21. シザーハンズ
《ネタバレ》 パステルとダークの混在する、美しい寓話。過去ディズニースタジオで働いていたこともあり、おそらく異彩を放っていたであろうティム・バートンが、自身のかけらをエドワードという不思議な存在に仕立て上げたような気がする。パステルカラーの住宅街で、その手業で瞬時にみんなの人気者になった「ハサミ男」エドワードは、またもやちょっとしたきっかけで異質、異物と騒がれ排除されていく。自分と違う、いや世の中の平均的なラインからはずれたものに眉をひそめる人はこの映画の中に限らず大勢いて、私もその中の一人になってしまう。きっと。孤独だけれど、一人穏やかに、誰に何を言われるでもなく、黙々と心の中の愛する人のために氷を刻む彼の姿は、メルヘンな画面ではあるけれど結構私に重いものを残した。私はこの映画を、劇場でたった一人で観た。映写機を動かしてくれた映画館の人ありがとうございます。確か暑い季節で、雪の舞うラストをボーッと眺め、色々考えながら暑い外の現実に戻っていった。たった一人で観たというこのシチュエーションのおかげで何故か2度目を観ないでいる。でもいくつものシーンがこうやってちゃんとよみがえってくる、大きな力を持った映画。 9点(2004-04-04 19:12:43)(良:3票) |
22. 12モンキーズ
絶望の未来から人類のために時間を超えてやってきた囚人が、美人心理学者を巻き込みキーワードのために奔走する。もの悲しいピアソラのテーマ曲と、独特の雰囲気を持つ未来世界。ブルースウィリスはよだれを垂らし、デッキブラシで2回もゴシゴシ洗われる。ブラッド・ピットは完全なマッドでお尻まで披露し、ヒロインマデリーン・ストウはぶっ飛ばされて鼻血を出す。雇われ監督としてある部分は妥協しつつ、ある部分は意地を張ってギリアムはこの映画を作った。この映画の中のギリアムらしい質感を保った部分が大好き。未来世界に登場する女性科学者の赤い手袋など、時折出てくるギリアム臭を強く放つシーンに身をよじりながら12モンキーズを私も追った。最初から伏線として現れていた空港での終演は、正直全然物足りない。一番大切なところがすべてギリアムに任せた演出とは思えないのはとても悲しい。でもそんなこと言いながら繰り返し観てしまう映画なのだ。ギリアムというだけで合格点になってしまう甘い私を許して欲しい。 9点(2004-03-07 13:19:30) |
23. 蜘蛛女のキス
《ネタバレ》 うわー、暗く、悲しく、後味悪く、だけどとても素敵な映画でした。ゲイと政治犯が監房の中で過ごすうちに、少しづつ心の糸を結び合う過程が描かれています。ゲイのモリーナ役、ウィリアム・ハートが特に秀逸で、落ち窪んだ目の囚人が、最後は愛のために走るレジスタンスに成り代わっていて、私にはとても美しく見えました。二人で房で語り合うシーンが多いのですが、モリーナの優しさやにじみ出てくるような悲しさが、刑務所という暗くて厳しい、硬い背景を和ませていました。二人の魂はどこに行ったのでしょうね。最後、空想の世界に旅立つバレンティノが愛しい女性と手をつなぎながらも「モリーナは?」と振り返るところがひどく印象に残っています。 9点(2004-02-07 19:36:40) |
24. マーズ・アタック!
