341. フルメタル・ジャケット
《ネタバレ》 「突撃」に並ぶキューブリックによる戦争映画の傑作。 初見には重い戦争映画、二度目は「博士の異常な愛情」に通じるブラック・ユーモア。ハートマン軍曹とのやり取りは面白いし、戦場の報道部にはスヌーピーだわPT&ミッキーマウスでマーチ(行進)だわ。 彼らにとって訓練から既に戦争が始まる。 海兵隊訓練所における狂気、戦場での狂気。 冒頭は軍隊に入る兵士達が頭を刈る“儀式”から始まる。みんな憂鬱そうな表情で自分の髪とさようなら。 そこからハートマン軍曹による愛ある?薫陶(罵詈雑言)。「親のファ●クでシーツに残ったシミが貴様ら」だなんて言われたらヘコむ。このシーンで爆笑できるようになった人は立派なキューブリックファンです。俺も2回目見た時は爆笑し通しだったわ。あそこまで言われたらもう笑うしかねえww 「マスターピース」を暴言に出来るのはハートマン軍曹だけだと思う。 微笑みデブ(アーニーパイル)も黙りこむ。ジョーカーだけが彼を本名のレナードで呼ぶ良心。ハートマン軍曹は厳しくも彼を見捨てなかったが、ソレが他の訓練兵に憎悪を抱かせレナードに向けられ、微笑みデブは徐々にキリング・マシーンへと変わっていく。 後半のヴェトナムの戦場。「プラトーン」は密林、この作品は市街戦。 上司が次々に死にまくり、異教徒を殺すように機銃を撃つ輸送ヘリのドア・ガンナー、死体にパーティー、見えざる敵と戦う市街戦という名のコンクリート・ジャングル。そんな地獄で戦う彼らにインタビューする報道者たちは何を思うのか。 クライマックスを飾る狙撃者との息詰まる攻防。狙撃者の視点から語られる孤独な戦い、ジョーカーたちも倒れた仲間のために敵の根城に突っ込み“お礼参り”。ビルの中には他に誰かいるかも知れない・・・その緊張が最後まで持続するから凄い。 闇夜のミッキーマウスマーチ。彼らにとっては終わりが迫る喜びの歌、だが原作小説では彼らの戦い、いや地獄はまだ続く。まったく戦争は地獄だぜ。 その後にローリング・ストーンズの「黒くぬれ(Paint It, Black)」を聞くともの凄く切なくなるんです。 昔のキューブリックだったら腰振りのマネだけじゃなく本当に狙撃兵に死姦をかますとかヤッてたかもね。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:31:48)(笑:1票) (良:1票) |
342. ワイルド・アパッチ
《ネタバレ》 「ワイルドバンチ」と「アパッチ」をクソ味噌にして混ぜたような紛らわしい邦題。 どうして素直に「ウルザナス・レイド」というタイトルを付けられなかったのか疑問である。 タイトルはともかく、内容はアパッチと騎兵隊の死闘を描いたアルドリッチらしい作品。 女っ気の無い、かといってマカロニ・ウェスタンほど凄惨でも無い(血だるまが出てくるくらいだ)、アルドリッチが描く男のドラマ。 実際に起きたウルザナの襲撃をリアルなタッチで描いた骨太な作風。 暴力に直面した時の人間の恐怖と憎悪が生々しい。 一見すると典型的なインディアン掃討物に映るかも知れないが、西部開拓時代の終わり、インディアンたちの反撃の終焉、騎兵隊の戦いの終結・・・様々な終わりの足音が聞こえてくる。 インディアンと白人の問題に深々と迫った内容でもあり、異なった立場の駆け引き、同じ人間として向き合おうとしたマッキントッシュの生き様が特徴的だ。 冒頭15分間の「嵐の前の静けさ」、 そこを過ぎてからの残虐さと残酷な殺し合い。 周囲が見えない小屋の中で聞くラッパの音が怖かった。 中盤の馬上での追撃、 終盤の谷間での銃撃戦など充実した内容。 特に危険と解っていて、あえて谷間に突き進んだ「賭け」の場面。 長年インディアンと戦ってきたマッキントッシュは引退した後の実りのない老後、壮絶に散るインディアンたちへの憧れに似た気持ち、とにかく死に場所を求めていたのかもな。 「ヴェラクルス」で初々しかったバート・ランカスターも今では老骨に鞭くれる老将として登場する。 ラストのランカスターが何とも言えない。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-31 10:12:20) |
343. リバティ・バランスを射った男
《ネタバレ》 ジョン・フォードとジョン・ウェインが組んだ最後の西部劇にして最高傑作。 冒頭14分間の「現代」、そしておよそ1時間46分にかけて「過去」の出来事を紐解いてゆく形式、ジョン・フォードの豊かな人間ドラマ、白黒だからこそ出せる映像の美しさ。 「捜索者」や「駅馬車」が広大な大地を馬で駆け抜け続ける激しさならば、本作は回想形式で中盤の決闘に至る経緯をサスペンスフルに紐解く。 しかし、最初この冒頭のシーンを見た者は少し退屈に感じるかも知れない。 それを最初から最後の幕切れまで通して見ると、もう一度冒頭の語りを見たくなる。そしてもう一度冒頭に触れれば、そこに退屈さは無い。 あるのは過ぎ去りし日への追憶と寂しさ。一角の大物議員が何故名も無き男の葬儀に訪れたのか・・・。 