1261. エリザベス:ゴールデン・エイジ
前作「エリザベス」から実に10年ぶりの続編。 まず驚かされるのは、10年経ってもまったく劣化のないケイト・ブランシェットの神々しいまでの麗しさと、10年を経たからこそ更に強まった彼女の存在感の大きさだ。 世界史に対してあまり明るくないので、実際の時代背景だとか人物像について無知な部分が多いのだけれど、ブランシェットが演じるエリザベス一世の姿には、問答無用の説得力があり、現在に繋がる英国史を築いた女王の姿にくるいないと確信せずにはいられない。 前作を遥かに凌駕する映像世界の絢爛豪華さも、申し分なく、重厚な宮廷内の描写や迫力の海戦シーンにも圧倒させられる。 しかし、ケイト・ブランシェットのもはや「大女優」としての威厳が、そういうビジュアル的な力強さを抑えつけ、あくまで映画を彩る一つの要素に至らしめている。 スペインの無敵艦隊を退け、大英帝国の礎を確固たるもとしたエリザベスの文字通り威風堂々とした姿には、神に選ばれた者の「運命」を感じた。 ただ、やはりもう少し当時のヨーロッパ史の勉強をしてから見るべきだとは思った。そうすれば、更にこの映画の深みを堪能できたと思う。 [DVD(字幕)] 7点(2008-09-23 11:56:04) |
1262. ウォンテッド(2008)
この映画は、 「弾丸と弾丸がぶつかって弾けるまでの弾道を追った映像が見たい」だとか、 「弾道を自在に操って芸術的な曲線を描かせたい」とか、 そういうビジュアルに対する妄想を「実現」させようというコンセプトのみで作られた映画で、それ以上のものもなければ、それ以下のものもない。 詰まりは、コレはコレできっぱり「完成」していると言える映画だ。と、思う。 「映画」が、音と光で構築されている以上、確実な目論見をもってして作り込まれた映像世界前にしたならば、少々ストーリーがチープであろうが、整合性に欠けていようが、それはそれとして評価しなければならないと思うのだ。 すなわち、存在そのものがマンガ的に妖艶なアンジェリーナ・ジョリーが、訳も分からない主人公を強引に引き連れて、大暴走を繰り広げる冒頭の時点で、この映画の価値は確定している。 どうも回りくどくなってしまったけど、要するに「こういう映画は、嫌いじゃないよ」ということ。 [映画館(字幕)] 8点(2008-09-23 01:01:02)(良:1票) |
1263. ハンコック
地球を救うヒーロー役において、ウィル・スミスほど「経験豊富」な俳優は居まい。「ID4」「MIB」「アイ,ロボット」……と軽妙なノリと独特の好感度を携えたキャラクターで、様々なヒーローを演じてきた彼に、嫌われまくりの荒くれヒーローを当てた時点で、ある程度面白味のある娯楽映画に仕上がることは、約束されていたと思う。 スーパーヒーローの快活な活躍を描くのではなくて、ヒーローの裏側と隠された真相を描いたストーリー展開は、ユーモアを先行しながらも驚きや悲哀もあり起伏に富んでいた。 けれど同時に、面白い要素をそこかしこに散らばらしてはみたものの、今ひとつまとまっていないというか、真に迫ってこずに最終的な部分でカタルシスを得られなかった。 ミソとなるのは、一見端役を何故かシャーリーズ・セロンが演じている点で、見所も彼女が絡み始めるくだりだが、彼女とウィル・スミスの関係性の描き方が結果的に不充分だったことも、映画の完成度を低くさせた原因だと思う。 ウィル・スミスをキャスティングした時点で安心してしまい、ストーリーの作り込みを抜いてしまっている印象を受けた。あとほんの少し、ストーリーに整合性と説得力があれば、ヒーロー映画としてかなり傑作の部類になっていたのではと思う。 でも、既存のアメコミヒーロー映画が旺盛する中で、オリジナルキャラクターを生み出した試み自体は、評価したい。 [インターネット(字幕)] 6点(2008-09-16 23:38:51) |
1264. 20世紀少年
