141. クラッシュ(2004)
非常に良く出来たこの映画の画像と脚本はとても暖かく、やわらかくアメリカを描く。でも、この映画に登場する人物たちは、いろいろ問題を含んだ行動や考え方を持っているのではないだろうか。人種への偏見や、ヒステリーとか、虚栄心とか。けっしてそのまま見過ごしてはいけないことのような気がする。結論としては一つ。この映画は群像劇、それもとてもよく出来た群像劇として完成度が高い。その完成度の高さのおかげで、様々な人間の織り成す世界が美しく見えてくる。でも、それはある意味で神の視点から見たときに初めて生じる美しさだ。それにごまかされてはいけない。確かに人間はたまに愚かで、たまにいとおしい。でもできるだけ愚かさを減らしていくべきだろう。確かに人間が弱い生き物だっつうのは分かる。でもゆずっちゃいかんこともあると思うのだ。この映画が評価されるなら、ただ映画としてのみ評価されてほしい。決して描かれている内実までも肯定してしまわないように。 [映画館(字幕)] 7点(2006-03-05 21:14:41) |
142. 歓びを歌にのせて
空気の分子が動くことで、なぜか僕らの耳には「音」が知覚される。それは「奇跡」とかたいそうなことではなく、単に事実としてある。しかも、この音というのは違う波長同士の重なりによって立体的な空気の振動空間を作り出せる。この映画は、そうしたフィジックスを「体感」できる映画として貴重だ。純和声だけではない。たとえぶつかり合う波長同士であっても、空間を振るわせる動力として一つになれる。比喩かもしれないが、これこそ世界の成り立ち方ではないかと思う。それに比べてキリスト教の狭量さはどうか。理論的な根拠は究極のところまでいかないともろい。人間は考え抜いたものしか信じれない。いやむしろ、感性的なよりどころしか信じれないのかもしれない。ヨーロッパが抱える「神という光が闇として機能している」という矛盾を抉っている点でも、この映画の視線は深い。 [映画館(字幕)] 7点(2006-02-02 22:46:02) |
143. THE 有頂天ホテル
饒舌な味わいの良質な喜劇。抜群にまとまったシナリオの展開は、まさに至芸。良質なコメディほど、内容よりも後味が残るという良い例。濃密で楽しい時間を過ごすならワインも良いがこの映画もお勧めです。「The wow-chouten Hotel」に泊まってみたい! [映画館(字幕)] 9点(2006-01-18 01:13:50) |
144. タイムレスメロディ
「かってにはいってごめん」「コーヒー飲んでいきなよ」「ううん。帰る」「飲んでいきなよ。飲んだらすぐにかえっていいからさ」 だれにでもなんとなく、1人になりたいときがある。誰とも話したくないときがある。相手が1人でいたいなと思うってるだろうとき、こういう接し方があるのだとこの映画を見て学んだ。 緩やかに確実に変化を起こしていく時間。とどまりたくてもとどまれない場所の美しさが、伝わってくる。物語としては目立った所はないが、なんか雰囲気があって、それだけでも見る価値はあるような気がする作品。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-01-18 01:04:50) |
145. 50回目のファースト・キス(2004)
最近、記憶喪失系の恋愛映画が結構多いけど、この映画はあまり堅苦しくならず、とても分かりやすくまとまっていると思う。それにしても、アメリカ人のユーモアって、日本人の僕からすると想像を越えた所から出てくる。アダム・サンドラーの台詞を考え出した思考回路について思いをはせるとそれだけで楽しい。Beach Boysの曲もいいアクセントになってるし、十分に楽しめる映画になっている。 [ビデオ(字幕)] 7点(2006-01-02 14:11:08) |
146. スパニッシュ・アパートメント
自分ではないほかの人と馬鹿話や堅い話で盛り上がるには、語学力だけでなく、自分の知識や見方をフルに走査することが必要。もちろん、「フルに走査する」ってところを自然にやれることが条件だけど。主人公も言ってるけど、人間は話す相手ごとに人格を変えているといってもいい。僕は同い年の友人が死んだ時、友人そのものだけでなく、彼と話していたときの自分のテンションや話題の持っていき方とかも一緒に死んでしまったのだと気づいた。そんな風にして、人間は自分のアイデンティティを他の人と一緒につくりあげているのだ。自分はなにものだ!とアイデンティティにこだわるのではなく、いろんなアイデンティティをもちながら自在に世の中をすり抜けていく、そんな生き方をこの映画は見せてくれているように思う。 [ビデオ(字幕)] 8点(2006-01-02 13:58:16) |
147. バタフライ・エフェクト/劇場公開版
