1. ファニーとアレクサンデル
《ネタバレ》 もうこれは見る前から点数が決まっている。もう何度目かの鑑賞だから、評価が揺るぐこともない。若きアレクサンデルの、死との対話。その何とも美しく、俗っぽく、且つまた示唆に富んだものであることか。それ自体がベルイマン版『ハムレット』、父の死によって全ての転落が始まるという設定が全く同じなんだね。父親が最後に言い残す、『これで亡霊が演じられる』というせりふの含みの大きさよ。この換骨奪胎振りに、ひたすら感服。 でも今回は3時間バージョンでの鑑賞。ずいぶん重要なエピソードが落ちているなあ、という印象。何より最初のひたすら無駄に長い(これほめ言葉)饗宴場面が切り捨てられるのは痛い。養父の娘たちの亡霊たちの登場がないと、いろいろ説明がつかないんじゃないかな。『ハムレット』が父親の死によって上演中断されたあと、落ち目になった劇団が『十二夜』を上演している場面もカット。『ハムレット』と『十二夜』って、シェイクスピアのキャリアの中でも執筆時期が隣接していると推測されている。その結びつきはベルイマンの中では結構重要だったはず。 とか何とか文句は言ったが、3時間版でも十分魅力は楽しめる。でも、やっぱりこれは、5時間でないと。(といいつつ、今回みたいに忙しいと、きっと3時間の方をまた選んでみてしまったりするんだろうな。) [CS・衛星(邦画)] 10点(2007-09-29 00:12:22)(良:3票) |
2. 黄金の馬車
《ネタバレ》 この映画、日本初公開以来(といっても、確か90年くらいのこと)、何度見たことだろう。それくらい好きな映画。この夏、また見直してしまった…そして、また、感動。 「舞台と人生はなぜ違うの? 舞台ではうまくいくのに人生では愛を壊してしまう。真実はどこにあるの? どこまでが芝居でどこからが人生なの?」ああ、こんなせりふを聞いてしまっては、もう、震えるしかない。 実人生で自分の居所を見出せなかったカミッラ、彼女が帰るのは舞台の上のみ。舞台の上でしかカミッラは存在し得ないのだ。「さびしいかい?」と問われて、「少し」と答える、ラストのカミッラ(=マニャーニ)の、絶品の表情。 至福! [DVD(字幕)] 10点(2007-08-31 22:12:23) |
3. 天井桟敷の人々
《ネタバレ》 何度目かの鑑賞になる。最高。この一言。恋愛って理屈じゃあない。客観的にはおろかな恋だけど、仕方ないんだね。一言だけ不平を言うと、そのおろかさ・滑稽さを描くのに、たとえばルノワールが『ゲームの規則』でやったみたいなユーモアがこの映画にもあれば、満点だったんだけどなあ。ないものねだりをしても仕方ない。今のままで十分面白いし、愛すべき作品であることには変わりない。 ちなみに、当時は、せりふ劇を上演できる劇団は、お上から直接許可を取った劇団だけで、それ以外の劇団がせりふを入れてしまったら上演は中止になってしまった。だから、バチストのいるパントマイム劇団が、罰金まで課して舞台上でせりふをしゃべることに神経を尖らせていたわけ。また、パントマイム劇団からシェイクスピアの『オセロ』が上演できる劇団に移籍したフレデリックは、つまり、それだけ出世したってことでもある。何せ、お上のお墨付き、ってことだから。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2007-09-23 21:46:30) |
4. オープニング・ナイト
《ネタバレ》 これは、もう一つの『黄金の馬車』だ! 役者って、確かに、芸術作品の素材としては、もうこれ以上なく不安定で計算の立たない存在なんだよね。絵画が絵の具を材料として、小説家がペンと紙を材料にして作品を制作するのとはわけが違う。何より生の人間なんだもの。生の人間が素材となって、生の人間の生活を再現する、それが演技。それが演劇。その役者の「もろさ」「危うさ」をとことんまで突き詰めた作品。この息苦しさが演劇。この緊張感が舞台。2時間半、一切無駄がない、大傑作 [CS・衛星(字幕)] 9点(2007-09-02 15:16:29) |
5. 旅芸人の記録
