなく、基本は契約通りの返済でOK。際限なく集る事はありません。闇金は地獄へ一直線の落とし穴。穴を掘る奴は勿論悪人ですが、落ちる側にも責任はあります。ましてや計画的に借金を踏み倒そうとする輩など、法的には容認されても、人間性は闇金以下でしょう。甘い謳い文句で客を垂らし込めるドラッグや銀玉遊びに比べれば、カウカウファイナンスは嘘が無い分、まだ良心的な商売に思えます。とはいえ、闇金業がクズである事に変わりは無く、感情移入は容易ではありません(そもそも丑島の鉄仮面は感情移入を拒絶しています)。そこでTVドラマ版では千秋(片瀬那奈)という原作漫画には存在しないオリジナルキャラクターが登場しました。彼女こそ観客の感情移入の受け皿。一般人の感覚の持ち主で、重苦しい空気を和らげるコメディリリーフも担いました。ですから千秋が仕事をしない本作では、TV版より娯楽性が削られている訳です。感覚的には、俯瞰で眺めるホラー映画、あるいはTV特番の『警察24時』。これはこれで楽しめますが、ヨゴレ役に大島優子をキャスティングしたところを見ると、原作のディープな世界に踏み込む覚悟は無い模様です(案の定、地上波TVレベルの表現止まりでした)。それならTV同様のアプローチで大衆映画として明確にアレンジする方が正解だった気がします。(以下余談)WOWOWでの観賞でしたが、最後に『命に代わる借金などありません云々』のテロップが。関係各位への配慮か、はたまた当局の指導か存じませんが、当たり前の事でも告知しないと叩かれる社会の風潮には閉口します。そのうち『ルパン3世』にも窃盗は犯罪ですのテロップが流れたりして。『風立ちぬ』の喫煙問題も馬鹿らしい。送り手に節度や配慮を求めるのは構いませんが、過ぎたるは及ばざるがごとしです。結局ツケを払わされるのは、他ならぬ観客自身です。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2013-09-06 18:58:59)(良:1票) |