1. マッドマックス:フュリオサ
《ネタバレ》 冒頭は美しく平和な世界が蹂躙されていく辛い場面が続く。またこの平和な世界がやけにCGCGしていて絵面としても少し辛く、それに続いて母親がどうなったのかとか「車裂き五人衆」の元の集団が誰なのかはっきり説明されないのでちょっと混乱する。 中盤からは『フューリー・ロード』と同じ息もつかせぬアクションが続いてようやく気分がアガるのだが、このアクションの見せ方はやはり上手い。セリフ無しで表情や動作、クローズアップだけで人物が何を考えて何をしようとしているのか、状況がどうなっているのかひと目で分かる。ズームを使わず物理的にカメラを寄せるアップの撮り方も効果的で格好良い。 普通は子役から大人の役者に切り替わる時は「何年後」みたいに別のシーンにすると思うのだが、驚いたことにこの映画では一つのアクションシーンの中で入れ替わる!ちょっと無理がないとも言えないが、同一人物であると実感させる超演出には感心した。 そこまでは良かったが問題は終盤。大決戦はナレーションと「事後処理シーン」で済まし、掃討戦をクライマックスに持ってくる。のはいいとしても最後のクリヘムの超長演説、あれ要る?なんか面白いこと言ってた?そして最期の落とし前はファンタジー。どういうことなの。 その他にもクリヘムがいきなり撃たれたように見えたり、フュリオサの左手が途中で車に挟まれてもげたように見えたりと変なミスリーディングが多い。そして不可解なのはこれ撮り終わってから編集に2年もかけているんだよね。時間かけすぎて作品酔いが起こった? この映画は素晴らしいシーンがてんこ盛りだしアニャのフュリオサにはまた会いたいと思わせるのだが、ストレートな話のはずが妙に不可解な映画になっちゃったなーという印象。 [映画館(字幕)] 8点(2024-06-03 17:12:37) |
2. DUNE デューン/砂の惑星 PART2
《ネタバレ》 前作に引き続き圧倒的な映像。サンドウォームは言うまでもなく、全体のスケール感、中東情緒を昇華したデザイン、その質感が凄い。ジェシカやイルーランがまとう衣装デザインも素晴らしい。汚れる場所は必ず汚れているし人間描写のリアリティは昨今の映画では比類がない。映像に関しては10点満点中20点を献上する。 人物ということでは救世主に覚醒するシャラメの演技はお見事。普通の女から恐ろしい教母に豹変するレベッカ・ファーガーソン、そして原作からして存在意味が危なっかしいフェイド=ラウサに存在感を与えたキャラ造形には唸らされた。 で、言いたいことは結構あります。レーティングのためか血がほぼ一切出ない。状況的に超残虐シーンが多いからそのものズバリを映すとキツすぎるだろうが、だったら終盤何度も出てくる体にナイフをブサブサ刺す場面はもっと他の描写にすべきでは?フレメンの大反攻も妙に「小出し」でカタルシスが足りない。フレメンvsサーダカーの最強軍団対決は遠目にはお互いの衣装が似てるので状況が分かりづらい。特に最後サーダカーを血祭りに上げるシーンは作るべきだったのでは?前作で散々やられたんだから。 ラッバンを追い詰められた気の毒な男として描いてラウサと対比させるのは良いと思ったが、それでもあれほどの暴虐を働いてきたのだから劇中できっちり惨死させるべきだろう。その上の暴虐どころではないハルコンネンもきれいに死なせすぎ。今回一度も宙に浮いてないし。やはり全体的にカタルシスが足りない。 そして最大の問題、チャニはあれでいいのか?いつ仲直りするのかと思っていたらラストまでそのままかよ!ゼンデイヤが中盤からずっと仏頂面なのであれじゃまるでポールが急に金持ちの美人に乗り換えたように見える。続編(『砂漠の救世主』)への伏線なのかもしれないが、それならむしろ今作ではラブラブエンディングじゃないとおかしいのでは?ていうか『砂の惑星』は一応ここまでは完結した物語なのでスッキリ終わらせてくれよ。 途中までは大絶賛する気満々だったので本当にもったいない。 [映画館(字幕)] 6点(2024-03-18 19:26:31) |
3. 君たちはどう生きるか(2023)
