1. アバウト・タイム 愛おしい時間について
《ネタバレ》 「時間について」ラブコメではなくラブストーリーを考え続けてきたリチャード・カーティス監督が幾多の作品を集約させたかのような一本を引退作としたのが本作。時間。この壮大なテーマを監督は、極めて普遍的なレベルに落とし込み、全人類が体現出来る形でその尊さと重大さを惜しげもなく雄弁に詰め込んでおられる。エピソードが断片的であることや時勢が行き交うことも、極めてテーマに忠実。目を閉じた時に瞼の裏に映る光景が我々の財産。まるでぼくの人生を観ているかのように思えるのは、彼らや彼女らの想いが、親や子や兄弟や親友や恋人がいる全ての人の心と重なるからだと思う。ラブストーリーとは、男女のいちゃいちゃを観るだけのものではなく、親子の愛も、友人との愛もその中の一つだ。この映画はぼくの理想なのかもしれない。 (P.S. 放題の"愛おしい"は蛇足。痛みの時間もまた人生における重要な財産。痛みがあり、それを乗り越えるから人は強くあれる。監督は、はっきりとそこまで描いていらっしゃる。だからAbout Timeなのだ) [試写会(字幕)] 10点(2014-09-25 17:39:13)(良:2票) |
2. LUCY ルーシー
強い女大好きなベッソンが遂に最強の女を描いた。なぜベッソンがそうまでして強い女性に固執するのかは定かではないが、母や聖母マリアを連想させられる。本作では「Lucy」というどこにでもいる極々平凡な女性を無敵の存在に仕立て上げている。lucyとはラテン語で「光」や「輝く」という意味があるように「全ての人を照らす存在」へ昇華させている。残念ながら我々の日常において、神を感じる瞬間は全くといっていいほどないが光は、常に感じている。これは守護聖人「聖ルチア (Saint Lucy)」のことではないだろうか。我々を闇から守る女性Lucy。ベッソンのマザコンパワーはついに即物的な概念を越え、常に一緒にいたいという気持ちに到達した。「見事!(笑)絶賛の意」 [試写会(字幕)] 8点(2014-09-25 17:16:07)(良:1票) |
3. とらわれて夏
《ネタバレ》 「Labor Day」労働者の日。夏休み最後の休日。つまり、新学期が始まるその前の日ということ。本作が描き出すのは人生の再出発までの三日間。見事なタイトル。 [試写会(字幕)] 8点(2014-09-25 16:54:33)(良:1票) |
4. 8月の家族たち
《ネタバレ》 家族は、小さな集団。そこには決まりごとがある。役割りがあり、ルールがあり、受け継がれている文化がある。社会の小さな縮図。それぞれが何かを誰かによって強いられ、決めつけられ、自由を得た奔放者にはそこでは白い目が向けられる。多くの者がそこに暑苦しさと息苦しさを感じていた。変化を求めていた。オクラホマの代わり映えのしない風景が延々続く地平線を見つめ、渇望する。変化は、家のいわば幹だった者が起こす。物語を愛したその者は、自ら身を投げた。そして集団は、均衡を失い、秩序を見失い、役割りから逃れていく。この物語の中に間違った者はいても、死に値するような者は出てこない。みんな必死に生きているだけだ。ぼくらと同じだ。 [映画館(字幕)] 9点(2014-04-25 05:05:25) |
5. 白ゆき姫殺人事件
《ネタバレ》 「誰が真犯人か?」ということを登場人物達は気にしていない。ゆえにスリリングでもなければサスペンスフルでもない。演出も意図的にそういった方向には向かっていない。本作は「犯人探し」にあたり、傲慢に身勝手に憶測を飛ばす、メディアやメディアに踊らされる人々を描こうとしていた。情報の質量が軽くなっている現代において、観る者の質量を計る意識を、自問自答させるかのような物語の作りで、優れた原作だと思う。その一方で個人個人の取捨選択能力や判断能力を計れる物語でありながら、随所で演出が逆方向にベクトルが向いてしまっている。ゆえに、推進力となる部分に力が加わっていない。監督は、その意図を作品内だけに留めてしまっている気がしてならない。せっかく「ウォーリーをさがせ」の絵本で蝋燭の件をやっているのに、そこにナレーションを付けたら何の意味も無い。思いは、ウォーリー同様、見つけ、キャッチしようとする行為なのだから。 [映画館(邦画)] 6点(2014-04-25 04:49:22) |
