1221. DENGEKI/電撃
《ネタバレ》 タイトルからしてB級。 そして、スティーブン・セガール。 これは頭をからっぽにして見る映画ですね。と、思って、本当に頭をからっぽにして見ると、わけがわからなくなります。 なにしろ登場人物が多い。 また、伏線なのか、単発なのか、よくわからないエピソードも多い。 実は黒幕。実は裏切り者。実は味方。っていうパターンも多い。 終わってみれば、勢力図が結構すごいことに。なんせ、最初敵だった人たちと、味方だった人たち、ほとんど入れ替わっています。 と、ゆーわけで、ストーリーを理解したい方は、『セガール』という偏見にとらわれず、ちゃんと見たほうが良いかもです。 ただし。ストーリーへの理解が、面白さにつながるとは限りません。 この作品、ストーリーがわかったとしても、結局はセガール様のストリートファイトが一番、もう圧倒的に面白いわけです。言うなれば、それ以外はすべておまけみたいなもんです。 しかも今回は、敵もアクションできるやつが多いんですね。わりかし良い勝負の連続です。ですがセガール様の強さ、カリスマが損なわれることはありません。とても満足です。殴り合いアクションに関しては、見ていて飽きることはありませんでした。 その一方で、カーアクションやガンアクションは、悪くないのに、イマイチ盛り上がりに欠けます。 ストーリーとアクションがうまいこと混ざってない気がしますね。 それに、駆け引き、違法捜査なんかの知能戦で中盤ぐいぐい押していたのに、結局ラストはいつもどおりの大喧嘩で、逆に爽快感に欠けてしまったかもしれません。 要は、雑なくせに、欲張りさんで、ラフファイトを除くすべての要素が中途半端に仕上がってしまったということでしょうか。 うーん。惜しいなあ。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-29 05:44:04) |
1222. ワイルド・スピードX3/TOKYO DRIFT
《ネタバレ》 テイストは1作目に近いかも。 とにかくストーリー、そして主人公を含めたメインのキャラクター、そのどちらにも魅力がまるでありません。 ですから、どんなに美しいドリフト走行を見せられても、高揚感を感じるには至りません。 やはり、エンタメ作品であっても、ストーリーとキャラクターは大切ですね。 そもそも、ハンが組のアガリをピンはねしたうえに、コトがばれると開き直り。そんでDKに追い掛け回されて、最後はクラッシュして炎上。自業自得じゃないでしょうか。 にもかかわらず、主人公のショーン、DKに殴りかかります。そして『レースで勝負だ。負けたほうが街を出て行く。』って。いやいや。お前に正義の心はないのか。DKのほうが筋が通っているでしょう。これは『主人公』という権力を振りかざした悪質な『職権乱用』ですね。 はっきり言って、こんなに共感できない主人公は、はじめてです。 周りがみんな主人公の味方なのも、???です。 しかしこの作品を見て、『ドリフト』って日本ならではのお家芸なのかなって、思いました。道が狭く、山道が多く、アメリカに比べるとカーブが多そうな日本。ドリフトで円を描く技術とか、立体駐車場上っていく映像とか、美しすぎます。 これでストーリーとキャラクターに魅力があれば、傑作になったのに。 日本の高校に入学したりとか、その辺の発想、舞台設定は非常に面白いです。ただ日本の高校って、こんなんでしたっけ?それに、この舞台設定が果たして効果的に機能しているのでしょうか。 日本という舞台が、本当にただの『舞台』にすぎないとしたら、もったいないですね。 いろいろ文句つけましたが、こんな作品でも、北川景子がヒロインやっていたら高得点つけたかもしんないです。 一番筋が通っていないのは自分ですね。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2016-06-28 08:01:07) |
1223. ニュー・ガイ