《ネタバレ》 こんな長尺なのに、なぜか、これまでの生涯で四度も見ている…しかも毎回発見がある。もうすばらしいとしか言いようのない映画です。 下の方も書かれていますが、ギリシア神話、あるいはギリシア悲劇のアトレウス家の物語を知っていないと、理解が十分出来ません。 そういう、鑑賞者の知識を試すような映画は、原則的にはあまり好きではありません。でも、これはありです。私が最初に見たのは大学生のころで、そのころ、まったく背景的な知識を持っていなかったのですが、ただひたすら圧倒され、もっとこの映画を理解したい、と思ったものでした。その後、ギリシア神話の知識を身につけ、偶然この映画と再会し、そのときのあらためての感動ときたらありませんでした。たぶん、そういう映画です。 まだまだ十分な理解が出来ているとは思いません。きっと何年かしたら、またこの映画を見るのでしょう。 それでいいのではないかと思ってます。 [ビデオ(字幕)] 9点(2007-09-02 15:09:48)(良:1票) |
6. 十二夜(1996)
シェイクスピア映画は数あれど、喜劇で成功している作品というのは、本当に少ない。この映画が、ほとんど唯一の成功作ではないだろうか。ヒロインの男装が引き起こす騒動が、単なる趣向だけでなく、ヒロインやその周りの人々の内面を掘り下げる技法になっている。風景の美しさ、人物たちの愛すべき滑稽さ、そのすべてがいとおしい。何度見ても幸福な気分になれる。 [DVD(字幕)] 9点(2007-06-17 15:09:37) |
7. 座頭市物語
名匠三隅研次の技。敵役の天知茂の渋さ。そして何より、勝新太郎の謙虚な演技(勝新なのに!)。あ、忘れてはならないのは伊福部昭の荘重な音楽。ひたすら至芸を楽しむのみ! [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-06-17 14:54:48) |
8. ソナチネ(1993)
《ネタバレ》 私もこの映画が北野映画の中で一番の傑作だと思う。映像として、演技として、そして、あけっぴろげなまでの空虚さにおいて。ピストルが響くたびにドキっとしてしまうのだけど、そのあとにとにかく哀しくなる。とにかく圧倒された。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-06-05 22:59:49) |
9. 沙羅双樹
《ネタバレ》 普通に感動した。祭の場面まで笑うことのなかった少年。激しい雨の中の祝祭空間。再生のための豪雨。このあとから少年が、心からの笑顔を見せる。 このレビューの、この映画に対する批判的なレビューにうなずきつつ、しかし、私は、素直にこの感動にこの点数を捧げたい。 俳優の演技についていけない人もいるのもわかるが、これも私はひたすら心地よかった。生瀬さん、もともとが舞台の人だけあって、この手の即興的な撮影でも、ホント、いい味出してます。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-06-02 22:12:40) |
10. 次郎長三国志 第三部 次郎長と石松
下の方のレビューでも話題になっている浪曲は、やっぱり張子の虎三を演じている名人二代目広沢虎造の声なんだろうか。浪曲の世界を知らないので、何とも言えないのだけど…待ってましたの石松の大活躍。森繁、最高。すばらしい。石松と三五郎、そしてお仲姐さんの珍道中。この軽さ。この明るさ。すばらしい! [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-04-11 23:16:10) |
11. 砂の女
タルコフスキーの描く水に匹敵する砂の美しさ。すばらしい。原作・脚本・演出・演技・音楽……すべての要素ががっぷりと四つに組んだかのようにしっかりと相乗効果を生んでいる。前衛的といえば前衛的だけど、例えばゴダールのように、映像の文法を完全に解体したりはしない。あくまでリニアーな物語り展開は崩壊していない。だけれども、描き出された世界のシュールさときたら。永遠に色あせない戦後日本映画の代表作の一つだと思う。高校のとき、現代文の先生がこの作品をなぜか取り上げた。当然、大半の生徒はついていけなかったみたいだけれど、私はとっても面白かった。みんな睡眠に落ちてたけど、私にとっては黄金の午後でした。その直後にNHKで映画が放映された。高校生の未熟な頭脳でも、この映像は衝撃だった。そして、いまだにこの映像は私にとって衝撃的でありつづけている。たぶん、何十年かしてまた見なおしても、この衝撃は色あせないだろうな。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-03-02 22:05:23)(良:1票) |
12. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
《ネタバレ》 トヨエツのリメイク版をCSでやっていた。それを見ようとしたが、いや、その前にオリジナルだと思い直し、急遽DVDを購入。買ってよかった。今までなんで敬遠していたのだろう、山中貞雄。カンペキじゃないか。演出、演技、脚本。映画のこれ以上のお手本はない。笑いは反復と予定調和と、わずかのズレから生じる。そのことを改めて確認した次第。しかも、笑いだけではない。例えば、左膳が安坊に父親が死んだことを打ち明けようとした場面。うろ覚えだけどこんな感じ。「おいらは今まで泣いたことはないんだ」安心する左膳。「あ、一度だけある。お母ちゃんが死んだときだ」ああ、何ていう美しいせりふ。何て美しい場面。 小津安二郎が『生まれてはみたけれど』というとてつもない傑作を残したように、戦前の日本映画の喜劇センスは、本当に侮れない。減点は削除されてしまった部分に対して。永遠のマイナス一点。だって、本当、もっと見ていたい、っていう幸せな気分だったのだもの。 原作者は嫌っていたみたいだけど、作品が原作を離れたときに、時に奇跡が生じる。(柴田錬三郎が試写室から怒って出ていったっていう伊藤大輔脚本・三隅研次監督の『眠狂四郎無頼剣』がそうだ。) 昔民放でやっていたのを録った山中監督の『河内山宗俊』が見てないまま眠っている。決まった。次に見るのはこれだ! 日本は国家予算を投じて紛失してしまった山中監督のほかのフィルムを発掘するべきだね。 [DVD(字幕)] 9点(2007-02-21 23:48:33)(良:2票) |
13. 天国と地獄
すでにいいレビューが出揃っているので、今さら私が付け加えるべきことは何もないのだけど、改めて徹頭徹尾娯楽映画に徹して、しかも抜群に面白いこの映画には黙って敬意を表します。久しぶりに見返しましたが、やはり感心し、唸ってしまいました。 ただ、不思議なのですが、これだけの名作でありながら、個人的にはそれでも、これを黒澤明の代表作と認めたていいかというと躊躇してしまいます。それだけの深みが、やはりこの作家にはあるんです。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-01-20 23:29:14) |
14. 婦系図(1962)
冒頭の数分のこの様式美。三隅研次の美学が凝縮されている。タイトルバックの裏ですらストーリーが展開する、ある意味省略の美学。だから、一瞬たりとも見過ごせない。この監督の映画はいつもそう。プログラム・ピクチャーの作家の鏡だ。 別れの湯島の白梅の場面の美しさは、もう、筆舌に尽くせない。 この作品に関しては、三隅は師匠の衣笠貞之助版を超えていると思う。(でも衣笠版もいいよ。) [CS・衛星(邦画)] 9点(2006-12-24 23:44:24)(良:1票) |
15. 薔薇の名前
《ネタバレ》 記憶している限り、確か、単館ロードショーの最初のロングラン大ヒット作品だったような… アリストテレスの哲学が中世キリスト教哲学の基盤になっていたことを考えるならば、そのアリストテレスが笑いを良しとする『詩学』第二部を書いていたってのは、確かに教会世界を揺さぶるほどの恐怖で、必死に隠したくなるものなんだろうな。 その設定だけでうなってしまいますよ。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2007-10-17 05:37:04)(良:1票) |
16. フリーダ
