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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 620
性別 男性
自己紹介  「監督の数ではなく、観客の数だけ映画が有る」という考えでアレコレ書いています。
 洋画に関しては、なるべく字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くというスタンスです。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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161.  ゾンビランド:ダブルタップ 《ネタバレ》 
 大好きな「ゾンビランド」の主人公四人組が、十年後も家族であり続けたという、それだけでも嬉しくなっちゃう映画。   家族ともなれば当然、意見が合わなくて喧嘩別れしちゃう事もあるんだけど、最後は元の鞘に収まり仲直りっていうのも気持ち良かったですね。  誰か一人くらいは死んじゃう可能性もあるかもって警戒していただけに、そんな懸念を吹き飛ばして全員生存エンドを迎えてくれたのも嬉しかったです。   監督も主要メンバーも同じ顔触れが揃っており、前作が好きな人なら安心して楽しめる内容となっているんですが……  「終盤の展開が雑」っていう欠点まで前作と同じだったりして、ちょっと困っちゃいましたね。  「ゾンビも進化して、更に厄介な敵となった」という伏線があったのに、それに殆ど意味が無かったという肩透かし感も寂しい。  「高さ」を利用してゾンビ達を一斉に退治するクライマックスも、中々痛快ではあったんだけど、上述の設定があるせいで (これなら敵は普通のゾンビのままで良かったな……)  って考えがチラついてノリ切れなかったし、典型的な設定倒れに思えちゃいました。  「二度撃ち」でも倒せない新型ゾンビって印象は強烈だっただけに、もっと上手く活用して欲しかったですね。   勿論、長所も色々あるというか、どちらかといえばそちらの方が多かったくらいだと思います。  ホワイトハウスを「我が家」にして四人で生活する様も楽し気で良かったし、人気漫画「ウォーキング・デッド」を読んで「全然リアルじゃない」と感想を漏らすのも、実際にゾンビ世界に住んでいる主人公達ならではって感じがして、面白かったですね。  すっかり豊満な女性に成長したリトルロックが、反抗期を迎えてしまい、それに他の三人が振り回される展開になるのも、ファミリー映画らしい魅力があって良かったです。  新キャラのマディソンを殺す場面をハッキリ描かなかったから (実は彼女は生きていて、ゾンビ化した彼女と再会する事になるんだろうな)  とばかり思っていたのに (……生きてるだけじゃなくて、ゾンビ化すらしてなかったよ!)  ってツッコまされた辺りも、程好いサプライズ感があって好き。   他にも、リトルロックの彼氏を「胡散臭い」と観客に感じさせる流れも自然で (なんだ、この彼氏って良い奴かと思ってたのに、実は嫌な奴だったのか)  と失望させたりしないバランスに仕上げてあるんですよね。  かなり早い段階で、有名なボブ・ディランの曲を「自分の曲」と言ってリトルロックに聴かせる場面が挟まれており「こいつは信用出来ない」と印象付ける事に成功している。  こういった形の、さり気無い人物描写が上手い監督さんなのだなと、改めて感心させられました。  モンスタートラックや「誕生日プレゼントの銃」の使い方も巧みだし、人間をゾンビと勘違いして殺す事を「マーレイしちゃう」なんて表現するセンスにも、クスっとさせられましたね。   終わり方に関しては、前作と同じ「家族エンド」であり、予定調和な心地良さがある一方で、ちょっと物足りないとも感じていたのですが……  エンドロールの後、ビル・マーレイの大暴れを描いてくれた事には、もう大満足!  もし「ガーフィールド3」ならぬ「ゾンビランド3」があったら、再びエンドロール後には「ビル・マーレイが生きていた頃の話」を流して欲しいな、と思えたくらいでしたね。  完全なコメディパートかと思わせ、観客を油断させておき、意表を突いて格好良いゾンビ退治に突入する流れが、本当に面白かったです。   「ゾンビ世界を生き抜く為のルール」ならぬ「ゾンビランドを楽しむ為のルール」を作るとしたら、そこには是非「エンドロール中に席を立ったり、停止ボタンを押したりしてはいけない」って一文を付け加えたいな……と、そんな風に思えました。
[DVD(吹替)] 7点(2020-03-04 23:41:12)(良:2票)
162.  9か月 《ネタバレ》 
 94年のフランス映画「愛するための第9章」を95年にアメリカでリメイクしたという、風変わりな一本。   残念ながらフランス版は未見の為、詳しい比較などは出来ないのですが……  これ単品で評価する限りでは、中々良く出来た映画だったと思います。   結婚前の優雅な「恋人時代」が冒頭に描かれている為、そんな幸せな日々を奪われてしまった男として、妊娠に戸惑う主人公にも自然と感情移入出来ちゃうんですよね。  「赤ん坊の健康の為、飼い猫は捨てた方が良い」「二人乗りのポルシェは、買い替えた方が良い」と言われてしまう場面などは、本当に主人公が可哀想になったし「父親になるのを嫌がる男」として、きちんと説得力があったと思います。   それと、本作は豪華なキャストが揃っている点も特長なのですが、中でもやはり、ロビン・ウィリアムスの存在感は凄かったですね。  もう画面に彼が出てきた途端「ヒュー・グランド主演のラブコメ」が「ロビン・ウィリアムスの映画」に変わっちゃうくらいのパワーがある。  本作の場合、主演のヒューも魅力たっぷりな俳優さんである為、ギリギリでバランスが取れていたけど……  もっと地味で華の無い主演俳優さんだったら、完全にロビン・ウィリアムスに圧倒されて、歪な映画になっていた気がしますね。  そのくらい、彼の存在は光っていたと思います。   子供を産むデメリットについて、ヒロインが色々と語った後「それでも欲しいの」「私の中で、命が生きてるのを感じるのよ」と訴える場面なんかも、女の強さというより、母の強さが感じられて、印象深い。  母親は生まれてくる子が「自分の子」だって分かるけど、父親にとってはそうじゃないという普遍的なテーマについても、さらりと触れていたりして、この辺も良かったですね。  我が子の為なら、たとえシングルマザーになっても生きていくと、早々に決意を固めたヒロインに対し、中々煮え切らない主人公の姿に、リアリティを与えていたんじゃないかと。   主人公が小児精神科医という設定に、あまり必然性を感じない事。  途中何度か出てくる「蟷螂」の姿が怖過ぎる事。  車に関しては「ファミリーカーに買い替えた」とあるけど、飼い猫はどうなったのか明かされず仕舞いな事など、欠点というか、気になる点も多いんだけど……  まぁ、決定的な短所とまでは思えなかったです。   それと、自分は男性である為、どうしてもこの主人公は優し過ぎるというか  (妻に対し、妥協し過ぎ。自らを犠牲にし過ぎ)  って思えたりもしたんですが、それも観終わる頃には、あまり気にならなくなっていましたね。  女性の「産む苦しむ」に比べたら、そのくらい軽いもんだろって、クライマックスの出産シーンで諭されたような感じです。   産まれたばかりの赤ん坊を抱きながら「僕らは家族だ」と言ってキスする場面も、二人が「恋人」から「夫婦」になった事を感じられて、凄く良かったですね。  「一人の男が、父親になる物語」として、しっかり楽しませて頂きました。
[DVD(吹替)] 6点(2020-02-27 04:30:10)(良:1票)
163.  フラッド 《ネタバレ》 
  これは……  「途中までは面白かったのに」ってタイプの映画ですね、残念ながら。    クレジットではモーガン・フリーマンが一番上になっているけど、物語の主人公は間違い無くクリスチャン・スレーター演じるトムの方って時点で、既に歪というか、どこかバランスが狂ってる感じ。  両者を好きな自分にとっては「夢の共演」と言える映画のはずなのに、この二人が手を組む流れも雑に思えちゃって、全然興奮しなかったです。  トムに関しては凄く好きなタイプの主人公で、スレーターが演じた役柄の中でも一番じゃなかろうかと思えるくらい気に入っていただけに、途中から(何でそうなるの?)って展開になってしまったことが、本当に惜しい。   繰り返しになりますが、途中までは面白かったんです。  町が水浸しになっている光景だけで、如何にも「非日常の世界」って感じがしてワクワクしちゃったし、狭い室内でのジェットスキーを駆使したアクションなんかも、目新しくて興奮。  牢の中にまで水が押し寄せ、溺死しそうになったところを間一髪で助かる場面なんて、本当にドキドキさせられましたね。  口喧嘩ばかりしているけど、実は強い絆で結ばれていた老夫婦の存在など、脇役の魅力も光っていたと思います。  「他人様の金を命懸けで守るなんて、下らん仕事さ」と自嘲していた相棒のチャーリーが、実は裏切り者だったと明かされる流れも、程好い意外性があって好み。   