「20世紀少年」映画化。その第一報を聞いた時、まったく手放しで期待感に溢れた原作ファンの割合は一体どれほどだろうか。 たぶん、原作を深く読んでいる人であればあるほど、まず頭に浮かんだのは、「日本映画では無理だ」ということだったと思う。 要するに、端から期待すべき映画では無かったとは思う。 ただ、それでも、原作のキャラクターのビジュアルを大いに意識したキャスティングが揃っていくにつれ、どうしたって期待感は膨らんでいくというもの。 そういう意味では、このキャスティングについては、きちんと「見事だ」と言いたい。 この辺りで、はっきりと結論を言わせてもらうと、十中八九「駄作」である。 結局のところ、もう幾度も失望した部分ではあるが、大作になればなるほど、監督の人選は最重要点であり、相変わらず日本人は巨費を使うことがへたくそ過ぎるということを、再確認した。 ここで一々、監督の落ち度をあれこれと言う気はないが、日本映画なりに巨額の制作費を投じたというのなら、せめてそれももう少し上手に使ってほしいと思った。 もっと重要に見せるべきシーンはあったろうし、映像化するからこそ意味のあるシーンもあったと思う。 いくら元が面白いものでも、面白く見せようとする工夫をせず、ただ上辺をなぞるだけでは、面白くなるわけがなく、意味がない。 ある部分において、映画以上に漫画が好きなので、いつも思うことなのだが。 日本の優れた漫画家の創造性は、日本の優れた映画監督の創造性を遥かに凌ぐと思う。 それは、世界に通用する日本のポップカルチャーの最先鋒が「漫画」であり、日本国内の浸透性においても、「映画」より「漫画」の方が高いことからも明らかだ。 “畑”が違うことが重々承知ではあるが、こういう結果を目の当たりにすると、 「もう、浦沢直樹にそのまま監督させれば良かったんじゃねーの」 とか、 「アニメ映画にすれば良かったのに……」 と、思わざるを得ない。 [映画館(邦画)] 2点(2008-09-01 14:50:12) |
1265. ダークナイト(2008)
《ネタバレ》 前作「バットマン ビギンズ」で、“バットマン”という周知のヒーローを、全く新たな「黒色」で塗り替えたクリストファー・ノーラン。 同監督が引き続き指揮を執った新シリーズの続編は、バットマンというヒーロー像に留まらず、“ヒーロー映画”そのものを洗練された「黒色」で塗りつぶし、新たな造形を浮き上がらせてみせたと思う。 バットマンというヒーローの誕生秘話を、決して派手な娯楽性に走らず、ビジュアルとインサイドの両面で濃密に描き出した「ビギンズ」は、見事な映画だった。 バットマンというと、大富豪が自らの莫大な資産を使って夜な夜なコウモリ男のコスチュームでヒーロー業を繰り広げるというどこか安直な印象がかつてはあったが、同作の誕生によりそのイメージは一新され、悲哀に溢れたダークヒーローへと進化したと思う。 今作では、このヒーロー特有の“ダークさ”を、更に進化させ、ついにはヒーローのレッテルすら剥奪されてしまう。ヒーロー映画としては、もはや「斬新」と言わざるを得ない。 その映画としての衝撃を成功へと至らしめた最大の要因は、悪役を演じた俳優の功績に他ならない。 ヒーロー映画においては、悪役を演じる俳優の重要性は、主演俳優のそれを遥かに凌ぐ。 かつての「バットマン(1989)」で、悪役ジョーカーを演じたジャック・ニコルソンが、主演のマイケル・キートンを抑え付けたように、今作は、同じくジョーカーを演じたヒース・レジャーの存在なしには考えられない。 そして、このジョーカーという役に限れば、ヒース・レジャーのパフォーマンスは、ジャック・ニコルソンの比ではなく、遥かに凌ぐ。 バットマンの存在性と表裏一体に描かれるジョーカーの異常性は、今作のまさに核心であり、それを120%表現したヒース・レジャーは圧倒的だった。 文字通りのマッドピエロの狂言回しによって、極限まで追いつめられたヒーローの選んだ宿命。 この顛末を、「娯楽」が最優先されるべきヒーロー映画でやり遂げられたのは、クリストファー・ノーランという鬼才監督と、早過ぎる死によって伝説と化した若き名優ヒース・レジャーの奇跡的なコラボレーションに他ならないと思う。 これから先、ジョーカーという役に限られることなく、映画俳優としての功績で、大名優ジャック・ニコルソンを超える可能性を秘めていた俳優の死は、あまりに残念だ。 [映画館(字幕)] 9点(2008-09-01 14:13:30) |
1266. ノーカントリー
