1081. プロミスト・ランド(2012)
《ネタバレ》 「僕の名前はスティーヴ・バトラー、グローバル社の者です。知っての通り、この町の地下から新たな時代のクリーンエネルギー、シェールガスが発見されました。この事実は、危機に瀕しているこの町に莫大な利益をもたらすことでしょう」――。アメリカ郊外にある地方都市、マッキンリー。長引く不況の影響で閉塞感に満ちていたこの町に、シェールガス発見という朗報が舞い込んでくる。業界大手グローバル社の営業マン、スティーヴはそんな小さな町に土地の買付と住民対策のために乗り込んでくるのだった。大金をちらつかせて順調に住民を説得していく彼だったが、突如として環境保護団体を名乗る男が町に現れる。「俺の故郷はグローバル社の環境汚染のせいで滅茶苦茶にされた!みんな、騙されるな!」。精力的にそう訴える男によって、順風満帆だったスティーヴの活動は窮地に追い込まれてしまう。自らの出世のために、なんとしてでもこの案件を成功させたい彼は躍起になって対策を練るのだったが……。環境保護と経済活性の間で揺れる一地方都市を舞台に、徹底的に資本の論理で動くエリートサラリーマンと環境保護団体の駆け引きをリアルに描いた社会派ドラマ。と、書くと物凄く重たそうな物語を想像してしまいそうだけど、そこはいままで青春映画の良品を幾つも手掛けてきたガス・ヴァン・サント監督。何処までも続くのどかな田園風景や純朴な田舎の住人たちを穏やかな視線で描くことで、非常にノスタルジックな雰囲気に満ちた佳品に仕上がっておりました。数々の賞に輝くベテラン監督だけあって、さすがに巧い。個性豊かな登場人物たち、分かりやすいストーリー展開、詩情豊かな映像と音楽…、もう最後まで安心して観ていられます。最後のあっと驚く展開も「なるほど…」と唸らせておいて観終わったあとに色々と考えさせるところも見事。ただ……、その抜群の安定感がこの作品の魅力となっているかというと僕は逆にあまりにもスタンダードすぎてちょっぴり物足りなさも感じてしまいました。もう少しこの作品ならではという何か新しいものを求めてしまうのは欲張りというものでしょうか?とはいえ、この抜群の安定感はやはりいい。環境保護と経済活動…、そんな難しい問題を考えるきっかけとしても観て損はないだろう。 [DVD(字幕)] 6点(2015-12-17 22:08:43) |
1082. ゲッタウェイ スーパースネーク
《ネタバレ》 ブルガリア、ソフィア。かつて天才レーサーとして名を馳せたものの、その無謀とも言える運転がたたってレース界から追放を余儀なくされた男、マグナ。以来、闇の仕事で食いつないでいた彼だったが、いまは引退し愛する妻とともに幸せな日々を送っていた。だが、そんなある日、マグナがマンションに帰ってみると部屋は荒らされ彼の生甲斐である妻がさらわれていたのだった。直後に鳴り響く彼の携帯。「いいか、よく聞け。突然だが、君の妻を誘拐させてもらった。返してほしければこれから私が指示する駐車場にすぐに向かい、そこに停めてある特別な車を盗め。運転は久々だろうが、妻を救いたければ私の指示に従え。君の妻は実に美しい女性だ。もし通報したり君が警察に捕まったりすれば、彼女は死ぬ」――。謎の男の指示通り、駐車場へと向かうとそこには様々な改造が施されたスーパーカー〝スーパースネーク〟が停めてあったのだった。難なく車を盗み出すことに成功したマグナは、直後に乗り込んできた車の所有者を名乗る生意気な少女とともに、夜の街を疾走してゆく。そう、愛する妻を取り戻すために……。CGはいっさい使わず実際に街で車を暴走させて撮られた、疾走感溢れるカーアクション。全編カーチェイスに次ぐカーチェイス、そしてクラッシュ!クラッシュ!クラッシュ!90分間、もうひたすら車が走りぶっ壊れ続けるだけの、まあ潔いまでのB級エンタメ映でした。けど、確かに凝りに凝りまくったアクションシーンの数々はキレも勢いもあって最後まで楽しく観ることが出来ますね。どこか影のあるワイルドな男を演じさせたら右に出る者の居ないイーサン・ホークも相変わらず格好良いし、同乗者となるお転婆南米娘との凸凹コンビもバッチリ決まっていて素直に楽しかった。うん、90分な~んにも考えずに楽しめるエンタメ映画としては充分水準に達していたと思います。ただ…、ずっと車の中に居る彼らからの視点でしか物語が語られないため、ストーリーが幾分か一本調子なのが本作の弱点。これにたとえば、彼らを追う刑事からの視点などがあれば随分とメリハリの利いた展開になってもっと面白くなりえただろに。それに最後のどんでん返しがすぐには分かり難く、いまいちカタルシスが得られなかったのも残念。と、そこらへんが惜しかったですけど、酒でも飲みながら頭空っぽにして観るべき映画としてはそこそこ面白かったんじゃないでしょうか。うん、6点! [DVD(字幕)] 6点(2015-12-16 12:59:10)(良:1票) |
1083. 美女と野獣(2014)
《ネタバレ》 「美女と野獣」――。それは18世紀フランスで書かれた、異類婚姻譚の古典。暗い森の中にひっそりと佇むうら寂れた城の中には、どんな屈強な人間でも一目その姿を見れば悲鳴をあげて震え上がるだろう恐ろしい野獣が暮らしていた。森の中へと迷い込んだゆく当てのない美女は、そんな恐ろしい野獣とともに暮らし始める。やがて、美女は野獣の秘められた過去を知り、野獣は美女の純粋な心を発見し、2人の間には次第にとある感情が芽生え始めるのだった……。恥ずかしながら、ジャン・コクトーが大昔に製作したモノクロ映画も大ヒットしたディズニーアニメも未見のまま、本作を鑑賞してみました。監督は、かつて『サイレント・ヒル』というストーリーのほうは薄っぺらいB級ホラーそのものだったのだけど、その創り込まれたグロテスクな映像美は目を見張るものがあった作品を撮ったクリストフ・ガンズ。いかにも彼らしく、本作もストーリーのほうは極めて薄っぺらいものでした。