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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 1990年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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101.  マーキュリー・ライジング 《ネタバレ》 
国家機密をプロテクトしている暗号コード「マーキュリー」の安全性を確かめるため、市販のパズル雑誌にマーキュリーを用いたメッセージを忍ばせていたら、9歳の少年に解読されてしまった。焦ったNSAは、暗号を解読した少年を殺しにやってくる…この設定の時点で「?」です。たった一人の子供に解読できるのなら、これを解読できる人間が他にもいると考えるのが自然でしょう。なぜ、この子を殺せば暗号を守ることが出来るのか、NSAの浅はかな発想には負けてしまいます。アレック・ボールドウィンはなかなか板に付いた悪役演技を披露するものの、陰謀の根本があまりに下らないので、彼の演じるクドローという人物も薄っぺらに見えてしまいます。彼の率いる殺し屋も実にお粗末で、9歳の子供を2度も見失うわ、白昼堂々銃を振り回して防犯カメラに顔を撮られるわと、尋常ではないドン臭さを披露。殺しのプロフェッショナルという設定なのですが、まったく怖くありません。さらにこの映画の凄いところは、彼らNSAに対抗するブルース・ウィリスが、NSAの上をいくほど考えが足りない大馬鹿野郎のバカボン君だったということ。殺し屋が大量の証拠や目撃者を残しているのですから、FBI本部に少年を連れ帰って保護すれば済む話なのですが、たった一人で子供を連れ回るという最悪の手段をとってしまいます。「おいおい、なんでそんなややこしいことするんだよ」ということを重ね、どんどん自分を窮地に追い込んでいく様には呆れ果てました。そしてさらに凄いのが、中盤以降に突如現れるステイシーなる女性の意味不明ぶり。初対面であるアートへの協力を惜しまず、素性の知れないアートを簡単に家に入れて一泊させてしまうという浮世離れした行動を披露。「親切な人」の一言では片付けられないほど都合の良いヒロインぶりには驚き呆れました。。。この映画は理屈で詰めるべき部分が非常に甘く、子供を殺すという異常な行動をとらざるをえなかったクドローの政治的背景や、アートが一人で戦わざるをえないほどの巧妙な仕掛け等、設定を観客に飲みこませるためのディティールが完全に不足しています。そして、脚本がボロボロな一方で見せ場も地味で、これといって盛り上がるアクションもなく、監督やプロデューサーは一体何がしたくてこの映画を作ったのか、実に理解に苦しみます。
[DVD(字幕)] 2点(2010-11-07 21:35:04)(良:3票)
102.  NYPD15分署
いよいよハリウッドに進出したチョウ・ユンファと、注目される若手の筆頭だったマーク・ウォルバーグを組ませるというキャスティングには意表を突かれましたが、個性的な二人が食い合うことなくお互いを引き立て合っており、異色のバディものとしてはそれなりに成功しています。寡黙な殺し屋を演じた「リプレイスメント・キラー」では個性を潰されていたユンファですが、一転してベラベラと喋りまくり、バイオレンスの合間には人懐っこい笑顔も見せる本作では、その魅力がきちんと発揮されています。相変わらず演技は過剰だし、見た目は普通の中年男性、にも関わらず画面を席巻するオーラはビンビンに放っており、この人は本物のスターなのだと思います。一方ウォルバーグは地道な演技力で作品の支柱となっており、この相方の存在あってこそ、浮世離れしたユンファの個性が活きています。ハリウッド進出後のユンファは作品に恵まれていませんが、それは、本作におけるウォルバーグのような、演技ができてなおかつ二番手に回ってくれる共演者に恵まれなかった為でしょう。脚本も悪くありません。ドンの座を狙うナンバー2、若者により結成された新興ギャング、汚職警官、FBI、それぞれの思惑が複雑に絡み合う物語は面白いし、そんな複雑な物語で観客を必要以上に混乱させないよう、話の交通整理もうまくなされています。ユンファとウォルバーグの師弟関係にも熱いものがあって、この脚本はまさにユンファ向き。さらには銃撃戦やカーチェイスなどの見せ場もよく作り込まれていて、なかなか見ごたえがあります。二丁拳銃が流行っていた90年代後半において、ユンファに二丁拳銃を持たせず、ちゃんと当たる射撃をさせたリアリティ重視の演出は評価できます。。。と、役者、脚本、アクションはどれも良いのですが、アクション映画に必要な「勢い」や「山場」を作ることができなかったために、トータルでは今一歩の出来となっています。もっとアクション映画が分かっている監督が手掛けていれば、見違えるような作品になっていたことでしょう。
[DVD(字幕)] 6点(2010-11-04 21:40:38)(良:1票)
103.  シンドラーのリスト 《ネタバレ》 