《ネタバレ》 寄り目でぶっ倒れたジャック・ニコルソンが言ってます。「このくらい激しいバカッぷり映画も楽しいもんだ。」頭ボサボサで死んじゃったグレン・クローズも言ってます。「やってるほうも楽しんでるのよ。」変なレーザー光線銃で地球征服を画策する宇宙人がハワイアン(?)を聞いて滅亡しちまうまで、全部笑っちゃいましょう、皆さん。(注:役者の発言については、一部フィクションありかも) [ビデオ(字幕)] 9点(2004-01-12 17:43:26)(良:2票) |
25. ファストフード・ファストウーマン
主人公をはじめとした、ちょっとだれたニューヨーカーたちがなんとも憎めない。みんな、それなりでいいから幸せになれよな、と言いたくなる。よくあるハッピーエンドが骨子だが、それに絡んでくる人間模様がとても楽しかった。最後のほう、ストリップ小屋の女性と客の老人との短い会話にハッとした。いつまでも覚えていたい名シーンです。 9点(2004-01-05 00:19:40) |
26. コンタクト
科学が、宗教がという論争を越えたところにある答え。自分の命が全身全霊で異星の命と交流をした感覚を語るジョディ・フォスターのなんと美しいこと。この映画に詰め込まれた夢や希望が大好きです。絵空事の中のお話ですが、本当ならいいのにと強く願ってしまう。宇宙から捉えた電波は胸の鼓動によく似たリズムでした。あのシーンを繰り返し見ながら、遠いどこかにいる命に想いを馳せました。 9点(2004-01-02 01:05:00) |
27. ゼロの未来
《ネタバレ》 真面目に生きて真面目に仕事を頑張り、 ひとつのものを追い求めるあまり心を病んで扉を閉ざした人(主人公コーエン)、 その脳内世界を表現したものだと理解した。 ラスト近くの我々君のパジャマ姿は「患者」ということだろう。 だから観ている私たちにとって筋が掴めず難解なことも計算なのだ、多分。 外に出ろ!とかあなたが好き!などの言葉を拒絶して自我の中だけで暮らし、 おそらくさまざまな経験で傷ついた後に沈んだ「虚無」の渦を見つめ、 それを追い求めることを止められないその姿。 我々君は虚無を選び飛び込んで行ったのだ。 現実との決別だ。 私の心には少し悲しい物語として映った。 ブラジル以後いくつもの作品で見てきたアイテムがちりばめられ心地良く、 彼の世界はやはり現実を超越した人のなかに息づくものの投影なのだと思った。 現実と折り合いをつけずにまたこんな作品を作った監督に拍手。 [映画館(字幕)] 8点(2015-06-24 21:19:52) |
28. ローマでアモーレ
なんと愉快な夢物語。観光客が胸に抱く「憧れのローマ」そのままを舞台に、現実に不思議なエッセンスを加えた夢時間を過ごしました。ウディ本人も登場して皮肉もばっちり。彼の外国人目線がこの映画を最後まで愉しいものにしていました。あの葬儀屋のお父さんは本物のテノール歌手だそうで、時代先取りの舞台は爆笑でした。ツアーなんかやったら体中ふやけて大変だもの、断るわな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-06-07 18:08:15) |
29. ブルージャスミン
花びらの端のほうが枯れてカサカサしてる、主人公ジャスミンはそんな感じの女性。ウディと同じくニューヨークを去った彼女は、セレブな奥様を保ちたくて保てなくて、ボーダーラインの上を歩くうちに崩れていく。彼女からクルクルコロコロと繰り出される言葉、思い出と虚構といろいろが混ざった言葉に目を丸くする人の姿、ガラスに映り込む情景を上手に使った画面、どんな場面でも平等に流れる音楽。あれれ、「人間」を描くその手腕が確かなのは知っていたけれどどうも苦手だったウディ映画が、今回心地いいぞ面白いぞ。何でもこなすケイト・ブランシェットが、この作品でも素晴らしい。すごいスピードでパホッと錠剤を口に入れ、ベラベラ勝手にしゃべりながらカパカパ酒をあおる姿は圧巻。妹のジンジャーの捻たりだらし無かったりの姿も見応えあった。 [DVD(字幕)] 8点(2015-01-17 22:13:42)(良:1票) |
30. ウォールフラワー