じゃあ、何で「残念映画」と感じてしまったかというと……  やっぱり、主人公のトムと、モーガン・フリーマン演じるジムが手を組む流れが、無理矢理過ぎるんですよね。  せめて、もうちょっと「トムVSジムVS保安官達」という三つ巴展開を描き、終盤にてようやく緊急避難的にトムとジムが手を組むとか、そういう形にした方が良かったんじゃないでしょうか。  本作の場合「金に目が眩んだ保安官達が、敵になる」というだけでも充分にサプライズ展開だったのに、そこにプラスして「トムとジムが手を組む」っていう展開までセットで押し通しちゃったもんだから、驚きを通り越して困惑に繋がってしまった気がします。   あと「引鉄をひいても弾が出ない」って展開を繰り返しやってるのも興醒めだし、スローモーションの使い方も雑だし、終盤になると脚本だけでなく演出まで一気にレベルが下がっていたように思えるんですが……  (制作現場で、何かトラブルでもあったの?)って心配になっちゃいますね。   途中までは本当(意外な傑作に巡り会えた)(しかもクリスチャン・スレーター主演じゃん! 最高!)ってテンション上がっていただけに、終盤のグダグダっぷりが、返す返すも残念。  スレーター好きな自分としては、彼が主演というだけでも満足度は高めだったのですが……  もうちょっとだけ頑張って「文句無しの傑作」「スレーターの代表作といえばコレ」と言わせて欲しかったという、そんな口惜しさの残る一品でした。
[DVD(吹替)] 6点(2020-02-26 05:37:51)
164.  10日間で男を上手にフル方法 《ネタバレ》 
 ドナルド・ペトリ監督作のラブコメって「女性が観ても、男性が観ても楽しめる内容」な事が多い気がしますが、これもまたそんな一本。   男の自分としては「住んでる部屋が煉瓦の壁でオシャレ」「職場にビリヤード台があるなんて羨ましい」と思えて、主人公のベンの描写は観ていて気持ち良かったですし、恐らく女性が観ても、ヒロインであるアンディの「仕事が出来る、自立した女性」って描き方には好感が持てるんじゃないかな、って気がしました。  それと、ベンには「料理が得意」アンディには「スポーツ観戦が趣味」って属性が付与されており「女性にとっても魅力的な男性像」「男性にとっても魅力的な女性像」が、自然に描かれている辺りも上手い。  これらの属性を「せっかく料理を作ったのに、菜食主義者の振りしたアンディに突っぱねられてしまう」などのコメディタッチな場面で、自然に描いているもんだから、全く嫌味に感じられないんですよね。  これって、一歩間違えれば「ラブコメらしい、男に都合の良いヒロイン像だ」「女に都合の良い主人公像だ」なんて印象に繋がってしまいますし、それを感じさせずに仕上げてみせた手腕は、本当に見事だと思います。   主人公のベンが「バイク乗り」という伏線が、序盤から張り巡らされている事。  相手の嘘を見破るゲーム「馬鹿こけ」が効果的に活用されている事など、脚本も丁寧で良かったですね。  ラブコメではお約束の、ハッピーエンド前の喧嘩についても「互いの文句を、替え歌で熱唱する」って形にしており、重苦しい印象を与えず、笑って観られるような感じに仕上げてある。  その一方で「やっと目論見通りに別れられるとなった際に、寂しそうな顔になるヒロイン」の場面ではグッと来るものがあったし、そういった「決めるべきところは決める」作りなのも心地良かったです。  クライマックスにて、アンディを追っかけバイクで街を疾走する場面も良かったし、予定調和なハッピーエンドに着地してくれるしで、終わり方も文句無し。   よくよく考えてみたら「こんな相手の心を弄ぶような賭けするのって、どうなの?」という疑問も湧いてきたりするんですが、観ている間はスピーディーで楽しい作りゆえに、全く気にならなかったんですよね。  中には上司の悪口を言ったりする場面もあるんだけど、そこも陰湿な印象は受けなかったし、やはり監督の魅せ方、役者の演じ方が上手かった、って事なんだと思います。   それでもあえて不満点を述べるなら……ヒロインのアンディが職場でハンバーガーに齧り付いてる時に見せる「髪を後ろに結んだ姿」が非常にキュートだったので、出来ればアレをメインの髪型にして撮ってもらいたかったとか、そのくらいかな?   ラブコメ好きには安心してオススメ出来る、良質な一品でした。
[DVD(吹替)] 7点(2020-02-20 14:20:10)(良:2票)
165.  オールド・ボーイ(2013) 《ネタバレ》 
 今度は原作準拠で作ってくれるんじゃないかという期待があったのですが「原作漫画の再映画化」というよりは「2003年の韓国映画版のリメイク」という内容であった事が残念。   とはいえ、2003年版における欠点が色々と補われた形となっており、そこは良かったですね。  欠点が消えると同時に、あの独特の迫力というか、粘っこい魅力のようなものも失われているので、結果的にはプラマイゼロって感じなのですが……  それでも、リメイクした意義は充分にあったんじゃないかと思います。   まず、原作にもあった「催眠術」の要素をバッサリ削ってみせたのは、間違いなく英断でしたね。  「映画より原作漫画の方が面白い」と考えている自分ですら「あの漫画は催眠術で何でも出来ちゃうのがツマラナイ」って言われたら、反論出来ないところがありますし。  一応、本作においても「心理的な誘導工作」のようなものはありましたが、さほど非現実的ではなく、充分にリアルな範疇に留まっていたんじゃないかと。   また、2003年版においては「これ、ヒロインが主人公の娘なんじゃない?」と途中で観客も気付いちゃうような、作りが甘いところがあったんですが、本作はその点もフォロー済み。  「架空のテレビ番組」「スマホの待ち受け画面」を効果的に活用し、ヒロインの正体を上手くはぐらかす形にしてあったのは、お見事でしたね。  2003年版より先に、こちらを観賞していたとしたら、ネタバラシの瞬間まで「ヒロインのマリーは主人公の娘である」って事に気付かず仕舞いで、大いに衝撃を受けたんじゃないかと思えました。   他にも「飛び降り自殺する男を見殺しにする場面が無くなってる」「娘を人質にしていると犯人が語るので、主人公は彼を殺せない」などの改変が施されており、それらに不満を持っていた自分としては、嬉しい限り。  その一方で「テレビを観ながら自慰に耽る場面」「金槌を武器に大立ち回りを演じる場面」など、2003年版で印象深かったポイントは、しっかり再現してあったんだから、非常にバランスの良い作りだったと思います。   肝心の「犯人の動機」については「2003年版と違って、思いっきり本番行為しているのを見られたんだから、噂が広まるのは当然」「娘だけでなく息子とも性的な関係にあった男って設定にしたのは、流石にやり過ぎでは」「主人公の元嫁はアマンダをいじめるどころか庇っていたのに、殺されたのが可哀想」等々、気になる点も多かったんですが……  家族を淡々と射殺していく場面は不気味で良かったですし、これまた「結果的にはプラマイゼロ」って感じでしたね。  特に、犯人が「近親相姦の罪を背負って生きる事になった主人公」に対し、同情を示す描写があった点は、原作漫画における「孤独な二人の、奇妙な友情」を連想させるものがあり、僅かながらも原作の要素を取り入れてくれたように思えて、自分としては嬉しかったです。   オチとなる「再び監禁部屋に戻るエンド」に関しても、娘との近親相姦関係をスッパリ断ち切ったという感じがして、良かったですね。  曖昧なまま終わらせた2003年版よりも、ずっと誠実な終わり方だったと思います。   あっさり薄味だけど、薄味には薄味ならではの魅力があるんだなと感じさせてくれた、そんな一品でした。
[DVD(吹替)] 6点(2020-02-10 20:18:15)
166.  オールド・ボーイ(2003) 《ネタバレ》 
 原作を久し振りに読み返した勢いで、本作も再観賞。   「謎の部屋に十年以上も監禁されていた主人公が、犯人の正体と目的を探ろうとする」という粗筋こそ共通しているものの、基本的には全く別の物語であり、しかも原作も映画版も両方面白いっていうんだから、中々珍しいパターンですよね。  自分としては「犯人の動機が詩的で味わい深い」という理由で原作の方が好みなのですが、映画版も間違い無く快作だと思います。   そもそも「原作の方が好き」という立場の人間としては「この映画が面白いのは原作のお蔭だ」と主張したくなるんですけど、本作の場合、それを言うのはかなり無理がありそうなんですよね。  犯人の人物像や、動機も全然違っているし、何より映画版の方が「憎たらしい悪役」「ショッキングで分かり易い動機」になっている。  多分、原作通りに映画化していたといたら、ここまで大衆受けはしなかったんじゃないでしょうか。  それだけ、この映画のオリジナル部分、独自の部分が優れているって事なんだと思います。   主演のチェ・ミンシクは男臭い魅力があって良かったし、ヒロイン役のカン・ヘジョンも可憐な雰囲気がたまらないしで、キャスティングも絶妙。  その他にも「脱獄が成功しそうな直前に釈放される」というシニカルな脚本、ハンマーを手に大立ち回りを演じる場面での、泥臭いのにスタイリッシュなカメラワークなど「映画版独自の魅力」を感じさせる場面が沢山あったんだから、お見事です。   ……ただ、一つだけ。  「犯人の動機については、原作の方が絶対に良かった」っていう事に関してだけは、どうしても譲れそうにないんですよね、自分の場合。  確かに原作の時点で「催眠術を便利に使い過ぎ」とか「犯人のやり方が遠回り過ぎ」とか、色んな欠点があるって事は分かるんです。  それでも、最後に明かされる真相「わたしの人生に《他者》は存在しなかった……」「生涯で、おそらくキミだけが、わたしの”孤独”を……」という悲しい独白には、非常に胸打たれるものがあって、忘れ難い余韻を残してくれるんですね。  自分が久し振りに「オールド・ボーイ」に触れようと思った際、映画版ではなく、原作漫画を先に選んだのも、やはりこの「真相」の差にあるんじゃないかと。   で、以下は映画版に関する文句というか、難癖になってしまうのですが……  「孤独」ではなく「近親相姦」をテーマにした本作に対しては、抵抗も大きかったりするんですよね。  それは何も「近親相姦はタブーだから、見るのもおぞましい」とか、そんな理由じゃなくて「犯人像を変えた事により、不自然な点が生じている」のが気になっちゃうんです。  まず、原作の場合は「犯人を殺して復讐する事より、真相を知りたい好奇心を優先させてしまう」のも納得なんですが、映画版に関しては、そうじゃない。  なんせ原作の犯人と違って、映画版の犯人は主人公の妻を殺してる訳ですからね。  この時点でもう破綻しているというか「私を殺したら真相は分からず仕舞いだぞ」と原作の犯人同様に挑発してくるイ・ウジンという存在にも、それに従う主人公にも、感情移入出来なくなっちゃうんです。  (いや、真相を知りたい気持ちとか優先させてないで、妻の仇を取れよ)と思えちゃって仕方無い。  また「俺は確かに獣にも劣る人間だが、生きる権利はあるんじゃないか」という台詞が印象的に使われている訳だけど、その台詞を最初に吐いた男を主人公は見殺しにした形なのも気になります。  死者の台詞を剽窃する形で、自分だけは特別と言わんばかりに「生きる権利」を求められても、勝手な奴だなぁとしか思えなかったです。    そんな訳で「映画オリジナルで面白い部分」「原作と違っているがゆえに不満がある部分」が、どちらも強烈な光を放っており、何とも評価が難しい本作品。  面白かったし、観て良かったと思えたのは確かなのですが……  諸手を挙げて「好きな映画」とは言えない、そんな引っ掛かりの残る一本でした。
[DVD(吹替)] 6点(2020-02-06 02:13:32)(良:2票)
167.  ユー・ガット・メール 《ネタバレ》 
 去年最後に観た映画が「めぐり逢えたら」である以上、今年最初の映画には、これが相応しかろうと思い観賞。   元ネタの「桃色の店」では文通だったのをEメールに変えた事に、ちゃんと意義があったというか「Eメールでのやり取り」ならではの魅力を感じられる作りだったのが流石でしたね。  一度書きかけた文章を消す為、キーを連打しちゃう主人公の場面なんて、特に印象的。  「ペンを使って手紙を書く」という動作では出せない「キーを叩いてメールを書く」という動作だからこその面白さだったと思います。   二作続けて観賞した為か「めぐり逢えたら」同様「他に恋人がいるのに、惹かれ合ってしまう主人公とヒロイン」という設定だった事には(またかよ)と思ってゲンナリしちゃったけど……  まぁ、それに関しては(そういう設定の方が喜ぶ人もいるから)と納得するしかないんでしょうね。  「オマケ程度にクリスマス要素がある」「子供がキッカケになって二人が出会う」という共通点に関してはクスッとしちゃったし、この辺は「二作続けて観賞した」という事がプラスに働いたのか、それともマイナスに働いたのか、微妙なところです。   そんな中「プラス」と言えそうな部分としては「かつての恋人との別れ方が、ずっと円満で納得のいく形になっている」って部分が挙げられそうですね。  お互いに、他に好きな人が出来たんだと分かって双方ホッとして笑い合う場面なんて、見ているこっちまで釣られて笑顔になっちゃったくらい。  エレベーターに閉じ込められ「自分が本当に望んでいる事を悟り、別れを切り出した」というのも、説得力があって良かったです。   ヒロインがマスコミを利用し、商売敵に「悪いキツネ」というイメージを与えようとする件とか(やっぱり、この監督が描くヒロイン像って好みじゃないな)と感じる場面もあったんですが……  とにかくヒロイン演じるメグ・ライアンがキュートなものだから、不快感が尾を引かないんですよね。  主人公に「ファイト」と励まされ、シャドーボクシングを始める場面なんて、もう最高に可愛らしい。  たとえ脚本が肌に合わなかったとしても、演じる役者さん次第で、こんなにも印象が変わってくるんだなって思えるし、ラブコメの女王メグ・ライアンの凄さを、改めて感じる事が出来ました。   「よく出会うわね」「土曜の昼に、また偶然に出会わない?」って会話も印象深いし「すべて35%オフ」のフォックス書店に対抗心を抱いていたヒロインが「閉店セールの40%オフ」で、ようやく価格争いに勝利する事が出来たという顛末も、悲しい皮肉が伴っていて良かったです。  主人公がパソコンから離れた後(どうせ戻って来て、彼女のメールに返事しちゃうんだろうな)と思っていたら、本当にそうなる流れなんかも、実に微笑ましい。  二人が結ばれた後「THE END」の文字を、さながらメールで打ち込む時のように表示して終わるのも、小粋な演出でしたね。   なんだかんだ言っても、やっぱり自分はノーラ・エフロン監督の映画が、そしてトム・ハンクスとメグ・ライアンの映画が好きなんだな……と思わされた一本でした。
[DVD(字幕)] 6点(2020-01-02 20:05:53)
168.  めぐり逢えたら 《ネタバレ》 
 さて、今年のクリスマスは何を観ようかと本棚を眺めていたところ (そういえば、これも一応クリスマス物だったな……)  と思い出した為、本作を観賞。   結果的には殆ど「クリスマス要素」が無くてズッコけた訳ですが……  観た後に幸せな気持ちになれるという意味では、非常にクリスマスらしい映画だったと思います。   なんといっても、恋のキューピット役となってくれる主人公の息子が良かったですね。  可愛らしい子供キャラを配し、ファミリー映画的な側面を備えているのは、元ネタである「めぐり逢い」(1957年)には無かった魅力。  なんせ本作の主人公カップルときたら、出会って話すと同時に映画が終了しちゃうくらいなんだし、作り手としても意図的に「二人を結び付けようとする子供が主軸の映画」として完成させたんじゃないかな、って気がします。   そんな息子くんには、同世代の彼女もいたりして、ちょっぴり憎たらしい感じだったのに……  エンパイアステートビルに一人ぼっちになった時は、心細げな顔を見せたり、パパと再会出来た時には、喜んで抱き付いたりと(なんだかんだ言っても、まだ子供なんだな)と思わせてくれた辺りが、実に可愛かったです。  個人的には、ここの「父子の再会」の場面が、映画の白眉だった気がしますね。  「めぐり逢い」(1957年)同様、やはり主人公カップルは約束の場所で会えない運命なのかなと思わせておいて、息子が置き忘れたリュックのお蔭で会う事が出来たという脚本も、非常に凝っていて素敵でした。   翻って、悪かった点はというと……これが結構多かったりもして、困っちゃいます。  まず、メグ・ライアン演じるヒロインに共感を抱けない。  主人公の住所を調べて会いに行く件とか、どう考えてもストーカーそのものだし、彼女の恋路を応援しようって気になれなかったのですよね。  作中にて彼女が昔の映画を鑑賞し「この頃は、みんな本当の愛し方を知っていたのよね」なんてウットリする場面がありましたが、二十年以上前の映画を観ている最中な自分からすると(この頃は、まだストーカー的な愛し方が肯定されていたんだなぁ……)と、皮肉気に考えちゃいました。  そもそも婚約者がいるのに「運命の出会いに憧れ、恋に恋している女性」って時点で、どうしても拒否感が出ちゃうんですよね。  彼女も浮気な自分を悔いて「許せない裏切りだと思うわ」と嘆く事になるんですが、観ているこちらとしても(ホンマやで)とツッコむしか無かったです。  トム・ハンクス演じる主人公も、ヒロインが強烈に恋い焦がれるほど魅力的には思えなかったという辺りも、辛いところ。  「ラジオ番組で話した時の声が素敵」「話す内容が素敵」というくらいで、手紙が殺到するほどの人気者になるというのも、ちょっと無理があった気がしますね。  二人とも好きな役者さんであるだけに、その辺は観ていて辛かったです。  結局「僕は君が妥協して仕方無く選んだ男には、なりたくない」と告げ、ヒロインを約束の場所へと送り出してくれた婚約者のウォルターこそが、作中で一番「いい男」だったんじゃないかと思えちゃうし、どうもスッキリしませんでした。   そんなウォルターと、主人公の恋人候補であったヴィクトリアが完全に「恋の当て馬」ポジションに収まっており、救いが描かれていなかった辺りも、残念なポイント。  上述の通り「観賞後は幸せな気持ちになれる映画」だったのですが、当て馬組にも優しい描写がもっと盛り込まれていたら、より好きになれた気がします。   ちなみに、この映画を基にしたとんねるずのコント「めぐり逢えたら スペシャル版」では、主人公の息子がラジオ番組に再び電話を掛け「パパが結婚する事になったんだ!」と嬉しそうに報告して終わるという形になっており、元ネタ以上に爽やかなハッピーエンドだったりするんですよね。  個人的には、そちらの方が好みな終わり方でした。