6. SHAME -シェイム-
《ネタバレ》 「17歳の肖像」「Never Let Me Go」そして「Drive」と、あまりにも輝き過ぎていて直視するのも堪え難いC・マリガンの美しき裸体が拝めるとあって、固唾をのんで拝見したが、その感想は見事なまでに期待を裏切られた。垂れ下がり、締りのない胸。スマートとは対極を示すかのようなボディーライン。絶句だ。だが、それすらも複線なのだと、クライマックスで激情的に感じ得た。ファスベンダーは性に溺れているが、その発端は一切描かれない。依存症は、何かへの反動、あるいは逃避で始める事例があるようだが、彼は一体なぜ性から抜け出せなくなったのか?それが今作の核たるテーマだと思わずにいられなかった。まず、彼は社会的になに不自由無く暮らしている。お金はあり、容姿端麗できっと学歴もあるだろうし、会社では多々結果を残しているに違いない。彼には欠点という欠点が表層的な部分では一切無いと言っても過言ではない。そんな彼の姿勢は、これもまた何処か機械的に、何かを隠しているようにも見えてならない。つまり、“性”と“社交的振る舞い”は等しく「何か」からの反動、逃避であることは彼の姿を見ていればそれとなく理解出来てくる。「SHAME」社会的に彼が最も隠したい“SHAME”とは?クライマックス、彼はゲイプレイの末に3Pをする。彼の表情は快楽に溺れているように見える。そのバックでは妹の声がする。彼はその声から逃げるように、紛らわすかのように激しく腰を振る。そして絶頂の瞬間に彼が見せるあの悲痛な表情。彼は真に望む相手とのそれができない事を理解している。だがそれを理解していても、捨て去れるわけではない。むしろ離れようとすればするほど、それは否応無く彼を苦しめる。社会的に依存症と比べ物にならない程軽視されるであろう彼の願望。それは家族にも、当然社会にも知られてはならない想いだ。それから逃れる事なんて彼には出来ない。望む事を唯一で来た序盤の彼の涙がそれを克明に物語る。あまりにも許されない、あまりにも美しすぎる”SHAME”。素晴らしい。 [DVD(字幕)] 9点(2014-02-11 13:10:32)(良:2票) |
7. 12モンキーズ
理解しきれなかった、でももう一度見たら面白いかも... (2013/11月変更/4点→10点)面白いよ。しびれるほど。 [DVD(字幕)] 10点(2013-11-17 05:16:58) |
8. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 夢の物語。一心不乱に美を追求する彼の思い描いた理想という名の夢。消えそうでも、断ち切れそうでも、夢を抱ける者は立ち上がれる。また、立ち上がらなければならない、と自分に言い聞かすことが出来る。夢に始まり、夢に終わる。 寝て起きて、見た夢を他人に語って面白がられることなんて殆どない。夢は自分にしかわからない。これは、夢を知る者しかわかるはずがない。全てが空想、ファンタジー。まさしく夢。 [映画館(邦画)] 9点(2013-08-25 23:49:17) |
9. キャビン
《ネタバレ》 ホラーを観続けて良かったと、心底思った。まるでホラー映画からのご褒美かと思った。 [映画館(字幕)] 9点(2013-08-25 07:42:16)(笑:1票) (良:2票) |
10. 横道世之介