《ネタバレ》 ハイテンションすぎるコメディは苦手なジャンル。 特に下ネタでぐいぐい押してくる冒頭は、本当に観るのをやめようかと思ったくらい、嫌悪感しかわきません。 簡単に言えば、いじめられっ子が、別の高校に転校して、人気者になろうとする物語。 ですが個人的には、今いる学校で自分を変えて欲しいと思うのです。『別の学校』という舞台の移動が、すでに『逃げ』に見えちゃうわけです。当然、そこでいくら頑張っても、最初にいた高校での自分に対する評価は変わりません。それで良いのでしょうか。 更に、主人公のデイジーは努力しているものの、ほとんどは『他者の力』と『ラッキー』に救われているだけです。 その成功によってカタルシスを得るのは非常に難しいものがあります。 唯一良かったのは、ブラスバンドの人を助けるシーン。そのシーン以外は、ずっと冷めた目で見てしまいます。 一番がっかりだったのは、友人達を前に、『知り合い?』と聞かれ、『知らない』と言ってしまったこと。 ではなく、その後の対応です。 何だその謝りかたは。そしてメンバー、許しちゃうの?なんてゆるい人間関係。そもそもこの主人公から人徳を取ってしまったら、何が残るのでしょう。 そしてラストも期待はずれ。 音楽でもよい、スピーチでもよい。もっと説得力や、カタルシスを得られるフィナーレが欲しかったです。 中途半端、ここに極まれり、な作品です。 [DVD(字幕)] 4点(2016-06-27 02:22:25) |
1224. レッド・ドラゴン(2002)
《ネタバレ》 『レクター博士が鉄格子の中からプロファイリングをし、推理する。』このスタイルが、やはりこのシリーズ一番のウリなのかもしれません。手負いの獣が危険であるように、鎖でつながれているほうが、レクター博士の狂気が滲み出るような気がします。 ですが、本題は、悲しき殺人鬼ミスターDの物語。 彼の犯した罪に同情の余地はありません。ですが彼の生い立ちは同情を誘うものです。 鑑賞者の心の琴線に触れるバランス感覚が絶妙な脚本。いえ、これは原作があるわけですから、原作が素晴らしいのでしょう。 リーバ・マクレーンという女性とのエピソードを通し、ダラハイドの善良性を前面に押し出す描き方は最早卑怯な感じすらします。 観客はいつの間にかダラハイドに感情移入します。そしてその一方で、いつ彼が暴走するのか、不安な気持ちがいつもつきまといます。 もともと人の心の闇を描くサイコスリラーが好きなので、好きなジャンルをこの完成度で仕上げられると、ため息しか出ません。 ただ一つ注文をつけるならば、犯行動機についてです。『幼き頃の虐待』という抽象的で曖昧な表現にとどめてしまっています。 標的となる家族の選び方の基準も、『自分の会社にビデオ製作を頼んだから』というだけのもの。 そうではなく、なぜあの二家族が標的にされたのか、それこそがこの作品で一番知りたかったことです。肝心の部分を描いてくれていません。ダラハイドの生い立ちと、彼が狂気に走った理由を、もっと明確に結びつけてほしいのです。 ラストは、ダラハイドがサプライズを仕掛けます。 エンターテイメントとしは成功でしょう。映画としては間違いなく盛り上がります。 ですが作品の格はどうでしょうか。 ラストの仕掛けによって、よくある娯楽サスペンスに成り下がってはいませんか。 ダラハイドが愛する女性を殺せずに、自殺して終わる。 美しく悲しくやるせないラストとして相応しいと思ったんですけどね。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2016-06-26 17:46:59)(良:3票) |
1225. アメリカン・アウトロー
《ネタバレ》 血生臭い時代背景とストーリーを、ポップで明るい雰囲気に仕上げたエンタメ作品。 よって多少の不謹慎感はありますが、気軽に見られるポップコーンムービーとなっています。 プロットも極力わかりやすくなっているようですね。 まずは南軍が北軍に敗北します。南軍のレンジャー部隊、故郷に還ります。故郷の村に、政府の息のかかった鉄道会社が立ち退きを迫ります。つっぱねます。仲間が処刑されそうになります。助けます。今度は母親が殺されたりして、報復強盗が始まります。 このようなシリアスな脚本を、ひたすらライトなテイストで味わうことになります。 当然犠牲者もいるわけです。ジェームズ兄弟の母親。ヤンガー兄弟の末の弟。また、話題の中でしか出てきませんが、ドク・ミムズの長男も死んでいます。 ですが『人の死』の扱いが、この作品ではかなり軽いです。悲しみ、怒り、痛みといった感情が、この作品から伝わってくることはありません。もちろん、そこから生まれるはずの、逆襲や復讐によって得られるカタルシスもありません。なんせ、ラストは自分達の家族を殺した相手と馴れ合う始末です。そして笑顔で新天地へ向けて再スタートですから、死んだ者達は浮かばれないですよね。 したがってこの作品は、終始ジェシー・ジェームズというアウトロー・ヒーローを描くことにこだわった作品と言えそうです。 そりゃあ、見ていて楽しいですが、深みはなく、共感することも無く、見応えもありません。 ついでに言うと、部分的に脚本がかなり雑です。 一例を挙げると、仲たがいのシーン。ここはかなり強引ですよ。 その人間性とカリスマで、みんなをひっぱってきたジェシー、突然のご乱心です。 『俺がボスだ。』『お前は死にぞこないだ。』 不自然極まりないです。 ライトなタッチは好きなのですが、しめるところはしめてほしいですね。 『袂を分かつシーン』や、『人の死のシーン』だけは、もう少し脚本や演出を練っても良かったのではないかな。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-24 11:06:45) |