2007年のアカデミー賞を席巻したコーエン兄弟監督作品。 2001年の「バーバー」を観て以来、この兄弟の映画は、とりあえず観ておかないと損をするという感覚がこびりついている。 世界観が独特なだけに、好き嫌いの触れ幅が激しく、主観的な感想として当たり外れも多いのだが、今作はアカデミー賞の主要部門を確実に抑えた作品だけあって、またエライ映画世界を生み出したものだと思う。 正直なところ、一度観ただけでは、この映画の本質と染み込んだ味わいの深さを堪能しきれていないと思う。 3人のまったく異なる登場人物たちが暗示するアメリカという国の凶暴性と、不条理さ、虚無的な絶望感。 それらが、絶妙な台詞回しや、奇妙な緊迫感を終始携えた演出の中に垣間見えはしたが、鑑賞者としてそのすべてを確実に捉えきれたかというと、自信はない。 ただそれでも、この映画が持つ深みと、説明がつかない濃密さは感じ取ることができたし、初見としてはそれでいいと思う。 トミー・リー・ジョーンズの哀愁を携えた演技は渋かった。 しかしこの作品の中で圧倒的だったのは、やはり助演男優賞を獲得したハビエル・バルデムの超絶な怪演だろう。 “ぬぼ~”とした風貌から滲み出る奇怪さと、圧倒的な恐ろしさは、悪役史上に残る存在感だった。 自分自身の読解力の低さで、問答無用に「大傑作」と断言できないことは情けない限りだが、それは再び観る時の楽しみとしてとっておこうと思う。 [DVD(字幕)] 7点(2008-08-30 02:39:05) |
1267. 東京湾炎上
《ネタバレ》 映画自体の良い悪いはともかくとして、この時代の日本の娯楽映画には、ハリウッド映画に負けない大胆さというか、肝っ玉の大きさを感じる。 石油コンビナートの爆破中継を求めるテロ集団に対し、特撮映像によって局面を乗り切ろうとする日本政府の様を特撮映画で描こうとすることに、この映画自体に「大胆不敵」という言葉を当てずにはいられない。 「俺たちの特撮技術スゴイんだぜ!」という絶対的な自信を礎にして作るからこそ、迫力のある娯楽性が生まれるのだと思う。 ハリウッド映画の迫力に対して根本的な部分で尻込みしてしまっている今の日本の娯楽映画界に、圧倒的に足りないのはそういう部分だと思うのだ。 かと言って、この映画が問答無用に面白いと言えるわけではない。 ストーリーは今ひとつ説得力と抑揚に欠けるし、中途半端な日本語を喋る外国人キャストはチープさを助長する。藤岡弘、丹波哲郎、水谷豊ら主要キャストのバックグランドも描き方が不十分で深みがない。 が、それでもごり押して、主演俳優の暑苦しい程の哀愁で締めてしまう力強さが、この映画の、この時代の娯楽映画の「価値」だと思う。 [DVD(邦画)] 5点(2008-08-03 01:03:45)(良:1票) |
1268. 崖の上のポニョ
アニメというものは、根本的な部分で「寓話」であるべきだと思う。 そして、理屈ではなく、感覚的な面白さ、愛くるしさ、に埋め尽くされた時、アニメがアニメであるほんとうの価値が見出されるのだと思う。 日本のアニメーション界におけるもはや「神」である宮崎駿の最新作。 CGを駆使し極限まで作り込まれたここ数年のあまりに魅力のない「精密作品」から一転して、手書きの「絵」で紡がれた絵本のようなこの作品の存在と方向性は、圧倒的に正しい。 ストーリーに深みはない。でも、スクリーンいっぱいに映し出される“生命感”に溢れるアニメーションを見ているだけで、ただ“楽しい”。そして、1シーン、1カットに情感が溢れる。 これこそアニメである。幼い頃に見続けたディニーアニメの根幹、そしてジブリアニメの紛れもない「原点回帰」を見れた。 正直なところ、最近2作に対する失望感から、期待よりも不安の方が大きかった。 ただそれでも、ジブリアニメで育った者にとって、宮崎駿の映画というものは、絶対的に心の拠り所なのだ。 幼い頃から与えられ続けた「幸福」と「興奮」と「高揚」を求め続けてしまう。 そうして辿り着いた久しぶりの安堵感。それがただ嬉しい。 [映画館(邦画)] 9点(2008-08-02 00:14:56)(良:2票) |
1269. アフタースクール