マンハントシーンにおける容赦のない暴力、収容所所長アーモン・ゲートによる無秩序な殺戮。そんな極限状態における人の死の描写は異様にリアルで、頭に銃弾を撃ち込まれた瞬間、魂が抜けたように体が崩れ落ち、死体からはどす黒い血がドバドバ流れ出すというかつて見たことないほどの衝撃的な描写となっています。これら一連の描写はいかなるホラー映画でも勝てないほどで、不謹慎な言い方ですが、完成され尽くした恐怖映像の連続には目を見張りました。また、そんな恐怖演出の中に赤いコートの少女のような情緒的なアイコンをも忍ばせるのですから、スピルバーグの監督としての技術とカンはズバ抜けています。赤いコートの少女の扱いは残酷大将スピルバーグらしいもので、普通の監督であればユダヤ人の未来の象徴としてあの少女を描き、恐らくは少女を生かしておいて、クライマックスに再登場させるという演出をするはずです。しかしスピルバーグは少女を殺してしまい、観客が忘れたタイミングでその遺体を再登場させるという、実にショッキングな演出を加えます。ショックのツボをここまで心得ているものかと感心したし、人類史上稀にみる悪事を描くにあたっては、このくらいの力量を持つスピルバーグこそが適任だったと思います。。。ただし、問題もあります。スピルバーグはシンドラーという人物を理解できなかったのか、それとも彼を描写する自信がなかったのか、主人公であるはずのシンドラーの描写がかなり雑です。安価な労働力としてユダヤ人を利用することを考え、コネと賄賂で成功を掴む事業家としての前半と、私財を投げ打ってでもユダヤ人を救おうとする後半がまるで別人。特に、ヒューマニズムに目覚める後半になるとキャラクターとしての魅力がすっかりなくなり、空気のような存在となってしまいます。この不自然さこそが、本作が「偽善的」と揶揄される原因となっています。さらに本作が不自然なのは、迫害の対象となるユダヤ人が主要キャラクターに一人もいないということ。基本的にドイツ人キャラによって物語は展開し、ユダヤ人として唯一重要なポジションを担うイザック・シュターンにしても収容所所長から目をかけられており、迫害の渦中にいる者とは言えません。この辺りの構成のアンバランスさも、本作の評価を難しくしています。前半最高、後半まぁまぁ、ラストの演説が最悪というのが私の印象です。
[DVD(吹替)] 7点(2010-10-28 20:05:06)
104.  RONIN 《ネタバレ》 
フランスの犯罪組織が謎のスーツケースを持っている。ロシアンマフィアとアイルランド系テロ組織がこれを欲しがっており、潤沢な資金を持つロシア側は金で買い取ろうとするが、アイルランド側は資金がないため、各国の元工作員を集めてこれを強奪しようとする。強奪作戦は成功するものの、忠誠心で結ばれぬ集団ゆえにメンバーのひとりが裏切り、単独でロシア側との取引をしようとする。残りのメンバー、そしてアイルランドの組織は、取引の前にスーツケースを取り戻そうとする。。。要約するとこれだけの話なのですが、3度目の鑑賞でようやく話を理解できました(笑)。本作は裏切りに次ぐ裏切りの物語である割に説明不足な点が多く、一度の鑑賞でストーリーを追うことはかなり難しくなっています。なのですが、この映画の特殊なところはそれが大して重要な問題ではないということ。なんせこれはストイックなプロの世界を味わう映画であり、物語など二の次でも構わないのです。一貫して男の世界を描いてきたフランケンハイマーによる本作は、理解することではなく感じることが大事。RONIN達は雇い主やスーツケースの中身すら知らないまま作戦に参加し、素性のわからないメンバーと共に体を張ることになりますが、彼らに求められるのも理解ではなく感じること。なんせ、作戦の全貌を理解するなと言われているのですから。ヤクザな世界を生き抜いてきた彼らは、隣にいる人間が信頼できるか否か、次にとろうとする行動で自分は生きて帰れるか否か、切り取られた瞬間を必死に感じ取ろうとします。ここに男のドラマが発生するのですが、フランケンハイマーは抜群の手腕でこれを描写します。冒頭、ミーティングへの参加者の顔を事前に確認し、さらに逃走経路を確保した上で集合場所へ現れるデ・ニーロの登場シーンから緊張感に溢れています。集められたメンバー達がお互いの素性を探り出そうとする場面の静かな緊張感もお見事。後半になるとレノとデ・ニーロの間に信頼関係が生まれるのですが、陳腐なセリフではなく両者のあうんの呼吸によってこれを描く辺りもわかってらっしゃる。作戦の舞台は必ず下見をする、敵の戦力がわからなければ偵察に行って力量を見極める。その姿勢を「臆病なのか?」とからかわれると、「ああ、生きて帰りたいからな」と切り返すやりとりはかっこよすぎます。むせ返るような男の世界でお腹いっぱいになりました。
[DVD(吹替)] 8点(2010-09-24 22:42:59)(良:1票)
105.  マスク・オブ・ゾロ 《ネタバレ》 
ヒーローものと言えば、荒唐無稽な大作路線か理詰めで堅苦しいリアル路線かの二極分化の傾向がある中で、本作はヒーローものとしてのロマンを存分に味わわせつつも論理的に破綻していない物語となっており、脚本の良さが光っています。さらに、ヒーローの理念は伝承されていくという発想は面白いし、ゾロを二人としたことで初代ゾロの復讐劇と二代目ゾロの成長物語を同時に味わえるというおいしい構成となっています。テッド・エリオットとテリー・ロッシオのコンビはハリウッドトップの脚本家に成長しましたが、90年代当時から優れた脚本を書いていたようです。また、マーティン・キャンベルによる演出も悪くありません。テレビ出身の職人監督であるキャンベルは、良い脚本に巡り合えば優秀な作品を作り、悪い脚本に当たるととんでもない駄作を撮る人なのですが、今回は脚本の良さを活かした良い映画を撮っています。アレハンドロがパーティーに潜入して以降、物語はまんま007になるのですが(恐らくスピルバーグの趣味でしょう)、本家007の監督だけあってこのパートのまとめ方は慣れたもの。男らしさとユーモアのバランスも絶妙で、当初監督候補にあがっていたロバート・ロドリゲスよりも適任だったと思います。。。と、本作の水準の高さは認めるものの、一部に気になる点がありました。まず、上映時間が長すぎるために、中盤はかなり中だるみしています。もうちょっとスリムな構成にすべきでした。さらにアンソニー・ホプキンスの演技力・存在感が出演者中突出しているために、彼が出ていない場面が猛烈に退屈する原因となっています。悪役側にも一人くらいは文鎮のような強力な役者を配置すべきだったと思います。さらに、ラストバトルの構成も良くありません。ラヴ隊長とアレハンドロの対決がクライマックスとなるのですが、両者は中盤にて一度剣を交えており、その時はラヴ隊長とラファエロの二人に対してアレハンドロ一人という変則マッチでした。そしてこの変則マッチでアレハンドロは互角の勝負をしていたため、一対一となるとラヴ隊長よりもアレハンドロの方が上であることが明らかなのです。これでは、ラストのバトルにおいてどちらが勝つかという緊張感が生まれません。両者が戦うのはラストのみにすべきだったし、ラヴ隊長は相当な剣の使い手であることを示すエピソードがひとつくらいは欲しかったと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2010-09-24 22:42:23)(良:2票)