1226. ヴェロニカ・ゲリン
《ネタバレ》 女性ジャーナリストに起こった悲劇、その意味を問いかける作品。・・・なのかな、との予備知識ありでの鑑賞。 予想通り、かなり『強い』作品ではあります。 ですが、この映画では、その『強さの源』が見えてきません。 あるいは、冒頭で、注射器で遊ぶ幼い子供達のシーン。麻薬漬けになっている少年・少女のエピソード。この冒頭のシークエンスから、ヴェロニカのジャーナリストとしての正義感を感じるべきだったのでしょうか。 自分の身や、大切な家族を危険に晒してまで、なぜ麻薬の記事を書くことに固執するのでしょうか。 『子供達の未来を救いたい。』『麻薬の売人は許せない。』理由は何でも良いのです。何でも良いから、ヴェロニカの行動の原点にあるもの、それを映画で見せてほしかった。 でなければ、ただ意地になってムキになっているだけの人に見えてしまうことすらあります。 にしては、『ここで屈したらジャーナリズムの敗北よ。』という信念を掲げておきながら、記事を書くことより訴訟を起こすことを選んだりします。なんだかよくわかりません。 また、周囲の人間の感情の機微も、抑えすぎている感があります。鑑賞者の判断にゆだね過ぎているような気がします。旦那、母親、刑事、上司、誰も彼もが優柔不断に見えてしまいます。 『実話』だからこそ、ただ事実を流すだけではなく、そこに生きる人たちの『思い』を見せてほしいのです。 そこに作成者の価値観や解釈が入っても構いません。心の描写が中途半端なバッドエンドストーリーを見せられても、口の中に苦い味わいが残るだけです。 ラストのナレーションで、ヴェロニカの死に大きな意味があったことは、わかります。 ですがこの作品に関しては、あまりにもラストのナレーションに頼りすぎている気がします。 この作品を見てよくわかりました。私は『実話』が好きなのではないようです。『実話ベース』の『映画』が好きらしいです。 [DVD(字幕)] 6点(2016-06-21 13:22:41)(良:1票) |
1227. ロード・トゥ・パーディション
《ネタバレ》 かなり落ち着いた雰囲気のマフィアもの。 ですが落ちついているのは雰囲気だけで、中身は結構凄惨ですよね。 忠義を尽くしていたのに、妻子を殺されたうえに、父同然に慕っていたボスから命を狙われるマイケル・サリヴァン(トム・ハンクス)。 元凶はコナーというボスの息子。それは皆わかっているのに、ボスの息子だから、誰も手が出せない。理不尽なストーリーに怒り心頭です。 サリヴァンは、父親としてもマフィアとしても一流。ある意味、ヒーローとしての側面を持っていると言えるでしょう。 だから、救いようの無いストーリーでも、サリヴァンのダークヒーローぶりに、一筋の希望を期待せずにはいられないのです。 最低の状況からの大逆転を期待してしまうのです。 実際は、妻子が殺されて、サリヴァンがその報復を始めたときから、真のハッピーエンドなんてありえないのに。 そういった意味では、『家族の幸せエピソード』を序盤で『描きすぎなかった』のは逆に良かったかもしれません。そこを描きすぎていたら、家族が失われた悲しみのほうが、映画を支配してしまいそうです。 ラストはせめて二人の幸せを願っていたのですが、何とも後味の悪い結末。 にも関わらず、サム・メンデス監督の、とてつもなく上品な演出で、悲しさを最小限に抑えてしまっているのは凄い。 それどころか、息子のナレーションでしめちゃったことで、まるで感動的なドラマのような仕上がりに。とんでもないですね。 この映画は、『マフィアもの』か、『家族ドラマ』か。 正直どっちつかずの印象ですが、良く言えば『合わせ技一本』みたいな作品だと思います。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2016-06-21 02:15:04)(良:1票) |
1228. ワイルド・スピードX2