学内ヒエラルキーから早々にはじき出されたチャーリー。鋭い感覚を持ちながらひっそりそしてフワフワと過ごす彼と少し変わった仲間達との思春期の日々が描かれる。愛情ある家族と仲間のなかにいながらどこかジンジンと痛む傷を感じさせるこの主人公と、80年代の心疼く曲が「ドニー・ダーコ」を連想させた。プールの深い部分、足の付かないこのエリアをどう渡りきるかという、リリカルな17歳に漏れなく課せられる人生初の課題を、優しく見守るような目線で追っていた。涙溢れることはなかったけれど静かに浸みる佳作。役者はみんな良かったけれど、思いやりと素敵な笑顔を持つパトリック、エズラ・ミラーが素敵。若い今のうちにどんどん映画に出て欲しい。 [DVD(字幕)] 8点(2014-06-14 09:29:40)(良:1票) |
31. クロニクル
《ネタバレ》 短い時間で主人公の置かれた状況を伝え、力を手にしてから高揚し爆発する姿を凄いスピードで見せる。己の力をコントロールできなくなる、暴走する主人公を助けるのは友だち、と「AKIRA」の影響がちらちらと見える。なかなか実写版が出来ないもんだから、若い力がこんな面白い映画を作ってくれた。監督の次回作が楽しみ。 [DVD(字幕)] 8点(2014-05-10 22:15:30) |
32. アルバート氏の人生
《ネタバレ》 ただただ悲しい映画。 「君の名前は?」 「アルバート」 「いや、本当の名前は?」 「……アルバート」 生き抜く術として男となった2人の悲しい会話に唇を噛む。 妻をめとってささやかに生きようとするも何かしらぎくしゃくするアルバートに、 自分を解放しろ、とドレスを着せるミスター・ペイジ。 不格好な2人と曇り空の海岸線に泣けてくる。 金、病気、労働階級と色々な立場での「弱者」がこの作品には多く出てくる。 ふた言目には「アメリカへ…」と遠い地に夢を馳せるアイルランド人達。 真面目に生きてもそれが幸せに繋がらなかったアルバートの姿は、 この時代の疲弊した社会をそのまま投影しているようだった。 新しく生まれた男の子には、せめて明るい光が差し込むことを祈るばかり。 グレン・クローズは、こういった苦しみを抱える人物が当たり役としか言いようがない。 [DVD(字幕)] 8点(2013-09-29 14:33:23)(良:1票) |
33. ゴッド・ブレス・アメリカ
《ネタバレ》 主人公フランクは人と交わるのが苦手。今風の物でも宗教でも、何であろうと自分と違うスタンスを持つものは両手をかざしてはじき返してしまう。そんなことをしていたら居場所を失い命まで危なくなったので、決行。「オレが死んだ方がいいと思うヤツはみんなやっつける作戦」だ。無論このやり方マズいんだけど、なぜか爽快。やっぱりフランクに同意しちゃってるから、きっと自分に似てるから胸がスッとする。そして今時アリス・クーパーが好きだと叫ぶ少女は70年代映画の優等生風な横顔で、この社会生活的マイノリティの2人組は獲物を探してはやっつけて行く。それも、どうにもならないほど暴れ回るんじゃなく、情緒的な画や言葉を挟みながら意外と静かに物語は進んでいて、頬を押さえながらうっとりと見入る自分に気がつく。ラスト、あれだけ嫌ったTVで見せた説教はちょっとテンション下がったけど、結局「踊った」のは誰だったか気がついたときの笑顔。ジョエル・マーレイ最高! [DVD(字幕)] 8点(2013-03-23 18:10:50)(良:1票) |
34. 少年は残酷な弓を射る
エヴァ母さんが「あたくしとケヴィンは、ええ、あの子が生まれたときから……」と裁判で証言しているような、そんな映画だった。息子との距離の取り方を探りつつ試しつつ、という、どこかよそよそしく一歩下がったスタンスの母親に、常に向けられる赤くて太い矢。この先この親子に一切光が差すことはないだろうけど、ケヴィンの想いはいつか成就するのだろうか。監督リン・ラムジーの感覚は、鮮やかな色彩で二人を包みながらもずっと「第三者」の視線を保った冷ややかなもので、この残酷な世界にはぴったりに感じた。 [DVD(字幕)] 8点(2012-12-09 01:05:12) |
35. ハロルドとモード 少年は虹を渡る