あまりよく知らないのですが、『美女と野獣』ってもっとラブ・ストーリーであってしかるべきだと僕は思うのです。そうじゃないとこの全く正反対の美女と野獣という2人に芽生える、お互いの容貌や環境をいっさい越えた〝真実の愛〟というテーマが全く映えないですもん。対して本作、その2人に芽生える真実の愛がかなりおざなりに描かれてしまっているから、クライマックスの展開がまー盛り上がらないことこのうえない。唯一の見所と言ってもいい肝心の映像のほうもいまいち冴えていなかったように思います。『サイレント・ヒル』では、そのあまりにも残酷でグロテスクな映像の中に時折垣間見えるほのかな抒情性がときに芸術的ですらあったのに、監督のあのころのセンスは何処に行ったのやら。思うに、この監督はこのような男女の繊細な心を描くラブ・ストーリーには向いてないんじゃないでしょうか。もうここは潔く開き直って、次は完全にグロテスクなゴシック・ホラー作品で勝負してもらいたいものです。そしたらきっと人々の度肝を抜くような傑作をいつかもの出来るのじゃないかと僕は期待していますんで。というわけで誰か、クリストフさんに僕がそう言ってたと伝えといてください(笑)。 [DVD(字幕)] 5点(2015-12-09 09:51:56) |
1084. ファーナス/訣別の朝
《ネタバレ》 製鉄所で働けだって?馬鹿らしい、はっきり言ってやるよ、兄貴、製鉄所なんてクソだ。確かに俺たちの親父もずっと製鉄所で働いていたよ。でも、そんな製鉄所が親父を殺したんだ。生きるための立派な仕事だって?じゃあ、俺が派遣されたイラクでの戦いも立派な仕事だって言うのか、兄貴。俺はこんなクソみたいなところから一刻も早く抜け出したいんだ――。製鉄所や町工場が建ち並ぶアメリカのとある地方都市。長年にわたりそこの鉄工所で働いてきたラッセルは、愛する彼女と年老いた父親とともにささやかながらも充実した日々を過ごしていた。ところがある日、彼は飲酒運転中に事故を起こし、相手の女性を死なせてしまうのだった。当然のように刑務所暮らしを余儀なくされるラッセル。もちろん仕事も同棲していた彼女も失ってしまった。そんな彼をずっと支えてくれたのは、海兵隊としてイラクへと派遣されていた弟のロドニーだった。数年後、ようやく釈放された彼は弟のロドニーとともに新たな生活を営もうと決意するのだったが、イラクで心に深い傷を負った弟は一攫千金を求めて次第に闇ボクシングの世界へとのめり込んでいく…。貧困の連鎖に喘ぐアメリカの寂れた一地方都市を舞台に、どん底を這いずり回るような困窮した日々を送るそんな2人の兄弟を描いたヒューマン・ドラマ。クリスチャン・ベイルやウディ・ハレルソン、ウィレム・デフォーといった何気に豪華な役者陣競演に惹かれて今回鑑賞してみました。冒頭から薄暗い何処にも晴れ間なんてなさそうな鉄工所の映像から始まり、登場する人物たちも誰も未来なんてなさそうな鬱屈した人間ばかり、酒を飲んでは下品な冗談を交わし、賭け事や麻薬に溺れていく…。そして、ただ幸せになりたかっただけなのに、次第に心を擦れ違っていく兄弟に忍び寄る闇社会の住人たち。と、見れば見るほど気が滅入るような暗いお話なのですが、アメリカの地方都市が抱えるリアルな現実を冷徹に見つめ続けるこの監督の視線は鋭い。実力派の役者陣も静かな熱演でもってそんな監督の要求に応えていて、重厚な人間ドラマとして充分見応えのある作品に仕上がっていたと思います。ただ、脚本のところどころに細かな破綻があるのが惜しい。特に、ウディ・ハレルソン(いかにもいやらしいマフィアのボスを演じた彼の熱演も見事でした)が森の中でどうしてあんな行動にはしったのか、そこにいまいち説得力が感じられなかったのが残念でした。最後にお店に現れる彼ももっと用心棒を引き連れていてしかるべきでしょう。と、細かな部分に爪の甘さが目立つものの、この全編を覆う重厚な雰囲気はなかなかのもの。この監督の次回作も期待して待ちたいと思います。 [DVD(字幕)] 6点(2015-12-07 13:55:02)(良:1票) |
1085. 記憶探偵と鍵のかかった少女
《ネタバレ》 記憶探偵――。それは他人の記憶の中に入り込み、その人にしか知り得ない無意識下の真実を探り出すことによって、世の中に溢れる様々な難事件を解決へと導き出す特殊な職業だ。業界最大手の一流企業、マインドスケープ社に所属するジョンもそんな記憶探偵の一人。ところが2年前に妻を亡くしたショックから、彼は長いスランプに陥っていた。このままでは妻の思い出が沢山詰まった家まで売り払わないと明日にも破産してしまう。ジョンは上司に掛け合って、記憶探偵としての仕事を何とか廻してもらうのだった。「大富豪の一人娘がもう1週間も飯を喰ってない。きっと過去のトラウマが原因だ。ジョン、どうだ?簡単な仕事だろう。すぐに向かってくれ」。藁にも縋る思いですぐにその大富豪の邸宅へと向かうジョン。そこには謎めいた言動を繰り返す16歳の美しい少女、アナが待っていたのだった。彼女のトラウマの原因を探るため、ジョンはすぐさま彼女の記憶の中へと潜り込んでいくのだったが……。他人の記憶の中に自在に入ることが出来る特殊な能力を持った探偵が彷徨い込んだ、そんな一人の少女の深層意識という名の迷宮を濃厚に描き出すダーク・ミステリー。クリストファー・ノーランが生んだ傑作『インセプション』が公開されてから、こういう人の深層意識の中へと潜り込んでいく系の作品がやたらと流行ってますね~。でも、その多くは『インセプション』とは比べるべくもない駄作ばかり。本作もその例に漏れず、『インセプション』のような世界観を頑張って構築しようとして(主人公の妻が記憶の世界に留まり続けて鬱状態から自死へといたったという設定なんて、そのまんまですやん笑)、見事なまでにお話が破綻しちゃってます。クライマックスで種明かしされる事件の真相も「いやいやそんな馬鹿な」と呆れるようなもので、僕は思わず失笑しちゃいました。ラストのハッピーエンドなんて、無理やり捻り出した感が半端ない。そして、こういう作品の一番の肝となるのはやはり主人公が彷徨い込む精神世界をいかにセンスよく映像化しうるかどうか。確かに、監督がゴシック趣味全開の少女ワールドを濃密に描き出そうと頑張っているのは分かるのだけど、うーん、残念ながら僕はそんなにセンスを感じませんでした。こういうのを観るといかにクリストファー・ノーランが天才かがよく分かりますね。記憶の中に入り込まれるアナという少女を演じた子がなかなかの美少女で、そんな彼女が太ももムチムチのホットパンツ姿を惜しげもなく披露してくれたことを考慮して+1点しときます。 [DVD(字幕)] 5点(2015-12-04 19:05:08) |