《ネタバレ》 美しい映画だった。ジュリー・テイマーの視覚センスに脱帽。絵画を映像の中にあてはめるなんて、今の時代、CGで簡単にできてしまうことなんだろうけど、それをここまでセンスよく処理してしまうのはさすがだ。画家本人が描かれた自画像から画家本人が浮かび上がり、それがそのまま画家の心象風景につながる。今作は事故によって障害を負ってしまった女性の話だが、テイマーは前作『タイタス』でも手を切り取られてしまった女性を描いている。「不完全な肢体」というのは彼女にとってひとつのテーマとなっているのだろうか。シェイクスピアという素材に縛られていまひとつ身動き取れていなかった前作と比べると、この作品では、テイマーの自由な発想が束縛されずに羽ばたいていて、その分伸び伸びとした映像になっている。 あと、やはり、アカデミーとった音楽は特筆しておくべきかな。メキシコ音楽ってのは全然未知の世界だけど、とにかくいい雰囲気を出していた。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2007-10-17 05:26:47) |
17. ある映画監督の生涯 溝口健二の記録
《ネタバレ》 入江たか子を「化け猫女優」とののしるなんて…そんなこと言っちゃあ…でも、ぷぷっ! 入江さん、ごめん、笑ってしまったよ。さすが溝口。言えないよね、普通。 この映画の至福は、あの人もこの人もみんな生きてた頃なんだ、ってことだね。それはそれでものすごい感慨だ。それより何より、これをとった新藤兼人がまだ存命で元気だってのがいちばんの驚きでもあるかな。下の方も指摘されてるが、新藤さん、結構「そこまで言う?」的ななコメントしてて、それが笑える。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-10-11 01:00:43) |
18. 山椒大夫
《ネタバレ》 圧巻の映像美。それに尽きる。映像が語る物語の厚さ。特に厨子王が山椒大夫のもとを脱走してからの重厚な展開は、もう文字通り息をもつかせぬ展開だ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-10-11 00:55:19) |
19. 浮草
《ネタバレ》 大映印の小津映画。【青観】さんも書いておられますが、雁治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩と、大映映画のスタアたちにが画面を彩ってると、これは確かに市川崑か増村か、って錯覚してしまいますなあ。しかし、私にはこの大映スタアたちの饗宴がひたすら心地よかった。それに小津組レギュラーの杉村春子。この役者たちの抑えた演技がたまらない! 特に京マチ子の微妙な表情は、もう、絶品ですわ。雁治郎のアクの強い演技も、ここでは抑え気味。まあ、小津演出なんだから仕方ないのかもしれないけど、それがまたいい味出してる。宮川一夫も当然のごとくいい仕事。小津の低いアングルに従いながら、大映スタアたちの表情を逃すことはないんだなあ。 若い頃に見たときは、「原節子のない戦後小津映画なんて」って、ひねた見方をしてしまったもんでした。でもかろうじて笠智衆カメオ出演のご愛嬌もあるし、何より、大映印のスタアたちで小津映画の世界が味わえるってのは、私にとってはこの上ないお得感がある映画でした。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-10-04 23:55:46)(良:1票) |
20. 夏の夜は三たび微笑む
《ネタバレ》 軽いベルイマンの代名詞的作品でしょう。というか、ベルイマンて、この手の軽さが魅力なんだと思う。『ファニーとアレクサンデル』ですら、軽さが支配している世界だとも思うんだ。中期過ぎの、やや息苦しいベルイマンが違うのではないかと。 この映画はずいぶん前に一度見たはずなのに記憶の中からすっかりストーリーが抜けてしまっていたのに驚いた。軽すぎて印象が残らなかったのかな。それはそれでこの映画に関してはほめ言葉かな。かすかにウディ・アレンの原点を見つけた!って喜びは覚えているけど。ウディ・アレンはこの映画に対する『サマーナイト』や『81/2』に対する『スターダストメモリー』といった具合に、ほんとにオマージュ映画を作るのがうまいやね。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-10-01 23:54:23) |