[DVD(吹替)] 6点(2019-12-25 22:25:51)(良:1票)
169.  シモーヌ 《ネタバレ》 
 こんな映画、シモーヌを演じる女優さん次第では観ていられない代物になりそうなのに、ちゃんと「世界中が熱狂するほどの美女」としての説得力があって、立派に作品として成立しているんだから凄いですよね。   シモーヌ役のレイチェル・ロバーツは、現在アンドリュー・ニコル監督の妻となっているそうで、結果的に親馬鹿ならぬ「旦那馬鹿」的な映画となっているのも、何だか面白い。  撮影当時から恋仲だったかどうかは分かりませんが、そんな関係性の二人だからこそ、監督側は「シモーヌ」を魅力的に描き、女優側は艶やかに「シモーヌ」を演じる事が出来たんじゃないかな、と思いました。    勿論、主演のアル・パチーノも良い味を出しており、実在しない女優に振り回される映画監督の役を、見事に演じ切っていましたね。  特に終盤、シモーヌ殺害容疑で警察の尋問を受ける件なんて、演技一つで作品のカラーをがらりと変えてしまったかのような迫力があり、流石だなと感心。  個人的には、ここの主人公が追い詰められる件は無理矢理過ぎるというか(ハッピーエンドの前振りとはいえ、悲壮感を出し過ぎたんじゃない?)と、少々気持ちが冷めてしまったりもしたんですが……  それでも決定的な違和感を抱くに至らなかったのは、やはりアル・パチーノの演技力あってこそ、なのだと思います。   あとは、ラストの「政治家を目指す」オチが微妙に思えた事。  シモーヌに黒子(?)を付け足す場面が伏線かと思ったら、そうでもなかった事。  日本の新聞記事だと「シモン」になってたのが気になる事とか、難点はそのくらいでしょうか。   ニコル監督の作品らしく、ビジュアルセンスも光っていたし、脚本についても御洒落な笑いが散りばめられていて、面白かったですね。  シモーヌを消去する場面での「主人公が泣いているからこそ、シモーヌも泣いている」場面にはグッと来るものがあったし「たった一人より、十万人を騙す方が簡単だ」という台詞や、シモーヌが唄う曲の歌詞なんかも、皮肉が効いていて素敵。   また、このストーリーの場合「シモーヌの元々の開発者はハンクなのに、主人公は手柄を一人占めにした」という印象を抱いてしまいそうなのですが、ちゃんと随所に「ハンクに感謝する場面」が挟まれており、反発を抱かずに済むよう配慮されているのも嬉しかったです。  こういう「主人公を嫌な奴にしない」バランス感覚って、映画作りではとても大切だと思いますからね。   自らが生み出した存在に、段々と恐怖を抱いていく「フランケンシュタイン・コンプレックス」も丁寧に描かれていて説得力があったし、皆がシモーヌに夢中になる中「シモーヌよりもパパの方が好き」というスタンスだった娘が、最後の最後で主人公を救ってくれる展開なんかも、実に気持ち良い。   (ラストシーンの後は、シモーヌの可愛い「坊や」が成長し、子役や男優になって世界を虜にするのかな?)  (父親がシモーヌを演じたように、娘が彼を演じてみせるのかな?)  なんて妄想まで出来ちゃう、楽しい映画でありました。
[DVD(吹替)] 7点(2019-12-10 02:36:38)(良:1票)
170.  ラッキー・ガール 《ネタバレ》 
 「ラブコメなんて女子が観るもの」という考えだった自分に「ラブコメって、こんなに面白かったのか!」という衝撃を与えてくれた、記念すべき一本。   久々に再見してみると、非常にシンプルな作りであり(ありがちなラブコメでしかなくて、際立った傑作という訳ではなかったんだな)と、寂しい想いに駆られたりもしたんですが……  それでもなお、本作が「面白い映画」「好きな映画」である事は揺らぎませんでしたね。   主人公アシュレーを演じるリンジー・ローハンは魅力的だし、後にカーク船長となるクリス・パインが、彼女と対になる「とことん不運な彼氏」のジェイクを演じているのも面白い。  思えば、この映画を初めて観た頃の自分って(ラブコメ映画に出てくる彼氏役ときたら、男の自分には嘘臭くて耐えられないような奴ばかり)っていう偏見があった気がするんですよね。  でも、本作のジェイクには自然と感情移入出来たし(良い奴だなぁ……幸せになって欲しいな)と応援する気持ちになれたんだから、これって凄い事だと思います。   脇役も充実しており、ジェイクの隣に住んでる幼女のケイティなんて、特にキュートでしたね。  アシュレーが不運になっても決して見放したりせず、一緒に同居生活を送ってくれる女友達の存在も、実に好ましい。  ボウリング場で慣れない仕事を頑張る場面や、洗濯室で泡まみれになって戯れる場面など、昔観て(良いな)と思えた場面に対し、今観ても同じようなトキメキを感じられた事も嬉しかったです。   ラストの「二人同時にケイティにキスをする」という解決法も(そう来たか!)という感じで、意外性があって良かったですね。  今後の主人公カップルは、不運続きな人生になってしまうかも知れないけど、ケイティが傍にいて支えてあげれば大丈夫じゃないかなーって思えるし、ちゃんとハッピーエンドと呼べそうな雰囲気で終わっているのが嬉しい。  再び人生の岐路に立たされるようなイベントが起こったら、ケイティからキスしてもらって一時的に幸運を授かり、事を済ませた後に再びキスしてケイティに幸運を返す、なんて日々を送ってそうな気もしますね。   あえて難点を挙げるとすれば……「会議のプレゼンが成功」とか「車に轢かれても平気」とか(それって運が良いだけで済む話なの?)と思えてモヤッとする場面があるとか、それくらいでしょうか。  あとは、クライマックスの演奏シーンで、もっと盛り上げてくれていたら、文句無しの傑作と呼べていたかも。   この映画と出会っていなかったら、ラブコメを好きになれないまま、多くのラブコメ映画を楽しめないままだったかも知れないなと思えば、ちょっと身震いするような気分になりますね。  そういう意味では、とても特別な映画ですし、忘れ難い一品です。
[DVD(吹替)] 8点(2019-11-28 18:50:03)
171.  きみがくれた未来 《ネタバレ》 
 こんなに可愛くって、しかもレッドソックスのファンな弟がいるだなんて、全くもって主人公が羨ましい。   一応、本作には女性のヒロインも登場しているのですが、明らかに「男女のロマンス」よりも「兄弟の絆」を重視した作りになっていますよね。  大人な自分としては、自然に兄の側に感情移入し (こんな可愛い弟がいたら、そりゃあ楽しいだろうな)  と思えた訳ですが、多分コレ、幼い子供が弟の側に感情移入して観たとしても (こんな恰好良いお兄ちゃんがいたら、きっと楽しいだろな)  って思えたんじゃないでしょうか。  そのくらい「理想の兄弟像」が描けていると思うし、兄を演じたザック・エフロンも、弟を演じたチャーリー・ターハンも、素晴らしく魅力的だったと思います。   「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る」という設定の使い方も上手かったですね。  特に序盤の、サリバン中尉殿とのやり取りなんて、凄く好き。  出征して戦死した友人に対し「俺も一緒に行けば良かった」と悲し気に訴える主人公と「来なくて良かったんだ」と笑顔で応え、静かに立ち去る友人。  ベタなやり取りなんだけど、じんわり心に沁みるものがあって、とても良かったです。  「実はヒロインも幽霊だった(正確には、仮死状態による生霊?)」というドンデン返しについても、彼女が墓場で眠っていたという伏線なども含めて、鮮やかに決まっていたんじゃないかと。   それと、この映画って「何時までも死者に囚われていないで、前を向いて生きるべき」という、ありがちなテーマを扱っている訳だけど、それがちっとも陳腐に思えなかったんですよね。  何せ本作においては「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る。たとえ幽霊でも弟と一緒にいれば、弟が生きていた時と何も変わらない、楽しい日々を過ごせる」という設定な訳なのだから、主人公が世捨て人のような暮らしをしていても納得出来るし、自然と感情移入出来ちゃうんです。  この手の映画の場合、いつまでもウジウジ悩んでいる主人公に共感出来ず、むしろ主人公を励ます側の目線で観てしまう事が多い自分ですら、本作に限っては完全に主人公側の目線で観る事が出来た訳だし、これって何気に凄い事なんじゃないでしょうか。  「良くあるタイプの映画でも、設定や描き方に一工夫加える事によって、独特な味わいになる」例の一つとして、大いに評価したいところです。   弟とのキャッチボールに、恋の悩み相談、雨の森ではしゃいで遊ぶ姿なんかも非常に楽し気に描かれており  (このままずっと、兄弟一緒の世界で生きていくのも、それはそれで素敵な事じゃないか……)  と思わせる作りになっているのも、凄いですよね。  「死者に囚われて生きる事」を決定的に否定するような真似はせず、むしろその生き方の魅力を存分に描いておいたからこそ、終盤における主人公の決断「弟と共に過ごす日々よりも、愛する女性の命を救う事を選ぶ」行為にも重みが出てくる訳で、この前後の繋げ方は、本当に良かったと思います。   約束の森で、一人ぼっちになった弟が「兄は自分よりも大切な存在を見つけたんだ」と悟ったかのように、寂しげに立ち去るも、恨み言などは一切口にせず「お兄ちゃん」「好きだよ」と呟いてから消えゆく様も、本当に健気で……観返す度に瞳が潤んじゃうくらい。  ラストシーンにて、以前のように会話する事も、触れ合う事も出来なくなってしまった兄弟が「それでも、何時かまた会える」「会えない間も、いつまでも俺達は兄弟だ」と約束を交わす終わり方も、凄く好きですね。   冷静になって考えてみると、肝心のヒロインには魅力を感じなかったとか、弟がお兄ちゃんにしか執着してないので両親の置いてけぼり感が凄いとか、色々と難点もある映画なんですが……  眩しいくらいの長所の数々が、それらを優しく包み込んで、忘れさせてくれた気がします。   「面白い映画」という以上に「好きな映画」として、誰かにオススメしたくなる一品でした。