駅馬車強盗とともに始まる回想、法律とともにやって来た男がもたらす時代の終焉と始まり、街中で銃を乱射する無法者、ユニークな選挙活動、投げ縄、射撃訓練と怒りの鉄拳、抜き打ちには拳で返答、暗殺、燃え盛る家、サボテンの花。 保安官でもガンマンでもない普通の人間が、無謀と解っていても恩人の仇を討つべく決闘の場に向かっていく姿、立場や人種を超えた一撃! 白黒ウェインの風格とカッコ良さ。レストランにおけるガンマンたちと対峙するウェインの頼もしさ! ただの優等生では終わらない強さを持つジェームズ・ステュアート、調理場の元気な娘ヴェラ・マイルズ。ウェイン、ステュアート、ヴェラの奇妙な三角関係も注目だ。 太ったビビリの保安官アンディ・ディヴァインは「駅馬車」でもウェインと共演。ユーモア溢れるキャラを演じていた。他にもジョン・キャラダインといったウェインの相棒的俳優も脇を固める。 リー・マーヴィンの強烈な悪役振りも良い。 無法者だが牧場主の手先として暴力を振るう鉄砲玉。元々老け顔のウェインと堂々と渡り合える老け振り。一体どんな修羅場潜って来たんだ・・・。酒場でブッ飛ばされるリー・ヴァン・クリーフの存在も面白い。 州に昇格しようと躍起になっている町での政権争い。 食堂での軽妙なやりとり、派手な選挙戦や事務所の襲撃事件、酒場近くの決闘と見所も多い。何といってもその決闘こそ本作最大の山場!黒のコントラストが最高。 かくしてストーリーは再び現代へと戻ってくる。 棺桶に咲いたサボテンの花。 死者の鎮魂を祈る花をドア越しに見つめる一人の男、その後ろにたたずむ背を向けた女性。 列車が駅に入る瞬間から始まり、その疾走によってすべてが終わる光景はフォードを敬愛したセルジオ・レオーネ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト(ウエスタン)」でも繰り返される。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 11:05:13) |
344. ウエスタン
《ネタバレ》 再評価に到ったのは、二度目以降、いや見る度にどんどん魅せられる西部劇だという事に気付いたからだ。 冒頭の長く、長く、なっがああああああい回しで溜めに溜めて溜めて放つ一撃必殺の破壊力・・・! 他のレオーネ作品と比べると断トツに退屈で、ゆったりとした、そのバネが産み出す破壊力に魅せられる。 二回目以降は、退屈に感じない心地良さ、もしくわ退屈な空気を一気に張り詰めさせ、爆発させるような長回しに痺れている自分がいた。 ベルナルド・ベルトルッチの壮大なスケール感と“女”の匂い、 ダリオ・アルジェントの“血”の匂い、 トニーノ・デリ・コリの雄大さを感じさせるキャメラワーク、 そしてセルジオ・レオーネの破破壊力と“土”、“漢”の匂い。 「リオ・ブラボー」や「大砂塵」といった往年の西部劇に対するオマージュに溢れた原点回帰。 それに、西部開拓時代の無法者を現在的なギャングとして捉えた視点。 登場人物たちも善悪で片付けられる者ばかりでなく、時代の流れに翻弄されて荒れた複雑な人物も少なくない。 男だけでなく、クラウディア・カルディナーレ演じる未亡人ジル。 自立し気丈に生きる女の強さと弱さをレオーネは正面から描き出した。 マカロニウエスタンには無かった女っ気と母性。コレはカルディナーレの女性らしさ、そしてベルトルッチの原案も手伝って成し遂げた描写だと俺は思う。 「プロフェッショナル」もエロか(ry ドラマだけでなく、冒頭の銃撃をはじめ劇中のアクションは決まる度に痛快。 列車での工夫を凝らした銃撃戦、 クライマックスの一騎打ち、 クラウディア・カルディナーレが人の良いおじさんを誘惑している様にしか見えない絡みのシーン、 ラストの死に場所を求めてさ迷うそれぞれの顛末、やるせなさ、虚しさ。 ホークス、アルドリッチたちから受け継がれてきた破壊力、ジョン・フォードのドラマ性、アンソニー・マン等のリアリズム。 ジェイソン・ロバーズの人間臭さ、 チャールズ・ブロンソンの徐々に明かされる復讐劇、 悪役を貫いたヘンリー・フォンダも見事。 西部劇を飾ったヒーローが悪役として振舞う…しかし、その男も時代の流れに翻弄され荒れた一人の人間でしか無かった。 列車に始まり列車に終わる・・・ジョン・フォードの「リバティ・バランスを射った男」を思い出す締めくくりだ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:55:29)(良:1票) |
345. アウトロー(1976)
《ネタバレ》 アメリカ建国200年記念の名にふさわしい堂々とした西部劇。 フォレスト・カーターの原作に、イーストウッドの西部劇に対する愛情と野心を詰め込んだ傑作。 「許されざる者」や「ペイルライダー」も良いが、やはり俺は二挺拳銃の唸りが熱い本作を推す。 強烈なファーストシーン、カスタマイズ銃やガトリングの唸りなどガンファイトに富んだ血のたぎる作り込み。 時代のうねりによって復讐者と化す「ジョージー・ウェールズ」の波乱の旅を描く。 アメリカの豊かな自然、 西部の厳しき大地、 大地に生きる人間の生活感溢れる力強さ、 染み渡る日本的情緒、 カッコいいオッサン・・・! 主人公は最初普通の開拓民で、家族を殺された事で復讐の旅を続ける無敵の唾吐きガンマンになっていく過程が面白い。おまえは何回ツバを吐くんだ(笑)また主人公も仲間に助けられながら窮地を脱する場面もかなりあった。仲間あって無敵が本作の魅力でしょう。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:38:26)(良:1票) |
