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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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861.  デス・プルーフ in グラインドハウス
期待して見に行ったのですが、あまりに面白くなくてガッガリでした。そもそも「グラインドハウス」は上映形式が先立った企画のはず。上映時間が短く内容も薄いB級映画だが、2本同時に見られて、おまけにいかがわしい予告編もあって妙な満足感がある。いわば新橋のそば屋の「カツ丼&そばセット」のようなものです。ひとつひとつのメニューは誉められたものではないが、ふたつを同時に味わえるからそれはそれでいいじゃないかという。そんなチープなボリューム感を復活させることが趣旨の企画であり、それぞれの作品も同時上映を前提に意図的に安っぽく適当に作られているだけに、一本ずつに切り離されてしまうと相当ツライ。しかも本来内容のない映画を一本の上映作品として成立させるため、オリジナルにはなかったシーンを追加して上映時間を水増ししてしまったのがさらに裏目に出ているように感じました。ダラダラと続く会話が退屈で仕方なく、内容からするとこの映画は90分程度が限界だったと思います。商売に合わせて作品を勝手に編集することで有名なワインスタイン兄弟ですが、ここでも兄弟の儲け主義が作品の価値を失わせてしまっていて本当に残念です。本編開始前に流れた「プラネットテラー」の予告が相当面白く期待が膨らんだのですが、「デスプルーフ」がこの状態では「プラネットテラー」も推して計るべしだなという感じです。「プラネット・テラー」はあえて劇場に行かず、DVD発売の際に「デス・プルーフ」との同時上映にして「ひとりグラインドハウス」を楽しみたいと思います。
[映画館(字幕)] 4点(2007-09-08 18:14:41)(良:1票)
862.  サンシャイン 2057 《ネタバレ》 
死にゆく太陽を復活させるというあらすじ、おまけに主要キャストに日本人俳優と聞けば映画の出来がクライシスだった「クライシス2050」を思い出しますが、こちらはハードSFとして相当レベルの高い仕上がりです。破壊的な太陽光と常に隣り合わせで宇宙をポツンと航行しているという、想像するだけで背筋が凍るようなシチュエーションを見事に映像で表現しており、特に前半などは「2001年宇宙の旅」や「エイリアン」などと比較してもまったく遜色ないほどの仕上がり。人間関係がひたすら淡々としていることも、かえって不気味さを煽ります。「地球を救うために絶望的なミッションを引き受けたクルーはどうなっていくのか?」ということを突き詰めて考えた結果がこれなのでしょうが、いちいち心情の説明をしてもらわないと話を理解できないような客層をはっきりと切り捨て、終始ドライに徹することで作品の味を保っていると言えます。また科学考証についても同様で、かなり厳密な科学考証に基づいて書かれた隙のない脚本ですが、説明的な描写が入らないので知的好奇心の高い人でないとついてくることは難しいのではと思います。このように明らかに客を選ぶ映画であり、娯楽という呪縛から解き放たれたおかげでハードSFとしては成功しているのです。そして、クールな前半から一転して後半は演出・脚本・編集のすべてが大暴走をはじめ、観念的な世界に突入します。監督&脚本家の前作「28日後…」同様ここで一気に作品が崩壊をはじめるのですが、本作ではより確信犯的に作り手たちが作品を破綻させています。要は「イベント・ホライゾン」とまったく同じ末路なのですが、「5人いる…」から一気にテンションを上げてこの見せ方というのが実にうまい。娯楽的なわかりやすさを徹底的に排除することで、作品が陳腐になることを回避できているのです。一応はミッションの成功という形で締めくくられますが、イカロス2号であれほどの事があったとは知らず太陽の恵みを受ける地球の人々を描くことで、見終わった後もいろいろ考えさせる映画になっているのも見事。SF好きは要チェックの映画だと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2007-04-20 16:01:53)(良:7票)
863.  ブラッド・ダイヤモンド
「ラスト・サムライ」では時代劇で日本人を感動させるというウルトラCをやってのけたエドワード・ズィックがまたしてもやりましたね。綿密な研究により極めてリアルにアフリカの問題を描いた良作です。ダイアモンド争奪戦を軸に、政府軍とゲリラ勢力の対立、虐殺、少年兵、先進国の無関心、貧困につけこむ大企業・傭兵とさまざまな要素をぶち込み、これを破綻させることなく上質なドラマにまとめ上げ、さらに娯楽作としても満足の仕上がりにしてみせる手腕は相変わらず見事としか言いようがありません。ロケーションにこだわった映像の説得力は抜群でアフリカの悲惨な現実を浮き彫りにするし、アクションも見ごたえ十分。少年兵のくだりなどは特に恐ろしかった。また、主人公3人がそれぞれの思惑を持ってダイアモンドを目指すあたりにも感心しました。なんだかよくわからない理由でアクションをやる主人公の映画が多い中、本作の登場人物たちはそれぞれにしっかりとした動機を持っているので、余計な疑問を持たずにドラマに集中できましたから。「アミスタッド」「グラディエーター」とアフリカ人役でおなじみジャイモン・フンスゥ、頭の良い美人をやらせたら天下一のジェニファー・コネリー、「ハムナプトラ」「24シーズンⅣ」など胡散臭いえらいさんにピッタリのアーノルド・ボスルー、各自よくハマっていました。ただし唯一残念だったのがディカプリオで、確かに彼はよく頑張っていました。超現実派のひねくれ者が次第に人間味を取り戻す過程を嫌みなく巧みに演じていたし、アクションも非常によかった。ただ、アフリカの内戦を戦い抜いた百戦錬磨の傭兵にはどうしても見えないという大きな弱点が。体の線が細いし、あの童顔ではヒゲを生やしてもあまり強そうには見えません。同世代の俳優であればマーク・ウォルバーグあたりの方がより傭兵らしく見えたと思います。こういうとこ、顔のいい俳優は損ですよね。本人がいくら頑張っても、ルックスのせいでできる役柄が相当限られてしまうので。トム・クルーズもブラッド・ピットも苦労しているところですが、ディカプリオは兄貴分のジョニー・デップのように演技とルックスを両立できる俳優になれるのか。とりあえず今は成長過程だと思います。