106.  リベンジ(1990) 《ネタバレ》 
ここまでやってしまうかと腰を抜かすほどのバイオレンスでした。公開当時は酷評され、興行的にも惨敗したようなのですが、そりゃこんな凄惨な物語を見せられれば観客も批評家も驚いたでしょう。清潔感のあるイメージだったコスナーが半殺しのリンチを受け、アメリカ一の美人女優と言われていたストーが麻薬漬けにされて売春宿に売られ、最終的にエイズで死ぬという何の救いもない物語ですからね。スピルバーグやスコット兄が派手なバイオレンスをやらかすようになった現在ならともかく、スターの出演する大作は安全なものだった当時において、本作は過激すぎたと思います。そんなわけで早すぎたバイオレンス大作なのですが、映画の質は悪くありません。主要キャストは全員文句なしの熱演を見せているし、スコットの演出も的確です。特に良いのがロマンス部分の演出で、「よりにもよって友達の奥さんに手を出したんだから、痛い目を見て当然でしょ」と思われると身も蓋もなくなってしまうこの物語において、コクランとミレアの心境の変化を丁寧に描くことで、許されざる愛を観客にも受け入れられる形としています。この二人に絡むメンデスの見せ方もうまく、気さくで人好きのする性格でありながら、何気ない会話の中で怖いことをポロっと言う辺りにはゾっとさせられます。彼の底知れぬ恐ろしさが不倫のスリルを高めており、目立ったバイオレンスのない前半の時点で、すでにピリピリとした空気が漂っています。さらに、本作は悲劇の恋であると同時に男と男の物語でもあるのですが、その面でもかなりの見ごたえです。「これは掟なのだ、理屈ではない」というメンデスのセリフに象徴されるように、片や親友であっても男としてのケジメをつけさせねばならない男、片や愛する女を救い出さんと命を張る男、両者の意地がぶつかり合う硬派なドラマには完全に飲まれました。このままでは愛する妻と親友に手をかけねばならない、その前に手を引いてくれないかと願うような気持ちでいるメンデスの苦悶の表情と、恐らく自分は殺されるハメになるだろうが、それでもミレアへの思いは断ち切れないというコクランの毅然とした表情が対比される「リベンジ」前日のやりとりは、マイケル・マンもかくやという名シーンでした。残念だったのは後半が駆け足だったことで、かなりの場面がカットされている様子でした。いつかディレクターズ版が出てくれることを祈ります。
[DVD(字幕)] 8点(2010-09-23 20:35:17)(良:1票)
107.  ディープ・ブルー(1999)
B級モンスター映画としては及第点の仕上がりだと思います。及第点であって合格点ではないのは、B級ならではのバカバカしくも突き抜けた盛り上がりに欠け、かといって真剣な鑑賞に耐えうる大作の風格を持つわけでもなく、中途半端な仕上がりとなっているからです。例えば前年に公開された「ザ・グリード」は、途中までモンスター映画だったものが終盤では怪獣映画に変わってしまいます。あの偏差値の低い大盤振る舞い、理屈ではなく面白さ重視の姿勢こそがB級モンスター映画に必要なものなのですが、一方この映画、設定はバカなのに映画としての体裁を整えようとする面が時折顔を出し、もうちょっとムチャクチャやって欲しいという手前のところで止まってしまっています。。。この映画、真面目なのか不真面目なのかがよくわかりません。遺伝子を改造されたスーパーシャークが暴れ回るという物語は完全にB級なのですが、その割に撮影には妙に気合いが入っています。そこら中から水が噴き上がり、いくつものセットを浸水させるという撮影はかなり本格的で、「アビス」や「タイタニック」に匹敵するほど。90年代後半には「スフィア」や「ヴァイラス」など海洋パニック映画が何本か作られているのですが、それらは舞台こそ海ではあっても、水を使った撮影はほとんどやっていない代物ばかり。その中にあって、本作は完璧主義のキャメロンと同等の仕事をやっているのです。そんな真面目な撮影の一方で脚本や演出はかなり雑で、登場人物は魅力に欠けるし、見せ場は単調だし、水が迫ってくるというタイムリミットも映画にまったく活かせていないし、もうちょっと丁寧に考えれば面白くできたのにという惜しい点がいくつもあります。また、雑なら雑で「ザ・グリード」のように突き抜けてしまえばいいのですが、「遺伝子操作という倫理的タブーを犯したから、われわれはそのしっぺ返しを受けているのだ」なんて説教臭い話が入ったり、「おかしくなりすぎないように」という配慮からかスーパーシャークの暴れ方が意外と地味だったりで、B級モンスター映画としてもやりきれていません。ハーリンの演出も全盛期と比べるとパワーが足りていなくて、とにかくこの映画のすべてが「あともうちょっと足りない」というもどかしい状態となっています。
[DVD(字幕)] 5点(2010-09-19 22:25:23)
108.  ポストマン(1997) 《ネタバレ》 