346. ペイルライダー
《ネタバレ》 「シェーン」やイーストウッド主演の「荒野のストレンジャー」を融合させた王道西部劇。 金の採掘を続ける二つの村同士の対立が主軸。 金を掘るには鉱脈がある山場に住居を構える必要性、水の豊富な場所の確保が重要となる。 水の重要性がここにも描かれる。 人を殺せば州法で罰せられるが、村荒らしや家畜殺し、度重なるストレスや心臓発作による“自然死”は見逃されている。 西部に生きる者にとって家畜は家族同然。 見逃される罪にも限界が来る。 そこに現れた“ペイルライダー(死神)”の牧師。 助けてくれと願えば来るし、居ると思ったらいないし、居ないと思ったら居る。 幽霊みたいに神出鬼没な男だ。 ガンマンというよりは騎士道精神のような男。 「シェーン」では最初主人公は受け入れられないが、牧師は村の者を助けた事で歓迎される。 第一印象って大事だなと思い出す。 牧師が主人公というのも面白い(“捜索者”は牧師が警備隊の隊長やってたね)。 人を殺さないという理由も“犯せば州法で裁かれる”という理由付けが成されていて良い。 牧師が訪れた村は中々金が取れずに経済的に窮地に有り、夢も希望も諦めかけていた。 牧師がひたすら岩に槌を下ろす力強い姿を見て、村人も次第に心の強さと誇りを取り戻していく。 イーストウッドはこういうくどいくらいの人間ドラマが良い。 そこに殺しを合法として許された保安官が買収されてやってくる。 街を守るはずの者が金で動く・・・彼らも一人の人間でしかない。 この保安官が「許されざる者」になると、独裁者のように容赦なく恐怖政治を展開する。 牧師は村人を見捨てて逃げても良かった。 ただ、牧師は義侠心や博愛主義で戦ったのではない。 成り行きとはいえ助けた者への義理、世話になった恩、牧師自身のケジメのために戦った。 保安官たちはやってはいけない最大の過ちを犯した。 “無抵抗の人間を殺した”から? 違うね、“恩人を殺しやがった”から。それだけ。 その人間の死は村人の結束を強固にし、牧師は世話になった者たちのために戦う覚悟を決める。 後の「許されざる者」もそうだが、イーストウッド扮するガンマンはいつも他人のために引き金を引く。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:33:27)(良:1票) |
347. 許されざる者(1992)
《ネタバレ》 再見。 イーストウッドが到達したリアリズム、反西部劇、アンチ・ウエスタンの最高峰。 個人的には「アウトロー」の方が痛快で好きだが、この作品を最初見た時の戸惑いと衝撃、そして再見すればするほどその凄味に惹かれた作品でもある。 夕暮れで土を耕す孤影、一軒家と一本の木の影。この強烈な黒のコントラストが本作の恐怖と緊張をより盛り上げる。 雷鳴と土砂降り、情事を語る影の蠢き、ベッド上のギシアンを止める怒声、身を守るために水を浴びせる者、凶刃を振り回され傷つく者、凶行を止める背後の気配と撃鉄の音。 柱に縛り付けられた罪人を解放してしまう汚職、悪徳保安官の不気味な笑み。初っ端から恐怖と暴力が支配する世界を叩きつけられる。 生々しいを傷を癒し、苦笑いし、黙って耐えるしかない者たちが託す「依頼」。ただただ引き受けてくれる者が現れるのを待つことしか出来ない無力さ。 一方、農場で泥にまみれ豚を追い回すヨレヨレの農夫、回りを無邪気に走る幼い兄妹の微笑ましさ、それを鼻で笑う馬に乗り訪れる若きカウボーイ。彼は銃を手放した者を再び殺しの世界に引き戻すために現れる。 主人公のマニーは若い頃、女子供を問わずに手をかけた極悪非道のアウトローだった“らしい”。マニー本人はそう語りますが、劇中のマニーは年老いた父親でしかありません。妻に先立たれ、残った幼い子供たちを養うために精を出し、何十年も銃の代わりに家族の手を握りながら生活してきた。そんな男が再び銃を握るという。家族のために。 昔のカンを取り戻そうと射撃訓練、それを心配そうに見守る子供たち。リボルバーからショットガンに変える一連のアクションが後の布石として生きてくる。 髭を剃り、窓の向こう、木の根元に眠る者に別れを済ませ、馬に乗るのも一苦労の男が覚悟を決めて旅立っていく。 「アウトロー」における農夫がガンマンへと変わる物語が繰り返され、より突き詰められる。 イーストウッドにとってはシーゲルとレオーネに捧げた作品だそうだが、この映画には全ての西部劇に対する望郷とアンチテーゼのメッセージが入っている。 人一人を死に追いやってしまう集団心理の恐怖は「オックス・ボウ・インシデント(牛泥棒)」の流れも感じさせる。 大自然の中を旅する平和な一時。それが人間の支配する魔窟に入れば空気は一変する。 