[映画館(字幕)] 7点(2007-04-13 01:41:28)(良:2票)
864.  L.A.大捜査線/狼たちの街 《ネタバレ》 
この時期はなぜかポリスアクションが流行ってましたね。そんな時代の1本ですが、70年代に頂点を極めた監督の作品とは思えないほど珍妙な仕上がりとなっています。当時はかっこよく見えてたのか知りませんが、気の抜けるようなダサダサのスタイリッシュが画面を席巻。全裸のウィレム・デフォーが偽札を燃やすシーンには爆笑してしまいました。「新しい信仰 ”気にしない”という宗教」という意味のわからない歌詞の主題歌がいかにもかっこいいでしょってタイミングで流れたりと、フリードキンが柄にもないことやってんの丸出しで、見てる私が照れてしまう程です。とにかくこの映画で使われる曲はどれも意味不明で、サントラが欲しくなってしまいました。ただしそんな無様なスタイリッシュを除けば、フレンチ・コネクションの血を引いた無骨な刑事アクションとなっています。たまたま刑事やってるだけで根は悪人と変わらない主人公が、どんな手段を使っても標的を追い詰めるという漢の物語。主演は「ビースト/巨大イカの大逆襲」でおなじみのウィリアム・ピーターセン。「ビースト~」の時は胡散臭いおやじという印象だったピーターセンも、本作ではマシュー・マコノヒーを思わせるイケメンとして登場します。本当にかっこいいので女性方は驚いてください。そんなピーターセン演じるチャンス捜査官、彼女に対しては常に冷たく当たり、捜査についてもルール違反はへっちゃらな男の中の男なのですが、いかんせん弱いのが難点。すぐに敵の反撃を受け、準備してた捜査プランがどんどん悪い方向へと転がっていくバカっぷり。そしてラストでは、主人公なのにあんなことに…。リッグス刑事かアクセル刑事に弟子入りすることを強くお勧めしたい逸材です。それに対するはウィレム・デフォー。怪優のイメージの強い御仁ですが、本作ではミステリアスなイケメンカリスマ犯罪者として登場します。本当にかっこいいのでこちらも女性方必見です。そんなふたりの対決ですが、脚本の出来がいまひとつで話があちこちへ飛んでいってしまうので、対決という一番おいしい部分に焦点が合っていないのが残念。役者のハマり具合や話自体は悪くないので、もう少し整った脚本であればよかったと思います。冒頭の爆弾魔だとか明らかに必要のないエピソードが混じってるわりに、描くべき部分が端折られたりしていましたから。
[DVD(字幕)] 5点(2007-04-08 02:20:43)(良:1票)
865.  エネミー・オブ・アメリカ
トニー・スコットならではのテンションの高い映像が楽しく、掴みは上々。トニー・スコットの手腕はもはやの名人芸のレベルで、チェイスシーンにおいてはただ細切れアクションを見せるだけでなく、NSAの操るハイテクの実力や、追う者と追われる者の位置関係等の情報を実にスムーズに見せてきます。こういう巧い映像を余裕で作ってしまう辺り、マイケル・ベイなんかにはまだまだ負けない娯楽アクションの王様の実力が感じられます。ただし作品自体は、そんなトニー・スコットの手腕におんぶにだっこの状態で脚本が致命的なまでに弱いのが残念。最初こそ盛り上がったチェイスも、同じような構図を何度も何度も見せられては飽きてしまいます。テンポをぐっと上げていかねばならない後半になると、逆に話のテンションまで失速気味に。諜報機関による殺人を隠蔽したいというそもそもの目的がありながら、街中でヘリを飛ばすはカーチェイスするはの大騒ぎという本末転倒な内容自体が、最後までテンションを引っ張っていく求心力に欠けていたように思います。こういうアクションのためのアクション映画って、見た目こそ派手でも最後まで緊迫感を保つことは難しいですね。またザ・ロック、アルマゲドン等、ジェリー・ブラッカイマーはプロの集団が寄せ集めや素人にしてやられる映画をよく製作しますが、こういうのも敵がバカっぽく見えるのであまり感心しません。機転を利かせて逃げるウィル・スミスよりも、あれほどのハイテク機器を駆使しながら標的を追い込みきれないNSAの間抜けぶりの方が目立っていました。そう思うと、本作と同じ巻き込まれ型映画であっても視点を主人公に絞り、追跡する側をほとんど描かなかったヒッチコックはやはり偉大だったなと思います。事情も知らない素人相手にミスを重ねる間抜けな姿をさらさないことで、恐怖を十分に維持できていましたから。ジョン・ボイド、バリー・ペッパー、ガブリエル・バーン、ジャック・ブラックと悪役にやたら豪華なキャスティングをしても、見せ方を間違えると役は引き立たないということがよくわかります。
[DVD(字幕)] 5点(2007-04-03 20:59:45)
866.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 
【予備知識一切なしで見るべき映画なので、未見の方がレビューを読まれる際にはご注意を】ブラッカイマー&トニー・スコット&デンゼル・ワシントンとくれば「いつもの無難なアクション大作だろ」と思いきや、史上空前のとんでもない仕掛けがぶち込まれた異様な映画となっていました。タイムスリップを題材としたSF映画は数あれど、アクション映画のメインアイテムとして大真面目にタイムマシンを登場させる大胆不敵さには驚きました。誰も思いつかなかったこの一発芸は、実に巧みな脚本と卓越した演出センスによって、映画として十分成立するレベルにまで到達しています。多くのヒット作の脚本を手がけてきたテリー・ロッシオは、このすさまじい題材がどうすれば観客に受け入れられるかを見事に計算してきます。いきなり「これはタイムマシンです」と言うのではなく、デンゼル・ワシントンが謎のマシンの正体を暴くという展開を入れることで説得力をぐっと増しているのです。また、トニー・スコットのハイテク描写の巧みさにも舌を巻きます。