《ネタバレ》 どんな映画か全く分からずに、それも映画館で観る、これが意外に面白かった。安心のジブリ印だし。劇中で普通ならジャンプスケアがありそうな場面でビクビクしてしまったが、ジブリなので当然そんな心配はいらない。 そしてジブリが得意な日常の描写、詳細なディテール(←重複表現)がしつこーーーーく描かれる。何の話か分からないからそのディテールに目が行ってしまう。おそらくこの映画は最初から情報を出さないプロモーションで行く企画で作られたのだろう。もしかしたらディテール表現をこれでもかと詰め込むために作られた映画なのかもしれない。 キャラクターはどれも練られていて、声優陣の演技も秀逸。キムタクもハウルと同じくジブリでは良い演技で、実はあれが素の実力だとしたら実にもったいない。 その「キャラクター」が、良く出来てはいるのだが既視感がある。生真面目で熱い少年、きっぷのいい姐さん、万能の少女、憎めないセコいヤツ、自分ではなんにもできない普通の中年男女、自らの限界を知る孤高の老人、そして異生物のような老婆・・・。いわば人間を性別と年齢で切り分けたスターシステム。昔からそうだが宮崎駿は80歳超えてまだそういう世界の見え方なのか? 世間的に評価が高いが自分はすごく苦手な、あのヌトヌトとした食べ物描写、そのぶしゃぶしゃした喰い方、そういう質感も含めて宮崎駿の集大成的作品ではあるんだろうね。大風呂敷を思わせぶりに広げたあげくクルっと丸めてはい畳みましたーという展開も嫌いじゃない。主人公の空虚さも品があって好感が持てる。君たちはどう生きるか、俺はこう生きたぞという自作戒名発表的作品なのかも。 全体的には好きだしストレートなエンタメ作品として人にもおすすめできるが、音楽だけはいただけなかった。思わせぶりなミニマムな楽曲。これがどう展開するのかと思ったら同じものが何度も、けっこうな頻度でかかる。久石譲がお疲れなら別の人に頼んだら良かったのでは?エンドロールの米津玄師の曲も本編との繋がりがピンと来ないし、手書き風フォントにするのは良いとしてバックを青にする意味がわからない。本編が詰め込み過ぎなのにラストのラストが放り投げというのはいかがなものか。 [映画館(邦画)] 7点(2023-07-19 22:00:26) |
4. ブレット・トレイン
《ネタバレ》 設定からふざけたノリのアクション映画は嫌いじゃない。トンデモ日本が出てくる映画も嫌いじゃない。説明のために「前日譚」がぶちこまれる雑な展開や新キャラ登場時に名前を大きく出すのも面白い。しかし・・・どうもこれには(文字通り)乗れない。 面白いアクション映画を作ってやろうというのはわかる。ふざけを全力でやっていて手抜きはない。役者の演技もみんないい。ただ何だろうな?漫画だったら、小説だったら許される「書き手の癖」みたいのが映画だとどうもノイズになってくる。 とはいえすべての伏線(?)がつながってくるラスト30分からは面白くなる。画面の中で起きる事はめちゃくちゃだが、爆走する新幹線のごとく1本の線にまとまってくる疾走感が細かい疑念を吹っ飛ばす。そこに真田広之の冴えた殺陣で否が応でも盛り上がる。 ただその後、ラストシーンでまたダレる。「仲介者」はそれまで顔を見せないので突然出てきても反応に困る。ラストシーンに新顔出してどうする。最後のアレは実はこうでしたみたいな話が出るが、それ普通に時系列で出来ない?なんか、全体的に上手くない。 どうも『ジョン・ウィック』を撮った監督とも思えないんだよな。もっと構成を練って90分にまとめて、なんならコメディ仕立てにしないほうがかえって笑える作品になったかもしれない。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-06-06 22:11:25)(良:1票) |
5. マッドマックス 怒りのデス・ロード
《ネタバレ》 公開時は誰も彼も話題にして絶賛していた映画、そのぶん気が重くなりいつか観なければと思いつつやっと観ました。ああすげぇ。そりゃみんな絶賛するわ。 のっけからとんでもない世界でありながら全編通じて「リアリティ」に貫かれている。一応近未来ではあるが未知の科学は(そんなに)出てこないので実はSFでもないんだね。そんな架空の現代劇としてのリアリティ。攻撃が成功したり失敗したりするのにはロジックがあってそう都合良くはいかない。どんなに強くても女が筋肉男を一人で素手ではぶっ飛ばせない。怪我をすれば血を流して顔は腫れ、風呂に入れない人々はホコリまみれ。ワイヴズがきれいなのは水で洗ってるからという描写もちゃんとある。女のほうが射撃は上手いというのも一応現実には即している。 リアリティという点なら、心が壊れたマックスがなかなか物分り良くならない、どころか全能力を生存に全振りしてしまっているので最初は言葉も満足に話せないという描写も面白い。元々素直なウォー・ボーイズであるニュークスの方が早く適応する。 全編とんでもないバイオレンスが展開し続けるが、その表現としてヒューマニズムが根底にある。エグいシーンは状況として写すがグロまでは行かない。この映画は酷い世界を描いているがどこか優しい。ジョージ・ミラーは人間というものを信じていて、だからこんなとことんまで酷い世界を描きながら希望を抱かせる。その優しさは劇中で葬り去られる人々にも向けられている。 人間は愛か希望がないと生きていけない。マックスはそのどちらも得られる機会を捨てて贖罪の旅に出る。それがマックスにとっての愛と希望なのだろう。この映画は優しいが決して甘くない。 [インターネット(字幕)] 10点(2023-06-03 22:02:23)(良:1票) |