この映画の保安官が振るう正義は法の執行ではなく独裁者の暴力でしかない。 法を取り締まる者がみずから法を乱す。法を乱した犯罪者を見せしめにするために制裁を加えるのは当然ですが、いきすぎた制裁は単なる暴力となり、やがて失望へと変わる。 復讐者からの「依頼」でもある賞金首探しは、腐りきった法との戦いでもある。それを受け取ってしまった男たちに待ち受ける死、死、死。 この映画にはカッコいいカウボーイなんざ一人も出てこない。 気取った老体、銃から何十年も遠ざかっていた中年、本当は人を殺すことをためらう猟師、近眼の若造、狂った保安官…往年の西部劇に溢れていた夢と希望、活気とヒーローがこの映画にはいないのさ。彼等を彩る風景だけがその美しさを失わずにいるだけで。 人を撃てば撃つほど虚しさや罪悪感が重くのしかかり、ガンマンに憧れていた青年でさえ初めて人を撃った後に恐怖で震えてしまう。「命を奪う」ということの重さ。 「いくら古い時代に夢を追い求めても、現実はこうだ」と言わんばかりの雨粒と泥にまみれた世界。 人を殺した者は当然「自分が殺されても文句なし」という覚悟が必要だし、事情を知らない者が殺しの現場を見れば「人殺し」と罵られても仕方がない。 ただ、ラストの決戦まで“おのれ”を取り戻していくマニー。 彼が一発一発放つ弾丸は、今は亡きフロンティア精神への鎮魂か、イーストウッドなりのケジメか。密室にショットガンを突きつけながら乗り込み、“投げる”ことによって緊張が跳ね上がる瞬間! たった1人の男を集団で嬲り者にするような連中だ。そんな奴らに、卑怯だの何だの言う権利も資格もあるものかっ!! イーストウッドは、いつも他人のために怒る男だ。自分は殴られても殴り返さない。ただ、仲間や知人を傷つける奴は絶対許さねえ。名誉なんてクソ喰らえ、「殺る時は殺る」漢なわけよ。ガンマンではなく、一人の人間としてカッコイイ。イーストウッド主演の西部劇群を見た後だと余計に感慨深い。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:29:38)(良:1票) |
348. サイコ(1960)
《ネタバレ》 オープニングのヴァイオリンのストリング!バーナード・ハーマンの神BGM、ソウル・バスの演出。ヒッチコック映画のオープニングでも1、2を争うワクワクするOPだ。 ヒロインの心理描写も良かったぜ。 ハイウェイを走らせる車。闇、土砂降りの雨の中を難しい表情で走り続ける。頭の中で色んな男の野次や考えがグルグル聞こえる。これだけで不安になる。 ただ後半の展開は何だよ?気をてらったとかそんなレベルじゃねえぞ?あれだけヒロインの心理掘り下げといて何だよ?オマケにロングが可愛いジャネットをショートカットにした挙句途中下車…「何が巨匠だふざけんな」というのが俺が「サイコ」を初めて見た時の第1印象だ。 この作品を見直したのも他の作品で感動したのがキッカケだったし、そうじゃなかったら二度と再評価しようだなんて思わなかった。 まあもう1回見たらやっぱり面白かった。 でもさ、大体本作の主人公は誰だよ?現生盗んだヒロイン?それともホテルの異常な管理人か?後者が最初からメインだったら俺はこの映画に100点やるぜ。 むしろホテルの場面から始めてくれたらな~とずっと思っていた。 しかし今回はしばらく彼女のドラマが続いただろう?だから予想外の展開でビックリするのは確かだが、逆にそういう事をされる大いにガッカリしてしまうのだ俺は。 でも二重人格の異常者を演じたアンソニー・パーキンスの演技は素晴らしい。 普段は大人しい青年、だが心の中には「同居人」を匿っている。絵に隠してあった覗き穴、鳥の剥製の不気味さ、手にべったり付いた血、それに殺人の時のえぐさも凄いね。 一撃じゃなく、何回も裂くようにナイフを突き立てる。 有名なシャワーシーンだが、イマイチ迫力にかける。音楽でごまかしてんだろ。 ヒッチコックの演出かと思ったら、ソウル・バスの演出だった。それでも無残に見開いた瞳は怖い。 二度目の「ナイフ」は迫力があったぜ。ソウル・バスの演出はシャワーシーンよりも階段の場面を評価したい。 終盤のヒロインの夫や姉が殺人鬼の謎を探っていく時の緊迫感。 女の服をまとった「同居人」が怖いこと怖いこと。 ノーマンの肉体を支配したのは「同居人」だった。 愛情、嫉妬、憎悪、狂気・・・最後の笑みはノーマンか「同居人」か。 殺される側の恐怖、殺す側の狂気…沼底から引き上げられる車が印象的なラストだった。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:17:28) |
349. 死の谷