「好きな場所に入り込んで過去を覗き見ることができるが、膨大な情報処理には4日を要するため常に4日前の映像しか見ることができず、しかも一度に見られるのは一つのアングルだけで巻き戻しはできない」という煩雑な基本設定を観客に受け入れさせるというウルトラCに挑み、言葉と視覚を交えることで見事それに成功しているのです。装置がタイムマシンであることが暴かれる一連の描写も、脚本レベルの驚きのみに留まらず映像的な面白みも十分。右目で現在を、左目で過去を見ながらのカーチェイスという荒唐無稽な見せ場では、知的な面白さと映像的な興奮でテンション上がりっぱなし。ここまで煩雑な設定を映像で饒舌に語れる監督は他にいないでしょう。確かに細かいアラはいくつか目に入ります。タイムパラドックスの処理に矛盾があったり(爆発した救急車や血のタオルのくだりは時系列上明らかに矛盾が…)、犯人の扱いがやたら適当だったり(目的が最後まで不明、人物像も適当、爆弾魔なのになんでマシンガン持ってんだ…)、ヒロインがデンゼルを受け入れる過程の葛藤が単純だったり。こうした細部の甘さにより傑作となる詰めを外しているような気もしますが、このとんでもないアイデアを実行し、成功させたこと自体を評価しようではありませんか。
[映画館(字幕)] 8点(2007-04-03 12:49:42)(良:1票)
867.  カラー・オブ・ハート 《ネタバレ》 
98年という年には「トゥルーマン・ショー」「ダークシティ」そして本作と、偽りの現実を変えてゆくという作品が3つも制作されましたが、その中でも本作のアイデアや切り口は際立っていたと思います。脚本も映像も非常によく作りこまれており、特に似たようなテイストだった「トゥルーマン・ショー」と比較してもこちらの方が断然優秀な作品だと思います(ダークシティは個人的に好みの映画なので別格)。プレザントビルの奇妙な日常が描かれる前半には大いに笑い、その予定調和が崩されていく中盤にはホ~っと感心し、保守と革新の対立が描かれるシリアスな後半からは人生の教訓をいただくという、3つの味わいのできるなかなか貴重な映画です。前半から中盤にかけては本当に文句なし。トンチが効いていて本当に面白い。そこから一気にシリアスモードに突入する後半部分こそが監督の主張したかった部分だと思うのですが、ここにくると前半にあったような見事なトンチが失われ、かなり露骨な展開となっていきます。ジェニファーのもたらした性とデビッドのもたらした暴力によって街は変貌するものの、変化を望まない者による弾圧がはじまるという内容ですが、全体主義・焚書・赤狩りときて、色付いた革新層を"Colored(有色人)"と呼び、保守層が「区別が必要だ」と主張しはじめるという直球勝負ぶり。人類の野蛮な歴史、とりわけアメリカの現代史を徹底的にデフォルメした含蓄のある展開であり、能天気な前半部分との対比でより衝撃度が増している辺りもよく計算されています。ただしラストの裁判シーンはあまりにも主張が強く出すぎているように感じました。被告となるColoredにはロクに弁護士もつけられず、また傍聴席においてもColoredは二階にしか座れないというのはかつての黒人裁判そのもの。そこでデビッドは多様性を認めることの重要性とともに、差別への言及もはじめます。それは色への差別とともに、女性に自立されては困るという発想は身勝手じゃないかとフェミニズムもチラリ。ん~、こんな立派な演説をする必要があったのだろうか?もしこれを口にするのならプレザントビルの住民からの方がよかったのではないだろうか?そこが唯一引っかかった点です。着地点があまりに露骨で単純すぎやしなかったかと。とはいえ、見終わった後にはそういったことも問題に感じないほどよくできたおもしろい映画なんですけどね。
[DVD(吹替)] 8点(2007-03-29 00:33:24)(良:3票)
868.  マグノリア
一言で表現するには難しい(=観る者の咀嚼が必要となる)映画で、しかも3時間という長丁場。監督の演出スタイルが生理的に馴染むかどうかが大きいと思います。結局のところはポール・ハギスの「クラッシュ」と同じ話で、さまざなしがらみに苦しむ者たちの懺悔と救済。ある者にとっては許されざる罪を行った人物も、巡り巡って十字架を背負っているのだという「罪を憎んで人を憎まず」がテーマだと言えます。そうした因果を描くにはやはり群像劇がふさわしく、またそれぞれのエピソードを濃密に描く必要性を考えれば3時間という長丁場にも納得がいきます。どのエピソードも甲乙つけがたいほどよく出来ていたし、それぞれに身につまされるような人生の教訓が詰まっていました。撮影当時29歳だった監督が、ここまで成熟したドラマを作ってみせたことは驚異です。しかもただ説教をたれるだけでなく、遊びまで入れてくるというのがまた見事。登場人物はみな滑稽なのですが、それにより悲哀や人間臭さがよく出てくるという演出の絶妙さ。また編集の遊びも斬新で、あるエピソードが盛り上がってきたところでカットがぶつっと切れ、まったく違うエピソードに飛んでいってしまいます。話がおもしろくなってきた、その絶好調のところでいきなり切ってしまうだなんて!この監督、ぶっきらぼうに作っているようで、実は観客の心理を徹底的に計算しているのだと思います。せっかくおもしろくなってきたところで切るなんて怖いことができるのも、その計算に絶対の自信があるからなのでしょう。実際、このじらしによって特に前半は怒涛のおもしろさとなっており、また膨大な情報量を見る側に詰めこむことにも成功しているのです。一転してペースが落ち着く後半部分とのコントラストの役割も果たしており、まさに完璧な計算だったと言えます。そしてあのとんでもないクライマックス。バカバカしくもありますが、登場人物達のわだかまりを吹き飛ばす起爆剤という役割は立派に果たしており、突飛ではあっても作品の流れの中では非常に理にかなったオチだったと言えます。あの衝撃で皆吹っ切れ、清々しい朝を迎えていたではありませんか。前述した「クラッシュ」は終始シリアスで比較的テーマが伝わりやすいアプローチだったのに対し、本作はより高度な遊びをした結果一部の観客を切り捨てるという結果にはなっていますが、映画としての完成度は非常に高いと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2007-03-27 23:27:08)(良:2票)