《ネタバレ》 『1』がイマイチでしたので、見るかどうか迷ったのですが、見て良かったです。 凄く面白くなっています。 ストーリーにちゃんと必然性があります。 一人一人の行動の動機が、はっきりしています。 映像、スピード感は、前作を凌いでいるのではないでしょうか。 コーナリングが多くなったことで、レースっぽさも前作よりあります。 公道でのカーチェイスも、トラックしか出なかった前作に比べ、障害物(一般車やトラック)が多くなったことで迫力が増しています。 地元の警察やらFBIやらがわんさか出てきて、みんなで追いかけっこしているのは、理屈抜きで楽しいものです。 車庫からたくさんのスーパーカーが出てきて、追跡を撹乱する仕掛けは、大掛かりでわくわくします。 これだけサスペンスフルで、ドラマ性があって、ちょっとコメディな部分もあると、車のことがよくわからなくても全然楽しめます。 前作は、はっきり言って、一部の玄人よりの作品であったのに対し、今作は万人向けのエンターテイメントに仕上がっています。 映画としての完成度は雲泥の差でしょう。 よくある『刑事のバディもの』的なテイストがあるのも嬉しい。 仲が悪かった二人がいつの間にか協力し合っています。もはや使い古されたプロットかもしれませんが、やはりこーゆーのが楽しいです。 『使い古された~』とか言わずに、面白いものは面白いんだから、使い古されたものでも良いものはどんどん使って欲しいものです。 それに、主人公の相棒として、ローマン・ピアース(タイリース・ギブソン)はとても相性の良いキャラクターだと思います。 更には、テズ、スーキー、ジミーといったメカニックやドライバー仲間の存在が、大変良いスパイスになっています。 前作がまとまりのないごった煮状態だったのに対し、今作は一つの料理としての体を成しています。 大変面白いエンタメ作品です。 [ブルーレイ(字幕)] 8点(2016-06-19 16:32:50)(良:1票) |
1229. ショウタイム
《ネタバレ》 ストーリー性のあるコメディは好きです。 特に刑事もので、ベタなやつならなお良い。 そういった意味ではこの作品は自分好み。 ですが、最初のうちは笑えることより、イライラすることのほうが多いかもしれません。 なにしろ、前半のトレイ(エディ・マーフィ)がうざすぎます。 TVプロデューサーのチェイスは、あほすぎます。 そーゆーキャラ設定なのはわかるんですけどね。さすがにミッチ(ロバート・デ・ニーロ)がいたたまれなくて。 ですが中盤以降、特にラストに向けて面白さが加速します。 コメディタッチは崩さず、それでいてサスペンスアクションのノリもまあまあ。それなりの爽快感すら感じられます。 あれだけ否定していた『ボンネットダイブ』を結局やらされるハメになるシーンは面白すぎます。 そして、事件解決の瞬間を、『SHOW TIME』のタイトルでしめくくる演出はあざやか。 事件は解決。番組は大ヒット。トレイとミッチは本当の相棒に。 ですがトレイが本物の刑事に昇進できたのが、一番後味が良かったかもしれません。 あくまでB級、ポップコーンムービーに違いはありませんが、こーゆー映画が心をリフレッシュさせてくれます。 大絶賛はできませんが、私にとって、こーゆー作品は必要なジャンルなんですよねー。 『エディ・マーフィー』『マーティン・ローレンス』『ジャッキー・チェン』『クリント・イーストウッド』、親が吹替えで見ていた世代なので、もはや吹替えのほうがネイティブに感じるのが悲しい(笑) [DVD(吹替)] 7点(2016-06-18 10:01:43)(良:1票) |
1230. ワイルド・スピード
《ネタバレ》 車もバイクもアクセル全開ですが、映画は空回り気味です。 エンターテイメントな作品には、ヒーローが欲しいところです。 メインの二人。ドミニクとブライアン。このどちらにもヒーロー性が足りないのが痛い。 ドミニクはトラックジャックの犯人。しょせんは犯罪者。それに皆から慕われるほどのカリスマを感じません。 ブライアンは容疑者の妹に、自分がおとり捜査官であることを簡単にばらしてしまいます。更にはラストでドミニクを見逃す始末。どう考えても警官の適正が0でしょう。そんな人間を主役に据えられても、応援できないし、共感できません。 共感できないから、ブライアンといっしょにハラハラすることもできません。 脇役も、個性があるし、キャラ分けはできていますが、魅力がありません。 最大のマイナス要因は、それぞれの動機が見えてこないことでしょう。 動機が見えないから、目的も見えません。 ブライアンはどうしたいのか。犯人を挙げたいのか。ただドミニクの妹と仲良くなりたいだけなのか。それともドミニクに認めて欲しいのか。主役なのに主体性がなく、そのスタンスが宙ぶらりんのままラストまでいっちゃうってどうなんでしょう。 そしてドミニク。なぜトラックジャックをやっているの?その動機は絶対必要でしょう。 その理由は明かされないまま、ラスト二人でチキンレースみたいなことやって、終わり。 確かに映像だけは、凄い良かったです。映像『だけ』はね。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2016-06-15 09:59:31) |