《ネタバレ》 ラオール・ウォルシュが描く西部劇の傑作の一つ。 ウォルシュ監督の「ハイ・シェラ」を西部劇としてより洗練させてリメイクした。 現代的な様相、何処か虚無的な雰囲気、ファムファタール(悪女)の誕生・・・フィルム・ノワールとしても面白い西部劇だ。 ガンファイトは物足りないと感じる時もあるが、冒頭から脱獄、駅馬車の襲撃など要所要所でアクションが程よく入り人間ドラマもかなり面白いのでダレが無い。 ラストの警備隊の追撃や二人の最期はガンファイトとしても素晴らしい&壮絶なシーンを見せてくれた。 本編は白人とインディの哀しき運命を描くストーリーだが、この映画は「生」と「死」が強調されている。 白黒の画面だからこそそれを色濃く感じられる。 主人公は犯罪を犯した“罪人”であったが、一度牢獄から出て「カタギの人間」としてやり直そうとした。 旅を続ける傍ら様々な事件に巻き込まれ、インディアンの混血の娘に惹かれる。 二人は次第に強い絆で結ばれていく。 祝福する者は誰もいない教会での結婚式・・・社会からはみ出した者同士にしか解らない痛みと温もり。 しかし運命は主人公を元の犯罪者という逃れられない「死」へと追い込んでいく。 一度犯罪を犯せばその烙印を一生背負う。 一度人を殺せばもっと重い烙印を背負い続ける。 そんな事を言われているような胸に響く映画だった。 この映画は90分だが、「たった90分」と思うほど時間が早く感じられる。 もう30分この二人のやり取りが見たいくらい切なくなってしまう幕切れだった。 握った手・・・二人は一緒にあの場所へ行けたのだろうか・・・。 「暗黒街の弾痕」といい、「ボニー&クライド/俺たちに明日はない」といい、どうしてこんなにも切ない映画が多いのか。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:10:01)(良:2票) |
350. ブリット
《ネタバレ》 冒頭のバシッと決まったファーストシーン、 マックィーンと犯人の壮絶なカーチェイス、 ラストの銃撃。 正に名のとおり「ブリット」な映画。 それ以外は極普通の刑事ドラマという印象 ちょっと退屈に感じてしまうシーンも多かった。 それほどマックィーンのスタント抜きのアクションが凄すぎた。 中盤のカーアクションなんか凄いぜ。ウォルター・ヒルの演出もあって凄いのなんのって! 「めまい」や「恐怖の報酬」みたいにジリジリ迫る緊張も良いが、スピーディーな破壊力を見せ付けるカーチェイスはやっぱりカッコイイ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-29 18:32:15) |
351. 壮烈第七騎兵隊
《ネタバレ》 ラオール・ウォルシュ節爆発の傑作西部劇だった。 やっぱり「死の谷」とか「追跡」が好きな俺にとって、娯楽に全力疾走したウォルシュ映画はあんまり好きじゃない。 でもそんな事いったらジョン・フォードの「荒野の決闘」なんか、史実無視でよくもあれだけゆったりとした恋愛?ドラマにしちゃったもんだし(後の「タイタニック」はもっと酷い)、 あのグリフィスの「国民の創生」だって、ドラマの掘り下げとアクションは最高だったけど黒人差別の描写が一方的すぎて大いにマイナスだった。 リンカンを描くならリンカンが戦う理由となった黒人への多面的な描写も必要なのにな。 まあ歴史的考証は黒人描写以外100点に近いけどな。 それは「タイタニック」にも言える(かも)。 本作「壮烈第七騎兵隊」はタイトル通りのアクション重視の娯楽大作。 アクションは流石に目を見張るシーンが多い。 馬の躍動感が異常。 南北戦争の雄「カスター将軍」と第七騎兵隊の壮絶な散り様をダイナミックに描く。 カスター将軍の文字通り壮烈な人間模様、軍人としての調練と恋、組織汚職との孤独な戦い。 待ち受けるインディアンの大群、死を前にして覚悟を決めた男の雄姿・・・前半あれだけフザケきった悪ガキのエロール・フリンが一角の大将として成長した姿には心打たれる。 後の「独眼竜正宗」である。 甘い青春に富んだ単純なストーリーが、軍人となった男の孤独なドラマに変わっていく様・・・やっぱウォルシュ映画は良いなあ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:52:02) |
352. つばさ
《ネタバレ》 ウィリアム・A・ウェルマンの傑作。 第一次世界大戦を舞台にしたストーリー。 物語は二人の男の友情と青春から始まる。 幼なじみと楽しく過ごすジャック、家族と過ごすデイヴィッド、ジャックに想いを募らせるメアリー、デイヴィッドに惹かれるシルヴィア。 メアリの想いもそっちのけでシルヴィアにのぼせるジャック。同じくシルヴィアに惹かれるデイヴィッド。 登場人物の掘り下げが実に丁寧で良い。 訓練、基地での一時の平穏、コメディタッチのやりとり、そこに突然訪れる仲間の死。 酒場で酒に酔うジャックだが、酒に溺れるよりも戦闘機に乗っている時の方がよっぽど戦争に酔っている。 それでも敵の大型機をコンビプレーで撃墜するジャックとデイヴィッドの友情が頼もしい。その友情の強さが後の悲劇へと繋がる・・・。 「ジャックはもう軍人なのね・・・」死にかけてまでジャックを追ってきたメアリーだが、戦いで疲れた彼の顔と「ペンダントの女性」を見て一時は身を引いていく。 一人の“弾丸”が死ねば次の“弾丸”が送られる。戦闘機乗りは「戦闘機そのもの」となって空を引き裂く弾丸と化す。 偵察任務、ドッグファイト、爆撃・・・兵士は英雄となる。多くの人間を殺傷して・・・。 ついさっきまで会話して人間が、次の瞬間には死んでいる。それが戦場だ。 メアリー(クララ・ボウ)のシーンだけどう見てもギャグです本当に。ウェイブ姿のクララ可愛いよクララ。 一瞬だけ登場するゲーリー・クーパーが忘れられない。1カットだけなのに。この頃から哀愁が尋常じゃないんだけど。 何この美味しすぎるエキストラ(チョコレートだけに)。 リアルな戦闘描写、ド迫力の空中戦、偶然が重なっておきる悲劇・・・空中戦の空間描写の凄さは「スターウォーズ」でも及ばない。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:38:47) |