1086. LEGO ムービー
《ネタバレ》 「レゴブロック」――。それは、かつて子供時代に誰もが一度は手にし、そして想像の赴くままに何かを作った(あるいは作ろうと試みた)ことがあるだろう知育玩具。本作は、そんな懐かしいレゴブロックでもって構築された世界で繰り広げられる、自由と個性をテーマにした波乱万丈の冒険活劇だ。確かに最新鋭のCG技術を駆使して描かれた、あたかもレゴブロックを一つ一つ気の遠くなるほどの時間を費やして築き上げたかのような美麗な映像は目を見張るものがある。後半、様々な〝もの〟が築き上げられては容赦なくぶっ壊されていくレゴブロック――もう本当に小さくてカラフルなレゴブロックが画面狭しと飛び散りまくるさまは圧巻!――など、かつてレゴで遊んだことのある人間にとっては見てるだけで心がわくわくすること間違いなしだろう。そういったわけで映像のクオリティの高さは文句なしの一級品だった。ただ…、このあまりにもごちゃごちゃしてて勢いだけで突き進んでいくストーリーのほうは、僕としてはいまいち受け入れられないものだった。観ている間は勢いにやられてそれなりに楽しめるのだが、終わって冷静になって考えてみると「普段は地味で目立たない君のような人間でも、考え方次第でヒーローになれる!だからみんなで頑張ろう!」というこの押し付けがましい説教臭さみたいなものに若干辟易。いよいよ盛り上がってきたクライマックスで唐突に明かされる〝外の世界〟というメタ設定もいまいち成功していない印象を受けてしまった。そう言ったわけで、ストーリー的には難ありだが映像を楽しむ分には第一級の娯楽作!というのが、本作に対する僕の率直な感想だ。 [DVD(字幕)] 6点(2015-12-01 21:23:07) |
1087. ドラキュラZERO
《ネタバレ》 時は中世、ヨーロッパの辺境に位置する小国トランシルヴァニア。かつて串刺し公と呼ばれ敵であるオスマン帝国を震え上がらせたヴラド公が治めるこの地に再び、帝国の魔の手が迫っていた。いまや穏やかな君主となったヴラド公に、皇帝の使いは、侵略されたくなければ千人の少年を差し出せと要求する。それが嫌なら息子である王子を人質として差し出せとまで言うのだった。民衆のために苦渋の決断をした君主は、息子を引き渡すため交渉の場へと向かうことに。たが、息子を深く愛するヴラド公はぎりぎりのところで剣を手に取り、帝国に反旗を翻すのだった。このままでは民衆はおろか愛する妻と息子の命も危ない――。ヴラド公は、山の洞窟の漆黒の闇の中で何百年も前から身代わりを待ち続けていた伝説の魔物の元へと向かうのだった。恐ろしい闇の力を手に入れ、帝国の魔の手から愛するものを救うために……。誰もが知る暗黒の貴公子ドラキュラ、もはや伝説と化している彼がまだ人間だった時代を最新のCG技術を駆使して描く、漆黒のダークホラー・アクション。これまでに小説や映画で何度も何度もそれこそ新しいものはもはや何も残ってないのじゃないかというくらい、何度も取り上げられてきた〝吸血鬼ドラキュラ〟を再び映画化したという本作。さぞかし新しいアイデアや工夫を凝らした見せ方があるんだろうなと今回鑑賞。ところがその内容は、びっくりするぐらい極めてオーソドックスなドラキュラものでいささかビックリしちゃいました。新しいところと言えば、彼が人間だった時代を描いたところだろうけど、それも洞窟での魔物との最初の遣り取りを見て「ああ、きっと主人公は愛する人のためにこの魔物との契約を破り、人間の血を飲んでドラキュラになるんでしょーなぁ。でもさすがにそんなベタベタな展開は恥ずかしくてないよね」とか思ってたら、ものの見事にそんなベタベタな恥ずかしい展開に(笑)。とはいえ、お話の方は最後までテンポもよく、CGを多用したアクションシーンの数々も――暗すぎて若干見難かったとはいえそこそこ迫力あったし、適度な暇潰しとしてはぼちぼち楽しめると思います!6点! [DVD(字幕)] 6点(2015-11-27 22:20:24) |
1088. ジャージー・ボーイズ
《ネタバレ》 1950年代から60年代にかけて、全米ヒットチャートを彗星のごとく駆け抜けた4人組のポップコーラスグループ、“フォー・シーズンズ”。もはやハリウッドの生ける伝説と言ってもいいクリント・イーストウッド監督が新たな代表作ともいえる重厚な政治ドラマ『アメリカン・スナイパー』の前に撮ったという本作は、それとは全く正反対の煌びやかな芸能界で夢をかなえる彼らの姿をゴージャスに描いた青春群像でした。そんな実在したスーパースターの栄光と挫折を赤裸々に見つめたもうびっくりするくらい王道のオーソドックスな伝記映画なのですが、これがイーストウッドのフィルモグラフィの中に収めてみると逆に異色作となるのが面白いですね。『ミスティック・リバー』や『ミリオン・ダラー・ベイビー』といった現実の理不尽さや人間の愚かさを極めて冷徹に見つめてきた老映画監督がいまさらこんなシンプルな青春映画を撮ったということにまずはびっくりです。