物語の発想は良いし長尺の割には退屈しないので最低の評価は付けませんが、映画の出来は良くありません。流れ者がタダ飯を食いたくてついた嘘がひとり歩きするという物語と、ケビン・コスナーの英雄願望とが水と油だったため、主人公のキャラクターが不安定になったことが敗因だと思います。最初は情けなかった主人公が徐々に英雄らしくなっていくのなら話にも筋が通るのですが、例えばアビー救出のために勇気を見せたと思ったら、次の場面では「ケガして動けないよ~」とグータラしはじめるため、主人公の成長物語にもなっていません。後半になるとようやく英雄らしい行動をとりはじめるものの、主人公は最初のウソを取り消さないままリーダー面し、偉そうに説教までたれるので、見ている私達にとってはまったく説得力がありません。新政府を信じた若い郵便配達たちが次々と殺されはじめてもウソだと白状しない段階に至っては、英雄どころか大人としての責任感はないのかとイライラしてきます。「すまない、新政府の話は全部ウソだったんだ」「俺達はアメリカ中を旅してるんですよ。そんなことぐらいとっくに知ってますよ」ぐらいのやりとりを入れておけば物語の方向転換にはなったし、郵便配達たちの仕事への思いを強調することも出来たのではないでしょうか。。。以上は完全に脚本上の不備なのですが、エリック・ロス(フォレスト・ガンプ)とブライアン・ヘルゲランド(LAコンフィデンシャル)という当時気鋭の脚本家を二人も起用しながら、なぜここまで酷い話になったのかと不思議で仕方ありません。不思議なのは製作費についてもで、こんな地味な物語において8,000万ドルもの製作費はどこに使われたのでしょうか?本作は一応SFではあるものの物語は西部劇に近く、自然の山々でロケを行っているため壮大なセットが作られた形跡はありません。また派手な戦闘シーンも大規模なモブシーンもないため、撮影にお金がかかっている様子もありません。ラストなんて、いよいよ最終決戦かと思いきやおっさん二人が殴り合うだけですからね。しかも、スローモーションや編集で誤魔化すという何とも腰砕けなラスト。莫大な製作費がかかっていることは予備知識として知っていて、映画のどこかしらにはド派手なシーンがあるものと思って観ていたので、最後まで何も起こらない肩透かしには驚きました。
[DVD(吹替)] 4点(2010-09-05 18:14:40)(良:1票)
109.  フィラデルフィア 《ネタバレ》 
難病ものにして、差別と闘う法廷劇。監督は「羊たちの沈黙」で主演男優賞と主演女優賞をダブル受賞させた(この快挙を成し遂げた監督は歴史上たった3人)ジョナサン・デミ。いかにも賞の匂いのプンプンする映画だけあって、素晴らしい俳優陣が集まっています。演技ができて華もあるトム・ハンクスとデンゼル・ワシントンは文句なしの仕事ぶりだし、ゲイの恋人を演じたバンデラスのなよなよした演技も見ものです。またこの手の社会派ドラマはハリウッドのお家芸だけあって、本編のお膳立てをする前半部分の処理もお見事。上映時間を冗長にすることなく観客に必要な情報を伝えるため、時に視点を変え、時に時間軸をいじりながら、手際良く設定を裁いていきます。楽しんで見るような題材ではないのですが、映画としてきちんと面白く撮られていること、観客に伝えるべきことを伝わるように表現する姿勢には好感が持てました。。。と、面白いのは前半まで。あれほどてきぱきとした前半と比較すると後半はえらくゆっくりしているし、かといってじっくり描くべき大きな山を作れているわけでもないので、正直言って退屈します。裁判の最初に、デンゼルは陪審員に向かって「これからやるのは映画で見るような裁判ではありません。劇的な証拠や証言者が見つかるという展開もありません」と宣言しますが、これは観客である私達に対する監督からの宣言だったようです。弁護士による舌戦が繰り広げられることも、キーパーソンを巡る駆け引きもないため、法廷ものの醍醐味は味わえません。被告側弁護人によって論理を崩されてデンゼルは負けるのではないかという危機的局面を迎えることも、陪審員の心を動かせるかどうかという最後の緊張感もなく、こちらが勝つことが100%分かっている法廷劇がひたすら繰り広げられるのみです。好意的に捉えれば、エンターテイメントとしての装飾を排除した製作陣の真摯な姿勢の現れとも解釈できるのですが、ここまで何も起こらないのは映画としてちょっと寂しいかなと思います。ドラマ面についても、製作側が意図しているほど感動的には仕上がっていません。2時間感情移入して見てきたベケットが死ねば観客は悲しいと感じるに決まっているのですが、それ以上の感動につながっていません。ベケットと家族とのドラマがばっさり落とされているようでしたが、ここを克明にしておけば印象は変わったと思います。
[DVD(吹替)] 5点(2010-09-05 00:42:06)
110.  スターシップ・トゥルーパーズ
本作の企画は83年頃から存在していたものの予算や技術面での問題から一度頓挫し、技術の進んだ97年になってようやく製作が実現したようです。VFXに注ぎ込まれた予算は「タイタニック」をも上回る史上最高額の7000万ドル、総製作費は1億ドルという凄まじい超大作なのですが、これがお馴染みバーホーベン節炸裂の神経逆撫でムービーに仕上がっているのですから二度驚きます。ハリウッドの偉い人たちは脚本に目を通してから意思決定しているのだろうかと実に不思議になりました。。。完成した作品には素晴らしい部分もあればそうでもない部分もあって、個人的には好きなタイプの映画なのですが、傑作の部類には入らないと思います。バーホーベンの狙いは、戦争というものの本質を描き出すことにありました。このテーマを扱うにあたって歴史上の戦争を題材としてしまうと、どうしても当事者である国や国民が存在してしまって満足な描写ができない可能性がある。観客の側でフィルターがかかってしまう場合もある。だったら誰も文句を言ってこないSFでやってしまえという発想は大胆で面白いし、的を射ていると思います。本作の4年後、映画で描かれたことをアメリカ合衆国が現実世界でまんま後追いしたことからも、その狙いは当たっていたと評価できます。ただし、本作には不十分な面もあります。舞台となる未来の地球連邦の作り込みが甘く、また敵となるエイリアンと人類が歴史上どのように関わってきたのかが明示されないため、軍事政権が大衆を煽動して戦争へと雪崩れ込んでいく様について、観客がその良し悪しを十分に判断できません。主人公達が軍事に携わる前の学園ドラマの出来も良くないのですが、戦争と対比させるためならここも面白く作っておく必要があったでしょう。軍事政権や薄っぺらな学園ドラマなどバーホーベンが不得意としたり嫌っていたりするものについては、とりあえずブラックジョークでバカにするというスタンスで作られているのですが、この姿勢のためにテーマが一部死んでしまっています。映画の前半部分が猛烈に退屈する原因ともなっています。ここはある程度マジメにやっておくべきでした。。。一転していよいよ戦争に突入するとこれがめっぽう面白く、バーホーベンはスペクタクルの巨匠であることを再認識させらます。「好きなことやれてうれしいなぁ」というフィル・ティペットの満足げな表情まで見えてきました。