[DVD(吹替)] 8点(2019-11-07 06:36:42)(良:1票)
172.  パッセンジャー57 《ネタバレ》 
 85分という短い尺の中で、主人公が悪人退治してハッピーエンドという、非常にシンプルな映画。   年代が近い事もあってか、そこかしこに「ビバリーヒルズ・コップ」の影響が窺える作りにもなっていますよね。  特に中盤、わざと情けない男の振りをして犯人一味を騙す件なんて、ウェズリー・スナイプス的というよりは、如何にもエディ・マーフィ的な感じ。  飛行機で隣の席になった老婦人から、主人公が「誰かさん」に間違われてしまう件も、そこら辺を踏まえてのネタなんじゃないかなって思えました。   そんな訳で、遊園地でのアクションパートも「ビバリーヒルズ・コップ3」(1994年)を意識したのかなと思ったのですが……  確認してみると、本作は1992年公開であり、これに関してはむしろ先取りしている形だったんですね。ちょっと吃驚。  果たしてジョン・ランディスは「3」を撮る前に本作を観賞済みだったのかどうか、気になるところです。    気になるといえば、脚本にも色々と粗が多くて……  主人公も敵役も「有能な男」という設定にも拘らず、それがあんまり伝わってこなかった辺りは残念でしたね。  特に主人公は「ハイジャック対策のスペシャリスト」って設定のはずなのに、犯人との交渉にはアッサリ失敗して乗客死なせちゃっているし、これなら「偶々飛行機に乗り合わせた刑事」で、ヒロイン格のスチュワーデスから飛行機の情報を色々聞きながら事件解決するってストーリーでも、充分に成立していた気がします。  犯人側も犯人側で「主人公を撃つよりも、無能な部下を撃って殺すのを優先した結果、肝心の主人公を逃がしてしまう」なんて醜態を晒しちゃっているし、どうも二人して詰めが甘い感じ。  犯人組と妙に仲が良い描写があって、その後に絡んでくるんじゃないかと思われた金髪少年のノーマンが、放ったらかしのまま終わるとか、保安官から貰った銃を主人公がアッサリ落として使わず仕舞いとか、肩透かしな場面が多かった辺りも、ちょっと寂しかったです。   ……とはいえ、それらのアレコレも「気になる」程度で済んでしまい、決定的な失望に至らなかったのは、スピーディーな演出でグイグイ物語を動かしてくれる力強い作りゆえ、なんでしょうね。  「車で並走して飛行機に乗り移る」とか「飛行中に扉が開いて機内がパニックになる」とか、この手の映画ならお約束の描写を、きちんと盛り込んでくれる辺りも嬉しい。  友人役のトム・サイズモアに、美人スチュワーデスのエリザベス・ハーレイと、味方側と敵側、両方に魅力的な脇役が揃っていた事も、画面を引き締める効果があったと思います。  最後は主人公とヒロインが結ばれて、予定調和な結末を迎える辺りも心地良い。   「期待以上」ではないにせよ「期待通り」の満足感は得られた、良質なアクション映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2019-11-01 00:47:54)(良:1票)
173.  忠臣蔵(1958) 《ネタバレ》 
 自分は「忠臣蔵」(1990年)の項にて「一番面白い忠臣蔵だと思うけど、捻った作りなので初心者には薦め難い」と書きましたが「じゃあ、初心者に薦め易い忠臣蔵は何?」と問われた場合、本作の名前を挙げる事になりそうですね。   とにかく分かり易いというか「忠臣蔵の映画をやるなら、これは外して欲しくない」という部分が、きっちり盛り込まれている辺りが見事。  自分が特に好きな三つのエピソード「畳替え」「大石東下り」「徳利の別れ」を全部やってくれてる映画って、意外と珍しいですからね。  特に「畳替え」の件はダイナミックに描かれており、序盤の山場と言えそうなくらい力が入ってるのが嬉しい。  「朝までに仕上げねばならん、頼んだぞ!」と職人達を激励する浅野家臣の姿も、実に良かったです。  それによって、浅野家に「庶民と力を合わせて頑張る武士集団」というイメージが生まれますし、彼等を善玉として描く上で、非常に効果的な場面だったと思います。   対する吉良方が「庶民の敵」である事を、徹底的に描いている点も良いですね。  どうしても「斬り付けた浅野が悪い。吉良は被害者」ってイメージが拭えないのが忠臣蔵の弱点なんですが……  本作は、その点でもかなり頑張っていたんじゃないかと。  とにかく吉良方が庶民を虐めてる場面が繰り返し挿入されるもんだから、観客としても自然と浅野方を応援しちゃうんですよね。  討ち入りの際にも「女子供は逃げろ」と言ったりして、徹底して「正義の赤穂浪士」として描いている。  「浅野殿、田舎侍を御家来に持たれては色々と気苦労が多う御座ろうな」と吉良が嫌味を言ったりして、内匠頭が怒った理由に「自分だけでなく、家臣も馬鹿にされたのが許せなかった」という面を付け加えている辺りも上手かったです。   また「斬られたのは吉良の方なのに、吉良に仇討ちするのは筋違い」という事が劇中で何度か言及されている点も、バランスが良かったと思います。  観客に(そういえば、その通りだ……本当に、浅野側が正しいのか?)と考えさせる余地を与えており「視点を変えれば、赤穂浪士は正義にも悪にも成り得る」という事を教えてくれるんですよね。  そういう意味でも、初心者にも安心というか「はじめての忠臣蔵」に丁度良い品であるように思われます。   そんな本作の欠点としては……  「忠臣蔵お馴染みのエピソード」を描いた場面は凄く良いんだけど「この映画でしか拝めない、オリジナルのエピソード」はイマイチだったという点が挙げられそう。  京マチ子演じる「女間者 おるい」の存在が特に顕著であり、どう考えても浮いてるというか「大スターの為に無理やり女性のメインキャラを追加しました」って印象が拭えなかったんですよね。  一応、女間者が絡んでくる忠臣蔵としては「大忠臣蔵」(1971年)などの例もありますが、連ドラではなく映画でコレだけ尺を取られてやられると、ちょっと辛い。  しかも彼女ときたら「恐ろしいほど美しい姿でした」なんて感じに、主人公を賛美する台詞を延々吐く役どころなもんだから、贔屓の引き倒しに思えちゃって、観ていて居心地が悪かったです。   元々本作における大石内蔵助って、登場時から「有能な家臣」であり、敵からも散々「大した奴」と褒められる役どころで、自分としてはどうも胡散臭いというか……  正直、あんまり魅力を感じない主人公なんですよね。  頭脳も人格も最高の超人であり、夜道で襲ってきた刺客を撃退したり、斬り掛かろうとした相手の体勢を扇子で崩したりして、剣士としても一流の腕前ってのは、流石に盛り過ぎだった気がします。  かつては細身の女形だったとは思えないほどに丸々と太り、貫禄たっぷりな長谷川一夫の演技力ゆえに、嫌悪感を抱いたりはしなかったし「恋の絵図面取り」に対して「引き出物」を渡す場面や「残りは四十七名か」と呟く場面なんかは、とても良かったんですけどね。  個人的好みとしては、もうちょっと隙が多い内蔵助像の方が嬉しかったかも。   後は、大映制作らしい怪獣映画のような音楽。  切腹までは描かれていない為(もしかしたら、この映画の中では赤穂浪士達は助かったのかも?)と思えて、ハッピーエンド色が強い結末だった辺りも、忘れちゃならない魅力ですね。   自分としては「初心者にオススメ」「色んな忠臣蔵を観賞した上で観返すと、ちょっと物足りない」という、良くも悪くも優等生的な作品という印象なのですが……  「色んな忠臣蔵を観たけど、やっぱり王道なコレが一番!」という人の気持ちも分かるような、そんな一品でした。
[DVD(邦画)] 7点(2019-10-18 13:02:48)(良:1票)
174.  忠臣蔵(1990)〈TVM〉 《ネタバレ》 