さて、肝心の内容なのですが、この手の作品は主人公であるアーティストたちにいかに興味を持てるかが重要になると思うのですが、正直に言って僕はこの“フォー・シーズンズ”というグループにほとんど思い入れもないうえに、その全編にわたって使われた彼らの楽曲の数々もいまいちピンとこず、残念ながら僕はそこまで作品世界に入り込むことが出来なかったです。確かに面白いとは思うんですよ。登場人物たちが要所要所でカメラ目線になり観客へと語りかけるという映画では〝禁じ手〟とも言うべき手法を使っているのにそれがアクセントとして小気味よく効いてるところだとか、最後に登場人物たちが全員集まって歌い踊るミュージカル風の気の利いたエンドロールだとか、長年のキャリアに裏打ちされただろうもはや余裕さえ感じさせるその演出手法の数々なんて「さすがだなぁ」と素直に認めるのだけど、僕としてはちょっと物足りなかったです。それは何なのかと自分なりに考えてみたのですが、やっぱりビートルズ出現以前の音楽シーンってこういう誰かに惚れたフラれたというまあ見事なまでに軽い世界をみんなして歌い続けていたのですね。なんだか僕はこのいかにも作られた軽薄な歌の数々にどうにも馴染めなくて、そこが僕が本作にいまいちのめり込めなかった原因のようです。でも、これはもう完全に好みの問題。老境に差し掛かり、イーストウッドもこういう「昔は良かった」的なノスタルジックな作品も撮ってみたくなったのでしょう。フォー・シーズンズのファンはもちろん、あのころのかつてよき華やかな50年代を懐かしみたいという人にはたまらん作品に仕上がっていたと思います。 [DVD(字幕)] 6点(2015-11-24 22:37:35)(良:1票) |
1089. ケープタウン(2013)
《ネタバレ》 2013年、南アフリカ。いまだアパルトヘイトの影響が色濃く残る首都ケープタウンで警部をしているアリは、この国の先住民族である誇り高きズールー族だ。温厚で知性的な紳士であるそんなアリの相棒は、彼とは全く正反対の酒と女にだらしない自堕落なバツ一男、ブライアン。人間としては全く褒められたものではないブライアンだったが、刑事としての腕は一流だとアリは全幅の信頼を置いている。ある日、そんな彼らの管轄で、一人の少女が無残な惨殺死体となって発見されるのだった。すぐに捜査を開始したアリたちだったが、容疑者と思しき男を捜してバラックが立ち並ぶスラム街へと乗り込んだとき、そこにはとてもチンピラとは思えない重装備したギャングたちが待ち構えていたのだった……。一人の少女の殺人事件をきっかけにして炙り出される謎の麻薬を巡る闇社会の抗争、本作は南アフリカにいまだ残るそんな人種差別という名の闇へと立ち向かう全く正反対の2人の刑事の活躍をスタイリッシュに描いたクライム・アクションだ。胸に静かな怒りを秘めた寡黙な中年刑事を演じるのはフォレスト・ウィッテカー、私生活は酒と女で無茶苦茶だが犯罪を憎む情熱だけは誰にも負けない若手刑事にはオーランド・ブルーム。まあベタな組み合わせではあるけれど、殺人レイプ強盗など何でもありの極めて治安の悪いケープタウンという街を舞台にしたこともあって、なかなか緊迫感に満ちた作品に仕上がっていたと思います。特に、柄の悪い黒人たちが大量にうろつくスラム街へと主人公たちが乗り込むシーンなんて、一歩先に何が起こるか分からないから観ていて素直にハラハラドキドキ。南アフリカにいまだ影を落とす人種差別という社会問題の扱い方も、これ以上踏み越えるとテーマとして重くなる一歩手前で絶妙に抑えられていて、僕はエンタメ映画として最後まで面白く観ることが出来ました。ただ…、終盤で明かされる事件の真相がさすがにちょっと無理があったのが惜しい。アリの母親の扱いも、あのクライマックスへと向かわせるために無理やり紡ぎ出した感があってそこら辺もちょっと残念でした。結論。なかなかよく出来たクライム・アクションとして普通に面白かったですけど、あと一歩他の作品とは一線を画す新しい何かが欲しかった。6点。 [DVD(字幕)] 6点(2015-11-23 14:04:45)(良:1票) |
1090. チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密
《ネタバレ》 チャーリー・モルデカイという男、彼自身が業界の暗部だ――。詐欺やペテンなどなんのその、大好きな美術品を手に入れるためならどんなことでもするインチキ美術品の闇ブローカーで、胡散臭いチョビ髭を蓄えた謎の紳士、その名もチャーリー・モルデカイ。自分に忠実な召使いを従え、チャーリーは業界の裏側で飄々と渡り歩いていた。ところが最近は運にも見放され、借金がかさみ破産寸前、愛する妻からも酷い扱いを受けている。そんな中、幼馴染みの警部から彼はとある依頼を受けるのだった。それは美術修復師のもとから盗まれたゴヤの名画を取り戻してくれというもの。大金の匂いを嗅ぎつけたチャーリーは、召使いとともに調査に乗り出すのだったが……。ジョニー・デップをはじめ豪華俳優陣競演で贈るのは、アート業界の裏側で繰り広げられるそんなドタバタを軽妙に描いたスラップスティックなコメディ作品でした。きっとこの監督はデビュー当時のガイ・リッチーみたいな世界をやりたかったのでしょうね(飛行機で世界を行ったり来たりするくだりなんて、まんま『スナッチ』ですもん)。まあやりたいことは分かるのだけど、全体的にスベリ倒していたのが残念でした。散りばめられたネタの数々がちっとも笑えないうえに中途半端に下品なのがもう致命傷。もっと下品にとことん無茶苦茶にはじけてもらった方が良かったと思う。とはいえ、後半ゴヤの名画を巡って様々な組織や人物たちの思惑が入り乱れながらドタバタとオークション会場へと雪崩れ込んでゆくだりは、けっこうテンポも良くてそこそこ楽しめました。モルデカイと女好きの召使いとの遣り取りもぼちぼち面白かったしね。というわけで監督、次はもっと頑張ろう、5点! [DVD(字幕)] 5点(2015-11-18 13:13:05) |
1091. 猿の惑星:新世紀(ライジング)