1231. モンスター(2003)
《ネタバレ》 ストーリー重視の私ですが、この作品にかんしてはストーリーより主演二人の演技に圧倒されます。 特にシャーリーズ・セロン。 『いったいいつ出てくるんだ、シャーリーズ・セロン。主役と思っていたのに、全然出てこないじゃないか。そしてやたらグイグイ出てくるこのゴリラみたいな女は誰だ?キャストを確認してみよう。ええ~と。うん?ええー!!』 というわけで、シャーリーズ・セロン=アイリーンという事実にまず驚きます。 家庭環境にめぐまれず、娼婦しかできなかったアイリーン。同性愛者のセルビー。共に世間から阻害されているという共通点でひかれあう二人。お互いがはじめて自分を必要としてくれる人間に出会ったわけですか。うーん。辛い。マイノリティの人間というのはかくも大変なものなのか。 同じ境遇、同じ苦しみを知っている二人。その二人がそろう。二人のコミュニティが出来る。すると悲しいかな、微妙なパワーバランスというものがやはり出来てしまう。お互い依存しあっているようでいても、その依存の度合いにわずかな差が出来てしまうものなんですね。 一見アイリーンのほうが優位に立っているように見えますが、実のところ支配権を握っているのはセルビーでしょう。アイリーンは確実にセルビーの精神的な支配下にあります。それは、ラストからもわかりますし、遊園地のエピソードからもわかります。バー、遊園地で、悪気も無く他の女性と仲良くしようとするセルビー。つまり、アイリーンには本当にセルビーしかいませんが、セルビーはアイリーンの代わりがいれば、それは誰でも良いわけです。 ラストの電話で、自分だけ助かろうとするセルビー。かたや、セルビーだけは救おうとするアイリーン。皮肉にも一致してしまう利害。 社会的にモンスターなのはまぎれもなくアイリーンですが、本当のモンスターは誰なのか。セルビーなのか、それともアイリーンのような人間を生み出してしまった社会なのか。 アイリーンは善良な人間の命を、自分の都合で奪います。同情の余地はありません。ですが、アイリーンは事件の最悪の加害者であると同時に、最大の被害者でもあるかもしれません。 だからなのか。見終わったとき、とにかく私は悲しかったです。そしてこんなに悲しいのに、この映画は泣くことさえ許してくれないのです。 そしてこれだけ力の入ったレビューばかりだと、何を書いても誰かのパクリになってしまう現実がまた悲しい。 この状況が一番のモンスター。 [DVD(字幕)] 8点(2016-06-10 13:12:21)(良:1票) |
1232. MUSA-武士-
《ネタバレ》 明と高麗、それに元、3つの国が出てきますが、ストーリーはそんなに複雑でなくて良かったです。 明と元は仲が悪い。明と高麗もうまくいっていない。 じゃあ元と高麗で力を合わせれば良いのに、その元と高麗の優秀な武将達が殺し合う物語。悲しいのは、明の知らないところで、明とうまくいっていない二つの国が殺しあっているという現実です。これが戦の不思議。 もちろん、そこには『明の姫』というキーパーソンがいるわけですが。 『元から明の姫を救い出し、明に送り届ければ、明と高麗の関係修繕のきっかけになる。』 それはまあ、そうなんですけどね。 まるでいじめられっ子が、いじめっ子に気に入られるために、他の子とケンカをしているようで虚しい。 だからでしょうか。 最初から最後まで、登場人物の誰とも、心でわかりあえないのです。 もちろん、どの人物も個性的で魅力ある人物です。 将軍や、将軍の右腕のような武将も強いし。元奴隷のソヨルは鬼神の如き強さだし。アン・ソンギ演じるタイセイは沈着冷静なスナイパー。将軍や姫に噛み付くタイセイの弟も、なかなか光る脇役。 これだけの武将が、生き残るためにひたすら戦い続ける物語。 結末はともかく、その過程は大変見応えがあります。 ただ願わくば、もう少し力を合わせて、知恵を出し合ってほしかった。 それにやはり多勢に無勢ですね。 どんなに個人が奮戦しても、結局みんな死んでいく。辛いです。あんなに強いのに。 正直、みんな死ぬってわかっていたら見なかったかもしんないです。 なんだかんだ言って、姫を無事に送り届けて、高麗に帰るのだと、ずっと願っていました。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-08 15:04:31)(良:1票) |