353. テキサスの五人の仲間
《ネタバレ》 「スティング」も面白かったけど、度肝を抜いたという意味ではこっちの方が好きだ。 西部劇としては珍しいギャンブルが主題の隠れた傑作。 人間ドラマだけでストーリーを盛り立てたその見事な脚本。 「泥棒貴族」の原案や「ハスラー」の脚本家シドニー・キャロルの見事な筋書き。 カードのテクニックよりも、ポーカーフェイスといったドラマで魅せる映画だ。 ファーストシーン。 ジョン・フォードの「駅馬車」を彷彿とさせるスピード感と集う賭博師たち。 ポーカーをやるためだけに仕事も生活も投げ出してやってくる賭博馬鹿の五人。 その一大ポーカーを観るために集まるギャラリー。 ギャラリーにとっても大イベント。 キャストもヘンリー・フォンダやジェイソン・ロバーズ、チャールス・ビックフォード、ジョアン・ウッドワードといった豪華な顔ぶれ。 とにかく登場人物がどれも魅力的。 ラストの超どんでん返しは「騙された!」の一言。 もう一回騙されたくなる面白さがあるね。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:20:47) |
354. スティング
《ネタバレ》 「テキサスの五人の仲間」が最高のどんでん返しならば、「スティング」は最高の計画通り。 騙される愉しみではなく、騙していく愉しみがスティングの魅力だ。 ユーモアたっぷりの犯罪映画。 ロイ・ヒルは「明日に向って撃て!」の方が好きだが、「スティング」もまた大いに楽しませてくれる傑作! 脚本の完成度で言えば「テキサスの五人の仲間」の方が上だが、純粋な満腹度で言えばやはり後年の「スティング」を俺は選ぶ。今回再見してみて一番印象が変わったのは、ポール・ニューマンの相棒を務めたアイリーン・ブレナンもとびきりの美人てほどじゃないけど場数を踏んだ女傑という雰囲気を前回見た時よりも強く感じた。キャサリン・ロスとはまた違った魅力を再発見できたのが嬉しい。 冒頭の見事な「詐欺」、一瞬のすり替え、ドライな殺し合い・・・動きで魅せる事にこだわったロイ・ヒルの粋な演出。 物語は1930年代のシカゴを舞台に、詐欺や賭博で生活を立てるフッカーの波乱に富んだ生活と復讐の物語。 各章ごとに区切る事でより盛り上がるストーリー展開、初っ端から金を騙しとるフッカーたち、その瞬間から全てのからくりが動き出す伏線のオンパレード。 賭博師・警官・マフィアの三つ巴、殺し屋、詐欺師、ボディーガードの三連装! 警官に殴られてもタダでは金をやらないフッカー。 警官・マフィアとの三つ巴の逃走劇は命のやり取りを楽しんでいるようにしか見えない。正に生きるか死ぬかの大博打。 フッカーを追うスナイダーの執着ぶり。 ここまで来ると「ルパン三世」に出てくる銭形警部のような愛着が湧いてくる。ある意味一番幸せな男だ。 ゴンドーフの詐欺師振りも凄い。相手がヤクザだろうが何だろうが度胸一番、酒は飲んでも飲まれずキッチリ大仕事。古女房ビリーとのコンビが面白い。 さあ今回最大の被害者となるドネガン。いやいやコイツは受けて当然の仕打ちよ。 命を取られた人間が一番の犠牲者なんだから。 なーに財布の50万$やら100万$なんざ軽い軽い(精神的に廃人になるだろうけど)。 ラストの締めも最高のエンディングだった。 「やっぱりそうなったか!待ってました、予想通りの最高の終わり方!」 本作は「騙される」のを期待して見る映画じゃない。 主人公たちがいかに仇を「騙して」金を巻き上げるかを見守る作品なのよ。主人公と仇の温度差をな。 そんな最高の映画です。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:18:37)(良:2票) |
355. アンタッチャブル
《ネタバレ》 ハワード・ホークスの「暗黒街の顔役(SCAR FACE)」の復活を予感させたパルマの傑作。同時にショーン・コネリーにとっても「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」や「王になろうとした男」に並ぶ最高傑作! 豪華なキャスト、オープニングから血が騒ぐエンニオ・モリコーネの神BGM、うごめく影と「The Untouchables(触れられざる者)」の文字。 アル・カポネがふんぞり返り髭剃りをするシーンから映画は始まる。記者の質問に対して「暴力はいけない」などとほざき、裏で部下に“見せしめ”として酒場に置き土産させて吹き飛ばすような男だ。 