《ネタバレ》 いまや伝説と化しているディストピアSF映画『猿の惑星』シリーズのその前日譚として製作された前作。とあるウィルスの蔓延によって知能が異常に発達し、それまで当然のように支配してきた人類に反旗を翻した猿たちの闘いを描き、これが詰めの甘い部分が目立ったものの、徐々に拡がっていく猿たちと人間との戦いをサスペンスフルに描いていて、緊迫感溢れるエンタメ映画として僕はけっこう楽しめたんですよ。なので、その後の滅亡の危機にまで追い込まれてしまった瀬戸際の人類と地球の新たな支配者として台頭しはじめた猿たちとの種の存亡を懸けた戦いを壮大に描いた続編として僕はけっこう期待しながらこの度鑑賞いたしました。結果は……、なんですのん、このスケールのちっちゃなお話は(笑)。猿と人間の地球規模の壮大な戦いどころか、けっこう狭い森の中で人間と猿の小規模なコミュニティ同士のダムを稼動させるか否かみたいなこじんまりとした戦いだけで終わっちゃ駄目でしょ。続編なんだから最低限前作のスケールは超えていってくれないと。それに脚本もテキトー過ぎ!人間と猿たちの戦いを描きたいのか、猿のコミュニティでの内部抗争を描きたいのか、軸がブレブレでストーリーがさっぱり盛り上がらない。ダムを稼動させたいという主人公のおっさんも猿の味方なのか人間の味方なのかいまいちよく分かんないから全く感情移入できません。あと、武器庫の門番をしてた人間の2人組、敵の猿が近づいてきたのに、「なかなか愉快な猿だぜ」と意気投合し一緒に酒飲んじゃうとか、普通にアホ過ぎっしょ(笑)。そのすぐ後に、やっぱり武器を奪われちゃって殺されちゃうとかどんなけ緊張感ないね~ん!!そういうテキトーなところばかりがやけに目について、僕はまっっったく楽しめなかったです。前作が良かっただけに残念!! [DVD(字幕)] 3点(2015-11-17 21:12:33) |
1092. 誰よりも狙われた男
《ネタバレ》 ドイツ、ハンブルク。2001年、911の実行犯がこの港湾都市で計画を練って以降、それを察知できなかった現地の情報機関は躍起になってテロ対策を加速させていた。そんな国際都市にある日、ロシア当局に拷問を受けた過去があるチェチェン人青年イッサが入国してくる。そのことを察知したテロ対策諜報員バッハマンは、彼が大手銀行員と接触したがっていることを知り、全容を解明しようと彼をしばらく泳がせることを決断する。だが、バッハマンの思惑など意に関せず、国の上部機関、警察、現地のイスラムネットワーク、さらにはアメリカのCIAまでが絡んでき、事態はさらに複雑な様相を呈していくのだった。そんな折、イッサを支援していた女性弁護士の手筈で彼がドイツの街中で失踪してしまう……。名優フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作となったのは、ドイツの国際都市を舞台にテロ対策の最前線をリアルに描いたスパイ・サスペンスでした。スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を映画化しただけあって、この全編に漲る息を呑むような緊迫感はなかなか凄かった。派手なアクションやスキャンダラスな設定で観客を煽るのではなく、あくまでもリアルで地味なストーリーなのに最後まで見せきる本作のスタッフたちの手腕は大したもの。そんな無差別テロという悪魔の所業を阻止するために誰も知らないところで彼らのような人が日夜、神経を磨り減らすような情報戦を繰り広げているのかと思うと本当に頭が下がる思いです。特に、何処にでも居るサラリーマンのようないでたちでありながら、それでも時折その隠し切れない狂気性を垣間見せるF・S・ホフマンの熱演は見事でした。権謀術数渦巻くテロ対策という問題の難しさに翻弄され、自分の無力さを思い知らされた彼の魂の咆哮とでも言うべき最後の雄叫びは胸の奥深くに突き刺さってくるようでした。つくづく惜しい人を失くしたと残念でなりません。奇しくも昨日(2015/11/14)、フランスのパリでイスラム国と見られる組織によって大規模なテロが発生してしまいました。あらためて、本作のラストに漂う無力感に胸が引き裂かれる思いです。本作の主人公バッハマンのような人たちがそれでもテロという悪魔の所業に決して負けず闘い続けてほしいと、今回のテロで亡くなった人々のためにそう願わずにはいられません。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-15 22:00:09) |
1093. イントゥ・ザ・ストーム
《ネタバレ》 のどかな田園風景が拡がるアメリカのとある田舎町。気のいい純朴な人たちがのんびりと暮らすそんな平凡な田舎町だったが、最近は地球温暖化の影響か、以前では考えられないほどの強大な竜巻が何度も発生するようになっていた。いつ何時強大な竜巻が発生するか分からないこの町にその日、様々な思惑を抱えた人々が乗り込んでくる。竜巻を追う女性気象学者、大金を得るため竜巻の映像を撮ろうと目論むフリーのカメラマン、卒業式を目前に控えた高校生の兄弟、彼らの父親で生徒の規律をもっとも重んじる教頭、そして何も考えずにただ目立ちたいという理由だけでユーチューブに画像をアップする馬鹿二人組――。史上最大規模にまで膨れ上がった竜巻によって彼らの平凡な生活は無残にも破壊の限りを尽くされるのだった……。最新のCG技術を駆使して描かれる本作は、そんな王道のパニック・アクションでした。もうそのストーリーを聞いただけで内容のほぼ大半は予想できる典型的なB級作品なのですが、こういう頭空っぽにして最後まで安心して観ていられるエンタメ映画もけっこう嫌いじゃないんで、今回ビデオ屋さんでレンタルしてきました。とまあ、ほとんど期待せずに観始めたのが功を奏したのか、けっこう面白かったです、これ。カメラマンが撮った映像や携帯の動画撮影、監視カメラの映像等々、POV手法を要所要所に差し挟む演出が抜群に利いていて、造り込まれた迫力のCG映像も相俟って、なかなか緊迫感溢れる展開に最後までけっこう釘付け。「すぐそこまで竜巻が迫ってきてるぞ!お前ら、早く逃げろー!」と思わず町の住民になったかのように胸の中で叫んじゃってましたし。所々、「これって完全に『ツイスター』のパク…、オマージュやん!」ってシーンがあるのはご愛嬌(笑)。親子の確執や人のために働く気象学者と大金を得たいだけのカメラマンとの対立など、人間ドラマとしてもそこそこよく出来ています(まあ、超ベタですけどね)。というわけで、完全なるB級エンタメ映画として僕は最後まで面白く観ることが出来ました。うん、7点! [DVD(字幕)] 7点(2015-11-09 13:50:36) |
