1. ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
《ネタバレ》 久し振りにこんなに深い映画と出合ってしまいました。アン・リー監督の、自然の猛威と繊細さを抒情的でエキゾチックな映像美で描き出した、一人の少年と一匹のトラとのシンプルなエンタメ冒険物語だと思いきや、最後の最後でやられました。この映画、凄い作品です。一度目の鑑賞での「果たして動物にも人と同じ心がやどるのだろうか」というテーマが、二度目の鑑賞では「人は何処までケダモノになりえるのだろうか」という全く正反対のテーマへと見事なまでに昇華させた、アン・リー監督のこの手腕にはもう諸手を挙げて賞賛せざるをえません。《以下、激しくネタバレ》沈没する船から母親と共に命からがら逃げ出したパイ。ところが凶悪なコックによって目の前で母親を殺されてしまうと、激高して彼を殺害。ボートにたった独り残されたパイは、コックの死体を喰らい、ひたすら自然の猛威と孤独にさらされ、次第に狂気へと捉われケダモノ一歩寸前へと追い込まれてしまう。そんな彼の最後に残った人間としての理性の砦が作り出した別人格である〝パイ〟。自分の獣性に怯えながらもなんとかそれを飼いならそうともがくなか、ようやくトラを殺すチャンスが巡ってきたというのにそれでも殺せなかった〝パイ〟の姿に、人間心理の深淵を垣間見たような気がします。そして〝パイ〟が嵐の中に見つけた美しい神の幻影をトラに見せようとするが、トラは怯えて逃げ惑うばかり。「神よ!どうしてあなたはこんなにトラを怯えさせようとするんですか!」後で思い返してみると、この言葉は狂気の淵に瀕した、人間の極限の理性が発した魂の叫びだったと分かって、めちゃくちゃ鳥肌が立ってしまいました。どうして人の理性が神を必要とするのか(居るか居ないか、ではありません)、そんな全ての宗教の源泉と呼ぶべきものがここにはある。一人の少年の理性と本能がせめぎ合う観念的な世界を圧倒的な映像美で描き出した、アン・リー監督の今のところ最高傑作だと思います。肉食樹の島のメタファーは、まだ僕の力量では推し量ることが出来ません。これから何度も繰り返し観て、いつか解き明かしてみたいと思わせる、素晴らしい作品でありました。 [DVD(字幕)] 10点(2013-12-13 18:03:21)(良:6票) |
2. 火垂るの墓(1988)
《ネタバレ》 毎年、夏になると全国の小中学生を恐怖のどん底に叩きつける反戦洗脳映画。と、世間では思われている作品だけど、僕はちょっと違う気がします。この作品は単純な反戦映画ではなく、戦争が本当に壊してしまうものを冷徹に見つめた作品だと思います。戦争が本当に壊してしまうもの、それは人間の社会性です。この主人公の少年は、今でいう不良少年なのです。盗んだバイクで走り出す現代の若者となんら変わりない。そんな少年でも、社会性がしっかりしていれば、相応の大人たち(例えば教師や警察や少年院)がちゃんと矯正させて、少なくとも餓死させるということなど絶対にさせない。この世界から戦争がなくなることなど絶対にあり得ないなら、せめてそれが壊してしまうものから目を逸らさず、多くの人たちから残酷で悪趣味だと非難されようとも徹底的に冷徹に描こうというこの監督(および原作者)の勇気には敬服せざるを得ません。そして、今でもアメリカはイラクやアフガンで社会性を壊し続けている。この映画が偽善にまみれた単なる反戦映画と一線を画した普遍性を持っているのは、ますます混迷する現代に通じるテーマを持った作品だからだと思います。 [DVD(字幕)] 9点(2013-04-20 19:16:45)(良:4票) |
3. 塔の上のラプンツェル
《ネタバレ》 勤務先のアルバイトの女子高生が「ラプンツェル、あれ、ヤバかったです!もう最初から最後までキュンキュンきちゃいました!」とべた褒めしていたので、「どれ、じゃあ色んな経験をつんで酸いも甘いも噛み分けた中年オヤジであるわしのハートも果たしてキュンキュンさせられるかいのぉ~」と挑戦するかのような心持ちで鑑賞してみました。は、はは、見事に負けちまった…。ベタですけど、中年オヤジであるわしの薄汚れたハートにもちゃんとキュンときたではないか(笑)。確かに、童心に返りたい女子高生のハートを鷲掴みにするようなネタ(ラプンツェルのキューティクル感MAXな長い金髪、キモ可愛い相棒のカメレオン、最強の武器は何故かフライパン、そしてお調子者の泥棒とのちょっぴり切ない恋愛要素…)がてんこ盛り。