 数ある忠臣蔵の中でも一番好きなものは何かと問われたら、本作を挙げます。   王道ではなく、かなり捻った作りとなっている為「忠臣蔵に初めて触れるなら、これが一番」なんて具合にオススメ出来ないのは残念ですが……  それでもなお「一番面白い忠臣蔵はコレだ!」と叫びたくなるような魅力があるんですよね。  もう三十年近く前の作品なのですが、今観ても斬新だし、若々しいセンスに溢れていると思います。   何せ、始まって十分も経たぬ内に「斬り付けたのは浅野の方で、吉良は被害者でしかなかった」とズバリ結論を言ってしまうのだから、恐れ入ります。  小説ならば菊池寛の「吉良上野の立場」舞台ならば井上ひさしの「イヌの仇討」という先例もありましたが、ここまで長尺の映像作品で「浅野が悪い」と断定しているとなると、寡聞にして他の例を挙げる事が出来ないくらいです。  しかも吉良側がそう主張する訳ではなく、浅野の家臣である大野が「乱心ですよ」「殿中で刀を抜けば、三百の家臣と、その家族二千が路頭に迷う。その事を弁えずして、これを乱心と言わずして何と言いますか」と主君である内匠頭を糾弾しているのだから、本当に徹底しています。  観ている側としても(これは従来の忠臣蔵とは、全く違う物語だ……)と感じる場面であり、そこからは襟を正して観賞する事が出来ました。   本作は「昼行燈と呼ばれ、平素は無能扱いされていた」という大石の側面に踏み込み、仕事中に居眠りして笑い者になったり、趣味の絵ばかり描いて妻に詰られたりする姿をコミカルに描いているのですが、その一方で「いざとなったら有能だった大石」という、シリアスな魅力を描く事にも成功しているんですよね。  特に、討ち入りを決意した後「非情な軍人」に徹して、冷静に作戦を主導していく大石の恰好良さときたら、もう堪らない。  一人が敵一人と対している時、味方二人が背後から斬り付けるようにと指示し「それは卑怯ではありませんか」と仲間に反発された際に「物見遊山ではありません、戦です。戦は必ず勝たなければならない」と諭す姿は、歴代の大石内蔵助の中でも最も凛々しく、頼もしく感じられたくらいです。  見事に吉良を討ち取った後「上手くいきましたね」と能天気に騒ぐ堀部安兵衛に対し「本当に、そう思うか?」と、自分達が死ぬ未来を予見したように呟く姿も、非常に哀愁があって、味わい深い。  ・赤穂浪士も決して一枚岩ではなく、互いに見下し合ったり憎み合ったりしている。 ・仇討ちは純粋に主君を想っての行いではなく、赤穂浪士が名を挙げて再士官する為の就職活動という側面もあった。 ・生類憐みの令をはじめとして、独断専行の多い将軍綱吉の人望の無さも事件に密接に絡んでいる。   などなど「吉良邸討ち入り事件」の動機や背景を、多方面から描いている点も良かったですね。   そんな本作の欠点は……「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」「話せば分かる」など、その後の天皇やら首相やらの有名な台詞を大石に吐かせ「悲劇の人物」として重ね合わせるかのような演出があったのは、ちょっと微妙に思えた事。  終盤に出てくる侍女かるの存在は、わざとらしくて浮いているように思えた事とか、そのくらいでしょうか。  とはいえ、冒頭の筑紫哲也の解説にある通り、これらの欠点すらも「平成の忠臣蔵を、当時の人々はどんな願いを込めて作ったのか」という目線で観れば、非常に興味深く、一概に「余計な要素」とも言いきれなくなってくる辺りも面白い。  自分としては「敗戦で背負い込んだ挫折感」「軍人への不信感」「若くて自由奔放な女の子に癒されたいという、中年男特有の欲望」などを感じ取った訳ですが、そういった負の感情が込められているのも、また忠臣蔵の魅力なのかなと思ったりしました。   一人討ち入りに参加せず、生き延びてしまった大野が「良い奴だった」「だから、死なせたくなかった」と、英雄でも忠臣でもない「友人」としての大石内蔵助に対する想いを語る場面も、実に素晴らしい。  ラストシーンでも「刃傷事件が起こる前の、楽しそうに笑う大石と大野の姿」が描かれており(二人は、この頃のような平和な日常を取り戻したい一心で、あんなに頑張ったんだ……)と、観客に感じさせるような終わり方になっているんですよね。  「忠誠心ではなく、奪われた日常を取り戻したい一心で行動した赤穂浪士」というのは、本当に独特だと思うし、現代に生きる自分としても、非常に共感を抱く事が出来ました。   これが「最高の忠臣蔵」であるかどうかは分かりませんが……  「特別な忠臣蔵」である事は間違い無いんじゃないかな、と思います。  オススメの一本です。
[地上波(邦画)] 9点(2019-10-12 05:59:13)
175.  タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら 《ネタバレ》 
 イーライ・クレイグ監督のデビュー作にして、現在僅か二本しかない監督作の内の一本。   本当、こう書いていて自分でも「何故?」と戸惑っちゃうくらいですね。  これだけ面白い映画でデビューを飾った監督さんが、七年後に発表した「リトルデビル」(2017年)を除いては殆ど仕事していないだなんて、全くもって不思議。  名優サリー・フィールドの息子さんだし、経済的にも余裕があって、無理して働く必要は無いって事なのかも知れませんが……  自分としては「もっと色んな映画を撮って欲しいなぁ」って、切実に思っちゃいます。   で、この度、感想を書くに当たって久々に観賞したのですが、初見の衝撃を抜きにしても、やっぱり面白かったですね。  スラッシャー映画をパロった内容なんだけど、既存のスラッシャー映画を馬鹿にして笑いを取るような真似はせず、むしろ愛情を感じる作りになっているのが、実に嬉しい。  例えば、タッカーがチェーンソーを振り回す場面は「悪魔のいけにえ」(1974年)が元ネタだろうなと思えるし、唯一生き残った女性を殺人鬼が妊娠させるというのは「罰ゲーム」(2006年)が元ネタだったりするのかなぁと思えるしで、古今東西、メジャーからマイナーまで幅広く色んな品を研究して作ったのが窺えるんですよね。  作り側と観客側とで「オタク心の共有」「仲間意識」のようなものを感じられて、観ていて楽しかったです。   残酷な場面も多いはずなのに「よそ見して走ってたせいで串刺しになる男」にも「ウッドチッパーに自分から飛び込む男」にも、思わず笑っちゃうようなユーモアを感じられて、不愉快にはならないというバランスに作ってある点も凄い。  本作は「色んなスラッシャー映画を観ている人」ほど楽しめるように作られている訳ですが「殆どスラッシャー映画を観た事が無い人」が観ても、意外と楽しめるんじゃないかなぁ……って思えるくらい、その辺りの配慮が上手かったです。   本来なら主人公になってもおかしくない「キャンプにやってきた学生達のリーダー格」であるチャドが、殺人鬼に変貌するという捻った脚本なのに、裏切られた感じがしない点も良いですね。  序盤から「田舎者を見下す」「ヒロインに無理やり言い寄る」などの場面を描いておき、チャドが「嫌な奴」である事を匂わせておいたからこそ、急展開になっても納得出来た訳で、本当に丁寧な作り。   冒頭の「殺人鬼が暴れる後日談」にて、火傷したチャドの顔を見せておき、別荘が焼け落ちてチャドが火傷した場面にて(あぁ、あの殺人鬼はコイツだったのか……)と観客に覚らせる構成なのも、上手かったと思います。  彼の父親も武器を投げて獲物を仕留めるスタイルだった為、作中にてやたらと「チャドが武器を投げる場面」が挟まれていた事も、正体判明シーンへの、良い繋ぎになっていたんじゃないかと。   そんな殺人鬼側の描写だけでなく、主人公となる二人組「タッカーとデイル」の描き方も、凄く良かったですね。  巨大な鎌を持ったままで女の子に話し掛け、怯えさせちゃう場面とか「見た目は怖いけど、中身は純朴」と、観客に納得させる力がある。  「駄目男なデイルを、タッカーが色々フォローしてあげている」という二人の関係性を描いておいた上で、タッカーがデイルに「お前は本当は凄い奴なんだ」と諭し、奮起させる展開に繋げるのも上手かったです。  ボーリング場にて、デイルの知人であるB.J.も美女とトラブルを起こしてしまい(デイルみたいに、これがキッカケで彼女と結ばれるのでは?)と予感させて終わる辺りも、良い〆方でしたね。  ・「聞いたことは全部覚えちまう」というデイルの特技が「お茶の成分で急性アレルギーを引き起こさせる」くらいの使われ方しかしなかったのは残念。 ・チャドというキャラクターが「蛙の子は蛙」「殺人鬼の子は殺人鬼」というメッセージ性を秘めているように思える辺りは、観ていて居心地悪い。   といった感じに、気になる点もあるにはありましたが……まぁ、この辺りを突っつくのは「不満」「文句」というより「贅沢な要求」って感じですね。   そんな本作が「殺人鬼の子は殺人鬼」という形で終わってしまった事は、監督の次回作「リトルデビル」にて「たとえ父親が誰であれ、人はなりたい自分になれる」というテーマを扱っている事と、無関係ではないのかも知れません。  興味がおありの方は、是非「リトルデビル」も観賞して、その辺りについても確かめて欲しいものです。
[DVD(字幕)] 7点(2019-10-01 18:50:50)(良:2票)
176.  エスター 《ネタバレ》 