1233. ハンニバル(2001)
《ネタバレ》 スーパーヒーロー『レクター博士』の冒険活劇第2弾。 レクター博士とその関係者の方々の頭脳戦がアツイ。 永遠のライバルFBI捜査官『クラリス』。狂気の大富豪『メイスン』。金のためなら手段を選ばないベテラン刑事『パッツィ』。脳膜ぺりぺり『ポール』。 クラリスはともかく、小悪党から本物の悪党まで、悪者がズラリ。 その誰も彼もが、レクター博士のえじきとなってゆく爽快感。 レクター博士は、私にとって、まぎれもないヒーロー。 小さい頃は、『ウルトラマン』、『ドラゴンボール』など、『正義』VS『悪』の図式に感動したものです。 ですが大人になると気付きます。心の奥底の黒い欲望を満たしてくれるのは、『悪』VS『悪』の図式なのだと。 『悪』を、『それ以上の強大な悪』が飲み込んでいく、その衝撃。圧倒的な暴力と狂気。自分以外の『悪』を虫けらのように蹂躙していく興奮。『正義』VS『悪』の図式では感じることができない領域です。 映像的にはラストが注目されがちなこの作品。ですが、私はあえてコーデルがメイスンをあっけなく裏切るシーンに注目したい。原作を読んでいませんから、映画でのみの判断です。 コーデルがメイスンを裏切るシーン。あれは戦慄が走りました。コーデルの本心を一発で見抜き、たった一言で裏切りへと導いてしまったレクター。レクター博士の最も恐ろしい部分を、最も端的に表す貴重な1シーンです。 完璧とも思えるこの作品。残念ながら減点ポイントが2つあります。 まずはメイスンとレクター博士の過去の描き方が不十分。この作品の中で、私達が最も知りたい真相の一つではないでしょうか。 そしてもう一つは、レクター博士、あなたは偶然を味方につけてはいけない。 クラリスが助けに来てくれたことは偶然の産物であり、あなたの功績ではない。その辺のありきたりなヒーローのように、偶然に助けられて偉そうにするレクター博士なんて、見たくはないのですよ。 [DVD(字幕)] 8点(2016-06-07 10:46:35)(良:1票) |
1234. ピアノを弾く大統領
《ネタバレ》 韓国お得意のシンデレラストーリーですね。 男性のほうは、リッチで社会的地位が高くて、気さくで寛容。 女性は一般人。 ラストはお約束のハッピーエンドで、誰がいつ見ても楽しめる一本なのは間違いありません。 あとは結論に至るまでのプロセスはどーか。ディテールはどーか。 まず、万引きはダメ。絶対。 自分も万引きすることで、生徒との信頼関係築こうなんて、大間違い。せめて、その後お店に商品返して謝罪してほしいです。 また、クラスのいじめられっこ、大統領の娘、そのパシリ君、主人公のチェ・ウンス(チェ・ジウ)、この人たちの背景はもう少し語ってほしいです。チェ・ウンスは何故学校の転勤を繰り返しているのか、大統領の娘は何故ひねくれてしまったのか、一切教えてくれません。 もう少し説明が欲しいところですね。 さて、全体的なストーリーテリングはどうか。 前半、バランスのとれた複数ジャンルの融合から、後半はロマンティックコメディ1本に収束。その分、作品としての落ち着きは取り戻しますが、面白さは半減。個人的にはこの作品のピークは、大統領に宿題を出す辺りまでです。 チェ・ウンス(チェ・ジウ)も、ハン・ミヌク大統領(アン・ソンギ)も、先生や大統領としての登場シーンは最高。 それにプラスして、それぞれの仕事に対するプライドや志を感じさせるエピソードが、あと一つずつくらいあれば、より二人に感情移入できたかもしれません。 まあ、さらっと観るエンターテイメントとしては、十分及第点でしょう。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-06 00:24:13) |
1235. ゴーストバスターズ(1984)
《ネタバレ》 小さい頃何度も見た作品。世の中にこんな面白い映画があるのかと思っていましたね。 今見ると、『思い出補正』をプラスしても7点くらいでしょーか。 もっとゴーストがわんさか出てきたイメージがあったのですが、それほどでもありませんね。 それにしても、まだCGが無かった時代に、ゴーストや捕獲レーザーの映像は驚きです。鮮やかなカラーリング。今見てもエキサイティングでビューティフル。 ストーリーはあってないようなものです。 いつの間にか会社ができてるし、いつの間にか捕獲レーザーができてるし、いつの間にかCMができて雑誌にのって何の前触れもなくゴーストがいっぱい出てきて大忙し。 その一方で、図書館のゴーストや終盤で街にちらばったゴーストなんかは放置。 