前作「運命じゃない人」で、衝撃のスパイラルムービーを見せつけた内田けんじ監督の最新作。またもや、人の思惑と思惑がストーリーの“裏側”で入り交じる展開が見事だった。 何も考えていなさそうなやつが、実は秘めている企みの妙。確信犯的なストーリー以上に、人間が常に秘めている表には出さない感情と真相に、面白味を感じた。 今作では、大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人と、それぞれに味わいを持った性格俳優がメインを張っていることも、「人間の深層(真相)」という部分で、深みを持たせる要因となっている。 日本には今、エンターテイメント映画のジャンルで、良作を連発できる映画監督は少ない。 肯定的な意味で、“同じような映画”を連発する監督が少ないのだと思う。 内田けんじ監督には、今後も、積極的に観客を騙し続ける映画を量産していってほしいものだ。 [映画館(邦画)] 8点(2008-07-13 12:04:45)(良:1票) |
1270. 魍魎の匣
ベストセラー作家・京極夏彦の人気シリーズの2度目の映画化作品。 前作「姑獲鳥の夏」に続き、主要キャラクターを、堤真一を始めとして豪華な俳優陣が同じく演じている。(永瀬正敏が演じた関口だけ、椎名桔平に変わっていたが……) 不思議な映画だった。 ストーリーは、「匣(はこ)」に取り憑かれた男が繰り返す連続少女バラバラ殺人を軸に、怪奇的に紡がれるミステリーだが、その物語のテイスト以上に、“噛み砕けない”映画だったと思う。 京極夏彦の原作を未読で、物語の核心をつかめていないことが、そもそも入り込めない要因なのかもしれない。 おそらくは、原作はもっと緻密にストーリーの裏に蠢く人間の「闇」を描き切っているのだろう。 堤真一、阿部寛、椎名桔平をはじめとする主要キャストの掛け合いはとても秀逸で、彼らのパフォーマンスを観ているだけでも、結構魅せる。 ただそれが、そのまま映画の核心にリンクしていないという印象。物凄く面白いようで、とてつもなくつまらない。完全に相反する感想が共存する感覚が残る。 原作風景を意識した作り込まれたビジュアル、良い意味で仰々しい演技、見所は確実にあり、豪華な舞台作品を観ているようにも感じる。 自信をもって「面白い!」とは言えず、すべてが消化される「快感」はないが、ひとつの映画体験としては、こういうのもアリだとは思う。 [DVD(邦画)] 6点(2008-07-12 09:09:23) |
1271. クライマーズ・ハイ(2008)
とある真夏の日、地方新聞社の編集局フロアが一本の電話を皮切りに、徐々に、確実に、ざわめき始める。 編集局内の人物の配役は、映画ファンにとっては「堅実」と「豪華」が相まみえるベストなキャスティングで、彼らが織り成すその序盤の緊張感を見るだけでも、総毛立ってくる。 昔、地元のTV放送局でカメラアシスタントのアルバイトをしていたことがある。 放送局と新聞社では、根本的にその性質は大きく異なるのかもしれないが、何か突発的な事件の報が飛び込んできた時の緊張感はやはり独特で、フロア内にピンと糸が張るような感覚をよく覚えている。 それが国内事件史に残る未曾有の航空機事故となれば、その糸の張りつめ方は半端なく、各人が努めて冷静であろうとすることで生じる異様な“静寂”と、そこから始まる“怒濤”の情報錯綜の様が見事に表現されていると思う。 1985年。御巣鷹山の日航機墜落事故を題材に、事故を追う地元新聞社での人間模様を、熱く、真摯に描き出した横山秀夫のベストセラーの原作小説も、この映画を初めて観た少し前に読んでいた。 個人的には、ベストセラー作品の映画化に「成功」した稀有な事例だと思っている。 何よりもこの映画の成功を決定づけた要素は、やはりそのキャスティングだ。 それは、それぞれにキャスティングされた俳優たちが、揃いも揃って素晴らしい演技を見せた事に他ならない。 自らの出自と会社との軋轢の間で板挟みになりながらも、信念を貫き、未曾有の事件に向き合う主人公を演じた堤真一をはじめとし、野心溢れる県警キャップを演じた堺雅人、紅一点の新米記者に尾野真千子(最高!)、辣腕上司役の遠藤憲一、新聞社社長に山崎努、田口トモロヲ、堀部圭亮、滝藤賢一、でんでん、マギー……決して流行のスター俳優を揃えたわけではない本当の意味での“オールスターキャスト”だと思う。 