1094. サード・パーソン
《ネタバレ》 パリ、ニューヨーク、ローマ。時代の先端をゆくそんな人種の坩堝のような3つの国際都市には、今日も様々な事情を抱えた男女が集い出会いと別れを繰り返してゆく。ある男女には新たな愛が芽生え、またある男女は疑念と嫉妬によって心をぼろぼろにされ、そしてまたある男女は辛い別れを経験してゆく……。本作は、そんな3つの国際都市を自在に行き交いながら、そこに生きる様々な男女の出会いと別れを静謐な雰囲気の中に描き出してゆく群像劇。自分の不注意から最愛の子供を失ってしまった作家は若い女性との不倫に溺れ、ストレスから自らの子供を虐待してしまった母親は引き離された息子との面会を果たすため必死になって生活を立て直そうとし、街のカフェで移民の女性と偶然知り合った男は彼女の奪われた子供を取り戻そうと金策に駆けずり回る。一見無関係に見えるそんな3つのストーリーが、物語の進行とともにまるで縺れた糸のように絡み合い複雑に交錯していく――。同じく群像劇の秀作『クラッシュ』でアカデミー賞の栄誉に輝くポール・ハギス監督の最新作は、そんないかにも彼らしいミステリアスで魅惑的なヒューマン・ドラマだった。登場人物の数も多く、各々のストーリーもかなり複雑なのに、この監督の演出力は相変わらず冴えわたっている。極めて分かりやすいストーリーテリング、それぞれに個性豊かな登場人物たち、詩的で美しく時には官能的ですらある映像、そして観る者を深い迷宮へと誘うように魅惑する壮麗な音楽……。挙げていけばきりがないほど、画面の端々にまで才気が漲っている。親子間であれ男女であれ深く愛するがゆえに憎み傷つき、それでも愛されることを求めてもがき苦しみながらも必死になって生きていこうとする主人公たちに最後まで釘付けだった。特に、ミラ・クニス演じる若いシングル・マザーが直面する苦悩には深く胸打たれた(ホテルの一室で他人の幸せの象徴である白い百合の花を無茶苦茶にするシーンは、最近観た中では息を呑むほど印象的で美しいものだった)。ただ、ほとんど謎を残したままで終わる本作のラストはやはり賛否の分かれるところだろう。こういうメタ・フィクション構造は夢オチと同じでよほど丁寧に扱わないと何でもアリとなってしまうので、多くの場合観客を興醒めさせてしまうもの。本作もその例に漏れず、やっぱりそんな〝興醒め〟感から逃れられていない。こんな奇を衒った構造などせず、直球の群像劇として終わらせていれば『クラッシュ』を超える傑作になりえたかも知れないと思うと、つくづく惜しいと言わざるを得ない。とはいえ、静謐な空気に満ちた上質のヒューマンドラマとして最後まで惹き込まれたことは確か。充分鑑賞に耐えうる良質の作品と言っていいだろう。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-08 19:05:13) |
1095. インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
《ネタバレ》 1961年、ニューヨーク。売れない若手歌手ばかりが集うカフェで夜な夜なフォークギター片手にステージで歌う男、その名もルーウィン・デイヴィス。いずれ有名になることを夢見ていた彼だったが、コンビを組んでいた相棒を自殺でなくしてからは酒と女に溺れる鬱屈した日々を過ごしている。そんなある日、彼はひょんなことから知り合いの大学教授の猫を預かることになる。とはいえ彼はその日泊まる家すらままならないどん詰まりの毎日だ。一日だけでも泊めてもらおうと友達夫婦の家に向かうルーウィン。だが、応対に出た奥さんは彼のことを見るとかんかんに怒りだしてしまうのだった。「私、妊娠したみたいなの!きっとあなたの子よ!」――。そう告げる彼女の言葉に心当たりのあるルーウィンは、ちゃんと中絶費用を払うと約束するのだが、どう捻出したらいいかすら分からない。音楽活動も一向に芽が出ず、友達とも喧嘩ばかり、さらには預かっていた大切な猫さえ逃げ出してしまい……。そんなどん底を這いずり回るような日々を過ごす彼の人生に、果たして光は差すのか?いまや重鎮の風格さえ漂うコーエン兄弟の新作は、そんな愛すべき駄目男のどうしようもないトホホな日々を描いた佳品でありました。彼らの相変わらず冴えに冴えわたった演出はもはや抜群の安定感。女にも金にも酒にもだらしないどうしようもない駄目男の日常に、コーエン兄弟お得意のユーモアとペーソスが絶妙なバランス感覚で配合されていて観ていて大変微笑ましかったです(実際に知り合いにこんなヤツがいたら迷惑千万なんですけどね!笑)。もうやることなすことことごとくが裏目裏目に出てどんどんと不幸になっていくのですが、そのほとんどがまぁこのルーウィン・デイヴィスというアホ男の自業自得なので全然同情しなくて済むという設定が秀逸。特に、ジョン・グットマン演じる超胡散臭い男とのロードムービー的展開になるトコなんてあまりにも馬鹿馬鹿しすぎて何度も笑っちゃいました。そんな徹底的に駄目な男なのに、それでも音楽に対する情熱と自殺した元相棒に対する友情だけは決して失わないところがなんとも魅力的。僕は最後まで彼に好感を持って観ることが出来ました。「君は確かに巧い。音楽に対する情熱も素晴らしい。ただ、君の音楽には心に響くものがまるでない」。劇場のオーナーにそうとどめの一言を言われてしまった彼の人生に、それでもこれから先ほんの少しでも光が灯ることを願ってやみません。自分にとってはつらい毎日でも、客観的に見れば面白い人生なのかもしれない。そう思わせてくれる佳品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2015-11-06 22:52:09) |