6. トロン:レガシー
《ネタバレ》 『トロン』が技術の限界やB級感を含めて奇跡の作品だったのでこの作品には期待しておらずずっと放置していましたが、やっと観てみました。 正直言って不安は的中。2010年の技術で上手いこと作ってやったぜい!ってそれ違うんだよ・・・。ただ前作をリスペクトしてすごく丁寧に作られているのは分かる。ゲームセンターの時代感、80年代と2010年代の対比は上手、くはないが頑張ってる。 しかし最大の問題点が「グリッド」世界の描写。風が吹いて稲光が光って蒸気が吹き上がってる?おいおーい、オリジナルが持ってた異世界感のモダナイズがこれか?靴音や物音もことごとく普通の現実世界の音。これを少し変わった音にするだけでもだいぶ印象は変わるはずなのだが。 その「音」という意味ではダフト・パンクが作ってるエレクトリック音楽は本当に素晴らしい。しかし合間に入り込むオーケストラ音楽とその使い方が壊滅的にダサい。これぞ全くの玉石混交。劇伴音楽はエモーションを揺さぶるので観てる方はアガったり下がったりで忙しい。 そして最大の問題点、て「最大」が2つ目だがこれは言わざるを得ない。デザイン。何でオリジナルのウェアデザインを踏襲しないの!これこそ「レガシー」でしょう?ヘリコプターや戦艦のデザインは踏襲してるが明らかにダサくなってるし帆船はとんでもなく改悪されてる。 特にひどいのがバイクバトルで助けに来る4輪バギー。昔のF2レーシングカーまんまじゃん!そりゃメビウスやシド・ミード並のオリジナリティを発揮しろとは言わないよ。でももう少し頑張ろうよ。 一つとても良かったのはラストの決め方。そうそうそう、ラストはバシッと決めてすぐエンドロールに行く!後日談とかだらだらやらない!わかっとるね。と思って1点上げようと思ったが、配信だと「次の動画」でオリジナル『トロン』の画面が出てくるのね。そのデザインの落差に「現実に戻されてしまった」のでやはりこの点数。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-05-17 23:29:36)(良:1票) |
7. クローバーフィールド/HAKAISHA
《ネタバレ》 この映画はさんざん語られたこともあって大体の概要は知っていたのだが、1時間24分の映画で冒頭18分までがパーティーシーンだとは思わなかった(笑)。全編通じて画面がずっと手持ちカメラで揺れ続けるため実際の時間よりずっと長く感じる。体感3時間。 カメラワーク、というかカメラ持ち(?)の天才JJエイブラムスがどこまで現場に関わったのかは知らないが、そのカメラの絵だけで劇場映画1本作ってしまう発想は凄い。編集には流石にあざとさはあるが上手いのは間違いない。突っ込みどころもないわけではないが「現場のリアリティ」でとことん押し切る。 その「リアリティ」だが、もし現実世界に本当に怪獣が現れたら?という初代ゴジラ的視点は面白いのだが、その怪獣があれか?あのサイズの物体があんなスピードで動くか?その体があんな細っちょろいのか?おまけに声からして人間ぽいぞ。 いまだ解き明かされていない深海の世界、その底に眠っていた巨大生物が急に目覚めて地上に突進してしまう、という設定はもしかしたら本当にあるかもと思わせるのに、まず怪獣の造形で台無し。そしてこいつは人間をじーっと見据えてグワーと喰いに来るし、おまけに子怪獣ばらまいて陰湿に襲いに来るとか、大怪獣のくせにやることがせこい。 評価できる点は役者の演技と汚し表現。登場人物は状況に合わせてホコリまみれで髪や顔がベタベタ、服は破れるし血はにじむ。ほんと最近これやらない映画多すぎだよ。 そしてもう一つ評価できるのはサウンドで、BGMなし!これは思い切ったね。おかげで劇中一切気が休まらない。だから長く感じるというのはあるが、緊張感と雰囲気のリアリティは持続する。 そしてエンドロールではじめて音楽を流すのだが・・・残念ながらその曲がとんでもなくひどい。伊福部昭オマージュかなんだか知らないが、やたら大げさで扇情的。この曲を高く評価している人が多いのに驚くが、純粋に楽曲としてレベルが低いと思う。正直もう少し高い点数付けようと思っていたのが最後のクソ曲で一気に気分が引きずり落とされた。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-05-15 22:42:49) |