禁酒法時代、法権力を弄び警察すらギャングに手を出さずグルになる奴まで出て腐敗しきっていた時代。 そんな時代にある男たちが立ち上がり、巨悪へと挑む。エリオット・ネスの孤独な奮闘と空回り、それに応えるジム・マローンの男気と頭脳、凄腕の新人ジョージ・ストーン、殺る時は殺る簿記係のオスカー・ウォーレスも加わり4人、いや騎兵隊さながらのレンジャーたちの協力などもあり徐々にアル・カポネに迫る。彼等を突き動かすのはカポネに殺された少女の、酒場の、人々の声なき哀しみ、そして怒り。 そんな警察とギャングの死闘の巻き添えを喰らって死ぬ市民はもっと不幸です。 「戦艦ポチョムキン」をオマージュした駅での銃撃戦は正にそんな場面。 ネスとマローンが橋の上で出会うシーンからしてカッコ良い。素早く警棒をポケットに突きつけ腕を押さえるシーン。もしマローンがギャングの仲間だったら、ネスは懐に手を入れた瞬間に殺されていた。 「新鮮なリンゴ」を収穫する仲間集め、罵り合いの面接、マローンの殴り込み、西部劇を思わせる橋の上でのガンファイトと“死体蹴り”尋問、法廷と建物内における最終闘争・・・マッチで気付く仇、ネスが文字通り“落とし前”を付けるシーンはスッとする。その直前まで指で迷い、眼が泳ぎ葛藤を表す。撃鉄を戻す瞬間に伝わる悔しさ、殺し屋がネスに殺意を戻させる“一言”。裁判長が折れ弁護士すら裏切る瞬間は何度見ても最高。 警察側に暗殺者が迫る瞬間の戦慄。カポネからマローンへの“鎮魂歌(レクイエム)”。 駅での死闘は誰も母親を助けない、助けに入ったネスが犯人に気を取られ危うく赤子を殺しかける緊張。 ネスとカポネが正面から罵りあう姿は何処か憎めない。だってデ・ニーロのブチ切れ振りが凄いんだもん。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:15:37)(良:1票) |
356. 赤い河
《ネタバレ》 「リオ・ブラボー」がガンファイトなら、「赤い河」は人間ドラマの傑作。 牛、牛、牛。 見渡す限りの牛の大河。 西部劇というよりは、西部開拓時代に生きた人間たちの生き様を色濃く描ききった歴史ドラマ。 カウボーイは何故銃を持って戦ったのか?それは牧場を武装した他者から守るため。 アメリカに渡った開拓者たちは、そこに元々居住していたインディアンを押し流すように町や農場を作った。 生き残ったインディアンたちは当然報復してくる。 こちらも武装しなければ殺される・・・家族を守るため、新大陸で生き残るためカウボーイは誕生した。 開拓者たちは「侵略者」である前に「移住者」でしかなかった。 ヨーロッパで絶望し、夢と希望を抱いて命懸けでアメリカに渡ってきた。 弱肉強食の大自然・・・殺るか殺られるかの厳しき世界に。 8分目におけるコマンチの夜襲、牛の大群を追い立てるカウボーイたちの迫力、思わぬ仲間割れなど見所も豊富。 後半の山場であるコマンチに包囲された馬車隊の救出劇! ダメなオッサンすぎて逆にカッコいいジョン・ウェイン、後半の主人公モンゴメリー・クリフトの男気、ウェインとは「リオ・ブラボー」でも名コンビだったウォルター・ブレナン爺さん、ジョアン・ミレーがエロイ等々登場人物も魅力的。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:10:14)(良:2票) |
357. 泥棒成金
ヒッチコックファンには不評な本作ですが、「ヒッチコックの作品」として見なければ普通に面白い作品だと思うのですけど。「シャレード」が好きな私にはヒッチコックのコメディタッチや「めまい」を思い出す凄いカーチェイス等かなり楽しめました。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 12:57:46) |
358. 情婦
《ネタバレ》 アガサ・クリスティーよりもパトリシア・ハイスミスの方が面白いと思う俺は正直クリスティーの映画化作品はどれもハズレばかりという印象。 だが、ワイルダーのこの「検察側の証人」はクリスティーの傑作短編群にも引けを取らない、数ある映像化(ドラマは除く)の中で唯一と言っていい傑作! 俺個人はワイルダーといえば「深夜の告白」や「アパートの鍵貸します」だけど、この作品も一気に引き込まれるし何よりチャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターといった面々のやり取りがとにかく楽しくて面白い。 ワイルダーの映画って狙いすぎててイマイチ笑えないのだけど、この作品は冒頭から笑いっ放しだった。 裁判の幕が上がるようなオープニング、そこに向う役者を揃える様に一人ずつ登場人物が姿を現す。 老練な弁護士ウィルフリッド、それを何かと心配する看護婦のミス・プリムソル、ウィルフリッドを助けるブローガンムーア、殺人の疑いをかけられるレナード、そして謎の女であるクリスチーネ。 ウィルフリッドとプリムソルが夫婦喧嘩(チャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターは何度も共演するガチの夫婦)をしながら車で事務所に向う場面。二人が喋るだけで楽しくなってくる。