81. 川の流れに草は青々
《ネタバレ》 「栴檀は双葉より芳し」を地でゆくようなホウ・シャオシェン監督の初期作品。鐘鎮濤(ケニー・ビー)を主演に迎えたこの作品は多分アイドル映画としての企画であったと思われる点、話の筋に多少の破綻はあるかもしれないがそういった経緯を超えた「ホウ監督の若さ溢れる、彼にとっての理想をフィルムに映しだした」映像の数々を堪能できた事が私にとっては好印象でこの点数。日本でも(そして現在の台湾でも)失われてしまったであろう想い出の風景。好きな映画=特に小津安二郎とジョン・フォードへのオマージュ。そして何より彼のアイデンティティたる台湾の外省人/本省人問題(後年傑作「悲情城市」で取り上げられる)等、この時点で見受けられるのが目に付く。機会があれば。というより先に「冬冬の夏休み(84年)」を見てからの方が、いいかな。主人公がディーゼル列車でやって来て、ヒロインと一緒にもと来た列車で帰ってゆく。素敵じゃないか。 [映画館(字幕)] 7点(2017-08-05 13:30:18) |
82. 超時空要塞マクロス ~愛・おぼえていますか~
《ネタバレ》 後世アニメ映画(そしてファン文化)に物凄い影響を及ぼした作品としてこの点数。監督石黒昇46才+共同監督河森正治24才(!)宮武一貴36才、板野一郎25才+庵野秀明&増尾昭一24才。正直話の内容は苦笑したくなるくらいの気恥ずかしさに溢れてるけど、それも若きスタッフたちの気概や情熱が生み出したものだったのだと思うとこれはこれでOK。ちなみに私はミンメイ=飯島真理さんの歌では名曲「愛・おぼえていますか(作詞安井かずみ/作曲加藤和彦)」よりもエンディング「天使の絵の具(作詞/作曲飯島真理)」の方が断然好き。 [ビデオ(邦画)] 8点(2017-07-26 19:58:38) |
83. 神様の愛い奴
《ネタバレ》 私の中では「ゆきゆきて、神軍」(87年)よりもこの作品の方が評価は高い。但今回レビューの点数で理解いただけると思うが、はっきり言って内容はひどい。「~神軍」を見た観客の中には「奥崎謙三は出所後、あの時よりもっと凄い事をやってくれる」と思った者もいるだろう。この映画もそれを期待してスタートされた企画であろうし、オープニングからスタッフは彼を「先生」と祭り上げている。ところがビデオ画面に映し出されるのは「~神軍」で写された『巨大権力に立ち向かい、真実をとことん追求してゆく(事の正否はともかく)信念あふれすぎてる男』とは真逆の孤独を嫌い、虚栄心に溢れ自己顕示欲の強い、性欲だけは有り余り過ぎている老人の醜悪さである。(トイレに閉じこもって出てこない奥崎にAVを流したら天の岩戸よろしく扉を開けて出てきた逸話には笑いを超えたものを感じた)いやもしかしたらこういった剛弱混濁した性質が人間奥崎謙三の本質であって、その躁鬱状態の振幅を増長させたのが「~神軍」で示された戦争体験なのだろう。 きっと一番醜悪なのは「奥崎ワッショイ」と持ち上げていたこの作品スタッフであり、他人事の様に作品を見ている我々観客も同類なのだと思う。...下のレビューにも書かれていますが「~神軍」とこの作品はセットで見るべき。ただし興味×100あればであって、保証はできません。久しぶりに見て本当に疲れた。 [映画館(邦画)] 2点(2017-06-04 11:42:37) |
84. 東京裁判