8. アジャストメント
《ネタバレ》 冒頭15分は上院選に立候補する男の政治ドラマ。いやーいいね!このアメリカの選挙の感じすごくいい。このまま政治ドラマ続けてくれんかな~でもこれディック原作のSFなんだって?ディックもSFも好きだけどこれをぶち壊すのはもったいなくない? はいぶち壊されました。なんともありきたりなMIBが襲ってきます。そして偉そうなこと言います。当然主人公抵抗します。そして勝利します。理由はよくわかりません。 ディックSFのキモは普通の生活に突如侵入する異世界感だと思うのだが、その演出が上手くない。怪しい男たちがいかにも怪しげに登場してドジを踏む。いや人類社会がこんな奴らに支配されているわけがないだろう。役者の演技は主役のマット・デイモン以下みな素晴らしいのだが・・・。 各シーンは冒頭の選挙からどれも実によく作られていると思うのだが、中盤の白髪オヤジがぶっちゃけるシーンからカメラワークが怪しくなる。どうもこのあたりで製作陣がデスマーチ状態に入ったようだな。それからバタバタと話が進み、最後は「運命は自分で切り開くもの」的なナレーションで終わる。役者陣は頑張っているが映画自体の終盤の投げやりぶりがすごい。そしてエンドロールで急にハードロックかけてイイハナシダナーで終わらそうとしても駄目だろ! 監督のジョージ・ノルフィは初期からSFに関わっているようだが、成功したのはそれ以外の分野。やはりSFは上手くない。しかし現代劇を丁寧に構築する能力はあると思う。冒頭の「スラム育ちの青年が政治の世界でのし上がる」話をそのまま延長して政治ドラマ作ってくれんかな。タイトルは『アジャスト』とかで。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-05-13 23:39:48) |
9. スターシップ・トゥルーパーズ
《ネタバレ》 色んなところで名前が上がる映画、ぜひ初代から観てみよう!おおー皮肉が効いてる。90年代の能天気さの延長に真正面からのディストピア設定。そして戦争。戦争の悲惨な現実をこれでもかと描写する。男女同権の未来設定が「女性が恥ずかしがらない」ことに表現されがちなのもこの時代はよくあった。 しかし映画が進むにつれて皮肉が皮肉に思えなくなってくる。未来の宇宙戦争なのに第一次大戦のような歩兵戦。悪ふざけを許容し合うバディ感。頼もしい鬼教官。仲間のために命を捨てる兵士・・・etc。それらがすべて肯定的に描かれる。極めつけにゲシュタポファッションの情報将校まで登場。これもやはり「頼もしい仲間」だ。原作はロバート・A・ハインライン。ナレーションはハートマン軍曹。やっぱり、「そういう映画」なの? ポール・ヴァーホーヴェンはこの映画を全体主義やナチス賛美と受け取られて困惑したらしいが、当時でもこれが100%不謹慎と捉えられる世界ではなかった。ましてや2023年に観るとなると・・・。映画はヴァーホーヴェンのヴの字も知らない人だって観る。現代美術なら受取り方を言葉で指定できるが、映画は大衆芸術だ。 SFはその時代の延長線を描くので現代劇より時代性を強く反映することがあるが、この映画は1997年という平和でリベラルな時代の常識で創られている。この作品のメッセージが誤解されたとしてもそれは作品や作家の罪ではないが、少なくともこれからの映画はこの作品を他山の石として、作られた時代や作家の情報のようなメタ知識なしで伝わる工夫をする必要があるのではないかと思う。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-05-09 22:54:06) |
10. NOPE/ノープ