《ネタバレ》 出自と明日を呪って生きる小僧を、屈託のない笑顔で引っ張っていくモード。嫌というほど死を見てきたであろう彼女が、まさに捨て身で彼の心を開いて癒す様は、制作当時、それでもまだ戦争をしているアメリカに向けた言葉にも思えた。全編コミカルで軽いテンポの世界に、素敵な音楽がよく浸みていた。ラストは難しいな。ハロルドの目が覚め、少年時代が終わった、と思いたい。 [DVD(字幕)] 8点(2012-10-20 19:11:04) |
36. キャリー(1976)
70年代の空気に充ち満ちている。時折映されるむっちりとした男女のスクールデイズはなかなか楽しい。だからこそ、そこに馴染まない細くて青白いキャリーの佇まいがスタートから悲しく映る。あのお母さんが放出する狂気や、真っ赤に染まって目を剝くキャリーの醸し出す異質な恐ろしさにはちょっと胃が痛くなった。登場人物みんなの心理描写が気になって鑑賞後いろいろ考えてしまい、後引く怖さにも気付いてしまって、やーんまいったな。 [DVD(字幕)] 8点(2012-10-13 18:38:59)(良:1票) |
37. ヤング≒アダルト
《ネタバレ》 うわ!面白い!アメリカ的偽善を映画丸ごとで睨み返している。ダレダレな生活を通して、場違い且つしおれかけの大輪の花メイビスの哀れさを浮き彫りにしている。でも、側に来れば煙たい存在なのは間違いないけれど、負け犬が彼女なのかへたくそ嫁さんバンドなのか、田舎で小さくやり過ごしている私には正直判断がつかないよ。シャーリーズ・セロンの「モンスター」以上の熱演と「あなたはここにいなさい。」のシーンの辛子たっぷりの味わいに痺れ、これまた見よう!と心に誓った映画だった。 [映画館(字幕)] 8点(2012-04-13 22:06:55)(良:1票) |
38. タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密
楽しい楽しい、スピードとアクションと笑いも挟み込んで、大海原もサハラ砂漠もガンガン飛び回る力強い映画でした。至る所に気の利いたエピソードを盛り込み、さすがのスピルバーグ!という感じです。でもね、実写でやってくれたらもっとワクワクしたんじゃないか、タンタンやアドック船長役の俳優がお気に入りに仲間入りしたに違いない…という思いもあります。制作に関する情報は皆無で見ましたが、粒ぞろいのキャラクター達が実写と見まごうような画面の中で活躍するのを見て、なぜこういう形で映画化したのかな、と不思議な気持ちでした。スノーウィ君は確かに実写じゃ無理ですが。 [映画館(吹替)] 8点(2011-12-11 20:27:55) |
39. ローラーガールズ・ダイアリー
《ネタバレ》 ベタ。王道。スポーツの熱を借りて、デキる役者の力をいっぱい借りて爽やかな話を作ればそりゃ面白い作品も出来る。ずるいっちゃずるいけれど、幼い頃からショウビズの世界で色々経験してきたドリューが改めて「女の子」を見つめて作ったこれは、ちょっとツーンとくる何かも味わい深かった。「31歳でローラーを始めた。好きなものを見つけるのにそれだけ時間が掛かった。」(しかもジュリエット・ルイスに言わせるという!)だって。それでいいんだよ全然。この言葉を欲している大勢の大人や子どもが、この作品に早く出逢えますように。 [DVD(字幕)] 8点(2011-05-15 17:24:28) |
40. クレイジー・ハート
《ネタバレ》 年を重ねるごとにいろいろ良くなるかと思ったら、だんだん糸が絡まってどうしようもなくてどうしちゃったのよオレ…、という、哀愁漂うおじさんカントリー歌手が再生していく話。「レスラー」に似ている設定だけれど、それほど悲壮感はなく爽やかな物語で、アメリカの風景と優しいカントリーのメロディが全体を包んでいる。手放せない酒、今までの人生でないがしろにしてきたものへの想いという人生の苦さと、手をさしのべてくれる友人や後輩の存在、愛する人を持つ幸せなどの人生の魅力が、美しい風景と一緒に胸の内に浸みてくる。黒い涙を流すシングルマザージーンも可愛く、ラストは多少胸が痛んだけれど、それもまた人生。ジェフ・ブリッジスのちっちゃな瞳とカントリーの音色がいつまでも心に残る良品。 [DVD(字幕)] 8点(2011-02-13 11:51:27)(良:2票) |