 「オーメン」という有名過ぎる先例がある事が、良い目晦ましになっていましたね。  それによって、悪役であるエスターの勝利エンドとなる可能性もあるのでは? と思えたし、最後まで結末を読めないまま楽しむ事が出来ました。  この映画が2009年製であり、三年前にあたる2006年には「オーメン」のリメイクが公開されていた事を考慮すると、作り手側も意図的に「オーメン」とは異なる「悪が退治されて、めでたしめでたし」エンドを選んだんじゃないかな……って気がしますね。  DVD特典の未公開エンドでも、エスターが逮捕される事を示唆する終わり方でしたから。   そんな具合に、基本的には「面白かった」「充分に楽しめた」という一本なのですが、ちょっと気になる点もチラホラ。  まず「襲われるかと思ったら、実は大丈夫だった」という肩透かし演出を何度も繰り返す点に関しては、正直キツかったです。  作り手の意図としては「本当に襲われちゃう場面」の衝撃を強める為、あえてブラフを重ねておいたのかも知れませんが、流石にこれだけの頻度でやられると(もういいよ……)とゲンナリしちゃいましたからね。  この辺りの「ハッタリの積み重ね」を、もっと少なめにしてもらえたら、より自分好みな映画になっていた気がします。   エスターのジョンに対する愛情が、本物だったのかどうか曖昧なのも、クライマックスにおける集中力を削ぐ効果があって、勿体無かったです。  「エスターなりに本気でジョンを愛していた」でも「単なる性欲に過ぎなかった」でも、どっちでも構わないから、ハッキリした描き方をして欲しかったんですよね。  仮に前者の場合なら、エスターが彼に惹かれるキッカケを丁寧に描くべきだったと思うし、後者の場合なら、彼に拒まれた際にあんなに泣く事は無いだろうと思えるしで、どうも中途半端でした。    翻って、良かった点はといえば……やはり、エスター演じるイザベル・ファーマンの熱演が挙げられそう。  劇中における「三十三歳の素顔」は特殊メイクなのでしょうが、本当にそちらが素顔なんじゃないかって思えるくらい、劇中のキャラクターと一体化していましたからね。  ジュースを欲しがって、それを拒否されたら寂しそうに俯き大人を騙す場面や「殴る?」と挑発する場面など、幼い子供という立場を活用する「狡い大人」としての姿に、真に迫った説得力があったんだから、お見事です。   そんなエスターの正体が明かされていく流れを、丁寧に描いている点も素晴らしい。  最初の出会いや、養子としてコールマン家に貰われていく序盤の段階では「天使のような良い子」という印象を与えた上で、少しずつ「この娘、どこかが変だ」と思わせていく構成になっているんですよね。  特に感心させられたのが「パパに構って欲しがるダニエルと、そんな彼に見せ付けるようにパパに抱き付き甘えるエスター」という場面。  ここって、普通に考えれば「子供っぽい独占欲の発露」でしかないはずなのに、観ていて微かな違和感を覚えちゃうっていう、そのバランスが絶妙なんです。  ブレンダを突き落とす場面や、尼さんを殺害する場面で一気に衝撃を与える形ではなく、事前にそういった伏線を張っておき、猜疑心や恐怖心を徐々に高めていく形にしたのは、本当に上手かったと思います。   ケイトがアルコール依存症、マックスが聴覚障碍者であるという設定に、きちんと意味のある脚本だった点も良いですね。  特に前者は「ケイトが酒の誘惑に打ち勝った事を観客は知っているのに、酒を飲んだんだろうとジョンに責められてしまう」という展開への繋げ方が上手くて、本当にやるせない気持ちになるし、その分だけケイトを応援したい気持ちにもなる。  また、それによって「妻のケイトはエスターを疑っているのに、夫のジョンはエスターの言う事を信じている」という状況設定にも、説得力を与えていたと思います。   エスターが細かく肉を切り分けて食べる事すら伏線だった(歯がボロボロだから細かく切る必要がある)のには感心しちゃったし「薔薇のプレゼント」「万力で自らの腕を折る」場面なんかも、ショッキングで良かったですね。  白い雪原に、黒いコート姿のエスターが立っているコントラストの美しさには見惚れちゃったし「光を当てる事によって、絵の中に隠された別の一面が見えてくる」場面の衝撃も、忘れ難い。   自分は冒頭にて「オーメン」を「有名過ぎる先例」と評しましたが、この「エスター」もまた、今後「悪の子供」をテーマにした映画が製作される度に引き合いに出されるような……  そんな、スタンダードな品になっていく気がします。
[DVD(吹替)] 7点(2019-09-27 12:03:22)(良:3票)
177.  リトルデビル 《ネタバレ》 
 明らかに「オーメン」(1976年)の亜流作なのですが、単なる模倣で終わらず「たとえ悪魔であろうと、我が子である以上は守ろうとする主人公」という物語に昇華してみせたのが、お見事でしたね。   中盤までは「義子のルーカスが悪魔であると知り、殺そうとする主人公」という「オーメン」そのまんまな展開であっただけに、途中で主人公が思い直し、全く違った方向性へと舵取りするのが、実に痛快。  監督は前作の「タッカーとデイル」でも、王道スプラッター映画をパロった上でハッピーエンドな着地を迎えてみせ(そう来たか!)と唸らせてくれたものでしたが、本作もそれに近しい魅力を備えており(やっぱりイーライ・クレイグ監督の映画は良いなぁ……)って、しみじみ感じさせてくれました。  2019年現在、僅か二本の映画しか発表していない寡作の人というのが、非常に惜しまれます。   配役も絶妙であり、特に子役のオーウェン・アトラスは「無表情だと不気味なのに、笑うと可愛い」というルーカス役を、見事に演じ切っていましたね。  この映画のストーリー上、主人公だけでなく観客にも「ルーカスは不気味に思えたけど、実は可愛くて良い子なんだ」と感じさせる必要がある訳なのですが、その点に関しては、文句無しでクリアしていたと思います。  プールで父子が仲良くなる件も微笑ましかったし、笑顔を見せる場面では、主人公同様に観ているこっちまで(笑うと、こんなに可愛かったのか……)と、ドキッとしちゃう。  アイスを舐めながら、主人公の事を初めて「パパ」と呼ぶ姿なんて、もう抱きしめたくなるくらいに愛らしかったです。   レズビアン(?)な同僚のアルも良い味出してるし、出番は少なめながら、主人公の妻に女性としての魅力が感じられた辺りも嬉しかったですね。  モンスタートラックや、最優秀パパのボールなど、伏線の張り方や、回収の仕方も鮮やかだったと思います。   主人公自身が「父親に捨てられた」という過去を持っている為、ルーカスに幼少期の自分の姿を重ね合わせ、自然と心を開いていく流れにしたのも上手い。 「お前の本当の父親が誰でも関係無い」 「お前はお前だ。何時だってなりたい自分になれる」  という台詞は、ルーカスに語り聞かせる以上に、自分に言い聞かせる効果もあったんだろうなと、自然と納得する事が出来ました。  主人公が「息子殺し」な自分ではなく「息子を守ってみせる」自分になる事を選ぶ展開にも繋がっている訳で、この辺りの脚本は、本当に巧みだったと思います。  「義理の父親です」という、ルーカスの父親である事を間接的に否定する台詞を何度も繰り返しておいた上で、クライマックスにて「絶対に離さない、お前の父親だから」と主人公に言わせる構成にも、グッと来ちゃいました。   難点としては、意味ありげな双子の少女が、本筋に絡まず終わってしまうのは寂しい事。  ルーカスの言葉で飛び降り自殺を図った理科教師が、どう見ても死んでるので、入院くらいで済ませた方が良かったんじゃないかと思えた事。  終盤に集結したパパ友が全く活躍しておらず、存在意義が感じられなかった事とか、その辺りが挙げられそう。   それと、プールでルーカスを救う場面では、出来れば「神の啓示」ではなく、完全に自分の意思で助けに飛び込んで欲しかったなと思えたのですが……  これに関しては、何度も観賞している内に(たとえ神様から「見殺しにしろ」と命じられても、主人公なら助けたはずだ)と、次第に考え方が変わってきましたね。  上述の「なりたい自分になれる」という台詞もありますし「神様のお蔭で、息子を殺さずに済んだ」という訳ではなく「神様は、悩める主人公に助言をしてあげただけ」って事なんだと思います。   父子で出場した丘下りレースにて「スピードを出し過ぎるな」と言われても聞き入れず、笑顔ではしゃぐルーカスの姿を映し出し(やっぱりこの子、悪魔だな……)って感じさせて終わるのも、非常に御洒落。  期待値の高い中で観賞したのですが、そんな高いハードルすらも飛び越えてくれた、気持ちの良い一品でした。
[インターネット(吹替)] 8点(2019-09-25 16:53:08)
178.  ネイバーズ2 《ネタバレ》 