劇場で観ようと思って観そびれた映画。ようやく観てみました。 おおなんだこりゃ!引き込まれる!でもなんだこりゃ。でも引き込まれる!登場人物も文字通り引き込まれてる!でも何だこりゃ・・・で最後まで行くのかよ! 途中で気が付いた。これは見たいものを順に見せてくれるデザート映画じゃないんだ。シェフが腕組みすらしていないレストラン。料理は抜群に美味いが何が出てくるのかわからないし何を食わされているのかもわからない。シェフに聞きたいがテーブルに出ては来ないし厨房で顔すら上げない。 この映画を観るまでネタバレレビューに接するのは極力避けてきたが、「ネタ」って実際何だったのだろう?美味かったし腹はふくれたが何の肉だったのかわからないものを食った後の気味悪さが残る。あの130分で一体何を見せられたのだろう?幸い音楽が絶品のソースのように安心感を与えてくれるが。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-05-08 22:23:58) |
11. トロン
リアルタイムでは本でしか接することができなくてかなり後になってネットで観た映画。今は配信にあるので改めて観てみました。 こりゃすごい! まずですね、コンピューター世界の造形、衣装、戦車や戦艦、帆船(?)、そしてバイク・・・etc。このデザインがぶっ飛んでる。そして超かっこいい。このオリジナリティの塊の「異世界感」の創造性は比類がない。 驚くのはそれが1982年当時のCG技術(に似せたアニメ)や合成などの技術の限界こそが「コンピューター世界の擬人化」という、まったく非現実的な設定に、あろうことか「リアリティ」を与えていることだ。当時もそう思ったが2023年の今でも、いや今だからこそ余計そう思えるとは。 音楽は現実世界では生オーケストラ、コンピューター世界ではシンセサイザーと使い分けられている、と思いきやそれらは微妙に混ぜられていてそれがまた素晴らしい効果を生んでいる。 ストーリーもテンポが良いしラストもサクっと締める(重要)。全体のテーマも意外に現代に通じる話だしなぜこれがシリーズ化、ユニバース化されなかったのが不思議なほどだ。思うに多分この映画の奇跡は計算されたものではなかったのだろう。だから安易にリブートできないし「続編」ともなると・・・。 しかしこのローファイな未来感覚はこの映画1本で終わるのは惜しい。ゲームだってドット絵のスマホゲームが人気じゃないですか。こういう技術を反転させたデザイン勝負のSF映画をいま作っても良いんじゃないかなあ。 [インターネット(字幕)] 9点(2023-05-03 23:53:30)(良:1票) |
12. シン・仮面ライダー
《ネタバレ》 『シン・ゴジラ』には乗れなかった自分としては世評も微妙なこの映画はスルー予定でしたが、あまりに色んな人が話題にするのと、予告編がかっこいいので気になって観に行きました。うむ、予告編通りかっこいい!とこもある! まずライダーキックが必殺技であるというのを迫力ある映像として見せているのが良い。特撮で見ていたあのキックは本当はこんなに凄かったんだなと思える。他にも新鮮なアクション、怪人やそのアジトの美麗さなど魅せられる要素は数多い。 一方問題点は挙げればきりがない。登場人物が全員思っていることをぜんぶしゃべる、しかも嘘がつけないようで裏腹なことは言わない、というのはこの監督の作家性らしいが、にしてもほんと会話が多い。そして場面展開の強引さは昭和の特撮を越える。そこまでこまけぇことに気にしないんならいっそ採石場で戦ってほしかった。 121分は今どきの映画としては長い部類ではないが、それでも長いと感じる人は多いようだ。が自分は意外と気にならなかった。それはやはり全体の玉石混交ぶりにあるだろう。良いシーンではアガるし駄目なシーンではリラックスできるのでメリハリがあって疲れない(笑)。だったら編集し直して切り詰めれば名作になりそうなものだが・・・残念ながら肝心のクライマックス、ラスボス戦が映像としてグダグダなのだ。 演じた森山未來のキャラ造形は本当に素晴らしかったのだが、そのラスボスとしての凄さはFXではなくちゃんとアクションで見せてほしい。映画全体として後半になるにつれアクションはどんどん何やってるのか分からない誤魔化しになっていくのが辛いところ。一本足したぐらいでは幸せになれない。 この映画を端的に言うと幼稚。かっこいい人物をかっこよく登場させてかっこさよさげなセリフをクールに(?)言わせる。漫画みたいなカット割りに解説セリフ。子供が考えた大人の世界。とはいえ本当に光るものはいくつもあって、これを「大人の鑑賞に耐える」レベルにまとめられなかったのは残念だ。決して駄作ではないが、とにかく惜しい!映画。 [映画館(邦画)] 6点(2023-05-01 22:21:20)(良:3票) |
13. AIR/エア