ガミガミうるさいお母さんにうんざりしてる反抗期の女の子の心情にも憎いくらいに応えてくれてるしね。最後まで飽きさせない練られたストーリー展開、魅力的なキャラクターたち、適度なユーモア、そしてセンス溢れる美しい映像の数々…。こういう観客の求めているものをしっかりと把握して製作されただろうエンタメ映画も素直に素晴らしいと思います。先入観に捉われず、多くのわしのような中年オヤジの皆様にも是非観て貰いたい完成度の高い作品でありました。ラプンツェルのナイスなお転婆感が可愛いっす! でも、その職場の女子高生に「ありがとう、面白かったよ!」と伝える勇気はないけどね(笑)。 [DVD(字幕)] 8点(2013-11-18 11:54:13)(笑:1票) (良:2票) |
4. 触手
《ネタバレ》 日本が世界に誇る変態エロジャンル、その名も「触手モノ」。これまで幾つかの映画の中でちょこちょこっと扱われてきた(僕が知る限りでは、ケビン・ベーコン主演の『スーパー!』やポール・バーホーベン監督の『エル』などでフューチャーされてました)、この変態ジャンルが満を持して海外で実写化されることになりました!最初に断っておきますが、僕はちょっと興味があるってだけでそこまで好きではないですよ、念のため。このジャンルは実写化は金がかかるので、これまで主な表現媒体は漫画やアニメと相場が決まってましたが、今回海外の変態がお金を出し合ってCGで触手を再現!「これで今までハリボテのちゃちい触手を使って女優自らがちまちま動かすだけというイタイ実写版触手モノと違う、本物の映像が見られる!!」と今回鑑賞してみました(もう一度言いますが、僕はそこまでこのジャンルは好きではないですからね!笑)。結果は……、98分あるこの映画の中で肝心の触手が暴れまわるシーンがトータル1~2分だけってありえんだろ!!いつになったら触手が大活躍するんだと我慢に我慢を重ねてずっと、このホモ旦那と欲求不満妻のどーーーでもいい不倫話を延々見せられて、結果がこれってもう怒り狂いそうになっちゃいましたわ!!看板倒れもいいところです。もうこれは日本の本家変態に期待するしかないですね。誰かちゃんとお金を集めて、ハイクオリティなCGを駆使した本物の触手映画を誰か真面目に作ってください(笑)。 [DVD(字幕)] 3点(2019-07-21 20:32:53)(良:3票) |
5. 9人の翻訳家 囚われたベストセラー
《ネタバレ》 フランスのとある地方都市に建つ一軒の古い洋館。何処にでもあるようなその大きな建物には、強固なセキュリティに守られた広い地下室が備えられていた。持ち主は、世界的なベストセラーを幾つも手掛けてきた大手出版社のCEO。そこにある日、世界各国から選ばれた九人の男女が集められる。目的はなんと、その出版社が扱う世界的ベストセラー作家の人気シリーズ『テダリュス』の最新刊をこの地下室で約二カ月かけて、集中的に翻訳作業を行うためだった――。事前の情報流出を防ぎつつも世界同時発売を実現するため、期間中彼らは外部との接触は一切禁止、外出することも許されない。作業は一日の初めにちょうど20ページ分の原稿を渡され、翻訳が終わると全て回収される。完璧なシステムのはずだった。だが、翻訳作業が開始された直後、何者かによってネット上にその極秘のはずの原稿の冒頭部が公開されるのだった。しかも犯人はCEOの携帯に直接連絡をよこし、原稿の全文を公開されたくなければ、多額の現金を払えと要求してくる。犯人は確実に、この九人の翻訳家の中の誰か。果たして原稿を盗み、ネット上に公開したのは誰なのか?ベストセラーを翻訳するために集められた、そんな九人の男女に交錯する動揺と疑心暗鬼をスタイリッシュに描いたサスペンス・ミステリー。という、今までありそうでなかった設定に惹かれ、今回鑑賞してみました。なのですが、僕はさっぱり嵌まらなかったですね、これ。とにかく物語の見せ方が恐ろしく稚拙。完全隔離されたこの地下室から誰がどのような方法でこの原稿を流出させたのかというのが物語の焦点となるのですが、ここら辺の詰めが非常に甘く、サスペンスとしていまいち盛り上がらない。もっと脚本を整理してすっきり分かりやすくみせてくださいよ。それに、この九人の翻訳家のキャラの描き分けもイマイチで、誰一人魅力的な人物がいないのも致命傷でした。しかも彼らのうち主人公が誰なのかもかなり曖昧なので、観客が誰に感情移入して観ればいいのか分からないのも難点。