《ネタバレ》 人を好きになるということは人間関係に濃淡をつけることだ。好きな人と、好きではない人の間に線引きをすることだといってもいい。主人公が最終的に選んだ「最も大切な人と関わらない生き方」とは、この「濃淡をつけるという仕方で人を好きになること」を拒む生き方だといえる。記憶の作り変えが教えるのは、今生きている世界が偶然の産物だということ。そのことから今の世はかけがえないと考える人もいるだろう。しかし、大切な人を好きになることが偶然だとしたら、そのことに人間は耐え切れるか? 偶然だからこそ運命的なのかもしれないが、そんな空虚な理論的運命では人は生きれない。リアルに実感できる運命が必要だ。こんな風に、人間関係の濃淡付けに必然的な理由や意味合い(運命)が見いだせないとき、明晰な知性が選ぶのは「人間関係に濃淡をつけない」生き方ではないか? 「記憶を作りかえる能力」を「想像力」に置き換えれば、この映画の主題は全ての現代人にも通じる。思いのほか深い傷跡を残して。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-12-20 00:43:11) |
148. コンスタンティン
めくるめく地獄絵巻。見終わって、周りを見渡しながら「あいつは悪魔系のハーフブリードだな」とか考えちゃってる自分が恐い。かなりメイクがすごいことになってるレイチェル・ワイズの女優魂にも敬意を表したい。 [ビデオ(字幕)] 6点(2005-12-07 21:31:34) |
149. オールド・ボーイ(2003)
《ネタバレ》 シナリオが不十分だと思う。15年という歳月をかけた復讐の動機についてアイデア不足。説得力がない。この程度の理由ならば敢えて謎解きする必要がなく、まったくもって無駄な気がした。ただ、ミド演じた女優はとても魅力的だし、ラスト近くで自殺したものと生き延びたものを対比するシーンも美しかった。一言でいえば、「胸糞の悪い映画」だが、そういうマイナスの方向に観客の感情を揺さぶるのがこの映画のねらいならば、おとなしく脱帽するしかないだろう。でも、僕はそのねらい自体が大っ嫌いだ。だから点数なんて客観的な指標にするにはあまりにも個人的過ぎる理由で4点。 [ビデオ(字幕)] 4点(2005-12-07 21:19:57) |
150. Mr.インクレディブル
基本は面白い。一人のちょっと普通じゃない人間のドラマとしても十分に見れる。でも、ふと冷静になって見てみると、Mr.インクレディブルの台詞のひとつひとつが今、アメリカが世界に向かって話していることとまるっきり同じやん!ってことに気づく。「助けてやったのに文句言うな」というくだりとか、ほんとそのまんま当てはまる。平凡=つまんないとか、悪いやつを見つけるとわくわくしちゃう所とか、あんまり気持ちのいい考え方じゃない。一つの映画としてみると何の害もない良く出来た楽しい作品だけど、アメリカの精神を表す作品としてみると、ちと寒気がする。 [ビデオ(吹替)] 6点(2005-11-03 21:45:12)(良:2票) |
151. アイデン&ティティ
「あなたのやりたいことをやればいい」と、分かったように言われると「でも、やりたいことがわかんない。今やりたいことなんて、結局まわりの影響を受けただけのことじゃないか。僕が本当にやりたいことなんてねえよ。」と言い返したくなる。でもこの映画がきちんと描いているように、例えまわりの影響を受けただけだったり、社会の流行にだまされただけだとしても、「それでも好きなんだからしょうがない」と思えるものこそが答えなんだ。ロックが好きだという思いが、本当に自分自身の中から湧き上がってきたんだと言い切る自信はないけど、でもロックしている時の自分の感情は誰になんと言われようと本物なんだ。同じ話が、好きな恋人との関係にも当てはまる。だからロックをしてない自分に自信がない。そんだけの映画。でもいい映画。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-10-29 23:55:23) |
152. サマータイムマシン・ブルース
うひゃひゃ。正直おもろい。確かに心に訴えかけてくるドラマ的な普遍性はない。しかし、ここまで徹底的に練り上げられたシナリオは、ある意味神々しい。人は、誰かがなにを話してるかよりも、誰かが徹底的に何かをやりぬくことに対して敬意を抱くものだ。だから僕も尊敬します。ご多分にもれず。撮影の舞台となっている四国の美しさもポイント高いし、題名のセンスにもちょっと惹かれるし、基本的に全面降伏です。 [映画館(字幕)] 9点(2005-10-25 01:07:34) |
153. まだまだあぶない刑事
なぜかこの映画では、ありとあらゆる撮影方法が駆使されている。ものすごく凝ってるなというのが第一印象。とくに町田透課長を取ったシーンはヒッチコックのめまいを髣髴とさせる凝りッぷり。木の実ナナを足から登場させたのにはびっくり。ほかにもフォーカスのずらしや、画面の構成など、サービス精神はたっぷり。もしろん、お約束の派手なアクションやギャグの応酬も健在。ただ、全体的に切れが悪い。ストーリーとかをもはや気にしていないのはいいとして、単純な勧善懲悪型のスタイルをとらず、ちょっと真面目な部分も入れちゃったことで爽快感がなくなったせいだ。自分たちの外部にはっきりとした悪を見つけれられなくなった現代では、すこしずつ感情の発散が難しくなってきている。そういった中で笑いに救いを求めるはありうる選択肢だとは思うが、さすがに笑い飛ばさなきゃいけないことがこんだけスケールでかいと、正直しんどい。映画としてみれば、もっとエンターテイメントに徹しても良かったとは思うが、ある意味、現在の世界をよく表現した映画になってるから、評価はむずかしい。 [映画館(字幕)] 6点(2005-10-23 22:55:30) |