[DVD(字幕)] 7点(2010-09-05 00:41:06)(良:1票)
111.  スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス 《ネタバレ》 
全6作を通して鑑賞すると、このEPⅠだけがサーガから浮いていることが気になりました。宇宙戦争に巻き込まれた親子の物語において本作だけがサーガの本筋と直接関係のないことをやっており、EPⅠがなくても話が通じるのです。「ジェダイの復讐」から16年も待たされた挙句、ようやく出来たEPⅠがサーガと直接関係のない話ではファンもガッカリだったでしょう。中盤の山場であるポッドレースに至っては、サーガの本筋と直接関係のないEPⅠの本筋からもさらに外れており、観客を飽きさせないよう挿入した意味のない見せ場にしか思えません。いや、ルーカスにとってはアナキンのパイロットとしての才能を示す重要な場面のつもりだったのかもしれません。しかし、ラストにおいてアナキンは手違いから空中戦に参加し、訳も分からず飛び回っているうちにまぐれで勝利するという展開となっていて、彼が天性のパイロットであるようにはとても見えないのです。ポッドレースの際に見せた勘の良さや機転が空中戦においても活かされるという展開がなければ両者は結び付かないのですが、ポッドレースではアナキンの非凡さがそれほど伝わってこないし、空中戦ではポッドレースでの経験が活かされるような局面がないし、ポッドレースがなくてもラストの空中戦は成立してしまいます。本作は万事この調子で、映画全体が必要のない物語、必要のない見せ場で構成されており、仮にルーカスの頭の中では必然性ある場面のつもりだったとしても、完成した映画からはその意図が伝わってこないという有様。完全に失敗作だと思います。VFXは当時としては最高のものが用いられています。ルーカスが「スターウォーズ」を作るために設立したILMにとって、本作は会社のアイデンティティの根幹をなす重要な作品。世界最高のVFXスタジオが最高のスタッフを惜しげもなく動員して製作したのですから(本作から漏れたスタッフは「ハムナプトラ」に回されたとか)、VFXは凄くて当然。公開前、本作はVFXの新たな可能性を示す作品になるだろうと期待されていました。しかし、フタを開けるとVFXの限界を露呈した作品となったのが皮肉でした。CGで描かれたエイリアンとドロイドが戦争をしても何とも感じないし、いくらVFXにお金をかけても、レイ・パークというひとりのスタントマンによるダース・モールのアクションには勝てなかったのです。
[レーザーディスク(字幕)] 2点(2010-09-02 00:18:00)(良:2票)
112.  ウォーターワールド
90年代を代表する大コケ映画と言われていますが、1億7500万ドルの製作費に対して興行成績は全世界で2億6400万ドル(1995年の公開作中第9位)とそこそこのヒットとなっており、コケ方で言えば同年の「カットスロート・アイランド」の方が遥かに上。にも関わらずこの映画が(悪い意味で)私達の心を掴んで離さないのは、その出来があまりに惨たらしいからでしょう。。。作品を見る限り、脚本の出来はそれほど悪くありません。問題は監督とプロデューサーの腹が座っていなかったことで、本来はエッジが立っていたであろう脚本の良さをことごとく潰しています。破滅後の世界を扱った本作はダークに描かれるべきであり、その点、女性が物々交換の対象となっていたり、ミュータントに凄惨なリンチが加えられたりと、脚本上はきちんと毒が描かれています。しかしベラボーな製作費にビビったのか、監督とプロデューサーは観客に嫌悪感を抱かせかねないこれらの描写を中途半端に終わらせてしまい、そのために全体が締まらない印象となっています。また前半と後半でまったく別の映画となっていることにも違和感を覚えたのですが、これも主人公を観客から好まれるキャラクターにしようと後半で方向転換してしまったプロデューサーの判断ミスであり、前半の冷たいキャラクターで通すべきだったと思います。この方向転換を巡っては監督のレイノルズとコスナーが対立してレイノルズは途中降板、後半部分をコスナーが監督したことも後半が浮いてしまった原因となっています。。。さらに本作の足を引っ張っているのがSF感覚の欠如で、これも脚本レベルではそれほど悪くなかったにも関わらず、監督がSFオンチだったことが問題でした。衣装や小道具がとにかくカッコ悪く、そのために映画全体がダサくなっています。この手の映画はカッコ良いことがポイントなのに、そこで観客の心を掴めなかったのでは、いかにスペクタクルにお金を注いでも映画は良くなりません。コスナーが突貫工事で手を入れはじめた後半になると設定にも矛盾が発生しはじめますが(紙は高値で取引されていたはずなのに、後半ではまとまった量の雑誌が出てくる。前半では「俺達の先祖が世界をこんな風にした」と言っているのに、後半では過去の文明を知らないことになっているetc…)、SFにおいて細部に矛盾が発生するような雑な作りでは、観客に見透かされてしまいます。
[DVD(字幕)] 4点(2010-08-17 22:06:33)(良:1票)
113.  13ウォーリアーズ