1096. アイ・フランケンシュタイン
《ネタバレ》 1795年、冬、俺は命を与えられた。俺は魂のない生きる屍。8体の死体を繋ぎ合わされ、電気ショックによりこの世に甦ったのだ。俺を生み出したのは、ヴィクター・フランケンシュタイン博士。そう、俺は神をも畏れぬ狂った科学者によって創られた、孤独なモンスターだ――。時は流れ現代、フランケンシュタイン博士によって生み出されたそんな魂なき稀代のモンスターは、辺境の地で年老いることなくずっと孤独な日々を過ごしてきた。200年にわたってそんな平穏な日々を過ごしてきたある日、長年彼のことを捜し求めていた悪魔の手先が現れる。難なく悪魔たちを撃退した“モンスター”は、真相を探るために久し振りに街へとやってくる。すっかり様変わりした人間の暮らしに戸惑いながらも、彼はそんな人間に知られることなく夜の闇の中でずっと戦い続けてきた天使と悪魔の壮大な争いに巻き込まれていくのだった……。こういう頭空っぽにして観るべき、B級ゴシックホラーアクションってたまに観る分にはけっこう好きなんですよ、僕。なんで、「なんか面白い映画ないかなぁ」とビデオ屋さんでうろちょろしていたら、本作のパッケージが目について今回レンタルしてきました。感想は…、「は、ははは……(苦笑)」。さすがにこれ、いくらなんでもストーリーがしっちゃかめっちゃか過ぎるっしょ!!頭空っぽにして観るべき超王道B級アクションとはいえ、ストーリーに突っ込みどころが多過ぎて、ちょっと僕は乗り切れませんでしたわ。本作の脚本家は、どうして主人公フランケンシュタインと天使(ガーゴイル)と悪魔という三つ巴の戦いにしたんでしょう。そうやって設定を複雑にしちゃったから、話が破綻しまくりでもう目も当てられない。単純にこのフランケンシュタイン対悪魔(もしくは主人公と天使が仲間になって、悪魔と戦うとか)にしといたら、勧善懲悪エンタメ映画としてすんなりと楽しめる作品になりえただろうにね。うーん、残念!ただ、最後までストレスなく観られたのとCGを駆使したアクションシーンはなかなか迫力あったので5点あげとこう。 [DVD(字幕)] 5点(2015-11-02 00:47:54) |
1097. シン・シティ 復讐の女神
《ネタバレ》 罪の街、シン・シティ――。そこに集うクズどもの悪と悲哀に満ちた生き様を、これまでにない斬新な映像で魅せたバイオレンス・ノワールの待望の続編。そのあまりにも漫画チックで荒唐無稽なストーリーに賛否両論分かれた前作ですが、僕はあの他の追随を許さない独創的な世界観がけっこう気に入っていたので、本作も期待して今回鑑賞してみました。うーん……、期待が高すぎたのか、あらゆる意味で前作よりスケールダウンしちゃった感が否めなかったですね、これ。確かに映画としてある一定の水準に達してはいるのですが、前作での冴えに冴えまくっていたサイコーにかっちょ良い演出が今回は少々おとなしめ。こういうあまりにも馬鹿馬鹿しい荒唐無稽なお話は、もっともっと極限まではじけてもらわないとやっぱり観ていてちと辛い。エヴァ・グリーン演じる超絶悪女――そういえば彼女、同じくフランク・ミュラー原作の「300」の続編でも同じような超ドSな悪女を演じてましたね。うん、何度見ても良いおっぱいだ(笑)――は確かに魅力的だったのだけど、そんな彼女に翻弄されるジョシュ・ブローリンがあまりにもアホ過ぎてちっとも魅力が感じられなかったのも残念。とはいえ、猥雑な熱気に満ちた、この唯一無二の独創的な世界観は個人的に好みなので、ちょっぴりおまけして6点あげとこう。 [DVD(字幕)] 6点(2015-11-01 00:48:52) |
1098. グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札
《ネタバレ》 王族との結婚を夢見る人々は、その本当の意味を分かっていない――。ハリウッドで名実ともにトップクラスの人気を誇っていた名女優、グレース・ケリー。モナコ公国の王子と恋に落ちた彼女は、多くのファンから惜しまれつつも引退し、伝統と外聞をもっとも重んじる王族の一員となったのだった。本作は、そんな煌びやかな女優の世界から権謀術数渦巻く政治の世界へと身を投じた彼女の苦難に満ちた半生を描いた伝記映画だ。というわけで、グレース・ケリーというもはや伝説と化した人気女優役をこれまた現代ハリウッドでトップクラスの地位にいる二コール・キッドマンが演じたということもあり、なかなか興味深いものを感じてこの度鑑賞してみました。観想は……、いやー、これがもう見事なまでに底の浅ーーい凡作でありました。駄目な伝記映画の典型的な例が見事なまでに揃っていて、もう目も当てられません。駄目な点①史実として起こったことをただ時系列順に並べただけで映画として観客に伝えたいテーマがまったく絞られていない。グレース・ケリーという一人の女性の人生とはいったいなんであったのか。優れた伝記映画は、彼女の人生の本当の意義を観客に分かりやすく伝えるための明確なテーマが強固としてあるのだけど、本作にはそれがいっさいありませんでした。これじゃ事実を再現しただけの映像を単に羅列しただけに過ぎません。駄目な点②主人公の人生の転機となる重大な選択に説得力がいっさいない。本作でいえば、グレースがヒッチコックの新作映画への主演を諦め公妃としてそして母としてモナコに仕えることを決意するシーンがそれにあたるのですが、それがほとんど葛藤もないままにあっさり心変わりするものだから観客としては「え、そんな簡単に決めちゃうん?」と興醒めすること半端ない。駄目な点③物語のクライマックスとなる主人公の最後の演説の言葉がまったく心に響かない。彼女の苦悩がほとんど描かれていないのに、結論が「愛が私を強くしたのです!」って…。思わずずっこけそうになっちゃいました(笑)。という訳で、どこからどう見ても完全に凡作です。お年を召しても相変わらずお美しいニコール・キッドマンの美貌に免じて+1点。 [DVD(字幕)] 4点(2015-10-31 20:47:54) |