《ネタバレ》 戦争の本質=徹底的に「無寛容で理不尽」なものである事を私に教えてくれた傑作。約4時間半もの長尺に関わらずまったく間延びがしないのは東京裁判に至るまでの近代日本の歩みを丁寧に説明してくれる為、という事でこの長さでないと多分成り立たない。監督小林はスクリーンでとにかく不条理な情景を観客に見せつける。各国家が戦時下で行っている行為は本質的に変わらないのに「勝者」「敗者」の違いだけで戦争犯罪を裁く不思議さ。熟慮をかけて行われるべき裁判が「時代の変化」「平和への渇望」を世界諸国にアピールする為戦争犯罪人に十分な時間を与えぬまま急ぎ足で始まり、結局「政治ショー」的扱いになってしまっている現実。東京裁判の影では各アジア諸国においてBC級戦犯が十分な対応もなされないまま、被害を受けた現地民の怒りをもろに受け処罰刑が執行されていた事。そしてなにより「裁判をもって恒久平和の礎とする」とした声明論述はラスト、トルーマン大統領の再選と朝鮮戦争~ベトナム戦争~中東戦争等の諸外国介入をテロップで示し全くもって「絵に描いた餅」であった事を説明している。国家が戦争を引き起こした責任をその当時の政治指導者に持たせる事は個人的には間違っていないと思う。しかしこの映画を見てそれ以上に自分が感じたのは結局戦争というものは人間が考える理想やあるべき姿を完全に無視する一陣の暴風雨であり、絶対に起こしてはならないものであるという単純な結論であった。この映画にはラスト「完」とか「終」といったテロップ表示が無いまま終わる。それはつまり歴史はこれからもずっと続くものであり、この作品は今を生きる私達へのメッセージである事を表しているようである。考えたらまだ満州事変から100年経っていないのだ。 [ビデオ(邦画)] 9点(2017-04-14 12:41:21) |
85. 残酷ドラゴン/血斗竜門の宿
《ネタバレ》 この度ようやく4Kデジタル修復・映画館上映。そう今のCG溢れた映像表現・アクションシーンの進化においてこの作品は通過点でしかなく古臭さすら感じてしまうかも。だがそれをカバーするだけの緊迫感/演出力と手作り感溢れるこの作品が好きだ。特に関係者が龍門客棧に集まってくる冒頭シーンは、後々のカンフーアクションの教科書になったのではないかという位のお約束であふれてる。そしてアクション映画には魅力的な悪役(パイ・イン)がいるだけでいいのだ、と改めて感じさせてくれる一本。(ちなみにリメイク版「ドラゴン・イン/新龍門客棧」での悪役ドニー・イエンは極私的彼の最高悪役と思っております) [映画館(字幕)] 7点(2017-02-26 13:42:04) |
86. 女の園
《ネタバレ》 お恥ずかしながら私はこの作品、「民主主義万歳・自由万歳/封建制度反対」みたいな古くさい題材を扱ったものと思いこんでおりました。ですが何十年ぶりかで見直してみてこの作品は、レビュアーの皆様が既に書き込まれている「新しい価値観に対する対立・融和」という今の世相にも十分通用するテーマを描いた秀作であった事にいまさら気付いた次第です。すみません。封建制度的な態度運営を頑なに守り通す女子大学側(高峰三枝子の演技は素晴らしくこの点は不変)もさることながら、改めて今回感じたのは男性陣が時代の変化や価値観の変貌に対して、妙にぬるい反応であったという事でしょうか。芳江に対する恋人下田の対応も初見時は暖かく見守ってるんだなぁ、でしたが本当は彼自身が新しい時代/価値観に対応出来ていないのではないかと考えた次第であります。で役者。松竹映画における望月優子/浪速千恵子/東山千恵子を見ていると「おばさまオアシスじゃー」と思う位なのですが、やはり高峰秀子の演技力の幅に唸らされてしまっている自分がいる。「浮雲」のレビューにも書いてしまいましたが、同時期に「浮雲」「二十四の瞳」でこれですからね。すごいポテンシャルだ。木下作品にしては(この年のキネ旬ベストテンでは「二十四の瞳」と共に1・2位を独占)少し説明過多で時間が長すぎかな~とは思うがこれもまた良作。機会があれば。 [映画館(邦画)] 8点(2017-02-20 10:51:00) |
87. フープ・ドリームス