唯一盛り上がったのが、中盤の原稿強奪シーン。ここはベタですけど、サスペンスフルでなかなか面白かった。でも、それも最後のオチで全て意味がなかったとする謎の自己破壊(笑)。こうなってくると、この設定を思いついたアイデアのみが唯一の長所かなと思ったら、それもなんとダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ出版の際に実際に行われた翻訳手法とのこと。うん、見事に誉めるべきところがなくなっちゃいました(笑)。なんとなく知的でミステリアスな雰囲気に4点。 [DVD(字幕)] 4点(2021-02-08 04:11:20)(笑:1票) (良:2票) |
6. ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結
《ネタバレ》 悪をもって悪を征す!あの死をも恐れぬ〝超極悪部隊〟が帰って来た!様々なヒーローたちによって刑務所にぶち込まれた、イカレ頭の極悪人たちを寄せ集めて作られた、その名も「決死部隊(スーサイド・スクワッド)」。今回彼らが送り込まれたのは、政情不安に揺れる南米の小さな島国。ここで良からぬことを企んでいる反米政権の野望を阻止せよというのが今回の任務だ。娘のために依頼を引き受けた武器のプロフェッショナル、ブラッドスポート。正義のためなら殺人も辞さない孤高のヒーロー、ピースメイカー。凶悪な人喰いサメ人間であるキングシャーク、ナナウエ。世界中のネズミを自由に操ることが出来るラットマスター、クレオ。全身から七色の水玉を発射できるポルカドットマン、アブナー。そして、次に何をするか全く予想が出来ない危険なギャルビッチ、ハーレイ・クイン。数々の困難を乗り越え、島の中枢へと辿り着いた彼らは、あるマッドサイエンティストの危険な研究に巻き込まれてゆく……。映画としてはポンコツだったものの、ハーレイクインという凄まじくキャラ立ちしたクソビッチ(失礼!)なアンチヒロインを生み出したエンタメ映画の続編。さして期待はしていなかったのですが、世間の評判がすこぶる良かったので今回鑑賞。うん、前評判通りめちゃくちゃ面白かったです!!全くもって華のないメンバーが登場する冒頭、「大丈夫かいな…」という不安も束の間、あっさり彼らが全滅するシーンから掴みはバッチリ。特に手足を取り外せるだけが能力のTDKと変なイタチ男が泳げなくて死ぬところはもう爆笑。そこから本家の主人公が登場してからは怒涛の展開。最後まで息つく暇もないほど楽しませてもらいました~。特に槍を持ったハーレイクインが花びらを巻き散らしながら男どもを薙ぎ倒してゆくところは、最近観た映画の中でも屈指の名シーン。『キックアス』のヒットガールに匹敵するほどで、もうこのシーンだけでご飯何杯でもいけます。そんな彼女に他のキャラが負けているかと言えば全くそんなこともなく、誰もが如何なく自らのキャラを発揮させているのも見事!特に出オチかと思われたキングシャークが、最後まで見ると一番かわいく思えてくるから不思議です。ネズミ女も何気に可愛いし、一番地味な水玉男もその妄想世界で楽しませてくれます(オカンいっぱい!笑)。監督は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を撮ったジェームズ・ガン。なるほど、この全てのキャラクターへの並々ならぬ拘りは、この監督の特性だったのですね。最後、それぞれの能力を駆使したヒトデ怪獣との闘いは最高にテンション上がっちゃいました。むちゃくちゃやっているように見えて、実は細部まで緻密に計算された演出も素晴らしいとしか言いようがない。うん、もう一度言いますが、サイコーに面白かったです。ホント、あのポンコツな前作はなんだったんだ(笑)。 [DVD(字幕)] 9点(2022-08-01 07:44:53)(良:3票) |
7. インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説
《ネタバレ》 まさに小学生のころに観てしまってドハマリしてしまいました。もう、小学生男子の心を鷲掴みにするネタが次から次へとジェットコースターのように展開して、もうたまりません!わー、猿の脳味噌食ってるし!ひぇぇ、虫が大群じゃー!おっさん、心臓ほじくり出してるし!!トロッコだ!洪水だ!吊り橋落としちゃってるし!!!ひぃぃ、も、もう止めてー!!!映画の楽しさをこの作品で初めて教えてもらいました。当時、録画したビデオテープが擦り切れるほど何度も観てしまった思い出の一作。 [DVD(字幕)] 9点(2013-04-12 13:31:08)(良:3票) |