これは、横道世之介のまわりにいた人たちの話ですよね?だとすると1から10まで全部、まわりの人たちが横道世之介をどう思っていたか喋り過ぎです。彼がどういう人物か、観ればわかります。どういう人物か、押し付けたいのですか?考えを持たせてくれませんよね?その上、彼らがいうほど希有な存在に思えないのは、言ってしまうから尚更です。温度差を広めてくれます。不在によって想像させてくれた「桐島~」に似ていると聞いていましたが、構造はまったく真逆です。むしろ真逆ですら無い。全部、説明しているだけで、表現はどこにあったのですか?考える余地を与えてくれない表現は、説明でしかありませんが。 [映画館(邦画)] 5点(2013-08-25 07:40:27) |
11. ザ・マスター
《ネタバレ》 理解者に依存してしまうのは、誰もがそうだ。彼のように多くの痛みを背負った者なら尚更で、藁にも縋る想いだったに違いない。畑を駆け抜け船に浮遊し、彷徨っていた心は、終盤で疑い、退けようとも、一度信じた神を簡単に捨てることができなかったのかも知らない。あのボコボコにしてしまうフレディの心は、痛みに満ちていた。神を捨て、自らを信じ、自分を受け入れた彼は、振り返ることなくバイクに股がり、蜃気楼の先へ消えていった。そして表層的な美しさや即物的な価値ではない自分の居場所を見つける。この作品の作りそのものが、全現代人に向けたあまりにも尊い祈りに満ちていた。素晴らしい。 [映画館(字幕)] 10点(2013-08-25 07:29:31) |
12. シュガー・ラッシュ
《ネタバレ》 違いを認め合い、埋め合う理想郷。アニメーションだからこそ具現化できた意思。アニメーションでしか描けない祈り。違いがあり、欠点があり、優れていることがあるから社会は成り立っている。まさに我々の世界のメタファーだよ。 [映画館(字幕)] 10点(2013-08-25 07:14:13) |
13. エンド・オブ・ウォッチ
《ネタバレ》 「この物語は真実である」という現実味を劇映画以上に感じさせようとするモキュメンタリーも、ハリウッドでは一般的になりつつあるように思う。「クローバーフィールド」や古くを挙げると「ブレアウィッチ~」などもあって、昨年度には「クロニクル」でモキュメンタリーが全米一位にもなっているのだから多分、ハリウッドでは珍しくなくなっているのかもしれない。その一方で本作が抜きん出て優れているのは、モキュメンタリーが多く用いる題材が「大嘘」に対し、本作が「現実味」のある題材を主題にしている点にあるように思う。たまたま撮ってしまった(モキュメンタリー)ものが現実味があることによって信憑性が増して、緊張感も膨れたのだと思う。上手く転がり過ぎな物語を中和もしているし、手法と主題は見事に合致している。考えているなーっと心底感銘を受けた。 [映画館(字幕)] 9点(2013-08-25 07:10:47) |
14. アフター・アース
《ネタバレ》 子が父を越える成長の物語かと思ったら、まさかのいつも通りのシャマラン映画。親離れ子離れできないスミス親子が主演じゃ、通過儀礼はありえないよね。シャマランの「過去にとらわれた」といういつものテーマが「ある!」という視点で作品を観ると、迷走を続けるシャマランに「がんばれー!」という気になれ、微笑ましく観れた。シャマランらしくてとっても良かった。 [映画館(字幕)] 7点(2013-08-25 06:54:50)(良:1票) |
15. 嘆きのピエタ
《ネタバレ》 おかえりなさい、ギドク。消費社会の中で、捨てられていく少数派。歯車を上手く回せなくなってしまった者たちを飄々と見過ごし蹴落とす世の中のサイクルを、自らの血で断ち切りたいと願うギドク監督の強すぎる祈り。絶対に目を反らしてはならない祈り。 [映画館(字幕)] 10点(2013-08-25 06:48:13) |
16. ワールド・ウォー Z