869.  A.I.
この映画は出来が良い悪いの次元ではなく、恐ろしいまでに異常で理解ができないという評価が適切ではないかと思います。クリス・ロックロボが笑いながら破壊され、とんちんかんな命乞いをするフリークロボが容赦なく溶かされるという残酷ショーのあからさまな異常性だけではありません。デビッドが家族を心を通わせるという、本来は暖かくあるべきシーンからしてすでにおかしいのです。終始無機質な笑顔を浮かべ、気がつけば音もなしに背後に立っているデビッドは文句なしに怖いですよ。あのうざい言動と言い、こいつには一秒たりとも家にいて欲しくないと思える稀有な主人公です。一方、彼と母の愛情を争うこととなる実の子のキャラクターもムチャクチャで、終始意地悪なことか卑怯なことしかしないという、どこぞの安い少女マンガよりもレベルの低い憎まれ役です。そんな彼らが見せるドラマは、かつて子役を使わせると天下一品と言われたスピルバーグのやることとは到底思えないほど稚拙であり、登場人物に感情移入させないようわざと仕向けているのではないかとすら思えます。そもそも本作は天才スピルバーグが誰よりも得意としてきたジャンルであり、普通に撮っていればそれなりにレベルの高い感動作にできたはずです。なのになぜ、あえて自分の得意技を封印してまでこのような出来にしたのか?売れ線から外れてまで一体何がしたかったのか?その見当がまったくつかない、作り手の意図が何も見えないというあたりが何とも怖いですね。キューブリックの真似事をしようとして失敗したのか?自身の残虐性をもはやコントロールできなくなっているのか?家族向けの感動大作を装いながらこれほど残酷で不気味な話を見せてくること自体が、スピルバーグにとって何かの挑戦だったのか?まぁ一から十まで理解不能な映画ですが、これを額面通り感動作と勘違いし、世界で唯一大ヒットさせた日本の観客も理解不能。なんとなくいいものを見た気にさせる見事なラストを除いて、本作に感動できる場面はないように思うのですが、にも関わらず感動作だとありがたがった日本人…。「アルマゲドン」でも思ったのですが、テレビCMで感動作だと言われれば何でも感動作だと思ってしまうほど映画を見る力がないのかなと、最後に何となく感動できれば2時間半の長丁場を耐えてしまえるのかなと、学力低下の影響はこんなところにも出ているのかなと。
[映画館(字幕)] 2点(2007-03-26 23:08:14)(笑:1票)
870.  ロックアップ(1989)
中古レーザーディスクが100円で叩き売りされてたので、思わず里親になってしまいました。『待ってたぜ!スタローン」とデカデカと書かれ、帯には名作「大脱走」よろしく数百人の囚人が脱獄しているイラスト(本筋とはまったく無関係)が入っているという素晴らしいデザインのジャケットにまずしびれてしまいました。さらにジャケットの裏には、刑務所めがけてイナヅマが走り大爆発が起こっているという景気のいいイラスト(本筋とはまったく無関係)もあるのですが、一方本編は目立ったアクションシーンもない実に地味な仕上がり。くちびるひん曲げて「ウォー!」と叫びながらマシンガンを乱射していた当時のスタさん作品の中では異色なほど質素な仕上がりで、スタファンだった私も小学校の時に一度見たきりでほとんど印象に残っていませんでした。同時期の「デッドフォール」は子供心に大好きだったんですけどね。でもあらためて見ると、当時なんでもありが許されていたスタさん作品において、本作はきちんと起承転結もあって映画として成立しているように思います。ま、あくまで80年代のスタ作品中ではという評価ではありますが、コブラやオーバー・ザ・トップなどを思えばちゃんと出来てるなと。刑務所仲間と友情を育んだり、刑務所長へのイライラが極みに達していくあたりなど、きちんと感情移入して見ることができました。ダイ・ハードや逃亡者(ハリソン・フォード版)なども手掛けたジェブ・スチュアートが脚本で加わっている功績でしょうが、スタさんならではの人間味が本作の泥臭さにはよく合ってると思います。インディ・ジョーンズやトップガンがとっくに公開されていた80年代末なのに演出や編集のセンスがやたら古いようにも思いましたが、それはそれで現在の鑑賞においては味としても感じられるし。筋肉に支配されていた80年代末には、こういうのも大作として上映されてカップルも見に来てたんだなぁと思うと、なかなか素敵な時代じゃないかと先輩方をうらやましく思います。デートでスタさんの映画を堂々と見に行けた時代があったなんて奇跡じゃないですか。スネークフライトをひとりで見に行っている自分を思うにつけ、自分は生まれる時代を間違えたなと思います。
[ビデオ(字幕)] 7点(2007-03-25 04:03:36)(笑:1票)
871.  ホステル
日本以外では空前の大ブームとなっているスプラッタホラーの代表的な1作ということでブルーレイディスクを購入して鑑賞しましたが、あらすじから想像されるよりもスプラッタは少ないように感じました(もちろん、ホラーに免疫のない人が見ると卒倒する作品ではありますが)。顔を半分焼かれた女の子の特殊メイクがやたらチープ等、映像的に群を抜くほどショッキングというものでもないでしょう。むしろこの映画からは、イーライ・ロスという人物の素晴らしい才能が感じられました。見せない部分の怖さ、これから起こる惨劇への不気味な兆候の表現が実にうまく、復讐へとなだれこむ後半の盛り上がりも絶好調で、この人の脚本・演出は完璧に計算されているなと感心しました。ピーター・ジャクソン、サム・ライミと現在ハリウッドを引っ張っている監督がふたりともホラー映画出身ということからも、優秀なホラー映画を作ることは監督としてのポテンシャルのひとつの証明だと言えます。観客を怖がらせるには、どのようなバイオリズムで鑑賞されるかを先回りして脚本・演出を仕掛けていくという能力が必要となりますが、このイーライ・ロスという人物はそれに非常に長けているように感じました。この人はただ気持ち悪いものを見せるだけの人物ではないなと。今後の成長が非常に楽しみな監督さんだと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2007-03-22 00:25:03)(良:1票)