8. アラジン(2019)
《ネタバレ》 たまたま時間が空いたので何か映画でも観ようと、たまたまやっていた本作を映画館にて鑑賞。元となったアニメもこれまで観たことなく、有名な曲だけちょろっと知ってる程度、別にウィル・スミスのファンでもなんでもない、そんな期待値ほとんどゼロの状態で観たのですが、これが意外や意外、めっちゃくちゃ面白いじゃないですか!!ウィル・スミス演じる魔人ジーニーも最初こそ違和感バリバリだったけど、それも最初だけ、これが彼のベストワークなんじゃないかってくらいもろ嵌まり役!!最初のミュージカル・シーンでのハチャメチャぶりがとにかくサイコーでした。続く、アリ王子の行進曲なんてもうゴージャスでゴージャスでちょっとやり過ぎなくらい(笑)なんだけど、ここまでやられたら自然とテンション上がっちゃいますわ~。トラや魔法の絨毯といった脇役たちもみんなキャラ立ちまくりで誰も彼も魅力的!権謀術数渦巻く政治劇とアラジンと王女のラブストーリー、手にしたものの願いを叶えるという魔法のランプの奪い合い、そして1万年も孤独に過ごしてきたジーニーとの間に芽生える友情――。これらの要素を絶妙のバランス感覚で配合した脚本も完成度が高く、クライマックスなんて普通に手に汗握っちゃいました。ガイ・リッチー監督の良くも悪くも軽ーいノリのエンタメ路線が今回は見事に嵌まったんじゃないでしょうか。今度、オリジナルのアニメも観てみようと思います。うん、上質の素晴らしいエンタメ映画でありました。映画館補正もあるかも知れないけど、8点!! [映画館(字幕)] 8点(2019-06-09 23:26:26)(良:3票) |
9. ウルフ・オブ・ウォールストリート
《ネタバレ》 貧しい母子家庭に育ったものの、持ち前のバイタリティと人を惹きつけるカリスマ性のみを武器に、金とハッタリと欲望だけがものを言う金融取引の世界でただひたすらのし上がってゆき、いつしかウォール街の狼と呼ばれるようになった男、ジョーダン・ベルフォート。だが、その私生活は酒とドラッグとセックスが渦巻く欲望の海にただひたすら溺れていくかのような破天荒なものだった――。栄光と挫折を味わった実在の金融マンがその半生を赤裸々に綴った自伝を元に、巨匠スコセッシが若き盟友ディカプリオと再びタッグを組んで描き出したエネルギッシュなサクセス・ストーリー。いやー、アメリカってホントに法治国家なんですか(笑)。映画が始まって、ただひたすら3時間、金と女とドラッグが乱れ飛ぶ乱痴気騒ぎが延々と繰り広げられて、もうお腹いっぱいっす!彼らに実際に騙されて資産を失った被害者とかがこれを観たら、もう怒りのあまり血管が切れちゃうかもね。それにしても、もう70を越えているはずのスコセッシ御大がこんなにも猥雑で下品で胡散臭くて、それでも生きるエネルギーに満ち溢れたつわもの共の宴を最後までテンションMAXに描き出すその衰えない手腕はやっぱり賞賛に値すると思います。かつて巨匠と呼ばれた監督たちが、最後はその晩節を汚すような作品を遺して逝ったことを思えば、彼のこの無尽蔵のバイタリティはホント凄いですね。そんなスコセッシの要求に、もはや名実共にハリウッドトップクラスの俳優であるディカプリオが見事な熱演でもって応えていて、最後まで充分見応えのある作品に仕上がっておりました。これまでのスコセッシ&ディカプリオコンビの作品の中でベストワークと言えるほどのクオリティを誇っていたと思います。それにしてもこのベルフォートって男はなんと愚かで馬鹿でイヤらしくて最低のゲス野郎なのに、どうしてこんなにも魅力的なのでしょう。この映画で彼の半生を辿ると、人間ってもっと馬鹿で愚かになってもいいんだと何故だか生きるエネルギーを貰えたように感じます。少なくとも、「情熱と努力と奉仕の精神でこんなにも会社を大きくしました。だから、みんなも希望を捨てずに頑張りましょう」という世の多くの会社社長たちの建前だらけの胡散臭い演説よりは彼の言葉の方が信じられるような気がします。…あれ、もしかして自分もいま、騙されかかってる?(笑)。 [DVD(字幕)] 8点(2014-10-30 06:48:13)(良:2票) |
10. アノマリサ