ジョン・マクティアナンは途中で降板し、後半部分はマイケル・クライトンが監督しているようなのですが、監督が途中で交代する映画はたいていロクでもないもの。例に漏れず本作も映画としての出来は芳しくありません。まず戦士達の区別がつかず、誰かが死んでも、自己犠牲の勇気を見せられても、特に何とも感じさせられません。確かに13人という大人数、しかも全員が金髪のロン毛では見た目の判別も厳しいため、13人全員を描くのではなく主要キャラを絞り込むという方法は間違ってはいないのですが、印象に残るのが気さくなヒゲのバイキング(役名不明)だけでは寂しすぎます。首領であるブルヴァイすらカリスマ性を示すエピソードに乏しいのでは話になりません。戦士達の特技や役割分担もはっきりしないため、集団アクションとしての面白さも半減しています。これらについては、ドラマ部分を大幅にカットして上映時間を短縮させた映画会社の判断ミスであり、より長かったというディレクターズ版の出来が気になるところです。ビジュアルについては、画面が暗過ぎて何が何だか分からないという致命的な欠点が。リアリティにこだわってたいまつの光のみで撮影されたようなのですが、リアリティとは映像を効果的に見せる手段のひとつであって、リアリティにこだわって何も見えなくなったのでは本末転倒です。製作陣もこの映像ではさすがにマズイと感じていたのか、洞穴に住まい、暗闇を好むというヴェンドルの設定を無視して、クライマックスには白昼の決戦が準備されています。いよいよ満足な形で戦闘を見られると期待したのですが、これが驚きのダイジェスト処理。監督交代等の混乱の中で予算が浪費され、クライマックスにはお金が残っていなかったのでしょうか。この肩すかしには驚きました。。。とまぁ欠点だらけの映画なのですが、駄作と切って捨てられない魅力も持っている愛すべき映画でもあります。オープンセットの作り込みは凄まじく、衣装や甲冑にも徹底的にこだわっています。スタントマンによる生身のアクションも大迫力で(これで画面が見やすければ…)、「グラディエーター」をも超える130億円の製作費はダテではありません。どんなことが起こっても余裕のバカ笑い、いざとなればベラボーに強いバイキング達もかっこよく(これで一人一人のキャラが立っていれば…)、男の男による男のための燃える映画としてはなかなかのものです。
[DVD(字幕)] 7点(2010-08-13 17:16:06)(良:1票)
114.  マトリックス 《ネタバレ》 
公開当時、一方には本作の斬新さに対する称賛があって、もう一方には既存の要素をシャッフルしただけじゃないかという批判がありました。現在になってあらためて鑑賞すると確かに本作のテーマは目新しいものではないのですが、哲学的なテーマを娯楽アクションでやろうとした試みは非常に斬新であり、かつこの試みを成功させてしまったウォシャウスキー兄弟の監督及び脚本家としての能力の高さは並外れています。それまでの映画界では、一方に「スターウォーズ」のような娯楽大作があって、もう一方に「2001年宇宙の旅」のような難解な作品があって、これらは水と油だったわけですが、「マトリックス」は難解さと面白さの融合を成功させてしまったわけです。また、きちんと作り込めば難解なテーマであっても観客は付いてくることを本作が証明し、ハリウッドのマーケット観や意思決定のあり方も大きく変えてしまいました。もし本作がなければ、ノーラン版バットマンなどは登場していなかったでしょう。とにかく脚本の完成度が高く、「信仰と哲学」という難解なテーマを一般の観客にも分かる形で提示し、かつそれを刺激的なビジュアルと燃えるアクションに絡めて物語を構築しています。隠喩に満ちたセリフは禅問答のようで一見すると不親切なのですが、一般の観客が付いて来られるギリギリのところで難解さを留めておいたサジ加減は絶妙であり、理解可能な節度を保ちつつ観客に考える喜びを与えたという意味では最高のサービス精神が感じられます。また、アクション映画としても本作の脚本は際立っています。象徴的なのがエージェントの扱いで、「エージェントは圧倒的に強く、もし彼らと鉢合わせると殺される」というセリフがしつこい程に繰り返されるおかげで、エージェントが登場するだけで画面に緊張感が漂います。ネオを逃がすためエージェントに挑んだモーフィアスの自己犠牲も、エージェント・スミスとの戦いを決意したネオの確信も、クライマックスのチェイスの緊張感も、「エージェントに追いつかれる=死」という擦り込みが徹底されていたからこそ、それぞれの意味が際立つ形となっています。一方で、公開当時絶賛されたビジュアルについては、現在見返すと多少のアラが気になります。ネブカデネザル号や人体発電所のCGは本編から浮いてしまっているし、カンフーやワイヤーアクションは役者が慣れていないためかヘタクソです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2010-08-07 02:20:57)(良:1票)
115.  イベント・ホライゾン
製作側が意図しているほど高尚な作品に仕上がっているわけではありませんが、かといってB級と切って捨てられない魅力も放っており、ポール・W・S・アンダーソン監督作品においては、現時点における最高傑作だと思います。宇宙に行って気が狂うという物語は現在からするとありふれた題材ですが、本作の公開当時、エイリアンではなく精神世界を敵とするというアイデアは斬新であると評価されていました(本作の最初の脚本では、エイリアンが登場するはずだった)。また、それを表現するビジュアルは非常に秀逸で、船内の日用品がプカプカと浮く無重力の表現や、宗教的イメージと科学的合理性を両立したイベント・ホライゾン号のデザイン、死を連想させる炎の表現等はかなり目を引きます。生身で宇宙空間に放り出された人体の描写や、超高速での航行からクルーを保護するための水槽の存在等は、文系の私にはどれほどリアルなものかの判断はつかないものの、ともかく「リアルっぽい」雰囲気を出すことには成功しています。