《ネタバレ》 貧民街の黒人少年二人が才能を見込まれてバスケットの名門高校に入学し、自分達の夢=NBA入団→「フープ・ドリームス」を叶えるべく努力する姿を4年間にわたって記録したドキュメンタリー。なのだがこれは「井の中の蛙が大海を知ってしまう」残酷さが描かれている。才能あった少年ウィリアムは怪我でひざの手術をし周りとついていけなくなったあげく、ガールフレンドが自分の子供を出産した事で心が折れてしまう。もう一人の少年アーサーは才能が花開かないまま奨学金のバックアップが足りなくなってしまい、名門高校を退学。公立高校に再入学し目標であったトーナメントには出場出来たが名門大学に進学できるかはわからない。日本でいうところの「野心/ハングリー」という言葉の意味合いが諸外国ではまったく違う、重いのだという感慨を初見時の私は感じたものでした。あれから20年の時が経ちますが貧困から脱する為の「スポーツ」の意味はますますもって増大しつつあります。そしてマニー・パッキャオやレブロン・ジェームス、リオネル・メッシの下には何千何百万人のウィリアムやアーサーがいるのだと考えさせられました。DVDは廃盤ですが、Netflixとかでは視聴可能のはず...多分。少々上映時間長いけど機会があれば。 [映画館(字幕)] 8点(2016-08-01 17:29:13) |
88. 真田風雲録
《ネタバレ》 この時代劇に「爽快感」などを期待してはいけない。真田幸村/猿飛佐助で加藤泰+中村錦之助なんだから「風と女と旅鴉(58)」「瞼の母(62)」を期待していた観客からすればなんだこりゃ、であり関西では上映6日間で打ち切られたという失敗作であったのもむべなるかなである。ただしこの作品が現在まで残っているのはそんな「どっちらけ」感によるものだったのだなぁと思っている次第。福田善之原作の脚本を読了する機会があり基本は60年代学生運動の風刺=どんなに立派な理想論/イデオロギーを掲げても結局人間の欲望に挫けてしまう現実+若者の情熱を悪用する偽善者たる大人たちという主題は変わらないのだが、若者のエネルギー=狂騒感溢れる馬鹿馬鹿しさ・くだらなさを存分にフィルムに映し出すことが出来た(ジェリー藤尾やミッキー・カーチス+トッテチッテターな戦争シーン)点で良い映画化なのだろう。さらにこの作品が後世の人々に影響を与えた事実も忘れてはならない。助監督鈴木則文はさることながら勝間田具治は東映アニメ―ション演出家として名匠。さらにもう一人...脚本家福田善之は大河ドラマ脚本(風と雲と虹と)だけでなく出演の経験もあり、大河ドラマ史上脚本・出演した脚本家はこの人と三谷幸喜だけ(wikiより)。...あれ、もしかしたら堺雅人、転んでそのまま槍にグサー、なのかな。加藤泰作品としては中級者におすすめ。 [映画館(邦画)] 7点(2016-06-26 20:52:25)(良:1票) |
89. 旅情(1955)
《ネタバレ》 いきなり暴言から始まる事をお許し願いたいのだが、私はこの映画におけるロッサノ・ブラッツィの役柄が大嫌いだ。不仲であるとは言いながら妻帯者、でもって「ビフテキが食べたくてもお腹が空いてたらラビオリを食べなさい」ってそこまで自分の下半身に忠実になってどうするねん!そこにマイナス点を入れる事にした。…ところがそれ以外は本当に名作。ベニスの街を映し出すショットの見事さ=主人公ジェーンにとっての「夢の世界」であったんだな、という点に物凄い説得力を感じてしまうし、小道具の使い方/カメラやくちなしの花などは印象深い。何より当時47歳のヘップバーンがアラフォーのハイミスを演じてしまって全く違和感を感じさせない、その存在感(恋へのよろめき・揺らめきを感じる)・演技力の素晴らしさは今の映画界には不在なのだなぁと思う。そして監督リーンの作品がやっぱり自分にとって一番映画が「総合芸術」だと感じさせる。多少の贔屓目がどうしてもついてしまうのでこの点数。【(2018年9月追記):上の方のレビューを拝見し、カトリック教会そして信者の、離婚に関する考え感覚に付いて私失念しておりました。何とも恥ずかしい限り...とはいえやっぱりロッサノ・ブラッティの役柄は苦手なのでこのままに。日々これ、勉強ですな。】 [映画館(字幕)] 8点(2016-05-09 13:44:00) |