《ネタバレ》 クライマックスの尻すぼみ&ペプシのCMになっちゃってるのは、勿体ないけど、ゾンビ映画のスピリッツは確かにあった。少数派と多数派が逆転する社会ってのは「ナイト・オブ~」でも内蔵されていたテーマなのだから、誠実さは感じれる。ゆえにテーマとクライマックが線で結ばれていない構造をやっぱり勿体なく感じさせられる。 [映画館(字幕)] 7点(2013-08-25 06:41:15) |
17. パシフィック・リム
突っ込みどころこそ、愛嬌。ぼくらが好きにならないなんて、あまりにも悔しすぎる。ぼくらのために作ってくれたトロ監督に感謝せねば。 [映画館(字幕)] 8点(2013-08-25 06:35:19)(良:1票) |
18. 桐島、部活やめるってよ
《ネタバレ》 「僕たちに青春映画は撮れない」中盤付近で眼鏡君は言う。そこには重層的な意思がある。まず「この映画は青春映画ではない」という意思表示。日本映画界が量産する絵空事な“自称青春映画”に対する憤りの念とそれらに対する嘘っぱちだ!という反感精神。そこと絡んでくるのは映画部顧問の「半径1m以内の話を作れ」という台詞。映画部にとって上記でも述べた意思と共にゾンビ映画こそ普遍だ、という意思がある。「ナイト・オブ~」は、ゾンビにより窮地に立たされた人々の負の願望から炙り出されてゆく人間の“本性”を描き出しており、これは絶対的にいつの時代も変わらない普遍的なものに昇華している。“ゾンビ”の定義は「腐った死体のまま動き回る人間」で、喰らう為に生きる存在だが、ぼくらは本来、生きる為に喰らう存在。 「桐島」は、彼を必要とする人々にとって現状の位置を高め、維持する「ステータス」に過ぎない。そんな彼らと対比するように登場する映画部を始めとする者達は「ステータス」に関心が無い。それぞれの金曜日を通し、それぞれの目線が丁寧に描かれる。 クライマックスで、彼らの後ろにワーグナーのローエングリンが流れる。想いが届かぬ事を理解しながらも、むしろ断ち切るため、痛みの中へ身を投げた彼女は演奏する。彼女の想いだけでなくローエングリンは、屋上に集う者たちの姿も重層的に描き、そして寄り添う。「桐島」に吸い寄せられた者達が「桐島」に関心のないゾンビ達によって喰い殺されていくカタルシス。屋上でむき出しの“本性”が炙り出されていく。ぼくらがあの頃執拗に隠していた“ださい”姿。前田が未来に明確なビジョンを持っているだろうとヒロキは思っていただろうが、前田の言葉は意表をつかれる。これは現代を象徴する意識をも具現化する。レンズ(非直接的な物事のメタファー)を通し見た気になり、決めつけ、思い込んでいる。好きだけど今しか出来ない、痛みを彼は知っていた。本作は、進路を決め、大人にならなければならない子どもの尊い狭間の物語でもある。 (追記)カーストは描いているけど、映画部、吹奏楽部、野球部キャプテンらはその内側にすらいない。いると思っているのは内側にいる者。メタ構造的にも、カーストに捕われているから重視するのだ。 [映画館(邦画)] 10点(2013-08-25 06:21:28)(良:3票) |
19. 愛、アムール
2人の想いを紡ごうとする者に届く恋文。2人だけの秘め事である合言葉を覗き見したかのような作品。ぼくには到底理解仕切れる筈もないAmourの糸口を教わった気がする。50年後にもう一度観たい。そして甘いな、ハネケと言いたい。生きる希望。感謝感動、感情の坩堝。 [映画館(字幕)] 10点(2013-03-18 17:30:13)(良:1票) |
20. ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
《ネタバレ》 全てが人生の比喩。信じる心と成長のメタファー。つまり、我々が体験した事は物的には非現実のメタ構造内(映画)の虚像だが、心的には事実。そして、これを信じたいと祈る心こそが、究極的に真実。 [映画館(字幕)] 10点(2013-02-23 02:43:32)(良:1票) |