描き出されるストーリーは原作同様に、大事故に直面した人間たちの徹底的にリアルな心理描写を主題にしているので、安直な盛り上がりは許されない。 クライマックス、大スクープを手中にした主人公は、最後の最後まで「チェック、ダブルチェック!」の慎重な信条を貫き、ついにはそれを回避してしまう。 観客として「ええ~」と一寸思うが、見返す程にこれこそが真摯な人間描写だと思える。 安易な娯楽性に走らず、それを貫いた原作者も監督も脚本家も、それぞれが一様に技量が高く、巧い。 いまひとつ世間的な評価が低いことが気になるが、何度観ても、その当時の夏の熱さを伝えてくる紛れもない傑作だと思う。 [映画館(邦画)] 10点(2008-07-07 00:21:50) |
1272. アヒルと鴨のコインロッカー
《ネタバレ》 ふとこういう色々な意味で驚きに溢れた良い作品にめぐりあうから、映画はやめられない。 進学のため越してきた普通の大学生が、突然隣人に「本屋を襲わないか?」と誘われる。 なぜ、隣の隣のブータン人のために本屋を襲わなければならなかったのか?……なぜ、ディランを歌うのか?……なぜ、「じゃあ河童の方」の河なのか?、さりげなく散りばめられた伏線が結びつき、紡ぎ出された「真実」に、突如として感情が揺さぶられた。 伊坂幸太郎の原作は未読で、「映像化不可能」と言われいた文体がどういうものなのかは、この映画化作品を見た後だからこそ、殊更に気になる。 こういう映画は、感想の言葉を並べれば並べる程、蛇足になってしまう。 ボブ・ディランの「Blowin' in the Wind」によって繋がった出会いは、きっと神様が「彼」に差し伸べた「救い」だったのだろう。 [DVD(邦画)] 9点(2008-06-21 16:55:53)(良:1票) |
1273. 転々
「人生」なんてものは、まさに“転々”としていくもので、悲しい事も、嬉しい事も、順繰りにめぐるものだと思う。 ただ、幸せは、はっきりと目に見えるものではないし、これがそうだと実感できるものではないから、見逃してしまいがちで、辛い事ばかりに目がいってしまうのだと思う。 そういう人生の中での、ささやかな幸せを、淡々と、とぼとぼと、踏みしめるように映し出した映画だった。 三木聡監督らしいゆる~い可笑しさと、ふいに垣間見せる温かさの中で、オダギリジョーと三浦友和がさらにゆる~く息づく。 冒頭では、ただの借金を抱えた大学生とそれを追う取立屋だった二人の関係が、東京の可笑しさに溢れた“散歩”を通じて、次第に“疑似親子”のそれになっていく様に、人と人が触れ合うことによってはじめて生じる滑稽さと、その素晴らしさを感じる。 むさくるしい風貌の男二人の掛け合いがメインの映画なので、上野樹里と蒼井優が出演した「亀は意外と速く泳ぐ」ほどの華やかさはなく全体的に地味な感じはあるが、その分、じんわりと暖かみが染み渡る作品だったと思う。 [DVD(邦画)] 7点(2008-06-21 10:46:14)(良:1票) |
1274. ルネッサンス
モノクロームの「白と黒」というよりも、はっきりと「光と影」によって織りなされるスタイリッシュな映像世界に、先ず面食らう。 アニメーションの新たな表現方法としての衝撃性は高く、元来こういうビビットな世界観は嫌いではないので、充分に惹き込まれた。 ただアニメーション映画として、面白かったかというと、「もうひとつ……」という感は拭えない。 「近未来」「巨大企業」「人類存続に関わる陰謀」「謎の美女」……、もうこういうエッセンスは、近年のSF映画では使い回され過ぎていて、少しも新しさを感じない。 その結果、映像世界自体は革新的なものなのだろうけど、終始どこかで観たような感覚から抜け切ることができず、悪く言えば、大味なSF娯楽大作をちょっとセンス良くアニメチックに仕上げたくらいの印象しか残らない。 せっかく、映像的にあれほど冒険したのだから、ストーリー自体にももっと意外性のある新しい感覚を用意してほしかったと思う。 [DVD(字幕)] 5点(2008-06-21 10:36:55) |
1275. JUNO/ジュノ