90. 夜の河
《ネタバレ》 主人公が恋を諦めてキャリアウーマンとして改めて生きてゆく事に決めた経緯が男性陣(演者の演技は良いし時代的な背景もあろうが)の「だらしがない」(としか言いようのない)性格に起因してしまっている点、加えてメロドラマにしても都合の良すぎる展開・余計な描写(特に私はラストのメーデーの描写は蛇足と思っております)といった欠点あるこの作品を何故故にレビューするのか。まずは日本を代表する名カメラマン宮川一夫の撮影/カラー描写の素晴らしさが一点。京都出身の彼が撮りだした日常風景や色彩配置の各ショットは今の邦画ではもう映し出せないし、出せたとしてもその「空気」までは抽出出来ないと思わせる。そしてもう一点は山本富士子の「美しさ」をフィルムに捉える事の出来た一本であった事に尽きるのではないか。後年五社協定事件(1963年=フリーになろうとした彼女に親会社の大映がそれを許さず五社協定の名を借りて映画界から締め出した事で彼女はTV・舞台女優としての生き方を余儀なくされた)により10年しか映画女優として活動できなかった彼女の代表作の一本になった事でこの作品は映画史に名を残した。ま、私としては「彼岸花(58)」「女経(60)」とか「美貌に罪あり(59)」くらいの少しムッフーンな方が好きなんだよう...ムツフーン。...ゴホンゴホン、早く大映はブルーレイ仕様のデジタルリマスターやっちゃってください! [映画館(邦画)] 7点(2016-05-05 22:06:53) |
91. 濡れ髪牡丹
《ネタバレ》 面白さ、という点で「濡れ髪」シリーズ最終作のこの作品が私は大好きだ。それは京マチ子のツンデレぶり(私はこの映画で彼女がめちゃくちゃ魅力的である事を知った)もさることながら、雷蔵コメディの最高傑作という点に尽きる。前作群における雷蔵の立ち位置は本郷功次郎や川崎敬三を導く「出来る」男で2.5枚目位の立場。だがこの作品における彼は完全に3枚目なのが素晴らしい(「~は免許皆伝の腕前であ~る、ウン!」なんて素敵な笑顔だろうか!)。剣術の達人にも関わらずもろ肌脱いだ京マチ子に気が動転しコテンパンにやられる様や、甲州流早駆けを駆使して飛ぶように去ってゆくところも(時代劇らしからぬ早回しカットの連続で)間の抜けた感があって面白い。多分雷蔵さん自身の素はこんな明るい人だったんだろうなぁと思わせる「明暗含めた役者としての幅」に感服させられるのだろう。ちょっと高めだけどこの面白さにいい点つけちゃおう。本格的時代劇を求める人には?だがいいんだ、楽しければ!機会があればぜひ。 [映画館(邦画)] 8点(2016-04-20 18:29:38) |
92. 晩菊
《ネタバレ》 きん(杉村春子)と田部(上原謙)の関係行く末のみを描写した林芙美子の原作(青空文庫で公開されてますよ~)と違い、この成瀬作品ではきんの昔の花柳界仲間(細川ちか子+望月優子+沢村貞子)の侘しい状況も描かれる。結局はそれぞれが愛する者から縁を切られる/薄くなっていくという孤独化まっしぐらな展開になっていくのだが、不思議と悲壮感を感じなかったのは旧作「稲妻(1952年)」と同じ。つまり杉村には(不安はあれども)情を断ち切って一人で立ち向かう「生命力」を感じるし、細川+望月だって失われたものは多かれど彼女らの「友情」は残っているという希望がある(望月のモンロー・ウォークは凄い)。原作ラストの絶望感(原作の田部=唾棄すべき男ですわこりゃ)と比べて好感度アップだし多少甘いがこの点数。加えて役者。もちろん皆様素晴らしいのですが今回は細川ちか子さんの存在感につきますな。気怠さというか倦怠感というか...確実に「陰のある女」として昔は人気だったのだろうという説得力がある。いゃ〜あ、良い映画見たなぁ。【追記】で、このレビュー上で「DVD化希望」と言ってはや5年。この度「あらくれ」「夜の流れ」と合わせてやっとこさ2021年にDVD化ですよ。この調子! [映画館(邦画)] 9点(2016-04-11 22:54:02) |