ラスボス『ズール』だの『ゴーザ』だのとのバトルも、門に向けてレーザーを交差させて、何か凄いことが起きて、終わり。 この絶妙ないい加減さが嫌いではないなー。 とにかく細かいことは気にしていないようです。 ノリと勢い。そして映像。これだけで突っ走る。気持ちが良いくらいに潔い作品であります。 ですが、子供のときは映像だけで楽しめたのですが、大人になるとそれだけでは物足りない自分がいるのも、また事実。 つまりは、この作品は『子供向けアニメ』と同ジャンルなのかもしれませんね。 子供はまず第一に『映像』。ですが大人になると、『ストーリー』、『人』、その次くらいに『映像』が大切なのかもしれません。 少なくとも自分はそうだと再認識できた作品です。 それにしても、4人がコスチュームを着て立ち並ぶ姿は、コメディを通り越してもはやカッコ良いですねー。 その気持ちだけは大人になっても変わらなかったのが嬉しい。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2016-06-05 17:30:40) |
1236. トゥームレイダー2
《ネタバレ》 1より面白い。1よりスピーディ。1よりドラマチック。1より緊迫感がある。何より1よりアクションが多い。 すべてにおいて、1より少しずつパワーアップしています。 続編としては◎です。 1より見所も多いですね。 特にお気に入りのポイントは2つ。『バイクレース』と、ラストの『クリーチャーとのバトル』。 ここはどちらもA級レベルのクオリティで、素晴らしい完成度。 バイクレースの臨場感、スピード感は最高。迫力満点。でこぼこ道ならではの興奮が味わえます。 そしてラストのクリーチャー。今まで人間同士のバトルがメインだったのに、ここにきて突然のホラーテイスト。意表をつかれながらも、『嬉しい想定外』で、凄く良いです。クリーチャーのアクション、クリエイティブかつエキサイティングで最高ですね。 憎たらしい敵の部隊が、瞬く間に一網打尽にされていく様子は、爽快ですらあります。 視覚効果で楽しむ映画で、ストーリーなんて最初から期待していませんが、今作はストーリーも何気に良かったのでは?少なくとも前作よりかは面白いと思います。 特に、何を企んでいるのかわからないテリー・シェリダンの存在が、絶妙な緊張感を作るのに一役かっています。 少しずつヒントを集め、小さなバトルを繰り返して謎を解いていくプロセスは、ゲームっぽくて非常に楽しい。 オリジナルのゲームは知りませんが、駄作が多いゲームの映画化としては、間違いなく成功している作品だと思います。 また、酷評されることが多いヤン・デ・ボン作品群ですが、どれも個人的には好きなのばかり。『スピード2』ですら結構好きなんですよね。この監督さんとはとても相性が良いみたいです。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-05 02:34:06)(良:1票) |
1237. テキサス・レンジャーズ
《ネタバレ》 スティーヴ・マイナーという監督が結構好きです。 この監督の映画、ほとんど全部見ています。(ただのB級映画好き。お気に入りは『ガバリン(笑)』) 背伸びしていない感じが好感が持てます。 小難しい作品が一切無いんですよね。とにかくわかりやすい。この一言に尽きます。 『テキサス・レンジャーズ』のストーリーもいたってシンプル。 テキサスに無法者がいる。人は殺す。牛は盗む。女はさらう。 無法者達を許すな、と州知事が『テキサス・レンジャーズ』を結成。 あとはひたすら悪者を追っかけてはガンファイトの繰り返し。 待ち伏せ、スパイ、偽情報による誘導作戦、敵の罠にことごとくひっかかっるテキサス・レンジャー。 ですがラストは奇襲が成功して、めでたしめでたし。 あっと驚く展開は無し。とにかく、リズミカル。スピーディー。わかりやすい。 まあ、そーゆーテイストですから、人物の造形もかなり軽めです。掘り下げは浅く、感情描写は希薄に。悪い奴はとことん悪く、ピュアなやつはとことんピュアに。 ですが個人的に、好きです。なぜなら見ていて楽しいから。 大好きなレイチェル・リー・クックの使い方だけが、もったいないというか、物足りないというか。そこはちょっと残念なポイントです。 ガンファイトのタッチ、テンポは良いのですが、この作品のガンファイトは、誰が誰だかわからなくなってしまうんですよねー。 そこだけもう一工夫ほしかったところです。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-02 15:21:38) |
1238. 8 Mile