《ネタバレ》 開始いきなりかかるダイアー・ストレイツの『マネー・フォー・ナッシング』でわけもなくアガる。この曲を知らない人はどう思うのかわからないが、とりあえずなんかわからんが盛り上がる気分になるのではないだろうか。80年代のPVやニュース映像が流れてそのまま映画のストーリー画面へ。古い画質から現代基準の映画の品質にゆーっくり戻していくのだが、このさじ加減が上手い。 話自体は一本道だし史実だからどんでん返しもない。その合間を80'sポップが絶妙に埋めていく。歌詞がわかる人ならもっと感じ取れるものがあるかもしれない。その他のガジェットや車、建物、もちろんファッションや髪型に注意が払われていて観客を自然に1984年に連れていく。 感心するのはキャスティング。ジョーダンの父役の人は現実のジェームス・ジョーダンには似ていないが、マイケル・ジョーダンに似ているので登場した瞬間にこの人があのジョーダンの父だとわかる。母役もやはり本人には似ていないがこれは演技重視ということだろう。ちなみにこの母役ヴィオラ・デイヴィスの配役はマイケル・ジョーダン本人の希望だったらしい。 この映画に登場する本当の人物像には、たぶんマット・デイモンやベン・アフレックのような輝けるスター達のようなオーラはないと想像する。そこにもしマイケル・ジョーダンという、どんなスターも居るだけで圧倒する存在を放り込むなら誰を連れてくればいいのか。当然ながらそんな役者は存在しないからジョーダン役の人はほぼ顔を映さない。この中心になる人物を空白にしておく構成も実に上手いと感じた。 この映画は大画面や大音響がなくても十分成立する。2023年にそんな映画を映画館で観るのも乙なものだと思った。そして1984年の空気感に浸らせてくれて、家に帰ってもその空気が漂っている気がした。実はこの空気感がこの映画の隠れた主役なのかもしれない。 [映画館(字幕)] 7点(2023-04-26 23:02:04)(良:1票) |
14. ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り
《ネタバレ》 まず最初からあまり説明しないのが良い。冒頭の恩赦請願シーンは説明用だな、とはわかるが基本的に用語の説明はせず見てりゃ分かるよという感じでサクサク進めるのは小気味良い。かと言って最近多い観客置いてけぼりで雰囲気重視な映画ではまったくなく、ファンタジーに関してはごく軽くしか通っていない自分でも十分楽しめた。 とはいえ元がテーブルトークRPGであることは知っておく必要はあるかもしれない。キャラクターには能力値が割り振られているので基本的に平等でパーティを組んで力を合わせる必要がある。途中に出てくる無敵のお助けマンはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)なので仲間にできない。 全編ギャグ満載なのでそういう設定上のメタ発言が飛び出すかと思ったらそうでもなかった。全体としてこの映画はとても丁寧。雑なのは鳥人間の造形くらい。(あれも笑うとこなのだろうか?) そんな丁寧な中で気になったのはクリス・パインの髪型が一切乱れないところ。汚し表現は最初の牢獄シーンくらいで後はずっとぴっかぴかだ。やりすぎると雰囲気が重苦しくなるだろうが暴れまわった直後でも髪一つ乱れないとかこの映画にかぎらずなんとかしてほしい。 しかしとにかくよくできた映画で評判も良いのでこれは一大シリーズになるのだろう。コメディにしたのも良かった。今更この伝統的設定でシリアスな話してもね。ただしコメディにしたことで続編のシナリオはより難しくなったと思う。きっとどこかで大コケする。それを見て笑う準備もしとこう。 [映画館(字幕)] 7点(2023-04-20 18:15:12) |
15. エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
《ネタバレ》 面白かったー!よくこんな映画作ったな。しかし観てる間中「これはいったいなんなんだ」という思いが消えない。そして観終わった後もやはり消えない。なんでこんな映画がアカデミー作品賞なんだ。フルチンでカンフーバトルやる映画だぞ(笑)。 めっちゃくちゃな話をぐいぐい引っ張って観客を巻き込むテンポ感と見栄えのする映像で見せる構成は大したものだが、その中で俳優の演技がリアリティを与えている。登場人物は突然人格が入れ替わる役が多いのだが、特にキー・ホイ・クワンは一言もしゃべる前から「あ、今あっちの人になった」というのがはっきりとわかる。ジェイミー・リー・カーティスの極端な変化も凄い。この映画の成功は役者に多くを負っているのは間違いない。 ところで誰しも「あの時ああしていれば今ごろはどうなってたか」と考えるものらしいが、自分はそういうのがあまりない。だからこそこの映画のバースジャンプ、とんでもなくばかげたことをやらないと次元を移動できないという設定は腑に落ちるところがある。順調にいっている仕事を辞めたりいい歳して別の分野を学び始めるのは外から見れば狂った行動だ。実はそんなリアリティにあふれた作品なのかもしれない。 [映画館(字幕)] 8点(2023-03-28 20:59:53)(良:1票) |