93. 離愁(1973)
《ネタバレ》 第二次大戦初期ドイツ軍のフランス侵攻が激化する中、疎開の為汽車に乗り込んだフランス人の修理工とユダヤ人であるドイツ女性との一抹の恋。とにかくラストシーンの素晴らしさにつきる。列車での疎開そして別れから3年後、男はレジスタンスとして捕えられた女との共謀を疑われナチスの秘密警察に呼び出される。彼女を「知っている」と認めたら彼もまた死刑になるのは自明の理だ。秘密警察の係員(ポール・ル・ペルソン=隠れた名演)に知らない旨を伝えたはいいが係員は彼女を呼び出し対面させる事で揺さぶりをかけてきた...。でラストは皆様のご想像通りなのだが、知らぬ存ぜぬが出来なかった男の想いそして彼を守る為に必死に抑えていた感情が崩れ号泣する女、ジャン・ルイ・トランティニアンとロミー・シュナイダーの演技とその心情を表す効果音やカメラワークがベタだけどいいんだよなぁ。「旅愁」「旅情」「哀愁」同じようなタイトルの作品多いけど混同しないように。機会があればぜひ...にもかかわらずDVDはもちろん廃盤。おいおい~。(追記:2016年にTSUTAYAの「隠れた名盤発掘コーナー」シリーズで待望の復刻。機会があれば) [映画館(字幕)] 8点(2015-08-02 17:56:05) |
94. 冬構え<TVM>
《ネタバレ》 山田太一+笠智衆コンビによるNHKドラマ三部作の二本目は、人生の晩年に付きまとう「老いと孤独」に対してどうしたら「冬構え」できるのか考える一本。自死する場所を求め遺書を携え東北を彷徨う老人だが、私が思うにこれは彼にとって死への旅程ではなく「老齢に向き合う=生きてゆく為の活力を再び見いだす」為の確認作業ではなかったか。ふとした事から知り合う寒村の老人(藤原釜足)が呟く「人間生きてることが一番ええって言えと。だけども生きてることが一番だと、そんなことは言えねぇ...」ほんとうそのとおり。ただ絶望の内に終わらせるよりも今日よりも違った景色が見えるかもしれない明日に懸けてみるというのも悪くはないのではないか、そう実感したであろうラストの笠の笑顔に救われる。それにつけても笠智衆+沢村貞子/小澤栄太郎/藤原釜足だよ...今のTVドラマではまったく望めない、「本当の」演技だよねこれ。NHKオンデマンドでも視聴可能なので機会があればぜひ。 [地上波(邦画)] 8点(2015-06-19 16:46:26) |
95. 徳川セックス禁止令 色情大名
《ネタバレ》 将軍家斉に扮した田中小実昌(!?)が側女を見定めているそのファーストシーンから素っ頓狂を画に描いた展開が繰り広げられるのでそこは覚悟していただきたい。(特に太鼓の音と栗鳥の巣の下りは死ぬかと思うぐらい苦笑いが止まらない)本当下種な部類に入る映画だが、私が感動した点は2点。まずは演出・撮影・演技等東映映画製作関係者のプロフェッショナルな取り組みで制作された娯楽作であるという事。それは冒頭における屋外におけるモブシーン撮影や屋敷や城内のセットの造りに見られ感服の至り。また観客の期待をはるかに上回る熱演を見せる各役者陣(サンドラ・ジュリアンもすごいが個人的には名和宏と三原葉子のプロ根性)には胸を打たれるものがある。そしてもう1点は鈴木監督のこの作品に対する想い。ラストシーンで示される「あらゆる生命の根源たる性を支配し管理検閲する事は何人にも許されない~」。日活ロマンポルノ路線に方針転換→警察庁に刑法175条(猥褻物陳列罪)であると摘発を受けたのが1972年(日活ロマンポルノ裁判は73年から)この作品の制作年にあたる/作中の閨房禁止令を『法令第175条』と呼びひたすら連呼している事=一見して馬鹿馬鹿しさてんこ盛りのこの作品に『「表現の自由を侵害する」為政者』をこのバカ殿で示し、糾弾していたのだ。そこにかっこよさを見る。機会があれば、ぜひ?(鈴木監督初心者は「トラック野郎」シリーズから!) [映画館(邦画)] 7点(2015-05-05 15:53:00) |