154. リスボン特急
冒頭。一台の車をフレームに収めながら追うカメラ。無言のまま銀行強盗がはじまってゆく。その語りッぷりのうまさに、熟練した監督の手腕を見る。ストーリーはたいしたことはない。サスペンスにとって重要なプロットも普通だ。だけど、材料から考えれば当然凡庸な作品になるはずのこの映画を素敵な映画にしてるのが、監督や俳優のうまさだ。一言で言ってしまえば「雰囲気がいい」。こういう老獪な映画は、すこし渋すぎるのが気になるが、曇りの日に見ればそんなことも気にならない。フランスらしい、適度にひねくれた作品だ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2005-10-23 22:36:47)(良:1票) |
155. スペーストラベラーズ
雰囲気に似つかわしくないラストだったから、評価が分かれるのは最もという気がする。クリアに明るいテンションが突如として物悲しさに反転したとき、なんだかとても切なくなった。どうしてこんだけ特殊なシチュエーションでなくては、人は心を通じ合わせることが出来ないのだろう。そんなに日常生活はつまらないですか? 個人的な意見としては、日本人は強度ではなくヒネリを楽しむべきだと思う。物理的ではなく、知的に遊ぶのだ。そのために学ぶのだ。あくまでも気楽に。 [映画館(字幕)] 6点(2005-09-23 17:04:20) |
156. 早春(1956)
まぶぜたろうさんもご指摘のように、岡山にきた淡島が、池部と再会した時の一言、「こんちわ」は素晴らしいと思う。挨拶の魔力が端的に表現されている。この言葉の魔力が人を近づけたり、遠ざけたりする。よくよく振り返ってみると、「こんちは」は常に小津映画の中にあったのであるが、この作品ほど劇的にハイライトはされている例はないだろう。あと、通勤ラッシュのシーンにびっくり。ホームが人で文字通り溢れている。それと、元兵隊たちのなかの、郷愁にも似た感情。戦争はイヤでも、男同士でつるむ楽しさは現在とあまり変わらないようだ。 [ビデオ(字幕)] 9点(2005-09-21 17:15:27) |
157. 麦秋(1951)
小津映画のポイント(常套句とも言うか?)が全部まとまって出てきて、これを見とけば、後の映画は全てバリエーションとして捉える事が可能。個人的には、この作品が小津作品の中で一番好きです。 [ビデオ(字幕)] 10点(2005-09-21 17:07:24) |
158. 風の中の牝雞
《ネタバレ》 この映画が描いている倫理的な問題については意見が分かれそうである。僕個人はそういった倫理的な問題点を萱の外にしても、この映画は良く出来ていると言う評価が可能なように思う。それは、この映画が持っているサスペンスフルな緊張感が尋常でないからだ。妻の制止を振り切って外に出て行こうとした夫は、勢い余って妻を階段から突き落としてしまう。このシーンのカメラの静かさは、同情とか思い入れをまったく感じさせず、非情さささえ感じさせる。ゆっくりと起き上がる妻を、ただ見つめる。ラストでは、夫は妻を許し、抱きつく。両脇に垂れていた妻の両手が、夫の背中を這って出会う。このシーンの静かさも不気味なほどだ。これほどの緊張感がある以上、この映画は「映画的」に素晴らしいといわざるをえない。主人公達の選択の是非については、人それぞれで考えるか、あるいは結論にたどり着けそうもない倫理学の先生にでも任せればよい。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-09-21 17:01:17) |
159. 秋日和
この映画は、司葉子がきれいという一言に尽きる。原節子、司葉子親子なんて、犯罪である。しかもアパートが小津映画では毎度おなじみのところだし。よくよく振り返ってみると、小津映画では役柄の名前もかなり使いまわしている。「節子」「綾子」「のりこ」が女性の名前では一番出てくる。男では、なんと言っても「勇ちゃん」か! [ビデオ(字幕)] 7点(2005-09-21 16:48:11) |
160. 晩春
秀逸なのは、お見合い話を持ってきた父と一緒に歩くのがイヤで、友達の家に行くといって父から離れるシーン。広い道幅をいっぱいにつかい、まさに映画的な描写に成功している。蛇足だが、清水寺が今と全然変わらないのに、北鎌倉駅がかなり変わってるのにおどろいた。 [地上波(字幕)] 8点(2005-09-21 16:44:03) |