《ネタバレ》 アメリカの地方都市、シンシナティ。ある夜、雨に煙るこの街の空港にマイケル・ストーンという名の初老の男性が降り立つのだった。著名な接客コンサルティングである彼は、翌日の講演のためにすぐさまタクシーに乗り込み高級ホテルの一室にチェックインする。だが、彼の表情は終始物憂げで何処か落ち着かない。何故なら彼は、数年前から誰の顔も同じに見え、誰の声も同じに聞こえてしまうから。タクシーの運転手もホテルの従業員も擦れ違う通行人も、果ては長年連れ添った妻も愛しているはずの息子も誰も彼も皆、同じ中年男性の顔、同じ中年男性の声。この状況を何とか打開したい彼は、かつてこの地で酷い振り方をした元カノに会ってみるものの、彼女もやはり同じ顔で同じ声をしていた。絶望に打ちひしがれながら独りで酒を煽り、泥酔して部屋に戻ったマイケル。ところが、そんなマイケルの耳に突然、その〝声〟が聞こえてくるのだった。久しく聞いたことのなかった美しい女性の声が――。これまで唯一無二の独創的な作品ばかりを作り続けてきた鬼才チャーリー・カウフマンの新作は、ストップモーションの人形アニメという手法で描かれた、これまたいかにも彼らしい変な作品でありました。一見、ひつじのショーンのようなほのぼの人形アニメでありながら、とにかくこの主人公のどうしようもない駄目っぷりを執拗なまでに丹念に描いていくんです。この男、精神的な不調を建前に、とにかく誰でもいいから浮気したいと思ってるようなやつで、実際、リサという会ったばかりの地味系ぽっちゃり女子とセックスしちゃうわけですが、そのベッドシーンが妙に生々しくてエロい!まさか人形同士がベッドであんなことしちゃうシーンを見ることになるとは…。なんなんですかね、これ(笑)。で、次の日、そのセックスがあまりにも気持ちよかったからこのおっさんは結婚の約束をするわけだけど、そのすぐ後、朝飯を喰うときのくちゃくちゃ口を鳴らすのがどうにも耐えられなくなって冷めちゃうとか、とにかくシニカル。でも映像はとてもほのぼの癒し系。この変な感じ、なんかツボでした。ただ、そのストーリーの方はあまりにシュール過ぎて凡人の僕にはよく分からなかったです。何かこうもっと突き抜けたものがあれば良かったと思うんだけど(あのセックスが終わった朝、急速に彼の世界が壊れていくわけだけど、そこを「夢でした」なんてせずにもっと突っ走ってくれるとかさ)。あと最後にどうしても言っておきたい。ラスト、リサが「アノマリサって日本語で天の女神って意味なんだって」と言うシーンがあるのですが、何処をどう調べてもそんな日本語ないっちゅうねん!よって-1点。 [DVD(字幕)] 6点(2016-10-10 01:10:53)(良:2票) |
11. ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り
《ネタバレ》 ここは剣と魔法が秩序のすべて――。ドラゴンやゴブリンといった異形の魔物がいたるところに跋扈する危険な異世界を舞台に、落ちこぼれ冒険者たちがそれぞれの目的の為に協力しダンジョンや古城を旅するという王道ファンタジー。元ネタとなったのは、世界初のRPGとして名高い『ダンジョンズ&ドラゴンズ』。まだコンピューターが一般的でない時代、紙と鉛筆とサイコロ、そしてプレイヤーの想像力だけを糧にテーブルでの会話を中心に進めてゆくという当時としては画期的なそのシステムは、のちの多くのコンピューターゲームに影響を与えたことでも知られている。当方、この『D&D』自体は実際にプレイしたことはないのだけど、ひたすら自分の作った架空世界の地図や設定をノートに書き込み、そして誰もプレイする予定のないシナリオをただひたすら作り続けるというなかなか特殊な嵌まり方(笑)をした思い出のゲーム。自分の創ったサイライル王国(恥ず!)の神話や歴史、過去の英雄譚なんかをびっしりと書き込んだ、でも誰に読んでもらうわけでもないノートは当時5、6冊くらいあったんじゃないかな。我ながら、勉強もせずに何やってたんだか(笑)。まあそーゆー個人的な思い入れを抜きにしても、ただひたすら楽しい映画でしたね、これ。もう超が何個も付きそうなくらい超超超王道のエンタメ・ファンタジーなんですが、脚本が意外にしっかりしていたり、登場人物がそれぞれに魅力的だったり、映像が細部まで拘って造り込まれていたりで、サイコーに面白かったです!何より良かったのが、全編に散りばめられた上質のユーモア。冗談が通じない聖騎士とおちゃらけ主人公との掛け合いや、5つ質問しないと死ねない死者とか何度も笑わせていただきました。そしてアクションシーンが終始キレッキレで自分はテンション上がりっぱなし。中でも「何処でも鏡」を使った馬車のチェイスシーンは監督のセンス爆発で、最近観た映画の中でも屈指の名シーン。と思ったら、最後の主人公たちの選択には不覚にも涙しそうになったし。いやー、最高に楽しい2時間強を過ごさせていただきました。久しぶりにあの頃のノートを引っ張り出して、サイライル王国(恥ず!)を再訪してみようかな。んでまずは映画冒頭の監獄脱出クエストをシナリオにしてみたいーー! [DVD(字幕)] 8点(2023-12-01 08:21:30)(良:2票) |
