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《ネタバレ》 グロテスクな映像ですら「娯楽」の1つとして魅せていました。「あなたの生まれてくる世の中は残念だけど、とってもつらいわ」と母親のおなかにいる赤ん坊に問いかけるオフェリアに泣かされます。大人が人生に苦しむのはまだ我慢できる。しかし幼い子供が人生に苦しむのは許しがたい。スペインの内戦といえば実際に自ら従軍したヘミングウェイの「誰がために鐘はなる」を読んで昔衝撃を受けたことがありますが、ここで展開される内戦はそんな壮大なものではなくて、あくまでも生きるという事の辛さを伝えるためのものでした。仮に戦争中ではなくて裕福な日本であっても、自殺に成功する人が毎年3万人、自殺に失敗する未遂者がその10倍、つまり1日に900人前後の人がどこかで自殺を試みているわけですから、人生の苦しみというのは、いつの時代であろうが、どこであろうが相対的なんだと思います。つまりこれは特別な人の、特別な場所で起きた、特別な物語ではなくて、誰にでも訪れるであろう普遍的な物語でした。だから共感できる。オフェリアが試練を乗り越えたら、悲しみのない幸せな国の王女様になれるという空想を持つ事だって、滑稽で同情すべきものではないと思います。たとえば仏教の教えは善行を積めば極楽浄土へ行けると言いますが、それはオフェリアの空想となんら変わりません。人間は不安に耐えるために空想を作り出すのです。オフェリアの不安の原因を「戦争」という遠大なものではなくて、もっと身近な「大尉」というものに焦点を絞ったのは分かりやすくてよかったです。この大尉は、自分の妻ですら、女は子供を生む機械だという態度で腹がたちます。彼は自分の遺伝子を残すという動物的な本能以外は何も思想がありません。ひどい男です。オフェリアの唯一の理解者であるメルセデスが大尉の口を裂いたときは痛快でした。ボクシング中継を観ているときのように、そこだ、右だ、よし左、やれ、ぶち殺せ、と叫んで応援してしまいました。この映画はメルセデスが一番輝いていたと思います。本当に哀しい物語ですが、この映画が終わった後、つまり監督が「はい、カット」と言った後に、メルセデスと死んだはずのオフェリアが立ち上がって、2人は仲よく微笑みながら珈琲を飲んでいる。そういう光景を空想して悲しみを紛らわせたいと思います。 空想は人間の特権です。
【花守湖】さん [DVD(字幕)] 9点(2008-04-28 22:37:54)(良:4票)
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