141. 探偵物語(1951)
《ネタバレ》 「ワイラーの階段」がでたー。『黒蘭の女』のラストの肯定的な大逆転の階段もあれば、『探偵物語』の暗転の階段もあるというわけだ。『女相続人』の、駆け落ちの相手にすっぽかされた主人公が自室へと戻る際の、失望の長い階段、というのもあった。 さて「内容」だが、罪に対する厳格主義の主人公について、「父を憎んでいるから」という「精神分析的な」説明がなされるとき、観客はなんだか大きく頷いてしまう仕組みなのであろう。エディプス期を円満に「卒業」できていないゆえに、マザコン男としてバランスを欠き、過酷な超自我を模倣してみせる、のだろうか。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-30 18:27:14) |
142. しあわせの隠れ場所
《ネタバレ》 こういう映画の「偽善性」を言うのは簡単であるし、それがいいのである。きもちよく「偽善性」を見定めることにしよう。陰気にではなく。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-28 18:53:58) |
143. メリーに首ったけ
《ネタバレ》 上手なラブ・コメ。メリーの「大切なもの」に襲いかかる男がメリーその人ではなくその靴を獲得しようとしたり(換喩への位置ずらし)メリーに首ったけの男たちの競争であったり(悪事の数々の相対化、みんな一生懸命なんだし、と)。下ネタの濃厚さは、かつてのヘイズコード(映倫)のハリウッドでは考えられなかったもの。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-26 19:24:52) |
144. シザーハンズ
《ネタバレ》 長所は、異形の主人公がほとんど違和感もなく家族の一員として受け入れられる筋、である。この「越境」の有り様のみがオモシロイ。あとはすべて子供向け「アトラクション」映画である(非道の敵対者に対する死の報復もまた子供レヴェルのカタルシスである)。 [DVD(字幕)] 3点(2012-05-09 18:23:05) |
145. 素肌の涙
《ネタバレ》 性的虐待を行う父は二重人格のなかに罪意識を隠していたことがやがて判明し、被害者たる娘の主体性は隠れてしまっており、この犯罪を追及する弟の探偵的な自律性もなんともひ弱である。各人の主体性のこのような隠然たるありようは、あくまで暗く美しい画面とともに、たいへん映画向きなのである(演劇的ではないという意味で)。 [DVD(字幕)] 5点(2012-05-05 23:35:33) |
146. 17歳の夏
《ネタバレ》 フランス映画らしい長回し手法で、人物配置やプロットもシンプルな造りながらも見事に充実している。中年になったあの風采の上がらないドニ・ラヴァン(かつての「アレックス」役俳優)にうら若き乙女が死に至る恋をしてしまうのである。これについて十分に納得のいくように構成されている、と言いたいところだが、やはり彼女が死ぬことはないから、その点では無理があるかな。とにかく、一瞬の厭世的なラディカリズムの罠といったところ。 [DVD(字幕)] 6点(2012-05-04 23:22:38) |
147. レインマン
《ネタバレ》 ロードムービー部分が作品の「いのち」であろうしそこをもっと充実させてもいいかもしれないが、甘口のエンディングにしないようなんとか「ふみとどまっている」だけでも、さすがダスティン・ホフマン映画である。ダスティン・ホフマンが皆の一方的な「見た目」(客体)であって「切り返し」で 見返す主体ではないということ、これはこの映画の露出した特徴になっている。 [DVD(字幕)] 5点(2012-04-22 09:43:22) |
148. 日曜日には鼠を殺せ
《ネタバレ》 あのジンネマンのスペイン市民戦争がらみの「真面目な」抵抗映画的な作品である。映画なので敵の悪役の視点からけっこう描かれたりもする(常套表現だが、このことのみがそれなりに興味深い)。人の生死が問題になるような話なのに子供の起用がまったく迫力を欠くのは、この作品のつまらなさの一例である。 [DVD(字幕)] 3点(2012-04-22 00:04:23) |
149. グラン・トリノ
《ネタバレ》 上手に無駄無く一本制作したという感じ。手慣れたものである。ところで、銃社会では老人でも銃を手にすれば本格的な暴力主体となりうる、ということの裏返しで「丸腰」の結末はある。 [DVD(字幕)] 7点(2012-04-14 13:23:28) |
150. ブラック・スワン
《ネタバレ》 女性同士の競争という話題が狭苦しい感じだし、親からの遅延した自立という話題も安易かな。 とにかくこれはもうホン(スジ)の問題。1スジ 2ヌケ 3ドウサ と言われる(マキノ省三)。 [DVD(字幕)] 4点(2012-04-09 01:16:30) |
151. サンザシの樹の下で
《ネタバレ》 チャン・イーモウももはや「ザ・権力」なので『初恋の来た道』のような好意的な受け止め方をしないゾとこちらは身構えるところがあったのだが、やはり巧い。きちんと計算の行き届いた配置、とくに川をはさんだ別れのシーンはほんとうに深い感じで入っているとおもう。 [DVD(字幕)] 7点(2012-04-09 00:59:21) |
152. ロング・グッドバイ