16. 劇場版 センキョナンデス
ラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島が主に政治について語るYoutube番組「ヒルカラナンデス」の選挙特番である「センキョナンデス」の劇場版。毎週観てる視聴者としてはこういう前説はもう食傷なのだが、自分で何か書くとなるとやはり外せないハイコンテクストな作品ではある。 正直言って観に行く前は「iPhoneで撮った動画配信でやってる映像がスクリーン視聴に耐えられるのか」「さんざん観てる映像や同じ話をまた聞かされるのか」という不安があった。その懸念自体はそう外れてはいないのだが、109分の映画になると大きな「ストーリー」が鮮烈に浮かび上がる。それはこの映画の編集の上手さなのはもちろんだが、取材対象である「政治家」という特殊な職にある人間のパワーが自ら紡いで突き出してくる。 この映画に登場する政治家には名優もいれば大根もいるしその中間もいる。そしてやはり政治なのでみんな政党の戦略の中で自分の役を演じざるを得ない。その葛藤が白日の下にさらされて実に面白いのだが、中盤以降この「物語」の中心をさらっていく人物が現れる。もちろん監督二人の政治的スタンスははっきりとしているし、どれほど中立を掲げてもどうしたってバイアスはかかるが、カメラの前で誰がどんな条件で自分の言葉で話をするか、それともしなかったかは明白だ。 この映画を観れば政治家という人々、我々の生活を直接左右する仕事をしている人々に興味を惹かれる。その人々が人前でありのままをさらけ出されるのが選挙であるということが分かる。だから選挙に行こう、その前の選挙活動を見に行こう、会いに行こうという気にさせられる。 [映画館(邦画)] 7点(2023-03-12 20:36:47) |
17. ワンダーウーマン
《ネタバレ》 スーパーヒーロー映画を観る時はどうしてもSF的な理屈で自分を納得させる癖があるのだが、これはそれが不可能な神話ファンタジー。ガドットがそんな神様キャラにぴったりはまっているし、クリス・パインのちょいへたれなイケメンぶりもちょうどいい。映像も頑張っている。 第一次世界大戦中の描写はお見事。そこにワンダーウーマンがねじ込まれるとどうなるかという違和感が面白い。ただこの設定で話が進んでいくとどうなるのかという着地には特に工夫が感じられずそのまま進んでいく。そして圧倒的な敵に勝つロジックも「本気で怒って実力出した」だけ(笑)。 アレスおじさんの意外なキャラとかはまあまあ面白いのだが、本性現わしたら髪型変えるとかなんか神様っぽい演出しても良かったんじゃね?鎧着ても顔がちょび髭の貧相な親父のままではなあ。そしてガル・ガドットは最初からうっすら化粧していてどんな時でも髪が乱れないし埃も付かない。こういうのは背景にグリーンバックの存在を感じてしまう。 ここまで荒唐無稽なキャラを実写化して他のシリーズと同世界にするのなら映像の「現実感」にはもうちょっとこだわってもいいんじゃないだろうか。そしてあのかっこいいテーマ曲を劇中でもっと使ってほしかった。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-12-18 00:31:14)(良:1票) |
18. ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密