12. シザーハンズ
《ネタバレ》 思えば、ここからジョニー・デップとティム・バートンの名コンビが始まった記念碑的名作。絵本のようにカラフルな街並みやあり得ないストーリー設定ながら、現実的な社会的弱者への苛烈な差別、そして軋轢を寓意的に描いている。カフカの「変身」のように、両手がハサミという姿をある種の障害と捉えればこの映画は一気に深くなる。そしてそんな不条理な社会に背を向けて、ただ愛する女性のために雪を降らせ続けるエドワードの姿はあまりにも辛く切ない。 [DVD(字幕)] 9点(2012-05-07 07:14:59)(良:2票) |
13. トーク・トゥ・ハー
《ネタバレ》 まさに変態純愛映画というジャンルを確立した(?)、ワンアンドオンリーな快作。事故により、意識不明の植物人間と化してしまった若く美しい女性を献身的に介護する孤独な看護師の男が、彼女を愛するがあまり一線を越えてしまう……。女性の人間性を徹底的に排除し、ただひたすら女の肉体のみを愛でるという、この川端康成晩年の傑作「眠れる美女」をも髣髴とさせるこの究極のフェティッシュな愛は、恐らく男にしか理解できない世界(いや理解できる男も少ないかもね)。そんな淫靡な世界を妖艶に美しく描き出している。そして、劇中劇として展開される、これまたまさに究極の変態サイレント映画も強烈だわ~。これは円熟期を迎えたころの、スペインが生んだ天才変態映画作家アルモドバルが創出した傑作だろう。もし、日本が世界に誇る変態大作家・谷崎潤一郎が生きていてこの映画を観たとしたら、是非ともその感想が聞いてみたい(笑)。 [DVD(字幕)] 9点(2013-04-26 15:33:39)(良:2票) |
14. ジェーン・ドウの解剖
《ネタバレ》 一家惨殺事件が起きた一軒家の地下から発見された一体の遺体。一糸まとわぬその美しい女性の遺体には身元の特定につながるものは一切なく、また外傷さえないため死因の特定すら難しかった――。事件を担当する保安官は、死体の正体を探るため、親子で検死官を務める古くからの友人の元へと送り届けることに。さっそく仕事に取り掛かった親子だが、その美しい〝ジェーン・ドゥ〟の身体を開いてみると驚愕の事実が次々と明らかとなるのだった…。いったい彼女の身に何が起こったのか?謎に満ちた彼女の本当の正体とは?そして、解剖を担当することになった検死官親子は無事に死因を特定することが出来るのか?一体の美しい死体を巡って、死体安置所で繰り広げられるそんな恐怖の一夜を描いた新感覚ミステリー・ホラー。いやー、久々にこんなにも怖くて、しかもちゃんと面白い映画を観てしまいましたわ~。もう最初からどんどんと惹き込まれ、あれよあれよといういう間の充実した80分。物凄く完成度が高いです、これ。何より、物語の重要な要となる〝ジェーン・ドゥ〟の死体が驚くほど美しい!この役を演じた女優さん、ずっと全裸で死体安置所に寝転がってるだけで一切台詞がないのに、この存在感は凄いですね。もう、このお方のフェティッシュかつグロテスクな魅力だけで1点追加ですわ。なんたってヌードどころか身体の中身まで晒しちゃってますからね(笑)。監督は過去に快作『トロール・ハンター』を撮った、アンドレ・ウーヴレダル。その前作もフェイク・ドキュメンタリーという体裁を取りながら、それを逆手に取ったユーモラスな作風でなかなかセンスを感じたけど、こちらもまた違うセンスをビシバシ感じました。うん、今から次作が楽しみな今後大注目の監督の一人となりました。 [DVD(字幕)] 9点(2018-07-21 22:11:51)(良:2票) |
15. キック・アス ジャスティス・フォーエバー