《ネタバレ》 カラーのフィルム・ノワールがいい、夜のシーンが多くて黒っぽいがそれもいい。フィルム・ノワールらしく長回しでそれこそタバコの煙ばかりで、とぼけた味もあっていいのだが、主人公が突然自分の判断で人を殺すのには驚く(これもフィルム・ノワール的な常識か、死刑廃止的な観点から見ているとびっくりすることになる、銃社会アメリカ)。アルトマン好き、なんだけど、少々登場する暴力シーンの重さは、かつてのフィルム・ノワール(40~50年代)では回避されたのである。 [DVD(字幕)] 7点(2012-04-06 22:51:45) |
153. ナイト&デイ
《ネタバレ》 ドンパチにより死体でうようよの機内シーンで早くも『ショアー』における「死体の山」を思い浮べた。野暮は承知でやはりあえて言っておかなくてはならないでしょう、ひたすら快適な娯楽映画だからといって排除の暴力に無関心であっていいはずがないこと(もちろん「無関心」だからこそ「ひたすら快適」なのだが)や、どんな殺し合いがあってもおとがめなしに無傷で生き残る主人公はアメリカというものの隠喩であること、などを・・・というように受け取るよう挑発している映画だとはいえ。 [DVD(字幕)] 5点(2012-03-13 23:09:21) |
154. エスター
《ネタバレ》 エスターの主観ショットとして揺れる画面の恐怖、動物虐待から人間へと移行する暴力、嘲笑される安手の精神分析という無力な審級、異常な事態に鈍感である者が真っ先に犠牲にならねばならないプロットの運び、すべて常套であろうが、こういうホラー・サスペンス(つまり観客に暴力的な危険の存在がいち早く知らされるハラハラもの)の強制的なありようには疲れる(ヒッチコックのサスペンスはそこが違う、と言ってもせんないが)。日常生活の平穏さというものはもろもろの不快・不安を抑圧する蓋の上にあり、この蓋をつついてしまったためにそれが開くとき元の不快・不安が巨大に膨れ上がって噴出する、というホラー映画の本格的な精神分析的・哲学的なコンセプトを、 もっと明瞭にしてもよい。「アメリカ白人中産階級の欠けるところない家庭の幸福」の表象が必然的に引き寄せるホラーなのである。 [DVD(字幕)] 6点(2012-01-05 13:31:49) |
155. 青春群像
《ネタバレ》 模索中の若者(劇作家志望、「師匠」の後についていくうちになにやら「ぞっとして」身を引く)に強い風が吹いているシーンの風がいい。フェリーニと風といえば『81/2』の記者会見のシーンの強い風、あれも良かったな。 [DVD(字幕)] 6点(2011-10-17 13:59:52) |
156. アジョシ
《ネタバレ》 正視し難いくらいの残酷さ・阿鼻叫喚である。せっかくだからこの機会に、臓器売買の原因たる臓器移植や、「殺す正義」(死刑制度なども含めて)は、ほんとうに「あり」なのかどうか、深く考えてみたい。それくらいの問題提起をしているのでなければ、大いなる無駄ではないか、このような映画は。 [映画館(字幕)] 4点(2011-09-24 22:51:17) |
157. 花とアリス〈劇場版〉
《ネタバレ》 真ん中の木立が画面を二つに分けている。センパイを引き連れているアリスが、木立につかまって、左のフレームに体を乗り出して、花に電話をする。この人どうするの?センパイは右のフレームにおとなしく収まって料理されるのを待っている。花が答えて曰く、「記憶喪失」のセンパイはアリスの元カレっていう設定なのよ。アリス目を点にして「うっそぉ、はやく言えよ」。このなんとも可笑しいシーンだけでも、ほんとうによくできた瑞々しい「映画の映画」だ。映画の筋の展開を、登場人物がフレーム内フレーム(木立)につかまって相談するという「映画の映画」。 [DVD(邦画)] 10点(2011-08-19 13:14:38)(良:1票) |
158. アジャストメント
《ネタバレ》 ドアとともに映画史はある。ドア一枚で異界と日常世界が接しているという発想は面白いし、映像的にも刺激的である。とくに主人公が、異界から日常へドアを介して投げ込まれるとき。 [映画館(字幕)] 5点(2011-06-11 22:55:31) |
159. フラガール
《ネタバレ》 蒼井優の踊りだけでも値打ちがある。しかし、「受けなかったら(入りが悪ければ)どうしよう」恐怖症の作品である。すこし恐がりすぎ、ベタにやりすぎで、そういう映画が多すぎる。 [映画館(邦画)] 5点(2011-03-26 11:28:17) |
160. 蟻の兵隊
《ネタバレ》 この映画を観ながら私は、比較の意味で、アイヒマンを扱った映画『スペシャリスト』を思い浮かべていた。個々人としてはみな小心で凡庸なのに集団としては残虐なことをしてしまう、とは『スペシャリスト』の認識で、そういうふうについ言ってしまうが、そういう理解の仕方ではものの役には立たない。もっと正確には、集団の上下関係の残虐性ということなのだ。集団の上下関係の残虐性に歯止めを掛けるような仕組みを制度化すること(いかにして可能か?)が必要だ。ターゲットは中国人というより、ひょっとしてむしろまず日本人下級兵だったとしたら?このことをあの『ゆきゆきて神軍』も強力に取り上げたのだった。これは過去のハナシではなく、集団の上下関係の残虐性が現在の日常において批判的に検証されているかどうかが問題なのである。 [映画館(邦画)] 7点(2011-03-26 10:34:12) |