1099. チョコレートドーナツ
《ネタバレ》 「そうよ、あの子を引き取りたいの。もちろん簡単じゃないことは分かってる。だからといって放り出せと言うの?麻薬依存の母親も自分が他の子と違うこともあの子が望んだわけじゃない。なぜ、あの子がこれ以上苦しまなきゃならないの、何も悪くないのに」――。1979年、カリフォルニア。場末のゲイバーでダンサーをしているルディと地方検事局で検事をしているポールは、ほとんど一目惚れに近い形で恋に落ちたゲイカップル。今月の家賃の支払いすらままならないルディは、ある日、隣で麻薬依存の母親とともに困窮した生活を送る一人の少年と出会う。彼の名はマルコ。ダウン症で知的障碍もある特別な男の子だ。だが、自堕落な母親は彼のことをほったらかしにして、夜な夜な男と麻薬漁りに繰り出すのだった。心配を募らせていたルディだったが、とうとう母親が麻薬不法所持で捕まってしまう。「マルコをあの最低な養護施設に放り込むなんて許さない!」。義憤に駆られたルディは、そんな不幸な少年を引き取ることを決意する。同棲相手であるポールの協力のもと、何とかしてマルコを引き取ろうと奮闘するのだが、世間の差別や偏見の目はそんな彼らの前に大きく立ち塞がるのだった……。障碍を抱えた一人の不幸な少年と一組のゲイカップルの本物の親子のような深い繋がりを描いたヒューマンドラマ。ちょっとあまりにも作りが優等生過ぎるきらいがあるものの、なかなか見応えのある良品でしたね、これ。何が良いかって、まずは俳優陣のナチュラルな演技でしょう。特に、実際にダウン症を抱えたこのマルコ役の少年のキラキラと輝くような目にはすっかりやられちゃいました。そんな彼を引き取ろうとする2人のゲイカップルも、実際に何年も一緒に暮らしたんじゃないかというほど深い愛情を感じさせて何とも微笑ましい。彼らの迫真に満ちたドラマに最後まで終始釘付け。ただ、僕はずっと実話を基にした作品だと思って観ていたのですが、観終えたあとにこれがほとんどフィクションに近いと知って、ほんの少しですがあざとさのようなものを感じたのがちょっと残念(特に、手紙を巡る最後の展開は賛否が分かれるところ)。それでもこの作品に終始貫かれる、差別や偏見という人間の悪意に最後まで戦う覚悟のようなものに僕はいたく共感できました。ゲイだから、障碍を持っているから、貧困家庭に育っているから、だからきっと自分たちとは違う世界の人間だ……。そんな誰の心にももしかしたら眠っているかも知れない悪意の芽に立ち向かうことの大切さを、この作品から改めて教わったような気がします。うん、なかなかの良品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2015-10-19 14:12:04) |
1100. EVA エヴァ(2011)
《ネタバレ》 「目を閉じたら何が見える?」――。そう遠くない近未来。雪深いスペインの地方都市にアレックスという名のロボット工学者がやってくる。その街には最先端のロボット工学を集中的に研究する施設があり、さまざまなロボットと人間がともに暮らしていた。アレックスは、さっそくこの街でとある研究へと取り掛かる。それは人工知能を有し、自らの感情によって動く子供型ロボットを完成させるというものだった。モデルとなるべき子供を求めて街を彷徨っていたアレックスは、そこでエヴァと名乗る個性的な少女と出会う。大人たちの常識になどまったく捉われず、自由奔放に生きるそんな可憐な少女に、次第に心惹かれていくアレックス。自宅の地下にある誰も居ない研究室へとエヴァを招きいれたアレックスは、彼女をモデルにして究極の少女型ロボットを創ろうと試みるのだったが……。エヴァという可憐な少女の姿をしたアンドロイド、彼女を巡ってさまざまな研究者たちの思惑が入り乱れるSFドラマ。とにかくストーリーが一本調子過ぎて、途中でだれてしまうのが本作の最大の欠点ですね。人型ロボットを創ろうとする主人公とモデルとなる少女との交流が物語の中心となるのですが、これが大して面白くもないのに延々と続き、さすがに途中で「とっととロボット完成させろよ!!」と僕はキレそうになりました。主人公がかつて街を去ることになった理由が、兄と一人の女性を巡る三角関係にあるらしいことを匂わせる展開もあるのですが、これも匂わせる程度で曖昧なまま。この設定を活かして、過去と現代を交錯してみせるとかの工夫があればまだ見れたものになっただろうに、最後まで特に心惹かれることもなくひたすら単調な展開でございました。せっかく奔放な美しい少女に翻弄される孤独な中年男性という魅力的な設定を扱っているのに、それを全然活かせていないのが凄く勿体ない。もっとこの淫靡な世界観を全面的に追求していたら、もしかするとSFロリ映画という新たなジャンルを作ったエポックメイキングな作品になりえたかもしれないのにね。残念!物語の鍵となるエヴァちゃんが僕のロリ心をいい感じで突いてくるなかなかの美少女ちゃんだった(泡風呂の中でお母ちゃんに髪を洗われてるシーンなんて、「もうちょっと肩をあげてくれ~」と思わずエキサイトしちゃいました!)のと冒頭のガラス細工のような人口頭脳作成シーンにちょっぴりセンスを感じたので+1点。それ以外は、完全に凡作です。 [DVD(字幕)] 4点(2015-10-19 09:19:26) |