16歳で妊娠をしてしまった少女の等身大の姿が、いろいろな意味でとてもナチュラルに描かれた映画だった。 少女のある種とても生々しい感情や葛藤をダイレクトに描きつつ、映画としての核心は、少女を含め「妊娠」という現実に直面した周囲の人々の“不完全さ”を、時に辛辣に、時にあたたかく表現している。 結局、大人になりきれないのは、十代の少年少女たちだけではなく、「大人」そのものも、同じように未成熟であって、だからこそ幸福に結びつく事もたくさんあるということが、この映画の真意ではないかなと思った。 この映画の中で描かれるすべてのことが正しいなんて思わないけど、人間なんてものは、ああやって間違ったり、悩んだり、泣いたりしながら、少しずつ成長して、生きていくものだと思う。 目新しい奥深さはないけれど、展開されるストーリー以上に、物語るものは大きい映画だ。 [映画館(字幕)] 8点(2008-06-14 18:20:22) |
1276. ザ・マジックアワー
三谷幸喜が、「映画」そのものをパロディー化した「映画」を作った。 それは、今の日本を代表する喜劇作家が、辿り着いた一つの到達点かもしれない。 前作「THE 有頂天ホテル」ほどの娯楽映画としての煌めきはないが、それ以上に、「映画」そのものに対するあらゆる憧れと愛に溢れた映画だと思う。 ひたすらに銀幕での成功を夢見る売れない映画俳優を、今や日本映画界のトップ俳優と言っても決して過言ではない佐藤浩市が演じるという“面白さ”。 そしてその映画俳優の滑稽な様を、絶妙に演じて見せた佐藤浩市と、それを引き出した三谷幸喜。 この俳優と監督のコラボレーションの成功が、そのままこの映画の成功だと思う。 喜劇を、ただ喜劇で終わらせないことが、三谷幸喜という作家が優れた部分で、この映画の核心も、そういう要素が溢れる。 売れない映画俳優が、ギャングの抗争に巻き込まれ、騙されたままひたすらに演じ続ける。 そこには、作り込まれた笑いのエッセンスと共に、どこまでも自分の夢を真っすぐに追い求める不器用な男の愛すべき姿が表われる。 映画が好きな人、夢を追い求める人、または追い求めたことがある人にとって、その姿には、特に胸を締め付ける程の感慨深さが残る。 良い映画だったと思う。 [映画館(邦画)] 7点(2008-06-10 00:34:49)(良:1票) |
1277. クローバーフィールド/HAKAISHA
いやスゴイ。紛れもない凄い映画だと思う。実際その一言に尽きる。というか語り出したら、とても語り尽くせない気がする。 「突如,謎の大怪物に襲われる」 という有り得ない事象を、これほどまでに忠実に描いた映画を僕は他に知らない。 というよりも、そもそもこれまでそんな試みをした映画は無かったと思う。 その恐怖と絶望を描く際、これまでのモンスター映画のほとんどすべては、その怪物がどれだけ恐ろしいか、残虐か、という怪物そのものの“正体”に注力してきた。 しかし、よくよく考えてみれば、突然見たことも聞いたこともない巨大モンスターに襲われている当事者たちが、その正体を知り得ることなど不可能に違いない。 突然のパニックと絶望に対し、ただ闇雲に逃げ惑うことしか出来ず、その「目線」に立つことこそ、最も効果的な「恐怖」である。ということに気付き、圧倒的にシンプルで、尚かつ大胆な手法で描き出したこの「映像」の製作者たちは、スバラシイと思う。 決して大袈裟ではなく、この作品は、「ゴジラ」や「キングコング」、「エイリアン」、「ジョーズ」など多くの名作が存在する“モンスター映画”というジャンルにおいてその歴史を塗り替えるものであり、傑作と言って間違いはない。 この作品が、敢然たる傑作と言うにふさわしい理由は他にもある。 アイデア勝負と言えるような大胆な手法の中にあって、非常に繊細で切ない演出が含まれていることだ。 人間の何気ない生活の中の幸福や成功や諸々の感情が、途端に恐怖とパニックに浸食されていくという“有り得ない現実”。 そして、ある二人の幸福な一日の描写が、問答無用の「絶望」によって文字通り”塗りつぶされていく”という様を、一本のビデオテープの中で表現したこと。 それが、この衝撃的な「映像」を、絶対的に素晴らしい「映画」へと昇華させている最大の要因だろう。 「幸福な一日だった」 残された一言が、ただ染み入る。 [映画館(字幕)] 10点(2008-04-18 23:35:11)(良:4票) |