SF映画において「リアルっぽい」と感じさせることは重要であり、これに成功している時点で、本作は一定の完成度に達していると言えるでしょう。「ミッション・トゥ・マーズ」「レッド・プラネット」「サンシャイン2057」等、後に製作される宇宙映画には本作との類似点が多く指摘できる点でも、本作がSF映画史に残した功績は大きいものと評価できます。また、SFホラーであるにも関わらず地味な演技派を配置したキャスティングも当時としては異例でしたが、彼らの演技力がムダになっていない点も評価できます。製作当時若干31歳であり、代表作が「モータル・コンバット」だったアンダーソン監督が、よくぞ大人の俳優陣を使いこなしたものだと感心します。。。と、部分評価はできるものの(明確な欠点を指摘することの方が難しいほど)、全体としてそれほど面白い映画になっているわけでもないのが本作の問題点。物語は終始単調で、「いざクライマックス!」という煽りに欠けるために、不完全燃焼な印象を受けます。SFホラーなのですから、もっと爆発的な盛り上げが必要でした。
[DVD(吹替)] 7点(2010-08-03 20:34:19)(良:1票)
116.  スクリーマーズ 《ネタバレ》 
フィリップ・K・ディック原作映画といえば「ブレードランナー」と「トータル・リコール」の二作しか存在しなかった時代に製作され、潤沢な予算を与えられた先輩達と比較するとあまりに地味だった為に注目すらされなかった作品ですが、意外にもよくできています。核戦争により荒廃したシリウス6Bの自然風景、破壊され無人となった都市、生き残った少数の兵士達が立て篭もっている要塞など、作品の世界観を形成する舞台はしっかりと作り込まれており、予算の少なさがハンデになっていません。また、細かいところでは軍服や銃火器等もかっこよく、SF好きが注目する部分には適切に労力を割いているようです。監督は低予算専門ながら「B級」と切って捨てられない作品を放つクリスチャン・デュゲイですが、本作では彼のビジュアルセンスや、予算のやりくりなどの技術が総動員されています。世界を支配する絶望的な空気、要塞に長く立て篭もっている兵士達の焦燥感の描写は見事だし、いまいちパッとしないピーター・ウェラーが本作ではこの上なくかっこよく映っており、俳優の魅力を引き出すことにも成功しています。さらに、ホラー映画出身だけあって恐怖演出も手慣れたもので、攻撃型スクリーマーが迫ってくる描写や、潜入型スクリーマーが突如本性を現す描写のインパクトは絶大です。スクリーマーとは言え、子供に向かって銃を乱射し、火炎放射器で子供を焼き払うという衝撃的な見せ場も臆せず作っており(この描写のせいで予算が下りなかったのでしょうか?)、やるべきことはきっちりやれる男ぶりもアピール。デュゲイなくして本作なしと言い切れるほど良い仕事をしています。ただし残念だったのがラスト10分で、最後の最後に本作は極めてディックらしい展開を迎えます。潜入型スクリーマーが進化した結果、最新型のタイプ4は人間の感情に等しい感覚を持つに至ります。そしてタイプ4は破壊のために生まれた自分自身の出自を忌み嫌い、愛する人間のために戦い始めるというロイ・バッティもかくやという展開を迎えるのですが、この部分があまりに唐突で驚いてしまいました。もう少しうまく伏線を張り、丁寧に描写をすれば感動的な展開となりえただけに、この部分のぞんざいな扱いが残念で仕方ありません。
[レーザーディスク(字幕)] 7点(2010-07-27 00:46:08)(良:1票)
117.  スピード(1994)
よくもまぁここまでネタを詰め込んだなぁと、その密度に圧倒された作品です。その割に見せ場を作るための強引さをさほど感じず、論理的に破綻していない辺りがこの映画の凄いところ。最初から最後まできっちり楽しませてくれます。ジャック、アニーをはじめとしたキャラクターの作り込みも良く、バスの乗客は一言もセリフがない人物に至るまで個性が感じられます。個人的なお気に入りはマクマホン隊長で、この人は最初から最後まで何もせず、ただ偉そうなことを言ってるだけの人なのですが、それでもこのキャラクターには隊長としての威厳や信頼感がきちんと宿っています。ここまでキャラクターが作り込まれているアクション映画って、実は貴重です。唯一、犯人のハワード・ペインについては犯行に至る動機や狂い方がちょっと弱いかなと感じたのですが、この役柄を怪優デニス・ホッパーに演じさせたことで脚本レベルの弱点がうまく補強されています。こちらもお見事。キャスティング面で言えば、ジャックをキアヌ・リーブスに演じさせたことも驚きです。キアヌ・リーブスと言えば「ハート・ブルー」でホモっぽい刑事を、「ドラキュラ」でドラキュラ伯爵に恋人を奪われる弁護士をやり、弱い主人公を演じるイメージのあった人物です。またスターとしてのネームバリューがあったわけでもないのに、突如従来のイメージとは正反対のジャック・トラヴェンを演じさせ、これがピタっとハマっていたのですから、このキャスティングは神がかっています。さらに、このキャスティングはアクション映画史をも変えてしまいました。それまでのアクションと言えば筋肉隆々のアクション俳優が大暴れするものが主流でした。むさ苦しい見た目や演技の拙さには目をつむり、彼らが暴れる様をひたすら鑑賞するのがアクション映画の作法。しかし線の細いイケメンのキアヌ・リーブスがアクション映画の看板を務め、これを大成功させたことで、アクション俳優に付き合う必要がなくなりました。以降、アクションはニコラス刑事やマット・デイモンら演技のできる人間が演じるようになり、アクション俳優は見事なまでに消え去りました。
[DVD(字幕)] 8点(2010-07-06 21:00:20)(良:1票)
118.  暗殺者