872.  エターナル・サンシャイン 《ネタバレ》 
極めて特殊な設定ですが、その中身は非常に単純。①感情は記憶を超えうるのか?、②ラブラブだったふたりが別れに至るまで。この映画がテーマにしているのはこの2点だけです。①については、恋愛感情とは巡り合わせで起こるものなのか(=偶然)、それともまったく違うシチュエーションで出会っても恋愛感情は起こるものなのか(=運命)という問いかけですが、本作の出した答えはYes。ジョエルとクレメンタイン、メアリーとミュージワック博士の2組のカップルが記憶消去を体験しますが、どちらも記憶消去の後にもう一度恋愛感情を抱きます。ですが恋愛が一度失敗に終わっていることを知ると、メアリーは博士との報われない恋愛を終わらせることを決め、一方ジョエルとクレメンタインはお互いの欠点を認識し、自分がそれを許容できなかった事実を受け止めつつも、また恋愛しようと決めるのです。ジョエルとクレメンタインの決断はいかにも映画的なきれいごとのような気もしますが(あんな告白テープを聞かされて付き合う気になりますか、普通)、その根拠となる②が非常に秀逸なのです。ジョエルとクレメンタインの恋愛は私たちの身の回りにも転がってるような本当に普通のもので、だからこそふたりの葛藤には誰もが身につまされる思いをさせられます。私は彼女と鑑賞したのですが、ふたりがケンカする場面になると自分まで気まずい思いがしたし、一方ラブラブの場面では妙に照れくさかった。それほど恋愛というものがよく描けているんだと思います。感情が記号のように並んでるだけの映画や、ありえない主人公の泣けるラブストーリーなんかではこんな気持ち味わえません。その描写において、時間を逆行させるという掟破りが尋常ではない効果を発揮しています。お互いの欠点がどうしてもガマンできなくてケンカを繰り返しているところからはじまり、ラブラブだった頃へと戻っていくという驚天動地の脚本。あれだけ罵ってた相手が自分にとってかけがえのない存在だったのだと再認識する過程が押し付けがましくなく本当に自然でした。さらにこの映画、幼少時代へのノスタルジーまで盛り込んでみせます。どこまで凄いんだと感心しっぱなしでした。ともすれば難解となる脚本をわかりやすく、かつ刺激的なビジュアルでまとめてみせた演出もさすがで、芸術的にも感情的にも得るものの非常に大きい作品だと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2007-02-13 02:25:02)(良:2票)
873.  スーパーマン リターンズ 《ネタバレ》 
9.11やアフガン・イラク攻撃などアメリカにとって波乱の21世紀においてなんでも解決してくれる無敵のヒーローは成立するのだろうかという難題に挑み、そこに突破口を作ってみせたブライアン・シンガーの手腕は相変わらず見事でした。かつての恋人に「スーパーマンはなぜ不要なのか?」という論文を書かれ、それがピュリッツァー賞まで受賞するほど変わってしまった世の中。町の人助けやちんけな犯罪者の成敗はやってくれても、テロや戦争など人類が抱える本当の困難には立ち会ってくれないじゃないかという大きな矛盾を前提としてこの作品は作られていますが、それに対する答案をきちんと準備しているのが立派なところ。スーパーマンは神のごとき力を持って世界を救うヒーローというよりも、目の前で困ってる人をほっておけない気の良い超人というスタンスを明確に出してきているのです。最初から最後まで基本的に彼は知り合いを助けるために戦っていることからも、彼の戦いの目的が個人的な方向へシフトしていることがよくわかります。また、スーパーマンに救われた人たちが感謝と尊敬を示すリアクションが丁寧に描いているあたりからも同様の意味が感じられます。墜落する飛行機を救う大スペクタクルの後に、スーパーマンの華々しい帰還を大歓声で迎える観衆が映し出される場面はまさに象徴的で、彼が観衆に支えられる市井のヒーローである(だから難しい世界情勢ではなく目の前の事件に立ち会うのみ)ことがよく描かれています。スーパーマンが病院に運ばれるというヒーローものとしてはありえない展開も、21世紀のスーパーマン像を確立する大博打だったと思います。徹底的なリアル路線にシフトしたバットマンよりも、ヒーローへのロマンと現実のうまい折衷をやってのけたスーパーマンの試みの方を私は評価します。そういえば劇中スーパーマンの活躍を報じるテレビの中から「ゴッサムでも目撃されており」という発言がチラっと聞こえるのですが(字幕では未訳)、バットマンの町にまで人助けに行っちゃダメでしょ。映画全体は恐ろしいまでに丁寧に作りこまれており、テンポも遅いのでやたら冗長に感じますが、それはスーパーマンに対する思い入れの違いだと思います。ガンダムが普通のアクション映画になっていたら日本人としては許せないのと同じ感覚で、アメリカ人にとってのスーパーマンはこのボリュームがふさわしいのでしょう。
[映画館(字幕)] 7点(2007-02-11 17:28:45)(良:1票)
874.  トップガン