96. ながらえば<TVM>
《ネタバレ》 こんなに素晴らしいラブストーリーだとは思わなかった。突発的に旅立った主人公の当初の目的は単に病床の妻を案じての心配から来る「見舞い」で、自身の本心には向き合っていなかった。(切符の紛失+電車乗り遅れでお金がないまま一晩を知らない場所で過ごす羽目になる=信念の欠如を暗示しているのが上手い)それがたまたま泊まった宿屋で宿の老婦人に不幸があった事・亡くなった妻との想い出を語る宿の老主人(宇野重吉=名演!)等の後押しもあって「愛してるという想いを伝えたい」という真の目的へと変わるその経緯が自然で、胸打たれてしまう。そしてラスト、病床の妻に向かって背中を向け、泣きながらつぶやく「おまえとおりたい」。一般的に「御前様=好々爺的」イメージしか無かった俳優笠智衆の気骨溢れた男っぷり(寝ている老妻にキスしようとしてる!)に改めて名優だ、と実感させられました。65分という短い時間にこれだけの内容を詰め込んだ、この当時の山田太一の作家性、まったくもって素晴らしい。機会があればぜひ。 [地上波(邦画)] 9点(2015-01-02 19:29:07)(良:1票) |
97. 緋牡丹博徒 花札勝負
《ネタバレ》 70年代東映エンターテイメントの中核を担っていた鈴木則文監督。「トラック野郎」シリーズや東映ピンキー・バイオレンスの諸作品は私にとって青(性)春の良き想い出です。ただ脚本家としての技量も優れたものがありその代表作としてこの一本を挙げさせていただきたい。彼の造形した緋牡丹のお竜=矢野竜子(藤純子)シリーズは正直言うと「主役を女性にした東映任侠映画」それだけのことでB級の域を抜け出せないワンパターン物。ところが名匠加藤泰が監督したこの作品に関してはお得意のローアングルとロングショット+時に挿入されるクロースアップの演出術が冴えわたっていることもさることながら、「ニセお竜」が蔓延っている賭場に本物のお竜が流れ着く、という脚本展開は素晴らしいと思います。これによりお竜自身の「博徒であること=女性であることを封印している」寂しさが強調されニセお竜に足を洗い、女性の幸せを求めるシーン(また~いかんとよという博多弁が良いんですね)+好意を持っている高倉健への抑えた視線に物凄い説得力が加わってしまう、今は亡き新宿昭和館のスクリーンで酔っ払いがお竜さ~んと騒ぐのも完全に理解できる情景。これはB級グルメがミシュランの星を取ってしまったような奇跡の一本でしょう。そしてそんな素晴らしい映画世界を教えてくれた鈴木監督のご冥福をお祈りいたします。 [映画館(邦画)] 9点(2014-05-18 09:44:27)(良:1票) |
98. 下郎の首
《ネタバレ》 日本映画史に名を残す名匠伊藤大輔の佳作として、「王将」(48年)ほどではないが印象深い本作 。とはいえ同年に公開された『同じ槍持ちの下男・ラストの殺陣』を主題とする内田吐夢の「血槍富士」の評価の方が高いし、実際この映画を鑑賞するとそういった世評もむべなるかな、という感はある。純朴な下男を演じる田崎潤が嵯峨三智子演じるお市に惚れられるという展開は説得力に欠け(それこそ片岡千恵蔵ならともかく)、なによりも片山明彦演じる主人新太郎が下男の身柄を敵に引き渡すか否か悩むその心情をいちいちモノローグで説明している、という点は伊藤大輔らしからぬ、キレ味悪い表現として点数は厳しくなってしまう。但私がこの作品をなぜレビュー登録したか=ラスト15分の展開+ヒロイン嵯峨三智子の存在感によるもの。