《ネタバレ》 ラップ調で、ラップ風に、レビューをここに、書いてみよう♪ 『いったい何?こいつは何?』 『こいつはいったい何がしたい?』 『利己的。暴力的。目的何?』 『いったい、誰に、共感、できる?』 『そもそも、文化が、わからねー。』 『エミネム、知らねー。』 『英語も、知らねー。』 『ラップが、字幕じゃ、伝わらねー。』 『勝った?負けた?わからねー。』 『当然、映画は、つまらねー。』 『1、2、3、4、なんの数?』 『時間を、確認、した回数。』 『残り、何分?あと、何分?』 『30、20、あとちょっとー。』 『せめて、ラスト、決めてくれー。』 『「仕事に戻る」』 『何だ、そりゃー。』 ええー、このレビューを読んでくださった方。 あなたの今の心境が、まさに私がこの映画を見終わったときと同じ心境です。 この2点は、こんなクソみたいなレビューを読んでくださった方へ、敬意を込めてささげる点数です。 映画は0点です。 [ブルーレイ(字幕)] 2点(2016-05-30 01:41:47)(笑:2票) |
1239. たそがれ清兵衛
《ネタバレ》 山田洋次監督の撮る映像の空気感は凄く好きなのですが、ストーリーに起伏が無いのが玉にキズですね。 真面目すぎると言ってもいい。 映画通なひと。時代劇通な人にはたまらないのかもしれません。 私のような俗人には、なんとも物足りないというのが正直な感想。 同じ監督作品、『学校Ⅰ』や『隠し剣 鬼の爪』は好きなんですけどね。 人物描写。生活。背景。とにかく一つ一つが非常に丁寧。 この緻密とも言える、日本人にしか作れないようなこの作品の雰囲気。そしてその雰囲気だけで2時間以上魅せてしまう。はっきり言って凄いと思います。 朋江と清兵衛のエピソード。凄く良いです。監督の持ち味が、い~い感じで出ている気がします。 ありふれたプロットには違いありません。ですが、心情を丁寧に丁寧に描写するだけで、こんなに情感あふれるドラマになる。まるでお手本のような美しい恋物語です。 そして多くの方が絶賛されている、余吾善右衛門討伐。否定するのには勇気がいりますが、個人的には『これがクライマックスか・・・』というのが本音。 いや、ダメじゃないんですが、この人、それまで少ししか出てきてないんですよね。蔵のところでちょっと会話のやりとりをしたぐらいです。突然悪鬼の如きラスボスとして君臨されても、正直あまり思い入れが無い・・・。ですので、クライマックスを飾る相手としては、ドラマとしても敵役としても微妙でした。最後に一波乱あってくれたら、また評価も違ったかもしれません。 『良い作品』=『面白い作品』にはなるとは限らない典型の一つだと思います。 [DVD(邦画)] 6点(2016-05-29 18:00:44) |
1240. ジョンQ-最後の決断-
《ネタバレ》 涙腺が崩壊する感動のドラマ。 わかっていても泣いてしまう。 筋が読めていても泣いてしまう。 どう転んでも泣いてしまうようにできています。 それはこの作品が、人の心の琴線にふれるようにできているからです。 『僕の貯金の46ドルを使っていいよ。』と言っていた少年が倒れる。余命わずか。息子の命を助けるため、奔走する父親はデンゼル・ワシントン。完璧に感動が約束されているシナリオです。 父親が病院を占拠する直前までのシークエンスが非常に大切。 皆から募金を集め、役所を駆け回る姿。息子はいつ死ぬかわからないのに、『役所からの回答まであと1週間。』とか、『あと1ヶ月』とか。息子死んでしまいますよ。それでも、ヤケを起こさず、ルールにのっとって、ひたすら役所を回り、治療費をかき集める両親。このシークエンスがあるからこそ、突然の強制退院によって精神的に追い詰められる父親に気持ちが入ってしまうのです。 ジョンQと共に、一人称視点で見るのか、第三者的視点で見るのかで評価が分かれそうです。 なぜなら、第三者的視点で見た時、病院を占拠するというのは、やはり倫理的に問題があるからです。 『自分の息子の命さえ良ければ、他の人はどうでも良いのか』と。それは至極真っ当な正論です。 そして私は、このケースに関して言えば、『自分の息子の命さえ良ければ、あとはどーだって良い』と思うタイプです。なぜなら、どんなに命のタイムリミットが迫っても、社会のルールの中で息子の命を助けようとした父親を、その息子の命を、先に見限ったのは世の中のほうだから。それは公的機関であり、会社であり、医療です。 映画の結末として、強いて言うならば、ドナーが間に合わず父親が死んでいたら満点。 そしていくらなんでも警察に心が無さすぎ。ですがそれ以外はすべて完璧。傑作。 [DVD(字幕)] 9点(2016-05-29 02:53:00)(良:1票) |