1278. マイ・ブルーベリー・ナイツ
「2046」以来、久方ぶりにウォン・カーウァイの映画を観た。この映画監督の味わいを思い出すと共に、自分が彼の作品を大好きだったことを思い出した。 ストーリーに深みがあるわけではないが、映画自体が薄っぺらいわけではない。 それは、登場するキャラクターの息づかいと振る舞いを、独特の映像世界の中で丁寧に映し出しているからだと思う。 何気なくも美しいものを、確実に美しく描き出すことに、この映画監督は長けているのだ。 映画初主演のノラ・ジョーンズを筆頭に、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマン、この映画に出演するそれぞれの女優は、もちろん確かに美しい。ただ、描き出されるものは、ビジュアルを超えた彼女たちの内に秘められた絶対的な美しさだったと思う。 その言動を見ているだけで、ただ幸福になる感じ。それはイコール、映画を観るという「幸福」の本質的な部分だと思う。 自分の好きな映画が、良い映画。映画に対する価値観とは、本来そういうものであり、それ以上でもそれ以下でもない。 ただ、春の夜に、温もりと甘さに溢れた空気に包まれる。 [映画館(字幕)] 8点(2008-03-29 01:09:55) |
1279. 人のセックスを笑うな
そもそも映画の評価など"個人的な価値観”の極みだと思っているので、この映画の場合、永作博美は悪戯な笑みが魅力的すぎて、蒼井優は久々に脇役ならではの素敵な存在感を放っていて、それだけでもう満足してしまうというもの。 全編通したまったりとした空気感の中で、息づくそれぞれの何気ないロマンスをぼやっと眺めているだけで、この映画は成立していると思う。 ただ、そういう雰囲気を楽しむ作品としては、少々尺が長い気もする。 ストーリー自体に特別な抑揚はないのだから、もう少しさらっとまとめてくれた方が、もっと心地よい余韻が残ったと思う。 あと主人公である永作博美演じるユリの人間性を終盤もう少し描いて欲しかった。 ミステリアスで魅力的な美術講師としての存在感はとても素晴らしかったけど、結局彼女はどういう人間なのか?という部分が曖昧なままで、その心象風景が見えてこなかったのは残念だし、そういう部分が思ったよりも感情が揺れなかった原因だと思う。 終盤の露出が減り、最終的に蒼井優に食われてしまった感がある。その辺りの切替えが監督の狙いかどうかは分からないが、この作品の場合は永作博美の「存在」を最後まで押し通すべきではなかったかと思う。 [映画館(邦画)] 6点(2008-03-22 16:44:51)(良:1票) |
1280. 犯人に告ぐ
かつての誘拐事件で心に傷を負った敏腕刑事が、新たに巻き起こった連続児童殺人事件を、テレビを通じて犯人と対峙する「劇場型捜査」として挑む。 原作は未読だったので、色眼鏡なく展開するストーリーに入り込むことができ、トータル的にはまずまずよく出来た映画だという印象に落ち着いた。 主人公を演じた豊川悦司は、キャラクターによく合い安定した演技を見せたと思う。笹野高史をはじめとして、脇を固める俳優陣は地味めながらも実力者揃いで味のある存在感をもって作品を支えていた。 想像するに、原作をうまくまとめて決して破綻することなく映像化しているのだと思う。ただその体裁の良さが、同時に映画作品としてやや「味が薄い」という印象に繋がっているとも思う。 「劇場型捜査」というセンセーショナルな要素を核心に据えてはいるが、このストリーのミステリー性はそれほど練り込まれたものではなく、むしろベタと言える程シンプルだ。 原作を読んでいないので想像の範疇を出ないが、この物語の本質は、真犯人特定のプロセスではなく、主人公を中心とした「劇場型捜査」に絡む群像のドラマ性にあるのではないかと思う。 そういう意味では、もう少し主人公以外の登場人物たちの人間性を深く掘り起こして欲しかったと思う。そうすれば、もう少しアクの強い映画に仕上がったのではないか。 [DVD(邦画)] 7点(2008-03-22 03:12:43)(良:1票) |