世評をどうしても理解できない映画のひとつ。リアルタイムで見た世代でなくともベストに挙げる者が大勢いる人気作なのですが、私は何度見てもこの映画の面白さがわかりません。私が問題に感じたのは①恋愛、ライバル、友人、コンプレックス等のドラマパートにどれも表面的で深みがないこと、②「トップガン」という設定をまったく活かしていないこと、の2点です。①についてはどれもこれもマンガ並のチンケな話で見ていて恥ずかしくなりました。薄っぺらなトラブルに薄っぺらなセリフでリアクションするということが2時間も延々と繰り返されるのみで何の面白みもありません。欲張っていろんなエピソードを入れるのもいいですが、どれかひとつでも筋の通ったものを作らないと話は空中分解します。その「筋を通ったもの」にすべきだったのが②なわけですが、これができていないのが致命的。主人公は最初から天才パイロットで、素行の悪いのが玉に傷という話なのが基本的によくないような気がします。何の努力もせずに一番でいられる主人公が、プライベートな心の問題でやる気なくしたり元気になったりなんて話は面白くないでしょ。各地のエースパイロットを集めて切磋琢磨させ、最強の中の最強を目指すのがトップガンというエリート訓練コースであるならば、主人公がパイロットとしての腕を磨くことを話の核にもってくるのが常套手段だと思います。ベタですが主人公が挫折の末に努力を重ねてトップを目指し、その周りに恋愛や友人やライバルなどのサブストーリーを据えればゴッタ煮状態の話にも統一感が出たはず。そして泥臭いパイロット修行の後、クライマックスの空中戦ではエリート部隊の圧倒的な強さを見せつけて爽快に締めるという展開にすればよかったんです。なのにトップガンのみなさんはロクに訓練もせずに遊んでばかりで、いざ実戦に出ればさほど不利な情勢でもないのに危機に陥るという体たらく。これだったらトップガンという設定はいらないじゃないですか。よく誉められる空中戦のシーンもそれほどかっこよく感じられず、ダラダラとどうでもいい追いかけっこばっかしよってというのが私の印象。こういうのが記録的な大ヒットになった80年代ってのは本当にいい加減な時代だったんだなと思います。
[DVD(字幕)] 2点(2007-02-03 19:05:02)(良:3票)
875.  カジノ
やたら複雑なカジノの仕組みを流れるように説明する冒頭は本当に秀逸で、スコセッシという監督はダテに巨匠やってないなと感心させられました。この監督はあまり技術や手法には言及されない人ですが、何をどう見せるか、作品を見るうえでの基本知識をどの程度観客に与えておくかの計算を非常に緻密にやってることがよくわかります。デ・ニーロ&ペッシとのトリオも非常に安定感があり、作品全体の完成度は高いと言えます。ただしこの映画は既視感に溢れているのも事実で、束の間の栄光と挫折、傷つけ合うだけの男女、突発的な暴力、どれも監督が数十年間描き続けてきたものです。また監督の作風の悪い部分もきちんと継承しているのが困ったところで、いつもながらエピソードが連なるだけでクライマックスにかけて息切れをしてきます。スコセッシという人物の人間観は絶望的なまでに冷たいもので、悪い風が吹き始めると友達も家族も敵となって誰も助けてなどくれず、自分でピンチを切り抜ける頭を持った者だけが自力で逃げるという、人間に対する不信感しかないような作品ばかりです。そのような人間観のため作品全体に一本筋を通すような人間ドラマの存在しないものが多く、その結果ただエピソードが並んでいるだけにしか感じられないのです。主人公やその他の登場人物達が展開とともに成長したり、人物同士が触れ合うことで変わっていくという通常の映画には当然備わっているべきドラマ的な要素が完全に欠落しているのです。同様の傾向を持つタランティーノは遊びをふんだんに入れることでドラマの不在を完全に補っていますが、スコセッシの場合はそのような手段を持っていないのが問題なのです。各要素の完成度は高いだけにこれは残念。特に本作のシャロン・ストーンなどはスコセッシでなければ引き出せなかったであろう凄まじい演技を見せてきています。これぞまさに一世一代の大熱演で、デ・ニーロとペッシというオスカー常連コンビを完全に食ってるのがすごい限り。トータル・リコール→氷の微笑→硝子の塔→スペシャリストと演技など無縁な人だった当時のシャロン・ストーンにここまで委ねたスコセッシはやはり相当な目利きだなと思います。当時であればミシェル・ファイファー辺りでお茶を濁してただろう役柄を思い切ってシャロン・ストーンにやらせてみるってのが巨匠たる勘の鋭さなのでしょう。
[DVD(吹替)] 7点(2007-01-02 00:33:28)
876.  トゥモロー・ワールド 《ネタバレ》 
おもしろくなりそうなアイデアや展開がぶちこまれているわけでもない、前代未聞の斬新な見せ場があるわけでもない、しかしこの映画にはとてつもない「何か」が宿っています。絶望的で陰惨で、それでいて皮肉に溢れとてつもなく人間的という独特な世界を完璧なまでに作り上げており、映画全体が生き物のように躍動しています。ストーリーらしきストーリーなど必要ない、というよりもこの世界を味わうためにはストーリーすら蛇足と言えます。人類になぜ子供ができなくなったのか、ヒューマン・プロジェクトとは何者なのか、確かに娯楽作としておもしろくなりそうな要素を相当切り捨てています。普通の監督であれば当然描いたであろうことを一切無視し、あくまで主人公セオの目線のみで作られています。しかしそれで正解。世界の謎を解き明かすことも、未来のために戦うこともなく、行く先々で出会う人から言われるがままに動き、ただ危険から逃げることしかできない。こうしたヒロイズムの否定は、人類全体が死へと向かっている世界で何もできはしないという絶望感をさらに煽ります。