 前作同様、ラドナー夫妻のセックス場面から始まる構成には笑っちゃったけど、その後のリアルな嘔吐描写にはドン引き。  それで出鼻を挫かれちゃったせいか、前作ほどには楽しめないまま終わってしまい、残念でしたね。   クロエ・グレース・モレッツ演じるシェルビーも、可愛いは可愛いんだけど「魅力的なキャラクター」とまでは思えず、存在感が薄かったです。  なんせ後日談でも、マックとテディは「二人目の子供が生まれ、父親として更に成長する」「結婚式のプランナーという天職を見つける」という成長が描かれていたのに対し、彼女だけは姿を見せないままでしたからね。  やはり本作の主人公はマックとテディの二人であり、彼女はその中に割って入る事が出来ないまま終わってしまったんだな……と思えてしまいました。   不満点は他にもあって、前作ラストにて「仲間のハグ」をして和解したはずのマックとテディが、何故か再び仲違いしてるのも、如何なものかと。  その後、二人は前作以上に仲良くなるのだから、その為に必要な前振りだったのかも知れませんが「前作のラストを台無しにされた」感もあったりして、どうにも受け入れ難いんですよね。  こう言っては何ですが、あまり必然性が感じられませんし、これなら「1と違って2では、ずっと仲良し」という設定にしても良かった気がします。   前作に比べると、隣人と決定的な対立に至る理由が「パパを呼ばれたから」っていうのも弱いですし、終盤でキーアイテムになるエアバックの伏線が分かり難いのも気になります。  特に後者に関しては、前作を未観賞の場合「なんでエアバック?」と思っちゃいそうだし、もっと丁寧に描いて欲しかったですね。  例えば、テディに「アンタ達のせいで俺は逮捕された」と言われた際「君が仕掛けたエアバックの悪戯のせいで、俺は怪我した」とマックが言い返すとか、そんな感じでも良かったでしょうし。  そうやって、序盤の段階で分かり易く説明しておけば、終盤にエアバックを使おうと言い出した際に、もっと盛り上がれたんじゃないかなって思います。  「男性主体のフラタニティと違って、女性主体のソロリティはパーティーを開けない」という理不尽さに対するウーマンリブ運動のような流れも、男性の自分としては今一つピンと来なくて、ノリ切れず仕舞いでした。   翻って、良かった点はといえば……やはり、テディのキャラクターが挙げられそうですね。  元々自分は前作を観た段階で「マックよりもテディの方が魅力的だ」と感じていたのですが、2を観てもその感覚が揺らがなかったのは、何だか嬉しかったです。  友達が社会的に成功している中で、自分だけが取り残されている寂しさとか、同居していた親友が結婚して、家から追い出されてしまう悲しさとか、凄く感情移入しちゃうんですよね。  友人の前では強がって、笑顔で別れたけど、その後に裸足で外に飛び出し、泣きながら走り続ける場面なんて、特にお気に入り。  そんな落ちこぼれのダメ人間なはずのテディが、学生グループのリーダーとしては極めて優秀であり、シェルビー達をアシストして「出来る男」っぷりを見せ付けていく流れなんかも、実に気持ち良かったです。  年齢やら性別やらがキッカケとなり、結局シェルビー達とは別れてしまい、ラドナー夫妻の家に居候する事になって、テディもまた「家族の一員」に加わる流れも、凄く好き。   その他、前作では赤ん坊だったステラが成長して幼女になっているのも、微笑ましくて良かったですね。  シェルビー達が大金を手にして、家を二件借りる事になり、ラドナー夫妻に大家になってもらうという完璧な和解エンドを迎えたのも、意外性があって良い終わり方。   総評としては、前作には及ばないまでも、充分に「好きな映画」と呼べそうな……そんな一品でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2019-09-18 07:41:47)
179.  ネイバーズ(2014) 《ネタバレ》 
 バットマンといえば「クリスチャン・ベール」世代なテディと「マイケル・キートン」世代なマックとが仲良くなって、喧嘩して、仲直りするという、とても楽しい映画です。   一応、本作の主人公がどちらかといえば、太り気味のオジサンなマックとなるはずなのですが……自分としては、マッチョな若者のテディの方に感情移入しちゃいましたね。  大学では皆のリーダーでも、社会に出たら学力不足の落ちこぼれに過ぎない。  成績優秀な親友だけが立派な会社に就職して、自分は取り残されてしまう。  そんな若者特有の切なさを、ザック・エフロンが鮮やかに演じ切っており、敵役であるにも関わらず共感を抱かせてくれたんだから、お見事でした。  「赤ん坊が生まれた結果、若い頃のようにパーティーに参加出来なくなったマック達は、テディの事が羨ましかった」 「テディはマック達のような大人になりたくなかったから、現実逃避の意味を込めて嫌がらせしていた」  等々、作中に出てきた「心理学を専攻している学生」よろしく「両者の対立の原因」について推理するのも楽しいのですが……  そういった難しいアレコレを考えなくても、シンプルに面白い映画だったと思いますね。   とにかく分かり易く、丁寧に作られており、序盤で(この二階に置いてある花火が伏線なんだろうな……)と思ったら、本当にそうだったりするのが気持ち良い。  視覚的にも派手な「エアバックの悪戯」には笑っちゃったし、デニーロの物真似をはじめとして「元ネタを知らずとも面白いし、知っていたらニヤリと出来ちゃう」小ネタが散りばめられているのも、楽しかったです。   それと、これが一番大事だと思うんですが、本作は序盤にてテディとマックが意気投合する描写に、ちゃんと説得力があったんですよね。  大人になりきれない二人が、世代の壁を越えて「男友達」になる一夜を、丁寧に描いている。  だからこそ、観客としても(この二人は本来、物凄く気の合う奴らなんだ)と理解出来る訳だし、ラストにて二人が「仲間のハグ」を行うハッピーエンドも、笑顔で祝福する事が出来たんだと思います。   テディが仲間を庇って逮捕される場面では、ちょっとした感動を味わえたりもして、程好いサプライズ感があったのも嬉しかったですね。  楽しい映画だし、それ以上に、好きなタイプの映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2019-09-18 07:37:21)(良:2票)
180.  ロマンティックじゃない? 《ネタバレ》 
 作中にて幾つかのラブコメ映画の名前が挙げられている訳ですが、その殆どを観賞済みな身としては、とても面白かったです。   主演のレベル・ウィルソンは太っているけど、美人でチャーミングな存在だし「ラブコメとしての見栄え」という点を考えても、充分に満足出来るキャスティング。  それに対し、彼氏役のアダム・ディヴァインも「美男子ではないけど、愛嬌があって優しい男」を好演しており、凄くバランスが良かったと思います。  「単純な美男美女ではないけど、魅力的な主人公カップルの映画」という形であり、作中で「美男美女が織りなす、王道なラブコメ映画」をパロっている事と併せて考えても、非常に相性の良い組み合わせだったんじゃないかと。   仕事中にラブコメ映画ばかり観てる同僚のホイットニーに、アパートの隣人なゲイ男性など、脇役がキュートなキャラクター揃いだった点も嬉しい。  この「キュートな脇役」達の中に、後に本命彼氏となるジョシュが自然と紛れ込んでいる形なので、お約束のはずの「親友と結ばれるエンド」に関しても、適度な意外性を味わえたんですよね。  「親友のジョシュを愛するべき」→「いいえ、やっぱり本当に愛すべきなのは他人ではなく自分」という、自己啓発的なエンドかと思わせておいて「でも、やっぱりジョシュが好き!」という三段仕掛けオチになっていたのも、上手い構成だったと思います。   ただ、終わり方に関しては「脱け出したと思ったラブコメ映画の世界から、実は抜け出せていない」というオチにも思えてしまい……そこが、ちょっと気になりましたね。  「汚い言葉を使おうとするとピー音が入る」という伏線があった為、ヒロインが汚い言葉を使えるようになったのは、現実世界に戻った証だとも思えるのですが、最後の歌って踊る展開は完全に「ラブコメ映画の世界」そのままなんです。  推測するに、ヒロインが迷い込んだ世界は「PG13指定の、健全なラブコメ映画」で、元いた世界は「大人向けの、普通のラブコメ映画の世界」だったと、そういう事なのでしょうか?  自分としては「結局ラブコメの世界から抜け出せていない」というバッドエンドではなく「実は元々ラブコメ映画の世界にいて、それに気付いていないだけだった」という、ハッピーエンドなのだと思いたいところです。   それと、本作は「王道なラブコメ映画」をパロってるというか、茶化して馬鹿にしているようなテイストもあるんだけど、そんな「王道なラブコメ映画」らしい場面を、ちゃんとロマンティックに、魅力的に撮っているというのがポイント高いんですよね。  ゲイの隣人にスクーターに乗っけられ、出勤する場面なんかは凄くオシャレだったし、音楽の使い方なんかも洗練されてる。  花びらに書かれた電話番号を繋げてみせる場面には感心しちゃったし、夜のアイス屋に忍び込んで二人で盗み食いする場面なんかも良い。  「君の目には愛が映らない」というジョシュの台詞には切なくなったし、窓の外の広告に見惚れてばかりいると思われた彼が、本当はずっとヒロインを見つめていたんだと分かるシーンも、実にロマンティック。   つまり「ラブコメをパロった映画」としての面白さと共に「王道なラブコメ」の魅力も同時に味わえる形になっている訳で、これは非常にお得感がありましたね。  皮肉な目線を備えつつも、ちゃんと「ラブコメを愛する気持ち」があるからこそ作れた映画なんじゃないかな……と、そう思えました。
[インターネット(吹替)] 7点(2019-09-18 03:49:12)(良:1票)
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