《ネタバレ》 あらかじめアナウンスされていたことではあるが、ジョニー・デップ降板でマッツ・ミケルセンが登場。前作で散々濃いキャラを振りまいた役を交替させて大丈夫か?そして登場したマッツ・ミケルセンが白塗りもカラコンもホワイトブロンドもなしの素のマッツ・ミケルセンのまんま! これには驚いたが、観終わった後では英断だったと思う。前作までのあのキャラ造形はジョニデならではのもので、誰がやっても陳腐になったはず。映像的な連続性は失われたが一つの物語としての整合性はむしろ保たれた。やはり役者というのは凄いものだな。 さて前作ではあまりに分かりにくくなった話を分かりやすくするために今作では「説明」に時間が取られる。あまりに暗い話にしないようにコミカルな演出も出てくる。そして今回は「動物」が決定的役割を果たし、その動物専門家としてニュートの役割も重要になる・・・か? 一作目で素晴らしいキャラクターを演じたエディ・レッドメインだが、今作では数多い登場人物の中で個性を際立たせるためなのかずっと同じ演技をしている。不器用な歩き方はわざとらしいし、表情に至ってはずっと同じびっくり顔。いつの間に大根役者に成り下がったのか。 そして終盤、どんでん返しが好きなハリポタシリーズらしい展開だが、だいたい読めるという落ち。次に今どきの映画なので覚悟はしていたが、ラストシーンが長い!なぜそこで長々と会話する?あんなの結婚式をダンブルドアが外から眺めるという一瞬で終わらせれば素晴らしいラストになったはずじゃないか。 あと戦前の状況とはいえドイツやドイツ人を悪としか描かない描写にも違和感がある。思うにローリング先生には脚本用の「原作」を書いてもらって、脚本は映画の脚本として別に仕上げればよかったんじゃないか?それで先生が不満ならそれこそ「原作」を書いて出しゃいいわけで。 [映画館(字幕)] 6点(2022-04-21 23:19:29) |
19. ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生
《ネタバレ》 前作ではハリポタ本編映画の「一見さんお断り」じゃない、映画スタートなハリポタシリーズが始まったと喜んだのだが、なんと今作ではいきなり置いてけぼり感全開。「あんた誰だっけ?」の連続で平然と話が進んでいく。またその話がずっと暗い。「黒い魔法使い」の話だから暗くしましたって?そもそも前作のラストに満を持した感じで出てくるラスボスが「誰?」な感じだったのだが。 そのラスボスのジョニデはさすがというか、存在感も悪の魅力にも満ち満ちている。あのやりすぎなキャラ造形にも負けていない。そしてジュード・ロウのダンブルドアのイケてることよ。二人とも大物感があって魅力的で演技だけで人を惹きつける。登場人物たちがこの二人の周りに集まって勢力を形成していく過程に説得力がある。 ただその分主人公の影が薄くなる。ファンタスティック「ビースト」シリーズなのに肝心の動物があまり活躍しない。そして説明しないといけない状況が多すぎるのに思わせぶり展開をねじ込むので大筋を理解するのに時間がかかる。この映画、とにかく分かりにくい。前作でも意味もない凝り方をするカメラワークが気になったが、今回もなんでもないシーンにクローズアップを多用したり、複数人が話すシーンに話に加わっていない人物を映すものだから余計混乱する。要は編集が下手なんだよ。 この映画はキャラクターやシーンの美しさは一級品だと思うが、物語として成立していない気がする。その代わりになる世界の魅力も足りない。前作での1920年代のNYは素晴らしかったが今作のパリはひたすら陰鬱。ローリング先生はフランスお嫌い? [インターネット(字幕)] 5点(2022-04-20 22:00:43) |
20. レゴ(R) ムービー2
《ネタバレ》 前作の詰め込み感がずいぶんと薄まって普通に見やすくなっている。のは良い(?)として、全体の話は前作ラストの設定そのままに最後まで進んでいく。パパはお前を受け入れるがお前も幼い妹を受け入れないとだめだぞ、という落ち。そう、あれはクリフハンガーではなくて「落ち」なのでこの映画はその落ちを延々説明しているわけ。 まあそういう映画があってもいいとは思うんだが、問題はこの作品の重要な要素である「大人エメット」。「子供の心を失わないで」という一見まともなメッセージに見えるが、ちょっと待ってほしい。前作で成長したのはエメットではなくて実はおしごと大王の本体であるパパなんだよね。エメットはただ本領を発揮しただけ。 いい歳をして自分の世界の完全性にこだわる男(パパ)が、その幼児性を捨てて子供の創造性を受け入れる、つまりパパは一歩「大人」になる。そのパパが今回は声だけで、しかもまったくの駄目親父に成り下がっているのはどういうことか。今回の制作陣は前作の意味を理解していなかったんじゃないか? 映画の出来としては別に悪くないし普通に楽しめる作品にはなっている。でもこの映画、そもそも作らない方がよかったんじゃないの? [インターネット(字幕)] 4点(2022-04-17 08:10:36) |