ウォシャウスキー兄弟がオリジナルを作り、それをブライアン・ヘルゲランドが手直ししたという、今となっては驚くようなメンバーによって書かれた脚本はかなり魅力的です。ただドンパチ撃ち合うだけのアクションではなく、タクシー車内の防弾ガラスを挟んでの銃撃戦や、部屋にある日用品を利用したマンション室内での銃撃戦など、すべての見せ場には他の映画にはない一工夫がなされており、なかなか丁寧に考えられています。暗殺者という泥臭そうな仕事でありながら、当時まだ珍しかったEメールによってその指示がなされるというアイデアはウォシャウスキー兄弟ならではですが、いくつもの修羅場をくぐりぬけてきたベテラン暗殺者が、パソコンの前でぶつくさ文句言いながら愛想のいい返信をする辺りの捻り方もなかなか面白いと思いました。彼と組むこととなる女性ハッカーのキャラクターもよく出来ています。隣人の生活を覗き見ることを趣味としており、唯一の生き甲斐はネコを溺愛することというかなり危ない人なのですが、そんなエキセントリックな彼女が魅力的に描けているというギリギリのバランス感覚は、やはり脚本家がうまかったおかげでしょう。。。残念だったのは、新人脚本家達によるエッジの立った脚本を任されたベテラン監督の腕前が、あまりに安定しすぎていたことでしょうか。脚本のとんがった部分のほとんどが監督の安定した手腕のために丸く削られてしまい、人物像の作り込みや設定の面白さがほとんど伝わってきません。中年のベテラン暗殺者と若い女性ハッカーという、特殊な専門能力は持つものの社会性ゼロの二人が、お互いに弱みを補完しあいながら危機を乗り切ることが物語の骨子であったはずなのに、二人の人間的な弱みの描写が決定的に欠けているため、よくあるバディ映画にしか見えません。二人とも、暗殺者やハッカーであることを除けば常識的な普通の人にしか見えないのです。二人の病的な部分や、人間的な衝突をもっと描くべきでした(ブライアン・ヘルゲランドが参加している以上、オリジナルの脚本にはそのような描写があったはず)。そこに来て、アントニオ・バンデラス演じる明らかに危ない若手暗殺者のキャラだけが異常に立っており、この辺りのバランスの悪さも映画の出来を残念なものにしています。
[DVD(字幕)] 5点(2010-05-26 22:17:47)
119.  エニイ・ギブン・サンデー
オリバー・ストーン監督とあってはアメフト界の内幕を暴くような作品になるのかと思いきや、なんと直球勝負のスポ根映画でした(DVDジャケットに書いてあった「大逆転の謀略!!」なんてものは一切出てきません)。21世紀に入ってからはすっかり腕前の鈍った感のあるストーンですが、本作では圧倒的な演出力を披露。そのビジュアルはアメフトの迫力を見事に表現しているし、2時間31分の長丁場にも関わらず中弛みなしの熱い熱いドラマは見ごたえ十分です。私はアメフトのルールにそれほど詳しくないのですが、そんな私でも十分に楽しめる仕上がりになっているのですから、余程よく出来た映画なのでしょう。選手達の一挙手一投足がスローモーションで映し出され、「この一撃で勝つ!」というみんなの思いがボールに託されるラスト10秒はスポーツ映画の定番ですが、そんなお決まりのクライマックスをこの映画は血がたぎるような名場面にしてみせます。この辺りの演出の巧さは本当に突出しています。キャスティングも見事なもので、アル・パチーノやジェームズ・ウッズといった定評あるベテランをいとも簡単に使いこなしてみせる一方で、映画への出演経験のほとんどなかったジェイミー・フォックスを物語の中心に据え、10年以上キャリアが低迷し忘れ去られていたデニス・クェイドを掘り起こし、当時はお人形さん扱いだったキャメロン・ディアスに演技力が要求される役を任せています。キャメロン・ディアスについては、すべての出演作中本作がもっとも彼女を美人に撮影しているし、同時に「こんなに演技力あったの?」と驚かされました。俳優の魅力や才能を引き出すことも監督の重要な仕事だとすれば、本作でのオリバー・ストーンの仕事は百点満点だったと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2010-05-26 21:40:15)
120.  氷の微笑 《ネタバレ》 
中学時代に見た時にはエロしか印象に残らず、どんな話だったかはまるで覚えていなかったのですが、あらためて見るとかなり面白い映画でした。史上最高額で落札されたという脚本の出来はさすがのもので、前半は完全にノーマークだったジーン・トリプルホーンが後半にキーパーソンとなってくるという構成は、サスペンス映画としてなかなか巧いのではないでしょうか。キャサリン・トラメルという強烈な人物はよく作り込まれているし、これに対するニック・カラン刑事も一筋縄ではいかない人物像で、魅力的なキャラクターに溢れています。さらに、この脚本を引き受けたのがポール・バーホーベンであったことも幸運でした。この映画の要は言うまでもなくキャサリン・トラメルですが、このエキセントリックな人物を描き切るのは並みの監督では難しいところだと思います。「訳の分からん魅力を放つ悪人」を描ける監督というのはそう多くありません。そこにきて、バーホーベンは当時無名に等しかったシャロン・ストーンを見つけ出し、キャサリンという人物を完全に作り上げてしまったのだから驚異的な仕事をしたと言えます。シャロン・ストーンの後の出演作を見ても彼女の強烈な個性を活かせている作品は本作が唯一であり、バーホーベンの監督としてのカンや手腕は大いに評価すべきでしょう。さらに、その相手役に演技の出来る大スター、マイケル・ダグラスを持ってくるという卒のないキャスティングも絶妙です。ストーリーテリングも巧いもので、前半でキャサリンの怪しい魅力をじっくりと見せつつ、後半謎解きが急展開を迎える辺りからはアクション映画並みのテンションを作ってくるという緩急の付け方は本当に手慣れています。エロ以外にも見るべきところの多い作品だと思います。
[DVD(字幕)] 7点(2010-05-25 20:52:30)
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