これでいいのです。そしてその絶望の対極にある希望の描き方も実に秀逸。クライマックス、軍隊による殺伐とした掃討作戦が開始され、兵士達は銃を無差別に乱射し、テロリストは狂気にとりつかれたかのようにそれに応戦、一般市民はただただそれにおびえるばかり。しかしひとりの赤ん坊が人々の心にあった共通の人間性を呼び起こし、戦闘を止めてしまうのです。アクション、スリル、ドラマ性、メッセージ性、哲学性などがすべて頂点に達したかのような素晴らしいシーンで、映画史上これほどの場面は稀有だといえます。アルフォンソ・キュアロンという監督にはあまり馴染みがないのですが、自ら脚本も手がけてこの作品を作った手腕は神業的としか言いようがありません。娯楽的な要素を相当切り詰めた上に、立派な人物や印象的なセリフが出てくるわけでもないのに、ここまでおもしろくかつ含蓄のある作品を自分のセンスのみを頼りに作ってしまえるというのは恐るべき才能だなと。キューブリックですらこのレベルは作れなかっただろうほどの超絶な傑作です。映画館はガラガラでしたが(笑)、後の世では不動の傑作との評価を受けるであろう作品だと思います。
[映画館(字幕)] 10点(2006-12-12 23:55:55)(良:8票)
877.  007/カジノ・ロワイヤル(2006) 《ネタバレ》 
何度目かとなるリニューアル作ですが、過去のシリーズからの連続性を完全に断っているという意味では史上最大のリニューアルといえます。次回作は本作の続きになると言われていますから、カジノロワイヤルをスタートとして新生007を作る、ドクター・ノオやゴールドフィンガーといった往年の作品も現代風にアレンジして再映画化する計画でもあるのだろうかとも推測されます。だからこそ歴史を捨て去り、007の誕生をテーマにしているとのではないかとも思われます。また従来のボンド像にまったくそぐわないダニエル・クレイグを起用したのも、新シリーズ構築に対する計算があってのことではないかとも推測されるのです。そのような事情があってか本作に対するスタジオ側の熱意は並々ならぬものが感じられ、シリーズ中でもトップクラスの仕上がりだと評価できます。純粋に映画としての完成度が高いうえに、シリーズへの目配せも充実しており、ファンも初心者も両方納得させられる映画になっているのです。冒頭、トイレで裏切り者を始末するシーンはシリーズ中異色なほどの荒っぽさですが、007は殺しのライセンスを持った殺し屋なのだという本来のジェームズ・ボンド像を再確認させるのに十分な効果をあげており、また殺しとは鮮やかに決められるものではないというリアル路線を決定的に印象付ける素晴らしい場面だといえます。そこからいつもとは違ったアレンジでの「銃口」→主題歌となるのですが、定番を踏襲しつつも新しいというセンスのよさには唸りっぱなし。序盤ではチンピラのようなジェームズ・ボンドが、カジノロワイヤルに潜入するために服装の着こなしや酒の選び方を覚えていって007になっていくという流れも実に良くできています。それと同時に精神面の変化も大変な説得力をもって描かれており、ジェームズ・ボンドという個人が007というスパイに変わっていく過程がドラマチックに描かれています。そしてラストでは、個人を振り払い007となったジェームズ・ボンドがついに姿を現し、普段であれば第一声であるはずの「ボンド、ジェームズ・ボンド」の定番セリフを、本作ではクライマックスになって初めて口にするという粋な演出。そしてこれまた定番のジェームズ・ボンドのテーマがエンディングになってはじめて流れるのもこれまた粋。次回作への期待も一気に高まりました。
[映画館(字幕)] 8点(2006-12-11 00:59:10)(良:1票)
878.  ソウ2 《ネタバレ》 
まぐれでヒットした低予算映画の続編はたいていロクなものがないのですが、本作はその珍しい例外。前作の公開からわずか1年で企画→脚本→撮影→編集→公開という凄まじいハイペースで製作されただけに前作の恩恵に預かっただけの駄作になるかと思いきや、前作と同等のクォリティを維持しているのに感心しました。一瞬たりとも飽きさせずハラハラさせっぱなしの演出は見事です。ジグソウの正体がわかっている以上本作に謎解きの要素は少なく、即別的な展開やスプラッタで内容のなさを補っていると言えなくもないですが、過剰なスプラッタがあってこそこのスリルは出せたとも言えるので製作側の姿勢に間違いはなかったと思います。ただし、前作の時点ですでに怪しかったジグソウの行動原理が本作ではさらに危なくなっており、「生の悦びを自覚させるためのゲーム」という体裁がほとんど崩壊寸前のところにまで来ているのは問題だと思います。自分の命を軽んじたり、倫理的に誤った生き方で人生をムダに費やしている者に生死をかけたゲームをさせ、生きていることへの感謝を再認識させるというのがジグソウの目的であり、そのゲームには被験者達の普段の行動を皮肉った仕掛けが準備され、苦痛に耐えてでも生き延びるか、そのまま死ぬかの二者択一を迫られます(セブンのジョン・ドゥと似てますね)。ここでポイントなのがジグソウの要求に耐えれば必ず生き延びる道が準備されているということなのですが、今回のサバイバルゲームには生き延びる道がなかったように思います。死ぬと予定されていた者は死ぬしかない展開でした。また、今回のゲームの最終的な目的は刑事を罰することにありましたが、この刑事が命を奪われねばならないほどの悪人だったとも思えないし。確かに彼は証拠をでっち上げて多くの人間を刑務所に送っており、その行動のツケを払わせると言うのならジグソウの行動も理解できますが、彼がかつて刑務所に送り込んだ犯罪者達をジグソウ自身もサバイバルゲームで罰する対象に選んでおり、つまり彼らが罪人であることはジグソウ本人も認めるところだと言えます。法で裁けない罪人を個人の裁量で罰したという意味ではジグソウも刑事も同じ行為をしたのに、なぜ刑事が処刑の対象になるのかという論理的な矛盾があります。2代目ジグソウが個人的な恨みをぶつけただけの話なら、それこそ説教キラー・ジグソウの名が廃ります。