《ネタバレ》 当時、若干11歳のクロエ・グレース・モレッツちゃんが演じたヒットガールのポップでキュートな可愛さでもって僕のロリコン魂を完全に燃え上がらせてしまった前作から早や数年――。この度、期待に胸と何処かを高鳴らせながら、ようやく続編である今作を鑑賞してみました。いやー、クロエちゃん、すっかり〝女の子〟から〝女〟へと成長してしまいましたね~。仕方のないこととは言え、一抹の寂しさを感じざるをえない僕なのでありました。こういうのを日本的情緒でもって表現すると〝もののあはれ〟と言うのでしょうか(笑)。さて、そんなすっかり成長してしまったヒットガールちゃんなのですが、やっぱり前作でのその強烈な個性でもって観客に絶大なるインパクトを残したことを思えば、さすがに今回はいたって普通のどこにでもいるような正義のヒーローになっちゃいましたね、これ。前作で爆裂していた彼女の魅力って、社会のくだらない常識やモラルなんかを軽々と踏み越えて退屈な大人たちをぼこぼこにする幼き少女という、他を寄せ付けない爽快なまでにぶっ飛んだキャラクター性にあったと思うのだけど、この「女の子として普通におしゃれしたい!恋だってしたい!なのにヒーローにならなきゃいけないなんて…」というあまりにも凡庸な悩みに揺れ動く今回の彼女って、ちょっと常識的に過ぎて魅力が半減しちゃってますって。やっぱりヒットガールちゃんと言えば、危険な放送禁止用語を連発し常にナイフやマグナムを恋人に、ちっぽけな常識やモラルなんかとは無縁の孤高のロリキャラであってほしかった。と、ここまで書いてきて気付いたけれどこの映画の主役って確かキックアスでしたね(笑)。今回も主役であるはずの彼がいったい何をしていたのか、観終わってすぐだというのにほとんど記憶に残ってません。そんなわけで、「キックアス」ってヒットガールちゃんの魅力だけが最高に素晴らしかったのであって、そんな彼女の魅力が半減しちゃえばあとには5点程度の映画しか残らなかったんだなー、ということを再確認させてもらいました。でも、大きくなったとはいえクロエちゃんはこれはこれで可愛かったので+1点っす! [DVD(字幕)] 6点(2014-09-12 18:14:50)(笑:1票) (良:1票) |
16. ダンサー・イン・ザ・ダーク
《ネタバレ》 この映画がどうしてこんなにも人の心を掻き乱し、賛否両論分かれるのか。何度も何度も繰り返し観て(よく自殺しなかったな笑)なんとか自分なりに結論を得ました。この映画は踏み越えてしまっているんです。つまり、主人公セルマは頭のおかしい気の狂ってしまった人間なんです。だから、間違った選択を繰り返し、誰の助けも借りず、最後は息子のためにと幸せに死んでいく。この主人公に「やっぱりお前は馬鹿だ、不幸だ」と誰が言える権利があるでしょうか。そう、この映画のテーマはそこです。人間の幸せは主観的なものであるなら、自分を幸せだと強固に信じる人間を誰も非難できない。つまり、もしかしたら全ての人間の幸せに意味などないのでは、ということです。とても恐ろしい踏み越えてしまったテーマです。この映画が、敢えてその恐ろしい問いに挑戦する武器として、想像力の美しさを選んだことに敬服せざるを得ません。ただ、勝利できたかどうかは観る人の判断ですが。そして、この映画を徹底的に非難するレビューにこそ、僕は感動を覚えます。そこには、全ての人間の幸せには意味があると信じようとする力強さを感じるからです。それこそが人間の想像力の持つ美しさだと思います。敢えて踏み越えてまで、この映画を撮った監督に改めて敬意を表したい。 [DVD(字幕)] 10点(2012-05-14 02:27:21)(良:2票) |
17. 耳をすませば(1995)
《ネタバレ》 何でも信念を持って拘り抜いて作品を作りあげれば、傑作になりえるという見本のような作品。はっきり言って宮崎駿をはじめとした髭面のおっさんたちが心血を注いでこの赤面必死な少女マンガの世界を徹底的に映像化したなんて、考えるだけでも恥ずかしい。もし、これがどこかに照れ隠しのように大人な意見を差し挟んでいれば、もう目も当てられないくらい違う意味で恥ずかしい作品に仕上がっていたことだろう。そんなジブリのおっさんたちの勇気に拍手喝采!おっさんになったいまでも好きです、この赤面初恋映画(人に言うにはかなりの勇気を要するけどね笑)。 [DVD(字幕)] 8点(2013-05-02 19:30:58)(良:2票) |
18. L.A. ギャング ストーリー