階段のリフトを見て子供のような表情を見せるロートンが面白い。このリフトのやり取りだけでも見ていて飽きない。 ところどころ伏線としか思えないセリフばかり。 何?マッチがない?君は悪い奴だ、え?ライターはある?君は良い奴だよ・・・都合良いなあ本当。 やっと退院しかたかと思えば山ほど来る依頼に口うるさい看護婦。葉巻もロクに吸えない、杖に仕込んでまで吸おうとするヘビースモーカー。 そんな彼を動かしたのはその葉巻だった。ポケットの葉巻を見て飛びつくウィルフリッド。葉巻目当ての依頼承諾がとんでもない事件に発展していく。その葉巻を「あ、そうだった」と思い出したかのように返すウィルフリッド。嫁にバレたらマズい。 モノクルの“光”で心理分析、法廷でもウィルフリッドの薬で経過時間を表現したりと単なるセリフ劇に終わらせず一切退屈させてもらえない面白さ。 レナードとクリスチーネの過去も面白い。コ-ヒー1杯飲むためにキスを繰り返す“楽しい取引”、タバコとガム、ベッドにダイブで天井崩壊、ディートリッヒの生脚。 ダメ男を助けるための大芝居、そんな尽くす女を裏切るかのような二重三重の大どんでん返し。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-22 00:26:30)(良:1票) |
359. 北北西に進路を取れ
《ネタバレ》 展開が早く緊張の連続でまったく飽きさせない、「三十九夜」のアメリカ版とも言うべきスパイ映画の傑作。 今見ても面白いヒッチコックの高いアクション性は見れば見るほどその面白さにハマる。 カッコイイOP、交差する線、ビルに映る車、人の群、バスに乗り損ねるヒッチコック、エレベーターから降りてくる人々、仕事の話、タクシーによる移動は「めまい」のジリジリとした追跡のスリルを思い出す。 5分を過ぎたところでケイリーを睨み付ける謎の男たちの登場、勘違い野郎ども、早回しによるスリルの倍増は「裏窓」のクライマックスから受け継がれる、当然ドアは開かない、謎の屋敷、見張り、身に覚えのない「罪状」が襲い掛かる恐怖、油断したところに恐怖が襲い掛かるスリルがヒッチコック映画の魅力。 眠らされて起きたら車が猛スピードで走ってて死にかけるとか(スクリーン・プロセスによる見え見えの合成なのが残念)、ふと横を向いたら飛行機がつっこんで来て殺されかけるとか、勝手に殺人犯にされたり、スパイにされたり、列車で謎のワケあり美女に出会ったり行く先々でトラブルが待ち受ける。 暗闇、崖、波しぶき、うつろな眼で暗闇を走り続ける、追突事故、撮られてしまった写真、警察、殺し、スパイ、二重三重に追われる、寝台、サングラスはかけててもあまり効果がないので砕け散る。 何もない平地、通り過ぎる車、砂埃、画面に奔る緊張、いつ何処から何が来るのか解らない恐怖が不気味な唸り声をあげて襲い掛かる! 安全地帯を探して走る走る走る、頭を抱えてやり過ごさねばならない、もうもうと吐き出される煙、トラックのオッサン涙目、野次馬は男の逃走手段を路上に止めに来る。 暗闇に映るかすかな明かり、たった一人で乗り込む緊張、音、銃、像、登る、血、ハンカチ、マッチに託すメッセージ、影、思わぬ「鏡」、出来る家政婦、銃撃! 閉所の緊張から断崖におけるスリルへ、巨大な像の群、小さな閃光の揺らめき、叫び、踏みにじられる手、人の命、断崖から“旅立ち”への生還! 最後まで気が抜けなかったぜ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-22 00:18:59) |
360. エデンの東(1955)
《ネタバレ》 ジョン・ スタインベックの原作を映画化。 原作は聖書の英語訳版である「欽定訳」と「アメリカ標準訳」の異なった訳を比較し、登場人物たちに新しい解釈をさせようという狙いを含み親子3代に渡る葛藤と苦悩を通して家族愛を描いていく。 本作は一人の少年の青春を軸に描かれる。 大戦の暗い影が差す1917年のアメリカの片田舎を舞台とするエリア・カザンの「エデンの東」は聖書の一節を元に、 一人の女性をめぐって対立してすれ違っていく兄弟、 母親の真実、 父親との確執、 「許されざる恋」が「許される恋」へと変わる瞬間、そして親子の絆。 聖書のアダムの如く東の街へと逃れてきた父親。 今度はその息子も兄と対立し逃げようとしている。 そこに訪れる救い。 現実と向き合い、真っ向から取り組む道を進むことを決める主人公。 相手の誠意が自分を傷つけ、自分の行いが相手を苦しめる・・・そんなすれ違いを丹念に描き、決裂し、修復していく・・・。 父と和解し救うことが出来たキャル。 まるで天から見守られるように穏やかな締めくくりを迎える。 が、唯一決別したままとなってしまった兄のアロン。 劇中では彼の行く末は語られない。 原作のラストにしても、誤解が生じ互いに心に傷を負わせ、それが修復しない内に悲劇が訪れる。 傷心しきった兄の心同様、キャルの心にも傷が残るもう一つの結末が暗示されている。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-22 00:17:08) |