主人に裏切られ(字の読めない訥平に「身柄を引き渡すので好きにしろ」と書いた手紙をもたせ、果し合いの場で敵一団に届けさせる、というのはひどい)絶望した訥平が天に向かって叫び、ボロボロになりながら敵に立ち向かうも相手に何も害を与えることなく、ただなます切りにあって死んでいくその情景に監督伊藤がなぜこの作品をリメイクしたのか・強く訴えたい程の「ほとばしる感情」が見える分、酒蔵で泥まみれになって暴れる千恵蔵よりもインパクトは強い。また果し合いの現場に急行し決闘を諌めるも巻き添えの刃をくらい、訥平の手を取って死んでいくヒロイン。後年伊藤大輔は「薄桜記(58年)」脚本で雷蔵&真城千都世に同様の死に様を見せているがその悲劇度で断然こちらの方が印象深い。加えてこの時19歳の嵯峨三智子の艶っぽさ。着物の襟足から覗く強烈なエロティシズムというのか…とにかくこれは山田五十鈴のDNAですな。脇役(小沢栄・浦部粂子・三井弘次・丹波哲郎)の演技も好印象。 [映画館(邦画)] 7点(2014-04-23 13:52:35) |
99. ゲームの規則
《ネタバレ》 狩猟会における「ゲームの規則」、それは浮世を楽しく忘れる為に偽りの感情を演じきることであり本音が介在することは許されない。そして規則を破った者に降りかかる悲劇。一見するとこの作品は単に「ユーモアが欠落している艶笑劇」なので公開当初フランス本国ではまったく当たらなかった、「楽しい悲劇」を目指した監督にとって最悪の作品となったのも当然とも思う。但現代の視点で鑑賞するといつの世にも変わらない、素晴らしい風刺劇であるというのが私個人の感想。普通こういった階級社会の没落を描いた作品にはその立場に立った人たちへの同情や時代への郷愁といった描き方をする(てか彼の前作「大いなる幻影」などはその雰囲気にあふれていた)のが常だがこの作中の人物に対して描くのは「現実を直視していない愚か者」であり、監督自身が演じたオクターヴに対しても変わらないスタンスで取組み突き放してしまっているのには驚かされる。その上で人として生きる真実=本当の愛・友情を求めることに目覚めた飛行士(この職業設定もつまるところ地に足がついていない、という意図を込めてますよね)が誤射によって射殺された挙句、狩猟会の獲物(ウサギ)の様な軽い扱いをされてしまうという皮肉。1939年の大戦前夜に監督ルノワールが伝えたかったのはそんな時代の流れを直視せずに怠惰な日々を過ごしている人々への警鐘、だったのでしょう。初見の感動がいまだに残っているのでちょっと甘目ですがこの点数。 [ビデオ(字幕)] 10点(2013-12-07 14:24:48) |
100. ご冗談でショ
《ネタバレ》 マルクス兄弟の、世の中の常識や権威主義に対し痛烈な皮肉をもって対応するこのスタイル(植草甚一先生曰く「シュールレアルな喜劇の出発」)、現在の風刺劇やコメディに多大な影響を与えているのは間違いありません。ただ字幕から情報を得なければならない我々にはチコやハーポのボードヴィル芸はともかく、グルーチョの風刺がわかりづらいのが難点。という訳でソフト会社は格安ビデオを販売するだけでなく、ちゃんとした解説書を付け加えてだしましょう。…話がそれました。なんといってもこの作品の白眉は大学教授グルーチョがヒロインと陽光下、アヒル池で舟遊びをしている際に歌う「Everyone Says I Love You」。ウディ・アレンがオマージュとして取り上げるのもむべなるかな、というほどの幸せに満ちてます。ま、最後はヒロインを池に叩き落とした挙句、浮き輪を求める彼女に対してトローチを投げつけるという期待通りの行動を見せつけますが。ボードヴィル時代の作風をそのまま踏襲している「ココナッツ(29)」「けだもの組合(30)」「いんちき商売(31)」と比べ、比較的屋外撮影を多用するようになったこの作品の名声こそが、彼らにとって三弾飛びで言う「ステップ(ジャンプはもちろん「吾輩はカモである(33)」)」的成果を遂げた作品なのでしょう。多少甘目なのですがこのシーンで+1点。 [ビデオ(字幕)] 8点(2013-11-04 15:20:49) |