《ネタバレ》 1949年、人々の欲望渦巻く大都会LA。暗黒街では、残虐な元ボクサー・コーガンが圧倒的な力でギャングたちを支配していた。警察、判事、保安官らが次々と買収されていくなか、業を煮やした警察署長がある一人の警官に極秘任務を命じる。毒をもって毒を制す!決して悪を許さない熱い男オマラの元に集まった仲間たちは、コーガンの組織をぶっ潰すために孤高の戦いを開始したのだった。絶対に買収されない、まさに〝アンタッチャブル〟な男たちの姿を描いたこてこてのノワール作品。――って、だからこれってもう「アンタッチャブル」じゃん(笑)。さすがにオリジナリティなさ過ぎだって、これ。それにあまりにも行き当たりばったりな作戦の数々が何故か次々成功するのを、ただ運が良いだけで済ませちゃうのもなんだかなー。でもまあ、さくさく進む分かりやすいストーリー展開に男汁120%のダンディな役者陣が織り成すこってり濃厚な映像世界とかはけっこう楽しめました。ということで、不満は多々あれど、ぼちぼち面白かったかな。風呂上りに、ビールと枝豆片手に肩肘張らずに観るには最適な映画だと思いまーす。 [DVD(字幕)] 6点(2013-12-14 09:06:18)(良:2票) |
19. 横道世之介
《ネタバレ》 あのころ、ほんとおれたちってバカだったよなぁ。ただ若いってだけで、頭の中は女のことばっかり、将来のことなんかこれっぽっちも考えてなかったし。そんなおれたちが、いつの間にか大人になってるんだものな。人生って、どうなるか分からないもんだよ、まったく。そう言えば、あいつ元気にしてんのか――。大学進学のために、長崎から上京してきた横道世之介18歳。見るもの聞くもの何もかも新しい世界で、彼は様々な人たちと出会い、年上の格好良い女性と同い年の女の子の間で揺れ動き、色んな現実を目の当たりにして、本人も知らないうちに少しずつ大人になってゆく…。吉田修一の新たな代表作とも言える青春小説を、穏やかで優しい空気の中に描き出す青春物語。普段、こういういかにもテレビドラマの延長のような邦画ってほとんど観ないのだけど、昔から僕がずっと愛読してきた吉田修一の傑作を映画化したということで今回鑑賞してみました。うん、なかなか原作に忠実に作られ、その数々の美点が巧く映像化されていて素直に良かったと思います。世之介役の彼を初めとする、役者陣の抑えたナチュラルな演技も味わい深かったですね(お馬鹿紙一重の世間知らずのお嬢様・祥子という難しいキャラクターを嫌味たらしくならずにちゃんと演じられるのだろうかとちょっと不安でしたが、祥子役の彼女けっこう頑張ってましたね)。いやー、今は反抗期の娘に説教しているお父さんも、昔はみんなこんな感じでふわふわ生きていたんだよね~。この映画を観ると、そんなあのころの自分が懐かしく思い起こされます。そして、あのころのバカだった自分たちでは想像すらしなかった、現在の大人になった自分や友達たちの生活を思うとまた切なさが込み上げてくる。観終わった後、優しさと切なさが良い余韻となって残る優れた青春映画であったと思います。以下余談。今作の原作者である吉田修一氏が僕は昔から凄く好きで、その代表作はほとんど読んでいます(現代の日本の小説家の中では最高に文章が巧い!と勝手に認定してるぐらい笑)。そんな氏の知的でスタイリッシュな筆致が冴え渡っている原作には、映画では語られなかったエピソードの数々が丁寧に書き込まれているので(映画では登場しなかった倉持の成長した娘もちゃんと出てきて良い台詞を残してくれるんだ、これが)、まだ原作を読んでいない方は是非読んでみることをお薦めしときます。 [DVD(字幕)] 7点(2014-09-23 18:16:34)(良:2票) |
20. TIME/タイム
《ネタバレ》 こういう設定勝負な映画って、徹底的にスタッフ同士で議論を交わして矛盾や破綻を殺していって、そのうえで映画として成立させるために最低限必要な情報をどう観客に伝えるかが何より重要なはずなのに、それが全然なされていない。矛盾だらけだから見ていて笑うしかない。発展途上国の命はどうなっているの? それに蓄えがなくなったら即死亡するのだから、もっと社会は(ブレードランナーのように)荒んでいなきゃ駄目だし、民衆の不満を抑えこむのにもっと強権的な政府がなければ駄目なのに、その影すら感じられない。あと、細かいところだけど、事故った車のなかで気を失った主人公のところにギャングが偶然にも現れて、命を盗むあいだずっと二人は目覚めなくて、立ち去ってすぐに「うう~ん」と目覚めるって都合よすぎません? 小学生の劇じゃないんだから。ちょっとアホみたいでした。 [DVD(字幕)] 3点(2012-12-06 21:08:59)(良:2票) |