[DVD(吹替)] 7点(2006-11-26 16:13:10)(良:1票)
879.  イーオン・フラックス(2005)
大コケぶりに妙な期待をしたのですが、実際に見ると意外とあなどれない作品だなと思いました。話がわかりづらく世間一般に認められる映画ではないと思いますが、映画好きや批評家から酷評を受けるほどのものでもないでしょう。とにかく映像美に感心。ブレードランナーからマトリックスまでSFといえば闇。テクノロジーの無機質さと闇は抜群の相性なのですが、この映画はそれを覆す試みをしており、かつ成功させているのです。雲ひとつない真昼間に緑いっぱいの庭園を走り抜けてSFを成立させているのです。また、通常のSFではテクノロジーを感じさせるマシーンや建造物が登場するものですが、この映画では代わりに小道具でそれを表現しているので独特な印象となっています。それらを見せる監督の美意識も大したもので、独特なデザインをうまく作品に取り込んでいます。外敵を感知するとトゲになる芝生や、足に手のひらを移植している暗殺者等の突飛なアイデアもダサくすることなく映像化に成功させており、なかなかセンスの良い人だなと感心しました。一方でストーリーはいまいち弱く、陰謀の根幹がクローン技術でしたなんてのはSFではよくある話で、またテクノロジーに生命の神秘性が追いつくというテーマもSFの常套句なのでアイデア自体は別段特殊なものではありません。また、脚本に舌っ足らずなところがいくつも目につきます。まずイーオンがなぜレジスタンス活動を行っているかの説明がないので、彼女がトレヴァーと心を通わせていく過程のドラマが引き立っていません。人類はたったひとつの都市に密集して暮らしているのに、イーオンは兵士をボコボコ倒せるような訓練をどこで受けたんだというそもそもの疑問もスッキリしないし。都市上空を旋回している飛行船が実はクローン製造工場だったというどんでんも、そもそもあんなものがどういう理由付けをされて飛んでたのかの説明がないのでどんでんになってないし。また、政府トップの暗殺があまりに簡単なのも納得できず、その上その暗殺犯がいとも簡単に逃亡し、しかも再びトレヴァーに接触しに行けちゃうという安易さは回避すべきだったと思います。とまぁ脚本には穴が多いのですが、これはビジュアルを見せるための映画なんだと割り切ってみると、バカみたいな話でビジュアルを台無しにせずきちんと硬派な印象を残しているので、良くはありませんがそれほど悪くもないと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2006-11-25 23:39:00)
880.  ティアーズ・オブ・ザ・サン
アントワン・フークアという人物は良い監督なんだか悪い監督なんだかよくわからない人です。この人はマイケル・ベイやサイモン・ウェストらと同じプロパガンダ・フィルムズの出身で映像は確かにMTV風なんですが、ベイのような軽さやバカっぽさがなく、意外とどっしりとした映画を作ってみせます。そういった意味では本作に適任と言える人物で、火薬大量消費のアクションパートと重苦しいドラマパートの色合いを違和感なくまとめられたのは彼の手腕あってこそだと言えますが、一方でストーリーテリングに無頓着なところが見られます。困難な作戦に挑む特殊部隊の物語なのに、人数もさほど多くない隊員ひとりひとりの名前すらよく確認できないという見せ方はさすがにないと思います。せっかく個性的なメンバーが揃っているのに、彼らが誰だかよくわからないまま死んでいくというのは実にもったいない。また難民の描き方も中途半端で、最初から最後まで彼らはお荷物でしかないのでは感情移入できません。特殊部隊にはない土地勘を活かして協力関係が築かれるという話にすれば、彼らの存在感や見せ場のバリエーションも増えたはずです。そしてなんといっても最悪なのがケンドリックス医師の扱いで、せっかく助けに来てくれた特殊部隊に文句しか言わないバカ女にしか見えません。ウォーターズ大尉の行動にはケチをつける一方で、敵に追われてるのに休憩させてくれなどと危機意識ゼロのことを言い出したりで、本当にイライラしました。確かに、彼女の連れている難民は子供や病人が多数いて、彼女は自分のためではなく彼らを気遣って無理を言ってるのですが、そういった面が伝わる描写がまったくないのでバカ女にしか見えないのです。そんな感じでツメの部分で失敗しているのがもったいない限り。基本的にはそれほど悪い映画だとは思いませんでしたから。また、多くの方が指摘されているようにアメリカ万歳的な部分もありましたが、あれは製作側が意図したものではなくアメリカ人の地が出たものだと思います。私が一番不自然に感じたのは越境に成功した難民が「自由だ!」と叫ぶところで、自由を絶対の価値観とするアメリカ人ならではの発想だなと。また、大統領の息子が「私の父は民主主義の普及に努めていまして」なんて語るシーンもやはりアメリカ的。アメリカ人は自由や民主主義が世界的な価値観だと信じ込んでるんだなというのがよくわかります。
[DVD(吹替)] 6点(2006-11-23 19:12:30)
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